(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カップの前記周壁部において、前記脆弱部の開裂を停止させる停止部が、該脆弱部の、前記底面部と反対側の端部と、該周壁部の、該底面部と反対側の周縁との間の、前記脆弱部に対応した位置に形成される、
請求項5に記載の放出装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の放出装置では、薄肉状に形成されたスコアを利用して、放出装置の側方に放射状に燃焼生成物の放出を行うことが意図されている。このように部分的に強度の弱い脆弱部位を設けて、火工剤の燃焼時に生じる圧力で当該脆弱部位を開裂させる場合、脆弱部位の強度が所望の開裂が生じるような強度となるように当該脆弱部位を形成する必要がある。例えば、従来技術のように燃焼生成物を放射状に放出することを意図する場合には、薄肉状のスコアの肉厚を、全てのスコアにおいて均等に調整する必要がある。仮にスコアの肉厚にばらつきがあると、最も薄いスコアが優先的に開裂してしまい、場合によっては、一部のスコアが十分に開裂できず、燃焼生成物の放出方向を所望の方向とすることが困難となり得る。
【0006】
本発明は、上記した問題に鑑み、放出装置の側方における所望の方向に、火工剤の燃焼生成物を好適に放出することを可能とする放出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、放出装置の外郭を形成する部品の上面側に設けられた貫通孔の形状を工夫し、内部での点火薬の燃焼によって貫通孔の周縁の所定部位に応力が集中的に掛かる構成を採用した。このような構成により、その応力集中部位を起点として外郭部品の側方まで外郭部品を開裂させて、その側方に燃焼生成物を放出させることが可能となる。
【0008】
具体的には、本発明の放出装置は、燃焼生成物を放出する放出装置であって、点火薬を有し該点火薬を燃焼させる着火部を含む点火器と、前記点火薬の燃焼により燃焼するように配置された火工剤と、前記着火部に対向するように配置される底面部と、該底面部の周縁に接続され且つ該着火部を囲むように配置される周壁部とを含むカップであって、該周壁部と該底面部により前記火工剤を収容する収容空間を形成する金属製のカップと、を備える。そして、前記カップの前記底面部には、前記収容空間と前記カップの外部とを連通する貫通孔であって、複数の貫通孔周縁で画定され且つ隣接する貫通孔周縁同士は所定の接続点を介して接続される貫通孔が形成され、前記貫通孔は、前記複数の貫通孔周縁のうち2つの貫通孔周縁のそれぞれの一部によって画定される該貫通孔の幅が、前記底面部の中心から周縁側に進むに従い狭まる狭幅部を有し、且つ、該狭幅部が、該2つの貫通孔周縁のそれぞれの他部によって画定される非狭幅部と比べて該底面部の周縁側の近くに位置するように形成される。
【0009】
本発明の放出装置は、点火器が有する点火薬の燃焼を起点として、金属製のカップによって形成されている収容空間に収容された火工剤を燃焼させることで生じる燃焼生成物を、装置外部に放出するものである。火工剤としては、放出される燃焼生成物の利用目的に応じて適宜選択され得る、所定の火薬でもよく、また所定のガス発生剤でもよい。ここで、収容空間を形成するカップの底面部は点火器の着火部に対向するように配置され、また、カップの周壁部はその着火部を囲むように配置される。したがって、着火部での点火薬の燃焼を起点として火工剤が燃焼するとカップの内壁面にその燃焼圧が掛かることになる。そして、カップの底面部には貫通孔が設けられており、燃焼初期においては、火工剤の燃焼で生じた燃焼生成物の一部が貫通孔を経て外部に放出されるため、貫通孔を画定する貫通孔周縁に燃焼に伴う荷重(応力)が大きく掛かる。
【0010】
ここで、貫通孔は、複数の貫通孔周縁で画定され、隣接する貫通孔周縁同士は上記所定の接続点を介して接続される。当該所定の接続点は、隣接する貫通孔周縁同士を区別するための境界となる点である。本願発明においては、貫通孔周縁が滑らかに変化する限りにおいては1つの貫通孔周縁として扱われる。幾何学的な視点に立ち換言すると、貫通孔周縁に対する接線が連続している限り、その貫通孔周縁は1つの貫通孔周縁として扱われる。そして、貫通孔は、底面部の中心からその周縁側に進むに従ってその幅が狭まる狭幅部を有するように形成されている。ここで、貫通孔の幅は、底面部の中心からその周縁側に進む方向に対して垂直となる方向における、2つの貫通孔周縁間の距離として定義される。この2つの貫通孔周縁間の距離として定義される貫通孔の幅は、底面部の中心から周縁側に進むにつれて、一定の割合で減少してもよいし、指数関数的に減少してもよい。この2つの貫通孔周縁は、隣接する貫通孔周縁であってもよく、隣接はしないが対向する位置関係にある貫通孔周縁であってもよい。また、貫通孔は、カップ内に収容される火工剤の燃焼を調整するために、例えば火工剤の表面積と貫通孔の開口面積とを相関させることができる。なお、火工剤の防湿が必要な時には、この貫通孔をアルミニウム箔等で形成された公知のシールテープで閉塞してもよい。使用するシールテープはカップ内を気密にするものであり、火工剤の燃焼に実質的に影響を及ぼさないものが好ましい。
【0011】
このように狭幅部における貫通孔の幅が狭まるように形成されると、狭幅部の最奥の端部(底面部の中心から周縁側に向かったときに当該中心から最も遠位の部位)が、狭幅部の中でも最も幅が小さくなっており、その結果、火工剤の燃焼初期において当該最奥端部に最も応力が掛かりやすくなり、そこに優先的に開裂を生じさせることができる。すなわち、貫通孔は、燃焼初期における燃焼生成物の放出に伴う上記応力が、貫通孔の周縁のうち特に狭幅部に集中的に掛かりやすい形状を有している。この結果、燃焼初期においては、カップの底面部において狭幅部を起点とした開裂が誘起されることになる。また、貫通孔において、その狭幅部は、狭幅部ではない部位である非狭幅部よりも底面部の周縁側の近くに位置している。そのため、狭幅部を起点とした開裂は、速やかに底面部の周縁に至
