特許第6880300号(P6880300)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6880300洗濯用の洗浄剤・殺菌剤セット、洗濯用の洗浄剤、洗濯用の殺菌剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6880300
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】洗濯用の洗浄剤・殺菌剤セット、洗濯用の洗浄剤、洗濯用の殺菌剤
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/02 20060101AFI20210524BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20210524BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20210524BHJP
   C02F 1/76 20060101ALI20210524BHJP
   C11D 7/06 20060101ALI20210524BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20210524BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20210524BHJP
   A01N 59/00 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   C11D7/02
   C02F1/50 531P
   C02F1/50 531S
   C02F1/50 540B
   C02F1/50 540C
   C02F1/50 560F
   C02F1/72 101
   C02F1/76 A
   C11D7/06
   A01P3/00
   A01N59/16 Z
   A01N59/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-178493(P2020-178493)
(22)【出願日】2020年10月25日
【審査請求日】2020年10月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520418422
【氏名又は名称】田中 久美
(73)【特許権者】
【識別番号】514164672
【氏名又は名称】小林 美寿穂
(74)【代理人】
【識別番号】100180482
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 将隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 久美
(72)【発明者】
【氏名】小林 美寿穂
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−059642(JP,A)
【文献】 特開2000−246251(JP,A)
【文献】 特開2012−166193(JP,A)
【文献】 特開2013−240762(JP,A)
【文献】 特開2014−018714(JP,A)
【文献】 特表2019−537657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強アルカリ性電解水を主成分として溶液状に構成され、ドライクリーニング・水洗いその他の各種用途に応じた洗濯においてタンパク質や油脂の洗浄効果を発揮する洗浄剤あって、

製水と、
水酸化ナトリウム(NaOH)を含有する電解水であって、溶液状の本洗浄剤の全体量に対して6.5重量パーセントだけ添加されるpH(水素イオン濃度指数)12.5以上pH14.1以下の強アルカリ性電解水と、
光触媒であって、ルチル型の酸化チタン(TiO)と、
を含んでなり、
強アルカリ性電解水が重量濃度6.5%だけ添加されることで、当該洗浄剤全体の水素イオン濃度指数はpH10.3以上pH12.9以下に調製され、

1)強アルカリ性電解水は、洗濯物に付着したタンパク質や油脂を同洗濯物から除去し、かつ、これらタンパク質・油脂を養分として繁殖する細菌を殺菌するとともに、本洗浄剤に混合されている前記ルチル型の酸化チタンを同洗浄剤中に均一に分散させ、
(2)同ルチル型の酸化チタンは、紫外線が照射された際に、細菌が繁殖する原因物質となる前記タンパク質ならびに前記油脂に対する分解作用と、細菌自体に対する分解作用を及ぼ
ように構成されたことを特徴とする、洗濯用の洗浄剤
【請求項2】
請求項1に記載の洗濯用の洗浄剤おいて、
光触媒である前記ルチル型の酸化チタン(TiO)に加えて、鉄イオンや銅イオンがさらに付加されている
ように構成されたことを特徴とする、洗濯用の洗浄剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解水を主成分とする洗濯用の「洗浄剤・殺菌剤セット」と、洗浄剤と、殺菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
洗濯は、衣類などの衛生・保存を目的として行われる、日常生活に欠かせない、ごく身近な環境浄化に属する作業である。洗濯物は、一般的に屋内よりも屋外に干すことが多く、これは、外気にさらした方が洗濯物の乾きが早いことはもちろんのこと、日光に洗濯物を当てることである程度の殺菌効果が期待できるためと考えられる。
なお、太陽光線に含まれる光成分のうちでも、とりわけ紫外線が殺菌効果や細菌増殖の抑制効果をもたらしていることが実証されている。
【0003】
図4(a)に示すように、紫外線には、近紫外線(波長200〜380ナノメートル)と、遠紫外線(波長10〜200ナノメートル)がある。
さらに、近紫外線は、ヒトの健康や環境に対する影響の観点から、波長領域に応じて、UVA(波長315〜380ナノメートル)と、UVB(波長280〜315ナノメートル)と、UVC(波長200ナノメートル〜280ナノメートル)の3つに分類されている。
なお、地球の地表に到達する紫外線のうち95%はUVAであり、残りの5%がUVBである。
【0004】
