(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の実施形態の説明]
特許文献1に開示されるようなリアクトルでは、巻回部の端面側から樹脂流路に樹脂を充填して内側樹脂部を成形する際に、樹脂によって樹脂流路内に気体が閉じ込められた状態となる場合がある。この場合、内側樹脂部に充填不良やガス焼けといった成形不良が発生する懸念がある。
【0011】
上述した特許文献1に記載のリアクトルの製造方法としては、例えば、コイルと磁性コアと絶縁介在部材とを組み合わせた組合体を金型内に配置し、金型内に溶融した樹脂を注入して樹脂モールドすることが挙げられる。これにより、外側コア部を樹脂で覆い、樹脂充填孔を介して巻回部と内側コア部との間に形成された樹脂流路に樹脂を充填して、外側樹脂部と内側樹脂部とを一体に成形することが可能である。
【0012】
一般に、金型内への樹脂の注入は、射出成形により樹脂に圧力をかけて行うが、巻回部の内周面と内側コア部の外周面との狭い隙間に樹脂を十分に行き渡らせるためには、高い圧力をかける必要がある。また、溶融した樹脂からガスが発生することがある。従来のリアクトルでは、内側樹脂部を成形する工程において、射出成形時に樹脂流路内の空気や樹脂から発生したガス(以下、まとめて「気体」という)が排気されずに樹脂によって閉じ込められた状態となり、内側樹脂部に気泡や空洞ができるなど、充填不良が発生する虞がある。また、樹脂流路内に流入した樹脂によって樹脂流路内に閉じ込められた気体が圧縮されて発熱し、その熱によって樹脂が炭化して劣化するなど、内側樹脂部にガス焼けが発生する虞がある。
【0013】
巻回部の両方の端面側から樹脂流路に樹脂を充填する場合は、両側から流入した樹脂によって樹脂流路内の気体の逃げ場がなく、樹脂流路内で樹脂が合流する。そのため、樹脂の合流箇所で気体が閉じ込められて圧縮されることにより、内側樹脂部に成形不良が発生し易くなる。特に、コイルにおいて巻回部を形成する隣り合うターン間が密着して隙間がない状態では、ターン間の隙間から樹脂流路内の気体を逃すことができず、樹脂流路内に気体が閉じ込められるので、成形不良の発生が顕著になる。
【0014】
本発明者らは、内側介在部材において樹脂流路内の気体を巻回部の端面側へ導く排気通路を設けることを提案する。これにより、樹脂流路に樹脂を充填して内側樹脂部を成形する際に樹脂によって樹脂流路内に閉じ込められる気体を、排気通路を通じて巻回部の端面側から排気することが可能になり、内側樹脂部の成形不良を低減できる。
【0015】
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0016】
(1)本発明の一態様に係るリアクトルは、
巻回部を有するコイルと、
前記巻回部の内側に配置される内側コア部、及び前記巻回部の外側に配置される外側コア部を有する磁性コアと、を備えるリアクトルであって、
前記巻回部の内周面と前記内側コア部との間に充填され、前記巻回部の軸方向に沿って連続する内側樹脂部と、
前記巻回部の内周面と前記内側コア部との間に介在され、前記内側樹脂部を形成する樹脂の流路となる樹脂流路を形成する内側介在部材と、を備え、
前記内側介在部材は、前記巻回部と前記内側コア部との間に配置される間隔保持片を有し、
前記間隔保持片には、前記樹脂流路に連通し、前記巻回部の軸方向に延びて前記巻回部の少なくとも一方の端面側に至る排気通路が設けられている。
【0017】
上記リアクトルによれば、間隔保持片に排気通路が設けられていることで、樹脂流路に樹脂を充填して内側樹脂部を成形する際に、排気通路を通じて樹脂流路内の気体を巻回部の端面側に導いて排気することが可能である。これは、巻回部の端面と端面介在部材との間には気体が通過する隙間が存在しているからである。したがって、上記リアクトルは、内側樹脂部を成形する際に、内側樹脂部において充填不良やガス焼けの発生を抑制でき、内側樹脂部の成形不良を低減できる。
【0018】
(2)上記リアクトルの一形態として、前記排気通路が、前記巻回部の一方の端面側から他方の端面側に亘って設けられていることが挙げられる。
【0019】
上記形態によれば、内側樹脂部を成形する際に排気通路を通じて樹脂流路内の気体を巻回部の両方の端面側から排気することが可能であり、効率よく排気できるので、内側樹脂部の成形不良をより低減できる。
