特許第6880268号(P6880268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6880268捻れのある樹脂成形品を成形する成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6880268
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】捻れのある樹脂成形品を成形する成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20210524BHJP
   B29C 33/14 20060101ALI20210524BHJP
   B29C 70/14 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B29C33/14
   B29C70/14
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-50374(P2020-50374)
(22)【出願日】2020年3月20日
【審査請求日】2020年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】中山 清貴
(72)【発明者】
【氏名】河本 粋和
(72)【発明者】
【氏名】松崎 孝治
(72)【発明者】
【氏名】西田 正三
【審査官】 北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−038519(JP,A)
【文献】 特開2006−130862(JP,A)
【文献】 特開2008−114525(JP,A)
【文献】 特開2008−044282(JP,A)
【文献】 特開平01−072818(JP,A)
【文献】 特開2007−021857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長方形状の板状を呈する凹部からなるキャビティを備えた金型を使用して、インサート成形により成形品を得る成形方法であって、
長手方向に配向した強化繊維が樹脂によってバインドされている強化繊維テープを所定幅、所定長さで切断して得た複数本のテープ片をインサート品とし、
前記キャビティに前記複数本のテープ片を互いに間隔を空けるように、かつ前記長方形の長手方向に対して所定の角度傾けた状態でインサートし、
該金型に樹脂を射出して複数本のテープ片が貼合された成形品を得、
樹脂が完全に冷却固化する前に前記成形品を前記金型から取り出して冷却させ、強化繊維テープと樹脂の熱膨張率の違いにより前記成形品に変形が生じるようにすることを特徴とする、捻れのある成形品の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形によって捻れのある複雑な形状を備えた樹脂成形品を成形する成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
捻れのある複雑な形状を備えた成形品は、色々な分野で利用されており、例えばプロペラ、インペラのブレード等が周知である。一般的にはプロペラ、インペラ等のブレードは金属板からなり所定の捻れが形成されている。捻れを形成するには、成形品の形状に近い曲げ型を使用して板材をプレス加工する方法が周知であるが、例えば特許文献1に記載されているように2組のロール対で板材を挟み、両ロール対の間に相対的な捻れ方向の変位を与えた状態で、ロール回転によって板材を送り出し、それによって捻れを形成する方法もある。つまり金属板から緩やかに曲げるようにして成形されている。ところで近年、捻れのある複雑な形状の成形品を、軽量で安価な樹脂から成形したいというニーズが多くなってきている。例えばプロペラ、インペラのブレードについても樹脂による成形が試みられている。熱可塑性の樹脂から捻れのある成形品を成形する場合、例えば特許文献2に記載されているように、押出機によって成形することもできる。しかしながら押出方法によって成形する場合、連続的に一定の捻れが形成された軸状の成形品を成形することはできるが、プロペラ、インペラのブレード等のように捻れが一定でない、あるいは板幅が変化するような複雑な形状の成形品を成形することはできない。このような複雑な形状の成形品は、所定の金型を使用して射出成形機により射出成形するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−255724号公報