なお、洗濯物を戸外ではなく室内に干した場合や、洗濯物を長時間湿ったまま放置しておいた場合、不快な臭いが発生することがある。
これは、皮膚常在菌が、適温・多湿な環境のもとで、洗濯では落としきれなかった皮脂やタンパク質を養分として繁殖したためである。
洗濯物を乾かすときに不快臭が生じるのを防ぐには、臭気の原因となる各種の雑菌が繁殖しないよう、殺菌効果のある塩素系漂白剤を使うなどの手立てをする必要がある。
ただし、塩素系漂白剤は、酸性の洗剤とまぜると塩素が発生するため、使用する際に留意する必要がある。
【0005】
ところで、水を利用した既存技術のうち洗濯に応用できそうなものとしては、特許文献1の技術がある。
この特許文献1には、点火装置と、酸素と水素の混合ガス噴射ノズルと、棒状ないしは線状金供給装置とを備えた燃焼室を、高圧水収容タンクの内部に設けることが開示されている。
同文献1の技術では、この燃焼室のなかで、点火装置により酸素と水素の混合ガス噴射ノズルに点火し、原料の金を溶解蒸発させることで金蒸気を生成する。
その後、発生した金蒸気を高圧水と接触させることで生じる金超微粒子を水中に浮遊分散させる、という非常に独自の装置構成を用いた製法により「金超微粒子含有高機能水」を生成する。
同文献1の構成からは「金超微粒子含有高機能水」として、酸素と水素を混合して生成される純水中に金超微粒子が浮遊分散したもの、が得られることになる。
特許文献1では、このような「金超微粒子」含有高機能水が、消臭剤としての効能も有することを示唆している(同文献1・第7段落)。
特許文献1によれば、純水に含まれる成分は、浮遊分散している金超微粒子だけであるため、同文献1の高機能水を消臭成分として洗濯に応用すれば、人体への安全性が確保されるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−214755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に例示したような従来の高機能水からなる消臭剤は、消臭効果に加えて、さらに害虫忌避効果も開示されている(同文献1・第7段落)。
しかしながら、特許文献1の金超微粒子含有高機能水は、殺菌効果を奏するまでは至っていない。
【0008】
なお、殺菌成分として用いられる物質には、代表的なものとして塩化ベンザルコニウムがある。
塩化ベンザルコニウムは、第4級アンモニウム塩に分類されるものであり、例えば、グラム陽性菌・グラム陰性菌などに対する消毒効果が認められている。
さらに、この塩化ベンザルコニウムは、2020年5月29日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構ならびに経済産業省により、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)に対する有効性も認められている。
しかしながら、塩化ベンザルコニウムは、ヒトの健康に対し、発疹・かゆみ・むくみ・刺激感などの過敏症状などを与えるおそれがある。
そのため、殺菌成分としての塩化ベンザルコニウムは、ヒトに対する安全性と健全性が十分確保されているとは言い難く、洗濯物(人間が着用する衣服など)に適用するには好ましくない。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、タンパク質や油脂に対する優れた洗浄効果を奏することで細菌が繁殖する原因物質(タンパク質や油脂)を減じるとともに、さらに洗濯物に使用した場合でもヒトへの安全性を確保しつつ細菌に対する殺菌効果を奏する、電解水を主成分とする洗濯用の洗浄剤・殺菌剤セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔第1発明〕
そこで、上記の課題を解決するために、本願の第1発明に係る洗濯用の洗浄剤・殺菌剤キットは、
強アルカリ性電解水を主成分として溶液状に構成され、ドライクリーニング・水洗いその他の各種用途に応じた洗濯においてタンパク質や油脂の洗浄効果を発揮する「洗浄剤」と、
強酸性電解水を主成分として溶液状に構成された、洗濯物に残留している細菌に対して殺菌効果を発揮する「殺菌剤」と、
からなる洗濯用の洗浄剤・殺菌剤キットであって、

前記洗浄剤は、
精製水と、
水酸化ナトリウム(NaOH)を含有する電解水であって、溶液状の本洗浄剤の全体量に対して6.5重量パーセントだけ添加されるpH(水素イオン濃度指数)12.5以上pH14.1以下の強アルカリ性電解水と、
光触媒である酸化チタン(TiO)と、
を含んでなり、
強アルカリ性電解水が重量濃度6.5%だけ添加されることで、当該洗浄剤全体の水素イオン濃度指数はpH10.3以上pH12.9以下に調製され、

前記殺菌剤は、
精製水と、
次亜塩素酸(HClO)を含有する電解水であって、溶液状の本殺菌剤の全体量に対して6.5重量パーセントだけ添加されるpH2.0以上pH2.7以下の強酸性電解水と、
光触媒である酸化チタン(TiO)と、
を含んでなり、
強酸性電解水が重量濃度6.5%だけ添加されることで、当該殺菌剤全体としての水素イオン濃度指数はpH3.2以上pH3.9以下に調製され、

前記洗浄剤において
(1)強アルカリ性電解水は、洗濯物に付着したタンパク質や油脂を同洗濯物から除去し、かつ、これらタンパク質・油脂を養分として繁殖する細菌を殺菌するとともに、本洗浄剤に混合されている酸化チタンを同洗浄剤中に均一に分散させ、
(2)酸化チタンは、紫外線が照射された際に、細菌が繁殖する原因物質となる前記タンパク質ならびに前記油脂に対する分解作用と、細菌自体に対する分解作用を及ぼし、

前記殺菌剤において
(1)強酸性電解水は、洗濯物に付着している細菌を殺菌するとともに、本殺菌剤に混合されている酸化チタンを同殺菌剤中に均一に分散させ、
(2)酸化チタンは、紫外線が照射された際に、細菌が繁殖する原因物質となるタンパク質ならびに油脂に対する分解作用と、細菌自体に対する分解作用を及ぼす構成とした。
【0011】
第1発明に係る洗濯用の「洗浄剤・殺菌剤セット」(図1)は、ドライクリーニング・水洗いその他の各種用途に応じた洗濯に用いられる。
この洗浄剤・殺菌剤セット100のうち、強アルカリ性領域の電解水を主成分とする洗浄剤200は、おもにタンパク質や油脂の除去に資する。
また、同洗浄剤・殺菌剤セット100において、強酸性領域の電解水を主成分とする殺菌剤300は、おもに洗濯物に付着している細菌の殺菌に資する。
