(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880354
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】分析測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20210524BHJP
G01N 31/12 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
G01N31/00 Q
G01N31/00 P
G01N31/12 A
G01N31/00 F
G01N31/00 D
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-161552(P2016-161552)
(22)【出願日】2016年8月2日
(65)【公開番号】特開2018-21886(P2018-21886A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】309033884
【氏名又は名称】佐藤 綾子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 綾子
【審査官】
三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−082807(JP,A)
【文献】
特開昭61−189458(JP,A)
【文献】
特開昭48−023496(JP,A)
【文献】
特開昭57−146148(JP,A)
【文献】
特開昭55−020479(JP,A)
【文献】
米国特許第04409336(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00
G01N 31/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を燃焼して該試料に含有されたハロゲン及び硫黄の含有量を求める分析測定システムにおいて、 試料を収納する燃焼管と、 前記燃焼管に収納された試料を加熱する燃焼炉と、前記燃焼炉で加熱された試料から発生する気体を吸収する為の吸収液を入れた容器と、前記容器に滴定液を滴下する滴定装置と、 前記容器内に設けられ、前記吸収液の電位変化を検出するための電極とを備え、
前記滴定装置が、前記吸収液による前記気体の吸収の終了を前記電極を用いることで電位変化で検出し、其の検出に連動して滴定を開始するものであることを特徴とする分析測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼式炭素、窒素、ハロゲン、硫黄分析測定に関する
【背景技術】
【0002】
炭素、窒素の定量については燃焼式有機元素分析法があるが、炭酸イオンや硝酸イオンの定量もある。ハロゲン、硫黄の定量については、フラスコ燃焼法が一般的であるが、フラスコ燃焼法は試料の重量をミクロ天びんで正確に量り、ろ紙にくるんで酸素を充満させた分解フラスコ中で燃やし、予め入れておいた吸収液に該イオンを吸収させたものを滴定又はイオンクロマト法で定量する。一方、近年開発された燃焼式ハロゲン硫黄分析計は、試料を800度以上の高温で燃焼し、イオンクロマト法を組み合わせて自動化されている。
【0003】
炭酸イオンや硝酸イオンの定量は環境や食品中に溶けている各イオンの定量が挙げられる。ハロゲン・硫黄の定量は、有機合成化合物の構造決定や、開発素材中の含有量を調べるなどに利用されるが、石油、鉄鋼、土壌中のハロゲン、硫黄の測定やゴミ焼却用高温ガス炉の安定化と制御のために可燃分中の塩素の定量、ダイオキシン含有判定の高効率な塩素の定量、さらにRoHS指令など環境分野の利用を挙げることができる。
【0004】
現在多く普及しているフラスコ燃焼法は、有機微量分析(非特許文献1)に記載されているように、
1.燃焼用フラスコに30mlの吸収液を入れる。
2.試料の重さを正確に計り、図に示すような形のろ紙にくるむ
3.試料の入ったろ紙を白金網に挟んで取り付ける。
4.純酸素をフラスコに充填し、白金網に挟んだろ紙の先端に点火してすばやくフラスコに挿入する。
