特許第6880279号(P6880279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本たばこ産業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6880279-口腔用たばこ組成物及びその製造方法 図000006
  • 特許6880279-口腔用たばこ組成物及びその製造方法 図000007
  • 特許6880279-口腔用たばこ組成物及びその製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880279
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】口腔用たばこ組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A24B 13/00 20060101AFI20210524BHJP
   A24B 15/24 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   A24B13/00
   A24B15/24
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-78357(P2020-78357)
(22)【出願日】2020年4月27日
(62)【分割の表示】特願2016-555094(P2016-555094)の分割
【原出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2020-114256(P2020-114256A)
(43)【公開日】2020年7月30日
【審査請求日】2020年5月27日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2014/078402
(32)【優先日】2014年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】打井 公隆
(72)【発明者】
【氏名】中野 拓磨
【審査官】 沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0318287(US,A1)
【文献】 特開平02−238873(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/053097(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/093304(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/146952(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24B 13/00
A24B 15/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチンの含有量に対する、クエン酸、リンゴ酸、酢酸及びギ酸を合わせた総含有量の比(A/N比)が0.05以上1.30以下であり、
前記A/N比はモル比であり、
酢酸及びギ酸を含む、口腔用たばこ組成物。
【請求項2】
前記A/N比が、0.05以上0.20以下である、請求項1に記載の口腔用たばこ組成物。
【請求項3】
前記口腔用たばこ組成物のpHが、8.0以上10.0未満である、請求項1又は2に記載の口腔用たばこ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用たばこ組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、SNUSやたばこガムなどの口腔用たばこ組成物が知られている。これら既存の口腔用たばこ組成物は、その使用時に咽喉から食道・胸への特有の感覚をもたらすことが知られており、ユーザによっては不快な感覚として忌避されることがあった。
このような感覚を軽減するために種々の検討がなされており、特許文献1では、無煙タバコから生じる口の特有の感覚を低減するために、メルカプタンや樟脳等の活性成分を含む構成が開示されている。また、特許文献2では、無煙タバコから生じる口の特有の感覚を低減するために、ビタミンE又はそのコハク酸塩を添加する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2013−523092号公報
【特許文献2】特表2002−501768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の先行技術文献に記載の発明では、いずれも口腔用たばこ組成物に特有の咽喉や食道への感覚を軽減するために特殊な添加物を用いており、このような特殊な添加物を使用せずに口腔用たばこ組成物に特有の咽喉や食道への感覚を軽減することは非常に困難であった。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、特殊な添加物の使用に頼らずにたばこ原料に特有の咽喉や食道への感覚を軽減することが可能な口腔用たばこ組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者が鋭意検討した結果、代表的な香喫味成分の一つとして知られており、簡便に測定できるニコチンの含有量に対する、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸及びギ酸から選ばれる1種以上の総含有量の比(A/N比)が1.30以下である、口腔用たばこ組成物では、たばこ原料に特有の咽喉や食道への感覚が選択的に軽減していることがわかり本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1] ニコチンの含有量に対する、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸及びギ酸から選ばれる1種以上の総含有量の比(A/N比)が1.30以下である、口腔用たばこ組成物。
