(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CO
2ガスの分離膜としては、機械的強度が高く、耐熱性に優れた芳香族ポリイミドを製膜したものが知られている。例えば、特開昭57−15819号公報には、ビフェニルテトラカルボン酸系の芳香族ポリイミドからなるガス分離層を有するガス分離材料について開示されている。しかしながら、公知の芳香族ポリイミド製のガス分離材料は、CO
2ガスを含有する混合ガスの分離・濃縮において使用する場合に、CO
2ガスの透過速度が遅いため、CO
2ガスを含有する混合ガスの分離・濃縮においては、実用上、充分に満足できるものではない。
【0005】
これまで、CO
2ガスの透過性及び選択性を向上させることを目的として、ポリイミドからなる種々のガス分離膜が開発されており、例えば、特開平01−245830号公報及び特開平01−249122号公報には、架橋脂環式構造を有するテトラカルボン酸成分と有機ジアミン成分とから得られるポリイミド樹脂を用いたガス分離膜が開示されている。また、特開平04−227831号公報及び特公平06−065374号公報には、主鎖中にフェニルインダン残基を有するポリイミド樹脂を用いたガス分離膜が開示されている。さらに、特許第2509962号及び特許第4019567号には、フルオレン骨格を有するポリイミド樹脂を用いたガス分離膜が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された酢酸セルロース等のセルロースエステルは溶媒溶解性に劣るため、フィルム状等に加工する際の加工性に劣るという問題がある。また、上記その他の特許文献に開示されたガス分離膜は、CO
2透過性は比較的向上しているものの、CO
2透過性とCO
2選択性のバランスの観点からは、未だ十分満足できる性能を有しているとはいえない。
上記事情に鑑み、本発明は、加工性に優れ、且つ、優れたCO
2透過性とCO
2選択性を両立させたガス分離膜として特に有用なポリイミド樹脂膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の構造の繰り返し単位を有し、非対称構造を有するポリイミド樹脂膜が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂を含む非対称膜。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)中、Arは芳香族ジアミンに由来する残基を示す。)
[2]
前記ポリイミド樹脂は、前記式(1)で表される繰り返し単位を20mol%以上含む、上記[1]記載の非対称膜。
[3]
前記式(1)におけるArは、下記式(2)及び(3)で表される群から選択される1種以上の基を含む、上記[1]又は[2]に記載の非対称膜。
【0011】
【化2】
【0012】
(式(2)及び(3)中、R
1〜R
3は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基を示し、R
4〜R
6は、各々独立して、置換されていてもよいアルキレン基、アリーレン基、アルコキシレン基を示す。)
[4]
前記式(1)におけるArは、下記式(4)及び(5)で表される群から選択される1種以上の基を含む、上記[1]〜[3]のいずれか記載の非対称膜。
【0013】
【化3】
【0014】
[5]
中空繊維状である上記[1]〜[4]のいずれか記載の非対称膜。
[6]
フィルム状である上記[1]〜[4]のいずれか記載の非対称膜。
[7]
上記[1]〜[6]のいずれか記載の非対称膜を含むガス分離膜。
【発明の効果】
【0015】
本発明の非対称膜を用いたガス分離膜は、加工性に優れ、且つ、優れたCO
2透過性とCO
2選択性を両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に記載する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
[ポリイミド樹脂]
本実施形態における非対称膜は、下記式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂を含む。
【0019】
(式(1)中、Arは芳香族ジアミンに由来する残基を示す。)
【0020】
本実施形態において「非対称膜」とは、ガス透過性の多孔質層と、ガス分離能を有する緻密層の少なくとも2層からなる非対称構造を有する膜のことをいう。緻密層はガス種によって透過速度が実質的に異なる程度の緻密さを有し、ガス種による分離機能を持つ。一方、多孔質層は実質的なガス分離機能を持たない程度に多孔性を有する層であって、必ずしも孔径は一定でなく、大きな孔から順次細かい孔となり更に連続的に緻密層を形成したものであっても構わない。本実施形態におけるポリイミド樹脂は、少なくとも非対称膜の緻密層に含まれる。
【0021】
本実施形態における非対称膜に含まれるポリイミド樹脂は、上記式(1)で表される繰り返し単位を、好ましくは20mol%以上含み、より好ましくは40mol%以上、さらに好ましくは50mol%以上含む。この割合が20mol%以上であると、加工性に優れ、且つ、優れたCO
2透過性とCO
2選択性を両立できる傾向にある。上限としては、特に限定されず、好ましくは100mol%である。
ここで、繰り返し単位の含有量は、対応するモノマーの仕込み量の割合から算出することができる。
【0022】