【0012】
このように、第1発明では、対極的なpH(power of hydrogen:水素イオン濃度指数)領域(強アルカリ性領域および強酸性領域)に属する、それぞれに大きく特性の異なる2種類の電解水21・22を用いて洗浄剤200(図2)と殺菌剤300(図3)を構成しておく。
そして、「洗浄剤」を使用し、洗濯物に付着したタンパク質や油脂を除去する。
さらに、「殺菌剤」により、洗浄剤で除去しきれなかったタンパク質や油脂を養分として細菌が繁殖しないよう、洗濯物に付着している細菌を殺菌する。
【0013】
なお、食塩を加えた水道水を電気分解した際に、アルカリ性電解水と酸性電解水は「対で生成」される。
より詳細には、隔膜をへだてて、負極側においてはアルカリ性電解水が得られ、正極側においては酸性電解水が得られる。
本発明においては、食塩水を電気分解した際に、同時に生成されるアルカリ性電解水21・酸性電解水22の双方を、洗浄剤200と殺菌剤300の成分として利用する。
そのため、洗濯用の洗浄剤・殺菌剤セット100の製造工程において「原料を無駄なく有効活用」することができる。
【0014】
[洗浄剤]
第1発明の洗浄剤・殺菌剤セット100のうち洗浄剤200(図2)は、(1)強アルカリ性電解水21によるタンパク質・油脂の除去作用と、(2)酸化チタン3による、細菌が繁殖する原因物質(タンパク質や油脂)の分解作用と、(3)同酸化チタン3による細菌に対する分解(殺菌)作用と、を併せ持つ。
なお、高度にアルカリ性の強い電解水21は、それ自体が殺菌効果をも発揮する。
【0015】
そのため、溶液状の本洗浄剤200を用いた場合、細菌が繁殖する原因物質を除去(強アルカリ性電解水21の作用)および分解(酸化チタン3の作用)できる。
また、本洗浄剤200を用いた場合、タンパク質・油脂を養分として繁殖する細菌を分解(酸化チタン3の作用)することもできる。
なお、強アルカリ性電解水21に含まれる水酸化ナトリウム(NaOH)により、油脂はグリセリンと脂肪酸塩に分解され、さらに脂肪酸塩は界面活性(油になじみやすい親油基または疎水基と、水になじみやすい親水基の両方を有する性質)を示す。
また、タンパク質・油脂以外のその他の汚損物質を構成する無機粒子は強アルカリ性電解水21中において強い負電荷を帯びるとともに、洗濯物の構成物質も負電荷を帯びるため、汚損物質をなす無機粒子および洗濯物の構成物質が電気的斥力により相互に反発し、汚損物質(無機粒子)を洗浄(除去)できる。
【0016】
[殺菌剤]
また、第1発明の洗浄剤・殺菌剤セット100のうち殺菌剤300(図3)は、(1)強酸性電解水22による殺菌作用と、(2)酸化チタン3による、細菌が繁殖する原因物質(タンパク質・油脂)の分解作用と、(3)酸化チタン3による細菌に対する分解(殺菌)作用と、を併せ持つ。
【0017】
そのため、溶液状の本殺菌剤300を用いた場合、洗濯物に付着している細菌に対し、強酸性電解水22による殺菌作用と、光触媒3である酸化チタンによる分解作用を施すことができる。
また、本殺菌剤300を用いた場合、細菌が繁殖する原因物質であるタンパク質・油脂に対し、光触媒3である酸化チタンにより分解できる。
さらに、たとえウイルスであっても、タンパク質や油脂などで構成されている点では細菌と何ら変わることがないため、本願の洗浄剤200や殺菌剤300は、光触媒3を包含することで「ウイルス分解の相乗的効果」も奏しうる。
【0018】
[本洗浄剤に添加される、強アルカリ性電解水]
なお、強アルカリ性電解水21に含まれている水酸化ナトリウム(NaOH:分子量40)は、毒物及び劇物取締法の別表第2に挙げられている劇物に該当し、5%を超える水酸化ナトリウムを含む製剤は劇物としてみなされる。
なお、濃度5%の水酸化ナトリウム水溶液の場合、質量1000グラムの水酸化ナトリウム水溶液中(水950グラム)に質量50グラムの水酸化ナトリウム(NaOH)が含まれた状態にある。
水分量を1リットルに換算すると、1リットル(1052.63グラム)のNaOH水溶液中には、52.63グラム(1.32mol)のNaOHが含まれることになる。
NaOHは強塩基であるため、同NaOHの電離率を100%と仮定すると、水酸化物イオンのモル濃度[OH]=1.32mol/リットルであり、濃度5%の水酸化ナトリウム水溶液はpH=14.12となる。
【0019】
水酸化ナトリウムの濃度が5%を超過してしまうと、劇物として扱う必要があるため、本願洗浄剤200(図2)の製造工程における危機管理も複雑化する。
劇物を取扱うには、毒物劇物取扱責任者の資格を要するからである。
このような事態を未然回避すべく、第1発明では、精製水1に添加する強アルカリ性電解水21として、水酸化ナトリウムの濃度が5%(pH14.1)以下のアルカリ性電解水21を用いている。
【0020】
[pH14.1の強アルカリ性電解水を、重量濃度6.5%添加したときの洗浄剤のpH]
なお、第1発明においては、強アルカリ性電解水21を、洗浄剤200全体に対して重量濃度6.5%だけ添加する。
この場合、精製水935グラム(935CC)に対し、強アルカリ性電解水21を65グラム(体積61.75CCで、NaOHを3.25グラム含む)追加することになる。
なお、1リットル(1000CC)に換算すると、水酸化ナトリウムは3.26グラム含まれることになるため、NaOHの電離率を100%と仮定すると、水酸化物イオンのモル濃度[OH]=0.0815mol/リットルとなる。
水のイオン積K(1.0×10−14)=[H][OH]と、pH=−log[H]とから、洗浄剤200全体に対し、pH=14.1の強アルカリ性電解水21を濃度6.5%だけ添加したときの当該洗浄剤200のpHは「12.9」となる。
【0021】
[pH12.5の強アルカリ性電解水を、濃度6.5%添加したときの洗浄剤のpH]
また、洗浄剤200全体に対し、pH=12.5の強アルカリ性電解水21を濃度6.5%だけ添加したときの当該洗浄剤200のpHを求める。
強アルカリ性電解水21がpH=12.5のとき、[H]=10−12.5mol/リットルとなるため、[OH]=10−1.5=0.0316mol/リットルである。
すなわち、pH=12.5の強アルカリ性電解水21においては、1リットルの精製水1中に0.126グラムの水酸化ナトリウムが含まれている。すなわち、pH=12.5の強アルカリ性電解水21それ自体は、濃度0.0126%である。
