【文献】
ポリウレタン水分散体スーパーフレックス,第一工業製薬株式会社,2016年 7月28日,p5-8,11-12,URL,https://www.dks-web.co.jp/catalog_pdf/superflex.pdf
【文献】
近赤外線反射型顔料,東罐マテリアル・テクノロジー株式会社,2014年 6月 3日,URL,https://tomatec.co.jp/products/color-pigments/pdf/near_ir.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記架橋剤は、架橋性官能基を有する有機ケイ素化合物、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、及びブロックイソシアネート系架橋剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む、
請求項4に記載の被覆めっき鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0012】
本実施形態に係る被覆めっき鋼板は、鋼板と、めっき層と、保護層と、をこの順に積層して備える。めっき層は、Al、Zn、及びMgを含有する。保護層は、ウレタン樹脂を含有する化成処理剤から形成され、前記ウレタン樹脂のガラス転移温度は、40℃以上である。めっき層がAl、Zn、及びMgを含有することにより、被覆めっき鋼板は、高い耐食性を有することができる。さらに、保護層が、ウレタン樹脂を含有する化成処理剤から形成されることで、保護層の腐食因子に対する遮蔽性を向上させて、めっき層の黒変を抑制することができる。また、ウレタン樹脂のガラス転移温度が40℃以上であることで、被覆めっき鋼板の表面外観の変化が抑制される。めっき層を備えるめっき鋼板において、経時的にめっき層の表面に黒変が生じることがある。このようなめっき層の黒変は、Mgを含有するめっき層において特に生じやすい。めっき層の表面に黒変が生じるメカニズムは完全には解明されていないが、めっき層に含有されるZn又はAlの不定比の酸化物又は水酸化物が生成することが一因であると考えられる。このような酸化物又は水酸化物は、めっき層が水、水蒸気、酸素等に暴露されることによって生じる。本実施形態では、めっき層上に保護層が積層されているため、めっき層が水、水蒸気、酸素等の腐食因子に直接さらされにくくなる。また、本実施形態では、保護層が、ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂を含有する化成処理剤から形成されているため、保護層は腐食因子の遮蔽性に優れる。このため、例えば高温多湿の環境下においても、めっき層の表面に黒変が生じにくくなり、被覆めっき鋼板の表面外観の変化を抑制することができる。
【0013】
被覆めっき鋼板を構成する各層及び材料について詳細に説明する。
【0014】
鋼板としては、例えば薄鋼板、厚鋼板等の種々の部材が挙げられる。
【0015】
[めっき層]
めっき層は、例えば溶融めっき浴に鋼板を浸漬させる等の公知の手段で形成される。
【0016】
めっき層は、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、及びマグネシウム(Mg)を含有する。めっき層がアルミニウムAl及び亜鉛Znを含有すると、めっき層の表面は、薄いアルミニウムの酸化皮膜によって覆われる。この酸化皮膜の保護作用によって、特にめっき層の表面の耐食性が向上する。さらに、亜鉛による犠牲防食作用により被覆めっき鋼板の切断端面におけるエッジクリープが抑制される。このため、被覆めっき鋼板に高い耐食性が付与される。さらに、めっき層がZnよりも卑な金属であるMgを含有することで、めっき層の犠牲防食作用が強化され被覆めっき鋼板の耐食性がより向上する。
【0017】
めっき層の、Al含有量は1質量%以上75質量%以下であることが好ましい。Al含有量が1質量%以上であれば、めっき層の表面における耐食性が確保されるため、被覆めっき鋼板は、高い耐食性を有しうる。Al含有量が75質量%以下であればZnによる犠牲防食効果が充分に発揮されるとともにめっき層の硬質化が抑制されて、被覆めっき鋼板の折曲加工性を高くすることができる。Al含有量は、45質量%以上であればより好ましく、また65質量%以下であることもより好ましく、45質量%以上65質量%以下であれば更に好ましい。
【0018】
めっき層の、Mg含有量は0質量%を超えて6.0質量%以下であることが好ましい。Mg含有量が0.1質量%以上であるとMgの添加による効果が明瞭に現れる。Mg含有量が0.5質量%以上であると、耐食性向上効果が安定して得られるので、より好ましい。Mg含有量は、5.0質量%以下であればより好ましく、3.0質量%以下であれば更
