【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施形態に係るカビ検出用担体、カビの検出方法、及びカビ検出用キットの実施例の効果を確認するために行った試験について、具体的に説明する。
【0055】
[試験1]
カビ検出用担体としては、ジーンシリコン(登録商標)(東洋鋼鈑株式会社製)を用い、
図1〜2に示される配列番号1〜26のプローブを固定化したものを使用した。各プローブは、シグマ アルドリッチジャパン株式会社により合成したものを使用した。また、各プローブの基板への固定化は、マイクロアレイヤーにより行った。
【0056】
検出対象のカビとしては、独立行政法人理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室(Japan Collection of Microorganisms)及び独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NITE Biological Resource Center)から入手した菌株を使用した。具体的には、以下の13種類のカビにつき、13種類の菌株を使用した。
【0057】
(1)ムーコル・ラセモサス NBRC4555
(2)リクテイミア・コリムビフェラ NBRC4009
(3)モナスカス・ルバー NBRC4483
(4)サーモアスカス・クラスタセウス NBRC9129
(5)サーモアスカス・オーランティアカス NBRC6766
(6)サーモアスカス・サーモフィラス NBRC9643
(7)ニグロスポラ・オリゼー NBRC32860
(8)ニューロスポラ・クラッサ NBRC6067
(9)エメリセラ・ニデュランス NBRC4340
(10)タラロマイセス・フラバス NBRC7232
(11)タラロマイセス・バチリスポラス NBRC31150
(12)ペシロマイセス・バリオッティ NBRC100534
(13)ビソクラミス・ゾラニアエ JCM12808
【0058】
これらのカビを上記菌株毎に培養した。培養は、PDA培地またはM40Y培地を用いて、25℃の暗所で、7日間静置させて行った。
さらに、培養したカビのコロニーを採取し、φ0.5mmジルコニアビーズを入れたバイアル瓶に個別に入れ、液体窒素に浸して試料を凍結した後、振盪装置を用いて、カビの細胞を破砕した。
次いで、DNA抽出装置によりカビのゲノムDNAを抽出して、PCR法により、各カビのITS領域又はβ-チューブリン遺伝子を菌株毎に増幅した。
【0059】
PCR用反応液には、ITS領域増幅用プライマーセットとβ-チューブリン遺伝子増幅用プライマーセットの両方を含有させて、これらの標的領域の増幅反応を行った。
ITS領域増幅用プライマーセットとしては、
図3に示す配列番号27の塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号28の塩基配列からなるリバースプライマーを用いた。また、β-チューブリン遺伝子増幅用プライマーセットとしては、同図に示す配列番号29の塩基配列からなるフォワードプライマー及び配列番号30の塩基配列からなるリバースプライマーを用いた。これらのプライマーは、シグマ アルドリッチジャパン株式会社により合成したものを使用した。
【0060】
なお、
図1に示すカビについては、ITS領域から選択されたプローブにおいて陽性反応が得られた場合に、当該カビが存在していると判定することができるため、PCR用反応液にITS領域増幅用プライマーセットを含有させ、β-チューブリン遺伝子増幅用プライマーセットを含有させることなく、標的領域の増幅反応を行うようにすることもできる。同様に、
図2に示すカビについては、β-チューブリン遺伝子から選択されたプローブにおいて陽性反応が得られた場合に、当該カビが存在していると判定することができるため、PCR用反応液にβ-チューブリン遺伝子増幅用プライマーセットを含有させ、ITS領域増幅用プライマーセットを含有させることなく、標的領域の増幅反応を行うようにすることもできる。
【0061】
PCR用反応液としては、Ampdirect(株式会社島津製作所製)を使用し、13種類の菌株毎に、次の組成のものを20μl作成した。
1.Ampdirect(G/Crich) 4.0μl
2.Ampdirect(addition-4) 4.0μl
3.dNTPmix 1.0μl
4.Cy-5dCTP 0.2μl
5.ITS1-Fw primer(配列番号27)(2.5μM) 1.0μl
6.ITS1-Rv primer(配列番号28)(2.5μM) 1.0μl
7.BtF primer(配列番号29)(10μM) 1.0μl
8.BtR primer(配列番号30)(10μM) 1.0μl
9.Template DNA 1.0μl
10.NovaTaq HotStart DNA polymerase 0.2μl
11.水(全体が20.0μlになるまで加水)
【0062】
上記PCR用反応液を使用して、核酸増幅装置(TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(登録商標) Gradient タカラバイオ株式会社製)により、次の条件でDNAの増幅を行った。
(a)95℃ 10分
(b)95℃ 30秒
(c)56℃ 30秒
(d)72℃ 60秒((b)〜(d)を40サイクル)
(e)72℃ 10分
【0063】