[2] 前記A/N比が、0.05以上である、[1]に記載の口腔用たばこ組成物。
[3] 前記A/N比が、0.20以下である、[1]または[2]に記載の口腔用たばこ組成物。
[4] 前記口腔用たばこ組成物のpHが、8.0以上10.0未満である、[1]〜[3]のいずれかに記載の口腔用たばこ組成物。
[5] 以下のa)〜d)のステップを経て得られるたばこ材料を含む口腔用たばこ組成物の製造方法。
a)たばこ原料に塩基性物質を添加するステップ
b)前記塩基性物質を添加したたばこ原料を加熱することで、たばこ原料中の香喫味成
分を気相中に放出するステップ
c)前記気相中に放出された香喫味成分を回収するステップ
d)前記香喫味成分が放出されたたばこ原料を洗浄溶媒で洗浄することにより、たばこ原料に残存する酸性物質を除去するステップ
e)前記d)の後に、前記c)で回収した香喫味成分を前記たばこ原料に掛け戻すステ
ップ
[6] 前記塩基性物質が、弱酸のアルカリ金属塩を含む、[5]に記載の製造方法。
[7] 前記弱酸のアルカリ金属塩が炭酸のアルカリ金属塩である、[6]に記載の製造方法。
[8] 乾燥状態の前記たばこ原料の総重量を100重量%としたときに、たばこ原料における糖類の合計の含有量が10.0重量%以下である、[5]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9] 前記ステップa)において、たばこ原料のpHが8.9〜9.7の範囲になるまで、塩基性物質をたばこ原料に添加する、[5]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。[10] 前記洗浄溶媒が、水及び/または炭酸水もしくは過飽和のCOガスを含む水溶液である、[5]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11] 得られるたばこ原料のニコチンの含有量に対する、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸及びギ酸から選ばれる1種以上の総含有量の比(A/N比)が2.00以下である、[5]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12] 得られるたばこ原料のニコチンの含有量に対する、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸及びギ酸から選ばれる1種以上の総含有量の比(A/N比)が1.30以下である、[5]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13] 得られるたばこ原料のニコチンの含有量に対する、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸及びギ酸から選ばれる1種以上の総含有量の比(A/N比)が0.05以上である、[5]〜[12]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
たばこ原料に特有の咽喉や食道への感覚が軽減されている口腔用たばこ組成物とその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】加熱処理に用いることができる装置の一例を示す図である。
図2】捕集処理に用いることができる装置の一例を示す図である。
図3】口腔用たばこ組成物の製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0010】
本発明の口腔用たばこ組成物に含有させることのできる、たばこ葉材料については、たばこ用組成物とした際に、後述するA/N比の範囲を満たせば特に制限されない。具体的には、後述する本発明の口腔用たばこ組成物の製造方法に用いるたばこ刻みや粉末を用いることができる。そのたばこ刻の幅やたばこ粉末の粒度についても、後述する本発明の口腔用たばこ組成物の製造方法に用いるたばこ刻みや粉末と同じものを用いることができる。
【0011】
本発明の口腔用たばこ組成物は、当該口腔用たばこ組成物におけるニコチンの含有量に対する、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸及びギ酸から選ばれる1種以上の総含有量の比(A/N比)が1.30以下である。
なお、本発明でいう含有量の比とは、モル比を意味する。
口腔用たばこ組成物のA/N比が1.30以下であることで、その使用時の咽喉や食道への感覚(以下、単に特有の感覚ともいう)を従来の口腔用たばこ組成物に比べて低減することができる。なお、A/N比については、特有の感覚をさらに低減するために0.20以下である態様も挙げることができる。また、本発明の口腔用たばこ組成物は、特有の感覚以外の好ましい感覚については従来のものと差異がなく、特有の感覚だけが選択的に低減されているものである。本発明では、上記先行技術文献に開示されている添加物を用いなくても特有の感覚を選択的に低減できるので、特有の感覚以外の好ましい感覚が抑制されることはなく、口腔用たばこ組成物の満足感が損なわれることがない。
一方、A/N比は、0.05以上である態様を挙げることができる。A/N比が0.05以上であると、口腔用たばこ組成物の製造工程において、たばこ原料由来の香喫味成分(ここではニコチン)のロスを抑制できる。
また、上記のカルボン酸が口腔用たばこ組成物に一定量存在することで、口腔用たばこ組成物が直接空気にさらされる製品として用いられる場合、例えばSNUSとして用いられる場合でも、当該酸が香喫味成分(ここではニコチン)を安定的に保持するので、たばこ組成物に含まれる香喫味成分(ここではニコチン)が揮散することを抑制することができる。