に好ましい。Mg含有量は、1.0質量%以上3.0質量%以下であれば特に好ましい。
【0019】
めっき層は、Si、Ni、Ce、Cr、Fe、Ca、Sr及び希土類から選択される一種以上の元素を含有してもよい。めっき層が、Ni及びCr;Ca、Srなどのアルカリ土類元素;並びにY、La、Ceなどの希土類からなる群から選択される、一種以上の元素を含有する場合、めっき層のアルミニウムに起因する保護作用と、亜鉛に起因する犠牲防食作用とがともに強化されることで、被覆めっき鋼板の耐食性は更に向上する。
【0020】
特に、めっき層は、NiとCrとのうち、1種以上を含有することが好ましい。めっき層がNiを含有する場合、めっき層のNi含有量は、0質量%を超えて1質量%以下であることが好ましい。Ni含有量は、0.01質量%以上0.5質量%以下であればより好ましい。めっき層がCrを含有する場合、めっき層中のCr含有量は、0質量%を超えて1質量%以下であることが好ましい。Cr含有量は、0.01質量%以上0.5質量%以下であればより好ましい。これらの場合、被覆めっき鋼板の耐食性が向上する。耐食性向上のためには、例えばNi及びCrが、鋼板とめっき層との界面付近に存在し、あるいはめっき層内のNi及びCrの濃度分布が鋼板に近い位置ほど濃度が高くなるような偏りを有していることが好ましい。
【0021】
めっき層は、Siを含有してもよい。めっき層がSiを含有すると、被覆めっき鋼板の機械的加工性を向上させることができる。めっき層のSi含有量は、Al含有量に対して0.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。SiのAlに対する含有量が0.5質量%以上であるとめっき層中のAlと鋼板との過度の合金化が充分に抑制される。SiのAlに対する含有量が10質量%より多くなるとSiによる作用が飽和するだけでなくめっき層の作製時に溶融めっき浴中にドロスが発生しやすくなってしまう。SiのAlに対する含有量は特に1.0質量%以上であることが好ましい。また、SiのAlに対する含有量は特に5.0質量%以下であることが好ましい。Siの含有量が1.0質量%以上5.0質量%以下であれば特に好ましい。
【0022】
めっき層がSiを含有する場合、めっき層中のSi:Mgの質量比が100:50〜100:300の範囲内であることが好ましい。この場合、めっき層中のSi−Mg層の形成が特に促進され、めっき層におけるしわの発生が更に抑制される。このSi:Mgの質量比は、更に100:70〜100:250であることが好ましく、更に100:100〜100:200の範囲内であることが好ましい。
【0023】
めっき層がSiを含有する場合、めっき層は、0.2体積%以上15体積%以下のSi−Mg相を含むことが好ましい。Si−Mg相は、SiとMgとの金属間化合物で構成される層であり、めっき層中に分散して存在することができる。めっき層におけるSi−Mg相の体積割合は、めっき層をその厚み方向に切断した場合の切断面におけるSi−Mg相の面積割合と等しい。めっき層の切断面におけるSi−Mg相は、電子顕微鏡観察により明瞭に確認され得る。このため、切断面におけるSi−Mg相の面積割合を測定することで、めっき層におけるSi−Mg相の体積割合を間接的に測定することができる。めっき層中のSi−Mg相の体積割合が高いほど、めっき層におけるしわの発生が抑制される。これは、めっき層の作製時に溶融めっき金属が冷却されることで凝固してめっき層が形成されるプロセスにおいて、溶融めっき金属が完全に凝固する前に、Si−Mg相が溶融めっき金属中で析出し、このSi−Mg相が溶融めっき金属の流動を抑制するためと考えられる。Si−Mg相の体積割合は0.2体積%以上10体積%以下であればより好ましく、0.4体積%以上5体積%以下であれば更に好ましい。
【0024】
めっき層は、Ca、Sr、Y、La及びCeのうち、1種類以上を含有してもよい。めっき層がCaを含有する場合、めっき層のCa含有量は、0質量%を超えて0.5質量%
以下であることが好ましい。Ca含有量は、0.001質量%以上0.1質量%以下であればより好ましい。めっき層がSrを含有する場合、めっき層のSr含有量は、0質量%を超えて0.5質量%以下であることが好ましい。Sr含有量は、0.001質量%以上0.1質量%以下であればより好ましい。めっき層がYを含有する場合、めっき層のY含有量は、0質量%を超えて0.5質量%以下であることが好ましい。Y含有量は、0.001質量%以上0.1質量%以下であればより好ましい。めっき層がLaを含有する場合、めっき層のLa含有量は、0質量%を超えて0.5質量%以下であることが好ましい。La含有量は、0.001質量%以上0.1質量%以下であればより好ましい。めっき層がCeを含有する場合、めっき層のCe含有量は、0質量%を超えて0.5質量%以下であることが好ましい。Ce含有量は、0.001質量%以上0.1質量%以下であればより好ましい。これらの場合、被覆めっき鋼板の耐食性が向上するとともに、めっき層の表面における欠陥の抑制効果が期待される。
