(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
布帛は、(主にポリ−L−乳酸を用いたS撚りの撚糸およびポリ−D−乳酸を用いたZ撚りの撚糸から選ばれる少なくとも1種の菌対策用電荷発生糸)と、(主にポリ−L−乳酸を用いたZ撚りの撚糸およびポリ−D−乳酸を用いたS撚りの撚糸から選ばれる少なくとも1種の菌対策用電荷発生糸)とを含み、両者が布帛内に隣接するように配される、請求項4に記載の抗菌性布帛。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の菌対策用電荷発生糸は、下記要件(a)〜(e)を同時に備える。
(a)主たる構成成分がポリ乳酸であること。
(b)撚りが施されていること。
(c)二重トルクが50T/50cm以下であること。
(d)単繊維繊度が0.05〜5dtexであること。
(e)フィラメント数が10〜400本であること。
【0015】
また、菌対策用電荷発生糸は、必要に応じて下記要件(f)〜(j)をさらに満たす。
(f)光学純度が95〜100%であること。
(g)カルボキシル末端基濃度が0〜10mol/tonであること。
(h)結晶化度が30〜60%であること。
(i)繊維強度が1.5〜10cN/dtexであること。
(j)抵抗率が1MΩ/m以上であること。
(ポリ乳酸)
本発明の菌対策用電荷発生糸は、主たる構成成分がポリ乳酸である。「主たる」とは構成成分の60%以上を占めることを指す。
【0016】
ポリ乳酸としては、その結晶構造によって、L−乳酸、L−ラクチドを重合してなるポリ−L−乳酸、D−乳酸、D−ラクチドを重合してなるポリ−D−乳酸、さらに、それらのハイブリッド構造からなるステレオコンプレックスポリ乳酸などがあるが、圧電性を示すものであればいずれも利用できる。圧電率の高さの観点で好ましくは、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸である。ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸はそれぞれ、同じ応力(変形)に対して分極が逆になるために、本発明では後述の通り特定の配置を取ることで、より好ましい構造体を形成することが可能となる。
【0017】
ポリ乳酸の光学純度は、95%以上であることが好ましく、97%以上であることがより好ましく、99%以上であることがさらに好ましい。光学純度が95%未満であると著しく結晶性および圧電率が低下する場合があり、変形によって十分な抗菌性を得ることが難しくなる場合がある。
【0018】
ここでポリ乳酸の光学純度は、ポリ乳酸を構成する全乳酸モノマーのモル数に対する、L−乳酸モノマーのモル数とD−乳酸モノマーのモル数とのうち大きい方のモル数の比で表される。
【0019】
ポリ乳酸は、延伸による分子の配向処理で圧電性が生じるため、PVDF等の他の圧電性ポリマーまたは圧電セラミックスのように、ポーリング処理を行う必要がない。一軸延伸されたポリ乳酸の圧電定数は、5〜30pC/N程度であり、高分子の中では非常に高い圧電定数を有する。さらに、ポリ乳酸の圧電定数は経時的に変動することがなく、極めて安定している。
【0020】
なお、ポリ乳酸は、加水分解が比較的速いポリエステルであるから、耐湿熱性が問題となる場合においては、公知の、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、またはカルボジイミド化合物などの加水分解防止剤を添加してもよい。また、必要に応じてリン酸系化合物などの酸化防止剤、可塑剤、または光劣化防止剤などを添加して物性改良してもよい。
【0021】
ポリ乳酸の加水分解を抑制する観点から、ポリ乳酸のカルボキシル末端濃度は10mol/ton以下であることが好ましく、5mol/ton以下であることがさらに好ましい。通常入手されるポリ乳酸のカルボキシル末端濃度は10mol/tonを超え、乳酸、ラクチド、またはオリゴマー等の低分子量成分の含有量が多い場合はさらに高くなるが、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、またはカルボジイミド化合物などの末端封止剤を使用することで、カルボキシル末端濃度を下げることが可能である。
【0022】
後述する繊維強度を保持する観点から、ポリ乳酸の重量平均分子量は5万以上100万以下が好ましく、10万以上30万以下がより好ましい。
【0023】
また、ポリ乳酸は他のポリマーとのアロイとして用いてもよいが、アロイの全質量を基準として少なくとも50質量%以上でポリ乳酸を含有していることが好ましく、さらに好ましくは70質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
【0024】