式(1)中、Arは芳香族ジアミンに由来する残基を示す。Arの構造としては、任意の芳香族ジアミンに由来した残基であれば特に限定されず、例えば、以下の構造を有する残基が挙げられる。
【0024】
Arとしては、優れたCO
2透過性とCO
2選択性を両立する観点から、下記式(2)及び(3)で表される群から選択される1種以上の基であることが好ましい。
【0026】
(式(2)及び(3)中、R
1〜R
3は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、アリール基、アルコキシ基を示し、R
4〜R
6は、各々独立して、置換されていてもよいアルキレン基、アリーレン基、アルコキシレン基を示す。)
【0027】
上記アルキル基、アルコキシ基、アルキレン基、アルコキシレン基は、直鎖状、分岐状若しくは環状の基のいずれもが含まれる。
【0028】
R
1〜R
3としては、水素原子、置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0029】
R
4〜R
6としては、置換されていてもよい炭素数6〜20のアリーレン基が好ましく、置換されていてもよいフェニレン基がより好ましく、フェニレン基がさらに好ましい。
【0030】
本実施形態のポリイミド樹脂は、式(1)中のArとして、上記式(2)及び(3)で表される群から選択される1種以上の基を10〜100mol%含むことが好ましく、より好ましくは20〜100mol%含み、さらに好ましくは30〜100mol%含む。この割合が10mol%以上であると、優れたCO
2透過性とCO
2選択性を両立できる傾向にある。上限としては、特に限定されず、100mol%であることが好ましい。
【0031】
式(1)におけるArは、下記式(4)及び(5)で表される群から選択される1種以上の基であることが特に好ましい。
【0033】
[ポリイミド樹脂の製造方法]
本実施形態におけるポリイミド樹脂は、式(1)で表される繰り返し単位を有するものであり、例えば、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸またはその反応性誘導体と、芳香族ジアミンと、を溶液中で反応させて重合することにより得ることができる。
【0034】
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物またはその反応性誘導体としては、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸エステル類、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)等が挙げられるが、反応性の観点から、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物が好ましい。なお、前記テトラカルボン酸成分は異性体を含む。
【0035】
本実施形態におけるポリイミド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、他のテトラカルボン酸またはその誘導体、特に二無水物を併用することができ、例えば、ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3’,4、4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、4,4−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸、エチレンテトラカルボン酸、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタンおよびこれらテトラカルボン酸の誘導体、特に二無水物から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0036】
本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香族環に直接結合しているジアミンをいい、その構造の一部に脂肪族基、脂環基、その他の置換基を含んでいてもよい。
【0037】
芳香族ジアミンとしては、特に限定されず、例えば、フェニレンジアミン及びその誘導体、ジアミノビフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノジフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノトリフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノナフタレン及びその誘導体、アミノフェニルアミノインダン及びその誘導体、ジアミノテトラフェニル化合物及びその誘導体、ジアミノヘキサフェニル化合物及びその誘導体、カルド型フルオレンジアミン誘導体等が挙げられる。
【0038】
フェニレンジアミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン等が挙げられ、フェニレンジアミン誘導体としては、例えば、2,4−ジアミノトルエン、2,4−トリフェニレンジアミン等の、メチル基、エチル基等のアルキル基が結合したジアミンが挙げられる。
【0039】
ジアミノビフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基がフェニル基同士で結合したものであり、例えば、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル等が挙げられる。