るとともに周壁部へと続き、その結果、周壁部は、カップの高さ方向、すなわち底面部から点火器側に向かう方向(換言すると、カップの底面部とは反対側に向かう方向)に開裂することになる。この結果、放出装置ではカップの周壁部による燃焼ガスに対する障壁が無くなるため、火工剤の燃焼による燃焼生成物が、周壁部からその外部に向かう方向、すなわち放出装置の側方に向かって放出可能となる。
【0012】
貫通孔の形成は、従来技術に示す薄肉部の肉厚調整のような、高い加工精度が求められるものではなく、比較的加工は容易である。また、狭幅部は、物理的な観点から非狭幅部と比べてより確実に燃焼初期の応力を集中させることができるため、上述した狭幅部を起点とした周壁部までの開裂は極めて再現性が高く、本発明の放出装置の燃焼生成物の放出性能は有用なものと期待される。なお、貫通孔における狭幅部の数は1つでもよく、又は複数(例えば、2〜10箇所)であってもよい。
【0013】
ここで、上記放出装置において、前記狭幅部は、最も前記底面部の周縁側の部位において点状に形成された最奧端部を有してもよい。狭幅部の最奥端部を点状に形成することで、火工剤の燃焼初期に当該最奥端部に応力をより集中的に、かつより的確に作用させることができる。この結果、狭幅部を起点とした周壁部までの開裂の進行を確実なものとでき、好適な燃焼生成物の放出を実現することができる。なお、最奥端部が点状に形成されていなくても、狭幅部において貫通孔の幅が狭まるように形成されることで、燃焼初期に応力集中が生じることは上記のとおりである。
【0014】
また、上記の放出装置において、前記最奥端部における、前記狭幅部を画定する前記2つの貫通孔周縁間の、前記接続点における接続角度は、120度以下であってもよい。ここで、接続角度は、接続点における2つの貫通孔周縁のそれぞれに対する接線同士が為す角度として定義され、その接続角度が小さいほど、狭幅部における貫通孔の形状は最奥端部に向かって細く、鋭い形状となり、燃焼初期における応力集中を最奥端部に効果的に作用させることができる。そこで、本願発明では、上記接続角度を好ましくは120度以下とすることで、最奥端部における開裂の発生をより確実なものとすることができる。
【0015】
また、上述までの放出装置において、前記狭幅部は、前記底面部の周縁まで延在してもよい。このように構成されることで、燃焼初期に狭幅部に集中的に作用した応力により、速やかに周壁部を開裂させることができる。また、底面部の周縁は周壁部と底面部とを接続する部位でもあるため、カップにおいて比較的強度が高くなりやすい。そこで、このように狭幅部がその周縁まで延在することで、上記応力による周壁部の開裂を円滑に生じさせることができる。
【0016】
ここで、上述までの放出装置において、前記カップの前記周壁部において、該カップの長手方向、すなわち該カップの高さ方向に延在し、且つ該周壁部の他の部位よりも強度が低い脆弱部が、前記狭幅部に対応した位置に形成されてもよい。この場合、前記脆弱部は、前記周壁部の該脆弱部に沿った開裂を可能とする。上記の通り、燃焼初期において狭幅部に応力が集中的に作用することで、狭幅部を起点としたカップの開裂が始まる。そして、周壁部側に上記脆弱部が設けられることで、その始まった開裂を周壁部側に的確に誘導することができ、以て、放出装置の側方への燃焼生成物の放出をより確実なものとする。この脆弱部は、例えばカップの周壁部に、カップの高さ方向に沿って実線状に、又は点線状あるいは破線状に形成することができる。
【0017】
また、上記の放出装置では、前記カップの前記周壁部において、前記脆弱部の開裂を停止させる停止部が、該脆弱部の、前記底面部と反対側の端部と、該周壁部の、該底面部と反対側の周縁との間の、前記脆弱部に対応した位置に形成されてもよい。脆弱部に沿った周壁部の開裂が進みすぎると、周壁部の破片がカップ本体から離散してしまうおそれがあ
る。そこで、燃焼生成物の放出が可能な程度を超えて過度に周壁部の開裂が進まないように停止部が設けられる。停止部は、脆弱部を伝って進んできた周壁部の開裂の進行方向を分散させるように形成されてもよい。
【0018】
ここで、上述までの放出装置において、前記火工剤が通過不可能な大きさの孔を複数有する多孔部材が、前記カップの収容空間内で前記貫通孔を覆うように配置されてもよい。このように多孔部材を配置することで、カップの貫通孔を経て火工剤が外部にこぼれ出ることを抑制するとともに、火工剤の燃焼生成物を穴を通して貫通孔側に通すことができ、上記の狭幅部を起点としたカップの開裂を阻害することを回避できる。なお、カップの貫通孔に面した上記多孔部材の孔の総開口面積を調整することで、当該多孔部材を用いた場合の放出装置における火工剤の燃焼性能の調整を調整することができる。
【0019】
ここで、上述までの放出装置において適用可能な貫通孔の形状として、以下に2つの形態を例示する。まず、第1の形態では、前記貫通孔に前記狭幅部が複数形成され、該複数の狭幅部は、それぞれ同一の形状を有してもよい。この場合、前記貫通孔において、前記複数の狭幅部は、前記底面部の中心を中心軸として該底面部の周縁方向に沿って均等に配置されてもよい。このように貫通孔の形状を画定することで、それぞれの狭幅部に集中的に作用する応力を同程度とでき、以て、実質的に同じタイミングで、各狭幅部を起点としたカップの開裂を生じさせることができる。そのため、放出装置の側方への燃焼生成物の放出を、均等に放射状に実現することができる。
【0020】
また、第2の形態では、前記狭幅部において前記底面部の中心から周縁に向かって単位距離変位したときの該狭幅部の幅の減少量が、該狭幅部の幅減少率と定義され、このとき、前記貫通孔に前記狭幅部が複数形成され、該複数の狭幅部のうち一の狭幅部の幅減少率が、他の狭幅部の幅減少率と異なるように形成されてもよい。このように貫通孔の形状が画定されると、狭幅部ごとに集中的に作用する応力を意図的に調整することができ、以て、狭幅部を起点としたカップの開裂タイミングを調整することが可能となる。狭幅部の幅減少率が小さいほど、狭幅部は細く鋭い形状となるため、そこに作用する応力を高め開裂が生じるタイミングを早めることができる。そこで、放出装置を中心としたときに所定の方向に燃焼生成物を意図的に優先して放出したい場合には、その所定の方向に応じて幅減少率が調整された狭幅部の位置を調整して貫通孔を形成すればよい。