【0022】
さらに、pH=12.5の強アルカリ性電解水21を濃度6.5%だけ精製水1に添加するときは、精製水935グラム(935CC)に対して、pH12.5の強アルカリ性電解水21を65グラム(体積64.99CCで、NaOHを0.0082グラム含む)追加することになる。
このとき、[OH]=0.0082g/リットル=2×10−4mol/リットルより、[H]=5×10−11mol/リットルとなり、洗浄剤200の溶液全体のpHは「10.3」となる。
【0023】
[本殺菌剤に添加される、強酸性電解水]
なお、第1発明において使用する強酸性電解水22は「pH2.0以上pH2.7以下」であり、さらに、強酸性電解水1キログラム中に有効塩素を20〜60ミリグラム含んでいる。
食塩水を電解して得られる、次亜塩素酸(HClO)を主成分とする水溶液(次亜塩素酸水)は、食品添加物として認められている。
さらに、食品添加物等の規格基準の一部改正により、次亜塩素酸水の成分規格を満たした強酸性電解水22は、食品の殺菌にも用いることができる。
本願における殺菌剤300は、洗濯に使用されるものであり、食品のように経口摂取されるものは使用対象として想定していないものの、衣服は日常生活においてヒトにとって身近なものである。
そのため、本発明では、安全面に配慮して「食品添加物等の規格基準に適合可能」な次亜塩素酸水の分量を採用している。
【0024】
[pH2.7の強酸性電解水を、重量濃度6.5%添加したときの殺菌剤のpH]
なお、第1発明においては、強酸性電解水22を、殺菌剤300全体に対して重量濃度6.5%だけ添加する。この場合、精製水935グラム(935CC)に対して、強酸性電解水22を65グラムだけ追加することになる。
強酸性電解水22がpH=2.7のとき、[H]=10−2.7mol/リットル=0.002mol/リットルとなる。
すなわち、pH=2.7の強酸性電解水22を、重量濃度6.5%(65グラム)だけ精製水935グラムに添加した場合、[H]=1.3×10−4mol/リットルだから、殺菌剤300全体の水素イオン濃度はpH=3.9となる。
【0025】
[pH2.0の強酸性電解水を、重量濃度6.5%添加したときの洗浄剤のpH]
強酸性電解水22がpH=2.0のとき、[H]=10−2.0mol/リットル=0.01mol/リットルとなる。
すなわち、pH=2.0の強酸性電解水22を、重量濃度6.5%(65グラム)だけ精製水935グラムに添加した場合、[H]=6.5×10−4mol/リットルだから、殺菌剤300全体の水素イオン濃度はpH=3.2となる。
【0026】
なお、食品安全委員会による添加物評価書(2006年12月)によれば、次亜塩素酸水にかかる遊離有効塩素の存在比は、図5(b)のような曲線特性を示す。
本願においては、図5(a)によればpH2.0〜pH2.7の強酸性電解水22は強酸性に区分されるものの、この強酸性電解水22(pH2.0〜pH2.7)を重量濃度6.5%となるように精製水で希釈することにより、最終的に、殺菌剤300全体の水素イオン濃度は「pH3.2〜pH3.9」に調製されている。
このとき、同図5(b)より、殺菌剤300中では、大半(90%以上)が「高い殺菌効果を有する次亜塩素酸(HClO)」の状態で存在している。
【0027】
なお、第1発明の洗浄剤200および殺菌剤300は、精製水1および同精製水により希釈した電解水21・22のような人体にとって無害な成分に加え、有機物(タンパク質・油脂)や細菌の分解成分としても食品添加物にも用いられ且つ生理的に不活性の酸化チタン3が採用されている。
そのため、たとえ使用者が、第1発明にかかる洗濯用の洗浄剤・殺菌剤キット100の使用時に、誤って洗浄剤200ないしは殺菌剤300に触れたり、経口摂取してしまった場合でも、高い安全性が確保される。
【0028】
[光触媒]
第1発明によれば、洗浄剤200および殺菌剤300に添加する光触媒3として「酸化チタン」を用いる。
なお、酸化チタン(TiO:分子量79.87)が光を吸収するピークは、図4(b)のように、紫外線領域に存在する。
【0029】
光触媒3として使用する酸化チタンの結晶構造には、ルチル型(正方晶:最安定型)・アナターゼ型(正方晶)・ブルッカイト型(斜方晶)があるものの、有機物の分解作用を高めるために、ルチル型よりもバンドギャップが大きいアナターゼ型の酸化チタンであることがより好ましい。
【0030】
さらに、酸化チタン(光触媒3)に紫外線が照射されると、光触媒3(酸化チタン)表面に正孔が生じ、この正孔が光触媒3表面の吸着水を酸化して「水酸基ラジカル」(ラジカルOH)を生成させる。
水酸基ラジカルは、活性酸素のなかで最も反応性が高く、かつ最も酸化力が強いため、糖質・タンパク質・脂質などあらゆる物質と反応する。
そのため、水酸基ラジカルは、酸化チタン(光触媒3)の表面に吸着している有機物を、水と二酸化炭素に分解する。
【0031】
この水酸基ラジカルの分解作用はきわめて強いものであり、有機物(タンパク質)や細菌を、最終的に二酸化炭素にまで分解してしまう。
そのため、第1発明の洗浄剤200もしくは殺菌剤300によれば、洗濯後においても、なお洗濯物にタンパク質や油脂が残留していても、洗濯物に光を照射することで(例えば、洗濯物を干して太陽光にさらしたときや、室内においての蛍光灯など照明下の光照射等)、酸化チタン(光触媒3)の効果により、洗い残したタンパク質や油脂が分解される。
洗い残したタンパク質や油脂は細菌が繁殖する原因となるが、第1発明によれば、洗濯物に光を当てることで細菌の繁殖を抑制でき、ひいては干した洗濯物から不快な臭気が生じることを防止できる。
【0032】
また、酸化チタン3に光照射することで生じた水酸基ラジカルの分解作用は、細菌が繁殖する原因物質であるタンパク質や油脂だけでなく、細菌にも直接的に作用する。
そのため、第1発明の洗浄剤200・殺菌剤300はともに、これらが用いられた洗濯物に光が照射されたときに、洗濯物に潜んでいる各種の細菌や構成を同じくするウイルスも分解できるため、洗浄剤200および殺菌剤300は「ウイルス分解の相乗的効果」も奏しうる。
【0033】
なお、図4(b)のように、酸化チタン単体の光の吸収ピークは、光波長380nm(ナノメートル)以下の紫外線領域にある。