アロイとする場合のポリ乳酸以外のポリマーとしては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびこれらの共重合体、またはポリメタクリレート等が好適な例として挙げられるが、これらに限定されるものではなく、本発明で目的とする圧電性を奏する限り、どのようなポリマーを用いてもよい。
【0025】
(撚り係数)
本発明の菌対策用電荷発生糸の代表的な形態として、分子が一軸配向したポリ乳酸からなる撚糸(以下、ポリ乳酸撚糸1と記載する)が挙げられる。
【0026】
ポリ乳酸のようなキラル高分子は、主鎖が螺旋構造を有する。キラル高分子は、一軸延伸されて分子が配向すると、圧電性を有する。一軸延伸されたポリ乳酸のフィラメントは、延伸方向即ちポリ乳酸分子の配向方向を第3軸、第3軸に直交し互いに直交する2本の軸を第1軸および第2軸と定義したとき、圧電歪み定数としてd14およびd25のテンソル成分を有する。したがって、ポリ乳酸は、延伸方向に対して0度より大きい角度乃至は90度より小さい角度で伸縮歪が生じた場合に電荷を発生し、伸縮歪角度が45度に近づくほど同じ歪で発生する電荷量は大きくなる。即ち、45度の方向に伸縮歪みが生じた場合に、最も効率的に電荷を発生する。従って、延伸方向即ちポリ乳酸分子の配向方向を、繊維の長尺方向から45度の方向に傾けることで、繊維の伸縮変形によってポリ乳酸の圧電性による電荷発生を効果的に生じさせることができる。
【0027】
ポリ乳酸撚糸1は、繊維(ポリ乳酸撚糸1)の長尺方向に対しポリ乳酸の配向方向が傾いているため、上記の通り繊維(ポリ乳酸撚糸1)の長尺方向の伸縮変形によってポリ乳酸の圧電性による電荷発生を効果的に生じさせることができる。また、撚糸はその中心軸に対し軸対称であるため、ポリ乳酸撚糸1の長尺方向の伸縮変形によってポリ乳酸の圧電性による電荷発生も軸対称に起こり、例えばポリ乳酸撚糸1の中心軸に正の電荷を、外面に負の電荷を、ポリ乳酸撚糸1の任意の部分において生じさせる。
【0028】
上述の通り、ポリ乳酸撚糸1の長尺方向の伸縮変形によってポリ乳酸の圧電性による電荷発生を効果的に生じさせるためには、ポリ乳酸分子の傾きが重要であり、式(1)で表される撚り係数を500〜50000T/m・(dtex
1/2)の範囲とすることが好ましい。
【0029】
撚り係数(T/m・(dtex
1/2))=撚り数(T/m)×(撚糸の総繊度(dtex)
1/2) (1)
これにより、ポリ乳酸撚糸1は、外力が係った場合に、表面に負の電荷を生じ、内側に正の電荷を生じる。そのため、ポリ乳酸撚糸1は、この電荷により生じる電位差によって電場を生じる。この電場は近傍の空間にも漏れて他の部分と結合電場を形成する。またポリ乳酸撚糸1に生じる電位は、近接する所定の電位、例えば人体等の所定の電位(グランド電位を含む。)を有する物に近接した場合に、それらの間に電場を生じさせる。
【0030】
上述の通り、電場により細菌や真菌の増殖を抑制することができる旨が知られている(例えば、土戸哲明,高麗寛紀,松岡英明,小泉淳一著、講談社:微生物制御−科学と工学を参照。また、例えば、高木浩一,高電圧・プラズマ技術の農業・食品分野への応用,J.HTSJ,Vol.51,No.216を参照)。また、この電場を生じさせている電位により、湿気等で形成された電流経路や、局部的なミクロな放電現象等で形成された回路を電流が流れることがある。この電流により菌が弱体化し菌の増殖を抑制することが考えられる。なお、本実施形態で言う菌とは、細菌、真菌またはダニやノミ等の微生物およびウイルスを含む。
【0031】
したがって、ポリ乳酸撚糸1は、ポリ乳酸撚糸1近傍に形成される電場によって、あるいは人体等の所定の電位を有する物に近接した場合に発生する電場によって、直接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する。あるいは、ポリ乳酸撚糸1は、汗等の水分を介して、近接する他の繊維や人体等の所定の電位を有する物に近接した場合に電流を流す。この電流によっても、直接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。あるいは、電流や電圧の作用により水分に含まれる酸素が変化した活性酸素種、さらに繊維中に含まれる添加材との相互作用や触媒作用によって生じたラジカル種やその他の抗菌性化学種(アミン誘導体等)によって間接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。または電場や電流の存在によるストレス環境により菌の細胞内に酸素ラジカルが生成される場合がある。ラジカルとして、スーパーオキシドアニオンラジカル(活性酸素)やヒドロキシラジカルの発生が考えられる。
【0032】
菌対策用電荷発生糸の伸縮変形により効率的に電荷を発生させる観点から、撚り係数は1000〜30000T/m・(dtex
1/2)が好ましく、10000〜20000T/m・(dtex
1/2)がさらに好ましい。
【0033】
