特許第6880443号(P6880443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880443
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】ゴム組成物および粘弾性ダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/08 20060101AFI20210524BHJP
   C08L 21/00 20060101ALN20210524BHJP
   C08K 3/36 20060101ALN20210524BHJP
   C08K 3/38 20060101ALN20210524BHJP
   C08K 5/54 20060101ALN20210524BHJP
【FI】
   F16F15/08 B
   !C08L21/00
   !C08K3/36
   !C08K3/38
   !C08K5/54
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-103632(P2016-103632)
(22)【出願日】2016年5月24日
(65)【公開番号】特開2017-210532(P2017-210532A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2019年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 俊茂
(72)【発明者】
【氏名】冨田 岳宏
【審査官】 中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−269313(JP,A)
【文献】 特開2007−023155(JP,A)
【文献】 特開2005−232295(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/123306(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/14
C08K3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘弾性ダンパの粘弾性体を形成するためのゴム組成物であって、主鎖中に二重結合を有するゴム、前記ゴムの総量100質量部あたり、100質量部以上、150質量部以下のシリカ、10質量部以上、40質量部以下のシラン化合物、および1質量部以上、10質量部以下の四ホウ酸アルカリ金属塩を含むゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴムは、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、およびクロロプレンゴムからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記請求項1または2に記載のゴム組成物からなる粘弾性体を備える粘弾性ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりする粘弾性体のもとになるゴム組成物と、当該ゴム組成物からなる粘弾性体を備えた粘弾性ダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばビルや橋梁等の建築物、産業機械、航空機、自動車、鉄道車両、コンピュータやその周辺機器類、家庭用電気機器類、さらには自動車用タイヤ等の幅広い分野において粘弾性体が用いられる。粘弾性体を用いることで振動エネルギーの伝達を緩和したり吸収したりして、免震、制震、制振、防振等をすることができる。
粘弾性体は、主に天然ゴム等のゴムを含むゴム組成物によって形成される。
【0003】
粘弾性体のもとになるゴム組成物には、振動が加えられた際のヒステリシスロスを大きくして、当該振動のエネルギーを効率よく速やかに減衰する性能、すなわち減衰性能を高めるためにカーボンブラック、シリカ等の無機充填剤、あるいはロジン、石油樹脂等の粘着性付与剤等を配合するのが一般的である(例えば特許文献1〜3等参照)。
これら従来の構成で、粘弾性体の減衰性能を現状よりもさらに高めるためには、無機充填剤や粘着性付与剤等の配合割合を増加させることが考えられる。
【0004】
しかし多量の無機充填剤を配合したゴム組成物はムーニー粘度が上昇して混練が難しくなり、また多量の粘着性付与剤を配合したゴム組成物は混練時の粘着性が高くなりすぎるため、いずれも加工性が低下して、所望の立体形状を有する粘弾性体を製造するために混練したり成形加工したりするのが容易でないという問題がある。