【0025】
アルカリ土類元素(Be、Ca、Ba、Ra)、Sc、Y、及びランタノイド元素(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu等)は、Srと同様の作用を発揮する。めっき層におけるこれらの成分の含有量の総量は、質量比率で1.0質量%以下であることが好ましい。
【0026】
Znは、めっき層の構成元素全体のうち、Zn以外の構成元素を除いた残部を占める。
【0027】
めっき層は、Al、Zn、Mg、Si、Ni、Ce、Cr、Fe、Ca、Sr及び希土類以外の元素を含有してもよい。例えば、めっき層は、Pb、Sn、Co、B、Mn及びCuからなる群から選択される一種以上の元素を含有してもよい。Al、Zn、Mg、Si、Ni、Ce、Cr、Fe、Ca、Sr及び希土類以外の元素は、めっき層中にその構成元素として含有していてもよく、鋼板から溶出したり、めっき浴の原料中に不純物として混在したりしてもよい。めっき層におけるAl、Zn、Mg、Si、Ni、Ce、Cr、Fe、Ca、Sr及び希土類以外の元素の総量の割合は、0.1質量%以下であることが好ましい。
【0028】
ただし、言うまでもないが、めっき層は、Pb、Cd、Cu、Mn等の不可避的不純物を含有してもよい。この不可避的不純物の含有量はできるだけ少ない方が好ましく、特にこの不可避的不純物の含有量の合計がめっき層に対して質量比率で1質量%以下であることが好ましい。
【0029】
鋼板とめっき層との間には、例えばAlとCrとを含有する合金層が介在していてもよい。
【0030】
[保護層]
保護層は、一般に化成処理層とも呼ばれ、めっき層を防食するために形成される層である。保護層は、例えば鋼板にめっき層を作製し、めっき層に化成処理剤を塗布して硬化させることで形成される。なお、本明細書中の説明において、硬化することには、化学反応によって硬化することと、乾燥されることで固化することとが、含まれる。化学反応することには、樹脂のみが化学反応することと、樹脂と樹脂以外の架橋剤、硬化剤等の成分とが化学反応することとが、含まれる。
【0031】
保護層は、ウレタン樹脂を含有する化成処理剤から形成される。保護層が、ウレタン樹脂を含有する化成処理剤から形成されることで、保護層の水、水蒸気、酸素等の腐食因子に対する遮蔽性を向上させて、めっき層の黒変を抑制することができる。
【0032】
ウレタン樹脂のガラス転移温度は、40℃以上である。すなわち、保護層は、ガラス転
移温度が40℃以上であるウレタン樹脂を含有する化成処理剤から形成される。ウレタン樹脂のガラス転移温度が40℃以上であることで、保護層は水、水蒸気、酸素等の腐食因子の遮蔽性に優れる。このため、例えば高温多湿の環境下においても、めっき層の表面に黒変が生じにくくなり、被覆めっき鋼板の表面外観の変化を抑制することができる。
【0033】
化成処理剤に含まれるウレタン樹脂は、ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂であれば特に限定されないが、水系ウレタン樹脂を用いることが好ましい。ウレタン樹脂として、例えばウレタンディスパーションを用いてもよく、水系ウレタンディスパーションを用いることが好ましい。
【0034】
ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂は、保護層に40質量%以上含有されることが好ましい。この場合、保護層は、優れた腐食因子に対する遮蔽性を有することができる。ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂は、保護層に50質量%以上含有されることがより好ましい。保護層中のガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂の含有量の上限は特に限定されない。
【0035】