【0021】
また、上述までの放出装置を利用してガス発生器を形成してもよい。当該ガス発生器は、上述までの放出装置と、前記放出装置とガス発生剤とを収容し、該ガス発生剤の燃焼により生じる燃焼ガスをガス排出口より排出するハウジングと、を備える、ガス発生器であって、前記底面部が前記ハウジングの内壁面に対向し、且つ前記周壁部の周囲に前記ガス発生剤が位置するように、前記放出装置が該ハウジング内に配置されてもよい。このように構成されるガス発生器は、放出装置から放出された燃焼生成物を利用して、更にハウジング内のガス発生剤を燃焼させてその燃焼ガスを生成し、その燃焼ガスをガス排出口より排出する装置である。上記の通り、本願発明の放出装置によりその周囲に配置されたガス発生剤に対して燃焼生成物が好適に放出される。そのため、ガス発生器においても、ガス発生剤の燃焼ムラを可及的に抑制し、好適な燃焼ガス生成能力を発揮することができる。
【0022】
そして、このように本願発明の放出装置を利用して構成されたガス発生器において、上述したように放出装置を中心としたときに所定の方向に燃焼生成物を優先的に放出したい場合がある。例えば、上述までの放出装置と、上記ハウジングとを備える、ガス発生器において、上述したように狭幅部の幅減少率が定義される。その上で、例えば、前記貫通孔に前記狭幅部が複数形成され、該複数の狭幅部のうち一の狭幅部の幅減少率が、他の狭幅部の幅減少率より小さくなるように形成され、前記ハウジング内部において前記放出装置が収容されたときに、該ハウジングと該放出装置との間に配置された前記ガス発生剤に関
する、該放出装置からの燃焼距離が均等とならない状態が形成されており、前記一の狭幅部が該ハウジング内部において該放出装置からの燃焼距離が最も長くなる遠位領域に向くように方向付けられ、且つ、前記他の狭幅部が該ハウジング内部において該放出装置からの燃焼距離が前記遠位領域よりも短くなる近位領域に向くように方向付けられてもよい。なお、本願発明におけるガス発生剤に関する燃焼距離とは、放出装置から放出される燃焼生成物によって生じるガス発生剤の燃焼が伝播する距離であり、換言すると、燃焼生成物の放出方向延長線上に伸びるガス発生剤が存在する領域の幅である。ただし燃焼生成物の放出方向延長線上にガス発生剤以外のものが存在している場合であっても、燃焼距離の定義は変わらない。また遠位領域は点で示されるものではなく、放出装置からの燃焼距離が最も長くなる部分を含むある程度の広さを含む領域で示される。上記のように、ハウジング内部におけるガス発生剤の燃焼距離が均等にならない場合、放出装置からの燃焼距離が比較的遠い遠位領域に存在するガス発生剤は、燃焼距離が比較的近い遠位距離に存在するガス発生剤よりも燃焼完了が遅れる位置に配置されていることになる。ここで、相対的に幅減少率が低く設定された一の狭幅部は、他の狭幅部よりも集中応力による開裂が先んじて生じることになるから、一の狭幅部が遠位領域に向くように方向付けられ、且つ、他の狭幅部が近位領域に向くように方向付けられることで、当該遠位領域に向かって燃焼生成物を優先的に放出することができる。その結果、放出装置から比較的遠位に存在するガス発生剤をより確かに燃焼させることができ、以て、近位に存在するガス発生剤とともにハウジング内のガス発生剤をムラ無く燃焼させ、ガス発生器としての燃焼ガス生成能力を高く発揮することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、放出装置の側方における所望の方向に、火工剤の燃焼生成物を好適に放出することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係る放出装置及びガス発生器について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【0026】
<実施例1>
図1は、ガス発生剤の燃焼生成物を外部に放出する放出装置100の概略構成を示す図であり、
図2は、放出装置100に使用されるカップ104の上面図であり、
図3は、放出装置100の断面図である。放出装置100は、ベース部材103に取り付けられた電気式点火器(以下、単に「点火器」という)101と、その着火部102を覆う金属製のカップ104で構成され、点火器101とカップ104との間に形成される収容空間120内に充填されたガス発生剤121(火工剤)を燃焼させて、その燃焼生成物である燃焼ガスを、装置側方に放出する。点火器101は、外部から供給される着火電流によって、着火部102に含まれる点火薬を燃焼させる。そして、その点火薬の燃焼によって生じた燃焼生成物は、着火部を形成する外郭を開裂させて、収容空間120内のガス発生剤121に向けて放出されることになる。
【0027】
ここで、放出装置100において、カップ104は、着火部102に対向するように配置される、略円状の底面部107と、該底面部107の周縁に接続されて着火部102を囲むように設けられた周壁部105とを有する。そして、周壁部105の周縁のうち底面部107と接続されていない側の周縁に鍔部106が設けられ、鍔部106とベース部材103とがかしめ接合されている。このようにかしめ接合されたときに、カップ104の内部に形成された空間が、上記収容空間120となる。この収容空間120にはガス発生剤121が充填される。ガス発生剤121としては、放出装置100により放出される燃焼ガスが、該燃焼ガスによって駆動される所定の装置等の好適な駆動源として利用できるように、好適な火工剤を選択することができる。例えば、駆動源として比較的低温のガス温度(例えば、1000〜1700℃の範囲)が好ましい場合には、硝酸グアニジン(41重量%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物からなる組成のものを用いることができ、一方で比較的高温のガス温度(例えば、1700〜3000℃の範囲)が好ましい場合には、ニトログアニジン(34重量%)、硝酸ストロンチウム(56重量%)からなる組成のものを用いることができる。火工剤の形状については、ディスク状、ペレット状、一端面から反対端面にかけて貫通孔や非貫通孔が形成された有孔円筒形状など、適宜好ましい形状を採用することができる。