特に工場レベルで粘弾性体を量産する場合、加工性の低さはその生産性を大きく低下させ、生産に要するエネルギーを増大させ、さらには生産コストを高騰させる原因となるため望ましくない。
【0005】
特許文献4では天然ゴム等の、主鎖中に二重結合を有しかつ極性側鎖を有しないゴムに、シリカと、2以上の極性基を有する粘着性付与剤等とを配合して、粘弾性体の減衰性能を向上することが検討されている。
ところが、現状よりも減衰性能をさらに向上するために上記特定の粘着性付与剤の配合割合を増加させた場合には、当該粘着性付与剤が粘弾性体の表面にブルームしやすくなる。
【0006】
そして粘着性付与剤が粘弾性体の表面にブルームすると、当該粘弾性体を例えば金属部品等と接着して粘弾性ダンパを形成する際に、両者間で接着不良などを生じることなどが懸念される。
特許文献5では、粘着性付与剤として特定の軟化点を有するロジン誘導体を用いて、粘弾性体の減衰性能を向上することが検討されている。
【0007】
しかし、現状よりもさらに減衰性能を向上するためにロジン誘導体の配合割合を増加させた場合には、やはり混練時の粘着性が高くなりすぎて加工性が低下するという問題がある。
特許文献6では、減衰性付与剤としてイミダゾールとヒンダードフェノール系化合物を配合して、粘弾性体の減衰性能を向上することが検討されている。
【0008】
また特許文献7では、主鎖中に二重結合を有するゴムに、シリカおよびシリル化剤と、特定の反応性成分とを配合して、粘弾性体の高い剛性と良好な減衰性能、そしてゴム組成物の良好な加工性を両立させることが検討されている。
しかしこれらの構成でも、近年の、より一層の高減衰化の要求に対しては十分に対応しきれなくなりつつあるのが現状である。
【0009】
その上、特許文献1〜7に記載のもの等の、従来のゴム組成物を用いて形成した粘弾性体は、特に地震等によって大変形が加えられた際に減衰性能が大きく低下しやすく、かかる減衰性能の低下を織り込んだ上で所期の性能を確保しようとすると、粘弾性ダンパの、製品としての設計が複雑化するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3523613号公報
【特許文献2】特開2007−63425号公報
【特許文献3】特許第2796044号公報
【特許文献4】特開2009−138053号公報
【特許文献5】特開2010−189604号公報
【特許文献6】特許第5086386号公報
【特許文献7】特開2013−53251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、良好な加工性を有する上、現状よりも減衰性能に優れるとともに地震等によって大変形が加えられた際の減衰性能の低下が小さい粘弾性体を形成しうる、新規なゴム組成物を提供することにある。
また本発明の目的は、上記ゴム組成物からなる粘弾性体を備えるため、製品としての設計が複雑化するおそれのない建築物等の粘弾性ダンパを提供することにある。
【0012】
本発明は、粘弾性ダンパの粘弾性体を形成するためのゴム組成物であって、主鎖中に二重結合を有するゴム、前記ゴムの総量100質量部あたり、100質量部以上、150質量部以下のシリカ、10質量部以上、40質量部以下のシラン化合物、および1質量部以上、10質量部以下の四ホウ酸アルカリ金属塩を含むゴム組成物である。
また本発明は、上記本発明のゴム組成物からなる粘弾性体を備える粘弾性ダンパである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好な加工性を有する上、現状よりも減衰性能に優れるとともに地震等によって大変形が加えられた際の減衰性能の低下が小さい粘弾性体を形成しうる、新規なゴム組成物を提供できる。
また本発明によれば、上記ゴム組成物からなる粘弾性体を備えるため、製品としての設計が複雑化するおそれのない建築物等の粘弾性ダンパを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例、比較例のゴム組成物からなる粘弾性体の減衰性能を評価するために作製する、上記粘弾性体のモデルとしての試験体を分解して示す分解斜視図である。
図2】同図(a)(b)は、上記試験体を変位させて変位量と荷重との関係を求めるための試験機の概略を説明する図である。
図3】上記試験機を用いて試験体を変位させて求められる、変位量と荷重との関係を示すヒステリシスループの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ゴム組成物
