特許第6880123号(P6880123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880123
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】難分解性物質の分解方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/72 20060101AFI20210524BHJP
   C02F 1/76 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   C02F1/72 Z
   C02F1/76 Z
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-142992(P2019-142992)
(22)【出願日】2019年8月2日
(65)【公開番号】特開2021-23869(P2021-23869A)
(43)【公開日】2021年2月22日
【審査請求日】2020年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000245531
【氏名又は名称】野村マイクロ・サイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊英
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−076057(JP,A)
【文献】 特開平11−099394(JP,A)
【文献】 特開平06−121991(JP,A)
【文献】 特開平06−099181(JP,A)
【文献】 米国特許第04387029(US,A)
【文献】 米国特許第06214241(US,B1)
【文献】 特開2019−218218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58−1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ炭素材料および難分解性有機物から選ばれる少なくとも1種からなる難分解性物質と水を含む被処理水中の前記難分解性物質を分解する方法であって、
前記被処理水に次亜ハロゲン酸およびその塩から選ばれる1種以上からなる第1の酸化剤を添加する工程、および
前記被処理水にペルオキシド基を含む硫黄化合物からなる第2の酸化剤を添加する工程を有し、
前記難分解性物質はカーボンナノチューブである
難分解性物質の分解方法。
【請求項2】
ナノ炭素材料からなる難分解性物質と水を含む被処理水中の前記難分解性物質を分解する方法であって、
前記被処理水に次亜ハロゲン酸およびその塩から選ばれる1種以上からなる第1の酸化剤を添加する工程、および
前記被処理水にペルオキシド基を含む硫黄化合物からなる第2の酸化剤を添加する工程を有する難分解性物質の分解方法。
【請求項3】
前記第1の酸化剤は次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩である請求項1または2記載の難分解性物質の分解方法。
【請求項4】
前記第2の酸化剤は過硫酸塩である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の難分解性物質の分解方法。
【請求項5】
さらに、前記被処理水の温度を30〜80℃に加熱する加熱工程を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の難分解性物質の分解方法。
【請求項6】
前記第1の酸化剤を添加する工程および前記第2の酸化剤を添加する工程の後の前記被処理水のpHが6〜11である請求項1〜5のいずれか1項に記載の難分解性物質の分解方法。
【請求項7】
前記第1の酸化剤を添加する工程の直前の前記被処理水のpHが5以上となるように前記被処理水のpHを調整するpH調整工程を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の難分解性物質の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難分解性物質、具体的には、ナノ炭素材料および難分解性有機物から選ばれる少なくとも1種からなる難分解性物質の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブに代表されるナノ炭素材料は、優れた熱、電気、力学特性を示し、化学的にも極めて安定であるため、エレクトロニクスから医療まで幅広い分野での使用が期待され、既に実用化が進んできている。
【0003】
一方、ナノ炭素材料はサイズが極めて小さいことや形状が特殊であることから、環境や生体への影響が懸念されている。そこで、ナノ炭素材料を含んだ産業排水の処理技術の開発が望まれている。
【0004】
ナノ炭素材料は、排水中において、さまざまな比重のものが混在しているケースが多い。すなわち、排水中において、上部に浮きやすいものと沈降しやすいものが混在している。よって、例えば遠心分離によりナノ炭素材料を排水から分離することは困難である。
【0005】
ナノ炭素材料を、必要に応じて凝集剤により凝集させたうえで、ろ紙やろ過膜、フィルター等を用いたろ過処理により排水から分離することは、後述するような燃焼式TOC計測定用サンプル作製など、少量の排水に対してであれば適用可能である。しかし、フィルター等の目詰まりが早く、従って交換等メンテナンスが必要になる頻度が高くなるため、大量の排水処理手段としては実用的と言い難い。
【0006】
そこで、ナノ炭素材料を含む産業排水の処理技術として、例えば、特許文献1には、カーボンナノチューブに過酸、過酸塩、ハロゲン酸、ハロゲン酸塩、過ハロゲン酸、過ハロゲン酸塩またはオゾンからなる酸化物を作用させて該カーボンナノチューブを分解する技術が記載されている。
【0007】
また、産業技術総合研究所の研究成果記事(https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2019/pr20190204/pr20190204.html)には、カーボンナノチューブ分散液に次亜塩素酸化合物を添加してカーボンナノチューブを分解し該分散液から除去する方法が記載されている。