【0028】
ここで、カップ104の底面部107には、カップ104の内部である収容空間120とその外部とを連通する貫通孔108が形成されている。この貫通孔108全体の開口面積は、粒状のガス発生剤121が通過できる程度に比較的大きい。そこで、収容空間120に充填されたガス発生剤121が貫通孔108を通って外部にこぼれ出ないように、粒状のガス発生剤121が通過できない程度の大きさの孔を多数有する多孔部材109が、貫通孔108を収容空間120側から覆うように配置されている。また、多孔部材109が有する孔の大きさは、点火器101の作動によってガス発生剤121が燃焼し生成される燃焼ガスの貫通孔108側への流れを阻害しない程度の大きさである必要もある。多孔部材109については、例えば、上記大きさの孔を格子状に配列させて部材であってもよく、また粒状のガス発生剤と比べて比較的小さな網目状の孔を多数有する部材であってもよい。また、この多孔部材109は、点火器101の作動によってガス発生剤121が燃焼したときの燃焼圧に対して破損しないように十分の強度を有するとともに、ガス発生剤121の燃焼が最適となるように貫通孔108に面した部分の孔の総開口面積が調整される。
【0029】
ここで、貫通孔108の形状について
図2に基づいて説明する。
図2の上図(a)は、カップ104の上面図であり、下図(b)は、貫通孔108が有する狭幅部115aの拡大図である。なお、
図2(b)では、底面部107の周縁は点線で表されている。貫通孔108は、4本の貫通孔周縁108a、108b、108c、108dで画定され、いずれの貫通孔周縁も円弧である。そして、隣接する貫通孔周縁同士は内側(底面部107の
中心側)に向いて凸になるように形成され、両者の接続点における各貫通孔周縁に対する接線の為す角度として定義される接続角度が、所定角度(例えば、120度)以下となるように接続される。
図2(b)では、貫通孔周縁108aと108bとの接続角度がθ1で表されている。また、貫通孔周縁108a、108b、108c、108dはいずれも同じ大きさ、形状であり、貫通孔108は、その中心が底面部107の中心と重なり、且つ当該中心に基づいた点対称な形状となる。
【0030】
そして、貫通孔108は、
図2(b)に示すように、底面部107の中心からその周縁側に進むに従って、貫通孔108の幅が狭まる狭幅部115を4つ有する。なお、貫通孔108の幅は、貫通孔108が設けられている底面部107の半径に対して垂直な方向における、貫通孔108を画定する2つの貫通孔周縁の一部によって画定される。
図2に示す貫通孔108では、
図2(b)に示すように隣接する2つの貫通孔周縁108aと108bのうち両者の接続点近傍の部分によって、貫通孔108の幅が画定される。また、狭幅部115については、各狭幅部115を区別して識別する際には、その識別のためのa〜dの記号を、参照番号115に付加して表示する。例えば、貫通孔周縁108aと108bの間に形成される狭幅部は115aで参照され、貫通孔周縁108bと108cの間に形成される狭幅部は115bで参照され、貫通孔周縁108cと108dの間に形成される狭幅部は115cで参照され、貫通孔周縁108dと108aの間に形成される狭幅部は115dで参照される。
【0031】
そして、代表的に狭幅部115aについて説明する。上記の通り、狭幅部115aにおいては、底面部107の中心から周縁側に進むに従って、貫通孔108の幅は狭まっていき、最終的に最奥端部Ep(本実施例では、貫通孔周縁108aと貫通孔周縁108bの接続点)に到達する。
図2(b)に示すように、中心側の貫通孔108の幅は例えばW1で表され、それより周縁側の貫通孔108の幅はW2(W2<W1)で表されている。また、最奥端部Epは、狭幅部115aのうち最も底面部107の周縁側の部位である。そして、本実施例では、最奥端部Epは、概ね底面部107の周縁上に位置している。なお、他の狭幅部115b、115c、115dの構成も、狭幅部115aと同一である。
【0032】
更に、貫通孔108を画定する貫通孔周縁108a等のうち、狭幅部115a等を形成する部分以外の部分的な貫通孔周縁は、非狭幅部とされる。
図2(a)には、狭幅部115aと115dとの間に非狭幅部125aが画定されている。同様に、狭幅部115aと115bとの間に非狭幅部125bが画定され、狭幅部115bと115cとの間に非狭幅部125cが画定され、狭幅部115cと115dとの間に非狭幅部125dが画定される。
図2に示すように、狭幅部115a等は、この非狭幅部125a等と比べると、底面部107の周縁側の近くに位置している。すなわち、貫通孔108は、狭幅部115a等で底面部107の周縁に近づき、非狭幅部125a等で当該周縁から遠ざかる形状を有している。
【0033】
このような貫通孔108を有するカップ104では、収容空間120に充填されているガス発生剤121が点火器101の作動により燃焼されると、カップ104内で燃焼ガスが生成される。ここで、カップ104には貫通孔108が設けられているため、発生した燃焼ガスが貫通孔108を経てその外部に流出していく流れが形成される。このとき、その流れに抵抗するようにカップ104の底面部107が位置しているため、燃焼ガスの発生初期(ガス発生剤121の燃焼初期)には、燃焼ガスによって底面部107に抵抗力が掛かることになる(
図1の上向き矢印が抵抗力を表す)。
【0034】
特に貫通孔108は、上記の狭幅部115a等と非狭幅部125a等を有しており、燃焼ガスによる荷重は非狭幅部125に掛かりやすい。ここで、狭幅部115a等が非狭幅部125a等の間に形成され、貫通孔108の幅が最奥端部Epに近づくほど狭くなって