シラン化合物はシリカと反応して、当該シリカの、主鎖中に二重結合を有するゴムに対する親和性や分散性を向上するために機能するが、発明者の検討によると四ホウ酸アルカリ金属塩は、かかるシラン化合物とシリカとの反応性を向上して、上記ゴムに対するシリカの親和性、分散性をさらに向上する効果を有している。
【0016】
そのためシラン化合物とともに四ホウ酸アルカリ金属塩を併用することで、ゴム組成物の加工性を低下させるおそれのあるシリカの配合割合を増加させることなしに、粘弾性体の減衰性能をさらに向上できるとともに、地震等によって上記粘弾性体に大変形が加えられた際に上記減衰性能が低下するのを抑制できる。
したがって本発明によれば、良好な加工性を有する上、現状よりも減衰性能に優れるとともに地震等によって大変形が加えられた際の減衰性能の低下が小さい粘弾性体を形成しうるゴム組成物を提供できる。
【0017】
〈ゴム〉
主鎖中に二重結合を有するゴムとしては、例えば天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、およびクロロプレンゴム(CR)からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
これらのゴムは、シラン化合物と反応させたシリカの親和性、分散性に優れる上、ガラス転移温度が室温(2〜35℃)付近に存在しないため、最も一般的な使用温度域である上記室温付近での剛性等の特性の温度依存性を小さくして、広い温度範囲で安定した減衰性能を示す粘弾性体を形成できるという利点がある。
【0018】
中でも、架橋させた状態でのゴム分子同士の架橋構造が緩やかで、減衰性能に優れた粘弾性体を形成できる上、入手しやすくゴム組成物をコスト安価に製造できる点で、天然ゴムが好適に使用される。
天然ゴムとしては、例えばSMR(Standard Malaysian Rubber)−CV60等の各種グレードの天然ゴムや、あるいは各種の脱蛋白天然ゴム等の1種または2種以上が挙げられる。
【0019】
また天然ゴムとともにSBRを併用すると、天然ゴムの加硫戻りとそれに伴う減衰性能の低下等とを抑制できる。
SBRとしては、スチレンと1,3−ブタジエンとを乳化重合法、溶液重合法等の種々の重合法によって共重合させて合成される種々のSBRがいずれも使用可能である。
またSBRとしては、スチレン含量によって分類される高スチレンタイプ、中スチレンタイプ、および低スチレンタイプのSBRがいずれも使用可能である。
【0020】
さらにSBRとしては、伸展油を加えて柔軟性を調整した油展タイプのものと、加えない非油展タイプのものとがあるが、本発明ではいずれのタイプのSBRも使用可能である。
これらSBRの1種または2種以上を使用できる。
天然ゴムとSBRの2種のゴムを併用する場合、SBRの配合割合は、両ゴムの総量100質量部中の5質量部以上であるのが好ましく、40質量部以下であるのが好ましい。
【0021】
SBRの配合割合がこの範囲未満では、当該SBRを併用することによる、上述した天然ゴムの加硫戻りとそれに伴う減衰性能の低下等とを抑制する効果が十分に得られないおそれがある。
一方、SBRの配合割合が上記の範囲を超える場合には相対的に天然ゴムの割合が少なくなるため、当該天然ゴムによる、粘弾性体の減衰性能を向上したり、当該粘弾性体をコスト安価に製造したりする効果が十分に得られないおそれがある。
【0022】
これに対し、SBRの配合割合を上記の範囲とすることにより、主に天然ゴムを使用することによる上述した効果を良好に維持しながら、天然ゴムの加硫戻りとそれに伴う減衰性能の低下等とを良好に抑制できる。
なお、かかる効果をより一層向上することを考慮すると、SBRの配合割合は、上記の範囲でも、両ゴムの総量100質量部中の10質量部以上であるのが好ましく、30質量部以下であるのが好ましい。
【0023】
また、SBRとして油展タイプのものを使用する場合は、当該油展タイプのSBR中に含まれる伸展油を除外した、固形分としてのSBR自体の質量部を基準としてゴムの総量や、上記ゴムの総量中でのSBRの質量部等を設定することとする。
〈シリカ〉
シリカは、シラン化合物の機能によってゴム中に分散されることで、粘弾性体の剛性および減衰性能を向上するために機能する。
【0024】
かかるシリカとしては、その製法によって分類される湿式法シリカ、乾式法シリカのいずれを用いてもよい。
また粘弾性体の減衰性能を向上する効果をさらに向上することを考慮すると、シリカとしてはBET比表面積が100〜400m/g、特に200〜280m/gであるものを用いるのが好ましい。BET比表面積は、例えば柴田化学器械工業(株)製の迅速表面積測定装置SA−1000等を使用して、吸着気体として窒素ガスを用いる気相吸着法で測定した値でもって表すこととする。
【0025】