【特許文献2】特開平6−297032号公報
【特許文献3】特開2018−202677号公報
【0004】
捻れのある樹脂成形品の成形方法と直接関係はないが、炭素繊維、ガラス繊維等を含んだ強化繊維テープを貼合した成形品を成形する方法が周知であり、例えば特許文献3に記載されている。強化繊維テープは、長手方向に配向された炭素繊維、ガラス繊維等の強化繊維が樹脂によりバインドされたものであり、ロール状に巻かれた状態で提供されている。可撓性を備えているが、比較的強い弾性も備えている。特許文献3に記載の成形方法は、このような強化繊維テープをインサートして樹脂を射出する。そうすると強化繊維テープが所定の長さ貼合された樹脂成形品が成形できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
捻れのある樹脂成形品を射出成形により成形する場合、必然的にアンダーカット部が多くできるので、金型は複雑な構造から構成しなければならない。例えば金型を3個、4個から構成したり中子を設けたりする必要がある。そうすると金型のコストが高くなって、成形に要するコストが大きくなるという問題がある。特に近年は、消費者のニーズに応えるために多品種少量生産が要求される場合が多い。捻れの大きさが少しずつ異なる成形品を少量ずつ成形したい場合、それぞれの形状毎に金型を用意しなければならず、コスト高になってしまう。
【0006】
本発明は以上のような問題を解決することを目的としており、具体的には、射出成形によって捻れのある複雑な形状の成形品を成形する成形方法であって、シンプルな金型でも実施でき、コストが小さく、捻れの大きさが異なる成形品であっても新たに金型を用意することなく必要な捻れを形成することができる、捻れのある成形品を成形する成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、長方形状の板状を呈する凹部からなるキャビティを備えた金型と、長手方向に配向した強化繊維が樹脂によってバインドされロール状に巻かれて提供されている強化繊維テープを使用する。まず強化繊維テープから所定幅、所定長さに切断し複数本のテープ片を得、これをインサート品とする。これら複数本のテープ片を金型にインサートするときキャビティ内で複数本のテープ片が互いに所定の間隔を空けるようにかつ長方形の長手方向に対して所定の角度傾けた状態で配置する。次いで樹脂を射出する。そうすると複数本のテープ片が貼合された成形品が得られる。樹脂が完全に冷却固化する前に成形品を金型から取り出して冷却する。強化繊維テープと樹脂は熱膨張率に違いがあるので、冷却時に成形品は変形する。これによって捻れのある成形品を得る。
【0008】
すなわち本発明の請求項1に係る発明は、長方形状の板状を呈する凹部からなるキャビティを備えた金型を使用して、インサート成形により成形品を得る成形方法であって、長手方向に配向した強化繊維が樹脂によってバインドされている強化繊維テープを所定幅、所定長さで切断して得た複数本のテープ片をインサート品とし、前記キャビティに前記複数本のテープ片を互いに間隔を空けるように、かつ前記長方形の長手方向に対して所定の角度傾けた状態でインサートし、該金型に樹脂を射出して複数本のテープ片が貼合された成形品を得、樹脂が完全に冷却固化する前に前記成形品を前記金型から取り出して冷却させ、強化繊維テープと樹脂の熱膨張率の違いにより前記成形品に変形が生じるようにすることを特徴とする、捻れのある成形品の成形方法として構成される。

【発明の効果】
【0009】
以上のように本発明は、長手方向に配向した強化繊維が樹脂によってバインドされている強化繊維テープを使用する。この強化繊維テープから所定幅、所定長さで切断された複数本のテープ片をキャビティ内で互いに間隔を空けて金型にインサートし、該金型に樹脂を射出して複数本のテープ片が貼合された成形品を得る。そして樹脂が完全に冷却固化する前に前記成形品を前記金型から取り出して冷却させ、強化繊維テープと樹脂の熱膨張率の違いにより前記成形品に変形が生じるようにする。後で詳しく説明するように、所定のパターンでテープ片を貼合すると捻れのある成形品を得ることができる。つまり複雑な捻れのある成形品であっても、キャビティの形状が複雑で、構造も複雑な金型を用意する必要がなく製造コストは小さい。