いるため、カップ104の内部から流れてくる燃焼ガスに対する抵抗力に起因する応力が、狭幅部115a等を画定する2つの貫通孔周縁(例えば、狭幅部115aを画定する2つの貫通孔周縁108aと108b)に沿って狭幅部115a等の最奥端部Epに近づくほど大きくなり、以て、その最奥端部Ep近傍において底面部107に掛かる応力が極めて大きくなる。一方で、非狭幅部125a等では、圧力によってカップ104の軸方向に変形しようとする力が作用するものの、狭幅部115a等のように応力が集中しやすい部分が形成されていない。そのため上記形状を有する貫通孔108が底面部107に設けられることで、最奥端部Ep近傍の部位に、ガス発生剤121の燃焼初期に底面部107に応力が集中的に掛かりやすい部位を設定し、カップ104の開裂をコントロールすることができる。
【0035】
この結果、ガス発生剤121の燃焼初期では、底面部107上の最奥端部Ep近傍の部位に集中的に応力を掛けることで、他の部位よりも優先的に当該部位を起点とした底面部107の開裂を生じさせることが可能となる。また、上記の通り、最奥端部Epを含む狭幅部115a等は、非狭幅部125a等よりも底面部107の周縁側の近くに配置されているため、最奥端部Ep近傍の部位を起点とした底面部107の開裂は、その周縁まで速やかに到達し、その後周壁部105へと続いていくことになる。換言すると、非狭幅部125a等は、集中的に応力が掛かりにくい形状をしており、また、底面部107の周縁より遠くに配置されているため、非狭幅部125a等を起点とした底面部107の開裂は生じにくく、また、それが周壁部105まで到達することは生じにくい。
【0036】
以上より、放出装置100では、点火器101の作動によるガス発生剤121の燃焼初期においては、底面部107の所定部位(最奥端部Ep近傍の部位)に応力を集中させ、その結果、当該所定部位を起点として底面部107を開裂させるとともに、続いて周壁部105を開裂させることになる。そして、底面部107から開裂が始まることを踏まえると、周壁部105の開裂は、カップ104の高さ方向(長手方向)に沿って進むことが見込まれる。なお、本実施例では、そのようなカップ104の高さ方向に沿った周壁部105の開裂を促すために、周壁部105には、4つの狭幅部115a等に対応する位置に、カップ104の高さ方向に延在する薄肉部105aが設けられている。薄肉部105aは、周壁部105の他の部位と比べて肉厚が薄く形成されており相対的に脆弱な構成となっている。このように周壁部105が、カップ104の高さ方向に沿って開裂していくと、放出装置100の側方が解放された状態となるため、燃焼初期以降に生成された燃焼ガスは放出装置100の側方(
図1、
図3に示す白抜き矢印の方向)にも放出されることになる。
【0037】
そして、本実施例の底面部107において応力が集中する上記所定部位は、貫通孔108の形状によって決定されるものであるから、高い再現性で想定通りにカップ104の開裂を開始させることができる。放出装置100では、狭幅部115a等はそれぞれ同一に形成されているため、各狭幅部115を起点として概ね均等に底面部107及び周壁部105を開裂させることができる。そのため、放出装置100の側方への燃焼ガスの放出は、均等に放射状に実現される。
【0038】
また、貫通孔108の形成はプレス装置等を利用することで比較的に容易に形成することが可能であり、従来技術の薄肉状のスコアのような肉厚の調整よりも製造負荷が極めて軽く済む。なお、カップ104の周壁部105に設けられた薄肉部105aは、既に始まっているカップ104の開裂の方向を導くためのものであるから、その肉厚調整には高い精度は必要とはされない。
【0039】
<変形例1>
放出装置100の第1の変形例について、
図4に基づいて説明する。
図4は、カップ1
04の上面図である。本変形例と上記第1の実施例との相違点は、貫通孔108の狭幅部115aが、底面部107の周縁まで至らない位置で終端している点である。すなわち、本変形例では、狭幅部115aの最奥端部Epと底面部107の周縁との間にΔLの距離が存在することになる。このように貫通孔108を形成した場合でも、点火器101の作動によりガス発生剤121が燃焼し、燃焼ガスが生成されると、貫通孔108の狭幅部115aや他の狭幅部に集中的に荷重が掛かり、その狭幅部115a等を起点として底面部107の開裂が始まる。その開裂は底面部107の周縁まで至ると、上記の実施例と同様に、続いて周壁部105をカップ104の高さ方向に進んでいき、放出装置100の側方への燃焼ガスの放出が可能とされる。
【0040】
<変形例2>
放出装置100の第2の変形例について、
図5に基づいて説明する。
図5は、カップ104に設けられた貫通孔108の狭幅部115a近傍の拡大図である。本変形例と上記第1の変形例との相違点は、貫通孔周縁108aと貫通孔周縁108bは直接接続されておらず、極めて短い別の貫通孔周縁108xを挟んで両貫通孔周縁108a、108bが繋がれている。貫通孔周縁108xの長さはΔW0とされる。このような場合、対向する貫通孔周縁108aと貫通孔周縁108bとの間の、底面部107の半径に対して垂直な方向に沿った距離が貫通孔108の幅とされる。そして、
図5においても、狭幅部115aにおける貫通孔108の幅は、底面部107の中心から周縁側に進むに従い狭まっていく。このように貫通孔108を形成した場合でも、点火器101の作動によりガス発生剤121が燃焼し、燃焼ガスが生成されると、貫通孔108の狭幅部115aや他の狭幅部に集中的に荷重が掛かり、その狭幅部115a等を起点として底面部107の開裂が始まる。その開裂は底面部107の周縁まで至ると、上記の実施例と同様に、続いて周壁部105をカップ104の高さ方向に進んでいき、放出装置100の側方への燃焼ガスの放出が可能とされる。
【0041】
<変形例3>
放出装置100の第3の変形例について、
図6〜
図9に基づいて説明する。
図6〜
図9は、カップ104の上面図である。本変形例と上記第1の実施例との相違点は、貫通孔108の形状である。本変形例の各図においては、貫通孔108の狭幅部として、貫通孔周縁108aと貫通孔周縁108bとで画定される狭幅部115aを例示しているが、同様の狭幅部が他にも含まれていることは各図を見ると当業者であれば理解できる。
【0042】