シリカの具体例としては、例えば東ソー・シリカ(株)製のNipSil(登録商標)KQ〔湿式法シリカ、BET比表面積:240m2/g〕等が挙げられる。
シリカの配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり100質量部以上、150質量部以下に限定される
シリカの配合割合がこの範囲未満では、粘弾性体に良好な減衰性能を付与できないおそれがある。
【0026】
またシリカの配合割合が上記の範囲を超える場合には、ゴム組成物の加工性が低下したり、粘弾性体に大変形が加えられた際の耐久性が低下して、当該粘弾性体が破損したりするといった問題を生じるおそれがある。
これに対し、シリカの配合割合を上記の範囲とすることにより、ゴム組成物の加工性を向上したり、粘弾性体に大変形が加えられた際の耐久性を向上したりしながら、当該粘弾性体にできるだけ高い剛性と良好な減衰性能とを付与できる。
【0027】
なお、かかる効果をより一層向上することを考慮すると、シリカの配合割合は、上記の範囲でも、ゴムの総量100質量部あたり130質量部以下であるのが好ましい。
〈シラン化合物〉
シラン化合物としては、シリカと反応してその表面を改質することでゴムに対する親和性、分散性を向上して、当該シリカをゴム中に良好に分散できる、いわゆるシリル化剤やシランカップリング剤等として機能しうる種々のシラン化合物が使用可能である。
【0028】
中でもシラン化合物としては、式(1)
【0029】
【化1】
【0030】
〔式中、Rはフェニル基、または炭素数1〜10のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。nは1〜3の数を示す。〕
で表されるアルコキシシラン化合物が好ましい。
またアルコキシシラン化合物としては、例えばメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0031】
特に粘弾性体に高い剛性と良好な減衰性能とを付与することを考慮すると、シラン化合物としては、上記の中でも式(1)中のRがフェニル基、R2がメチル基で、かつnが1であるフェニルトリメトキシシランや、式(1)中のRがフェニル基、Rがエチル基で、かつnが1であるフェニルトリエトキシシランが好ましい。
シラン化合物の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり10質量部以上、40質量部以下に限定される
【0032】
シラン化合物の配合割合がこの範囲未満では、上述した、シリカの表面を改質してゴムに対する親和性、分散性を向上する効果が十分に得られないためゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。また粘弾性体に高い剛性と良好な減衰性能を付与できないおそれもある。
一方、シラン化合物の配合割合が上記の範囲を超える場合には却ってゴム組成物の加工性が低下したり、粘弾性体の剛性や減衰性能が低下したりするおそれがある。
【0033】
これに対し、シラン化合物の配合割合を上記の範囲とすることにより、ゴム組成物の加工性を向上しながら、当該粘弾性体にできるだけ高い剛性と良好な減衰性能とを付与できる。
なお、かかる効果をより一層向上することを考慮すると、シラン化合物の配合割合は、上記の範囲でも、ゴムの総量100質量部あたり15質量部以上であるのが好ましい。
【0034】
〈四ホウ酸アルカリ金属塩〉
四ホウ酸アルカリ金属塩としては、例えば四ホウ酸リチウム(Li)、四ホウ酸ナトリウム(Na)、四ホウ酸カリウム(K)等の1種または2種以上が挙げられる。
特に、前述したシラン化合物とシリカとの反応性を向上させて、ゴムに対するシリカの親和性、分散性を向上させる効果の点で四ホウ酸カリウムが好ましい。
【0035】
四ホウ酸アルカリ金属塩の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり1質量部以上、10質量部以下に限定される
四ホウ酸アルカリ金属塩の配合割合がこの範囲未満では上述した効果が十分に得られないため、特に粘弾性体に大変形が加えられた際の減衰性能の低下を十分に抑制できないおそれがある。
【0036】
一方、四ホウ酸アルカリ金属塩の配合割合が上記の範囲を超える場合には、ゴム組成物の架橋速度が速くなりすぎて、いわゆるゴムの焼けを生じやすくなるおそれがある。
これに対し、四ホウ酸アルカリ金属塩の配合割合を上記の範囲とすることにより、ゴムの焼けが生じるのをできるだけ抑制しながら、シラン化合物とシリカとの反応性、そしてゴムに対するシリカの親和性、分散性を向上させて、粘弾性体に大変形が加えられた際の減衰性能の低下をより一層良好に抑制できる。