そのため、本願の洗浄剤200および殺菌剤300には、可視光(光波長380ナノメートル〜780ナノメートル)に対する分解効果を高めるために、鉄イオンや銅イオンをさらに付加してもよい。
【0034】
[光触媒を、洗浄剤および殺菌剤中に均等分散させるための手法]
なお、上述したように、光触媒3である酸化チタンの分解作用は、酸化チタンの表面で生じる。
そのため、酸化チタン全体の表面部分の面積が大きければ大きいほど、酸化チタンによる反応性(分解作用)が高まることになる。
しかしながら、酸化チタンの表面部分の面積を大きくするべく、粒径0.1マイクロメートル以下の微細なコロイド状酸化チタンを使用した場合、コロイド状の酸化チタンが寄り集まって大きな粒子を構成してしまうため(凝集)、一般的に、溶液中に均等に分散させることが難しい。
そのため、本願の洗浄剤200または殺菌剤300の作製においても、酸化チタンを均等に分散させるのは難しいものと予想される。
【0035】
コロイド状の酸化チタンが電荷を持つのは強酸性領域もしくは強アルカリ性領域であり、中性(pH7)に近い領域ではコロイド状の酸化チタンが分散しにくく、溶液中に均等に分散させにくい。
なお、強酸性の状態では、酸化チタンの表面にある水酸基(OH)に水素イオンHが吸着することで、正に帯電した状態(OH)となると考えられる。
また、強アルカリ性の状態では、酸化チタンの表面にある水酸基(OH)に水酸基イオンOHが吸着することで、負に帯電した状態(O)となると考えられる。
そこで、本願発明者は、酸化チタン3同士がくっつかないようにするべく、酸化チタンがプラスの電気を帯びた状態もしくはマイナスの電気を帯びた状態とすれば、電気的な反発力によって凝集することがなくなり、溶液に均等に混ざった状態にできるものと考えた。
【0036】
ここで、第1発明においては、洗濯物に付着しているタンパク質や油脂の洗浄効果を高めるべく、洗浄剤200の主成分として「強アルカリ性電解水21」を配合している。
そのため、中性領域(pH7)付近では凝集しやすい酸化チタンであっても、アルカリ性の偏りが大きい本願洗浄剤200の環境下(pH10.3〜pH12.9)では「均等に分散させることが容易」であり(酸化チタン3は負に帯電する)、ひいては洗浄剤200に添加された酸化チタン3の分解効果を高めることもできる。
なお、酸化チタン3を洗浄剤200に混合することで、強アルカリ性電解水21と光触媒3の相乗効果により、同洗浄剤200において、強アルカリ性電解水21によるタンパク質・油脂の除去作用に加え、酸化チタン3によるタンパク質・油脂の分解効果をも得ることができる。
【0037】
また、第1発明においては、洗濯物に付着している細菌に対する殺菌効果を高めるべく、殺菌剤300の主成分として「強酸性電解水22」を配合している。
そのため、中性領域(pH7)付近では凝集しやすい酸化チタンであっても、酸性の偏りが大きい本願殺菌剤300の環境下(pH3.2〜pH3.9)では「均等に分散させることが容易」であり(酸化チタン3は正に帯電する)、ひいては殺菌剤300に添加された酸化チタン3の殺菌効果を高めることもできる。
なお、酸化チタン3を殺菌剤300に混合することで、強酸性電解水22と光触媒3の相乗効果により、殺菌剤300において、強酸性電解水22による殺菌作用に加え、酸化チタン3による細菌の分解効果をも得ることができる。
【0038】
〔第2発明〕
また、上記の課題を解決するために、本願の第2発明に係る洗濯用の洗浄剤・殺菌剤キットは、第1発明に係る洗濯用の洗浄剤・殺菌剤キットにおいて、
洗浄剤および殺菌剤の少なくとも一方に、
光触媒である酸化チタン(TiO)に加えて、鉄イオンや銅イオンがさらに付加されている構成とした。
【0039】
上述した図4(b)のごとく、酸化チタン単体の光の吸収ピークは380ナノメートル以下の紫外線領域にあるものの、第2発明によれば、洗浄剤200や殺菌剤300に鉄イオンや銅イオンを付加することで、図4(a)のような可視光(波長380ナノメートル〜780ナノメートルの光)に対する、細菌繁殖の原因物質(タンパク質・油脂)や細菌の分解効果を改善できる。
【0040】
〔第3発明〕
上記の課題を解決するために、本願の第3発明に係る洗濯用の洗浄剤は、
強アルカリ性電解水を主成分として溶液状に構成され、ドライクリーニング・水洗いその他の各種用途に応じた洗濯においてタンパク質や油脂の洗浄効果を発揮する洗濯用の「洗浄剤」であって、

精製水と、
水酸化ナトリウム(NaOH)を含有する電解水であって、溶液状の本洗浄剤の全体量に対して6.5重量パーセントだけ添加されるpH(水素イオン濃度指数)12.5以上pH14.1以下の強アルカリ性電解水と、
光触媒である酸化チタン(TiO)と、
を含んでなり、
強アルカリ性電解水が重量濃度6.5%だけ添加されることで、当該洗浄剤全体の水素イオン濃度指数はpH10.3以上pH12.9以下に調製され、
(1)強アルカリ性電解水は、洗濯物に付着したタンパク質や油脂を同洗濯物から除去し、かつ、これらタンパク質・油脂を養分として繁殖する細菌を殺菌するとともに、本洗浄剤に混合されている酸化チタンを同洗浄剤中に均一に分散させ、
(2)酸化チタンは、紫外線が照射された際に、細菌が繁殖する原因物質となる前記タンパク質ならびに前記油脂に対する分解作用と、細菌自体に対する分解作用を及ぼす構成とした。
【0041】
第3発明によれば、第1発明における洗浄剤200(図2)と同一の構成を有することにより、第1発明の洗浄剤200が奏する効果と同一の効果が得られる。
すなわち、第3発明の洗浄剤200は、(1)強アルカリ性電解水21による細菌が繁殖する原因物質(タンパク質や油脂)の除去作用、(2)酸化チタン3による、タンパク質・油脂の分解作用、(3)酸化チタン3による細菌に対する分解作用、を併せ持つ。
さらに、洗浄剤200は、酸化チタン3の作用により、ウイルス分解についても相乗的効果を奏しうる。
【0042】
〔第4発明〕
上記の課題を解決するために、本願の第4発明に係る洗濯用の殺菌剤は、
強酸性電解水を主成分として溶液状に構成された、洗濯物に残留している細菌に対して殺菌効果を発揮する洗濯用の「殺菌剤」であって、

精製水と、
次亜塩素酸(HClO)を含有する電解水であって、溶液状の本殺菌剤の全体量に対して6.5重量パーセントだけ添加されるpH(水素イオン濃度指数)2.0以上pH2.7以下の強酸性電解水と、