まず、
図6に示す形態では、貫通孔108が正三角形となるように形成されている。この場合、貫通孔108を形成する3つの貫通孔周縁は直線状である。そして、
図6に示す狭幅部115aを含む同一形状の3つの狭幅部が、底面部107の周縁に沿って均等に配置される。そして、2つの狭幅部の間に画定される非狭幅部は、狭幅部と比べて当該周縁より遠くに位置している。次に
図7に示す形態では、貫通孔108がいわゆる星形となるように形成されている。この場合、貫通孔108を形成する10の貫通孔周縁は直線状である。そして、
図7に示す狭幅部115aを含む同一形状の5つの狭幅部が、底面部107の周縁に沿って均等に配置される。そして、2つの狭幅部の間に画定される非狭幅部は、狭幅部と比べて当該周縁より遠くに位置している。
【0043】
また、
図8に示す形態では、貫通孔108が同一形状の3つの円弧によって形成されている。そして、
図8に示す狭幅部115aを含む同一形状の3つの狭幅部が、底面部107の周縁に沿って均等に配置される。そして、2つの狭幅部の間に画定される非狭幅部は、狭幅部と比べて当該周縁より遠くに位置している。最後に、
図9に示す形態では、貫通孔108が異なる形状の2つの円弧によって形成され、いわゆる三日月形状をとなっている。そして、
図9に示す狭幅部115aを含む同一形状の2つの狭幅部が、底面部107の周縁に沿って配置される。そして、2つの狭幅部の間に画定される非狭幅部は、狭幅部
と比べて当該周縁より遠くに位置している。
【0044】
図6〜
図9に示すように貫通孔108を形成した場合でも、点火器101の作動によりガス発生剤121が燃焼し、燃焼ガスが生成されると、貫通孔108の狭幅部115aや他の狭幅部に集中的に荷重が掛かり、その狭幅部115a等を起点として底面部107の開裂が始まる。その開裂は底面部107の周縁まで至ると、上記の実施例と同様に、続いて周壁部105をカップ104の高さ方向に進んでいき、放出装置100の側方への燃焼ガスの放出が可能とされる。
【0045】
<変形例4>
放出装置100の第4の変形例について、
図10〜
図12に基づいて説明する。
図10は、放出装置100の側面図である。本変形例と上記第1の実施例との相違点は、周壁部105に設けられた薄肉部に関する構造である。上記第1の実施例では、周壁部105には、周壁部105の、カップ104の高さ方向への開裂を促進するために薄肉部105aが設けられているが、本変形例では、その周壁部105の開裂を所定の位置で停止させるための停止用薄肉部が設けられている。
【0046】
具体的には、
図10に示す形態では、薄肉部105aの点火器101側(底面部107とは反対側)の終端に、該薄肉部105aに繋がるリング状の薄肉部105bが設けられている。なお、薄肉部105bは、周壁部105の点火器101側の周縁には繋がっていない。このようなリング状の薄肉部105bによれば、薄肉部105aを進んできた開裂は、その開裂を生じさせている応力が薄肉部105bによって分散されてその応力が小さくされ、以て周壁部105の更なる開裂が停止されることになる。また、
図11に示す形態では、薄肉部105aの点火器101側の終端に、該薄肉部105aとは離間している円弧状の薄肉部105bが設けられている。なお、薄肉部105bは、周壁部105の点火器101側の周縁には繋がっていない。このような円弧状の薄肉部105bによっても、薄肉部105aを進んできた開裂は、その開裂を生じさせている応力が薄肉部105bによって分散されてその応力が小さくされ、以て周壁部105の更なる開裂が停止されることになる。また、
図12に示す形態では、薄肉部105aの点火器101側の終端に、該薄肉部105aに繋がり二股に分岐した薄肉部105b1、105b2が設けられている。なお、薄肉部105b1、105b2は、いずれも周壁部105の点火器101側の周縁には繋がっていない。このような分岐した薄肉部105b1、105b2によっても、薄肉部105aを進んできた開裂は、その開裂を生じさせている応力が薄肉部105b1、105b2によって分散されてその応力が小さくされ、以て周壁部105の更なる開裂が停止されることになる。
【0047】
このように、周壁部105の開裂を所定の位置で停止させるための停止用薄肉部としての薄肉部105b(105b1、105b2)を設けることで、燃焼ガスを側方に放出するために開裂された周壁部105の破片がカップ104の本体に繋ぎ留められ、燃焼ガスの放出に伴い離間してしまうことを回避することができる。薄肉部105b(105b1、105b2)は、開裂した周壁部105の破片を繋ぎ留める程度に十分な強度を確保できるとともに、燃焼ガスの側方への放出が阻害されないよう周壁部105の一部を排除できるように、薄肉部105aの終端と周壁部105の周縁との間の所定位置に配置される。
【0048】
<実施例2>
上記の第1の実施例に示した放出装置100を組み込んで形成されるガス発生器1について、
図13に基づいて説明する。
図13は、ガス発生器1の高さ方向の断面図である。ガス発生器1は、上部シェル2及び下部シェル3で形成されるハウジング4内に充填されたガス発生剤を燃焼させて、燃焼ガスを放出するように構成されている。なお、ガス発生
器1は、後述するように2つの燃焼室が上下に配置され、各燃焼室に、対応する点火器(そのうちの一つが放出装置100とされる)及びガス発生剤を配置した、いわゆるデュアルタイプのガス発生器である。ここで、上部シェル2は周壁部2cと頂面部2dを有し、これらにより凹状の内部空間を形成する。頂面部2dは、下部シェル3の底面部3bとともに、上面視で概ね円形状を有しており、周壁部2c及び下部シェル3の周壁部3aは、それぞれ頂面部2d、底面部3bの周囲を囲み、各面部から概ね垂直に延在した環状の壁面を形成している。上部シェル2の内部空間は、後述するように第1伝火薬24及び第1ガス発生剤22が充填される第1燃焼室21となる。周壁部2cの一端側に頂面部2dが接続し、その他端側は上部シェル2の開口部となる。そして、周壁部2cの当該他端側には、当該開口部から順に、嵌合壁部2a、突き当て部2bが設けられている。嵌合壁部2aによる内部空間の半径は、頂面部2d寄りの周壁部2cによる内部空間の半径より大きく形成され、嵌合壁部2aは、突き当て部2bを介して周壁部2cへと繋がっている。