【0037】
なお、かかる効果をより一層向上することを考慮すると、四ホウ酸アルカリ金属塩の配合割合は、上記の範囲でも、ゴムの総量100質量部あたり1.5質量部以上、特に3.5質量部以上であるのが好ましい。
また、四ホウ酸アルカリ金属塩の中でも特に四ホウ酸ナトリウムなどは、製法によっては結晶水を含む含水塩の状態で供給されるものもあるが、かかる含水塩を使用する場合は、その中に含まれる結晶水を除外した、有効成分としての四ホウ酸アルカリ金属塩自体の質量部を上記の範囲に設定すればよい。
【0038】
〈架橋成分〉
本発明のゴム組成物には、従来同様に、ゴムを架橋させるための架橋成分を配合できる。架橋成分としては架橋剤、促進剤が挙げられる。
このうち架橋剤としては、特に硫黄系架橋剤が好ましい。
また硫黄系架橋剤としては、例えば粉末硫黄、オイル処理粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、分散性硫黄等の硫黄や、あるいはテトラメチルチウラムジスルフィド、N,N−ジチオビスモルホリン等の有機含硫黄化合物などが挙げられ、特に硫黄が好ましい。
【0039】
硫黄の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、3質量部以下であるのが好ましい。
なお、例えば硫黄としてオイル処理粉末硫黄、分散性硫黄等を使用する場合、上記配合割合は、それぞれの中に含まれる有効成分としての硫黄自体の割合とする。
促進剤としては、例えばスルフェンアミド系促進剤、チウラム系促進剤等が挙げられる。促進剤は、種類によって架橋促進のメカニズムが異なるため、2種以上を併用するのが好ましい。
【0040】
このうちスルフェンアミド系促進剤としては、例えばN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフ
ェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等の1種または2種以上が挙げられる。
【0041】
スルフェンアミド系促進剤の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、3質量部以下であるのが好ましい。
またチウラム系促進剤としては、例えばテトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等の1種または2種以上が挙げられる。
【0042】
チウラム系促進剤の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、3質量部以下であるのが好ましい。
〈その他の成分〉
本発明のゴム組成物には、上記の各成分に加えて、さらにシリカ以外の他の無機充填剤、架橋助剤、軟化剤、粘着性付与剤、老化防止剤等を適宜の割合で配合してもよい。
【0043】
(無機充填剤)
シリカ以外の他の無機充填剤としては、例えばカーボンブラック等が挙げられる。
またカーボンブラックとしては、その製造方法等によって分類される種々のカーボンブラックのうち、充填剤として機能しうるカーボンブラックの1種または2種以上が使用可能である。
【0044】
カーボンブラックの配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり1質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
(架橋助剤)
架橋助剤としては、例えば酸化亜鉛等の金属化合物;ステアリン酸、オレイン酸、綿実脂肪酸等の脂肪酸その他、従来公知の架橋助剤の1種または2種以上が挙げられる。特に酸化亜鉛とステアリン酸とを併用するのが好ましい。
【0045】
このうち酸化亜鉛の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり1質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
またステアリン酸の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり1質量部以上であるのが好ましく、3質量部以下であるのが好ましい。
(軟化剤)
軟化剤は、ゴム組成物の加工性をさらに向上するための成分であって、当該軟化剤としては、例えば室温で液状を呈する液状ゴムが挙げられる。また液状ゴムとしては、例えば液状ポリイソプレンゴム、液状ニトリルゴム(液状NBR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0046】
