特許第6880060号(P6880060)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6880060注入可能な組成物及びその調製方法並びにその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880060
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】注入可能な組成物及びその調製方法並びにその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20210524BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20210524BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20210524BHJP
   A61M 5/14 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   A61L31/04 120
   A61L31/14 300
   A61L31/16
   A61M5/14 500
【請求項の数】17
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-551250(P2018-551250)
(86)(22)【出願日】2017年3月27日
(65)【公表番号】特表2019-511307(P2019-511307A)
(43)【公表日】2019年4月25日
(86)【国際出願番号】US2017024259
(87)【国際公開番号】WO2017172588
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2019年11月27日
(31)【優先権主張番号】62/316,891
(32)【優先日】2016年4月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506192652
【氏名又は名称】ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】レイビン、サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】ホルヤー、マシュー ビー.
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−505809(JP,A)
【文献】 特表2007−526095(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0010603(US,A1)
【文献】 特表2010−511439(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/163222(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
A61M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の標的部位に送達する為の組成物の調製方法において、
混合物を形成する為にジェランガムと少なくとも1つの塩と水とを混合する工程と、
前記混合物を加熱する工程と、
前記混合物を容器に導入する工程と、
前記混合物を容器内部で冷却して前記容器内部に連続した三次元構造を有するゲルを形成する工程とを備え、
前記組成物は、生体適合性を有し、且つ前記容器から針を介して前記標的部位に注入可能である、方法。
【請求項2】
前記組成物は、前記組成物の全重量に対して0.01重量%〜2.0重量%のジェランガムを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物は、前記組成物の全重量に対して0.05重量%〜0.5重量%のジェランガムを含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合物は、70℃〜130℃の温度で加熱後に、前記容器の中に導入される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記容器内部に導入された際の前記混合物の温度は、70℃〜130℃の範囲である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記混合物を前記容器の中に導入する前に前記混合物を冷却する工程と、前記混合物を前記容器内部で70℃〜130℃の範囲の温度で加熱する工程をさらに備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記混合物を加熱することにより、前記混合物を滅菌する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記容器は、シリンジの円筒部である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記容器は、可撓性の小袋からなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記容器は、可撓性のチューブによって前記針に結合されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物は、着色剤を含有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ゲルの連続した三次元構造は、前記容器の断面の寸法全体に亘って広がっている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