光触媒である酸化チタン(TiO)と、
を含んでなり、
強酸性電解水が重量濃度6.5%だけ添加されることで、当該殺菌剤全体としての水素イオン濃度指数はpH3.2以上pH3.9以下に調製され、

(1)強酸性電解水は、洗濯物に付着している細菌を殺菌するとともに、本殺菌剤に混合されている酸化チタンを同殺菌剤中に均一に分散させ、
(2)酸化チタンは、紫外線が照射された際に、細菌が繁殖する原因物質となるタンパク質ならびに油脂に対する分解作用と、細菌自体に対する分解作用を及ぼす構成とした。
【0043】
第4発明によれば、第1発明における殺菌剤300と同一の構成を有することにより、第1発明の殺菌剤300が奏する効果と同一の効果が得られる。
すなわち、第4発明の殺菌剤300は、(1)強酸性電解水22による殺菌作用、(2)酸化チタン3による、細菌が繁殖する原因物質(タンパク質・油脂)の分解作用、(3)酸化チタン3による細菌に対する分解(殺菌)作用、を併せ持つ。
さらに、殺菌剤300は、酸化チタン3の作用により、ウイルス分解についても相乗的効果を奏しうる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の実施形態に係る、洗濯用の洗浄剤・殺菌剤セットの構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る、電解水を主成分とする洗濯用の洗浄剤の組成を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る、電解水を主成分とする洗濯用の殺菌剤の組成を示す模式図である。
図4】(a)は、光を波長に応じて分けた区分を示す模式図、(b)は、酸化チタンの光吸収スペクトルを示す特性図である。
図5】(a)は、酸性・中性・アルカリ性の区分を示す模式図、(b)は、次亜塩素酸水にかかる遊離有効塩素の存在比を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図1乃至図5を参照して、本発明の洗濯用の洗浄剤・殺菌剤セットについて説明する。
[実施形態]
本発明の実施形態は、(1)タンパク質や油脂に対する優れた洗浄効果を奏することで細菌が繁殖する原因物質を減じるとともに、(2)細菌に対する殺菌効果を奏することを目的として、電解水を主成分とする洗濯用の洗浄剤・殺菌剤セット100を構成した例である。
【0046】
図1のように、本実施形態に係る洗濯用の洗浄剤・殺菌剤セット100は、洗浄剤200と殺菌剤300の組合せからなる。
【0047】
図1の洗浄剤200は、「強アルカリ性」電解水21を主成分として溶液状に構成されている。
同洗浄剤200は、洗濯においてタンパク質や油脂の洗浄効果を発揮する。
図2に示す洗浄剤200は、精製水1と、強アルカリ性電解水21と、光触媒3である酸化チタン(TiO2)と、を含んでなる。
【0048】
[本願洗浄剤の用法]
この洗浄剤200は、洗濯物(衣類など)にまんべんなく振りかけることで、洗濯物に含浸させて用いる。
また、洗濯機による洗濯に適さないもの(ウール製・シルク製の衣料品など)については、洗浄剤200をスプレーボトルに充填し原液のまま噴霧することで、衣服などに付着したタンパク質や油脂の洗浄を直接的に行える。
本願の洗浄剤200は、市場で入手可能な一般的な洗濯用洗剤とともに併用することが可能である。
なお、一般的な洗剤においては、陰イオン性の親水基を持つ陰イオン界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウムなどが用いられる。
【0049】
また、図1の殺菌剤300は、「強酸性」電解水22を主成分として溶液状に構成されている。
同殺菌剤300は、洗濯物に残留している細菌に対して殺菌効果を発揮する。
図3に示す洗浄剤300は、精製水1と、強酸性電解水22と、光触媒3である酸化チタン(TiO2)と、を含んでなる。
【0050】
[本願殺菌剤の用法]
殺菌剤300についても、洗浄剤200と同様、洗濯物にまんべんなく振りかけて同洗濯物に含浸させて用いる。
洗濯機による洗濯に適さないものについては、本殺菌剤300をスプレーボトルに充填し原液のまま噴霧することで、消毒液さながらに、飛沫などにより洗濯物に付着している細菌の殺菌(ウイルスの不活化)を直接的に実施することもできる。
本願の殺菌剤300は、市場で入手可能な一般的な柔軟剤とともに使用することが可能である。
なお、一般的な柔軟剤においては、陽イオン界面活性剤として、ジアルキルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩が用いられる。
【0051】
なお、洗浄剤200は、上述した構成要素1・21・3以外には「特別な洗浄成分・抗菌成分を一切含むことなく」調製されている。
同様に、殺菌剤300についても、上記の構成要素1・22・3以外には、特別な殺菌成分・抗菌成分を一切含むことなく調製されている。
【0052】
そのため、これら洗浄剤200および殺菌剤300の製造方法は「非常に簡易的」となっている。
具体的には、洗浄剤200を作るには、その構成要素1・21・3を混合するだけでよく、また、殺菌剤300を作るには、その構成要素1・22・3を混合するだけでよい。
なお、洗浄剤200・殺菌剤300に酸化チタン3を添加する際は、あらかじめ粉末状に加工された酸化チタン3を、精製水1と各電解水21または22の混合物に添加すればよい。
以下、本発明の洗浄剤200および殺菌剤300を構成する、精製水1・強アルカリ性電解水21・強酸性電解水22・光触媒3について、それぞれ説明する。
【0053】
[精製水]
精製水1は、イオン交換・蒸留・逆浸透・限外ろ過を単独に又は組合せて使用することで、常水から製造された水である。
本発明の洗浄剤200・殺菌剤300に使用する精製水1は、一般的な精製水(科学実験の溶媒やコンタクトレンズ・医療用器具の洗浄などに供する、雑菌が混入しても大きく影響が出ない用途に使う水)でよい。
洗浄剤200や殺菌剤300の使用目的(洗濯時における洗浄・殺菌)に照らして、高純度に精製されていることは溶媒(精製水1)に対して要求されないからである。
【0054】
[強アルカリ性電解水]