【0008】
さらに、ナノ炭素材料以外にも、尿素等の産業排水からの除去が困難な有機物について、分解等によるその効率的な除去方法が求められている。例えば、特許文献2には、尿素等の有機物含有排水にペルオキシド基を含む硫黄化合物を添加する薬剤添加工程と、該薬剤添加工程の処理水に紫外線を照射する紫外線酸化工程と、該紫外線酸化工程の処理水中の酸化剤を除去する酸化剤除去工程と、該酸化剤除去工程の処理水を脱イオン処理する脱イオン工程とを備えてなることを特徴とする有機物除去方法が記載されている。
【0009】
しかしながら、上記した方法では、ナノ炭素材料や除去が困難な有機物の分解処理にコストまたは/及び時間がかかる点で問題であった。そこで、ナノ炭素材料や分解、除去が困難な有機物を含む産業排水から、これらを経済的に有利な方法で分解、除去する方法の確立が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017−149601号公報
【特許文献2】特開2008−229417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記した課題を解決するためになされたものであって、ナノ炭素材料や分解、除去が困難な有機物等の難分解性物質と水を含む被処理水中のナノ炭素材料や分解、除去が困難な有機物を、効率的に分解処理する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の難分解性物質の分解方法は、ナノ炭素材料および難分解性有機物から選ばれる少なくとも1種からなる難分解性物質と水を含む被処理水中の前記難分解性物質を分解する方法であって、前記被処理水に次亜ハロゲン酸およびその塩から選ばれる1種以上からなる第1の酸化剤を添加する工程、および前記被処理水にペルオキシド基を含む硫黄化合物からなる第2の酸化剤を添加する工程を備える。
【0013】
本発明の分解方法においては、前記第1の酸化剤は次亜塩素酸塩または次亜臭素酸塩であることが好ましい。本発明の分解方法においては、前記第2の酸化剤は過硫酸塩であることが好ましい。
【0014】
本発明の分解方法は、前記難分解性物質がカーボンナノチューブである場合に、より分解の効果が得られ好ましい。
【0015】
本発明の分解方法は、さらに、前記被処理水の温度を30〜80℃に加熱する加熱工程を有することが好ましい。
【0016】
本発明の分解方法は、前記第1の酸化剤を添加する工程および前記第2の酸化剤を添加する工程の後の前記被処理水のpHが6〜11であることが好ましい。
【0017】
本発明の分解方法は、前記第1の酸化剤を添加する工程の直前の前記被処理水のpHが5以上となるように前記被処理水のpHを調整するpH調整工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ナノ炭素材料や分解、除去が困難な有機物等の難分解性物質と水を含む被処理水中のナノ炭素材料や分解、除去が困難な有機物を、効率的に分解処理する方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態の難分解性物質の分解方法を示すフロー図である。
図2】実施形態の難分解性物質の分解方法においてpH調整工程を有する場合のフロー図である。
図3】被処理水と実施例および比較例における処理水の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、実施形態を詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態を、本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、変更または変形することができる。図1は、実施形態の難分解性物質の分解方法を示すフロー図であり、図2は実施形態の難分解性物質の分解方法においてpH調整工程を有する場合のフロー図である。
【0021】
[難分解性物質の分解方法]
実施形態の難分解性物質の分解方法は、ナノ炭素材料および難分解性有機物から選ばれる少なくとも1種からなる難分解性物質と水を含む被処理水中の前記難分解性物質を分解する方法であって、図1に示すとおり、被処理水に次亜ハロゲン酸およびその塩から選ばれる1種以上からなる第1の酸化剤を添加する工程(以下、「第1酸化剤添加工程」)S1、および被処理水にペルオキシド基を含む硫黄化合物からなる第2の酸化剤を添加する工程(以下、「第2酸化剤添加工程」)S2を具備する。
【0022】
実施形態の難分解性物質の分解方法においては、これらの工程を有することで、被処理水中の難分解性物質が分解し、被処理水に比べて難分解性物質の含有量が低減された処理水が得られる。
【0023】
実施形態の難分解性物質の分解方法において、難分解性物質の分解には所定の時間を要する。典型的には、第1酸化剤添加工程S1および第2酸化剤添加工程S2終了後、所定の時間をかけて、第1の酸化剤および第2の酸化剤から生成される次亜ハロゲン酸イオンおよびペルオキソ硫酸イオンの存在下で難分解性物質が分解される。
【0024】
具体的には、実施形態の難分解性物質の分解方法において、被処理水中の難分解性物質の分解には主に第1の酸化剤が寄与すると考えられる。すなわち、難分解性物質の分解反応は、第1の酸化剤から生成される次亜ハロゲン酸イオンによる難分解性物質の酸化反応が主たる反応であり、該酸化反応により次亜ハロゲン酸イオンは還元されハロゲンイオンとなる。
【0025】
実施形態の難分解性物質の分解方法における、第2の酸化剤の主な役割は、第2の酸化剤から生成されるペルオキソ硫酸イオンが、難分解性物質の分解反応等のために次亜ハロゲン酸イオンから生成したハロゲンイオンを酸化して、再び次亜ハロゲン酸イオンに戻すことにあると考えられる。このようにして、実施形態の難分解性物質の分解方法においては、第1の酸化剤および第2の酸化剤を組み合わせて、第1の酸化剤由来の次亜ハロゲン酸イオンを効率よく利用することで、難分解性物質の分解反応が促進されると考えられる。