成物の全重量に対して0.05重量%〜0.5重量%のジェランガムと少なくとも1つの塩と水とを含有する前記組成物を収容する容器を備え、前記組成物は、前記容器内で連続した三次元構造を有するゲルの形態をなし、生体適合性を有し、且つ前記容器から針の中を通って標的組織に注入可能である、医療装置。
【請求項14】
前記医療装置は、前記容器と、前記針と、前記容器を前記針に結合する可撓性チューブとからなり、前記容器は、シリンジの円筒部又は可撓性の小袋である、請求項13に記載の医療装置。
【請求項15】
前記医療装置は、20エンドトキシンユニット(EU)以下のエンドトキシンを含む、請求項13又は14に記載の医療装置。
【請求項16】
前記容器は、シリンジ筒である、請求項13〜15のいずれか一項に記載の医療装置。
【請求項17】
前記ゲルは、前記容器を反転させた時に、その形状を維持する、請求項13〜16のいずれか一項に記載の医療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明の実施形態は、注入に好適な組成物とその調製方法とその組成物を備える装置と一般に関する。
【背景技術】
【0002】
組織の診断や治療に様々な医療措置が用いられる。例えば、病理学的評価及び治療目的のうちの少なくともいずれか一方の目的で、前癌状態の粘膜組織又は腫瘍を検出して除去するなどの為に、胃腸管(GI)系又はその他の器官系から組織サンプルを採取する内視鏡術が実施される。しかし、下部の生体組織への影響を最小限にしつつ患者の体内から組織の選択部分を取り除くことは未だ困難である。
【0003】
内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下切除術(ESD)などの医療措置では、異なる組織の層を分離して病巣を除去することを支援するべく組織の中に流体を注入することがある。例えば、流体は、粘膜組織から粘膜下組織を分離する為に注入される。注入した流体は、一般的に下部の組織層から標的組織を持ち上げて医師が標的組織をより簡単に切除可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この目的で使用される流体、例えば生理食塩水は、数分のうちに消散する傾向にある為、施術の間、確実に標的組織を持ち上げておく為には周期的に再注入する必要がある。より粘性の高い注入溶液が見出されたが、この代替物は、コストがかかったり注入が難しかったり注入後にすぐに消散又は分解する傾向がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明は、組織切除術に有用な組成物及びこの組成物の調製方法を含む。本願発明のいくつかの態様では、組成物は、ジェランガムなどの多糖類と、水と、一価カチオン又は二価カチオン源となる塩から形成されたゲルからなる。ゲルは、例えば容器内に不かく乱状態を作り容器から患者の体内への注入に先立って連続した三次元ネットワークを形成する。この連続した三次元ネットワークが、ゲルの均一な構造を与える。
【0006】
本願発明には、患者の体内の標的部位に搬送する組成物の調製方法が含まれ、同方法は、ジェランガムと少なくとも1つの塩と水とを混合して混合物を形成する工程と、混合物を加熱する工程と、同混合物を容器に導入する工程と、容器内部に連続した三次元構造を有するゲルを形成する為に容器内部で混合物を冷却する工程とからなり、組成物は、生体適合性があり且つ容器から針の中を通って標的部位に注入可能である。いくつかの態様では、組成物は、組成物の全重量に対して0.01重量%〜2.0重量%、又は0.05重量%〜0.5重量%のジェランガムを含有する。いくつかの態様では、組成物は、1つ以上の追加的な化学物質、例えば着色剤等を含有する。
【0007】
混合物は、約70℃〜約130℃の温度で加熱後に容器の中に導入される。いくつかの態様では、容器に導入される際の混合物の温度は、約70℃〜約130℃の範囲である。いくつかの態様では、混合物は、容器の中に導入する前に冷却される。例えば、混合物は、冷却されて容器の中に導入された後、容器内で約70℃〜約130℃の温度で加熱される。いくつかの例では、混合物は、加熱により滅菌される為、容器の中に形成されたゲルは、滅菌されている。例えば、混合物は、容器の中で約121℃の温度で又はこの温度に加熱される。
【0008】
容器は、医療装置又はシステムの構成要素であってもよい。いくつかの態様では、容器は、シリンジの円筒部又は可撓性の小袋からなる。いくつかの態様では、容器は、可撓性のチューブを介して針に結合される。ゲルは、容器の断面の寸法全体に亘って連続した三次元ネットワークを形成する。例えば、容器が、シリンジの円筒形状の円筒部からなる場合には、ゲルの三次元構造体は、容器の全径に亘って広がる。本願発明は、円筒形状の容器に限定されず、他の断面形状も考慮され且つここに包含される。
【0009】
いくつかの態様では、方法は、医療装置を設けるために使用される。例えば、本願発明には、ここで説明されている方法の任意の態様に従って設けられる医療装置が含まれる。そのような医療装置は、例えば組成物を収容した容器と組成物を注入する針とからなる。任意に、医療装置は、容器を針に結合する可撓性チューブを備える。いくつかの態様では、医療装置は、シリンジを備え、容器は、シリンジの円筒部によって、又は可撓性を有する小袋によって提供される。組成物は、生体適合性を有する。例えば、組成物は、薬剤成分にかかる政府規制及び医療装置にかかる政府規制のうちのいずれか一方に準ずる。いくつかの態様では、組成物及び組成物を備える医療装置のうちの少なくとも一方は、20エンドトキシンユニット(EU)以下、例えば、15EU以下、10EU以下、5EU以下のエンドトキシンを含む。