【0020】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係るリアクトルの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
[実施形態]
<リアクトルの構成>
図1〜
図8を参照して、実施形態に係るリアクトル1を説明する。リアクトル1は、
図1〜
図4に示すように、巻回部2cを有するコイル2と、巻回部2cの内外に配置される磁性コア3と、コイル2と磁性コア3との間に介在される絶縁介在部材5とを備える組合体10(
図4参照)を有する。コイル2は、2つの巻回部2cを有し、両巻回部2cが互いに横並びに配置されている。磁性コア3は、
図2〜
図4に示すように、巻回部2cの内側に配置される2つの内側コア部31と、巻回部2cの外側に配置されて内側コア部31の両端部に接続される2つの外側コア部32とを有する。絶縁介在部材5は、巻回部2cの内周面と内側コア部31との間に介在される内側介在部材51(
図3参照)と、巻回部2cの端面と外側コア部32との間に介在される端面介在部材52とを有する(
図5、
図6も参照)。また、リアクトル1は、
図2に示すように、磁性コア3(内側コア部31及び外側コア部32)を一体に覆うモールド樹脂部4を備える。モールド樹脂部4は、巻回部2cの内周面と内側コア部31との間に充填される内側樹脂部41(
図3参照)と、外側コア部32の少なくとも一部を覆う外側樹脂部42(
図1参照)とを有する。リアクトル1の特徴の1つは、
図5、
図6に示すように、間隔保持片511に排気通路6を有する点にある。
【0022】
リアクトル1は、例えば、コンバータケースなどの設置対象(図示せず)に設置される。ここでは、リアクトル1(コイル2及び磁性コア3)において、
図1や
図4、
図5における紙面下側が、設置対象に面する設置側であり、設置側を「下」、その反対側を「上」とし、上下方向を高さ方向とする。また、コイル2の巻回部2cの並び方向(
図2、
図6の紙面上下方向、
図3の紙面左右方向)を横方向とし、コイル2(巻回部2c)の軸方向に沿った方向(
図2、
図5、
図6の紙面左右方向)を長さ方向とする。
図2は、巻回部2cを上下に分断する平面で切断した平断面図であり、
図3は、巻回部2cの軸方向に直交する横方向に切断した横断面図である。
図5〜
図8は、モールド樹脂部4(内側樹脂部41及び外側樹脂部42)を成形する前の状態を示すものであり、
図5及び
図6では、説明の便宜上、コイル2の巻回部2cを切り欠いて示している。
図5及び
図6では、分かり易くするため、排気通路6にハッチングを付している(
図9、
図10も同じ)。以下、リアクトル1の構成について詳しく説明する。
【0023】
(コイル)
コイル2は、
図1、
図4に示すように、2本の巻線2wをそれぞれ螺旋状に巻回してなる2つの巻回部2cを有し、両巻回部2cを形成するそれぞれの巻線2wの一方の端部同士が接合部2jを介して接続されている。両巻回部2cは、互いの軸方向が平行するように横並び(並列)に配置されている。接合部2jは、各巻回部2cから引き出された巻線2wの一方の端部同士を溶接や半田付け、ロウ付けなどの接合方法によって接合することで形成されている。巻線2wの他方の端部はそれぞれ、各巻回部2cから適宜な方向(この例では上方)に引き出されている。各巻線2wの他端部(即ち、コイル2の両端)には、端子金具(図示せず)が適宜取り付けられ、電源などの外部装置(図示せず)に電気的に接続される。コイル2は、公知のものを利用でき、例えば、両巻回部2cが1本の連続する巻線で形成されたものでもよい。
【0024】
〈巻回部〉
両巻回部2cは、同じ仕様の巻線2wからなり、形状・大きさ・巻回方向・ターン数が同じであり、巻回部2cを形成する隣り合うターン同士が密着している。巻線2wは、例えば、導体(銅など)と、導体の外周に絶縁被覆(ポリアミドイミドなど)とを有する被覆線(いわゆるエナメル線)である。この例では、各巻回部2cが被覆平角線の巻線2wをエッジワイズ巻きした四角筒状(具体的には、矩形筒状)のエッジワイズコイルであり、軸方向から見た巻回部2cの端面形状は角部が丸められた矩形状である(
図3、
図7参照)。巻回部2cの形状は、特に限定されるものではなく、例えば、円筒状や楕円筒状、長円筒状(レーストラック形状)などであってもよい。巻線2wや巻回部2cの仕様は適宜変更できる。
【0025】
この例では、
図1に示すように、コイル2(巻回部2c)がモールド樹脂部4で覆われておらず、リアクトル1を構成したとき、コイル2の外周面が露出された形態になる(