【0026】
例えば、第1の酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムであり、第2の酸化剤がペルオキシ一硫酸カリウムである場合の、カーボンナノチューブおよび尿素の分解は、主に以下の酸化還元反応によるものと考えられる。ただし、式中、CCNTはカーボンナノチューブを示す。
(カーボンナノチューブの分解)
CNT+2ClO→2Cl+CO
HSO+Cl→H+ClO+SO2−
(尿素の分解)
CHO+3ClO→N+CO+2HO+3Cl
HSO+Cl→H+ClO+SO2−
【0027】
実施形態の難分解性物質の分解方法においては、このようにして難分解性物質の分解反応が促進されることで、従来の酸化剤を用いる方法に比べて分解に要する時間を短縮することが可能であり、それにより作業効率を大きく向上できる。
【0028】
実施形態の難分解性物質の分解方法における第1酸化剤添加工程S1と第2酸化剤添加工程S2の順番は特に問わない。図1に示すとおり、第1酸化剤添加工程S1、第2酸化剤添加工程S2の順に行ってもよく、第2酸化剤添加工程S2、第1酸化剤添加工程S1の順に行ってもよく、第1酸化剤添加工程S1と第2酸化剤添加工程S2を同時に行ってもよい。
【0029】
実施形態の難分解性物質の分解方法は、さらに、上記被処理水の温度を30〜80℃に加熱する加熱工程S3を有することが好ましい。加熱工程S3における、上記温度はより好ましくは35〜65℃である。加熱工程S3の順番は特に問わない。好ましくは、第1酸化剤添加工程S1および第2酸化剤添加工程S2の後である。
【0030】
実施形態の難分解性物質の分解方法は、さらに、第1酸化剤添加工程S1の直前の被処理水のpHが5以上となるように被処理水のpHを調整するpH調整工程S4を有することが好ましい。pH調整工程S4は、第1酸化剤添加工程S1の前に、第1酸化剤添加工程S1の直前の被処理水のpHが5以上となるように行われる限り、実施の時期は問わない。図2に、pH調整工程S4を有する場合の実施形態の難分解性物質の分解方法における各工程の順番を示す。
【0031】
(A)は、pH調整工程S4、第1酸化剤添加工程S1、第2酸化剤添加工程S2の順に行う場合を示す。
(B)は、pH調整工程S4、第2酸化剤添加工程S2、第1酸化剤添加工程S1の順に行う場合を示す。
(C)は、第2酸化剤添加工程S2、pH調整工程S4、第1酸化剤添加工程S1の順に行う場合を示す。
(D)は、pH調整工程S4を行い、その後、第1酸化剤添加工程S1および第2酸化剤添加工程S2を同時に行う場合を示す。
【0032】
なお、図示しないが第2酸化剤添加工程S2とpH調整工程S4を同時に行ってもよい。これらのうちでも(C)の順番で各工程を行うことで、難分解性物質の分解速度や分解能等の分解効率をより高められる点で好ましい。
【0033】
(被処理水)
被処理水は難分解性物質と水を含有する。難分解性物質は、ナノ炭素材料および難分解性有機物から選ばれる少なくとも1種からなる。ナノ炭素材料とは、炭素原子を主成分とするナノメートルサイズの化合物の総称である。具体的な化合物として、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)、グラフェン、カーボンブラック(CB)等が挙げられる。カーボンナノチューブには、単層CNT(SWNT;Single-walled carbon nanotube)、2層を含む多層CNT(MWNT;Multi-walled carbon nanotube)が包含される。
【0034】
難分解性有機物とは、ここでは、化学的に安定であり、自然には分解され難く、従来広く利用されている生物処理法によって分解することが困難である、もしくは従来の酸化方法では分解が困難またはコストを要する有機物のことを呼ぶ。
【0035】
難分解性有機物の具体的な例として、尿素等の低分子量窒素化合物、1,4−ジオキサン等の環状エーテル、パーフルオロオクタン酸(PFOA)、パーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)を含むパーフルオロアルキルスルホン酸(PFAS)、パーフルオロオクタンスルホン酸フルオリド、パーフルオロオクタンスルホン酸フルオリド誘導体等の有機フッ素化合物、フェノール類、フミン酸、フルボ酸等が挙げられる。
【0036】
被処理水には、難分解性物質以外のその他の化合物が含まれていてもよい。このようなその他の化合物としては、例えば、ナノ炭素材料を分散するための、分散剤や界面活性剤等が挙げられる。
【0037】
被処理水がナノ炭素材料を含有する場合、ナノ炭素材料は水に溶解した状態ではなく、水に分散した状態である。ナノ炭素材料を含有する被処理水は、例えば、被処理水中の難分解性物質がナノ炭素材料のみの場合、分光光度計(例えば、島津製作所製、UVmini−1240)で波長660.0nmの吸光度に基づいて測定される濁度[度]との相関関係により上記濃度を評価することができる。
【0038】
もし被処理水に含まれているナノ炭素材料が既知なのであれば、あらかじめその濁度と濃度の関係を調べておくことで、濁度測定値から濃度を比較的よい精度で求めることも可能である。
【0039】
例えば、被処理水中の難分解性物質がカーボンブラック(CB)である場合、上記の方法で測定される被処理水の濁度が200度である場合、被処理水中のカーボンブラック(CB)の濃度は、15[mg/L]程度に相当する。
【0040】
なお、濁度は被処理水の濁り(不透明度)を評価する指標であり、値が大きいほど透明度が低く、値が小さいほど透明度が高いことを示す。
【0041】
ここで、分光光度計、例えば、島津製作所製UVmini−1240による濁度の検出範囲は20〜500度である。被処理水における濁度が500度を超える場合、被処理水を濁度の測定が可能な程度に希釈して濁度を測定することで、該濁度と希釈倍率から、被処理水中のナノ炭素材料の濃度が求められる。
【0042】