そして冷却時の変形は、テープ片の配置等によってその方向や大きさを調整することができるので、テープ片の貼合位置、枚数等を変えるだけで任意の形状に変形させることができる。つまり、捻れの大きさが少しずつことなる成形品を得る場合であっても、必要な金型の個数は少なくて済むという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】その(A)は、本実施の形態に係る捻れのある成形品を成形する成形用金型を示す斜視図、その(B)は本実施の形態に係る捻れのある成形品の成形方法において材料として使用するロール状に巻かれた強化繊維テープを示す斜視図である。
図2】本実施の形態に係る捻れのある成形品の成形方法を説明する図で、その(A)は本実施の形態に係る成形用金型に強化繊維テープからなるテープ片をインサートした様子を示す成形用金型の斜視図、その(B)は冷却前におけるテープ片が貼合された成形品を示す斜視図、その(C)は冷却後におけるテープ片が貼合された成形品を示す斜視図である。
図3】冷却によって成形品の表面が収縮する様子を模式的に示す図で、その(A)はテープ片が貼合されていない樹脂の表面が収縮する様子を、そしてその(B)はテープ片が貼合されている樹脂においてテープ片近傍の樹脂の表面の収縮する様子を、それぞれ示す平面図である。
図4】冷却によってテープ片が貼合された成形品が変形し、捻れがある成形品に変化する様子を示す図で、その(A)は冷却前における、その(B)は冷却中における成形品を示す正面図であり、その(C)は冷却後における成形品を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る成形方法は、比較的シンプルな構造の金型を使用して捻れのある複雑な形状の成形品を得る方法である。図1の(A)には、本実施の形態に係る成形用金型1が示されている。本実施の形態に係る成形用金型1は、竪型射出成形機に取り付けられる金型であり、竪型射出成形機の上可動盤に取り付けられる上金型3と、固定盤に取り付けられる下金型4とから構成されている。下金型4には、パーティングラインから長方形状に所定深さだけ窪んだ凹部6が形成されている。この凹部6に後で説明するように強化繊維テープから切断された複数本のテープ片がインサートされるようになっている。本実施の形態において凹部6の底面は滑らかに形成されているが、凹部6の底面に多数の微小な吸引孔を設けて負圧源に接続し、インサートされたテープ片を吸引してその位置がずれないようにしてもよい。上金型3はそのパーティングラインは示されていないが、凹部6と同じ形状の長方形状の凹部が形成されている。上金型3には樹脂を射出するためのスプル7が設けられている。
【0012】
本実施の形態に係る捻れのある成形品を成形する成形方法においては、図1の(B)に示されているような、ロールRに巻かれた強化繊維テープTを使用する。本実施の形態においては強化繊維テープTは強化繊維として炭素繊維が採用されている。強化繊維テープTは多数の炭素繊維が長手方向に配向され、所定の樹脂によってこれが固められて所定幅、所定厚さのテープ状に形成されたものである。このような強化繊維テープTは、可撓性を備えておりロール状に巻かれて提供されている。
【0013】
本実施の形態に係る捻れのある成形品を成形する成形方法を説明する。まず、強化繊維テープTを所定幅、所定長さで切断し、複数本のテープ片9、9、…を得る。これらのテープ片9、9、…を、図2の(A)に示されているように、下金型4の凹部6にインサートする。複数本のテープ片9、9、…は、長方形状の凹部6に対してその長手方向に対して所定の角度に傾けた状態に配置し、互いに所定の間隔だけ離間させるようにしてインサートする。次いでこの下金型4と図に示されていない上金型3とを型閉じ、型締めし、成形用金型1内にキャビティを構成する。キャビティに樹脂を射出する。そうするとテープ片9、9、…が一方の面に貼合された成形品11が成形される。完全に冷却固化しない状態で成形用金型1を開いて成形品11を取り出す。取り出した直後の成形品11が図2の(B)に示されている。成形品11を成形用金型1の外で冷却させる。そうすると強化繊維テープと樹脂の熱膨張率の違いにより成形品11に捻れが生じて、図2の(C)に示されているように変形する。冷却後の成形品、つまり捻れのある成形品12が得られる。