A/N比の上記下限値は、特有の感覚を低減させる点と、上記の香喫味成分の空気中への揮散を抑制する点から定められている。
なお、たばこ組成物におけるクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸及びギ酸から選ばれる1種以上の総含有量については、遊離酸としての合計量を基準とする。
その測定法として、以下の手順を含む方法により行う。
(1)分析対象とするたばこ組成物を秤量し、蒸留水を加える。
(2)超音波洗浄機で20分間超音波処理を行い、遠沈管に移す。
(3)遠沈管を遠心分離機に設置し、遠心分離を行う。
(4)水層を採取して、遠心分離機用フィルターユニットに移す。
(5)これを高速遠心機でろ過を行い、ろ液を分析試料とする。
(6)分析試料をUV検出器を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)での分析に供し、分離、定量する。
なお、上記の各酸について、検出限界以下、あるいは定量限界以下のものについては、A/N比の算出の際には含有量を0として扱う。
【0012】
本発明の口腔用たばこ組成物における、炭素数6以下のカルボン酸の含有量は、ニコチンの含有量にもよるが、乾燥状態のたばこ原料の総重量を100重量%としたときに、0.01〜15.4重量%である態様を挙げることができ、別の態様では0.01〜7.7重量%を挙げることができる。
本発明の口腔用たばこ組成物に含まれるニコチンの含有量は、乾燥状態のたばこ原料の総重量を100重量%としたときに、0.01〜10重量%である態様を挙げることができ、別の態様では0.1〜5重量%を挙げることができる。
たばこ組成物に含まれるニコチンの定量については、ドイツ標準化機構DIN 10373に準ずる方法で行う。
【0013】
上記A/N比は、後述する本発明の製造方法を用いることにより、材料となるたばこ葉に含まれていた上記の各酸の含有量を変化させることで、調整することができる。また、たばこ葉に含まれるニコチンの含有量に応じて、上記の各酸を添加することでA/N比を調整してもよい。
【0014】
本発明の口腔用たばこ組成物は、そのpHが7.0以上10.0未満、あるいは8.0以上10.0未満である態様を挙げることができる。口腔用たばこ組成物の味を調整するために、pHは調整されるものであり、本発明の口腔用たばこ組成物を、必要に応じて中
和してもよい。一方、口腔用たばこ組成物の特有の感覚の調整は上記のようにA/N比を調整することにより行うことができる。
本発明の口腔用たばこ組成物には、グリセリンのような保湿剤や、味を整えるための甘味料や、味に特徴を付けるための香料を加えてもよい。
また、本発明のたばこ組成物には、口腔用たばこ製品として適切な水分含有量を有するようにするために、水を加えてもよい。口腔用たばこ製品に供する際の水分含有量としては、口腔用たばこ製品の重量を100重量%としたときに、20〜50重量%程度を挙げることができる。
本発明の口腔用たばこ組成物は、以下で示すようなSNUSやガムのような用途で用いることができる。
本発明の口腔用たばこ組成物を、例えばSNUSとする場合は、上述したたばこ材料を例えば不織布のような原料を用いた包装材に公知の方法を用いて充填することで得られる。例えばたばこ組成物の量を調整して充填し、ヒートシールなどの手段によりシールしてSNUSを得る。
包装材としては特段の限定なく用いることができるが、セルロース系の不織布などが好ましく用いられる。
本発明の口腔用たばこ組成物を、例えばガムとする場合は、本発明で用いられる上記たばこ組成物を公知のガムベースと公知の方法を用いて混合することで得られる。かみたばこやかぎたばこ、圧縮たばこについても、本発明で用いられる上記たばこ組成物を用いること以外は、公知の方法を用いて得ることができる。また、可食フィルムについても本発明で用いられる上記たばこ原料を用いること以外は、公知の材料や方法を用いて得ることができる。
【0015】
本発明の口腔用たばこ組成物の製造方法では、以下のa)〜d)のステップを経て得られるたばこ材料を、口腔用たばこ組成物に含有させるものである。
a)たばこ原料に塩基性物質を添加するステップ
b)前記塩基性物質を添加したたばこ原料を加熱することで、たばこ原料中の香喫味成分を気相中に放出するステップ
c)前記気相中に放出された香喫味成分を回収するステップ
d)前記香喫味成分が放出されたたばこ原料を洗浄溶媒で洗浄することにより、たばこ原料に残存する酸性物質を除去するステップ
e)前記d)の後に、前記b)で回収した香喫味成分を前記たばこ原料に掛け戻すステップ
【0016】
本発明の製造方法を経て得られるたばこ組成物は、香喫味成分(ここではニコチン)の含有量に対する、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸及びギ酸から選ばれる1種以上の総含有量の比(A/N比)が2.00以下の態様を挙げることができ、好ましくは1.30の態様を挙げることができる。一方、たばこ組成物のA/N比は、0.05以上である態様を挙げることができる。A/N比は、後述するように、処理に供するたばこ葉材料に含まれる糖類の濃度を調整したり、ステップa)で添加する塩基性物質の種類を変えたり、ステップd)の洗浄工程の回数や用いる洗浄溶媒の種類を変えたりすることで、調整できる。
なお、本発明の口腔用たばこ組成物は、その製造後の蔵置中に前記の酸の量が変化してA/N比が変動することがある。例えば、口腔用たばこ組成物の蔵置中に、前記酸が生成して、A/N比が増加することがある。
【0017】
本発明の製造方法に供するたばこ原料としては、たばこ刻を挙げることができ、収穫されたたばこ葉を通常の方法で裁断して得られるものである。また、たばこ原料としてたばこ粉末を用いることもでき、たばこ粉末は収穫されたたばこ葉を通常の方法で粉砕して得られるものである。たばこ葉の種類については口腔用たばこに用いられるものであれば特