この時、菌対策用電荷発生糸の総繊度は、30〜1000dtexが好ましく、50〜500dtexがさらに好ましい。総繊度は、1本の撚糸の繊度であり、撚糸をさらに合糸した場合等は合糸される前の1本の撚糸について評価される。
【0034】
総繊度の評価は以下のように行われる。撚りが戻らないようにしながら25mNの初荷重をかけた状態で、10mの長さに撚糸試料を切断したサンプルの重量を測定し、1000倍した値をn数2で平均して総繊度(dtex)を求める。
【0035】
本発明の菌対策用電荷発生糸は、単繊維繊度が0.05〜5dtex、フィラメント数が10〜400本である。単繊維繊度が小さくフィラメント数が多すぎると毛羽が発生しやすいし、単繊維繊度大きくフィラメント数が少なすぎると風合いが損なわれる。
【0036】
本発明の菌対策用電荷発生糸は、ポリ乳酸の結晶化度が30〜60%であることが好ましい。これによりポリ乳酸結晶に由来する圧電性が高くなり、ポリ乳酸の圧電性による電荷発生を効果的に生じさせることにより、より高い抗菌効果を得ることができる。その観点から撚糸のポリ乳酸の結晶化度は40%以上がさらに好ましい。
【0037】
本発明の菌対策用電荷発生糸は、繊維強度が1.5〜10cN/dtexであることが好ましい。これにより、ポリ乳酸の圧電性による電荷発生に必要な変形に繊維がより耐えることができる。その観点から菌対策用電荷発生糸の繊維強度は2〜10cN/dtexがより好ましく、3〜10cN/dtexがさらに好ましく、3.5〜10cN/dtexが最も好ましい。
【0038】
本発明の菌対策用電荷発生糸は、抵抗率が1MΩ/m以上であることが好ましい。これにより、変形により発生した電荷が繊維表面を通ることを抑制でき、より高い抗菌効果を得ることができる。その観点から菌対策用電荷発生糸のポリ乳酸の抵抗率は100MΩ/m以上がさらに好ましい。ここで抵抗率とは撚糸1本の長さ方向の抵抗率であり、撚糸1本を1mの長さに切り、両端を電極で掴んで空中に保持し、両端の電極間の抵抗値をテスターで測定することで評価される。
【0039】
(ポリ乳酸原糸の製造)
ポリ乳酸樹脂を撚糸に供するためのポリ乳酸原糸とするためには、高分子から繊維化するための公知の手法を、本発明の効果を奏する限りいずれも採用することができる。例えば、ポリ乳酸樹脂を押し出し成型して繊維化する手法、ポリ乳酸樹脂を溶融紡糸して繊維化する手法、ポリ乳酸樹脂を乾式もしくは湿式紡糸により繊維化する手法、ポリ乳酸樹脂を静電紡糸により繊維化する手法、またはフィルムを形成した後に細くカットする手法、などを採用することができる。これらの紡糸条件は、採用するポリ乳酸樹脂に応じて公知の手法を適用すればよく、通常は工業的に生産の容易な溶融紡糸法を採用すればよい。さらに、繊維を形成後には形成された繊維を延伸する。それにより一軸延伸配向しかつ結晶を含む大きな圧電性を示すポリ乳酸原糸が形成される。
【0040】
(撚糸の製造)
加撚は、例えば以下の工程で実施される。無燃のポリ乳酸原糸を、例えばダブルツイスター等(例えば村田機械社製)の撚糸機にてスピンドル回転数5000〜15000rpm、撚糸張力10〜50gといった条件で任意の撚り方向に前記の撚りを施して撚糸とする。
【0041】
加撚工程に供するポリ乳酸原糸は、熱セット時の巻き絞まりによる過度な繊維の変形および繊維同士の融着を防止するため、結晶化度は30%以上が好ましく、配向度は80%以上が好ましく、沸水収縮率は15%以下が好ましい。また、均一に撚りを加えるため、ウースター斑が3%以下のポリ乳酸繊維を用いて撚糸することが好ましい。
【0042】
(熱セット)
本発明の菌対策用電荷発生糸は、撚られたフィラメントがその構造を固定化されることで圧電性による抗菌性を発揮しやすくなるが、撚り係数が500T/m・(dtex
1/2)以上の強い撚りを加えると撚りが戻りやすく、撚りが戻った場合、目的の圧電性及び抗菌性が低下してしまう可能性があるばかりか、それ以前に撚糸の自発的なねじれにより製織、製編等の取扱いが非常に困難になる課題があった。この課題に対し、本発明の菌対策用電荷発生糸は上述の加撚工程の後、後述の通り適切な熱セット条件を選択することで、製織、製編等の取扱いの問題がなくなり、撚糸の撚りを抑制でき、圧電性による抗菌性の低下を抑制し、本願の目的を達することができるようになる。この観点から、本発明の菌対策用電荷発生糸は撚りの戻りにくさの指標である二重トルクは50T/50cm以下であることが好ましく、30T/50cm以下であることがより好ましく、20T/50cm以下であることがさらに好ましい。
【0043】
二重トルクは以下のように測定される。1g以上の張力をかけないように1mの長さの撚糸を机の上でサンプリングする。あらかじめ撚糸が切断されている端は撚りが戻っている可能性があるため、その端から1m以上離れた部分でサンプリングする。サンプリングの際にはあらかじめ切断箇所に切断する前に粘着テープを貼り、切断後に撚りが自然に戻らないようにする。