図2、
図3も参照)。そのため、コイル2から外部に放熱し易く、コイル2の放熱性を高めることができる。
【0026】
その他、コイル2は、電気絶縁性を有する樹脂でモールドされたモールドコイルであってもよい。この場合、コイル2を外部環境(粉塵や腐食など)から保護したり、コイル2の機械的強度や電気絶縁性を高めることができる。例えば、巻回部2cの内周面が樹脂で覆われていることで、巻回部2cと内側コア部31との間の電気的絶縁を高めることができる。コイル2をモールドする樹脂には、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ナイロン6やナイロン66といったポリアミド(PA)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂などの熱可塑性樹脂が利用できる。
【0027】
或いは、コイル2は、巻回部2cを形成する隣り合うターン間に融着層を備え、隣り合うターン同士が融着層によって接着された融着コイルであってもよい。この場合、隣り合うターン同士をより密着させることができる。融着層には、熱融着が可能な樹脂、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂などが利用できる。融着コイルの場合、隣り合うターン間が融着層で塞がれることにより、ターン間に隙間が実質的に存在しない場合がある。この例では、コイル2は、巻回部2cの隣り合うターン間に融着層(図示せず)を備える融着コイルである。
【0028】
(磁性コア3)
磁性コア3は、
図2〜
図4に示すように、巻回部2cの内側に配置される2つの内側コア部31と、巻回部2cの外側に配置される2つの外側コア部32とを有する。内側コア部31は、横並びに配置された巻回部2cの内側に位置し、コイル2が配置される部分である。つまり、両内側コア部31は、巻回部2cと同様に、横並び(並列)に配置される。内側コア部31は、その軸方向の端部の一部が巻回部2cから突出していてもよい。外側コア部32は、巻回部2cの両端側に位置し、コイル2が実質的に配置されない(即ち、巻回部2cから突出(露出)する)部分である。外側コア部32は、内側コア部31の両端部に配置され、両内側コア部31の各端部同士を接続するように設けられる。この例では、
図2に示すように、内側コア部31を両端から挟むように外側コア部32がそれぞれ配置され、両内側コア部31の各端面が外側コア部32の内端面32eにそれぞれ対向して接続されることによって環状の磁性コア3が構成されている。磁性コア3には、コイル2に通電して励磁した際に磁束が流れ、閉磁路が形成される。
【0029】
〈内側コア部〉
内側コア部31の形状は、巻回部2cの内周面に対応した形状である。この例では、内側コア部31が四角柱状(矩形柱状)に形成されており、軸方向から見た内側コア部31の端面形状は角部が面取りされた矩形状である(
図3、
図7参照)。内側コア部31の外周面は、4つの平面(上面、下面及び2つの側面)と4つの角部とを有する。ここでは、両巻回部2cの互いに対向する側を内側、その反対側を外側とし、2つの側面のうち、両巻回部2cの互いに対向する内側の側面を内側面、その反対側に位置する外側の側面を外側面とする。また、この例では、
図2、
図4に示すように、内側コア部31が複数(3つ)の内コア片31mを有し、内コア片31mが長さ方向に連結されて構成されている。
【0030】
内側コア部31(内コア片31m)は、軟磁性材料を含有する材料で形成されている。内コア片31mは、例えば、鉄又は鉄合金(Fe−Si合金、Fe−Si−Al合金、Fe−Ni合金など)といった軟磁性粉末や更に絶縁被覆を有する被覆軟磁性粉末などを圧縮成形した圧粉成形体や、軟磁性粉末と樹脂とを含む複合材料の成形体などで形成されている。複合材料の樹脂には、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、常温硬化性樹脂、低温硬化性樹脂などが利用できる。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、PPS樹脂、PTFE樹脂、LCP、PA樹脂、PI樹脂、PBT樹脂、ABS樹脂などが挙げられる。その他、不飽和ポリエステルに炭酸カルシウムやガラス繊維が混合されたBMC(Bulk Molding Compound)、ミラブル型シリコーンゴム、ミラブル型ウレタンゴムなども利用できる。この例では、内コア片31mが圧粉成形体で形成されている。