強アルカリ性電解水21は、本発明の洗浄剤200に添加される、水酸化ナトリウム(NaOH)を含有する電解水である。
本例においては、強アルカリ性電解水21として、水素イオン濃度指数が「pH12.5以上pH14.1以下」の電解水を用いる。
pH14.1の強アルカリ性電解水21は、濃度5%の水酸化ナトリウム(NaOH)を含有している。
水酸化ナトリウム(NaOH)は、毒物及び劇物取締法の別表第2において劇物として挙げられており、5%を超える水酸化ナトリウムを含む製剤は劇物としてみなされるため、その取扱いには、毒物劇物取扱責任者の資格が必要となる。
そこで、本願発明では、洗浄剤200の製造工程における危機管理の複雑化を避けるため、劇物としての取扱いが不要な水酸化ナトリウム濃度5%以下(pH14.1以下)の強アルカリ性電解水21を採用している。
【0055】
さらに本例では、pH12.5以上pH14.1以下の強アルカリ性電解水21を、洗浄剤200の全体量に対して「6.5重量パーセント」だけ添加する。
pH12.5以上pH14.1以下の強アルカリ性電解水21を重量濃度6.5%相当量だけ添加することで、洗浄剤200全体の水素イオン濃度指数は「pH10.3以上pH12.9以下」に調製されている。
【0056】
なお、アルカリ性電解水は、食塩を加えた水道水を電気分解した際に、負極側において得られる電解水である。
アルカリ性電解水は、タンパク質を溶解する能力や油脂を乳化する能力を有することから、一般に調理器具などの洗浄に用いられている。
また、アルカリ性電解水のうち、pH値がpH9〜10の範囲内にあるものは飲用可能とされている。
【0057】
本発明の洗浄剤200においては、溶液状である本剤200の全体量に対し「6.5重量パーセント」相当量だけ、pH12.5以上pH14.1以下のアルカリ性電解水21を添加する。
この極めて強いアルカリ性を示す電解水21が、細菌が繁殖する原因物質(タンパク質や油脂)に対して、非常に有効な洗浄効果をもたらす。
さらに、細菌が繁殖する原因物質(タンパク質・油脂)を除去することで、細菌の繁殖自体を抑制することも可能となる。
【0058】
[強酸性電解水]
強酸性電解水22は、本発明の殺菌剤300に添加される、次亜塩素酸(HClO)を含有する電解水である。
本例においては、強酸性電解水22として、水素イオン濃度指数が「pH2.0以上pH2.7以下」の電解水を用いる。
【0059】
さらに本例では、pH2.0以上pH2.7以下の強酸性電解水22を、殺菌剤300の全体量に対して「6.5重量パーセント」だけ添加する。
pH2.0以上pH2.7以下の強酸性電解水22を重量濃度6.5%相当量だけ添加することで、殺菌剤300全体の水素イオン濃度は「pH3.2以上pH3.9以下」に調製されている。
強酸性電解水22は、殺菌剤300に、強い殺菌作用をもたらす。
【0060】
[光触媒]
つぎに、光触媒3について説明する。
本願の洗浄剤200・殺菌剤300で使用する光触媒3は、酸化チタン(TiO)であり、強い酸化還元作用と、超親水作用を及ぼす。
酸化チタン(TiO)は、安価で化学的安定性に優れ、かつ高い光触媒活性(有機化合物分解性、抗菌性・抗ウイルス性など)を有し、さらに人体にも無害であることを理由に広く用いられている。
本発明において、酸化チタンの結晶構造は、最安定型のルチル型(正方晶)に限らず、アナターゼ型(正方晶)・ブルッカイト型(斜方晶)であってもよい。
【0061】
以下に、光触媒3(本例では、酸化チタン)が抗菌作用をもたらす原理について説明する。
光触媒活性を有する酸化チタン(TiO2)は、一般に、その価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップに相当するエネルギーを有する光を吸収すると、価電子帯に存在していた電子が伝導帯に遷移する。
価電子帯から伝導帯に遷移した電子は、酸化チタンの表面に吸着している物質に移動する性質がある。
そのため、酸化チタン表面に吸着している物質は、当該電子を受取ることにより還元される。
また、価電子帯から伝導帯に遷移した電子は、空気中の酸素を還元した場合には、スーパーオキシドアニオン(1つの不対電子を持つ酸素分子)を生成させる。
【0062】
一方、価電子帯に存在していた電子が伝導帯に遷移すると、価電子帯には正孔が生ずる。
価電子帯に生じた正孔は、酸化チタン(TiO2)表面に吸着している物質から電子を奪い取る性質がある。
そのため、酸化チタンの表面に吸着している物質は、酸化チタン価電子帯にある正孔により電子を奪われることで酸化される。
さらに、価電子帯に生じた正孔が、光触媒3表面の吸着水を酸化した場合には、水酸基ラジカル(ラジカルOH)を生成させる。
【0063】
水酸基ラジカルは、活性酸素のなかで最も反応性が高く、かつ最も酸化力(電子を奪う能力)が強いため、糖質・タンパク質・脂質などあらゆる物質と反応する。
そのため、洗浄剤200や殺菌剤300は、光触媒3(酸化チタン)を含有することで、細菌が繁殖する原因物質である「タンパク質や油脂を分解」できる。
【0064】
また、水酸基ラジカルの分解作用は、細菌が繁殖する原因物質であるタンパク質や油脂だけでなく、細菌にも直接的に作用する。
そのため、洗浄剤200や殺菌剤300は、本剤200・300が用いられた洗濯物に光が照射されたときに、洗濯物に潜んでいる各種の「細菌も、構成を同じくするウイルスも分解」できるため、本願の洗浄剤200および殺菌剤300は、光触媒3を包含することで「ウイルス分解の相乗的効果」を奏しうる。
【0065】
なお、酸化チタン(TiO2)を励起する際に必要な光エネルギー(価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップに相当するエネルギー)は、3.2電子ボルト〜3.3電子ボルトといわれている。
このエネルギーは、エネルギー量子と振動数の比例関係を基に換算すると約380nmの波長に相当し、近紫外線領域(波長200〜380nm)に含まれる。
【0066】
以上説明したように、洗浄剤・殺菌剤セット100を構成する「洗浄剤」200によれば、(1)細菌が繁殖する原因物質(タンパク質・油脂)の洗浄分解機能と、(2)細菌に対する分解機能、を両立・併存できる。
なお、タンパク質・油脂の洗浄機能と分解機能は、強アルカリ性電解水21と酸化チタン3によりもたらされるものであり、細菌の分解機能は、酸化チタン3によりもたらされる。