【0044】
0.4gのゼムクリップの穴に、サンプリングした1mの撚糸の端を通し、撚糸の中央部(端から50cmの部分)にゼムクリップを移動させる。ゼムクリップを通し移動させる際に、撚糸に張力をかけたり、撚りを加えたり戻したりしないよう注意する。
【0045】
撚糸の両端を左右の手で持ってゆっくり持ち上げ、両端を合わせる。合わさった糸端を粘着テープで梁に固定してゼムクリップをぶら下げる。撚糸の捻れによって、合わさった2本の撚糸が自然に絡み合うため、ゼムクリップが回転する。
【0046】
ゼムクリップの回転が静止するまで5分間放置後、ゼムクリップが回転した方向の逆方向に、2本の撚糸の絡み合いがなくなるまで回転させ、ゼムクリップが何回転したかを0.5回の精度で測定する。
【0047】
以上のサンプリングと測定を5回繰り返し、平均値を計算して二重トルク(T/50cm)とする。
【0048】
上述の通り、二重トルクが50T/50cm以下となるような条件で熱セットすることが好ましい。その観点からは熱セット温度が高く、時間が長いほど良いが、熱セット温度が高く、時間が長いほど加水分解による物性低下のおそれがあるため、熱セット温度は60〜140℃が好ましく80〜120℃がより好ましく、時間は10〜240分が好ましく15〜120分がより好ましい。かかる熱セットは湿熱雰囲気が好ましく、例えば、蒸気真空セッターを用いた熱セットが好ましい。
【0049】
撚糸の構造を効果的に固定する観点から、ボビン等に巻いた状態やローラー間など糸に張力を掛けた状態で熱セットを行うことが好ましく、熱セット温度までの昇温速度は50℃/分以下とすることが好ましい。昇温速度が大きすぎると繊維同士の融着や加熱ムラによる繊維物性低下の恐れがある。
【0050】
また、加水分解による繊維物性低下を抑える観点からは、相対湿度40%以下または減圧下で処理することが好ましい。さらに、加水分解防止剤としてカルボキシル末端封止剤を含有することが好ましく、熱セット処理による重量平均分子量低下率が20%以下であることが好ましい。
【0051】
熱セットは複数段階で行っても良いが、そのうち少なくとも一つの段階が上記条件を満たすことが好ましい。
【0052】
(結晶化度、配向度の測定)
上述されたポリ乳酸の結晶化度(ホモポリ乳酸結晶化度)および配向度(結晶配向度)は以下の通り測定される。
【0053】
(1)ホモポリ乳酸結晶化度X
homo:
ホモポリ乳酸結晶化度X
homoについては、広角X線回折分析(WAXD)による結晶構造解析から求める。広角X線回折分析(WAXD)では、リガク製ultrax18型X線回折装置を用いて透過法により、以下条件でサンプルのX線回折図形をイメージングプレートに記録する。
【0054】
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカルミラー)
出力: 45kV×60mA
スリット: 1st:1mmΦ,2nd:0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 35mgのポリ乳酸繊維を引き揃え3cmの繊維束とする。
【0055】
得られるX線回折図形において方位角にわたって全散乱強度I
totalを求め、ここで2θ=16.5°,18.5°,24.3°付近に現れるホモポリ乳酸結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣI
HMiを求める。これらの値から下式(2)に従い、ホモポリ乳酸結晶化度X
homoを求める。
【0056】
ホモポリ乳酸結晶化度X
homo(%)=ΣI
HMi/I
total×100 (2)
なお、ΣI
HMiは、全散乱強度においてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって算出する。
【0057】
(2)結晶配向度Ao:
結晶配向度Aoについては、上記の広角X線回折分析(WAXD)により得られるX線回折図形において、動径方向の2θ=16.5°付近に現れるホモポリ乳酸結晶に由来する回折ピークについて、方位角(°)に対する強度分布をとり、得られた分布プロファイルの半値幅の総計ΣW
i(°)から次式(3)より算出する。
【0058】
結晶配向度Ao(%)=(360−ΣW
i)÷360×100 (3)
(撚糸の組合せ)
本発明の菌対策用電荷発生糸は、必要に応じて複数種類の撚糸を組み合わせて用いることができる。この時、主にポリ−L−乳酸を用いたS撚りの撚糸と、主にポリ−L−乳酸を用いたZ撚りの撚糸とでは、伸縮変形に対して撚糸表面に発生する電荷が互いに逆になるため、これらの撚糸を近接させることで、繊維間の電場が大きくなり抗菌性が高くなるため、好ましい。同様に、主にポリ−L−乳酸を用いたS撚りの撚糸と主にポリ−D−乳酸を用いたS撚りの撚糸とを用いた場合、および主にポリ−L−乳酸を用いたZ撚りの撚糸と主にポリ−D−乳酸を用いたZ撚りの撚糸とを用いた場合、およびポリ−D−乳酸を用いたS撚りの撚糸と、主にポリ−D−乳酸を用いたZ撚りの撚糸とを用いた場合、も同様に好ましい。即ち、(主にポリ−L−乳酸を用いたS撚りの撚糸およびポリ−D−乳酸を用いたZ撚りの撚糸から選ばれる少なくとも1種の菌対策用電荷発生糸)と、(主にポリ−L−乳酸を用いたZ撚りの撚糸およびポリ−D−乳酸を用いたS撚りの撚糸から選ばれる少なくとも1種の菌対策用電荷発生糸)とを近接させることが好ましい。