【0031】
〈外側コア部〉
外側コア部32は、
図2、
図4に示すように、1つのコア片で構成されている。外側コア部32は、内側コア部31(内コア片31m)と同様に、軟磁性材料を含有する材料で形成されており、上述した圧粉成形体や複合材料などが利用できる。この例では、外側コア部32が圧粉成形体で形成されている。
【0032】
外側コア部32の形状は、特に限定されない。この例では、磁性コア3を構成したとき、
図5に示すように、外側コア部32が内側コア部31に対して下方向に突出しており、外側コア部32の下面がコイル2(巻回部2c)の下面と面一になっている。外側コア部32の上面は内側コア部31の上面と面一になっている。
【0033】
(絶縁介在部材)
絶縁介在部材5は、
図4に示すように、コイル2(巻回部2c)と磁性コア3(内側コア部31及び外側コア部32)との間に介在され、コイル2と磁性コア3との間の電気的絶縁を確保する部材であり、内側介在部材51と端面介在部材52とを有する。絶縁介在部材5(内側介在部材51及び端面介在部材52)は、電気絶縁性を有する樹脂、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、PPS樹脂、PTFE樹脂、LCP、PA樹脂、PI樹脂、PBT樹脂、ABS樹脂などで形成されている。この例では、内側介在部材51及び端面介在部材52がPPS樹脂で形成されている。
【0034】
〈内側介在部材〉
内側介在部材51は、
図5、
図6に示すように、巻回部2cの内周面と内側コア部31の外周面との間に介在され、巻回部2cと内側コア部31との間の電気的絶縁を確保する。また、
図7に示すように、巻回部2cの内周面と内側コア部31の外周面との間に、内側樹脂部41(
図3参照)を形成する樹脂の流路となる樹脂流路45を形成する。内側介在部材51は、巻回部2cと内側コア部31との間に配置される間隔保持片511を有する。間隔保持片511は、巻回部2cの内周面と内側コア部31の外周面との間に介在して、所定の間隔を形成する。これにより、巻回部2c内に内側コア部31が位置決めされると共に、巻回部2cの内周面と内側コア部31の外周面との間に隙間が確保され、樹脂流路45が形成される。この例では、
図5〜
図7に示すように、間隔保持片511が内側コア部31の各角部にそれぞれ配置され、巻回部2cの軸方向に延在するように設けられている。
【0035】
内側介在部材51は、
図5、
図6に示すように、内コア片31m間に配置され、各内側コア部31にそれぞれ2つ設けられている。この例では、
図4に示すように、内コア片31m間に介在される矩形状の板部510を有する。板部510には、隣接する両内コア片31mの端部を囲む枠部512が形成されている。板部510は、
図2に示すように、内コア片31m間に介在して、内コア片31m間にギャップを形成する。間隔保持片511は、
図4に示すように、板部510の各角部に形成され、隣接する両内コア片31mの角部に沿って延在する(
図5、
図6も参照)。このような間隔保持片511により、
図7に示すように、間隔保持片511が配置されない内側コア部31の各平面(上面、下面及び両側面)の位置にそれぞれ樹脂流路45が形成されている。樹脂流路45は、
図3に示すように、内側樹脂部41を形成する樹脂の流路となり、各樹脂流路45に樹脂が充填されることで、内側樹脂部41が成形される。また、
図5、
図6に示すように、隣り合う内側介在部材51の間隔保持片511同士は突き合わされて連結され、巻回部2cの軸方向に連続する。
【0036】
〈端面介在部材〉
端面介在部材52は、
図5、
図6に示すように、巻回部2cの端面と外側コア部32の内端面32eとの間に介在され、巻回部2cと外側コア部32との間の電気的絶縁を確保する。端面介在部材52は、巻回部2cの両端にそれぞれ配置され、巻回部2cの端面に接する枠板部520を有する。枠板部520には、
図4、
図8に示すように、各内側コア部31の端部が挿入される2つの貫通孔52hが形成されている。この例では、内側コア部31の端面の角部に当接する位置に、貫通孔52hの角部から内方に張り出す突起523が形成されている。突起523が内側コア部31の端面の角部と外側コア部32の内端面32eとの間に介在して、内側コア部31の端面と外側コア部32の内端面32eとの間に隙間が形成される。また、