に制限されることはなく、適宜使用することができる。例えば、ニコチアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)やニコチアナ・ルスチカ(Nicotiana rustica)等のタバコ属の原料を用いることができる。ニコチアナ・タバカムとしては、例えば、バーレー種又は黄色種等の品種を用いることができる。なお、たばこ葉の種類としては、バーレー種及び黄色種以外の種類のたばこ原料を用いてもよい。また、たばこ刻の幅やたばこ粉末の粒度についても、公知のものを適宜採用することができる。
【0018】
本発明の製造方法に用いるたばこ原料は、乾燥状態のたばこ原料の総重量を100重量%としたときに、糖類の合計の含有量が10.0重量%以下である態様を挙げることができる。たばこ原料に含まれる糖類は、フルクトース、グルコース、サッカロース、マルトース、イノシトールである。これらの糖類の含有量が乾燥状態のたばこ原料の総重量に対して10.0重量%以下であると、後述するステップb)の加熱時に、糖類の分解による揮発性有機酸(主として酢酸やギ酸)の発生量を少なくすることができる。これによって、後述するステップc)において、香喫味成分(ここではニコチン)の回収の際に、同時に捕集される揮発性有機酸の量を低減させることができる。
【0019】
なお、たばこ原料に含まれる香喫味成分(ここでは、ニコチン)の初期含有量は、乾燥状態において、たばこ原料の総重量が100重量%である場合に、2.0重量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、香喫味成分(ここでは、ニコチン)の初期含有量は、4.0重量%以上であることが好ましい。
【0020】
前記ステップa)では、たばこ刻やたばこ粉末を含有するたばこ原料に塩基性物質を加えるステップである。このステップにより、アルカリ性のたばこ原料を調製する。アルカリ性のたばこ原料は、そのpHが8.0以上である態様を挙げることができ、pHが8.5〜10の範囲にある態様を挙げることできる。好ましくは、たばこ原料のpHが8.9〜9.7の範囲になるまで、塩基性物質をたばこ原料に添加する態様を挙げることができる。
たばこ原料をアルカリ性にするために添加する塩基性物質としては、弱酸のアルカリ金属塩を挙げることができる。
ステップa)において添加する塩基性物質が弱酸のアルカリ金属塩であると、後述するステップd)において、たばこ原料中に残存しているカルボン酸塩を効率的に除去することができる。これは、カルボン酸のアルカリ金属塩が水に対して高い溶解度を有するためである。また、ステップa)において添加する塩基性物質が弱酸のアルカリ金属塩であると、後述するステップb)において、たばこ原料中に含まれる揮発性有機酸(主として酢酸やギ酸)と中和により形成されるアルカリ塩の沸点は、ステップb)の加熱時の温度よりも十分に高いので、そのアルカリ塩が揮散して香喫味成分(ここではニコチン)と共に気相中に放出されることを防ぐことができる。一方で、例えば塩基性物質として弱酸のアンモニウム塩を用いた場合には、中和により形成される揮発性有機酸のアンモニウム塩は、アルカリ金属塩よりも加熱により分解しやすいので、揮発性有機酸が気相中に揮散しやすくなる。
また、上記の弱酸のアルカリ金属塩において、弱酸が、たばこ原料中の揮発性有機酸(ギ酸または酢酸)よりも高いpKaを有することが好ましい。具体的には弱酸が炭酸であることが好ましい。これによって、後述するステップb)において揮発性有機酸の気相中への放出が抑制されることが期待される。これにより、後述する回収工程で揮発性有機酸が捕集溶媒に捕集されることを抑制できる。
ステップa)において添加される塩基性物質の具体例としては、炭酸カリウムや炭酸ナトリウムを挙げることができる。
また、ステップa)で用いる塩基性物質として、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物を挙げることもできる。
これらの塩基性物質を用いて、ステップa)においてたばこ原料のpHを調整すること
ができる。
【0021】
また、たばこ原料における水分含有量については、特に制限されることはなく、通常の乾燥を経たたばこ葉を裁断して得られたものが有する水分含有量、例えば5〜15重量%を挙げることができる。一方で、後述するステップb)における香喫味成分(ここではニコチン)の放出効率の観点からは、たばこ原料の水分含有量は多い方が好ましく、例えば10重量%以上である態様をあげることでき、30重量%であることがより好ましい。一方で、後述するステップb)でたばこ原料を効率よく加熱する観点からは、50重量%以下であることが好ましい。
この水分含有量は、塩基性物質を添加するステップa)において、塩基性物質を溶解した水溶液の水分量により調整することもできるし、塩基性物質を添加する前のたばこ原料に水を予め添加して調整してもよい。
また、このたばこ原料には、塩化ナトリウム水溶液を加えて、たばこ材料の塩分濃度を調整してもよい。
【0022】
本発明の製造方法におけるステップb)は、ステップa)で塩基性物質が添加されたたばこ原料を加熱することで、たばこ原料に含まれる香喫味成分(ここではニコチン)を気相中に放出させるステップである。
ステップb)では、例えば、塩基性物質を添加する際に用いた容器にたばこ原料が収容された状態で、容器とともにたばこ原料を加熱する態様を挙げることができる。ステップb)で用いる容器としては、耐熱性及び耐圧性を有する部材(例えばSUS)によって構成されている態様を挙げることができる。そのような装置として、例えば図1で示される装置10を挙げることができる。装置10は容器11と噴霧器12を有する。図1ではたばこ原料は符号50に相当する。
また、当該装置10の容器11は、香喫味成分(ここではニコチン)が外部に揮散しないように、密閉空間を構成することが好ましい。「密閉空間」とは、通常の取り扱い(運搬、保存等)において、固形の異物の混入を防ぐ状態である。