【0010】
いくつかの態様では、本願発明は、針と、針に結合された容器と、組成物の全重量に対して0.01重量%〜2.0重量%のジェランガムと少なくとも1つの塩と水とを含有する組成物と、からなる医療装置を含む。医療装置の組成物は、混合物を形成する為にジェランガムと少なくとも1つの塩と水とを混合する工程と、混合物を加熱する工程と、混合物を容器に導入する工程と、均一なゲルを形成する為に容器の中で混合物を冷却して粘性を増加する工程、とによって調整され、その組成物は針を介して注入可能である。医療装置は、組成物が容器から針を介して患者の標的部位に注入可能に構成される。いくつかの態様では、例えば、組成物は、連続した三次元ネットワークを形成するために容器の内部でゲルにされるものであり、針を介して注入される前に容器の外に移動されない。ゲルの連続した三次元構造は、容器の断面の寸法全体に亘って広がっている。
【0011】
いくつかの態様では、医療装置の組成物は、組成物の全重量に対して0.01重量%〜2.0重量%、又は0.05重量%〜0.5重量%のジェランガムを含有する。加えて、例えば、組成物の少なくとも1つの塩は、ナトリウム、カルシウム、及びマグネシウムカチオン等の1つ以上のカチオンからなる。いくつかの例では、組成物は、少なくとも1つのナトリウム塩、少なくとも1つのカルシウム塩、少なくとも1つのマグネシウム塩、又はそれらの組み合わせを含有する。生体適合性を有する組成物を提供する追加の塩も考えられる。組成物は、追加的又は代替的に、少なくとも1つの着色剤を含む。いくつかの例では、医療装置は、シリンジを備え、ゲルは、シリンジの円筒部の断面の寸法全体に亘って連続した三次元ネットワークを形成する。いくつかの例では、医療装置の容器は、可撓性を有するチューブを介して又は直接的に針に結合される。
【0012】
添付の図面は、本願明細書に組み込まれてその一部を構成し、本願発明の態様の例を示して詳細な説明と共に本願発明の本質を説明している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本願発明のある態様に係る例示の医療装置を示す図。
図1B】本願発明のある態様に係る例示の医療装置を示す図。
図1C】本願発明のある態様に係る例示の医療装置を示す図。
図2A】本願発明のある態様に係る例示の組織解離術を示す図。
図2B】本願発明のある態様に係る例示の組織解離術を示す図。
図2C】本願発明のある態様に係る例示の組織解離術を示す図。
図2D】本願発明のある態様に係る例示の組織解離術を示す図。
図2E】本願発明のある態様に係る例示の組織解離術を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明の特別な実施形態を以下により詳細に説明する。参照により組み込まれる用語や定義と矛盾する場合には、ここで用いられる用語及び定義が支配する。
「からなる(comprising)」、「からなる(comprises)」又は同単語の派生型は、非排他的な包含をカバーすることを意図したものであり、例えば、一群の要素からなる工程、方法、構成要素、物品又は装置は、その要素のみを含むのではなく、明示されていない、即ち同工程、方法、構成要素、物品又は装置に本質的でないものも含む。「例示的」という用語は、「理想的」ではなく「例」の意味で使用される。
【0015】
ここで使用される「a(ひとつの)」、「an(ひとつの)」、「the(その)」などの単数形には、逆のことが明示されていない限り複数形が含まれる。「およそ」、「約」の用語は、記載の数字又は数値に同程度であることを意味する。ここで使用されている「およそ」、「約」の用語は、特定されている量又は数値の±5%を包含すると理解されたい。
【0016】
本願発明は、少なくとも1つのゲル化剤と少なくとも1つの塩と水とを含有する。組成物は、注射に適切な生体適合性を有するゲルとして形成される。
少なくとも1つのゲル化剤は、天然(植物性粘性物質及び微生物性粘性物質等の天然粘性物質)又は合成した性質のものであり、陰イオン性、陽イオン性、又は中性であってもよい。本願発明の組成物に好適なゲル化剤の非限定的な例には、ジェランガム、キサンタンガム、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸及びカラギーナンなどの多糖類が含まれる。
【0017】
いくつかの実施形態では、組成物は、ジェランガム、キサンタンガム又はそれらの混合物からなる。ジェランガムは、スフィンゴモナス細菌によって生成される多糖類であり、2つのD−グルコース残基と、1つのL−ラムノース残基と、1つのD−グルクロン酸残基とからなる、結合された4つの糖である繰り返し単位で形成される一般構造式を有する。キサンタンガムは、キサントモナス細菌によって生成される多糖であり、2つのD−グルコース残基と、2つのD−マンノース残基と、1つのD−グルクロン酸残基とからなる、結合された5つの糖である繰り返し単位で形成される一般構造式を有する。
【0018】
ジェランガムにはネイティブ型と脱アシル化型の2型がある。ネイティブ型ジェランガムは、グルクロン酸残基に隣接するグルコース残基に結合したアセテートとグリセリンの2つのアシル基を含む。これらのアシル基は、脱アシル化ジェランガムを生成する際にアルカリ性条件下で取り除かれ、ネイティブ型ジェランガムと比較して異なる安定性と可塑性とをなす。例えば、ネイティブ型ジェランガムは、一般的に熱可逆性を備えたより柔らかくてより弾力性のあるゲルを形成するが、脱アシル化ジェランガムは、一般的により高い熱耐性を備え、より硬くてより弾力性のないゲルを形成する。本願発明の組成物は、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル化ジェランガム、又はそれらの混合物を含有する。少なくとも1つの実施形態では、組成物は、脱アシル化ジェランガムを含有する。