図8に示すように、組合体10の状態において外側コア部32側(正面側)から見たとき、外側コア部32との間に巻回部2c内に連通する樹脂充填孔524が形成されるように、貫通孔52hが形成されている。樹脂充填孔524は樹脂流路45(
図7参照)に連通しており、樹脂充填孔524を介して、各樹脂流路45に樹脂を充填することが可能である。
【0037】
この例では、
図4、
図8に示すように、端面介在部材52の外側コア部32側(正面側)に、外側コア部32の内端面32e側が嵌合される凹状の嵌合部525が形成されている。この嵌合部525により、端面介在部材52に対して外側コア部32が位置決めされる。また、端面介在部材52の内側コア部31側(裏面側)には、
図4〜
図6に示すように、枠板部520から突出するように間隔保持片521が設けられている。間隔保持片521は、巻回部2cの軸方向に延在し、内側介在部材51の間隔保持片511に連続するように設けられており、巻回部2cと内側コア部31との間に配置され、所定の間隔を形成する。具体的には、内側コア部31の端部に位置する内コア片31mの角部に沿って延在するように、間隔保持片521が形成されている。間隔保持片521により、端面介在部材52に対して内側コア部31が位置決めされ、結果的に、端面介在部材52を介して内側コア部31と外側コア部32とが位置決めされる。また、間隔保持片521は、
図5、
図6に示すように、間隔保持片511と突き合わされて連結される。これにより、間隔保持片511、521が巻回部2cの全長に亘って軸方向に連続することになり、各樹脂流路45(
図7参照)は間隔保持片511、521によって周方向に分断されている。
【0038】
本実施形態では、
図5、
図6に示すように、間隔保持片511、521に排気通路6が設けられている。排気通路6については、後で詳しく説明する。
【0039】
(モールド樹脂部)
モールド樹脂部4は、
図2、
図3に示すように、磁性コア3(内側コア部31及び外側コア部32)を一体に覆い、内側樹脂部41と外側樹脂部42とを有する。モールド樹脂部4は、電気絶縁性を有する樹脂、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、PPS樹脂、PTFE樹脂、LCP、PA樹脂、PI樹脂、PBT樹脂、ABS樹脂などで形成されている。この例では、内側樹脂部41及び外側樹脂部42がPPS樹脂で形成されている。
【0040】
〈内側樹脂部〉
内側樹脂部41は、
図3に示すように、巻回部2cの内周面と内側コア部31の外周面との間に形成された樹脂流路45に樹脂を充填することで成形されており、巻回部2cの内周面及び内側コア部31の外周面に密着している。
【0041】
〈外側樹脂部〉
外側樹脂部42は、
図1、
図2に示すように、外側コア部32の少なくとも一部を覆うように形成されている。この例では、組合体10(
図5、
図6参照)を構成したときに外部に露出する各外側コア部32の全体を覆うように、外側樹脂部42が成形されている。具体的には、外側コア部32の端面介在部材52に接する内端面32eを除く、外側コア部32の外周面、上面及び下面が外側樹脂部42で覆われており、外側コア部32の表面が外部に露出していない。
【0042】
モールド樹脂部4は、例えば射出成形により成形されており、端面介在部材52に形成された樹脂充填孔524(
図8参照)を通じて、外側樹脂部42及び内側樹脂部41が一体に成形されている。モールド樹脂部4により、
図2に示すように、内側コア部31及び外側コア部32が一体化されると共に、組合体10(
図5、
図6参照)を構成するコイル2、磁性コア3及び絶縁介在部材5が一体化される。また、内側コア部31の端面と外側コア部32の内端面32eとの間の隙間にも樹脂が充填される。
【0043】
モールド樹脂部4を射出成形により成形する場合、
図5、
図6に示すように、一方の外側コア部32側から樹脂を射出してもよいし、両方の外側コア部32側から樹脂を射出してもよい。前者の場合、一方の端面介在部材52の樹脂充填孔524(
図8参照)を介して、巻回部2cの一方の端面側から樹脂流路45に樹脂を充填することになる(以下、これを「一方向充填」という)。後者の場合、両方の端面介在部材52のそれぞれの樹脂充填孔524(
図8参照)を介して、巻回部2cの両方の端面側から樹脂流路45に樹脂を充填することになる(以下、これを「両方向充填」という)。
【0044】
モールド樹脂部4を射出成形により成形した場合、