ウレタン樹脂の酸価は、15mgKOH/g以上であることが好ましい。すなわち、化成処理剤に含まれるガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂の酸価は、15mgKOH/g以上であることが好ましい。この場合、化成処理剤から形成される保護層とめっき層との密着性を高めることができる。また,ウレタン樹脂と架橋剤が架橋反応を生じ易くなる。そのため、保護層とめっき層との界面から水、水蒸気、酸素等が侵入することを防ぐことができ、めっき層の黒変を抑制できる。ウレタン樹脂の酸価は、20mgKOH以上であることがより好ましい。この場合、保護層とめっき層との密着性をより高めることができる。ウレタン樹脂の酸価の上限は特に限定されないが、例えば50mgKOH以下であってよい。
【0036】
ウレタン樹脂は、最低造膜温度が50℃以下であることが好ましい。すなわち、化成処理剤に含まれるガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂は、最低造膜温度が50℃以下であることが好ましい。最低造膜温度が50℃以下であるウレタン樹脂を用いることで、化成処理剤から形成される保護層の腐食因子に対する遮蔽性がより向上し、めっき層の黒変が更に抑制される。ウレタン樹脂は、最低造膜温度が40℃以下であることがより好ましい。ウレタン樹脂の最低造膜温度の下限は特に限定されないが、例えば−5℃以上であることが好ましい。
【0037】
ウレタン樹脂は、熱軟化温度が200℃以下であることが好ましい。すなわち、化成処理剤に含まれるガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂は、熱軟化温度が200℃以下であることが好ましい。熱軟化温度が200℃以下であるウレタン樹脂を用いることで、化成処理剤から形成される保護層の腐食因子に対する遮蔽性がより向上し、めっき層の黒変が更に抑制される。ウレタン樹脂は、熱軟化温度が180℃以下であることがより好ましい。ウレタン樹脂の熱軟化温度の下限は特に限定されない。
【0038】
ウレタン樹脂は、最低造膜温度が50℃以下であり、かつ熱軟化温度が200℃以下であることが特に好ましい。最低造膜温度が50℃以下であり、かつ熱軟化温度が200℃以下であるウレタン樹脂を用いることで、化成処理剤から形成される保護層の腐食因子に対する遮蔽性が特に向上し、めっき層の黒変が更に抑制される。
【0039】
化成処理剤は、ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂以外の樹脂を含んでもよい。すなわち、化成処理剤から形成される保護層は、ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂以外の樹脂を含有してもよい。ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂以外の樹脂は、ガラス転移温度が40℃未満であるウレタン樹脂と、ウレタン樹脂
以外の樹脂とを含む。ウレタン樹脂以外の樹脂の例は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミド樹脂、エポキシ樹脂、及びアミノ樹脂を含む。
【0040】
化成処理剤が、ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂以外の樹脂を含む場合、ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂以外の樹脂の含有量は、保護層中に50質量%以下であることが好ましい。この場合、保護層は、腐食因子に対する良好な遮蔽性を有することができる。ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂以外の樹脂は、保護層中に40質量%以下で含まれることがより好ましい。ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂以外の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、保護層は、ガラス転移温度が40℃以上であるウレタン樹脂以外の樹脂を含まなくてもよい。
【0041】
化成処理剤は、架橋剤を含有することが好ましい。化成処理剤が架橋剤を含有することで、架橋剤とウレタン樹脂中の官能基とが架橋反応を起こし、これによって化成処理剤から形成される保護層の、腐食因子に対する遮蔽性がより向上する。化成処理剤中の架橋剤の含有量は、樹脂成分の含有量によって適宜調整されうる。
【0042】
架橋剤は、例えば、化成処理剤に0.3質量%以上含有されることが好ましい。この場合、化成処理剤から形成される保護層の腐食因子に対する遮蔽性を向上させることができる。架橋剤は、化成処理剤に0.5質量%以上含有されることがより好ましい。架橋剤の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、化成処理剤に20質量%以下で含有されてよい。