このうち液状ポリイソプレンゴムが好ましい。液状ポリイソプレンゴムとしては、例えば(株)クラレ製のクラプレン(登録商標)LIR−30(数平均分子量:28000)、LIR−50(数平均分子量:54000)等が挙げられる。
なお液状ゴムは、ゴム組成物の主体を構成し、架橋前に室温で固形状を呈する前述した天然ゴムやSBR等のゴムの架橋時に、当該ゴムとともに架橋反応する成分ではあるが、特性上はあくまでも軟化剤であるため、ゴムの総量には加えないこととする。
【0047】
液状ゴムの配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり5質量部以上であるのが好ましく、50質量部以下であるのが好ましい。
また他の軟化剤としては、例えばクマロン・インデン樹脂等が挙げられる。
クマロン・インデン樹脂としては、主にクマロンとインデンの重合物からなり、平均分子量1000以下程度の比較的低分子量であって、軟化剤として機能しうる種々のクマロン・インデン樹脂が挙げられる。
【0048】
クマロン・インデン樹脂としては、例えば日塗化学(株)製のニットレジン(登録商標)クマロンG−90〔平均分子量:770、軟化点:90℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価9g/100g〕、G−100N〔平均分子量:730、軟化点:100℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:25KOHmg/g、臭素価11g/100g〕、V−120〔平均分子量:960、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価6g/100g〕、V−120S〔平均分子量:950、軟化点:120℃、酸価:1.0KOHmg/g以下、水酸基価:30KOHmg/g、臭素価7g/100g〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0049】
クマロン・インデン樹脂の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり3質量部以上であるのが好ましく、20質量部以下であるのが好ましい。
(粘着性付与剤)
粘着性付与剤としては、例えば石油樹脂等が挙げられる。また石油樹脂としては、例えば丸善石油化学(株)製のマルカレッツ(登録商標)M890A〔ジシクロペンタジエン系石油樹脂、軟化点:105℃〕等が好ましい。
【0050】
石油樹脂の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり3質量部以上であるのが好ましく、30質量部以下であるのが好ましい。
(老化防止剤)
老化防止剤としては、例えばベンズイミダゾール系、キノン系、ポリフェノール系、アミン系等の各種老化防止剤の1種または2種以上が挙げられる。特にベンズイミダゾール系老化防止剤とキノン系老化防止剤を併用するのが好ましい。
【0051】
このうちベンズイミダゾール系老化防止剤としては、例えば2−メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。
ベンズイミダゾール系老化防止剤の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
またキノン系老化防止剤としては、例えば丸石化学品(株)製のアンチゲンFR〔芳香族ケトン−アミン縮合物〕等が挙げられる。
【0052】
キノン系老化防止剤の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり0.5質量部以上であるのが好ましく、5質量部以下であるのが好ましい。
ゴム組成物
上記各成分を含む本発明のゴム組成物によれば、建築物の構造中に組み込まれる制震(制振)用の粘弾性ダンパを構成する粘弾性体を形成できる。
【0053】
して本発明によれば、主鎖中に二重結合を有するゴム、シリカ、シラン化合物、四ホウ酸アルカリ金属塩、架橋成分その他、各種成分の種類とその組み合わせおよび配合割合を調整することにより、粘弾性体を、粘弾性ダンパ用として適した優れた減衰性能を有するものとすることができる。
【0054】
《粘弾性ダンパ》
上記のように、本発明のゴム組成物を形成材料として用いて、建築物の構造中に組み込まれる粘弾性ダンパの粘弾性体を形成すると、当該粘弾性体が高い減衰性能を有することから、かかる粘弾性体を含む個々の粘弾性ダンパの減衰性能を向上して、その全体を小型化したり、1つの建築物に組み込む数を減らしたりしても従来と同等の制震性能を確保できる。
【0055】