【0019】
特定の微生物性抽出物には、エンドトキシン、例えば、多糖構造で結合された細菌由来のリポ多糖類が含まれる。いくつかの実施形態では、ゲル化剤は、組成物へのエンドトキシンの持ち込みを最小限又は除外するように選択され、又は、本願発明の組成物に使用するのに先立ってエンドトキシンの濃度を低下又は除去する為に処理される。
【0020】
本願発明のいくつかの態様では、組成物は、エンドトキシンの存在量を低下させる処理がなされた微生物由来の多糖類、例えばキサンタンガム、を含有し、得られた組成物は、薬学的に許容可能であり且つ政府規制標準を順守している。例えば、少なくとも1つのゲル化剤は、20エンドトキシンユニット(EU)以下、0EU〜20EU、0EU〜10EU、0EU〜5EU、1EU〜20EU,1EU〜10EU、1EU〜5EU程度のエンドトキシンを含む。したがって、組成物は、20エンドトキシンユニット(EU)以下、例えば、0EU〜20EU、0EU〜10EU、0EU〜5EU、1EU〜20EU,1EU〜10EU、1EU〜5EU程度のエンドトキシンを含む。使用時には、組成物は、適切な医療装置(注入針に結合されたシリンジ又は流体容器)を介して患者の標的部位に搬送される。したがって、例えば、医療装置は、20EU以下、例えば、0EU〜20EU,0EU〜10EU,0EU〜5EU,1EU〜20EU,1EU〜10EU,1EU〜5EU程度のエンドトキシンを含む。細菌性のエンドトキシンレベルは、例えば、エンドトキシンテスト(LALテスト:Limulus Amebocyte Lysate test)を用いて測定される。
【0021】
ゲル化剤の濃度は、組成物の全重量に対して約0.01重量%〜約2.0重量%の範囲であり、例えば、組成物の全重量に対して約0.02重量%〜約1.5%、約0.05重量%〜約0.5重量%、約0.10重量%〜約1.0重量%、約0.10重量%〜約0.30重量%、約0.02重量%〜約0.25重量%であり、組成物の全重量に対して約0.10重量%、約0.15重量%、約0.20重量%である。少なくとも1つの実施形態では、組成物内のゲル化剤の総濃度は、組成物の全重量に対して約0.05重量%〜約0.5重量%の範囲である。
【0022】
少なくとも1つのゲル化剤は、1つ以上の生体適合性を有する塩、例えば、生理的適合性を有する塩と結合する。本願の組成物に好適な塩の非限定的な例には、ナトリウムカチオン、カルシウムカチオン、マグネシウムカチオン及びカリウムカチオンのうちの少なくとも1つからなる塩が含まれる。塩には、例えば、塩化物塩、リン酸塩、及び硫化物塩のうちの少なくともいずれか1つが含まれ、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl)、リン酸2水素ナトリウム(NaHPO)、リン酸水素カリウム(KHPO)、硫化マグネシウム(MgSO)、グルコン酸ナトリウム(C11NaO)、酢酸ナトリウム三水和物(CNaO・3HO)及び塩化マグネシウム(MgCl)が含まれる。例えば、少なくとも1つのゲル化剤は、陰イオン性多糖類からなり、塩は、多糖類に適合性を有する一価又は二価カチオン源を提供する。
【0023】
いくつかの実施形態では、組成物は、生理的適合性を有する生理食塩水、例えば、塩化ナトリウム溶液を含有する。例えば、組成物は、三次元固体ゲルネットワークの形成を支援するナトリウムカチオンを提供する0.9重量%の塩化ナトリウム溶液を含有する。いくつかの実施形態では、組成物は、等張性である。例えば、生理食塩水は、組成物が組織体液及び血液のうちの少なくともいずれか一方と等張になるように一価及び二価カチオンのうちの少なくともいずれか一方の適当な濃度を有する。適切なイオン濃度からなる別の生理的適合性を有する溶液も等張性を提供する為に使用される。
【0024】
組成物の塩濃度は、組成物の全重量に対して約0.1重量%〜約2.0重量%の範囲にあり、例えば、組成物の全重量に対して約0.25重量%〜約1.0重量%、約0.5重量%〜約1.5重量%、約0.5重量%〜約1.0重量%の範囲にあり、例えば、組成物の全重量に対して約0.25重量%、約0.5重量%、約0.75重量%、約1.0重量%である。加えて、例えば、組成物は、約240mOsmol/kg〜約340mOsmol/kg(290mOsmol/kg±50mOsmol/kg)、例えば、約250mOsmol/kg〜約320mOsmol/kg、又は約280mOsmol/kg〜約300mOsmol/kgの浸透圧を有する塩溶液からなる。溶液は、生理的適合性を有し、例えば、患者の体内に注射するために適切な電解質レベル、浸透圧及びpHを有する。溶液のpHは、pHを上げる為に水酸化ナトリウム等の適切な塩基、及び塩酸などの適切な酸のうちの少なくともいずれか一方を用いて調節されるか又はその他の手段又は生体適合性を有する成分を提供する別の物質を用いて調節される。
【0025】