【0043】
化成処理剤に含まれる架橋剤は、化成処理剤に含まれるウレタン樹脂中の官能基と架橋反応を起こすが、化成処理剤に含まれる架橋剤すべてが架橋反応に関与しなくてもよい。すなわち、化成処理剤に含まれる架橋剤は、化成処理剤から形成される保護層中に残存してもよい。
【0044】
架橋剤は、架橋性官能基を有する有機ケイ素化合物、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、及びブロックイソシアネート系架橋剤からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。この場合、化成処理剤中の架橋剤とウレタン樹脂の官能基とが、低温(例えば、常温〜約100℃)であっても架橋反応を起こしやすい。そのため、化成処理剤から保護層を形成する場合に、高温にする必要がなく、保護層の形成が容易になる。
【0045】
化成処理剤は、例えばクロメート処理剤、3価クロム酸処理剤などのクロムを含有する処理剤;リン酸亜鉛処理剤、リン酸鉄処理剤などのリン酸系の処理剤;コバルト、ニッケル、タングステン、ジルコニウムなどの金属酸化物を単独であるいは複合して含有する酸化物処理剤;腐食を防止するインヒビター成分を含有する処理剤;バインダー成分(有機、無機、有機―無機複合など)とインヒビター成分を複合した処理剤;インヒビター成分と金属酸化物とを複合した処理剤;バインダー成分とシリカやチタニア、ジルコニアなどのゾルとを複合した処理剤;又は上記に例示した処理剤の成分を更に複合した処理剤である。
【0046】
化成処理剤のより好ましい例としては、ジルコニウムを含有する酸化物処理剤、リン酸化合物、及びクロムを含有する処理剤が挙げられる。
【0047】
ジルコニウムを含有する酸化物処理剤は、例えば、水及び水分散性のポリエステル系ウレタン樹脂と、水分散性アクリル樹脂と、炭酸ジルコニウムナトリウムなどのジルコニウム化合物と、ヒンダードアミン類とを含有する。水分散性のポリエステル系ウレタン樹脂は、例えばポリエステルポリオールと水添型イソシアネートとを反応させるとともにジメ
チロールアルキル酸を共重合させることで自己乳化させることで合成される。このような水分散性のポリエステル系ウレタン樹脂によって、乳化剤を使用することなく保護層に高い耐水性を付与することができるとともに、被覆めっき鋼板の耐食性や耐アルカリ性が向上しうる。
【0048】
リン酸化合物としては、特に限定されないが、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等のリン酸類及びこれらの塩;アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類及びこれらの塩;並びにフィチン酸等の有機リン酸類及びこれらの塩等を挙げることができる。塩類のカチオン種としては特に制限されず、例えば、Cu、Co、Fe、Mn、Sn、V、Mg、Ba、Al、Ca、Sr、Nb、Y、Ni、Zn及びアンモニウム等が挙げられるが、Al及びアンモニウムであることが好ましい。これらのリン酸化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
クロムを含有する処理剤は、例えば、水及び水分散性アクリル樹脂と、アミノ基を有するシランカップリング剤と、クロム酸アンモニウムや重クロム酸アンモニウム等のクロムイオンの供給源とを含有する。水分散性アクリル樹脂は、例えばアクリル酸などのカルボキシル基含有モノマーとアクリル酸グリシジルなどのグリシジル基含有モノマーとを共重合させることで得られる。この化成処理剤から形成される保護層は、耐水性、耐食性、及び耐アルカリ性が高い。また、この化成処理剤から形成される保護層は、被覆めっき鋼板1の白錆や黒錆発生を抑制することができ、被覆めっき鋼板の耐食性が向上しうる。
【0050】
保護層は、濃色顔料を含有することが好ましい。すなわち、化成処理剤は、濃色顔料を含有することが好ましい。保護層が濃色顔料を含有することで、めっき層の表面に黒変が生じた場合であっても、保護層が濃色顔料によって着色されるため、保護層によってめっき層の黒変が隠蔽されやすくなる。このため、被覆めっき鋼板の表面外観の変化を目立ちにくくすることができる。濃色顔料の例は、カーボンブラック、鉄黒、酸化クロム、酸化鉄、及びアルミン酸クロムを含む。これらのうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