次に、PCR増幅産物に緩衝液(3×SSCクエン酸−生理食塩水+0.3%SDS)を混合して、94℃で5分間加温し、上記カビ検出用担体(DNAチップ)に滴下した。このカビ検出用担体を45℃で1時間静置し、上記緩衝液を用いてハイブリダイズしなかったPCR産物をDNAチップから洗い流した。
そして、標識検出装置(BIOSHOT,東洋鋼鈑株式会社製)を用いて、カビ検出用担体に固定化された各プローブにおける蛍光強度(プローブに結合した増幅産物の蛍光強度)を測定して、各プローブにおけるS/N比値を算出した。その結果を
図4〜
図5に示す。
【0064】
これらの図に示すように、配列番号1〜26に示される塩基配列をそれぞれ有するプローブにおけるS/N比値は、いずれも3以上となっており、陽性と判断できる。したがって、これらのプローブは、ぞれぞれの対象カビを検出するために、有効に機能していることがわかる。
【0065】
[試験2]
検出対象の複数のカビのDNAにおける標的領域を同時に増幅させるマルチプレックスPCRを行った場合に、本実施形態のカビ検出用担体に固定化したプローブが有効に機能するかを確認するための試験を行った。
【0066】
カビ検出用担体は、試験1と同じものを使用した。また、検出対象のカビも試験1と同じく13種類のカビについて、13種類の菌株を使用した。
本試験では、
図6に示すように、これらのカビをランダムに5種類ずつ組み合わせ、以下の5つのグループの混合DNA試料を作成した。したがって、一部のカビは、複数の試料に重複して含まれている。培養は、PDA培地またはM40Y培地を用いて、25℃の暗所で、7日間静置させて行った。
【0067】
(試料1)
(1)ムーコル・ラセモサス NBRC4555
(4)サーモアスカス・クラスタセウス NBRC9129
(6)サーモアスカス・サーモフィラス NBRC9643
(9)エメリセラ・ニデュランス NBRC4340
(11)タラロマイセス・バチリスポラス NBRC31150
【0068】
(試料2)
(2)リクテイミア・コリムビフェラ NBRC4009
(5)サーモアスカス・オーランティアカス NBRC6766
(8)ニューロスポラ・クラッサ NBRC6067
(10)タラロマイセス・フラバス NBRC7232
(13)ビソクラミス・ゾラニアエ JCM12808
【0069】
(試料3)
(3)モナスカス・ルバー NBRC4483
(6)サーモアスカス・サーモフィラス NBRC9643
(7)ニグロスポラ・オリゼー NBRC32860
(12)ペシロマイセス・バリオッティ NBRC100534
(13)ビソクラミス・ゾラニアエ JCM12808
【0070】
そして、培養したカビのコロニーを採取し、φ0.5mmジルコニアビーズを入れたバイアル瓶に入れ、液体窒素に浸してコロニーを凍結した後、振盪装置を用いて、カビの細胞を破砕した。
次いで、DNA抽出装置により各カビのゲノムDNAを抽出したものを、上記試料1〜3に示す通りに混合した。そして、PCR法により、各カビのITS領域及び/又はβ-チューブリン遺伝子を試料毎に同時に増幅した。PCR法で用いたプライマーセットは、試験1におけるものと同一であり、ITS領域を増幅するためのプライマーセットとして、配列番号27及び28に示される塩基配列からなるプライマーを使用し、β-チューブリン遺伝子を増幅するためのプライマーセットとして、配列番号29及び30に示される塩基配列からなるプライマーを使用した。
【0071】
PCR用反応液としては、Ampdirect(株式会社島津製作所製)を使用し、試料毎に、次の組成のものを20μl作成した。
1.Ampdirect(G/Crich) 4.0μl
2.Ampdirect(addition-4) 4.0μl
3.dNTPmix 1.0μl
4.Cy-5dCTP 0.2μl
5.ITS1-Fw primer(2.5μM) 1.0μl
6.ITS1-Rv primer(2.5μM) 1.0μl
7.BtF primer(10μM) 1.0μl
8.BtR primer(10μM) 1.0μl
9.Template DNA(1.0μl/菌株) 1.0μl×菌株数
10.NovaTaq HotStart DNA polymerase 0.2μl
11.水(全体が20.0μlになるまで加水)
【0072】
上記各PCR用反応液を使用して、核酸増幅装置(TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice Gradient タカラバイオ株式会社製)により、試験1と同様に、次の条件でDNAの増幅を行った。
(a)95℃ 10分
(b)95℃ 30秒
(c)56℃ 30秒
(d)72℃ 60秒((b)〜(d)を40サイクル)
(e)72℃ 10分
【0073】
次に、PCR増幅産物に緩衝液(3×SSCクエン酸−生理食塩水+0.3%SDS)を混合して、94℃で5分間加温し、カビ検出用担体(DNAチップ)に滴下した。このカビ検出用担体を45℃で1時間静置し、上記緩衝液を用いてハイブリダイズしなかったPCR産物をDNAチップから洗い流した。
そして、標識検出装置(BIOSHOT,東洋鋼鈑株式会社製)を用いて、カビ検出用担体に固定化された各プローブにおける蛍光強度(プローブに結合した増幅産物の蛍光強度)を測定し、各プローブにおけるS/N比値を取得した。その結果を
図7に示す。
【0074】
試料1に含まれるカビを検出するためのプローブは、
図6に示すように、配列番号1〜4,10,11,13,18,19,21〜23に示す塩基配列からなるプローブである。