さらに、濁度が20度未満の場合には、濁度は、JIS K0101ポリスチレン標準液法により測定できる。この方法における濁度の測定限界は、0.5度である。
【0043】
一方、難分解性有機物は被処理水に溶解した状態で存在する。難分解性有機物の濃度は、被処理水中に難分解性有機物以外の有機物が含まれていない場合は、例えば水中に存在する有機物中の炭素量であるTOCの濃度で表すことができる。TOC濃度は、例えば燃焼式TOC計により測定できる。
【0044】
被処理水中に難分解性有機物以外の有機物が含まれている場合は、TOCは、被処理水中に存在する難分解性有機物中の炭素量と難分解性有機物以外の有機物中の炭素量の和になる。難分解性有機物以外の有機物も本願処理により難分解性有機物と併せて処理できるため、そのTOC濃度を難分解性有機物の濃度とみなしてもよい。
【0045】
また、被処理水がナノ炭素材料と難分解性有機物の両方を含有する場合の濃度を測定する場合は、例えば、先に濁度を測定し、その後に除濁を行い、得られた除濁後の被処理水に対して燃焼式TOC計測定を行うことで難分解性有機物の濃度を測定すればよい。
【0046】
除濁には、例えば粒子保持能1.0μmであるガラス繊維ろ紙GF/B(ワットマン社製)を使用できる。ナノ炭素材料にそのままではろ過できないほど細かい粒子が混ざっている場合は、例えば濁度測定後に被処理水に凝集剤を加え、ナノ炭素材料を凝集させてから除濁処理を行ってもよい。凝集剤には、例えばゼオライトを主体とする粉体凝集剤を使用できる。除濁処理は、例えば、吸引ろ過ビンの口に差し込んだ漏斗内にろ紙をセットし、吸引ろ過ビン内をポンプで減圧しながらろ紙上から被処理水を注げば、ナノ炭素材料はろ紙上に残され、吸引ろ過ビン内に除濁された被処理水ができる。
【0047】
被処理水の濁度としては、例えば、5〜1000[度]程度が挙げられる。また、被処理水のTOC濃度としては、例えば、1〜500[mg/L]程度が挙げられる。
【0048】
被処理水としては難分解性物質と水を含有する工場排水、例えば、半導体工場の工場排水、ナノ炭素材料製造後の排水またはリチウムイオン二次電池用電極製造後の排水であってもよい。以下、各工程について説明する。
【0049】
(第1酸化剤添加工程S1)
第1酸化剤添加工程S1は被処理水に次亜ハロゲン酸およびその塩から選ばれる1種以上からなる第1の酸化剤を添加する工程である。
【0050】
次亜ハロゲン酸およびその塩におけるハロゲンとしては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、塩素、臭素が好ましく、塩素が特に好ましい。塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ土類金属塩、その他の金属塩、および、アンモニウム塩を例示できる。これらの中でも、カリウム塩、ナトリウム塩が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。第1の酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素酸ナトリウム等が特に好ましい。
【0051】
第1の酸化剤を被処理水に添加することで、次亜ハロゲン酸イオンが生成する。実施形態の方法において、上記のとおり該次亜ハロゲン酸イオンは使用されハロゲンイオンとなるが、第2の酸化剤から生じるペルオキソ硫酸イオンにより次亜ハロゲン酸イオンに再生され効率的に使用される。実施形態の方法においては、該次亜ハロゲン酸イオンとペルオキソ硫酸イオンの複合作用により、難分解性物質を分解する際の分解速度や分解能等の分解効率が向上するとされる。
【0052】
水溶液中の次亜ハロゲン酸イオンは、pHが5未満の場合、ハロゲンガスである塩素ガスや臭素ガスを発生することが懸念される。したがって、後述のpH調整工程により、第1酸化剤添加工程S1の直前の被処理水のpHが5以上となるようにpHを調整することが好ましい。第1酸化剤添加工程S1の直前の被処理水のpHは、6以上がより好ましい。
【0053】
第1の酸化剤を被処理水へ添加する方法は、第1の酸化剤自体を添加するまたは第1の酸化剤を水溶液として添加する方法があり、後者が好ましい。該水溶液における第1の酸化剤の濃度としては、2〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。第1の酸化剤を上記濃度の水溶液として、被処理水に添加することで被処理水の局所的なpH変化を避けることが可能であり、取り扱いが容易となる。
【0054】
第1の酸化剤の被処理水への添加量は、被処理水に対して0.01〜5質量%とすることが好ましく、0.1〜1.5質量%とすることがより好ましい。この範囲よりも第1の酸化剤の添加量が少ないと、次亜ハロゲン酸イオンの生成が十分ではなく、難分解性物質が十分に分解されないことがある。一方、上記範囲よりも多くても、第1の酸化剤の添加量の増加に伴う難分解性物質の分解の効果の向上は期待できず、第1の酸化剤の余剰分が残留する弊害を招き、好ましくはない。
【0055】
(第2酸化剤添加工程S2)
第2酸化剤添加工程S2は被処理水にペルオキシド基を含む硫黄化合物からなる第2の酸化剤を添加する工程である。
【0056】
ペルオキシド基を含む硫黄化合物としては、化合物内にペルオキシド基(−O−O−)と硫黄原子(S)を含むものであれば、特に制限されない。ペルオキシド基を含む硫黄化合物として、具体的には、ペルオキシ一硫酸(過硫酸、HSO;HO−S(=O)−O−OH)、ペルオキシ二硫酸(H;HO−S(=O)−O−O−S(=O)−OH)およびこれらの塩が挙げられる。
【0057】
塩としては、ペルオキシ一硫酸ナトリウム塩、ペルオキシ一硫酸アンモニウム塩、ペルオキシ一硫酸カリウム塩、ペルオキシ二硫酸ナトリウム塩、ペルオキシ二硫酸アンモニウム塩、ペルオキシ二硫酸カリウム塩等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、第2の酸化剤としてはペルオキシ一硫酸塩が好ましく、ペルオキシ一硫酸カリウムが特に好ましい。
【0058】