【0014】
冷却時に成形品11が変形して捻れのある成形品12に形成される理由を説明する。樹脂は比較的熱膨張率が大きく、射出成形した直後の高熱の状態から冷却されると熱収縮により収縮する。図3の(A)には、成形品11においてテープ片9から離間した所定の部分の樹脂表面が示されている。このようにテープ片9の影響を受けない部分の樹脂表面において樹脂が熱収縮するとき、仮想的な微小円25の樹脂は冷却により仮想的な微小円25’に変化する。つまり矢印26で示されているように、冷却によって樹脂は均一に収縮する。このような熱収縮は任意の箇所において均等なので、冷却されても全体が均一に収縮してその形状は実質的に変化しない。これに対して、図3の(B)に示されているように、テープ片9が貼合されている部分における樹脂の熱収縮では状況が異なる。テープ片9は強化繊維からなるので熱膨張率は樹脂に比して小さい。つまり実質的に熱収縮はほとんどない。従ってテープ片9が貼合されてテープ片9にその表面が覆われている樹脂はほとんど収縮せず、テープ片9から露出している樹脂が収縮することになる。その結果、テープ片9に覆われている部分と露出している部分との境界線27近傍における仮想的な微小円28の樹脂は冷却により収縮すると微小楕円28’のように変化する。つまり境界線27近傍の樹脂は、矢印30で示されているように、境界線27に対して直交する方向に収縮することになる。
【0015】
さて、樹脂が熱い状態の成形品11には、図4の(A)に示されているように、その表面に複数本のテープ片9、9、…が貼合されている。冷却すると複数本のテープ片9、9で囲まれた領域の樹脂は、矢印32、32、…で示されているように、テープ片9、9の方向と直交する方向に収縮する。そうすると、成形品11の表面側では、図4の(B)に示されているように変形することになる。つまり図において左側が矢印33で示されているように下側にずれ、右側が矢印34で示されているように上側にずれるように変形する。しかしながら、成形品11の裏面側ではテープ片9、9、…は貼合されていないので均一に収縮する。そうすると、符号35で示されているように変形せずに長方形状に維持される。表面側だけが変形して裏面側が変形しないので、図4の(C)に示されているように全体に捻れが生じる。すなわち捻れのある成形品12が得られる。
【0016】
本実施の形態に係る捻れのある成形品の成形方法は色々な変形が可能である。例えば強化繊維テープとしてグラスファイバーからなる強化繊維テープを使用することもできる。テープ片9、9、…の配置についても変形が可能である。例えばテープ片9、9、…は成形品11の一方の面にだけ貼合するように説明したが、他方の面つまり裏面側にも貼合してもよい。そうすると捻れの大きさを大きくすることができる。テープ片9、9、…の向き、相互の間隔、貼合する本数等を調整すれば単調な捻れだけでなく、複雑な形状を有する成形品を成形することもできる。なお、冷却により成形品11は変形して捻れのある成形品12に変化するが、熱収縮による変形が発生しているとき、所望の変形が得られた時点でそれ以上変形が進行しないように成形品12の両端を拘束するようにして冷却するようにしてもよい。そうすると、以後は冷却による変形が進行しにくくなり、捻れの大きさは所望の大きさにすることができる。
【符号の説明】
【0017】
1 成形用金型 3 上金型
4 下金型 6 凹部
9 テープ片 11 成形品
12 捻れのある成形品
R ロール T 強化繊維テープ
【要約】

【課題】小コストで捻れのある複雑な形状の成形品を成形する成形方法を提供する。
【解決手段】長手方向に配向した強化繊維が樹脂によってバインドされロール状に巻かれて提供されている強化繊維テープ(T)を使用する。まず強化繊維テープ(T)から所定幅、所定長さに切断した複数本のテープ片(9)を金型(1)にインサートする。このときキャビティ内で複数本のテープ片(9)が互いに所定の間隔を空けるように配置する。次いで樹脂を射出する。そうすると複数本のテープ片(9)が貼合された成形品(11)が得られる。樹脂が完全に冷却固化する前に成形品(12)を金型から取り出して冷却する。強化繊維テープ(T)と樹脂は熱膨張率に違いがあるので、冷却時に成形品(11)は変形する。これによって捻れのある成形品(12)を得る。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4