特許第6880487号(P6880487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880487
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】温度センサ
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/22 20060101AFI20210524BHJP
   G01K 1/14 20210101ALI20210524BHJP
【FI】
   G01K7/22 J
   G01K1/14 L
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-32948(P2017-32948)
(22)【出願日】2017年2月24日
(65)【公開番号】特開2018-138872(P2018-138872A)
(43)【公開日】2018年9月6日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲治
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−161434(JP,A)
【文献】 実開昭59−042932(JP,U)
【文献】 特開2013−015430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
H01C 7/02,7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感熱素子部と、
測定対象物にネジで固定可能なネジ取り付け部を有し前記感熱素子部が取り付けられた圧着端子とを備え、
前記感熱素子部が、前記圧着端子に接着された絶縁性フィルムと、前記絶縁性フィルムの表面に設けられたサーミスタ素子と、前記絶縁性フィルムの表面に形成され一端が前記サーミスタ素子に接続されていると共に他端がリード線接続用のパッド部とされた一対のパターン配線とを備え、
前記絶縁性フィルムが、前記ネジ取り付け部まで延在した座面部を有し、
前記圧着端子及び前記絶縁性フィルムが、前記ネジ取り付け部側の少なくとも一部を除いた前記サーミスタ素子の周囲に表裏に貫通して形成されたスリットを有し
前記パターン配線が、前記パッド部から前記スリットを避けて前記スリットの外側を介して前記座面部に向けて延在した後に折り返されて前記サーミスタ素子の前記ネジ取り付け部側から前記サーミスタ素子に接続されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
請求項に記載の温度センサにおいて、
前記座面部の表面に、前記絶縁性フィルムよりも熱伝導性の高い材料で形成された表面集熱膜が設けられ、
前記表面集熱膜が、前記スリット内側の前記サーミスタ素子の近傍まで延在していることを特徴とする温度センサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の温度センサにおいて、
前記座面部の裏面に、前記絶縁性フィルムよりも熱伝導性の高い材料で形成された裏面集熱膜が設けられ、
前記裏面集熱膜が、前記スリット内側の前記サーミスタ素子の近傍まで延在していることを特徴とする温度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物への取り付けが容易で、応答性に優れた温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度センサとして、チップ状やフレーク状のサーミスタ素子にリード線を取り付けて、リード線の接続部と共にサーミスタ素子を樹脂モールドし、この部分を圧着や接着等で圧着端子に取り付けたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この温度センサでは、いわゆるR端子である圧着端子にネジ止め取り付けが可能な円環部が設けられているので、この部分にネジを挿通させた状態で測定対象物の雌ネジ部等に螺着させることで、温度センサを測定対象物に容易にネジ止めすることができる。
【0003】
また、特許文献2には、感熱素子部が、圧着端子に取り付けた絶縁性フィルムと、絶縁性フィルム上に形成された薄膜サーミスタ部と、薄膜サーミスタ部に接続され絶縁性フィルム上に形成されたパターン電極とを備えた温度センサが提案されている。この温度センサでは、圧着端子からの熱をガラスや封止樹脂を介さずに絶縁性フィルムで直接受けることで、より高い応答性が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−141164号公報
【特許文献2】特開2016−161434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
ネジ止めする取り付け用の圧着端子にサーミスタ素子を固定して作製された温度センサでは、ネジ固定後にリード線が引っ張られて圧着端子が変形した場合、サーミスタ素子直下の温度検知面が測定対象物から浮いてしまい、熱応答性が極端に低下してしまう問題があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、圧着端子が変形しても高い熱応答性を維持することができる温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る温度センサは、感熱素子部と、測定対象物にネジで固定可能なネジ取り付け部を有し前記感熱素子部が取り付けられた圧着端子とを備え、前記感熱素子部が、前記圧着端子に接着された絶縁性フィルムと、前記絶縁性フィルムの表面に設けられたサーミスタ素子と、前記絶縁性フィルムの表面に形成され一端が前記サーミスタ素子に接続されていると共に他端がリード線接続用のパッド部とされた一対のパターン配線とを備え、前記絶縁性フィルムが、前記ネジ取り付け部まで延在した座面部を有し、前記圧着端子及び前記絶縁性フィルムが、前記ネジ取り付け部側の少なくとも一部を除いた前記サーミスタ素子の周囲に表裏に貫通して形成されたスリットを有していることを特徴とする。