ステップa)における塩基性物質の添加は、噴霧器12により行われてもよい。
【0023】
ここで、たばこ原料の加熱温度は、80℃以上かつ150℃未満の範囲であることが好ましい。たばこ原料の加熱温度が80℃以上であることによって、たばこ原料から十分な香喫味成分(ここではニコチン)が放出されるタイミングを早めることができる。一方で、たばこ原料の加熱温度が150℃未満であることによって、たばこ原料から十分な香喫味成分(ここではニコチン)を放出させると共に、たばこ原料の熱分解に起因する不要な夾雑物質の生成を抑制できる。
【0024】
なお、ステップb)において、たばこ原料に対して加水処理を施してもよい。加水処理後のたばこ原料の水分含有量は、10重量%以上かつ50重量%以下であることが好ましい。また、ステップb)において、たばこ原料に対して連続的に加水してもよい。加水量は、たばこ原料の水分含有量が10重量%以上かつ50重量%以下となるように調整されることが好ましい。
【0025】
また、ステップb)において、たばこ原料に対して通気処理を施すことが好ましい。これによって、アルカリ処理されたたばこ原料から気相に放出される放出成分に含まれる香喫味成分量(ここではニコチンの量)を増大させることができる。通気処理では、例えば、80℃における飽和水蒸気をたばこ原料に接触させる。通気処理における通気時間は、たばこ原料を処理する装置及びたばこ原料の量によって異なるため、一概に特定することができないが、例えば、たばこ原料が500gである場合には、通気時間は、300分以内である。通気処理における総通気量についても、たばこ原料を処理する装置及びたばこ原料の量によって異なるため、一概に特定することができないが、例えば、たばこ原料が
500gである場合には、10L/g程度である。
【0026】
なお、通気処理で用いる空気は、飽和水蒸気でなくてもよい。通気処理で用いる空気の水分量は、特にたばこ原料50の加湿を目的とせずに、例えば、加熱処理及び通気処理が適用されているたばこ原料に含まれる水分が50%未満の範囲に収まるように調整されてもよい。通気処理で用いる気体は、空気に限定されるものではなく、窒素、アルゴン等の不活性ガスであってもよい。
【0027】
本発明の製造方法は、前記ステップb)を経て放出された、たばこ原料に含まれていた香喫味成分(ここではニコチン)を回収するステップc)を含む。
前記ステップb)を経て気相中に放出された香喫味成分(ここではニコチン)は、当該ステップc)を経て気相中から回収される。上述したように、気相中に放出された香喫味成分(ここではニコチン)が、外部に揮散しないようにするために、ステップb)で密閉空間を構成する容器内で行われた場合には、当該容器内の気相中に含まれる香喫味成分(ここではニコチン)を回収する。この場合、ステップb)とステップc)を同時に行ってもよい。
ステップb)が密閉空間を構成しない容器内で行われた場合には、ステップb)と同時にステップc)を行い、もれなく香喫味成分(ここではニコチン)が回収できるようにする。
【0028】
香喫味成分(ここではニコチン)の回収方法として、捕集装置を用いた方法を挙げることができる。捕集装置としては、例えば密閉空間を構成し、香喫味成分(ここではニコチン)を回収するための捕集溶媒を入れることができるとともに、香喫味成分(ここではニコチン)が含まれる前記気相の蒸気を捕集溶媒に接触させることができるものを挙げることができる。そのような捕集装置として、例えば図2に示される捕集装置20を挙げることができる。
図2の捕集装置20は、容器21と、パイプ22と、放出部分23と、パイプ24とを有する。
容器21は、捕集溶媒70を収容する。容器21は、例えば、ガラスによって構成される。容器21は、密閉空間を構成することが好ましい。「密閉空間」とは、通常の取り扱い(運搬、保存等)において、固形の異物の混入を防ぐ状態である。
【0029】
捕集溶媒70の温度は、例えば、常温である。ここで、常温の下限は、例えば、捕集溶媒70が凝固しない温度、好ましくは、4℃である。常温の上限は、例えば、40℃以下である。捕集溶媒70の温度を4℃以上40℃以下とすることで、捕集溶液からの香喫味成分(ここではニコチン)の揮散を抑制しつつ、アンモニウムイオンやピリジン等の揮発性夾雑成分を捕集溶液から効率的に除去することができる。捕集溶媒70としては、例えば、グリセリン、水又はエタノールを用いることができる。すなわち、捕集溶媒70は、複数種類の溶媒によって構成されていてもよい。香喫味成分(ここではニコチン)の捕捉効率を上昇するために、捕集溶媒70の初期pHは、塩基性物質による処理後のたばこ原料50のpHよりも低いことが好ましい。
【0030】
パイプ22は、たばこ原料の加熱によってたばこ原料から気相中に放出される放出成分61を捕集溶媒70に導くものである。なお、図示していないが、捕集装置のパイプ22は装置10の容器11と連結されている。
放出部分23は、パイプ22の先端に設けられており、捕集溶媒70に浸漬される。放出部分23は、複数の開口23Aを有している。パイプ22によって導かれた放出成分61は、複数の開口23Aから泡状の放出成分62として捕集溶媒70中に放出される。
パイプ24は、捕集溶媒70によって捕捉されなかった残存成分63を容器21の外側に導く。
【0031】
ここで、放出成分62は、たばこ原料の加熱によって気相中に放出される成分であるため、放出成分62によって捕集溶媒70の温度が上昇する可能性がある。従って、捕集装置20は、捕集溶媒70の温度を常温に維持するために、捕集溶媒70を冷却する機能を有していてもよい。
捕集装置20は、捕集溶媒70に対する放出成分62の接触面積を増大するために、ラシヒリングを有していてもよい。
【0032】