濃色顔料は、保護層に0.1質量%以上3.0質量%以下で含有されることが好ましい。濃色顔料が、保護層に0.1質量%以上含有されることで、めっき層に黒変が生じた場合でも、黒変が隠蔽されやすくなる。このため、被覆めっき鋼板の表面外観の変化を目立ちにくくすることができる。また、濃色顔料が、保護層に3.0質量%以下で含有されることで、被覆めっき鋼板の金属光沢が低下することを防ぐことができる。濃色顔料は、保護層に0.3質量%以上1.5質量%以下で含有されることがより好ましい。
【0052】
保護層は、濃色顔料以外の添加剤をさらに含有してもよい。保護層は、例えば、濃色顔
料以外の顔料、無機粒子、有機粒子、架橋剤、密着性付与剤、及び防錆剤等を含有しうる。すなわち、化成処理剤は、濃色顔料以外の顔料、無機粒子、有機粒子、架橋剤、密着性付与剤、及び防錆剤等の添加剤を含有しうる。
【0053】
保護層は、1.5以上の屈折率を有する無機粒子を含有することが好ましい。すなわち、化成処理剤は、1.5以上の屈折率を有する無機粒子を含有することが好ましい。保護層が、1.5以上の屈折率を有する無機粒子を含有することで、めっき層の表面に黒変が生じたとしても、光が保護層において拡散反射され、黒変が隠蔽されやすくなる。このため、被覆めっき鋼板の表面外観の変化を目立ちにくくすることができる。
【0054】
1.5以上の屈折率を有する無機粒子の例は、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、鉄黒、硫酸バリウム、及びカーボンブラックを含む。これらのうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
保護層は、2.0以上の屈折率を有する無機粒子を含有することがより好ましい。この場合、被覆めっき鋼板の表面外観の変化をより目立ちにくくすることができる。1.5以上の屈折率を有する無機粒子の屈折率の上限は特に限定されないが、例えば4.0以下である。
【0056】
保護層に含有される1.5以上の屈折率を有する無機粒子と、保護層に含有されるガラス転移温度が40℃以上である樹脂との屈折率差は、絶対値で0.3以上であることが好ましい。この場合、保護層において光がより拡散反射されやすくなるため、めっき層の表面に黒変が生じたとしても、黒変がより目立ちにくくなる。保護層に含有される1.5以上の屈折率を有する無機粒子と、保護層に含有されるガラス転移温度が40℃以上である樹脂との屈折率差は、絶対値で0.5以上であることがより好ましい。保護層に含有される1.5以上の屈折率を有する無機粒子と、保護層に含有されるガラス転移温度が40℃以上である樹脂との屈折率差の上限は、特に限定されないが、例えば絶対値で3.0以下であってよい。
【0057】
保護層に含有される1.5以上の屈折率を有する無機粒子の平均粒径は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましい。この無機粒子の平均粒径が0.1μm以上であることで、保護層は、めっき層の表面の黒変をより目立たなくすることができる。また、この無機粒子の平均粒径が1.0μm以下であることで、無機粒子が保護層からはみ出て保護層の表面の平滑性が低下することを防げるため、保護層の耐食性が低下することを抑制できる。1.5以上の屈折率を有する無機粒子の平均粒径は、0.2μm以上0.5μm以下であることがより好ましい。この場合、保護層は、めっき層の表面の黒変を更に目立たなくすることができる。無機粒子の平均粒径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から算出される体積基準のメディアン径であり、市販のレーザー解析・散乱式粒度分布測定装置を用いて得られる。
【0058】
保護層が1.5以上の屈折率を有する無機粒子を含有する場合、この無機粒子は、保護層に0.1質量%以上5.0質量%以下で含有されることが好ましい。1.5以上の屈折率を有する無機粒子が、保護層に0.1質量%以上含有されることで、光が保護層において十分に拡散反射され、めっき層の表面に黒変が生じても、表面外観の変化がより目立ちにくくなる。また、この無機粒子が、保護層に5.0質量%以下で含有されることで、被覆めっき鋼板の金属光沢が低下することを防ぐことができる。このため、被覆めっき鋼板は、無塗装の状態であっても、表面外観の変化が抑制され、また十分な金属光沢を有しうる。1.5以上の屈折率を有する無機粒子は、保護層に0.3質量%以上3.0質量%以下で含有されることがより好ましい。
【0059】