4.ろ紙にくるまれた試料がフラスコ中で燃焼し、燃焼ガスがフラスコ中の吸収液に吸収されるまでしばらく放置する。
5.フラスコから吸収液を滴定装置用のビーカーに移す。
6.自動滴定装置装置により各ハロゲン・硫黄の成分を定量する。
もう一方の燃焼式ハロゲン硫黄分析計は特許文献1に記述されているように、
1.試料の重さを正確に計り、燃焼管に挿入する
2.燃焼により発生したガスをキャリヤガスで吸収ユニットに移動させる。
3.イオンクロマト計を用いて各ハロゲン・硫黄の成分を定量する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】有機微量分析 (有機微量分析懇談会編集)1969年南港堂出版 p383−414
【0006】
【特許文献1】特開2010−156568
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フラスコ燃焼方法は手作業が多く、時間効率が悪い。一方、燃焼式ハロゲン硫黄分析方法は試料を燃焼させる装置と、燃焼により発生するガスを吸収させる装置と定量するためのイオンクロマト計を要し、装置全体が極めて大きく高価で普及しにくい。また検量線を作成しなければならないので、自動滴定装置に比べて作業が効率的ではない。さらに高温炉からの放熱による室温の上昇を抑えるために、エアコンによる測定環境の調整が必要という問題がある。
【0008】
従って、本発明は分析作業の効率化を図るとともに、分析計の小型化と省エネ化により電気エネルギー消費量を抑えて地球温暖化対策を考慮した設計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明
の分析測定システムは、
試料を燃焼して該試料に含有されたハロゲン及び硫黄の含有量を求める分析測定システムにおいて、
試料を収納する燃焼管と、
前記燃焼管に収納された試料を加熱する燃焼炉と、
前記燃焼炉で加熱された試料から発生する気体を吸収する為の吸収液を入れた容器と、
前記容器に滴定液を滴下する滴定装置と、
前記容器内に設けられ、前記吸収液の電位変化を検出するための電極とを備えたことを特徴とする。
また、本発明の分析測定システムにおいて、
前記滴定装置が、前記吸収液による前記気体の吸収の終了を前記電極を用いることで電位変化で検出し、其の検出に連動して滴定を開始するものであることを特徴としてもよい。
また、本発明の分析測定システムにおいて、
前記燃焼管は、前記滴定装置による滴定液の滴定が終了した後、次の試料が送入されるものであることを特徴としてもよい。
また、本発明の分析測定システムにおいて、
前記容器内の吸収液を攪拌するための攪拌機を備え、
前記容器は、前記攪拌機と前記滴定装置のビューレットチップと前記電極と前記気体の注入パイプそれぞれを差し込むための穴が設けられた蓋を有するものであることを特徴ととしてもよい。
なお、試料を燃焼して該試料に含有された炭素、窒素、ハロゲン及び硫黄の中から選んだ所定の元素の含有量を求める分析測定システムにおいて、試料を収納する燃焼管と、
前記燃焼管に収納された試料を加熱する燃焼炉と、
前記燃焼炉で加熱された試料から発生する気体を吸収する為の吸収液を入れた容器を有し、試料から発生する気体を吸収し、吸収の終了を電位変化で検出し、其の検出に連動して滴定を開始する制御プログラムを有して、該試料に含有された炭素、窒素、ハロゲン及び硫黄のいずれかを定量することを特徴とし
てもよい。
【0010】
本発明は、試料を燃焼して該試料に含有された炭素、窒素、ハロゲン及び硫黄の中から選んだ所定の元素の含有量を求める分析測定システムにおいて、
燃焼により発生したガスが吸収容器に全量達したことを吸収液の電位の測定によって決定し、連携して自動滴定が稼動するように設計された制御システムを有することを特徴としている。
【0011】
本発明は、試料を燃焼して該試料に含有された炭素、窒素、ハロゲン及び硫黄の中から選んだ所定の元素の含有量を求める分析測定システムにおいて、