また、地震等の発生によって大変形が加えられた際の減衰性能の低下を抑制でき、当該減衰性能の低下を織り込んだ上で所期の性能を確保する必要がなくなるため、上記粘弾性ダンパの、製品としての設計が複雑化するのを抑制できる。
その上、主鎖中に二重結合を有するゴムは、先に説明したように粘弾性体の減衰性能や物性等の温度依存性を小さくできることから、例えば温度差の大きい建築物の外壁付近に粘弾性ダンパを設置でき、建築物等における、粘弾性ダンパによる制震性能の設計の自由度を拡げることもできる。
【実施例】
【0056】
〈実施例1〉
ジエン系ゴムとしての天然ゴム〔SMR−CV60〕80質量部、およびSBR〔住友化学(株)製のSBR1502、非油展〕20質量部、計100質量部に、シリカ〔東ソー・シリカ(株)製のNipSil KQ〕125質量部、シラン化合物としてのフェニルトリエトキシシラン〔信越化学工業(株)製のKBE−103〕20質量部、および四ホウ酸カリウム〔米山化学工業(株)製〕4.5質量部と、下記表1に示す各成分のうち架橋成分以外の各成分とを配合し、密閉式混練機を用いて混練したのち、さらに架橋成分を加えて混練してゴム組成物を調製した。
【0057】
【表1】
【0058】
表中の各成分は下記のとおり。また表中の質量部は、それぞれ天然ゴムとSBRの総量100質量部あたりの質量部である。
液状ポリイソプレンゴム:(株)クラレ製のクラプレンLIR−50、数平均分子量:54000
カーボンブラック:FEF、東海カーボン(株)製のシースト3
ベンズイミダゾール系老化防止剤:2−メルカプトベンズイミダゾール、大内新興化学工業(株)製のノクラック(登録商標)MB
キノン系老化防止剤:丸石化学品(株)製のアンチゲンFR
酸化亜鉛2種:三井金属鉱業(株)製
ステアリン酸:日油(株)製の「つばき」
クマロン・インデン樹脂:軟化点90℃、日塗化学(株)製のニットレジン クマロンG−90
ジシクロペンタジエン系石油樹脂:軟化点105℃、丸善石油化学(株)製のマルカレッツM890A
5%オイル処理粉末硫黄:加硫剤、鶴見化学工業(株)製、硫黄自体の配合割合は1.5質量部
スルフェンアミド系促進剤:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)NS
チウラム系促進剤:テトラブチルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラーTBT−n
〈実施例2、3〉
四ホウ酸カリウムの配合割合を、ゴムの総量100質量部あたり1.5質量部(実施例2)、7.5質量部(実施例3)としたこと以外は実施例1と同様にしてゴム組成物を調製した。
【0059】
〈実施例4、5〉
シリカの配合割合を、ゴムの総量100質量部あたり100質量部(実施例4)、150質量部(実施例5)としたこと以外は実施例1と同様にしてゴム組成物を調製した。
〈実施例6、7〉
シラン化合物の配合割合を、ゴム分の総量100質量部あたり10質量部(実施例6)、40質量部(実施例7)としたこと以外は実施例1と同様にしてゴム組成物を調製した。
【0060】
〈比較例1〉
四ホウ酸カリウムを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にしてゴム組成物を調製した。
〈減衰特性試験〉
(試験体の作製)
実施例、比較例で調製したゴム組成物をシート状に押出成形したのち打ち抜いて、図1に示すように平面形状が矩形の平板1(厚み5mm×縦25mm×横25mm)を形成し、この平板1の表裏両面にそれぞれ加硫接着剤を介して厚み6mm×縦44mm×横44mmの矩形平板状の鋼板2を重ねて積層方向に加圧しながら150℃に加熱して、上記平板1を形成するゴム組成物を架橋させるとともに平板1を2枚の鋼板2と加硫接着させて、粘弾性体のモデルとしての減衰特性評価用の試験体3を作製した。
【0061】
(変位試験)
図2(a)に示すように上記試験体3を2個用意し、この2個の試験体3を、それぞれ一方の鋼板2を介して1枚の中央固定治具4に固定するとともに、両試験体3の他方の鋼板2に、それぞれ1枚ずつの左右固定治具5を固定した。そして中央固定治具4を、図示しない試験機の上側の固定アーム6にジョイント7を介して固定し、かつ2枚の左右固定治具5を、上記試験機の下側の可動盤8にジョイント9を介して固定した。
【0062】
なお両試験体3は、それぞれ平板1の互いに平行な2辺を下記変位方向と平行に揃えた状態で、上記のようにして固定した。