保護層に含有される1.5以上の屈折率を有する無機粒子は、白色顔料を含むことが好ましい。すなわち、保護層は、白色顔料を含有することが好ましい。保護層が白色顔料を含有することで、保護層において光がより拡散反射されやすくなるため、めっき層の表面の黒変が更に目立ちにくくなる。白色顔料の例は、酸化チタン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、及び炭酸カルシウムを含む。これらのうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
保護層に含有される白色顔料は、酸化チタンを含むことが特に好ましい。すなわち、保護層は、酸化チタンを含有することが好ましい。保護層が酸化チタンを含有することで、保護層において光が特に拡散反射されやすくなるため、めっき層の表面の黒変が特に目立ちにくくなる。
【0061】
保護層が白色顔料を含有する場合、白色顔料は、保護層に0.1質量%以上5.0質量%以下で含有されることが好ましい。白色顔料が、保護層に0.1質量%以上含有されることで、光が保護層において十分に拡散反射され、めっき層の表面の黒変がより目立ちにくくなる。また、白色顔料が、保護層に5.0質量%以下で含有されることで、被覆めっき鋼板の金属光沢が低下することを防ぐことができる。このため、被覆めっき鋼板は、無塗装の状態であっても、無塗装の状態であっても、表面外観の変化が抑制され、また十分な金属光沢を有しうる。白色顔料は、保護層に1.0質量%以上3.0質量%以下で含有されることがより好ましい。
【0062】
保護層の付着量は、0.3g/m
2以上5.0g/m
2以下であることが好ましい。保護層の付着量がこの範囲内であることで、保護層が良好な耐食性を有する。保護層の付着量は、0.5g/m
2以上3.0g/m
2以下であることがより好ましい。
【0063】
めっき層と保護層との間には、保護層以外の化成処理層が形成されていてもよい。また、めっき層上にニッケルめっき処理、コバルトめっき処理といっためっき処理が施されていてもよい。
【0064】
また保護層上に、塗料を塗布して塗膜が形成されてもよい。たとえば、樹脂及び顔料を含有する塗料を保護層上に塗布し、焼付を行うことで塗膜を形成することができる。また、保護層上にクリア塗料を塗布、成膜してクリア層を形成してもよい。ただし、本実施形態では、被覆めっき鋼板は、ガラス転移温度が40℃以上である樹脂を含有する保護層を備えるため、めっき層の表面の黒変が生じにくく、無塗装であっても、表面外観の変化が抑制される。
【0065】
めっき層及び保護層は、鋼板の片面にのみ設けられていてもよく、鋼板の両面のそれぞれに設けられていてもよい。
【0066】
[被覆めっき鋼板の製造方法]
本実施形態に係る被覆めっき鋼板は、鋼板にめっき処理を施すことでめっき層を形成し、更にめっき層の上に保護層を形成することで製造される。
【0067】
鋼板をめっき処理する方法としては、例えば鋼板を、無酸化炉内で予備加熱した後に還元炉内で還元焼鈍し、続いて溶融めっき浴に浸漬してから引き上げる方法が挙げられる。また、鋼板をめっきする別の方法としては、例えば全還元炉を用いる方法が挙げられる。いずれの方法においても、鋼板に溶融めっき金属を付着させてから、ガスワイピング方式で、溶融めっき金属の付着量を調整し、次いで冷却することで、鋼板にめっき層を形成することができる。これらの工程は連続的に行うことができる。
【0068】
めっき層上に保護層を形成する前に、めっき層の表面に対する下地処理として、純水や各種有機溶剤液による洗浄や、酸、アルカリや各種エッチング剤を任意に含む水溶液や各種有機溶剤液による洗浄などが施されてもよい。このようにめっき層の表面が洗浄されると、めっき層の表層にMg系酸化皮膜が少量存在したり、めっき層の表面に無機系及び有機系の汚れ等が付着していたりしても、これらのMg系酸化皮膜や汚れ等がめっき層から除去され、これによりめっき層と保護層との密着性が改善され得る。
【0069】
保護層は、上述した化成処理剤を用いて形成される。まず、ロールコート法、スプレー法、浸漬法、電解処理法、エアーナイフ法など公知の方法で、化成処理剤をめっき層に塗布する。化成処理剤の塗布後、化成処理剤を硬化させることで保護層を形成する。化成処理剤の硬化方法は、例えば、常温放置や、熱風炉や電気炉、誘導加熱炉などの加熱装置による乾燥や焼付け、赤外線類、紫外線類や電子線類などエネルギー線を用いた方法が挙げられる。
【0070】
本実施形態では、めっき層上に塗布された化成処理剤を、70℃以上120℃以下の温度で3秒以上10秒以下加熱することで保護層を形成することが好ましい。この方法で形成された保護層は、腐食因子に対する優れた遮蔽性を有する。
【0071】