【0049】
また、下部シェル3は周壁部3aと底面部3bを有し、これらにより凹状の内部空間を形成する。当該内部空間は、第2ガス発生剤29が充填される第2燃焼室25となる。周壁部3aの一端側に底面部3bが接続し、その他端側は下部シェル3の開口部となる。そして、周壁部3aによる内部空間の半径は、上部シェル2の周壁部2cによる内部空間の半径と概ね同じである。下部シェル3の底面部3bには、第1点火器23と第2点火器としての上記放出装置100がそれぞれ固定される孔が設けられている。
【0050】
更に、ハウジング4内には、上部シェル2と下部シェル3との間に分割壁10が配置されている。分割壁10は、終端部15と、その終端部15に繋がりハウジング4内を概ね上下の空間に分割する分割壁部14と、分割壁部14に繋がり後述する収容壁部材16に沿って延在する周壁部13と、収容壁部材16の開口部を一部覆うように配置される端部12を有する。なお、端部12は、貫通孔11を形成している。また、下部シェル3の底面部3bに取り付けられた第1点火器23の周囲を、その高さ方向に囲むように、筒状の収容壁部材16が底面部3bに設けられている。この収容壁部材16の上方の開口部は、上記分割壁10の端部12によって覆われている。そして、収容壁部材16の内部空間のうち第1点火器23が占める空間を除いた所定空間20に第1伝火薬24が充填される。なお、第1伝火薬24は、概ね所定空間20を占有するように配置されたアルミニウム製の収容容器18内に充填されている。なお、第1伝火薬24としては、着火性が良く、第1ガス発生剤22より燃焼温度の高いガス発生剤を使用することができる。第1伝火薬24の燃焼温度は、1700〜3000℃の範囲とすることができる。このような第1伝火薬24としては、例えばニトログアニジン(34重量%)、硝酸ストロンチウム(56重量%)からなる、ペレット状や円柱状のものを用いることができる。そして、第1燃焼室21において、実質的に所定空間20の開口部となっている貫通孔11はアルミニウムテープ36で塞がれ、所定空間20の上方の空間(概ね、分割壁部14より上方の空間)に充填された第1ガス発生剤22との混在が防止される。
【0051】
また、収容壁部材16の周壁部のうち放出装置100とは反対側の部分に貫通孔17が設けられており、貫通孔17は、分割壁10により分割されて形成される2つの空間(第1燃焼室21と第2燃焼室25)を連通する。なお、貫通孔17は所定空間20側から収容容器18の壁面によって塞がれている。このような構成により、収容容器18の壁面の破裂圧に差が生じ、後述する第2燃焼室25での放出装置100の作動時のみ収容容器18が開裂する。
【0052】
そして、このように下部シェル3上に分割壁10が取り付けられた状態で、上方より上部シェル2が更に取り付けられる。上記の通り、上部シェル2の嵌合壁部2aによる内部空間の半径は、周壁部2cによる内部空間の半径より大きく形成されているため、上部シェル2は、その突き当て部2bが分割壁10の終端部15に突き当てられるまで、下部シ
ェル3に対して嵌め込まれる。なお、ハウジング4において、上部シェル2と下部シェル3の嵌合部位や接触部位は、内部に充填されるガス発生剤の防湿等のために好適な接合方法(例えば、溶接等)により接合される。
【0053】
このようにハウジング4においては、分割壁10によってその内部空間が概ね上下に2つの空間に分割されることになる。ハウジング4の内部空間のうち上部シェル2と分割壁10によって画定される第1燃焼室21には、第1点火器23、第1伝火薬24、第1ガス発生剤22が配置され、下部シェル3と分割壁10によって画定される第2燃焼室25には、放出装置100、第2ガス発生剤29が配置されることで、ガス発生器1は第1点火器23、放出装置100を備えるデュアルタイプのガス発生器として構成されている。なお、第1点火器23と放出装置100はともに下部シェル3の底面部3bに固定されており、そのため、第1点火器23は、第1点火器23の側方が収容壁部材16に囲まれた状態となっている。
【0054】
ここで、第1燃焼室21の、所定空間20の開口部を塞いだアルミニウムテープ36の上方の空間には、第1ガス発生剤22が充填されることになるが、その第1ガス発生剤22を取り囲むように環状のフィルタ32が配置されている。このとき第1ガス発生剤22は、第1燃焼室21内で不要に振動しないようにクッション31の付勢力によりフィルタ32、分割壁部14等に抑えつけられた状態で充填されている。第1ガス発生剤22は、第1伝火薬24より燃焼温度の低いガス発生剤を使用している。第1ガス発生剤22の燃焼温度は、1000〜1700℃の範囲にあることが望ましく、例えば、硝酸グアニジン(41重量%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物からなる、単孔円柱状のものを用いることができる。
【0055】
なお、フィルタ32は、ステンレス鋼製平編の金網を半径方向に重ね、半径方向及び軸方向に圧縮して形成されており、第1ガス発生剤22による燃焼ガスを冷却し、その燃焼残渣を捕集する。フィルタ32として、その他に針金を心棒に多層に巻いて形成された巻線タイプの構造のものを採用してもよい。なお、フィルタ32は、第2燃焼室25に充填された第2ガス発生剤29の燃焼残渣も捕集する。また、上部シェル2の周壁部2cとフィルタ32との間に形成された間隙33より、フィルタ32の周囲に半径方向断面に環状のガス通路が形成される。この間隙33により、燃焼ガスはフィルタ32の全領域を通過し、フィルタ32の有効利用と燃焼ガスの効果的な冷却・浄化が達成される。間隙33を流れる燃焼ガスは、周壁部2cに設けられたガス排出口5に至る。また、ハウジング4内に外部より湿気が侵入するのを阻止するために、ガス発生器1の作動前では、アルミニウムテープ34によりガス排出口5がハウジング4の内部から塞がれている。
【0056】