第2の酸化剤は、例えば、オキソン(登録商標、ペルオキシ一硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、および硫酸カリウムから成る複塩;2KHSO・KHSO・KSO)のような複塩の形で添加されてもよい。オキソンにおいて、上記組成式から算出される第2の酸化剤の量は、オキソン全量に対して50質量%である。オキソンを用いる場合、第2の酸化剤の使用量は、オキソンの組成式を用いてオキソンの使用量の1/2として換算可能である。
【0059】
第2の酸化剤を被処理水に添加することで、ペルオキソ硫酸イオンが生成し、第1の酸化剤から生じる次亜ハロゲン酸イオンとの複合作用により難分解性物質を分解する際の分解速度や分解能等の分解効率が向上すると考えられる。第2の酸化剤を被処理水に添加することで、被処理水のpHは低下するが、第1の酸化剤から生じる次亜ハロゲン酸イオンはpHが5未満の水溶液中では、ハロゲンガスである塩素ガスや臭素ガスを発生することが懸念される。そこで、後述のpH調整工程により、pHを調整することが好ましい。
【0060】
第2の酸化剤を被処理水へ添加する方法としては、第2の酸化剤自体を添加するまたは第2の酸化剤を水溶液として添加する方法があり、後者が好ましい。該水溶液における第2の酸化剤の濃度としては、1〜35質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。第2の酸化剤を上記濃度の水溶液として、被処理水に添加することで被処理水の局所的なpH変化を避けることが可能であり、取り扱いが容易となる。
【0061】
第2の酸化剤の被処理水への添加量は、被処理水に対して0.01〜5質量%とすることが好ましく、0.1〜1.5質量%とすることがより好ましい。この範囲よりも第2の酸化剤の添加量が少ないと、ペルオキソ硫酸イオンの生成が十分ではなく、難分解性物質が十分に分解されないことがある。一方、上記範囲よりも多くても、第2の酸化剤の添加量の増加に伴う難分解性物質の分解の効果の向上は期待できず、被処理水のpHの低下を招き、好ましくない。
【0062】
(pH調整工程S4)
実施形態の難分解性物質の分解方法において、pH調整工程S4は、第1酸化剤添加工程S1の直前の被処理水のpHが5以上となるように被処理水のpHを調整する、任意の工程である。
【0063】
実施形態の難分解性物質の分解方法が、pH調整工程S4を有する場合、例えば図2に示す(A)〜(D)の順番に行う方法が挙げられる。また、第2酸化剤添加工程S2とpH調整工程S4を同時に行う方法が挙げられる。複数の箇所でpH調整工程S4を行う方法も挙げられる。pH調整工程S4は、被処理水にpH調整剤を添加することで行われる。
【0064】
(A)の順でpH調整工程S4を行う場合、pH調整工程S4後のpHが第1酸化剤添加工程S1の直前の被処理水のpHである。したがって、pH調整工程S4は被処理水のpHを5以上となるように、被処理水にpH調整剤を添加する。pH調整工程S4前の被処理水のpHにもよるが、pH調整剤は、pH調整剤添加後に求められるpHの値に応じて酸または塩基が用いられる。
【0065】
(D)の場合、pH調整工程S4は(A)の場合と同様に行うことができる。(D)の場合、第1酸化剤添加工程S1と第2酸化剤添加工程S2を同時に行う。そのため、被処理水において第2の酸化剤が添加された箇所が局所的にpH5未満となることがある。そして、被処理水の別の箇所に添加された第1の酸化剤が拡散しpH5未満の箇所に到達するとハロゲンガスの発生が想定される。したがって、(D)の場合、被処理水に対して、第1の酸化剤を投入する箇所と第2の酸化剤を投入する箇所を極力離れた位置に設定することが好ましい。
【0066】
第1酸化剤添加工程S1の前に第2酸化剤添加工程S2を行う場合は、pH調整工程S4は第1酸化剤添加工程S1の直前までの任意の箇所で行えばよい。
【0067】
例えば(C)の順でpH調整工程S4を行う場合、(A)の場合と同様、pH調整工程S4後のpHが第1酸化剤添加工程S1の直前の被処理水のpHである。したがって、pH調整工程S4において、被処理水のpHを5以上となるように調整すればよい。
【0068】
実際には、pH調整工程S4は、(C)の箇所に限る必要はない。(B)の箇所にあってもよく、第2酸化剤添加工程S2と同時であってもよい。あるいは、2つ以上の箇所で実施してもよい。いずれにしても、第1酸化剤添加工程S1の直前の被処理水のpHが5以上となるように調整すればよい。
【0069】
必要に応じて、pH調整剤として酸を用いてもよい。用いる酸は、一般的な化学反応に用いられる酸であればよい。具体的には、塩酸、硫酸、硝酸等を例示できる。
【0070】
pH調整剤として用いる塩基は、一般的な化学反応に用いられる塩基であればよい。具体的には、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム等の炭酸アルカリ金属塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム等の炭酸水素アルカリ金属塩、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三リチウム等のリン酸アルカリ金属塩、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム等のリン酸水素アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム等の酢酸アルカリ金属塩、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸リチウム等のシュウ酸アルカリ金属塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物を例示できる。
【0071】
被処理水に対して、第1酸化剤添加工程S1、第2酸化剤添加工程S2が行われることで、さらには、これらに加えて任意にpH調整工程S4が行われることで、被処理水中の難分解性物質が分解される。
【0072】