このようにして形成される保護層は、めっき層上で、連続状若しくは非連続状の皮膜となる。保護層の厚みは、処理の種類、求められる性能などに応じて、適宜決定される。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(1)被覆めっき鋼板の作製
まず、鋼板上にめっき層(Al含有量55質量%、Mg含有量2.0質量%、Zn含有量41.4質量%、Si含有量1.6質量%)を有する、厚み0.5mm、幅900mmの長尺のめっき鋼板(日鉄住金鋼板株式会社製のSGL鋼板)を用意した。
【0074】
表1の「組成」の欄に示す組成を有する化成処理剤を、上記のめっき層の上にロールコーターにより塗布してから、最高到達温度が90℃で5秒乾燥させることで、保護層を形成した。最高到達温度とは、乾燥時に到達する鋼板の最高温度を意味する。保護層の付着量は、表1の「付着量」の欄に示す通りである。
【0075】
これにより、実施例1〜10及び比較例1〜2の被覆めっき鋼板を得た。
【0076】
なお、表1の「組成」欄に記載の各成分の詳細は、以下の通りである。
・ウレタン樹脂A:第一工業製薬株式会社製、品名スーパーフレックス170、ガラス転移温度75℃、酸価20mgKOH/g、最低造膜温度5℃、熱軟化温度188℃
・ウレタン樹脂B:第一工業製薬株式会社製、品名スーパーフレックス150、ガラス転移温度40℃、酸価15mgKOH/g、最低造膜温度5℃、熱軟化温度195℃
・ウレタン樹脂C:第一工業製薬株式会社製、品名スーパーフレックス210、ガラス転移温度41℃、酸価45mgKOH/g、最低造膜温度23℃、熱軟化温度123℃
・ウレタン樹脂D:第一工業製薬株式会社製、品名スーパーフレックス130、ガラス転移温度101℃、酸価20mgKOH/g、最低造膜温度55℃、熱軟化温度174℃
・アクリル樹脂:DIC株式会社製、品名ボンコートEM−401、ガラス転移温度45℃、酸価10mgKOH/g、最低造膜温度45℃
・ウレタン樹脂a:第一工業製薬株式会社製、品名スーパーフレックス860、ガラス転移温度36℃、酸価10mgKOH/g、最低造膜温度28℃、熱軟化温度60℃
・有機ケイ素化合物:信越化学工業株式会社製、品名OFS−6020
・尿素/ホルムアルデヒド系架橋剤:DIC株式会社製、品名ベッカミンN−80
・Cr・Fe焼成顔料:東罐マテリアル・テクノロジー株式会社製、品名42−707A
・カーボンブラック:三菱ケミカル株式会社製、品名MA100
・無機粒子:石原産業株式会社製、品名タイペークCR−90、屈折率2.72、平均粒径0.25μm
・界面活性剤:ビッグケミー・ジャパン株式会社製、品名BYK−348
【0077】
(2)被覆めっき鋼板の評価
(2−1)ΔL
*(初期)の測定
変角色差計(X−Rite株式会社製、品番MA−68II)を用いて、透かし角度を110°に設定し、作製直後の実施例1〜10及び比較例1〜2の被覆めっき鋼板の保護層上のL
*値を、長さ方向に100mm間隔で5箇所の位置で測定した。このL
*値の最大値と最小値の差を絶対値で「ΔL
*(初期)」欄に示す。
【0078】
(2−2)ΔL
*(7日後)の測定
作製した実施例1〜10及び比較例1〜2の被覆めっき鋼板を、屋外に7日間保管した。その後、ΔL
*(初期)の測定方法と同様の方法でL
*値を測定した。このL
*値の最大値と最小値の差を絶対値で「ΔL
*(7日後)」欄に示す。
【0079】
(2−3)目視評価
実施例1〜10及び比較例1〜2の被覆めっき鋼板を屋外に7日間保管した後の、作製直後からの表面外観の変化を、目視によって観察し、以下の基準で評価した。その結果を表1の「目視」欄に示す。
A:黒変は観察されず、表面外観の変化は確認されない。
B:微小な黒変が観察されるが、表面外観の大きな変化は確認されない。
C:黒変が観察され、表面外観の変化が確認される。
【0080】
(2−4)金属光沢
実施例1〜10及び比較例1〜2の被覆めっき鋼板におけるめっき層の表面の金属光沢を、目視によって観察し、以下の基準で評価した。その結果を表1の「金属光沢」欄に示す。
A:めっき層の表面の金属光沢は、良好であった。
B:めっき層の表面に金属光沢が良好ではない箇所がみられた。
【0081】
(2−5)遮熱性
紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所株式会社製、品番UV−3600Plus)を用いて、実施例8及び9の被覆めっき鋼板のJIS K 5602で規定される780〜2500nmでの日射反射率を測定した。その結果を、以下の基準で評価し、表1の「遮熱性」欄に示す。
A:被覆めっき鋼板の日射反射率が、60%以上であった。
B:被覆めっき鋼板の日射反射率が、60%未満であった。
【0082】
【表1】