組成物は、1つ以上の他の生体適合性を有する化合物又は化学物質を含有することも可能である。例えば、組成物は、生体適合性を有する色素又は着色剤、例えば、ブリリアントブルー(FD&C Blue1で知られるブリリアントブルーFCFなど)、インディゴカルミン(FD&C Blue2で知られる)、インディゴカルミンレイク、FD&C Blue1レイク、メチレンブルー(塩化メチルチオニニウムで知られている)などを含有する。例えば、組成物は、組織内に注入した際に、例えば、取り除く組織量を判断すること及び穿孔のリスクを評価することのうちの少なくともいずれか一方の為に粘膜下組織面を同定可能にするべく色素又は着色剤を含有する。任意の好適な種類の生体適合性を有する化学物質が、組成物のpH及び等張性を組織内の注入に適したものに調整するために使用される。例えば、組成物は、1つ以上の安定化剤及び保存剤のうちの少なくともいずれか一方を含有する。いくつかの態様では、組成物は、表面の出血を抑える為にエピネフリンなどの添加剤を備える。組成物は、病変組織の可視性を高め又は治療効果を有する1つ以上の添加剤を含んでいてもよい。例えば、添加剤は、薬剤活性、例えば癌化細胞を積極的に攻撃する活性等を有する。
【0026】
上述したように、組成物はゲルとして形成され得る。例えば、組成物を調製する為に、ゲル化剤は、水溶液内で少なくとも1つの薬学的に許容しうる塩と(上述した任意の1つ以上のその他の化合物又は化学物質と)混合される。得られた混合物は、約70℃〜約130℃の温度、例えば、約80℃〜約125℃、約90℃〜約115℃、又は約95℃〜約105℃、例えば、約70℃、約75℃、約80℃、約85℃、約90℃、約95℃、約100℃、約105℃、約110℃、約115℃、約120℃、約125℃、約130℃などの温度で加熱され得る。いくつかの例では、約70℃〜約85℃の最低温度が使用される。いくつかの例では、混合物は、沸騰するまで、例えば、100℃以上の温度に加熱される。
【0027】
組成物は、任意の適切な方法、例えば、オートクレーブ、ガンマ線照射又は電子ビームなどにより滅菌される。少なくとも一実施形態では、組成物は、滅菌に十分な温度で加熱、例えば、約121℃でオートクレーブされる。組成物は、任意の適切な方法、例えば、オートクレーブ、ガンマ線照射、電子ビームなどにより滅菌される。
【0028】
混合物は、ゲル化剤を水和して三次元ゲルネットワークの形成可能にする為に十分な時間加熱され得る。ジェランガムなどの多糖類については、多糖分子は、温度の低下に伴ってコイル状から2重螺旋状に移行することにより、溶液のイオン強度やpHに依存してゲルを形成すると考えられている。例えば、ジェランガムのコイル状分子は、温度の低下に伴って2重螺旋形を形成し、螺旋分子が凝集して接点領域を形成することによりゲル化する。水中では、低イオン強度と中性pHでは、螺旋分子の凝集は、ジェラン分子の陰性に帯電しているカルボキシル基間の静電的な反発によって妨害されることがある。塩を添加すること及びpHを下げることのいずれか一方によって螺旋分子間の分子間の反発を抑制して接点領域の形成を促すことによってゲル強度を高めることが可能である。つまり、塩の添加により凝集に類似する過程で物理的な架橋が促されて連続した三次元ゲルネットワークが形成される。この連続した三次元ネットワークは、開放容器内で反転させた際でも三次元形状を維持可能な固体又は準固体ゲルを提供する。
【0029】
本願発明のいくつかの態様では、ゲル化剤と塩溶液は、約5分〜約90分間、約10分〜約60分間、約15分〜約45分間又は約20分〜約30分間、例えば、約15分間、約20分間、約30分間又は約45分間加熱される。混合物は、一定又は間欠的に攪拌しながら、例えば、マグネチックスターラー又はその他の好適な混合装置を用いて攪拌しながら加熱され得る。加熱中、組成物は、低粘性の流体を形成する。熱は、その後取り除かれて組成物は冷却される。例えば、組成物は、55℃以下又は約50℃の温度に冷却される。組成物は、冷えると粘度が増してゲルになることがある。
【0030】
いくつかの実施形態では、組成物は、攪拌や振盪することなく冷却させる。このような例では、組成物は、ほぼ均一のゲル、例えば、連続した固体を形成する。つまり、組成物は、ゲル粒子又はコロイド混合物からなる凝集体とは対照的に、ほぼ連続した三次元固体又は準固体のゲルネットワークを有する。いくつかの実施形態では、組成物は、冷却の際に、例えば、一定又は間欠的に攪拌することによって振盪されてもよい。そのような例では、振盪によりゲルの構造は少なくとも部分的に破壊されて、例えば、三次元ネットワークが崩壊されて個々のゲル粒子又はゲル断片が形成される。追加的に又は代替的に、ゲルの構造は、組成物が冷えた後、攪拌、振盪及び容器間での組成物の移動等によって、少なくとも部分的に破壊されることがある。
【0031】
理論に拘束されることを意図するものではないが、様々な力(せん断力、圧縮力、ストレス、摩擦など)の付加が三次元ゲルネットワークの連続性に影響して、組織の解離などの医療措置で使用する前にその性質に影響が及ぶことがある。例えば、注入前に容器間で組成物を移動することによって、患者の体内に最終的に注入された際にゲルの三次元構造のせん断を引き起こすことがある。これは、組織層を分離するゲルの能力を制限したり組織内に拡散又は吸収される前に組織内(粘膜下組織など)にゲルが留まる時間を短縮したりすることにより組成物の有効性を制限する場合がある。本願の方法に従って組成物を調製すれば、注入する前にゲルの連続した三次元構造のせん断することを最小限にすることが可能である。したがって、ゲルは、針を介して注入されて連続した三次元ネットワークの断片を形成するその時まで、連続した三次元構造を維持することができる。これらのゲル断片は、注入針の直径に対応する直径を有し、断片は、できる限り多くゲルの三次元構造が維持されるように生体内において可能な限り大きくされる。より大きな寸法の粒子又は断片を注入することにより組織内にゲルが留まる時間を長くすることができると考えられる。
【0032】