実施形態の難分解性物質の分解方法において、第1酸化剤添加工程S1および第2酸化剤添加工程S2の順番を問わず、両工程が終了後の被処理水のpHは6〜11の範囲が好ましい。該pHは、より好ましくは8〜11である。上記両工程終了後の被処理水のpHが上記範囲内であることで、難分解性物質の分解がより促進され、分解に要する時間の短縮が見込まれる。
【0073】
必要に応じて、両工程が終了するまで、あるいは終了後の任意の箇所で、pH調整工程S4と同様にpH調整を行ってもよい。
【0074】
例えば、第1酸化剤添加工程S1の実施前あるいは実施後あるいは第1酸化剤添加工程S1と同時、第2酸化剤添加工程S2の実施前あるいは実施後あるいは第2酸化剤添加工程S2と同時に行うことができる。また、2つ以上の箇所において実施してもよい。このpH調整は、少なくとも一部がpH調整工程S4を兼ねていてもよい。
【0075】
被処理水中の難分解性物質が分解して得られる処理水における難分解性物質の濃度は、難分解性物質の種類、処理水の用途などにより異なる。処理水の用途としては、例えば一般的な環境への廃棄、超純水製造装置における一次純水の製造が挙げられる。
【0076】
例えば、尿素を一般的な環境に廃棄するためには、TOC濃度を3[mg/L]以下まで低減することが好ましく、2[mg/L]以下がより好ましい。
【0077】
また、処理水における難分解性物質の濃度の下限値は、適度な処理時間で分解が実現できるレベルとするのが好ましい。具体的には、例えば、尿素を一般的な環境に廃棄するためには、TOC濃度の下限値は10[μg/L]程度が好ましく、100[μg/L]程度がより好ましい。
【0078】
被処理水がナノ炭素材料のみを含有していた場合、一般的な環境に廃棄するためには、処理水における濁度は、上記JIS K0101の方法で測定される濁度として、1度以下であるのが好ましく、0.5度以下であるのがより好ましい。また、処理水の評価として、濁度とともに色度を用いることが好ましい。
【0079】
色度は、45度以上2500度以下の範囲で、分光光度計(例えば、島津製作所製、UVmini−1240)で例えば波長456.8nmの吸光度に基づいて測定される色度[度]として測定できる。また、色度は、4度以上45度未満の場合には、JIS K0101塩化白金酸コバルト標準液法により測定できる。
【0080】
色度は処理水の色(黄褐色)の程度を評価する指標であり、値が大きいほど黄褐色が濃く、値が小さいほど黄褐色が薄く透明に近い色を示す。色度の値により、難分解性物質を含む被処理水を実施形態の方法により処理した際の副生物の量を把握できる。
【0081】
上記観点から、一般的な環境に廃棄するために、処理水は、濁度が1度以下かつ色度が120度以下であるのが好ましく、濁度が0.5度以下かつ色度が120度以下であるのがより好ましい。
【0082】
なお、色度は濁度とともに被処理水におけるナノ炭素材料の濃度の指標としても使用できる。
【0083】
もし被処理水に含まれているナノ炭素材料が既知なのであれば、あらかじめその色度と濃度の関係を調べておくことで、色度測定値から濃度を比較的よい精度で求めることも可能である。
【0084】
例えば、被処理水中の難分解性物質がカーボンブラック(CB)である場合、上記の方法で測定される被処理水の色度が、2000度である場合、被処理水中のナノ炭素材料の濃度は、15[mg/L]程度に相当する。
【0085】
被処理水中のナノ炭素材料の濃度[mg/L]は、濁度[度]との相関性が高く、濁度のみで濃度を評価することができる。したがって、被処理水中のナノ炭素材料の濃度の測定において、色度は、補足的に使用することが好ましい。
【0086】
ここで、処理水が含有する、難分解性物質の分解物は、例えば、ナノ炭素材料の場合、上記式に示したとおりCOである。難分解性有機物の場合は、種類により異なり、例えば、尿素の場合は窒素、水、COである。
【0087】
実施形態の難分解性物質の分解方法において、分解時間は、難分解性物質の種類や、被処理水中の難分解性物質の濃度、被処理水を処理して得られる処理水に求められる難分解性物質の濃度の程度により適宜調整できる。
【0088】
なお、分解時間とは、被処理水に対して、第1酸化剤添加工程S1および第2酸化剤添加工程S2が終了した直後から、被処理水中の難分解性物質の濃度が所期の濃度に低減するまでの時間をいう。ここで、被処理水に対して、第1酸化剤添加工程S1および第2酸化剤添加工程S2が終了した直後から、被処理水中の難分解性物質の濃度が所期の濃度に低減する、すなわち、難分解性物質の濃度が所期の濃度に達した処理水が得られるまでの間を分解工程ともいう。
【0089】
例えば、難分解性有機物である尿素の場合、300[mg/L](TOC濃度56.5[mg/L])程度の尿素を含む被処理水の尿素の濃度を、例えば、20〜25℃の室温で、3〜30分程度の分解時間で、上記処理水の濃度のレベルであるTOC濃度として1〜3[mg/L]まで低減できる。
【0090】
第1酸化剤添加工程S1、第2酸化剤添加工程S2、pH調整工程S4では、通常の方法で、被処理水の撹拌を行うことが好ましい。さらに、上記3工程後に時間をかけて分解が行われる場合(分解工程が設けられる場合)、分解工程の間も撹拌を行うことが好ましい。
【0091】
(加熱工程S3)
加熱工程S3は、被処理水の温度を30〜80℃に加熱する工程であり、任意の工程である。
【0092】
難分解性物質が分解する分解時間が、室温で十分短い場合には、加熱工程S3はあってもなくてもよい。室温で難分解性物質が分解するのに時間を有する場合、例えばナノ炭素材料の場合は、加熱工程S3を設けることは効率の点で有効である。すなわち、被処理水の温度を上記範囲とすることで、第1の酸化剤および第2の酸化剤から生成される次亜ハロゲン酸イオンおよびペルオキソ硫酸イオンの複合作用による難分解性物質の分解が促進され、分解時間が短縮できる。
【0093】
加熱工程S3は、好ましくは、第1酸化剤添加工程S1および第2酸化剤添加工程S2の後の分解工程に行われる。加熱工程S3における温度は35〜65℃がより好ましい。
【0094】
加熱時間は、分解時間と同じであることが好ましい。難分解性物質が分解する全期間(分解工程の全期間)にわたって、加熱が行われることで難分解性物質の分解が促進される。加熱の方法としては特に制限されない。被処理水を収容する容器をヒーターで加熱する、被処理水を収容する容器を恒温槽に格納する等が挙げられる。