次に、第2燃焼室25では、下部シェル3の底面部3bに固定された放出装置100に対応して、第2ガス発生剤29が充填されている。この第2燃焼室25は、下部シェル3の周壁部3aの内壁面及び収容壁部材16を側面とし、下部シェル3の底面部3bを底面とし、分割壁10の分割壁部14を上面として画定される空間である。そして、第2ガス発生剤29としては、第1ガス発生剤22と同じように、例えば、硝酸グアニジン(41重量%)、塩基性硝酸銅(49重量%)及びバインダーや添加物からなる、単孔円柱状のものを用いることができる。
【0057】
このように構成されたガス発生器1では、先ず第1点火器23が作動すると、第1伝火薬24が着火し、その後第1ガス発生剤22が燃焼する。そして、第1ガス発生剤22による燃焼ガスは、フィルタ32を経てガス排出口5から外部に放出される。次いで放出装置100が作動することで、第2ガス発生剤29が燃焼する。
【0058】
ここで、
図13に示すように、下部シェル3側の第2燃焼室25においては、放出装置
100の側方に第2ガス発生剤29が充填されている。この点に関し、上部シェル2側の第1燃焼室21に充填された第1ガス発生剤22が、第1点火器23の上方に位置している状態と異なっていることが理解できる。上記の第1の実施例で示したように、放出装置100は、その側方に好適に燃焼ガス(ガス発生剤121の燃焼により生成される燃焼ガス)を放出する。すなわち、カップ104の底面部107に形成された貫通孔108を通って燃焼ガスの一部が分割壁10に当たって下部シェル3の底面部3b側に反射される流れ以外にも、カップ104の周壁部105から側方に放射状に排出される流れが形成されることになる。そのため、
図13に示すようなデュアルタイプのガス発生器1において、第2燃焼室25に充填された第2ガス発生剤29に対して効果的に燃焼ガスを供給でき、以て、第2ガス発生剤29を効果的に燃焼させて、その燃焼ガスを生成することができる。放出装置100から放出された燃焼ガス、及び第2ガス発生剤29の燃焼により生じた燃焼ガスは、貫通孔17を通り第1燃焼室21を経てガス排出口5から外部に放出される。
【0059】
<変形例1>
ガス発生器1の第1の変形例について、
図14に基づいて説明する。
図14は、本変形例のガス発生器1の下部シェル3内を上方から見た図である。本変形例と上記第2の実施例との相違点は、放出装置100のカップ104の底面部107に設けられた貫通孔108の形状である。本変形例では、貫通孔108は二等辺三角形となるように形成されている。具体的には、同じ長さの貫通孔周縁108a、108bと、それらより短い貫通孔周縁108cとによって貫通孔108が画定される。それに伴い、
図14に示すように放出装置100のカップ形状は楕円形状とされる。
【0060】
また、貫通孔周縁108a、108bによって画定される狭幅部を115aで参照し、貫通孔周縁108b、108cによって画定される狭幅部を115bで参照し、貫通孔周縁108c、108aによって画定される狭幅部を115cで参照する。このとき、狭幅部において底面部107の中心からその周縁に向かって単位距離変位したときの該狭幅部の幅の減少量を、該狭幅部の幅減少率と定義すると、狭幅部115aの幅減少率は、他の狭幅部115b、115cの幅減少率よりも小さい。なお、狭幅部115bの幅減少率は、狭幅部115cの幅減少率と同じである。
【0061】
このように貫通孔108が形成された放出装置100においては、幅減少率がより小さく設定された狭幅部115aには、他の狭幅部115b、115cよりもガス発生剤121の燃焼初期に掛かる応力が大きくなり、その結果、他の狭幅部115b、115cよりも近傍の底面部107の開裂が早く生じる。したがって、第2燃焼室25において、狭幅部115aの近くに配置されている第2ガス発生剤29を、狭幅部115b、115cの近くに配置されている第2ガス発生剤29よりも優先的に燃焼させることができる。
【0062】
ここで、第2燃焼室25においては第1点火器23が配置されていることにより放出装置100の配置が、第2燃焼室の中心よりもずれた位置(
図14の右側にずれた位置)となっており、また、第2燃焼室25の内部においては収容壁部材16が配置された状態となっている。ここで、放出装置100から放出される燃焼生成物による、第2ガス発生剤29の燃焼が伝播する距離を燃焼距離と定義すると、上記の第2燃焼室25における放出装置100や収容壁部材16の配置によって、第2燃焼室25において放出装置100からの燃焼距離は均等ではない状態となっている。例えば、
図14において放出装置100を中心としたときに、下部シェル3の右側の内壁面近傍の領域は、放出装置100からの燃焼距離が比較的近くなり、一方で、下部シェル3の左側の内壁面近傍や収容壁部材16の背面側の領域は、放出装置100からの燃焼距離が比較的遠くなる。放出装置100を中心としたときに、前者を燃焼距離に基づき近位領域と称し、後者を遠位領域と称する。
【0063】
このような放出装置100の特性、及び、第2燃焼室25における放出装置100及び収容壁部材16の配置を踏まえて、本変形例では、
図14に示すように、放出装置100の狭幅部115aが遠位領域である収容壁部材16の背面側の領域に向くように方向付けられ、且つ、他の狭幅部115b、115cが近位領域である下部シェル3の右側の内壁面近傍の領域に向くように方向付けられた状態で、下部シェル3に放出装置100が固定される。この結果、狭幅部115a近傍で優先的に放出された燃焼ガスが、
図14に示すように収容壁部材16に当たって分かれ、下部シェル3の左側の内壁面近傍や収容壁部材16の背面側の遠位領域に速やかに到達する。このように放出装置100を配置することで、放出装置100から遠位にある第2ガス発生剤29を好適に燃焼でき、第2燃焼室25内の第2ガス発生剤29の燃焼の均一化を図ることができる。また、第1の実施例でも示したように、貫通孔108の形成はプレス装置等を利用することで比較的に容易に形成することが可能であるから、従来技術の薄肉部の形成のような肉厚の調整よりも製造負荷を極めて軽く抑えながら、上記の通り第2ガス発生剤29の燃焼の均一化が可能となる。