【0008】
すなわち、この温度センサでは、圧着端子及び絶縁性フィルムが、ネジ取り付け部側の少なくとも一部を除いたサーミスタ素子の周囲に表裏に貫通して形成されたスリットを有しているので、リード線が引っ張られて圧着端子のパッド部側が測定対象物から離間する方向に変形しても、サーミスタ素子の設置部分がスリットでパッド部側と分断されていることで、サーミスタ素子直下の温度検知面が測定対象物から浮かず、安定した熱応答性を維持することができる。また、サーミスタ素子に伝わった熱がパッド部側のリード線へ逃げることを、サーミスタ素子側とパッド部側とを熱的に分断するスリットにより抑制することができる。
【0009】
第2の発明に係る温度センサは、第1の発明において、前記パターン配線が、前記パッド部から前記スリットを避けて前記スリットの外側を介して前記座面部に向けて延在した後に折り返されて前記サーミスタ素子の前記ネジ取り付け部側から前記サーミスタ素子に接続されていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、パターン配線が、パッド部からスリットを避けてスリットの外側を介して座面部に向けて延在した後に折り返されてサーミスタ素子のネジ取り付け部側からサーミスタ素子に接続されているので、スリットを避けつつパターン配線が長く延在することで、サーミスタ素子に伝わった熱がリード線へ逃げることを、さらに抑制することができる。
【0010】
第3の発明に係る温度センサは、第1又は第2の発明において、前記座面部の表面に、前記絶縁性フィルムよりも熱伝導性の高い材料で形成された表面集熱膜が設けられ、前記表面集熱膜が、前記スリット内側の前記サーミスタ素子の近傍まで延在していることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、表面集熱膜が、スリット内側のサーミスタ素子の近傍まで延在しているので、表面集熱膜を介して座面部からの熱をサーミスタ素子に伝えることができ、より熱応答性を向上させることができる。また、この表面集熱膜から伝わった熱は、スリットにより断熱されてパッド部側への熱の逃げが抑制され、効率的にサーミスタ素子に伝えることができる。
【0011】
第4の発明に係る温度センサは、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記座面部の裏面に、前記絶縁性フィルムよりも熱伝導性の高い材料で形成された裏面集熱膜が設けられ、前記裏面集熱膜が、前記スリット内側の前記サーミスタ素子の近傍まで延在していることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、裏面集熱膜が、スリット内側のサーミスタ素子の近傍まで延在しているので、裏面集熱膜を介して座面部からの熱をサーミスタ素子に伝えることができ、より熱応答性を向上させることができる。また、この裏面集熱膜から伝わった熱は、スリットにより断熱されてパッド部側への熱の逃げが抑制され、効率的にサーミスタ素子に伝えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る温度センサによれば、圧着端子及び絶縁性フィルムが、ネジ取り付け部側の少なくとも一部を除いたサーミスタ素子の周囲に表裏に貫通して形成されたスリットを有しているので、パッド部側が変形しても、サーミスタ素子直下の温度検知面が測定対象物から浮かず、安定した熱応答性を維持することができる。また、サーミスタ素子に伝わった熱がパッド部側のリード線へ逃げることを、スリットにより抑制することができる。
したがって、本発明の温度センサは、測定対象物に取り付ける必要がある装置、例えばエンジンやインバータのアルミブロック等において、リード線が引っ張られてパッド部側が変形した場合でも、応答性が速く、ばらつきの小さい温度検知が可能になり、異常加熱防止に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る温度センサの一実施形態において、温度センサを示す平面図(a)、裏面図(b)及び感熱素子を示す裏面図(c)である。
図2】本実施形態において、温度センサを測定対象物にネジ止めした状態でリード線を引っ張り上げた状態を示す図1のA−A線での断面図である。
図3】本実施形態において、温度センサを測定対象物にネジ止めした状態でリード線を引っ張り上げた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る温度センサの本実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0015】
本実施形態の温度センサ1は、図1から図3に示すように、感熱素子部2と、測定対象物MにネジSで固定可能なネジ取り付け部3aを有し感熱素子部2が取り付けられた圧着端子3とを備えている。
なお、測定対象物Mは、例えばエンジンやインバータのアルミブロック等である。
上記ネジ取り付け部3aは、ネジ取付孔3bを有している。
【0016】
上記感熱素子部2は、圧着端子3に接着された絶縁性フィルム4と、絶縁性フィルム4の表面に設けられたサーミスタ素子5と、絶縁性フィルム4の表面に形成され一端がサーミスタ素子5に接続されていると共に他端がリード線L接続用のパッド部6aとされた一対のパターン配線6とを備えている。
【0017】
上記絶縁性フィルム4は、ネジ取り付け部3aまで延在した座面部4aを有している。
上記座面部4aは、円環状のネジ取り付け部3aと同形状の円環状に形成されている。