燃焼により発生したガスが吸収容器に全量達したことを吸収液の電位の測定によって決定し、連携して自動滴定が稼動し、滴定が終了して終末点を得られたら、次の試料を燃焼管へ送入するように設計された制御システムを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された本発明においては、試料を燃焼して該試料に含有された炭素、窒素、ハロゲン及び硫黄の中から選んだ所定の元素の含有量を求める分析測定システムにおいて、加熱された試料から発生する気体を溶液に吸収する手段は燃焼式ハロゲン硫黄分析計のガス吸収ボックスが大型であるのに対し、100mlの容器として小型化される効果がある。
【0013】
このように構成された本発明によれば、燃焼分解により発生したガスの吸収が終わるのと連動して滴定し、滴定装置が終了すれば、連動して次の試料を燃焼するので、吸収に要する時間を含有量に合わせて合理化し、試料の燃焼から吸収、滴定の連動した制御システムにより効率的、迅速に定量できる効果がある。
【0014】
本発明の効果は発生するガスの吸収が終了する時間を電位で検出するので、試料中の炭素、窒素、ハロゲン、硫黄の含有量に比例した合理的な時間の短縮を図れる。連動して滴定が始また、試料をボートにはかり、燃焼管に送入する方式であるのでフラスコ燃焼法に比較して手作業が少なく、送入部分にオートサンプラーを取り付け、滴定が終わると自動で次の試料を挿入するプログラムにして効率的な定量ができる効果がある。
【0015】
本発明は定量手段に自動滴定法を用いているので、検量線を作成するための手間がなく、自動的に分析値%、μg、ppm濃度を得られる効果がある。
【0016】
本発明は上述した小型化、迅速化により燃焼式イオンクロマト法に比べて電気エネルギーの損失をおさえる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】 本発明を実施するシステムの構成図である。
【
図2】本発明の実施例における手順のフロー図である。
【
図3】本発明の吸収区間と滴定区間の電位変化である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1aに示すように、本発明のシステムの構成は、試料を収納する燃焼管(8)と、
前記燃焼管に収納された試料を加熱する燃焼炉(9)と、
前記燃焼炉で加熱された試料から発生する気体を溶液に吸収する為の吸収液を入れた容器(1)とで構成されており、其の容器にかぶせた蓋(14)の部分に試料から発生する気体を吸収容器に吸収するための注入用差込口(7)と自動滴定装置のビュレットチッ(3)と電極(6)と、吸収液を攪拌するための攪拌機(4)をセットできるような穴図b(15−18)をもつ。
【実施例】
【0019】
本発明の方法で該試料の炭素、窒素、ハロゲン及び硫黄のいずれかの定量を行う実施方法を
図2と
図3に従って以下に示す。
1.試料の重さを燃焼ボートにはかり、加熱された燃焼炉に設置されている燃焼管に送入する。
2.試料の燃焼により発生したガスはキャリヤーガスにより吸収液を入れた容器へ送られる。
3.吸収液を入れた容器にセットされた攪拌機が作動し、同じく容器にセットされた電極により電位の変化を測る。該試料の炭素、窒素、ハロゲン及び硫黄のいずれかの定量を行う各イオンに対応する電極がセットされている。
4.電位が決められた範囲内に安定したところで吸収が完了すると判断し(
図3)、連動して容器にセットされた自動滴定装置のビュレットチップから滴定液が滴下される。予め決められた滴定終末点決定方法で吸収液の濃度に対応しながら滴下量を制御して終末点を得る。
5.含有量% 、μg、ppmが示される。
6.終末点が得られると連動して、次の試料が燃焼管に送入される。つまり、試料を燃焼管に送入して、分析結果を得られるまで、制御プログラムにより連続してコントロールされている。さらに、分析結果が出ると連動して次の試料が送られる仕組みである。
【0020】
塩素の定量の場合について
装置は自動滴定装置及び複合銀電極を用いる。滴定液はN/200硝酸銀溶液,吸収液は特級アセトン、又は特級イソプロピルアルコール、又は水を用いる。10%硝酸でPH2に調整する。
試料は有機元素分析用標準試料Sベンジルチウロニウムクロリド(キシダ化学製)Cl含有量17.49を約5.0mg正確に量り、燃焼管に送入する。試料が燃焼し、ガスが発生すると、吸収容器の電位が下がる。吸収が終わると、電位(mv)はこの例の場合約−210mv(