次にこの状態で可動盤8を、図2(a)中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向に押し上げるように変位させて、平板1を図2(b)に示すように厚み方向と直交方向に歪み変形させた状態とし、次いでこの状態から可動盤8を、今度は図2(b)中に白抜きの矢印で示すように固定アーム6の方向と反対方向に引き下げるように変位させて図2(a)に示す状態に戻す操作を1サイクルとして、平板1を繰り返し歪み変形、すなわち振動させた際の、当該平板1の厚み方向と直交方向の変位量(mm)と荷重(N)との関係を示すヒステリシスループH(図3参照)を求めた。
【0063】
測定は、温度20℃の環境下、上記の操作を3サイクル実施して3サイクル目の値を求めた。各サイクルにおける最大変位量は、いずれも平板1を挟む2枚の鋼板2の、当該平板1の厚み方向と直交方向のずれ量が平板1の厚みの100%となるように設定した。
次いで、上記の測定により求めた図3に示すヒステリシスループHのうち最大変位点と最小変位点とを結ぶ、図中に太線の実線で示す直線L1の傾きKeq(N/mm)を求め、この傾きKeq(N/mm)と、平板1の厚みT(mm)と、平板1の断面積A(mm)とから、式(a):
【0064】
【数1】
【0065】
によって等価せん断弾性率Geq(N/mm)を求めた。
そして比較例1における等価せん断弾性率Geq(N/mm)を100としたときの、各実施例の等価せん断弾性率Geq(N/mm)の相対値を求めた。
また図3中に斜線を付して示した、ヒステリシスループHの全表面積で表される吸収エネルギー量ΔWと、同図中に網線を付して示した、直線L1と、グラフの横軸と、直線L1とヒステリシスループHとの交点から上記横軸におろした垂線L2とで囲まれた領域の表面積で表される弾性歪みエネルギーWとから、式(b):
【0066】
【数2】
【0067】
によって等価減衰定数Heqを求めた。
そして比較例1における等価減衰定数Heqを100としたときの、各実施例の等価減衰定数Heqの相対値を求め、かかる相対値が97以上のものを良好(○)、97未満のものを不良(×)と評価した。
(大変形が加えられた際の減衰性能評価)
2サイクル目の最大変位量を300%として平板1を大変形させたこと以外は上記変位試験と同条件で、上記平板1を繰り返し変形させた際の、当該平板1の厚み方向と直交方向の変位量(mm)と荷重(N)との関係を示すヒステリシスループH(図3参照)を求めた。
【0068】
測定は温度20℃の環境下、上記大変形前の1サイクル目、および大変形後の3サイクル目の値を求めた。
すなわち、それぞれのヒステリシスループHから上記式(a)によって、上記1サイクル目の透過せん断弾性率Geq(1)(N/mm)と、3サイクル目の透過せん断弾性率
Geq(3)(N/mm)とを求めた。
【0069】
そして式(c):
【0070】
【数3】
【0071】
によって大変形前後のせん断弾性率の保持率(%)を算出し、比較例1における上記保持率(%)を100としたときの、各実施例の保持率(%)の相対値を求めて、かかる相対値が102以上であるものを良好(○)、102未満であるものを不良(×)と評価した。
以上の結果を表2、表3に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
表2、表3の実施例1〜7、比較例1の結果より、主鎖中に二重結合を有するゴム、シリカ、およびシラン化合物を含むゴム組成物に、さらに四ホウ酸カリウム等の四ホウ酸アルカリ金属塩を配合することにより、当該ゴム組成物の良好な加工性を維持しながら、減衰性能に優れるとともに地震等によって大変形が加えられた際の減衰性能の低下が小さい粘弾性体を形成できることが判った。
【0075】
また実施例1〜3の結果より、上記の効果をより一層向上することを考慮すると、四ホウ酸カリウムの配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり1質量部以上、中でも1.5質量部以上、特に3.5質量部以上であるのが好ましく、10質量部以下であるのが好ましいことが判った。
また実施例1、4、5の結果より、上記の効果をより一層向上することを考慮すると、シリカの配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり100質量部以上であるのが好ましく、150質量部以下、特に130質量部以下であるのが好ましいことが判った。
【0076】
さらに実施例1、6、7の結果より、シラン化合物の配合割合は、ゴムの総量100質量部あたり10質量部以上、特に15質量部以上であるのが好ましく、40質量部以下であるのが好ましいことが判った。
【符号の説明】
【0077】
1 平板
2 鋼板
3 試験体
4 中央固定治具
5 左右固定治具
6 固定アーム
7 ジョイント
8 可動盤
9 ジョイント
H ヒステリシスループ
L1 直線
L2 垂線
W エネルギー
ΔW 吸収エネルギー量
図1
図2
図3