本願発明の実施形態は、注入前の連続した固体ゲル構造の崩壊を防止又は最小限にする。例えば、組成物は、組成物が、医療装置、例えば注入装置の容器の中で連続した三次元ゲルネットワークになるように調製される。組成物は、保存容器間を移動することによってゲル構造を破壊する必要なく容器内にほぼ均一のゲル固体又は準固体を形成可能である。したがって、ゲル組成物に対するせん断力又はその他の力は、患者の体内にゲルを注入する前において最小限に抑えられる。いくつかの態様では、組成物は、容器から患者の標的部位に注入する前にある容器から別の容器に移動されない。
【0033】
本願の組成物に適切な容器には、例えば、シリンジ(手動又は自動注入システムに適合するシリンジ円筒など)、プラスチックバック等の可撓性の小袋及び適切な注入針と共に使用される流体容器などが含まれる。容器に好適な例示的な材料には、これらに限定されないが、環状オレフィン共重合体、環状オレフィン重合体、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル及びガラスが含まれる。
【0034】
容器は、例えばルアーアダプター(Leur adapter)又は他の適切な結合体を介して針に直接的に結合されるか、又はカテーテル等の可撓性チューブを介して針に間接的に結合される。可撓性チューブを介して容器に結合される針の非限定的な例には、ボストンサイエンティフィック社のインタージェクト(Interject(登録商標))硬化療法針が含まれる。この針は、皮下針であり、7ゲージ(外径(OD)4.57mm、内径(ID)3.81mm)〜33ゲージ(外径0.18mm、内径0.08mm)までの範囲であり、例えば、16ゲージ(外径1.65mm、内径1.19mm)、21ゲージ(外径0.82mm、内径0.51mm)、22ゲージ(外径0.72mm、内径0.41mm)、23ゲージ(外径0.64mm、内径0.33mm)、24ゲージ(外径0.57mm、内径0.31mm)である。針の材料の例には、限定ではないが、金属、ステンレス鋼及びニチノールなどの金属合金、並びにポリマーが含まれる。針の遠位尖端は、鋭利にされ且つ傾斜形状を有する。針の近位端は、シリンジ又は他の容器に係合するのに好適な付属品又はアダプター(ルアーアダプター等)を備える。いくつかの実施形態では、針は、針の尖端部及び近位側の付属品又はアダプターの間に長尺状のチューブ又はカテーテルを備える。
【0035】
上述したように、組成物は、組成物の加熱後に、医療装置(注入装置又は注入システムなど)の適切な容器の中に導入される。例えば、ゲル化剤と塩と水とからなる混合物は、約70℃〜約130℃の温度、例えば、約90℃〜約110℃の温度で加熱した後に容器の中に導入される。
【0036】
組成物は、その後冷却され、粘度が増加して容器の内部で均一な固体又は準固体ゲルにしてもよい。いくつかの実施形態では、組成物は、容器の中に導入された後に再加熱されて、冷却され、最終の固体又は準固体の三次元ゲル形態にしてもよい。例えば、組成物は、容器の中に導入されると1回以上の加熱/冷却サイクルを受ける。いくつかの態様では、組成物は、(例えば、確実に水和させる為に)ゲル化剤、塩、水の混合物をまず加熱して、その後、組成物を注入容器に導入した後に再度加熱することによって2度加熱され、冷却されて、連続した三次元構造を有するゲルにされる。いくつかの態様では、組成物は、容器から直接患者の標的部位に注入する前に容器から任意の別の容器に移動されない。
【0037】
組成物は、滅菌され得る。例えば、組成物は、約121℃の温度で又は121℃の温度に組成物を加熱することによって容器内でオートクレーブされ、その後冷却されて容器内で均一な固体又は準固体のゲルとなる。追加的に又は代替的に、組成物は、容器内に導入後ガンマ線照射又は電子線によって滅菌される。
【0038】
いくつかの態様では、組成物は、上述したように加熱されて最初の保存容器、例えばバイアル等の中で冷却された後、患者の体内に組成物を注入するために適切な容器に移動される。そのような場合には、組成物は、より小さなゲル粒子又はゲル状流体の凝集体を形成する為に、最初の容器内で冷却する際に振盪されてもよい。追加的に又は代替的に、組成物は、冷却後に、振盪、せん断、押出又は破壊されて保存容器に収容される。続いて、ゲル粒子又はゲル様流体の凝集体は、ゲル化後追加の液体構成要素(ジェランガムの粘性形態などの粘性化学物質など)と混合され得る。その後、組成物は、保存容器から適切な容器に移されて、加熱され、容器の内部で均一なゲルにするために冷却される。組成物は、その後、容器から針を介して患者の体内の標的部位に直接注入されることが可能である。いくつかの態様では、ゲルは、患者の体内に注入する前に、最小限のせん断力及び他の力のうちの少なくともいずれか一方を受ける。注入前に容器の内部でゲル形態になる組成物の粘性は、組成物の他の構成要素に相対するゲル化剤の特性及び濃度のうちの少なくともいずれか一方に依存する。
【0039】
図1Aは、上述したゲル組成物の容器を提供する例となるシリンジ10を示す。シリンジ10は、円筒部12、プランジャー部14及び1つ以上の停止具16とからなる。組成物15は、上述のように調製されて円筒部12の直径全体に亘る連続した三次元構造を有する固体ゲルにされる。円筒部12は、可撓性カテーテル29を介して注入針50に取り付けるためのルアーアダプター又はその他のアダプター/コネクターを、例えば、円筒部12の遠位端18に備える。カテーテル29の近位端は、円筒部12を受承する為の適切な結合体20を備える。別例では、円筒部12は、注入針50に直接的に結合される。シリンジの円筒部12は、針50を介して注入する為にゲル組成物15を収容する容器として機能することができる。
【0040】