【0067】
とりわけ、洗浄剤200を用いて洗濯を終えたのちに、タンパク質・油脂などの細菌が繁殖する原因物質の洗い残しがあったとしても、紫外線が同剤200に当たることで、光触媒3たる酸化チタン(TiO2)により、これらの原因物質が分解される。
また、酸化チタンは、タンパク質・油脂だけでなく細菌にも分解作用を及ぼすため、本願の洗浄剤200は、タンパク質・油脂を養分として繁殖する細菌も分解できる。
【0068】
さらに、ウイルスであっても、タンパク質や油脂などで構成されている点では細菌と何ら変わることがないため、光触媒3(酸化チタン)は、ウイルスに対しても分解作用を及ぼす。
そのため、本願の洗浄剤200や殺菌剤300は、光触媒3を包含することで「ウイルス分解の相乗的効果」も奏しうる。
【0069】
また、洗浄剤・殺菌剤セット100を構成する「殺菌剤」300によれば、(1)殺菌機能と、(2)タンパク質・油脂の分解機能と、(3)細菌の分解機能、が併存できる。
なお、殺菌機能は、強酸性電解水22によりもたらされるものであり、タンパク質・油脂ならびに細菌の分解機能は、酸化チタン3によりもたらされる。
【0070】
そのため、殺菌剤300を用いた場合、洗濯物に付着している細菌を殺菌・分解できるだけでなく、紫外線が同剤300に当たることで、細菌繁殖の原因物質であるタンパク質・油脂についても分解できるため、洗濯物に付着している細菌繁殖の連鎖を断ち切ることにつながるものと考えられる。
【0071】
また、本願の洗浄剤200・殺菌剤300は、精製水1で希釈した電解水21・22や同精製水1のような人体にとって無害な成分に加え、有機物(タンパク質・油脂)や細菌の分解成分としても食品添加物にも用いられ且つ「生理的に不活性」の酸化チタン3が採用されている。
そのため、洗濯用の洗浄剤・殺菌剤キット100の使用時に、ヒトが誤って洗浄剤200ないしは殺菌剤300に触れたり、経口摂取してしまった場合でも、高い安全性が確保される。
【0072】
なお、アルカリ性電解水と酸性電解水は、食塩を加えた水道水を電気分解した際に対で生成されるものであり、隔膜をへだてて、負極側ではアルカリ性電解水が得られ、正極側では酸性電解水が得られる。
本発明では、食塩水を電気分解した際に同時に生成されるこれらのアルカリ性電解水21・酸性電解水22の双方を、洗浄剤200と殺菌剤300の成分として利用する。
そのため、洗濯用の洗浄剤・殺菌剤セット100の製造工程において「原料を無駄なく有効活用」することができる。
【0073】
また、原料を無駄なく有効活用できるに留まらず、本願の洗浄剤200および殺菌剤300の製造工程は「非常に簡易的」となっている。
洗浄剤200を作るには、その構成要素1・21・3を混合するだけでよく、他方、殺菌剤300を作るには、その構成要素1・22・3を混合するだけでよい。
なお、洗浄剤200・殺菌剤300に酸化チタン3を添加する際は、あらかじめ粉末状に加工された酸化チタン3を、精製水1と各電解水21または22の混合物に添加すればよい。
【0074】
さらに、本願発明では、光触媒3(酸化チタン)を、洗浄剤200・殺菌剤300中に均等分散させるための創意工夫が凝らされている。
酸化チタンの分解作用は、酸化チタンの表面で生じることから、酸化チタン表面の面積が大きいほど酸化チタンによる反応性(分解作用)が高まる。しかし、酸化チタンの全体的な表面積を大きくするべく微細なコロイド状酸化チタンを使用した場合、コロイド状の酸化チタンが凝集してしまい、溶液中に均等に分散させることは一般に困難である。
しかしながら、本願の洗浄剤200には主成分として「強アルカリ性電解水21」が配合されており、また、本願の殺菌剤300には主成分として「強酸性電解水22」が配合されている。
このように、アルカリ性の偏りが大きい洗浄剤200の環境下(pH10.3〜pH12.9)では、酸化チタンは「負に帯電」する一方、酸性の偏りが大きい殺菌剤300の環境下(pH3.2〜pH3.9)では、酸化チタンは「正に帯電」する。
そのため、洗浄剤200および殺菌剤300中では、各々、光触媒3(酸化チタン)を均等に分散させることが容易であり、酸化チタンの分解効果を高めることができる。
【0075】
[変形例:鉄イオンまたは銅イオンの付加]
なお、本例の洗浄剤200や殺菌剤300では、光触媒3の「可視光領域における触媒作用」をより高めるべく、酸化チタン(TiO2)とともに鉄イオンまたは銅イオンを追加してもよい。
図4(b)のように、酸化チタン単体の光の吸収ピークは380ナノメートル以下の紫外線領域にある。
しかしながら、洗浄剤200や殺菌剤300において「鉄イオン」や「銅イオン」を付加することで、可視光(波長380ナノメートル〜780ナノメートルの光)に対する、細菌繁殖の原因物質(タンパク質・油脂)や細菌の分解効果を高めることができる。
【0076】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が理解し得る各種の変形が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 精製水
21 強アルカリ性電解水
22 強酸性電解水
3 光触媒
100 洗浄剤・殺菌剤セット
200 洗浄剤
300 殺菌剤
【要約】
【課題】タンパク質や油脂の洗浄効果と、ヒトへの安全性を確保しつつ殺菌効果を奏する、
【解決手段】洗浄剤200は、精製水と、水酸化ナトリウムを含有する電解水であって、溶液状の本洗浄剤の全体量に対して6.5重量パーセントだけ添加されるpH12.5以上pH14.1以下の強アルカリ性電解水と、光触媒である酸化チタンを含んでなり、強アルカリ性電解水が重量濃度6.5%だけ添加されることで、洗浄剤全体の水素イオン濃度指数はpH10.3以上pH12.9以下に調製される。殺菌剤300は、精製水と、次亜塩素酸を含有する電解水であって、溶液状の本殺菌剤の全体量に対して6.5重量パーセントだけ添加されるpH2.0以上pH2.7以下の強酸性電解水と、光触媒である酸化チタンを含んでなり、強酸性電解水が重量濃度6.5%だけ添加されることで、殺菌剤全体としての水素イオン濃度指数はpH3.2以上pH3.9以下に調製される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5