【0040】
ジアミノジフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基が他の基を介してフェニル基同士で結合したものである。他の基としては、エーテル結合、スルホニル結合、チオエーテル結合、アルキレン又はその誘導体基による結合、イミノ結合、アゾ結合、ホスフィンオキシド結合、アミド結合、ウレイレン結合等が挙げられる。アルキレン結合は炭素数が1〜6程度のものが挙げられ、その誘導体基はアルキレン基の水素原子の1つ以上がハロゲン原子等で置換されたものである。ジアミノジフェニル化合物としては、例えば、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(p−アミノフェニル)プロパン、2,2’−ビス(p−アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−1−ペンテン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)−2−ぺンテン、イミノジアニリン、4−メチル−2,4−ビス(p−アミノフェニル)ペンタン、ビス(p−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノアゾベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニル尿素、4,4’−ジアミノジフェニルアミド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。
【0041】
ジアミノトリフェニル化合物は、2つのアミノフェニル基と1つのフェニレン基が何れも他の基を介して結合したものであり、他の基は、ジアミノジフェニル化合物と同様のものが挙げられる。ジアミノトリフェニル化合物としては、例えば、1,3−ビス(m−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン等が挙げられる。
【0042】
ジアミノナフタレンとしては、例えば、1,5−ジアミノナフタレン及び2,6−ジアミノナフタレンが挙げられる。
【0043】
アミノフェニルアミノインダンとしては、例えば、5又は6−アミノ−1−(p−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダンが挙げられる。
【0044】
ジアミノテトラフェニル化合物としては、例えば、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(p’−アミノフェノキシ)ビフェニル]プロパン、2,2’−ビス[p−(m−アミノフェノキシ)フェニル]ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0045】
カルド型フルオレンジアミン誘導体としては、例えば、9,9−ビスアニリンフルオレン等が挙げられる。
【0046】
なお、芳香族ジアミンとしては、上記ジアミンの水素原子が、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、シアノ基、フェニル基等からなる群より選択される少なくとも1種の置換基により置換された化合物であってもよい。また、芳香族ジアミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
芳香族ジアミンとしては、CO
2透過性とCO
2選択性の観点から、5又は6−アミノ−1−(p−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチルインダン(TMDA)、9,9−ビスアニリンフルオレン(BAFL)、1,3−ビス(m−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゼンが好ましく、TMDA、BAFLがより好ましい。
【0048】
本実施形態におけるポリイミド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、他のジアミン成分を併用することができ、例えば、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ポリプロピレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、シロキサンジアミン類等の脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0049】
本実施形態におけるポリイミド樹脂は、通常、有機溶媒溶液として製造する。有機溶媒としては特に限定されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチレンスルホン、ジメチルスルホキシド、m−クレゾ−ル、フェノ−ル、p−クロルフェノール、2−クロル−4−ヒドロキシトルエン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、ジオキサン、γ−ブチロラクトン、ジオキソラン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。ポリイミドと溶媒からなるポリイミドワニスの性能の観点からは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、γ−ブチロラクトン(GBL)を単独、又は併用するのが好ましい。