【0095】
実施形態の難分解性物質の分解方法において、第1酸化剤添加工程S1および第2酸化剤添加工程S2の後に加熱工程S3を行った場合は、例えば、ナノ炭素材料の場合、12〜15[mg/L]程度の濃度でナノ炭素材料を含む被処理水のナノ炭素材料の濃度を、20〜24時間程度の分解時間で、上記処理水の色度が120度以下かつ濁度が1度以下まで低減できる。
【実施例】
【0096】
次に、実施例について説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。例1、4、9〜12、13が実施例であり、例2、3、5〜8、14、15が比較例である。
【0097】
酸化剤として以下の酸化剤を使用した。
(第1の酸化剤)
次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)
(第2の酸化剤)
オキソン(登録商標、2KHSO・KHSO・KSO
(その他の酸化剤)
過酸化水素(H
過マンガン酸カリウム(KMnO
【0098】
また、処理水中のナノ炭素材料の分解の程度は、以下の方法で測定した色素および濁度により評価した。色度が120度以下、かつ濁度が1度以下であれば、ナノ炭素材料が十分に分解され、一般的な環境に廃棄可能な程度に環境負荷が小さいと判断される。
【0099】
(色度[度])
(1)45度以上2500度以下の場合
分光光度計UVmini−1240(島津製作所製)により波長456.8nmの吸光度に基づいて測定する。
(2)4度以上45度未満の場合
JIS K0101塩化白金酸コバルト標準液法により測定する。
【0100】
(濁度[度])
(1)20度以上500度以下の場合
分光光度計UVmini−1240(島津製作所製)により波長660.0nmの吸光度に基づいて測定する。
(2)0.5度以上20度未満の場合
JIS K0101ポリスチレン標準液法により測定する。
【0101】
[例1〜3]
被処理水として水にカーボンナノチューブ(5[mg/L])が分散した被処理水A(エレクトロニクス工場排水)を用いた。被処理水Aの色度は1000度、濁度は100度、pHは8.5であった。なお、カーボンナノチューブの濃度の5[mg/L]は、既知の濃度と濁度の相関により求めた値である。
【0102】
例1では、被処理水Aの1L(1000g)を容器に収容し、撹拌しながら、次亜塩素酸ナトリウムとオキソンをそれぞれ水溶液として、同時に被処理水A中に添加した。次亜塩素酸ナトリウムの水溶液としては水溶液全量に対する次亜塩素酸ナトリウムの含有量が12質量%である水溶液(1)を用いた。水溶液(1)の添加量は、被処理水Aの100質量%に対する次亜塩素酸ナトリウムの添加量が、1.2質量%となる量とした。
【0103】
オキソンの水溶液としては水溶液全量に対するオキソンの含有量が25質量%である水溶液(2)を用いた。水溶液(2)の添加量は、被処理水Aの100質量%に対するオキソンにおけるペルオキシ一硫酸カリウムの添加量が0.3質量%となる量とした。なお、上記においてオキソンにおけるペルオキシ一硫酸カリウムの含有割合は、組成式から換算した50質量%とした。水溶液(1)および水溶液(2)が添加された被処理水AのpHを測定した。
【0104】
その後、水溶液(1)および水溶液(2)が添加された被処理水Aを40℃で24時間保持した。なお、その間も撹拌を継続した。加熱の方法は、水溶液(1)および水溶液(2)が添加された被処理水Aが収容された容器を恒温槽に投入する方法とした。24時間経過後に被処理水Aから得られた処理水を取り出し、pH、色度および濁度を測定した。結果を上記pHの値とともに表1に示す。
【0105】
例2、例3においては、それぞれ例1において、被処理水Aに対して水溶液(1)のみを添加した以外は例1と同様にして、および、被処理水Aに対して水溶液(2)のみを添加した以外は例1と同様にして、上記処理と測定を行った。酸化剤水溶液添加後のpH、得られた処理水のpH、色度および濁度を、各酸化剤の添加量とともに表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
また、被処理水A、例1〜例3で得られた処理水を40mLのガラス製バイアル瓶に入れ背景に白色の紙をおいて撮影した写真を図3に示す。
【0108】
表1および図3から、例1では、得られた処理水は色度、濁度が共に十分に小さく、目視で無色透明であり、カーボンナノチューブは完全に分解したと考えられる。一方、例2および例3では得られた処理水は、色度、濁度が十分に小さい値ではなく、目視で濁質が観察された。例2、例3では24時間の分解時間では、カーボンナノチューブは完全に分解していないことが確認された。
【0109】
[例4〜8]
被処理水として、水中にカーボンブラックを13[mg/L]の濃度で分散させた、被処理水Bを準備した。被処理水Bの色度は1800度、濁度は180度、pHは8.5であった。
【0110】
例4では、例1において被処理水Aの代わりに被処理水Bを用いた以外は例1と同様にして、上記処理と測定を行った。被処理水Bに対する次亜塩素酸ナトリウムの添加量は、1.2質量%であった。被処理水Bに対するペルオキシ一硫酸カリウムの添加量は、オキソンにおけるペルオキシ一硫酸カリウムの含有割合を組成式から換算した50質量%として算出した値として、0.3質量%であった。酸化剤水溶液添加後のpH、得られた処理水のpH、色度および濁度を表2に示す。
【0111】
例5、6では、それぞれ例4において、被処理水Bに対して水溶液(1)のみを添加した以外は例4と同様にして、および、被処理水Bに対して水溶液(2)のみを添加した以外は例4と同様にして、上記処理と測定を行った。酸化剤水溶液添加後のpH、得られた処理水のpH、色度および濁度を表2に示す。
【0112】