図1に示すように、外側樹脂部42にゲート痕43(図中、クロスハッチングで示す)が形成される。上述した両方向充填の場合は、各外側コア部32を覆う両方の外側樹脂部42にそれぞれゲート痕43が形成されることになる。本実施形態では、両方向充填を行ってモールド樹脂部4を成形しており、各外側樹脂部42にゲート痕43を有する。なお、
図1では、一方の外側樹脂部42に形成されたゲート痕43のみ図示しているが、他方の外側コア部32を覆う外側樹脂部42にも同じようにゲート痕43が形成されている。ゲート痕の位置や数は適宜変更可能である。また、一方の外側樹脂部42と他方の外側樹脂部42とでゲート痕の位置や数が異なっていてもよい。
【0045】
(排気通路)
排気通路6は、
図5、
図6に示すように、間隔保持片511、521に設けられており、樹脂流路45に連通し、巻回部2cの軸方向に延びて巻回部2cの少なくとも一方の端面側に至るように形成されている。排気通路6は、樹脂流路45に樹脂を充填して内側樹脂部41(
図2、
図3参照)を成形する際に、樹脂流路45内の気体を巻回部2cの端面側に導いて排気するためのものである。ここでは、
図5、
図6を参照して、巻回部2cの軸方向一方側(図中の左側)に位置する間隔保持片511、521に設けられた排気通路6について説明する。他方側(図中の右側)の排気通路6については、一方側の排気通路6と対称構造であるので説明を省略する。
【0046】
この例では、排気通路6は、内側コア部31の各角部に配置されたそれぞれの間隔保持片511、521の外周面に溝を形成することによって構成されている。排気通路6は、樹脂流路45に連通する接続路61と、接続路61に交差し、巻回部2cの一方の端面側に向かって軸方向に延びる主通路60とを有する。接続路61は、間隔保持片511に設けられており、周方向に隣り合う樹脂流路45に対してそれぞれ連通するように形成されている。主通路60は、間隔保持片511から間隔保持片521に亘って連続して設けられており、巻回部2cの一方の端面側にまで至るように枠板部520まで達している。接続路61は、間隔保持片511によって周方向に分断された複数の樹脂流路45の各々に連通している。本例では、内側コア部31の各平面(上面、下面及び両側面)に面した樹脂流路45の各々に対して接続路61が連通している。内側コア部31の角部を挟む両面に面した樹脂流路45の各々に連通する接続路61は、その角部に配置される間隔保持片511に設けられた主通路60につながり、主通路60を共用する構成になっている。これにより、樹脂流路45内の気体を、接続路61から主通路60を通して巻回部2cの端面側に導くことができ、巻回部2cの端面と枠板部520との間の隙間から巻回部2cの外部に排気することが可能である。
【0047】
排気通路6の深さは、気体が通過できる隙間が形成されるように適宜設定すればよく、例えば10μm以上500μm以下、更に20μm以上400μm以下であることが挙げられる。排気通路6の深さが大きいほど、気体が通過し易くなるため、排気が促進されるが、樹脂流路45に充填した樹脂が排気通路6に流入し易くなる。排気通路6の深さを調整することによって、気体のみを通過させることも可能である。この場合、樹脂の性質にもよるが、例えば20μm以上60μm以下とすることが挙げられる。内側樹脂部41の成形後、排気通路6の少なくとも一部に樹脂が入り込んでいてもよい。
【0048】
排気通路6の幅は、樹脂流路45内の気体を排気するために必要な断面積を十分に確保できるように適宜設定すればよい。また、排気通路6の断面形状は、例えば矩形状、台形状、三角形状、半円形状など任意の形状を選択できる。
【0049】
この例では、排気通路6が溝によって形成されているが、これに限定されるものではなく、貫通孔によって形成してもよい。また、この例では、接続路61が間隔保持片511に設けられているが、接続路61は間隔保持片521に設けることも可能である。
【0050】
<リアクトルの製造方法>
リアクトル1の製造方法の一例を説明する。リアクトルの製造方法は、大別すると、組合体組立工程と、樹脂モールド工程とを備える。
【0051】
(組合体組立工程)
組合体組立工程では、コイル2と磁性コア3と絶縁介在部材5との組合体10を組み立てる(
図4〜
図8参照)。
【0052】
