(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。本実施形態に係る膜厚計測装置は、
図1に示すように、表面に膜Fが形成された試料Sを測定対象物とする寸法計測装置であり、周波数がテラヘルツ(THz)帯の電磁波(テラヘルツ波)を計測用波動として用いることにより、上記膜Fの膜厚X(寸法)をTOF(Time of Flight)法に基づいて計測する。
【0015】
このような膜厚計測装置は、
図1に示すように、レーザ光源1、分波器2、テラヘルツ波発生器3、第1反射鏡4、第2反射鏡5、第3反射鏡6、第4反射鏡7、検出器8、ステージ型反射部9及び計測部10を備えている。レーザ光源1は、例えばフェトム秒ファイバレーザであり、高出力の光パルス(レーザパルス)を出力する。この光パルスは、半値幅が例えば約10
−15sec(=10psec)のオーダであり、またパルス周期がテラヘルツ波の周期、例えば10
−14sec(=100psec)以上であることが好ましい。
【0016】
ここで、上記レーザ光源1、分波器2、テラヘルツ波発生器3、第1反射鏡4及び第2反射鏡5は、本発明における波動出射手段を構成している。また、上記第3反射鏡6、第4反射鏡7、検出器8及びステージ型反射部9は、本発明における計測波形検出手段及び基準波形検出手段を構成している。さらに、上記計測部10は、本発明における時間差取得手段及び寸法演算手段に相当する。
【0017】
分波器2は、上記光パルスを透過光a1と反射光a2に分光し、透過光a1をテラヘルツ波発生器3に向けて出射し、反射光a2をステージ型反射部9に向けて出射する。テラヘルツ波発生器3は、例えば光伝導アンテナであり、上記透過光a1(光パルス)に基づいて数十GHz以上のテラヘルツ帯の周波数を有するテラヘルツ波bを発生し、第1反射鏡4に向けて出射する。このテラヘルツ波bは、透過光a1(光パルス)に基づいて発生するパルス状あるいはバースト状の電磁波である。第1反射鏡4は、放物面鏡であり、上記テラヘルツ波bを平行光または収束光に変換し、第2反射鏡5に向けて出射する。第2反射鏡5は、平面鏡であり、テラヘルツ波bを膜Fの表面に向けて反射する。
【0018】
ここで、テラヘルツ波bは約30μm〜約3mmの波長を有するパルス状の電磁波であり、膜Fの表面m1で反射する性能及び膜F内を透過する性能の両方を有している。したがって、膜Fの表面m1に入射するテラヘルツ波bは、一部が膜Fの表面m1(平面)で反射して第1反射波B1となり、残りは膜Fの表面m1から内部に伝搬し、膜Fの裏面m2つまり試料Sにおける母材と膜Fとの界面において反射して第2反射波B2となる。なお、試料Sは所定材料からなる母材の表面に膜Fが形成(成膜)されたものである。また、母材は、例えば金属あるいは金属光沢を有する非金属等、第2反射波B2を発生し得る表面性状を有するのであり、膜Fは、例えば樹脂あるいはセラミックスであり、テラヘルツ波bを透過し得る材料である。
【0019】
さらに、テラヘルツ波bのうち、膜Fの裏面m2で反射して膜Fの表面m1に到達したテラヘルツ波bの一部は、膜Fの表面m1で2次反射して膜Fの裏面m2に向かって伝搬し、当該裏面m2で再度反射することにより第3反射波B3となる。このような膜F内を裏面m2から表面m1に伝搬するテラヘルツ波bは、膜Fの表面m1で2次反射するだけではなく、さらに膜Fの表面m1で反射することにより3次以上の高次反射となり得るが、このような高次反射波は強度(振幅)が第3反射波B3よりも極端に小さくなるので、上記第1〜第3反射波B1〜B3に対して無視することができる。
【0020】
すなわち、試料Sで発生する反射波dは、第1〜第3反射波B1〜B3が重なり合った多重波(対象物波動)である。なお、上記膜Fの表面m1は、本発明における第1面に相当し、また膜Fの裏面m2は、本発明における第2面に相当する。したがって、上記第1反射波B1は本発明における第1の反射波動に相当し、第2反射波B2は、本発明における第2の反射波動に相当し、上記第3反射波B3は、本発明における第3の反射波動に相当する。
【0021】
第3反射鏡6は、平面鏡であり、上記試料Sで反射したテラヘルツ波bの反射波d(主に第1〜第3反射波B1〜B3)を第4反射鏡7に向けて反射する。第4反射鏡7は、第1反射鏡4と同様に放物面鏡であり、上記反射波dを平行光または収束光に変換し、検出器8に向けて出射する。
【0022】
検出器8は、例えば光伝導アンテナであり、ステージ型反射部9から別途入射するプローブ光eに同期して反射波dの強度(光強度)を検出する。すなわち、この検出器8は、プローブ光eをサンプリング信号として反射波dを順次量子化して検出するものであり、
図2に示すように、プローブ光eによって各々設定されるサンプルタイミングt1、t2、t3、……における反射波dの強度を順次量子化して得られる時系列的なサンプル値を反射波dの波形信号uとして計測部10に出力する。なお、詳細については後述するが、上記プローブ光eは、上述した反射光a2(光パルス)をステージ型反射部9で遅延させたものである。
【0023】
ステージ型反射部9は、第1ステージ反射鏡9a、ステージプリズム9b、リニアステージ9c、連続光源9d、第2ステージ反射鏡9e、ビームスプリッター9f、第1プリズム9g、第2プリズム9h、光検出器9i、サンプリング時間演算部9j及びステージ制御部9kを備えている。
【0024】