また、溶液重合による製造の場合、前記の有機溶媒と併せてヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の貧溶媒を、重合体が析出しない程度に使用することができる。
【0050】
ポリイミド樹脂は、上述したテトラカルボン酸成分と、ジアミン成分とを用いて製造することができ、その製造方法は特に限定されない。例えば、(i)溶液重合法、(ii)ポリアミック酸溶液を得て製膜し、イミド化する方法、(iii)カルボン酸成分とジアミン成分との塩又はオリゴマーを得た後、固相重合を行なう方法、(iv)テトラカルボン酸二無水物とジイソシアネートを原料とする方法等、従来公知の方法が挙げられ、それぞれの方法を併用することもできる。また、反応の際には、酸、三級アミン類、無水物等の従来公知の触媒等を用いることができる。
【0051】
より具体的には、ポリイミド樹脂の有機溶媒溶液は、例えば、下記(1)〜(3)の方法で製造することができる。
(1)ジアミン成分の有機溶媒溶液にテトラカルボン酸成分を添加し、または、テトラカルボン酸成分の有機溶媒溶液にジアミン成分を添加し、好ましくは80℃以下、特に室温付近ないしそれ以下の温度で0.5〜3時間保つ。得られた反応中間体のポリアミド酸溶液にトルエンあるいはキシレン等の共沸脱水溶媒を添加して、生成水を共沸により系外へ除きつつ脱水反応を行い、ポリイミド樹脂の有機溶媒溶液を得る。
(2)上記(1)で得られた反応中間体のポリアミド酸溶液に無水酢酸等の脱水剤を加えてイミド化した後、メタノール等のポリイミドに対する溶解能が乏しい溶媒を添加して、ポリイミドを沈殿させる。この沈殿物をろ過・洗浄・乾燥により固体として分離した後、有機溶媒に溶解してポリイミド樹脂の有機溶媒溶液を得る。
(3)上記(1)において、クレゾール等の高沸点溶媒を用いてポリアミド酸溶液を調製し、そのまま150〜220℃に3〜12時間保ってポリイミド化させた後、メタノール等のポリイミドに対する溶解能が乏しい溶媒を添加して、ポリイミドを沈殿させる。この沈殿物をろ過・洗浄・乾燥により固体として分離した後、N,N−ジメチルアセトアミド等の有機溶媒に溶解してポリイミド樹脂の有機溶媒溶液を得る。
【0052】
本実施形態におけるポリイミド樹脂を溶液重合で製造する場合、触媒として3級アミン化合物を用いることが好ましい。3級アミン化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン(TEA)、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、イミダゾール、ピリジン、キノリン、イソキノリン等が挙げられる。
また、ポリイミド樹脂の溶液の濃度は、1〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
ポリイミド樹脂の有機溶媒溶液には、フッ素系、ポリシロキサン系等の界面活性剤を添加することもできる。界面活性剤の添加により、表面平滑性の良好なフィルムを得やすくなる。
【0053】
本実施形態におけるポリイミド樹脂の有機溶媒溶液には、従来より公知の酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、充填剤等のその他の成分が含まれていてもよい。
【0054】
本実施形態におけるポリイミド樹脂は、溶媒溶解性に優れるため、広い範囲の通常の有機溶媒に可溶である。したがって、ポリイミド樹脂を用いてフィルム状等の膜に成形する際の加工性に優れるという利点を有する。
【0056】
また、本実施形態における非対称膜は、例えば、ポリイミド樹脂から得られるポリイミド樹脂膜を緻密層とし、多孔質層をこの緻密層に積層すること等により得ることができる。ポリイミド樹脂膜は、例えば、上述したテトラカルボン酸成分とジアミン成分とから得られたポリアミック酸(ポリイミド前駆体)、または有機溶媒可溶性のポリイミド等の有機溶媒溶液を、製膜用のドープ液として使用して、そのドープ液の薄膜を形成し、ドープ液の薄膜から溶媒を除去して固化する乾燥工程を主体にして製膜する乾式製膜法、またはドープ液の薄膜を凝固液と接触させて凝固して固化する湿式製膜法で、フィルム状、または中空繊維状に形成して、種々の形状のポリイミド樹脂膜を得ることができる。また、ポリイミド樹脂膜の製造においては、基材として表面の平滑な材料(例えば、ガラス板、平面平滑な銅板、表面平滑な金属ロールまたはベルト等)を使用して製膜して、均質膜を形成した後に、基材から膜を引き剥がすことにより、均質膜が極めて薄いフィルム状のものとして得られる。
【0057】
非対称膜は、例えば、緻密層としてのポリイミド樹脂膜を、他の多孔質膜と積層または貼合わせることにより製造することができる。さらに、ポリイミド樹脂膜の製造法において、基材として多孔質膜を使用することにより、ポリイミド樹脂膜が多孔質膜の表面に一体に形成された非対称膜が得られる。ここで、多孔質膜としては、特に限定されないが、例えば、ナノ濾過膜、限外濾過膜、精密濾過膜、織布、不織布等のガス透過性の膜が挙げられる。不織布としては、ポリエスエル、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリアミド等からなる繊維を単独あるいは複数を組み合わせて用いることができる。不織布は、例えば、水に均一に分散した主体繊維とバインダー繊維を円網や長網等で抄造し、ドライヤーで乾燥することにより製造できる。また、毛羽を除去したり機械的性質を向上させたりする等の目的で、不織布を2本のロールで挟んで圧熱加工を施すことも好ましい。