ステップc)の態様として、上述したように捕集装置20を用いて、ステップb)で気相中に放出される香喫味成分(ここではニコチン)を常温の捕集溶媒70に接触させて捕集する態様が挙げられる。なお、説明の便宜上、ステップb)及びステップc)を別々な処理として説明しているが、ステップb)及びステップc)は、並列的に行われてもよい処理であることに留意すべきである。並列的とは、ステップb)を行う期間がステップc)を行う期間と重複することを意味しており、ステップb)及びステップc)が同時に開始・終了する必要はないことに留意すべきである。
【0033】
ここで、ステップb)及びステップc)において、装置10の容器11内の圧力は、例えば常圧以下である。詳細には、装置10の容器11内の圧力の上限は、ゲージ圧で通常+0.1MPa以下である。また、装置10の容器11の内部は、減圧雰囲気であってもよい。
【0034】
ここで、捕集溶媒70としては、上述したように、例えば、グリセリン、水又はエタノールを用いることができる。捕集溶媒70の温度は、上述したように、常温である。ここで、常温の下限は、例えば、捕集溶媒70が凝固しない温度、好ましくは、10℃である。常温の上限は、例えば、40℃以下である。
【0035】
捕集溶媒70に捕集された香喫味成分(ここではニコチン)を含む捕集溶媒を濃縮して濃縮液を調製し、ステップe)に供される。濃縮液を調整する際の濃縮の条件については制限されず、例えば減圧下での条件を挙げることができ、香喫味成分(ここではニコチン)の濃度が20〜30重量%になるまで濃縮する態様を挙げることができる。濃縮の方法については制限はなく、減圧濃縮処理、加熱濃縮処理又は塩析処理が挙げられる。
【0036】
ここで、減圧濃縮処理は、密閉空間で行われるため、空気接触が少なく、捕集溶媒70を高温にする必要がないため、成分変化の懸念が少ない。従って、減圧濃縮を用いれば、利用可能な捕集溶媒の種類が増大する。
【0037】
加熱濃縮処理では、香喫味成分(ここではニコチン)の酸化などのような液の変性の懸念があるが、香味を増強する効果が得られる可能性がある。但し、減圧濃縮と比べると、利用可能な捕集溶媒の種類が減少する。例えば、MCT(Medium Chain Triglyceride)のようなエステル構造を有する捕集溶媒を用いることができない可能性がある。
【0038】
塩析処理では、減圧濃縮処理と比べて、香喫味成分(ここではニコチン)の濃度を高めることが可能であるが、液溶媒相/水相における香喫味成分(ここではニコチン)が半々であるため、香喫味成分(ここではニコチン)の歩留まりが悪い。また、疎水性物質(MCT等)の共存が必須であると想定されるため、捕集溶媒、水及び香喫味成分(ここではニコチン)の比率によっては、塩析が生じない可能性がある。
【0039】
ステップb)によりたばこ原料中に含まれていた香喫味成分(ここではニコチン)が除かれた後、ステップd)において、香喫味成分(ここではニコチン)が除去された残渣が
洗浄溶媒により洗浄される。これによりたばこ原料(残渣)に残存する酸性物質が除去される。本発明の製造方法では、このステップd)を含むことにより、不要な酸性物質をたばこ原料から簡便に除去できる。
上記ステップd)がステップb)に引き続いて装置10を用いて行われる場合には、例えば噴霧器12から洗浄溶媒をたばこ原料に対して噴霧し、その後10〜60分程度、容器11を回転、搖動させて洗浄を行う態様を挙げることができる。
その際、たばこ原料と洗浄溶媒の重量比はたばこ原料を1とした場合10〜20を挙げることができる。
ステップd)で用いる洗浄溶媒として、水性溶媒を挙げることができ、その具体例としては、純水や超純水でもよく、市水を挙げることができる。また、洗浄溶媒の温度としては常温〜洗浄溶媒の沸点未満の温度、好ましくは常温〜70℃を挙げることができる。
洗浄溶媒として水性溶媒を用いる場合にはCOガスをバブリングしたものを用いてもよく、具体的には炭酸水や過飽和のCOガスを含む水溶液を挙げることができる。また、水性溶媒、例えば水には、オゾンをバブリングしたものを用いることもできる。
ステップd)は複数回行ってよく、洗浄溶媒として水性溶媒を用いる場合には、初めに水で洗浄を行い、その後COガスをバブリングした水性溶媒で洗浄を行ってもよい。それぞれの洗浄は複数回行ってもよい。このような手順や水性溶媒を用いて洗浄を行うと、効率よく酸性物質が除去される。
洗浄溶媒としては、上記の水性溶媒とは別に、プロピレングリコール、グリセリン、エタノール、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ヘキサン、メタノール、アセトニトリルのような非水溶媒を用いることもできる。また、これらを上記の水性溶媒と混合して用いることもできる。
洗浄溶媒による洗浄後、残渣に対して乾燥処理が施されてもよい。乾燥条件としては110〜125℃程度の温度で、空気を流通させながら(換気量10〜20L/min/250g−刻)、100〜150分程度行う態様を挙げることができる。
ステップd)の洗浄処理を経て得られる残渣は、後述するステップe)に供される。
【0040】
ステップe)は、ステップd)を経て得られた残渣に、ステップc)で得られた香喫味成分(ここではニコチン)を含む濃縮液を掛け戻すステップである。ステップe)がステップb)やd)に引き続いて装置10を用いて行われる場合には、装置10の噴霧器12から濃縮液を残渣に噴霧し、10〜20分程度、回転・搖動を行う態様を挙げることができる。
なお、ステップe)において、ステップd)を経て得られた残渣に掛け戻される、ステップc)で得られた香喫味成分(ここではニコチン)を含む濃縮液の量は、ステップd)で得られた濃縮液の量を超えることはない。つまり、残渣に掛け戻される香喫味成分(ここではニコチン)の量が、たばこ原料にもともと含まれていた量を超えることはない。
また、ステップe)では、ステップd)を経て得られた残渣以外のたばこ原料(例えば、ステップb)を経ていないたばこ原料)に、香喫味成分(ここではニコチン)を含む濃縮液が掛け戻されることはない。
【0041】