【0059】
上記に挙げた2種の撚糸を近接させて用いる方法は任意に選ばれるが、あらかじめ上記に挙げた2種の撚糸を合糸して用いる方法や、布帛を構成する糸として上記に上げた2種の撚糸を併用する方法がある。本発明において布帛とは、織物、編物、組物、不織布、レースなどの繊維製品を指す。以降、「布帛」は「布」と同様に用いる。織編物にする場合は2種の撚糸が近接する場所が多くなるような組織を採用することが好ましい。
【0060】
(菌対策用電荷発生糸を使用した布帛)
以上の様な、変形により電荷を発生する菌対策用電荷発生糸は、各種の衣料、医療部材等の製品に適用可能である。例えば、菌対策用電荷発生糸は、肌着(特に靴下)、タオル、靴およびブーツ等の中敷き、スポーツウェア全般、帽子、寝具(布団、マットレス、シーツ、枕、枕カバー等を含む。)、歯ブラシ、フロス、各種フィルタ類(浄水器、エアコンまたは空気清浄器のフィルタ等)、ぬいぐるみ、ペット関連商品(ペット用マット、ペット用服、ペット用服のインナー)、各種マット品(足、手、または便座等)、カーテン、台所用品(スポンジまたは布巾等)、シート(車、電車または飛行機等のシート)、オートバイ用ヘルメットの緩衝材およびその外装材、ソファ、包帯、ガーゼ、マスク、縫合糸、医者および患者の服、サポーター、サニタリ用品、スポーツ用品(ウェアおよびグローブのインナー、または武道で使用する籠手等)、あるいは包装資材等に適用することができる。
【0061】
衣料のうち、特に靴下(またはサポータ)は、歩行等の動きによって、関節に沿って必ず伸縮が生じるため、菌対策用電荷発生糸は、高頻度で電荷を発生する。また、靴下は、汗などの水分を吸い取り、菌の増殖の温床となるが、菌対策用電荷発生糸は、菌の増殖を抑制することができるため、菌対策用途として、顕著な効果を生じる。
【0062】
上に例示したように、本発明の菌対策用電荷発生糸を含む布帛は、抗菌性布帛として用いることができる。
【0063】
図1(A)は、布100Aの平面概略図であり、
図1(B)は、各糸の間で生じる電場を示す図である。
【0064】
図1(A)および
図1(B)に示す布100Aは、ポリ乳酸撚糸1(ポリ−L−乳酸からなるS撚りの糸)と、ポリ乳酸撚糸2(ポリ−L−乳酸からなるZ撚りの糸)と、普通糸3と、が織り込まれてなる。普通糸3は、圧電体が設けられていない糸であり、誘電体に相当する。
【0065】
図1(B)の例では、ポリ乳酸撚糸1、ポリ乳酸撚糸2、および普通糸3は、並列して配置されている。ポリ乳酸撚糸1とポリ乳酸撚糸2は、誘電体に相当する普通糸3を介して、所定の距離だけ離間して配置されている。ポリ乳酸撚糸1とポリ乳酸撚糸2とで生じる電荷の極性は互いに異なる。各所の電位差は、糸同士が複雑に絡み合うことにより形成される電場結合回路、或いは水分等で糸の中に偶発的に形成される電流パスで形成される回路により定義される。したがって、これら糸に外力が係った場合、正の電荷を発生するポリ乳酸撚糸2と負の電荷を発生するポリ乳酸撚糸1の間に、図中の白矢印で示す電場が生じる。ただし、普通糸3は、必須の構成ではない。普通糸3は無くとも、ポリ乳酸撚糸1とポリ乳酸撚糸2の間には電場が生じる。ポリ乳酸撚糸1単独では、張力が加わった時に表面が負の電位になり内部は正の電位になる。ポリ乳酸撚糸2単独では逆に表面が正の電位になり内部が負の電位になる。これらの糸が近接した場合、近接する部分(表面)は同電位になろうとする。この場合、ポリ乳酸撚糸1とポリ乳酸撚糸2との近接部は0Vとなり、元々の電位差を保つように、ポリ乳酸撚糸1の内部の正の電位はさらに高くなる、同様にポリ乳酸撚糸2の内部の負の電位はさらに低くなる。ポリ乳酸撚糸1の断面では主に中心から外に向かう電場が形成され、ポリ乳酸撚糸2の断面では主に中心から内に向かう電場が形成される。これらの糸の周りの空間には漏れ電場が形成されており、この漏れ電場が互いに結合して、ポリ乳酸撚糸1とポリ乳酸撚糸2の間に強い電場が形成される。
【0066】