【0058】
また、非対称膜は、ポリイミドを適当な溶剤に溶解した製膜原液をそのまま平滑なガラス板上に流延あるいは塗布し、一定時間溶媒の一部を蒸発させた後に、非溶媒中に浸漬し、脱溶媒する方法により製造することもできる。また、二重管構造の中空糸紡糸ノズルの環状口から上述の製膜原液と円状口から非溶媒を同時に凝固液中に押し出すことにより中空糸膜を製膜することもできる。かかる湿式法で製膜した非対称膜を乾燥後、ガス分離膜として使用することができる。乾燥法は常法でよく、例えば室温で風乾した後、真空乾燥あるいは加熱乾燥する。得られたポリイミド膜は、緻密層と、それを支える同ポリイミドからなる多孔質層とを有する非対称構造をとる。
【0059】
本実施形態における非対称膜は、溶媒溶解性に優れたポリイミド樹脂を用いるため加工性に優れ、また、優れたCO
2透過性とCO
2選択性を併せ持っている。本実施形態における非対称膜は、空気の酸素富化、窒素富化、溶接ガス等の混入した使用済みヘリウムからのヘリウムの回収・精製、天然ガス中のヘリウムの濃縮、アンモニアパージガスからの水素の回収、合成ガス中の一酸化炭素/水素のモル比調節、水添脱硫プラントのパージガスからの水素の回収、原油回収時に注入された炭酸ガスの炭化水素からの分離・回収、天然ガス中の炭酸ガスの分離・除去、嫌気性微生物分解により生じたバイオガスからのメタンの分離・回収等に用いることができ、特に、排ガス分離処理、工業ガス用のガス分離膜として有用である。他にも、逆浸透による水の脱塩、ガソリン及びディーゼル燃料の深度脱硫のような非水性液体分離、エタノール/水の分離、水性/有機混合物のパーベーパレーション脱水、CO
2/CH
4、CO
2/N
2、H
2/CH
4、O
2/N
2、H
2S/CH
4、オレフィン/パラフィン、イソ/ノルマルパラフィンの分離、及び他の軽質気体混合物の分離のような、種々の液体、気体、及び蒸気の分離のために好適であるだけでなく、触媒反応及び燃料電池用途などの他の用途のために用いることもできる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例により本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0061】
[合成例1]
温度計、撹拌器、窒素導入管、側管付き滴下ロート、ディーンスターク、冷却管を備えた500mL5つ口フラスコに、窒素気流下、1−(4−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−5−アミン(TMDA)13.3g(0.05モル)と、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン85gを仕込んで溶解させた後、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物11.2g(0.05モル)を室温にて固体のまま1時間かけて分割投入し、室温下2時間撹拌した。次に共沸脱水溶剤としてキシレン30.0gを添加して180℃に昇温して3時間反応を行い、ディーンスタークでキシレンを還流させて、共沸してくる生成水を分離した。3時間後、水の留出が終わったことを確認し、1時間かけて190℃に昇温しながらキシレンを留去して29.0gを回収した後、内温が60℃になるまで空冷してポリイミドの有機溶剤溶液を取り出した。
【0062】
[実施例1]
得られたポリイミドの有機溶剤溶液をガラス板に塗布し、90℃のホットプレート上で1時間加熱して溶剤を蒸発させた後、ガラス板から剥がして自立膜を得た。この自立膜をステンレス製の固定治具に固定して熱風乾燥器中220℃で2時間加熱して溶剤をさらに蒸発させ、薄茶色のフレキシブルな膜厚50μmのフィルム1を得た。このフィルム1のIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1784、1703(cm
-1)にイミド環の特性吸収が認められ、下記式(A)の繰り返し単位を有するポリイミドであると同定された。
【0063】
【化8】
【0064】
[合成例2](ポリイミドの合成)
温度計、撹拌器、窒素導入管、側管付き滴下ロート、ディーンスターク、冷却管を備えた500mL5つ口フラスコに、窒素気流下、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン(BisA−P)12.1g(0.035モル)および1−(4−アミノフェニル)−1,3,3−トリメチル−1H−インデン−5−アミン(TMDA)4.0g(0.015モル)と、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン85gを仕込んで溶解させた後、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物11.2g(0.05モル)を室温にて固体のまま1時間かけて分割投入し、室温下2時間撹拌した。次に共沸脱水溶剤としてキシレン30.0gを添加して180℃に昇温して3時間反応を行い、ディーンスタークでキシレンを還流させて、共沸してくる生成水を分離した。3時間後、水の留出が終わったことを確認し、1時間かけて190℃に昇温しながらキシレンを留去して29.0gを回収した後、内温が60℃になるまで空冷してポリイミドの有機溶剤溶液を取り出した。