上記ステップa)の前あるいは上記ステップe)の後に、たばこ原料を例えばUVなどで殺菌する工程を含ませてもよい。ステップa)の前に殺菌する工程を組み入れる場合、その工程における温度としては、例として、105〜110℃を挙げることができる。また、この工程の時間としては、例として、10〜40分程度を挙げることができる。
上記ステップe)の後に殺菌する工程を組み入れる場合、陰圧状態(ゲージ圧:−0.1MPa程度)で密閉し、その密閉状態で105℃程度で15〜45分間加熱する態様を挙げることができる。
【0042】
また、本発明の製造方法には、上記のような工程を経て得られたたばこ組成物の水分含有量を調整するための乾燥工程や調湿工程を含んでいてもよい。乾燥工程や調湿工程を含
ませることで、口腔用たばこ材料としての適当な水分含有量に調整できる。
乾燥工程により、得られるたばこ組成物の水分含有量を10〜40重量%程度まで減少させる態様を挙げることができる。
乾燥の際には、たばこ組成物の温度を70〜90℃にまで上昇させる態様を挙げることができる。
【0043】
本発明の口腔用たばこ組成物は、そのpHが7.0以上10.0未満、あるいは8.0以上10.0未満である態様を挙げることができる。口腔用たばこ組成物の味を調整するために、pHは調整されるものであり、本発明の口腔用たばこ組成物を、必要に応じて中和してもよい。一方、口腔用たばこ組成物の特有の感覚の調整は上記のようにA/N比を調整することにより行うことができる。
本発明の製造方法には、口腔用たばこ組成物に、グリセリンのような保湿剤や、味を整えるための甘味料や、味に特徴を付けるための香料を加える工程を含んでもよい。
また、本発明の製造方法には、口腔用たばこ組成物として適切な水分含有量を有するようにするために、水を加える工程を含んでいてもよい。口腔用たばこ組成物に供する際の水分含有量としては、口腔用たばこ組成物全量を100重量%としたときに、20〜50重量%程度を挙げることができる。
また、本発明の製造方法により得られた口腔用たばこ組成物には、製品とする前にそのpHを調整するために塩基性物質を加えてもよい。塩基性物質としては、上記ステップa)で挙げたものを用いることができる。本発明の製造方法により得られる口腔用たばこ組成物のpHは7.0以上10未満である態様や8.0以上〜10.0未満である態様を挙げることができる。
【0044】
本発明の製造方法では、以下の条件を全て満たす態様が好ましい。この態様では、別途酸を加えることなく、A/N比が0.05〜0.20であるたばこ組成物を得ることができる。
(1)ステップa)で用いる塩基性物質が炭酸のアルカリ金属塩である。
(2)塩基性物質を添加するたばこ原料が、乾燥状態のたばこ原料の総重量を100重量%としたときに、たばこ原料における糖類の合計の含有量が10.0重量%以下のものである。
(3)ステップa)において、たばこ原料のpHが8.9〜9.7の範囲になるまで炭酸のアルカリ金属塩をたばこ原料に添加する。
(4)ステップd)において用いられる洗浄溶媒が水及び/または炭酸水もしくは過飽和のCOガスを含む水溶液である。
【0045】
前記の工程を経て得られた口腔用たばこ組成物は、前述したようなSNUSやガムのような用途で用いることができる。SNUSやガムとする場合に用いる材料や製法については、前述した内容と同じ条件を採用することができる。
【実施例】
【0046】
本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0047】
<実施例>
(実験操作)
図1で示される装置10にたばこ原料(国産バーレー種、フルクトース、グルコース、サッカロース、マルトース、イノシトールの含有量はいずれも検出限界未満)を投入し、塩基性物質として炭酸カリウムがたばこ原料に対して20重量%となるように加えた。炭酸カリウム添加後のたばこ原料の水分含有量は40重量%、pHは9.7であった。
その後、たばこ原料を周辺空気で換気しながら(換気量15L/min/500g−刻
)、120℃で加熱(ジャケット加熱)した。加熱時間は150分とした。
たばこ原料の加熱時に気相中に放出された放出成分を図2で示す捕集装置20を用いて捕集した。捕集溶媒としてグリセリンを用い、捕集溶媒の温度を4℃(ジャケット冷却)に設定した。得られた捕集溶媒は圧力25mmHg、温浴温度37℃の条件で、香喫味成分(ここではニコチン)の濃度が20重量%程度になるまで濃縮して濃縮液を得た。
加熱処理を行い、香喫味成分(ここではニコチン)が除去されたたばこ原料が残されている装置10内に、洗浄液を、たばこ原料と洗浄液の重量の比が1:15となるように投入し、30分間回転・搖動した。この操作を、洗浄液として1回目:60℃温水、2回目:60℃温水、3回目:常温水+COバブリング(10L/min)、4回目:常温水+COバブリング(10L/min)を用いて繰り返し行った。
装置10内を加熱温度120℃(ジャケット加熱)、換気量15L/min/250g−刻、処理時間を120分として乾燥し、たばこ原料の残渣を乾燥させた。
その後、装置10内に噴霧器12から前記の濃縮液を乾燥させたたばこ原料に噴霧した。噴霧は装置10を回転・搖動させながら15分間行い、たばこ原料に均一に濃縮液が噴霧されるようにした。
その後さらに、装置10内を減圧し、陰圧状態(ゲージ圧:−0.1MPa)で密閉した。密閉状態のまま、105℃(ジャケット加熱)で15〜45分間加熱し、滅菌した。そして、ジャケットを冷却して常温に戻った後に減圧解放し、たばこ組成物(乾燥たばこの重量を100重量%としたときのニコチン含有量5.37重量%、水分含有量16.9重量%)を得た。
【0048】
上記の操作を経て得られたたばこ組成物(サンプル1)に酸(リンゴ酸)を加えたり(サンプル3〜7)、塩基性物質(NaOH)を加えたり(サンプル3、5〜8)することで、pH及びたばこ組成物のA/N比を表2に示すように調整した各サンプルを調製した。サンプル2はサンプル1と同じたばこ原料を用いて、サンプル1と同様の操作を行った後、蔵置期間として異なる期間を採用して得られたものである。また、サンプル8は、サンプル1の作製に用いたたばこ原料について、上述の操作を行っていないものである。