ポリ乳酸撚糸1およびポリ乳酸撚糸2は、極めて近接した状態で配置されているため、距離はほぼ0である。電場の強度は、E=V/dで表されるように、電荷を生じる物質間の距離に反比例して大きくなるため、布100Aが生じる電場の強度は、非常に大きな値となる。これらの電場は、ポリ乳酸撚糸1内で発生する電場と、ポリ乳酸撚糸2内で発生する電場とが相互的に結合して形成される。場合によっては、汗などの電解質を含んだ水分により、実際の電流経路として回路が形成される場合もある。繊維が編まれた布では繊維が複雑に絡み合うため、ポリ乳酸撚糸1のある部分で発生する電場と、ポリ乳酸撚糸1の他の部分で発生する電場とが相互的に結合している場合もある。同様に、ポリ乳酸撚糸2のある部分で発生する電場と、ポリ乳酸撚糸2の他の部分で発生する電場とが相互的に結合している場合もある。マクロ的に見て電場強度がゼロもしくは非常に弱い場合でも、ミクロ的にはベクトルの方向が相反する強い電場の集合体となっている場合がある。これらの現象は、ポリ乳酸撚糸1のみで形成された布、あるいはポリ乳酸撚糸2のみで形成された布、あるいはこれらに普通糸や導電糸が同時に編み込まれたものでも同様の説明ができる。
【0067】
よって、布100Aは、電場を生じる布として機能する。また、布100Aは、汗等の水分を介して、ポリ乳酸撚糸1およびポリ乳酸撚糸2の間で、電流を流す場合もある。この電流によっても、抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。あるいは、電流や電圧の作用により水分に含まれる酸素が変化したラジカル種、さらに繊維中に含まれる添加材との相互作用や触媒作用によって生じたラジカル種やその他の抗菌性化学種(アミン誘導体等)によって間接的に抗菌効果または殺菌効果を発揮する場合がある。
【0068】
なお、この例では、ポリ乳酸撚糸1とポリ乳酸撚糸2とで生じる電荷の極性は互いに異なる例を示したが、同じ極性のポリ乳酸撚糸であっても、空間に電位差がある場合には、電場が生じる、または導電性の媒介物を通じて電流が流れる。
【0069】
布100Aは、自身が発生する電場とその強度の変化によって、または電流によって、抗菌または殺菌効果を発揮する。またはその電流や電圧の作用により生じるラジカル種等により抗菌または殺菌効果を発揮する。なお、布100Aにおいても、さらに金属イオンを溶出する導電繊維を備えていてもよい。この場合、布100Aは、当該電場による抗菌または殺菌効果に加えて、導電糸が溶出する金属イオンにより、抗菌または殺菌効果が一段と高くなる。また、布100Aは、ポリ乳酸撚糸1において、仮に電荷が発生しない箇所があった場合にも、導電糸が溶出する金属イオンにより、抗菌または殺菌効果を発揮する。
【0070】
布100Aを用いてなる衣料、または当該衣料を用いた医療部材も同様に、抗菌または殺菌効果を発揮する。布100Aを用いてなる衣料においても、特に靴下(またはサポータ)は、上述したように菌対策用途として、顕著な効果を生じる。
【0071】
なお、布100Aは、自身を構成するポリ乳酸撚糸1およびポリ乳酸撚糸2が生じた電場または電流によって抗菌または殺菌効果を発揮するため、布100Aに移ってくる菌に対して抗菌または殺菌効果を発揮する。悪臭の原因となるような細菌は布の繊維と繊維の隙間に生息すると考えられる。布100Aはこのような細菌を効果的に駆除することが出来る。人体の皮膚には、皮膚表面を正常な状態に保つために必要な役割を果たす常在菌が存在するが、布100Aは、これら常在菌を直接殺菌する可能性は小さい。そのため、布100Aは、皮膚の常在菌に影響するおそれは少なく、より安全性の高いものとなる。
【0072】
なお、
図2に示すように、布100Aは、ポリ乳酸撚糸1、ポリ乳酸撚糸2、および普通糸3が、交差して配置されている態様でも、ポリ乳酸撚糸1およびポリ乳酸撚糸2が交差する位置において電場が生じる。
【0073】
また、上述の例では、電荷発生糸を含む複数の糸が織り込まれてなる布(織物)について示したが、編物(電荷発生糸を含む複数の糸で形成された輪を互いに引っ掛けたもの)からなる布であっても同様に、電位差が生じる糸の間で電場が生じる、または電流が流れるため、抗菌または殺菌効果を生じる。
【0074】
また、多くの菌は、負の電荷を有する。そのため、ポリ乳酸撚糸2を備えた布は、発生した正の電荷により、多くの菌を吸着することができる。また、ポリ乳酸撚糸2を備えた布は、発生した正の電荷により、負の電荷を有する菌を不活化することもできる。このように、表面に正の電荷を発生させるポリ乳酸撚糸を用いた布は、菌対策用電荷発生糸として高い効果を有する。
【0075】
なお、ポリ乳酸撚糸1またはポリ乳酸撚糸2(あるいは、少なくともいずれかを備えた布)は、菌対策用途以外にも、以下の様な用途を有する。
【0076】
(1)生体作用糸
生体を構成する組織には圧電性を有するものが多い。例えば、人体を構成するコラーゲンは、タンパク質の一種であり、血管、真皮、じん帯、健、骨、または軟骨等に多く含まれている。コラーゲンは、圧電体であり、コラーゲンが配向した組織は非常に大きな圧電性を示す場合がある。骨の圧電性については既に多くの報告がなされている(例えば、深田栄一,生体高分子の圧電気、高分子Vol.16(1967)No.9p795-800等を参照)。したがって、ポリ乳酸撚糸1またはポリ乳酸撚糸2を備えた布により電場が生じ、該電場が交番するか、または該電場の強度が変化すると、生体の圧電体は、逆圧電効果によって振動を生じる。ポリ乳酸撚糸1および/またはポリ乳酸撚糸2によって生じる交番電場、あるいは電場強度の変化により、生体の一部、例えば毛細血管や真皮に微小な振動が加えられ、その部分の血流の改善を促すことができる。これにより皮膚疾患や傷等の治癒が促される可能性がある。したがって、ポリ乳酸撚糸は、生体作用糸として機能する。