図1Bは、自動注入システム45と共に使用されるシリンジ30を例示する。シリンジ30は、図1Aのシリンジ10の特徴、例えば、円筒部32、プランジャー34及び円筒部32の遠位端38にルアーアダプター(又はその他の好適なアダプター/コネクター)を備え得る。組成物15は、上述のように
調製されて円筒部32内でゲルにされ、シリンジ30は、注入されるゲルの量を自動調節する注入システム45のチャネル47の中に挿入される。シリンジ30の遠位端38は、カテーテル39を介して注入針(図1Aの注入針50に類似)に結合される。本願発明のいくつかの態様では、プランジャー34は、注入システム45の一部を形成して、円筒部32は、注入システム45に結合される別の構成要素、例えば、交換可能なカートリッジである。例えば、組成物15は、注入システム45のプランジャー構成要素に適合可能な近位取り付け部を有する交換可能なカートリッジである円筒部32の中に調製される。
【0041】
図1Cは、本願発明のいくつかの態様にかかる例となる容器60である。容器60は、可撓性を有する小袋又は袋、例えば、IVバッグなどで提供される。組成物15は、上述のように調製されて容器60内でゲルにされる。容器60は、無菌性であり、ポリ塩化ビニル(PVC)(ビス(2−エチルヘキシル)フタレン(DEHP)などの可塑剤を含有するもの)などのプラスチック材料又は非PVCプラスチック材料からなる。小袋は、組成物15を患者の体内に注入する為にカテーテル69及び針(上述のように任意の適切なゲージ寸法を有する)のうちの少なくともいずれか一方に取り付ける為のルアーアダプター63を備える。容器60は、圧縮可能であり、例えば、容器60を圧縮することによりカテーテル69及び針のうちの少なくとも一方を介して組成物の搬送を可能にする。
【0042】
図1A〜1Cに図示されているもの以外の容器及び注入方法も本願発明において使用可能である。例えば、組成物は、電気焼灼装置又はシステムの一部を形成する流体チャネル及び針のうちの少なくともいずれか一方に結合された容器内に収容されてもよい。したがって、医師は、例えば、電気焼灼ナイフ又はスネア等の装置又はシステムの他の部分を操作するのと同時に又はその後に流体チャネルを介して組成物を注入することができる。
【0043】
針の孔を介して組成物を移動する際に必要とされる力の大きさ(一般的には、「最大負荷」力と説明される)は、組成物の粘性、針の寸法(内径、外径、及び長さのうちの少なくともいずれか1つ)及び針が形成される材料のうちの少なくともいずれか1つに依存する。例えば、7ゲージ針と比べて、33ゲージ針を介する方が組成物を注入する際により大きな力を付与することができる。組成物を注入する際に付与される力の大きさに影響を与える追加的な要因には、容器を針に結合するカテーテルの寸法(内径、外径及び長さの少なくともいずれか1つ)が含まれる。一方又は両方の手を用いて注入する際の適切な最大負荷は、約6.78N・m〜約33.9N・m(約5lbf〜約25lbf)の範囲、例えば約13.56N・m〜約27.12N・m(約10lbf〜約20lbf)であり、例えば、約20.34N・m(約15lbf)である。所与のゲル濃度で計測される負荷は、針と流体速度によって変化しうる。
【0044】
本願発明のいくつかの態様では、針の寸法は、組成物の粘性及び成分のうちの少なくともいずれか一方に基づいて選択され又はその逆も同様である。加えて、カテーテル管腔の寸法(内径、外径、及び長さのうちの少なくともいずれか1つ)も、それが存在する場合には、注入中に組成物に付与される力の種類及び大きさに影響を与える。これらのパラメーターは、組成物の特性及び患者の必要に応じて考慮に入れられる。本願発明のいくつかの態様では、針の寸法は、23ゲージ又は25ゲージである。20ゲージ、21ゲージ又は22ゲージのより大きな寸法が、本願の組成物の注入に使用される場合もある。
【0045】
いくつかの例では、組成物は、偽塑性である。偽塑性とは、一般的にせん断力が付与された際に粘性が低下する性質を指す。したがって、例えば、組成物は、静止時、又は高せん断条件下(針の中に充填する間や針を介して注入している間など)よりも低せん断条件(容器内保管中など)下でより高い粘性を有する。偽塑性を示す材料の例には、ジェランガムやキサンタンガムやその他の多糖類が含まれる。
【0046】
本願の組成物は、GI系、呼吸器系、生殖器系などの組織切除術を含む様々な医療措置に使用される。そのような医療措置において切除される組織は、病変組織又は損傷組織、非病変組織又はそれらの組み合わせからなる。組織切除術の例には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下解離術(ESD)が含まれる。これらの施術では、一般的に内視鏡は、患者の食道内部に挿入されてGI系を介して前進されて食道、胃又は小腸内部の標的部位に到達する。EMRは、一般的に直径2cm以下の組織の除去、例えば組織の生検又は被損傷又は病変組織(癌組織など)を除去することに使用され、ESDは、一般的により大きな組織の除去に使用される。
【0047】
いくつかの態様では、連続した固体又は準固体ゲル組成物は、上述のように調節されて、組織の2つの層の間、例えば標的治療部位で上方の粘膜層と下方の筋固有層の間の粘膜下組織内部に注入される。組成物は、組織の一部の下において粘膜下空間(粘膜下層)内に注入される。注入されたゲルは、粘膜組織を筋肉固有層から分離して持ち上げる。その後、組織の一部を除去する為に、適切な切断装置、例えばナイフ、スネア、はさみ又は鉗子などの電気焼灼切断装置が使用される。組織のより大きな部分を除去する為には(ESDなど)、組成物は、組織の一部の下に注入され、ゲルは、下方の層から組織の上方の組織層を持ち上げる。その後、組織の一部の周囲に切込みを形成してそれを除去する為に切除装置が使用される。組成物は、組織の追加的な部分の除去を支援する為に粘膜下層内に注入される場合もある。