【0065】
[実施例2]
得られたポリイミドの有機溶剤溶液をガラス板に塗布し、90℃のホットプレート上で1時間加熱して溶剤を蒸発させた後、ガラス板から剥がして自立膜を得た。この自立膜をステンレス製の固定治具に固定して熱風乾燥器中220℃で2時間加熱して溶剤をさらに蒸発させ、薄茶色のフレキシブルな膜厚50μmのフィルム2を得た。このフィルム2のIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1784、1703(cm
-1)にイミド環の特性吸収が認められ、下記式(A)及び(A’)の繰り返し単位を有するポリイミドであると同定された。
【0066】
【化9】
【0067】
【化10】
【0068】
[合成例3](ポリイミドの合成)
温度計、撹拌器、窒素導入管、側管付き滴下ロート、ディーンスターク、冷却管を備えた300mL5つ口フラスコに、窒素気流下9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(BAFL)24.3g(0.07モル)と、溶剤としてγ―ブチロラクトン44.57g、イミド化触媒としてトリエチルアミン3.526gを投入し、系内温度70度、窒素雰囲気下、溶解させた。これに1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物7.8g(0.035モル)およびシクロペンタノンビススピロノルボルナンテトラカルボン酸二無水物(CpODA)13.4g(0.035モル)、有機溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミド11.14gを一括で添加した後、約20分かけて反応系内温度を190℃まで上げた。留去される成分を捕集し、回転数を粘度上昇に合わせて調整しつつ、反応系内温度を190℃に保持して5時間還流することでポリイミド樹脂溶液を得た。次いで、反応系内温度が120℃まで冷却した後、N,N−ジメチルアセトアミド116.57gを添加して、さらに約3時間攪拌して均一化し、固形分濃度20質量%のポリイミド樹脂溶液を得た。
【0069】
[実施例3]
得られたポリイミドの有機溶剤溶液をガラス板に塗布し、90℃のホットプレート上で1時間加熱して溶剤を蒸発させた後、ガラス板から剥がして自立膜を得た。この自立膜をステンレス製の固定治具に固定して熱風乾燥器中220℃で2時間加熱して溶剤をさらに蒸発させ、薄茶色のフレキシブルな膜厚50μmのフィルム3を得た。このフィルム3のIRスペクトルを測定したところ、ν(C=O)1784、1703(cm
-1)にイミド環の特性吸収が認められ、下記式(B)及び(B’)の繰り返し単位を有するポリイミドであると同定された。
【0070】
【化11】
【0071】
【化12】
【0072】
[CO
2透過性およびCO
2選択性の評価]
実施例1〜3で得たフィルム1〜3を用い、二酸化炭素の透過係数P
CO2(Barrer)および、メタンの透過係数P
CO2を以下のとおりに測定し、さらに、メタンに対する二酸化炭素の分離度αP
CO2/P
CH4を求めた。
透過係数(P)の単位はBarrer(1Barrer=10
-10cm
3(STP)・cm/cm2・sec・cmHg)である。
組成がCH
4/CO
2=90/10(ml/ml)であり、温度が40℃であるガスを実施例および比較例で得られたフィルムに供給し、透過側にスウィープガスとしてアルゴンを10ml/min供給した等圧法によって、各フィルムの透過係数を測定した。
P
CH4=(CH
4透過流量)/(膜面積)・(膜厚)・(CH
4供給分圧−CH
4透過分圧)
P
CO2=(CO
2透過流量)/(膜面積)・(膜厚)・(CO
2供給分圧−CO
2透過分圧)
αP
CO2/P
CH4=P
CO2/P
CH4
試験に用いたフィルム面積は8.5cm
2とした。なお、比較例として、酢酸セルロースからなる膜厚50μmのフィルム(LOFO社製)について、同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0073】
[溶媒溶解性の評価]
実施例1〜3で得たフィルム1〜3を用い、以下のとおりに溶媒溶解性を評価した。
フィルム100mgに対してγ―ブチロラクトンを900mg添加し、フィルムが溶解するかどうかを確認し、以下に従って評価した。
○:溶解、×:不溶
なお、比較例として、酢酸セルロースからなる膜厚50μmのフィルム(LOFO社製)について、同様の試験を行った。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示された結果から、本実施形態におけるガス分離膜は、CO
2透過性に優れると同時に、CO
2/CH
4選択性にも顕著に優れていることが分かる。
【0076】
[実施例4]
合成例2で得られたポリイミドの有機溶剤溶液をガラス板に塗布し、直ちに25℃の水中に1時間浸漬した後、ガラス板から剥がして自立膜を得た。この自立膜をステンレス製の固定治具に固定して熱風乾燥器中220℃で2時間加熱して溶剤をさらに蒸発させ、非対称膜を製膜した。
得られた非対称膜の断面を電子顕微鏡で観察し、断面の構造を評価した。得られた非対称膜は、前記式(A)及び(A’)の繰り返し単位を有するポリイミドからなる緻密層(厚さ約5μm)及び、同ポリイミドからなる多孔質層(厚さ約100μm)を有していた。