圧着端子3及び絶縁性フィルム4は、ネジ取り付け部3a側の少なくとも一部を除いたサーミスタ素子5の周囲に表裏に貫通して形成されたスリットSLを共に有している。すなわち、本実施形態では、圧着端子3と絶縁性フィルム4とのスリットSLは、互いに同じ位置で平面視コ字状に形成され、コ字状の開口部を座面部4a側に向けて配されている。
【0018】
上記パターン配線6は、パッド部6aからスリットSLを避けてスリットSLの外側を介して座面部4aに向けて延在した後に折り返されてサーミスタ素子5のネジ取り付け部3a側からサーミスタ素子5に接続されている。すなわち、パターン配線6は、パッド部6aからサーミスタ素子5まで延在した折り返し延在部6bを有している。
【0019】
上記座面部4aの表面には、絶縁性フィルム4よりも熱伝導性の高い材料で形成された表面集熱膜7が設けられている。この表面集熱膜7は、スリットSL内側のサーミスタ素子5の近傍まで延在している。
すなわち、表面集熱膜7は、座面部4aに沿って円環状に形成された表面側円環部7aと、表面側円環部7aに基端が接続され先端がサーミスタ素子5の近傍に配されて延在した表面側延在部7bとを有している。この表面側延在部7bは、スリットSLのコ字状の開口側からスリットSL内に延在している。
【0020】
また、座面部4aの裏面には、絶縁性フィルム4よりも熱伝導性の高い材料で形成された裏面集熱膜8が設けられている。この裏面集熱膜8は、スリットSL内側のサーミスタ素子5の近傍まで延在している。
すなわち、裏面集熱膜8は、座面部4aに沿って円環状に形成された裏面側円環部8aと、裏面側円環部8aに基端が接続され先端がサーミスタ素子5の直下に配されて延在した裏面側延在部8bとを有している。この裏面側延在部8bは、スリットSLのコ字状の開口側からスリットSL内に延在している。
【0021】
なお、パターン配線6、表面集熱膜7及び裏面集熱膜8は、例えばCu膜等の金属膜でパターン形成されている。また、表面集熱膜7及び裏面集熱膜8は、ネジ取付孔3b内面をスルーホールとしてつながっている。さらに、パターン配線6、表面集熱膜7及び裏面集熱膜8は、図示しない薄い絶縁性保護膜で表面が覆われている。
【0022】
上記リード線Lは、パッド部6aに半田材、溶接又は導電性接着剤で接合され接続されている。なお、本実施形態では、半田材でリード線Lを接続している。また、パッド部6aは、リード線Lを接続するために、他の部分よりも幅広に形成されている。
上記圧着端子3は、金属板で形成されている。
【0023】
上記絶縁性フィルム4は、例えば厚さ7.5〜125μmのポリイミド樹脂シートで形成されている。
また、絶縁性フィルム4は、サーミスタ素子5が設けられている素子設置部4bと、パッド部6aが設けられているリード線接続部4cとを有している。
上記サーミスタ素子5は、例えばチップ状やフレーク状のサーミスタ素子等が採用可能である。
なお、リード線Lの接続部は、リード線接続部4c上でエポキシ樹脂等の封止樹脂9により封止される。
【0024】
このように本実施形態の温度センサ1では、圧着端子3及び絶縁性フィルム4が、ネジ取り付け部3a側の少なくとも一部を除いたサーミスタ素子5の周囲に表裏に貫通して形成されたスリットSLを有しているので、図2及び図3に示すように、リード線Lが引っ張られて圧着端子3のパッド部6a側が測定対象物Mから離間する方向に変形しても、サーミスタ素子5の設置部分がスリットSLでパッド部6a側と分断されていることで、サーミスタ素子5直下の温度検知面が測定対象物Mから浮かず、安定した熱応答性を維持することができる。また、サーミスタ素子5に伝わった熱がパッド部6a側のリード線Lへ逃げることを、サーミスタ素子5側とパッド部6a側とを熱的に分断するスリットSLにより抑制することができる。
【0025】
また、パターン配線6が、パッド部6aからスリットSLを避けてスリットSLの外側を介して座面部4aに向けて延在した後に折り返されてサーミスタ素子5のネジ取り付け部3a側からサーミスタ素子5に接続されているので、スリットSLを避けつつパターン配線6が長く延在することで、サーミスタ素子5に伝わった熱がリード線Lへ逃げることを、さらに抑制することができる。
【0026】
また、表面集熱膜7が、スリットSL内側のサーミスタ素子5の近傍まで延在しているので、表面集熱膜7を介して座面部4aからの熱をサーミスタ素子5に伝えることができ、より熱応答性を向上させることができる。また、この表面集熱膜7から伝わった熱は、スリットSLにより断熱されてパッド部6a側への熱の逃げが抑制され、効率的にサーミスタ素子5に伝えることができる。
【0027】
さらに、裏面集熱膜8が、スリットSL内側のサーミスタ素子5の近傍まで延在しているので、裏面集熱膜8を介して座面部4aからの熱をサーミスタ素子5に伝えることができ、より熱応答性を向上させることができる。また、この裏面集熱膜8から伝わった熱は、スリットSLにより断熱されてパッド部6a側への熱の逃げが抑制され、効率的にサーミスタ素子5に伝えることができる。
【0028】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0029】
例えば、上記実施形態では、いわゆる丸形端子のR端子を圧着端子として採用したが、ネジ止め可能なネジ取り付け部であれば他の形状のネジ取り付け部の形状としても構わない。
また、上記サーミスタ素子は、チップ状やフレーク状のサーミスタ素子を採用しているが、サーミスタ素子として、薄膜サーミスタ等を採用しても構わない。
【符号の説明】
【0030】
1…温度センサ、2…感熱素子部、3…圧着端子、3a…ネジ取り付け部、4…絶縁性フィルム、4a…座面部、5…サーミスタ素子、6…パターン配線、6a…パッド部、7…表面集熱膜、8…裏面集熱膜、M…測定対象物、S…ネジ、SL…スリット
図1
図2
図3