内コア片31m間に内側介在部材51を配置して内側コア部31を作製し、コイル2の両巻回部2cに内側コア部31をそれぞれ挿入して、コイル2と内側コア部31と内側介在部材51との組物を用意する。その後、巻回部2cの両端に端面介在部材52をそれぞれ配置して、内側コア部31を両端から挟むように外側コア部32をそれぞれ配置する。これにより、内側コア部31と外側コア部32とで環状の磁性コア3を構成する。以上のようにして、コイル2と磁性コア3と絶縁介在部材5とを備える組合体10を組み立てる。組合体10の状態において、外側コア部32側から端面介在部材52を見た場合、端面介在部材52に樹脂充填孔524が形成されている(
図8参照)。
【0053】
(樹脂モールド工程)
樹脂モールド工程では、外側コア部32を樹脂で被覆すると共に、樹脂流路45に樹脂を充填して、外側樹脂部42及び内側樹脂部41を一体成形する(
図2、
図3参照)。
【0054】
組合体10を金型内に配置し、組合体10の外側コア部32側から金型内に樹脂を注入して樹脂モールドする。本実施形態では、両方の外側コア部32側から樹脂を射出する両方向充填を行うことにより、外側コア部32を樹脂で覆い、端面介在部材52の樹脂充填孔524(
図8参照)を介して、巻回部2cの両方の端面側から樹脂流路45に樹脂を充填する。このとき、内側コア部31の端面と外側コア部32の内端面32eとの隙間にも樹脂が充填される。その後、充填した樹脂を固化させることで、外側樹脂部42及び内側樹脂部41を一体成形する。これにより、内側樹脂部41と外側樹脂部42とでモールド樹脂部4を構成し、内側コア部31及び外側コア部32を一体化すると共に、コイル2、磁性コア3及び絶縁介在部材5を一体化する。
【0055】
本実施形態では、
図5、
図6に示すように、間隔保持片511、521に排気通路6が設けられていることで、樹脂流路45に樹脂を充填した際に、排気通路6を通じて樹脂流路45内の気体を巻回部2cの端面側に導くことができる。具体的には、両側から流入した樹脂によって樹脂流路45内の気体が接続路61に押し出され、接続路61から主通路60を通って、巻回部2cの端面側に導かれる。巻回部2cの端面と枠板部520との間には隙間が存在しているため、巻回部2cの端面側に導かれた気体は、巻回部2cの端面と枠板部520との間の隙間から巻回部2cの外部に排気されることになる。
【0056】
{作用効果}
上述した実施形態に係るリアクトル1は、間隔保持片511に排気通路6が設けられていることで、樹脂流路45に樹脂を充填して内側樹脂部41を成形する際に、排気通路6を通じて樹脂流路45内の気体を巻回部2cの端面側に導いて排気することができる。したがって、樹脂流路45内に気体が閉じ込められ難くなるため、内側樹脂部41において充填不良やガス焼けなどの成形不良を低減できる。
【0057】
〈用途〉
リアクトル1は、例えば、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車などの車両に搭載される車載用コンバータ(代表的にはDC−DCコンバータ)や、空調機のコンバータなど種々のコンバータ、並びに電力変換装置の構成部品に好適に利用可能である。
【0058】
(変形例)
実施形態で説明した排気通路6を
図9、
図10に示すような構成に変更してもよい。
図9に示す排気通路6は、接続路61の位置が実施形態と異なっており、樹脂流路45の長さ方向の中間部に接続路61が連通するように設けられている。両方向充填の場合、樹脂流路45の両側から流入した樹脂が樹脂流路45内で合流し、樹脂の合流箇所で気体が閉じ込められ易い。通常、樹脂の合流箇所は、樹脂流路45の長さ方向の中間位置であり、この位置が流入した樹脂が最後に達する最終充填箇所となる。そのため、接続路61が樹脂流路45の中間部に連通するように位置することで、排気通路6を通じて樹脂流路45内の樹脂の最終充填箇所における気体を効果的に排気できるので、成形不良をより低減できる。ここで、樹脂流路45の中間部とは、樹脂流路45の長さ方向の中間位置を含む中間領域を意味し、具体的には、樹脂流路45を長さ方向に5等分したときの中央の領域をいう。
【0059】
更に、別の変形例としては、排気通路6が、巻回部2cの一方の端面側から他方の端面側に亘って設けられるようにしてもよい。例えば、
図10に示すように、一方側の排気通路6と他方側の排気通路6の主通路60同士が巻回部2cの軸方向に沿って連続するように形成する。この場合、それぞれの排気通路6から樹脂流路45内の気体を巻回部2cの両方の端面側から排気することが可能であり、効率よく排気できるので、成形不良をより低減できる。