例7、8では、それぞれ例4において、被処理水Bに対して水溶液(1)と過酸化水素水(水溶液中の過酸化水素の含有量;31質量%)を添加した以外は例4と同様にして、および、被処理水Bに対して水溶液(1)と過マンガン酸カリウム水溶液(水溶液中の過マンガン酸カリウムの含有量;5質量%)を添加した以外は例4と同様にして、上記処理と測定を行った。なお、例7における過酸化水素水の添加量は、被処理水Bの100質量%に対する過酸化水素の添加量が1.0質量%となる量とした。例8における過マンガン酸カリウム水溶液の添加量は、被処理水Bの100質量%に対する過マンガン酸カリウム添加量が0.5質量%となる量とした。酸化剤水溶液添加後のpH、得られた処理水のpH、色度および濁度を表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
例4では、得られた処理水は色度、濁度が共に十分に小さく、目視で無色透明であり、カーボンブラックは完全に分解したと考えられる。一方、例5、7では得られた処理水は色度が高く、目視で黄色に見えた。例6、8では得られた処理水は、色度、濁度が十分に小さい値ではなく、目視で濁質が観察された。例5〜8では24時間の分解時間では、カーボンナノチューブは完全に分解していないことが確認された。
【0115】
なお、例5については、分解時間が170時間程度で、目視において無色透明になっていることが確認された。
【0116】
[例9〜12]
上記例1、4においては、塩素ガスの発生が確認された。よって、例9〜12では、pH調整工程を行い、第1の酸化剤を添加する工程の直前の被処理水のpHが5以上となるように調整した。
【0117】
被処理水として、水中にカーボンブラックを15[mg/L]の濃度で分散させた、被処理水Cを準備した。被処理水Cの色度は2000度、濁度は200度、pHは8.6であった。
【0118】
例9〜12は、pH調整工程を有する実施例である。pH調整剤としては水酸化ナトリウム水溶液(水溶液中の水酸化ナトリウムの含有量;10質量%)を用いた。被処理水Cへの第1の酸化剤の添加は、水溶液(1)を用いて行った。被処理水Cに対する次亜塩素酸ナトリウムの添加量は、1.2質量%であった。被処理水Cへの第2の酸化剤の添加は、水溶液(2)を用いて行った。被処理水Cに対するペルオキシ一硫酸カリウムの添加量は、オキソンにおけるペルオキシ一硫酸カリウムの含有割合を組成式から換算した50質量%として算出した値として、0.3質量%であった。
【0119】
例9〜12において、各工程は上記(C)の順に行った。具体的には、pH調整工程S4後のpHの値、すなわち第1酸化剤添加工程S1の直前のpHの値を、それぞれ、表3に示す値に設定して、第2酸化剤添加工程S2、pH調整工程S4、第1酸化剤添加工程S1の順に、処理を行った。表3には、第1酸化剤添加工程S1の直前(pH調整工程S4後)のpH、および第1酸化剤添加工程S1の後のpHを示す。
【0120】
第1酸化剤添加工程S1後、pH調整剤水溶液、水溶液(1)および水溶液(2)が添加された被処理水Cを例1と同様にして40℃で24時間保持した。24時間経過後に被処理水Cから得られた処理水を取り出し、pH、色度および濁度を測定した。結果を表3に示す。また、例9〜12において、第1酸化剤を添加後の塩素ガス発生状況を以下の方法で確認した。結果を併せて表3に示す。
【0121】
(塩素ガス発生の確認方法)
塩素ガスの発生は、ヨウ化カリウムデンプン紙の呈色反応で確認した。具体的には、第1酸化剤の添加が完了した直後に、被処理水Cの水面から上方1〜2cmの位置にヨウ化カリウムデンプン紙を設置し、5分間放置した。ヨウ化カリウムデンプン紙の呈色が認められなかった場合を、「塩素ガスの発生なし」と判定した。また、「塩素ガスの発生なし」が確認された容器周辺では臭気はなかった。
【0122】
【表3】
【0123】
例9〜12では、第1の酸化剤を添加する工程の直前の被処理水のpHが5以上であることで、塩素ガスの発生が抑制された。得られた処理水においても、色度、濁度が共に十分に小さく、目視で無色透明であり、カーボンブラックは完全に分解したと考えられる。
【0124】
[例13〜15]
被処理水として純水に尿素を300mg/Lの濃度(TOC濃度は56.5[mg/L])で溶解した被処理水Dを調製して用いた。
【0125】
例13では、被処理水Dの1L(1000g)を容器に収容し、撹拌しながら、次亜塩素酸ナトリウムとオキソンをそれぞれ水溶液として、同時に被処理水D中に添加した。次亜塩素酸ナトリウムの水溶液としては水溶液全量に対する次亜塩素酸ナトリウムの含有量が12質量%である水溶液(1)を用いた。水溶液(1)の添加量は、被処理水Dの100質量%に対する次亜塩素酸ナトリウムの添加量が、0.5質量%となる量とした。
【0126】
オキソンの水溶液としては水溶液全量に対するオキソンの含有量が25質量%である水溶液(2)を用いた。水溶液(2)の添加量は、被処理水Dの100質量%に対するオキソンにおけるペルオキシ一硫酸カリウムの添加量が0.25質量%となる量とした。なお、上記においてオキソンにおけるペルオキシ一硫酸カリウムの含有割合は、組成式から換算した50質量%とした。水溶液(1)および水溶液(2)が添加された被処理水DのpHを測定した。
【0127】
その後、水溶液(1)および水溶液(2)が添加された被処理水Dを室温(23℃)で5分間保持した。なお、その間も撹拌を継続した。5分経過後に被処理水Dから得られた処理水を取り出し、pH、およびTOC濃度を燃焼式TOC計により測定した。結果を上記pHの値とともに表4に示す。
【0128】
例14、例15においては、それぞれ例13において、被処理水Dに対して水溶液(1)のみを添加した以外は例13と同様にして、および、被処理水Dに対して水溶液(2)のみを添加した以外は例13と同様にして、上記処理と測定を行った。酸化剤水溶液添加後のpH、得られた処理水のpH、およびTOC濃度を、各酸化剤の添加量とともに表4に示す。
【0129】
【表4】
【0130】
例13では、得られた処理水はTOC濃度が2[mg/L]未満を達成しており、十分に小さかった。一方、例14では、被処理水中の尿素の半分以上が分解されずに処理水中に残留していることがわかる。また、例15では被処理水中の尿素の殆どが分解されずに処理水中に残留していることがわかる。
図1
図2
図3