【0077】
(2)物質吸着用糸
上述したように、ポリ乳酸撚糸1は、伸び変形が係った場合に、負の電荷を生じる。ポリ乳酸撚糸2は、伸び変形が係った場合に、正の電荷を生じる。そのため、ポリ乳酸撚糸1は、正の電荷を有する物質(例えば花粉等の粒子)を吸着する性質を有し、ポリ乳酸撚糸2は、負の電荷を有する物質(例えば黄砂等の有害物質等)を吸着する。したがって、ポリ乳酸撚糸1またはポリ乳酸撚糸2を備えた布は、例えばマスク等の医療用品に適用した場合に、花粉または黄砂等の微粒子を吸着することができる。
【0078】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に記載するが本発明はこれによって何らの限定を受けるものではない。
【0079】
(ポリ乳酸繊維)
240℃にて溶融させた光学純度99.8%、重量平均分子量20万のポリ−L−乳酸(あらかじめカルボキシル末端封止剤として帝人株式会社製環状カルボジイミドTCCを1重量%溶融混練したもの)を24ホールのキャップから20g/minで吐出し、887m/minにて引き取った。この未延伸マルチフィラメント糸を80℃、2.3倍に延伸し、100℃で熱固定処理することにより84dTex/24フィラメントのマルチフィラメント一軸延伸糸PF1を得た。
【0080】
(ポリ乳酸撚糸)
PF1を原糸とし、ダブルツイスターにて2000回/mでS撚りおよびZ撚りを行った撚糸をそれぞれボビンに巻き取り、これらのボビンを蒸気真空セッターに入れて表1の条件で熱セットを行った。これらの撚糸PF2S、PF2Z、PF3S、およびPF3Zの加撚および熱セット条件と各種評価結果を、PF1の各種評価結果と併せて表1に示す。
【0082】
以下、物性の評価方法について説明する。
【0083】
(1)ポリ−L−乳酸結晶化度X
homo:
ポリ−L−乳酸結晶化度X
homoについては、広角X線回折分析(WAXD)による結晶構造解析から求めた。広角X線回折分析(WAXD)では、リガク製ultrax18型X線回折装置を用いて透過法により、以下条件でサンプルのX線回折図形をイメージングプレートに記録した。
【0084】
X線源: Cu−Kα線(コンフォーカルミラー)
出力: 45kV×60mA
スリット: 1st:1mmΦ,2nd:0.8mmΦ
カメラ長: 120mm
積算時間: 10分
サンプル: 35mgのポリ乳酸繊維を引き揃え3cmの繊維束とする。
【0085】
得られたX線回折図形において方位角にわたって全散乱強度I
totalを求め、ここで2θ=16.5°,18.5°,24.3°付近に現れるポリ−L−乳酸結晶に由来する各回折ピークの積分強度の総和ΣI
HMiを求めた。これらの値から下式(4)に従い、ポリ−L−乳酸結晶化度X
homoを求めた。
【0086】
ポリ−L−乳酸結晶化度X
homo(%)=ΣI
HMi/I
total×100 (4)
なお、ΣI
HMiは、全散乱強度においてバックグランドや非晶による散漫散乱を差し引くことによって算出した。
【0087】
(2)ポリ−L−乳酸結晶配向度A:
ポリ−L−乳酸結晶配向度Aについては、上記の広角X線回折分析(WAXD)により得られたX線回折図形において、動径方向の2θ=16.5°付近に現れるポリ−L−乳酸結晶に由来する回折ピークについて、方位角(°)に対する強度分布をとり、得られた分布プロファイルの半値幅の総計ΣW
i(°)から次式(5)より算出した。
【0088】
ポリ−L−乳酸結晶配向度A(%)=(360−ΣW
i)÷360×100 (5)
(3)沸水収縮率
JIS L 1013−1992、7.15 A法で規定される方法により、沸水収縮率(熱水収縮率)(%)を測定した。なお、n数3でその平均値を求めた。
【0089】
(4)ウースター斑
イヴネステスターを使用し、検出端に供給速度100m/分、5500回/分で撚りをかけながら試料を供給して測定した。なお、n数3でその平均値を求めた。
【0090】
(5)総繊度および撚り係数
撚りが戻らないようにしながら25mNの初荷重をかけた状態で、10mの長さに撚糸試料を切断したサンプルの重量を測定し、1000倍した値をn数2で平均して総繊度(dtex)を求めた。
【0091】
撚り数は加撚工程の条件から算出し、下記式(6)に従って撚り係数を算出した。
【0092】
撚り係数(T/m・(dtex
1/2))=撚り数(T/m)×(撚糸の総繊度(dtex)
1/2) (6)
(6)二重トルク