【0049】
なお、サンプル1のニコチン含有量及び各酸の含有量は以下の表1に示す通りであった。表中、NDは検出限界以下を、NQは定量限界以下をそれぞれ示す。なお、リンゴ酸やクエン酸については、検出限界以下であったため、A/N比の算出の際には0とした。また、コハク酸については、定量限界以下であったため、A/N比の算出の際には0とした。
また、サンプル1〜8において、含有量が定量限界以下の酸についてはA/N比の算出には0とした。
【0050】
【表1】
【0051】
サンプル1〜8について、使用時のたばこ組成物に特有の感覚(表2中、「特有の感覚
」と表記)についての官能評価を行った。その結果を表2に示す。官能評価は、5名の被験者により行われ、各人の特有の感覚の感じ方はほぼ同様であり、被験者が試験時に感じた特有の感覚を表2の「特有の感覚」欄に記載した。「特有の感覚」の数値は唾液を介したたばこ原料に特有の感覚の程度を示すものであり、未処理のたばこ原料では10、その感覚を感じない場合を0として数値化したものである。なお、このたばこ原料に特有の感覚は、人によっては刺激と感じることもある。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に記載の結果についてみると、サンプル3と4の比較から、A/N比が一定であればpHの値によらず特有の感覚も一定であることが分かった。また、サンプル1〜3、5〜7の比較から、pHがほぼ一定である場合、A/N比が変化すれば特有の感覚も変化することが分かった。
また、サンプル1〜5の結果から、A/N比が1.3以下であると、未処理のサンプルに比べて特有の感覚が十分に低減されていることがわかった。一方、サンプル1〜5では、たばこ原料に特有の感覚以外の好ましい感覚には影響がなかった。また、サンプル6についても、サンプル8(未処理のたばこ葉)よりも、特有の感覚が低減されていることが示されており、本発明の製造方法によりA/N比が調整されたたばこ原料は、未処理ものよりも特有の感覚が低減されていることが示された。
前記のとおり、たばこ原料に含まれる炭素数6以下のカルボン酸が存在すると、たばこ原料に含まれる香喫味成分(ここではニコチン)のロスを防ぐことができる。サンプル1〜7の結果から、A/N比が0.05〜2.00であれば香喫味成分(ここではニコチン)のロスを抑制しながら、特有の感覚を未処理原料に比べて低減でき、A/N比が0.05〜1.30であれば、特有の感覚を未処理原料に比べて十分に低減できる。
【0054】
<参考例>
未処理のたばこ葉について、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸及びギ酸から選ばれる1種以上の総含有量を測定した。測定に供したたばこ葉は、黄色種:58試料、バーレー種:28試料、オリエント種:18試料の合計104試料であった。未処理のたばこ葉のA/N比について、以下の表3に、種類ごとに区分した。また、ニコチンの含有量で区分した未処理のたばこ葉のA/N比を表4にまとめた。
その結果、A/N比は1.37〜19.56(平均値:4.70)であった。
各試料を品種別と原料中ニコチン重量%(ドライベース)別でまとめると以下の様になった。
これらのことからサンプル1〜5は未処理のたばこ葉よりも特有の感覚が低減されていることが推察できる。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
たばこ組成物に含まれる酸の定量は以下の手順により行った。
1)30ml容スクリュー管(アズワン)に分析対象となるたばこ組成物を2g秤量し蒸留水を25ml加えた。
2)超音波洗浄器(US-106、エヌエヌディ)で20分間超音波処理を行い、遠沈管に移した。
3)これを遠心分離機(H-103N、コクサン)に設置し、3500rpmで5分間遠心分離した。
4)水層を採取し、Ultrafree-MC Centrifugal Filter Unitに移した。
5)これを卓上型高速遠心機(KINTARO-18、TOMY)に設置し、12,000 rpmで約10秒間ろ過を行い、ろ液を分析試料とした。
6)分析試料はUV検出器を備えた高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて分離・定量した。
【0058】
たばこ組成物に含まれるニコチンの定量については、以下の手順で行った。
ドイツ標準化機構DIN 10373に準ずる方法で行った。すなわち、たばこ組成物を250mg採取し、11%水酸化ナトリウム水溶液7.5mLとヘキサン10mLを加え、60分間振とう抽出した。抽出後、上澄みであるヘキサン相をガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)に供し、たばこ組成物に含まれるニコチン重量を定量した。
【0059】
<pHの分析方法>
・口腔用たばこ組成物400mgを採取し、純水4mLを添加し60分間振とう抽出した。
・抽出液を22℃の室温でコントロールされた実験室内で、室温になるまで密閉容器内で放置して温度調和した。
・調和後、ふたを開けて、pHメーター(METTLER TOLEDO社製:セブンイージーS20)のガラス電極を捕集液に浸して測定を開始した。pHメーターは、あらかじめpH4.01、6.87、9.21のpHメーター校正液にて校正した。センサーからの出力変動が5秒間で0.1mV以内に安定した点を、その抽出溶液のpHとした。
【0060】
本発明の口腔用たばこ組成物では、特定の酸とニコチンの含有量の比が所定の範囲内に設定されていることで、たばこ原料に特有の咽喉や食道への感覚が選択的に除去されている。また、本発明の製造方法によれば、特定の酸とニコチンの含有量の比が所定の範囲内のたばこ組成物を製造することができる。
図1
図2
図3