【0048】
いくつかの態様では、組成物は、切除術の間の全体に亘って組織層の分離を維持する。ゲル組成物の一部は、切除工程を介して除去される。組織の切除に続いて、ゲル組成物の残りの部分は、水又は生理食塩水を用いてその場から洗い流されるか又は組織内に自然に拡散する。
【0049】
図2A〜2Eは、本願発明のいくつかの態様にかかる切除法の例を示している。例えば、方法は、上述のように、EMR又はESDであり又は組織切除の為の他の好適な医療措置である。図2Aは、組織又は組織層80,82の2つの部分からなる断面図であり、組織又は組織層80,82は、組織の中間層81で分離されている(上方の粘膜層と下方の筋肉固有層は中間の粘膜下組織層によって分離されている)。組織の一部80,82の一方又は双方は、取り除く対象にされている組織85の部分を含む。例えば、組織85の部分は、損傷組織又は病変組織からなり、又は生検やその後の解析の対象とされる組織からなる。図2Aの例では、組織85の部分は、組織表面の方に位置するが、本願の装置及び組成物は、内部組織層から組織を取り除く際にも用いられる。
【0050】
図2Bに示されているように、治療部位に針70を搬送する際に、1つ以上の管腔を形成する(3つの管腔が示されている)内視鏡100が使用される場合がある。針70は、針の尖端72が、組織80,82の上部と下部の間の中間層81内に位置するように、組織表面を穿孔する為の中空性の管腔と鋭利で傾斜された尖端72を有する。針の管腔は、流体容器、例えば上述の調製された連続した固体ゲル組成物90を含むシリンジ又は他の容器と連通する。シリンジは、図2Bに示されているように、ゲルのクッション又は水疱を形成する為に組織80,82の一部の間の中間層81の中に組成物90を注入することに使用される。組成物90が注入されると、ゲル90の体積によって組織80,82の上部と下部が分離されて、組織85の部分は、下方の組織から持ち上げられる。図2C及び2Dに示されているように、組織85の部分を切除して取り除く為に電気焼灼スネア74又はその他の切除装置74(例えば、電子焼灼ナイフ、はさみ又は鉗子などの好適な切除装置)が使用される。組織85の部分が除去されれば、図2Eに示されているように、ゲル90の一部は、組織層80,81,82の1つ以上の中に自然に拡散する。
【0051】
本願発明のその他の態様及び実施形態は、当業者にとっては、明細書を考慮してここに開示されている実施形態を実施すれば明らかであろう。本願の特徴は、例となる組織切除術の文脈の中で説明されているが、組成物、システム及び方法は、本願の一般的な原理に従って他の医療処置で用いることも可能である。
【0052】
実施例
以下の実施例は、限定ではなく本願発明を説明することを意図している。本願発明は、上記説明や下記実施例に一致する追加の態様及び実施形態を包含すると理解される。
【0053】
実施例1
以下の方法に従って、表1に係る組成物A−Cを調製した。ジェランガム(ジェルザンシーエム,Gelzan(登録商標)CM,CP ケルコ)とエリオグラウシン二ナトリウム塩(FD&C Blue1,シグマアルドリッチ)をリン酸緩衝生理食塩液(PBS)に添加してマグネチックスターラーとバーとを用いて連続して攪拌した。PBS溶液は、0.138MのNaClを形成する為に1000mlの脱イオン水に1袋のPBSパウダー(シグマアルドリッチ)を溶解することにより調製した。ジェランガム/塩/PBS混合液は、攪拌しながら沸騰させると、外見上やや濁った青色から透明な青色に変化した。溶液は、攪拌しながら室温(〜25℃)まで冷却すると粘性を有する流体となった。
【0054】
【表1】
各溶液を10mlのシリンジ(BDルアーロックチップ(BDLuer−LokTip))の中に詰めた。各シリンジは、121℃でオートクレーブした。次にシリンジを室温(〜25℃)まで冷却した。得られたシリンジの内容物は、反転させても形状が維持されているが針を介して注入できる準固体ゲルを構成した。
【0055】
比較例の組成物(組成物D)を0.20重量%のキサンタンガム(シグマアルドリッチ)と0.004重量%のエリオグラウシン二ナトリウム塩(FD&C Blue1,シグマアルドリッチ)と99.8重量%のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)とを用いて調製して、マグネチックスターラーとバーとを用いて連続して攪拌した。ジェランガム組成物A−Cが準固体ゲルであるのに対して、得られた溶液は、粘性流体形態の組成物Dを形成した。キサンタンガム組成物Dの粘性流体は、反転した際に流動可能であった。
【0056】
実施例2
実施例1に従って調製したジェランガム組成物A−Cを含むシリンジを注入針(ボストンサイエンティフィックインタージェクト(BostonScientificInterject(登録商標)),23ゲージ針)に結合して、インストロン5564ユニバーサル試験機(Instron5564UniversalTestingMachine)と500Nロードセルとカスタム固定とを用いて3mm/s(流速0.5ml/s)で注入した。計測した最大負荷の値は、表2に示されているように、ジェランガム濃度によって変化した。
【0057】
【表2】
上記明細書及び実施例は、単なる例示であり、本願発明の真の範囲及び主旨は、以下の請求項に記載されている。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E