1g以上の張力をかけないように1mの長さの撚糸を机の上でサンプリングした。あらかじめ撚糸が切断されている端から1m以上離れた部分でサンプリングした。サンプリングの際には、切断する箇所に切断前に粘着テープを貼り、切断後に撚りが自然に戻らないようにした。
【0093】
0.4gのゼムクリップの穴に、サンプリングした1mの撚糸の端を通し、撚糸の中央部(端から50cmの部分)にゼムクリップを移動させた。ゼムクリップを通し移動させる際に、撚糸に張力をかけたり、撚りを加えたり戻したりしないよう注意した。
【0094】
撚糸の両端を左右の手で持ってゆっくり持ち上げ、両端を合わせる。合わさった糸端を粘着テープで梁に固定してゼムクリップをぶら下げた。
【0095】
ゼムクリップの回転が静止するまで5分間放置後、ゼムクリップが回転した方向の逆方向に、2本の撚糸の絡み合いがなくなるまで回転させ、ゼムクリップが何回転したかを0.5回の精度で測定した。
【0096】
以上のサンプリングと測定を5回繰り返し、平均値を計算して二重トルク(T/50cm)とした。
【0097】
(7)ポリ乳酸の光学純度:
ポリ乳酸繊維0.1gを採取し、5モル/リットル濃度の水酸化ナトリウム水溶液1.0mLとメタノール1.0mLを加え、65℃に設定した水浴振とう器にセットして、ポリ乳酸が均一溶液になるまで30分程度加水分解を行い、さらに加水分解が完了した溶液に0.25モル/リットルの硫酸を加えpH7まで中和し、その分解溶液を0.1mL採取して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)移動相溶液3mLにより希釈し、メンブレンフィルター(0.45μm)によりろ過した。この調整溶液のHPLC測定を行い、L−乳酸モノマーとD−乳酸モノマーの比率を定量した。
【0098】
<HPLC測定条件>
カラム:住化分析センター社製「スミキラル(登録商標)」OA−5000(4.6mmφ×150mm)
移動相:1.0ミリモル/リットルの硫酸銅水溶液
移動相流量:1.0ミリリットル/分
検出器:UV検出器(波長254nm)
注入量:100マイクロリットル
L乳酸モノマーに由来するピーク面積をS
LLAとし、D−乳酸モノマーに由来するピーク面積をS
DLAとすると、S
LLAおよびS
DLAはL−乳酸モノマーのモル濃度M
LLAおよびD−乳酸モノマーのモル濃度M
DLAにそれぞれ比例するため、S
LLAとS
DLAのうち大きい方の値をS
MLAとし、光学純度は下記式(7)で計算した。
【0099】
光学純度(%)=S
MLA÷(S
LLA+S
DLA)×100 (7)
(8)カルボキシル末端基濃度
試料をクロロホルムに完全に溶解した後、メタノールを滴下して再沈殿したポリマーをろ別し、常温で真空乾燥した。得られたポリマーサンプル100mgを精製ジクロロメタン10mlに窒素気流下溶解後、精製エタノール10mlを加えて撹拌した後、ブロモチモールブルーを指示薬とし、0.05規定水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定した。
【0100】
ポリマーを加えず同様に調製したジクロロメタン・エタノール混合溶液の滴定値をブランクとして差し引き、カルボキシル末端基濃度をn数3で平均して算出した。
【0101】
(9)繊維強度
JIS L 1013−1992、7.5で規定される方法により、引張強さ(cN/dtex)を測定した。なお、n数3でその平均値を求めた。繊度には(5)総繊度および撚り係数で測定した総繊度の値を用いた。
【0102】
(10)抵抗率
試料1本を1mの長さに切り、両端を電極で掴んで空中に保持し、両端の電極間の抵抗値をテスター(抵抗測定上限:200MΩ)で測定することで評価した。
【0103】
(抗菌性評価)
ポリ乳酸の撚糸としてPF3SとPF3Zとを合糸した糸を用いて編んだ試験布、および無撚りのポリ乳酸糸(PF1)を用いて編んだ比較用試験布を用い、JIS L1902−2015の菌液吸収法による抗菌性評価を行った。試験菌は黄色ブドウ球菌を用い、接種菌液濃度は1.4×10
5(CFU/mL)とし、標準布は綿糸の布を用いた。試験布を静置して培養した場合と、初期状態から15%の伸び歪みまでを往復する伸縮変形を与えながら培養した場合とで同様の試験を行った結果を表2に示す。
【0105】
以上の結果から、ポリ乳酸の撚糸を用いた布は伸縮時に特に優れた抗菌性を発揮し、圧電性に由来する抗菌性が認められ、菌対策用電荷発生糸として有用であることが明らかとなった。これに対し、ポリ乳酸の無撚り糸を用いた布は、伸縮時に静置時より優れた抗菌性を示さず、圧電性に由来する抗菌性の向上が認められなかった。伸縮時の抗菌性を比較すると、ポリ乳酸の撚糸を用いた布はポリ乳酸の無撚り糸を用いた布よりも劇的に高い抗菌性を示すことが明らかとなった。
【0106】
熱セット温度が低いPF2SおよびPF2Zは、たるんだ糸がすぐに撚れて絡まるため取扱い性が非常に悪く、製編が困難であった。