図3)に一定になる。
決められた範囲に一定になったときを吸収の終わりとみなし、連動して滴定液が滴下し、自動滴定を開始する。濃度のわかっているテスト液で滴定の終末電位を求めたところ、終末電位(Ep)は15.0mv(
図3)であったので未知試料は電位が15.0mvに達したところを終末点と判断する。その結果、17.47%、901.1μg、20.02ppmが得られた。
臭素の定量の例として有機元素分析用標準試料ブロムアセトアニリド(キシダ化学製Br:37.33%)を約1.6mg量り燃焼管に送入する。この場合、装置のオートサンプラーを用いれば前の試料の終了に連動して自動に送入する。臭素の場合は吸収液はアセトンやイソプロピルアルコールより水が良い。試料のガスが吸収液に入ると電位がさがり約−225mv(
図3)で一定になる。前と同じように滴定装置が連動して硝酸銀が滴下され、滴定が始まる。予め濃度のわかっているテスト液で滴定の終末電位を求めたところ、終末電位(Ep)は−71.6mv(
図3)であったので、未知試料は電位が−71.6mvに達したところを終末点と判断する。その結37.35%、608.0μg、20.27ppmが得られた。
ヨウ素の定量の例として有機元素分析用標準試料ヨード安息香酸(キシダ化学製I:51.17%)を約2.0量り燃焼管に送入する。この場合、装置のオートサンプラーを用いれば前の試料の終了に連動して自動に送入する。吸収液は臭素と同じく、アセトンやイソプロピルアルコールより水が良い。試料のガスが吸収液に入ると電位がさがり、約−357mvで一定になる。
前と同じように滴定装置が連動して硝酸銀が滴下され、滴定が始まる。予め濃度のわかっているテスト液で滴定の終末電位を求めたところ、終末電位(Ep)は−102.1mvであったので、未知試料は電位が−102.1mvに達したところを終末点と判断する。その結果51.29%、1042.2μg、41.69ppmが得られた。吸収液の濃度とハロゲン定量の濃度範囲を調べたところ、2−3ppmくらいまで良好であった。以上の方法は未知試料のハロゲンの含有量に対応して合理的に分析が進行できるので、時間と電力の消費を抑えることが出来る。
【0021】
本発明の方法は該試料の炭素、窒素、ハロゲン及び硫黄の燃焼による発生ガスを吸収液に吸収させると同時に滴定液と接触させるので、フラスコ法のように吸収液を容器にあけかえる際のロスがないため正確である。さらに、燃焼式のようにあらゆる濃度の試料を想定して十分な「吸収するための時間」をとる必要がないため、迅速である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
近年環境規制対象物質としてPBB,ポリ臭素化ジフェニル類の含有されない証明が必要である。それには原料に臭素化合物を含有していないかどうか調べる必要が多くなってきた。特に電気電子機器の有害物質使用制限RoHS指令で規制されている有機化合物中の臭化物イオンの定量のニーズが高い。本発明の方法は医薬品やその他産業用試料の塩素、臭素、ヨウ素及び硫黄の含有の判定や品質検査用として利用できる。また石油、鉄鋼、土壌中の微量の塩素や硫黄の測定やゴミ焼却用高温ガス炉の安定化と制御のために可燃分中の塩素の定量、ダイオキシン含有判定の高効率な塩素の定量など多くの環境分野の利用を挙げることができる。
【0023】
本発明は燃焼と吸収と滴定を連動して定量を行い、数分で完了する。検量線を作成する手間を省き、消費電力量を1日8時間稼動する場合1/4削減できる。特に電気炉式燃焼装置は長時間の放熱により室温が上昇するのを空冷により抑えなければならないため、本発明の方法で迅速な定量を行うことで環境調整に要する消費電力量を削減し、地球温暖化排出量規制に効果をもたらすものである。
【符号の説明】
【0024】
1.試料ガス吸収容器
2.自動滴定装置
3.自動滴定装置ビュレット
4.プロペラスターラー
5.自動滴定装置ビュレットチップ
6.自動滴定装置電極
7.燃焼系からのガス注入口
8.燃焼管
9.燃焼炉
10.試料
11.燃焼ボート
12.送入棒
13.キャリアガス
14.吸収容器ふた
15.電極用差込穴
16.ビュレットチップ差込穴
17.プロペラスターラー差込穴
18.燃焼ガス注入パイプ差込穴