配列番号1〜4に示す塩基配列からなるプローブは、ムーコル・ラセモサスを検出するためのプローブである。このうち、配列番号1,2,4については、S/N比値はいずれも3以上であり、陽性反応を示している。配列番号3については、5種類のカビを含むマルチプレックスPCRを行った試験2では陽性反応は示さなかったが、1種類のカビのみを個別に増幅した試験1においては、陽性反応を示している。
配列番号10,11に示す塩基配列からなるプローブは、サーモアスカス・クラスタセウスを検出するためのプローブである。これらについては、S/N比値はいずれも3以上であり、陽性反応を示している。
配列番号13に示す塩基配列からなるプローブは、サーモアスカス・サーモフィラスを検出するためのプローブである。これについては、S/N比値は3以上であり、陽性反応を示している。
配列番号18,19に示す塩基配列からなるプローブは、エメリセラ・ニデュランスを検出するためのプローブである。これらについては、S/N比値はいずれも3以上であり、陽性反応を示している。
配列番号21〜23に示す塩基配列からなるプローブは、タラロマイセス・バチリスポラスを検出するためのプローブである。これらについては、S/N比値はいずれも3以上であり、陽性反応を示している。
また、これら以外のプローブについては、陽性反応は見られない。すなわち、これら以外のプローブについて偽陽性反応は生じておらず、試料1に含まれるカビを検出するための各プローブによれば、検出対象のカビ以外のカビが、誤って検出されないことが示されている。
【0075】
試料2に含まれるカビを検出するためのプローブは、
図6に示すように、配列番号5〜7,12,16,17,20,26に示す塩基配列からなるプローブである。
配列番号5〜7に示す塩基配列からなるプローブは、リクテイミア・コリムビフェラを検出するためのプローブである。これらについては、S/N比値はいずれも3以上であり、陽性反応を示している。
配列番号12に示す塩基配列からなるプローブは、サーモアスカス・オーランティアカスを検出するためのプローブである。これについては、S/N比値は3以上であり、陽性反応を示している。
配列番号16,17に示す塩基配列からなるプローブは、ニューロスポラ・クラッサを検出するためのプローブである。これらについては、S/N比値はいずれも3以上であり、陽性反応を示している。
配列番号20に示す塩基配列からなるプローブは、タラロマイセス・フラバスを検出するためのプローブである。これについては、S/N比値は3以上であり、陽性反応を示している。
配列番号26に示す塩基配列からなるプローブは、ビソクラミス・ゾラニアエを検出するためのプローブである。これについては、S/N比値は3以上であり、陽性反応を示している。
また、これら以外のプローブについては、陽性反応は見られない。すなわち、これら以外のプローブについて偽陽性反応は生じておらず、試料2に含まれるカビを検出するための各プローブによれば、検出対象のカビ以外のカビが、誤って検出されないことが示されている。
【0076】
試料3に含まれるカビを検出するためのプローブは、
図6に示すように、配列番号8,9,13,14,15,24,25,26に示す塩基配列からなるプローブである。
配列番号8,9に示す塩基配列からなるプローブは、モナスカス・ルバーを検出するためのプローブである。これらについては、S/N比値はいずれも3以上であり、陽性反応を示している。
配列番号13に示す塩基配列からなるプローブは、サーモアスカス・サーモフィラスを検出するためのプローブである。これについては、S/N比値は3以上であり、陽性反応を示している。
配列番号14,15に示す塩基配列からなるプローブは、ニグロスポラ・オリゼーを検出するためのプローブである。これらについては、S/N比値はいずれも3以上であり、陽性反応を示している。
配列番号24,25に示す塩基配列からなるプローブは、ペシロマイセス・バリオッティを検出するためのプローブである。これらについては、S/N比値はいずれも3以上であり、陽性反応を示している。
配列番号26に示す塩基配列からなるプローブは、ビソクラミス・ゾラニアエを検出するためのプローブである。これについては、S/N比値は3以上であり、陽性反応を示している。
また、これら以外のプローブについては、陽性反応は見られない。すなわち、これら以外のプローブについて偽陽性反応は生じておらず、試料3に含まれるカビを検出するための各プローブによれば、検出対象のカビ以外のカビが、誤って検出されないことが示されている。
【0077】
以上の通り、本実施形態のカビ検出用担体に固定化したプローブは、検出対象の複数のカビのDNAにおける標的領域を同時に増幅させるマルチプレックスPCRを行った場合でも、ほぼ有効に機能することが明らかとなった。また、これらのプローブは、特異性が高く、偽陽性反応が見られないことも明らかとなった。
【0078】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、本実施形態のカビ検出用担体に固定化するプローブは、1種類につき1スポットずつに限定されるものではなく、それぞれのプローブを複数スポットずつ固定化しても良い。また、本実施形態の検出対象カビ以外のカビを検出するためのその他のプローブが、本実施形態におけるプローブと共に本実施形態のカビ検出用担体に固定化されていても良く、適宜変更することが可能である。
また、本発明における対象カビに関連するアナモルフ型・テレオモルフ型・異名を持つカビも当然検出可能であり、検出対象カビ名は最新の系統分類研究に準ずるものとする。