第1ステージ反射鏡9aは、平面鏡であり、上記分波器2から入射した反射光a2を反射してステージプリズム9bに向けて出射する。ステージプリズム9bは、リニアステージ9c上に設けられており、上記反射光a2を2回以上反射することにより反射光a2と同軸な方向、つまり検出器8に向けて出射する。上述したプローブ光eは、直線移動自在なステージプリズム9bによって反射光a2の光路長が可変されることにより遅延時間が調整された光パルスである。リニアステージ9cは、リニアモータ等の所定の駆動機構を備えており、ステージ制御部9kから入力される操作信号に基づいて自らに搭載されたステージプリズム9b及び第1プリズム9gを直線移動させる。
【0025】
連続光源9dは、He−Neレーザであり、例えば波長が約0.633μmの連続光を第2ステージ反射鏡9eに向けて出力する。第2ステージ反射鏡9eは、平面鏡であり、上記連続光をビームスプリッター9fに向けて反射する。ビームスプリッター9fは、上記連続光を反射光g1と透過光g2とに分割し、反射光g1を第1プリズム9gに向けて出射し、また透過光g2を第2プリズム9hに向けて出射する。すなわち、ビームスプリッター9fは、光軸が互いに90度の角度関係となる反射光g1と透過光g2とを発生させる。
【0026】
第1プリズム9gは、上記リニアステージ9c上に設けられており、上記反射光g1を2回以上反射することにより反射光g1と同軸な方向、つまりビームスプリッター9fに向けて出射する。この第1プリズム9gは、リニアステージ9cの作用により反射光g1の光軸と平行な直線運動つまりビームスプリッター9fに対して近接/離間する運動をする。第2プリズム9hは、固定配置されており、上記透過光g2を2回以上反射することにより透過光g2と同軸な方向、つまりビームスプリッター9fに向けて出射する。このような第1プリズム9g及び第2プリズム9hは、例えばリトロリフレクター又は中空リトロリフレクターである。
【0027】
ここで、ビームスプリッター9fは、第1プリズム9gで反射して入射した反射光g1を透過させて光検出器9iに向けて出射する一方、第2プリズム9hで反射して入射した透過光g2を反射させて光検出器9iに向けて出射する。すなわち、ビームスプリッター9fから光検出器9iに入射する連続光は、連続光が互いに直行する異なる光路、つまり第1プリズム9gを経る第1光路と第2プリズム9hを経る第2光路を経て混合した混合光hである。この混合光hは、強度(光強度)が上記第1光路と第2光路との光路差に応じた周波数で変動する干渉光(ビート光)、つまり上記光路差を示す光信号である。
【0028】
光検出器9iは、上記光路差を示す混合光hの強度(振幅)を検出し、光路差検出信号としてサンプリング時間演算部9jに出力する。サンプリング時間演算部9jは、上記光路差検出信号を増幅し、かつ所定のタイムインターバルでA/D(アナログ/デジタル)変換することにより、混合光hの強度変化を示す時系列データを生成する。この時系列データは、上記光路差の変化、つまりリニアステージ9cによる第1プリズム9gの移動量つまりステージプリズム9bの移動量を示す移動量信号である。このサンプリング時間演算部9jは、このような移動量信号を制御信号としてステージ制御部9kに出力する。
【0029】
ステージ制御部9kは、このような移動量信号(制御信号)に基づいてリニアステージ9cをフィードバック制御する。すなわち、このステージ制御部9kは、ステージプリズム9bの移動量(=第1プリズム9gの移動量)が目標値を維持するようにリニアステージ9cを制御する。ステージ制御部9kが移動量信号に基づいてリニアステージ9cをフィードバック制御することにより、ステージプリズム9bは、検出器8から一定の移動速度で離間あるいは接近するように直線移動する。
【0030】
ここで、ステージプリズム9bの移動量は、ステージ型反射部9から検出器8に出力されるプローブ光eの出射タイミング、つまり検出器8における反射波dのサンプリングタイミングを規定する。連続光源9dが発生する連続光は約0.633μmの波長を有するので、ステージ制御部9kは、例えば上記波長の1/10程度の制御分解能でリニアステージ9cの移動量を制御することが、つまり反射波dのサンプリングタイミングを約0.06μm程度のオーダで設定することが可能である。
【0031】
計測部10は、検出器8から入力される反射波dの波形信号uに基づいて試料Sにおける膜Fの膜厚Xを演算する。この計測部10における膜厚Xの演算手順は、本実施形態に係る膜厚計測装置の最も特徴的な部分であり、以下に動作説明として詳しく説明する。
【0032】
次に、本実施形態に係る膜厚計測装置の動作、特に計測部10における膜厚Xの演算手順(膜厚演算手順)について、
図3に示すフローチャートに沿って詳しく説明する。
【0033】
最初に、膜厚計測装置は、
図4(a)に示すように、対象物設置場所に所定の基準反射体Kを設置することにより基準反射波動である基準反射波B0の波形を取得する(ステップS1)。基準反射体Kは、例えば表面に高反射材(金コート、銀コート等)が被覆された高反射率の平板である。第2反射鏡5から基準反射体Kの表面にテラヘルツ波bを出射すると、基準反射体Kの表面でテラヘルツ波bが反射し、基準反射波B0が第3反射鏡6に向けて出射する。計測部10は、検出器8から入力される基準反射波B0の波形信号uに基づいて基準反射波B0の波形を基準波形Ei(t)として内部メモリに記憶する。
【0034】
続いて、膜厚計測装置は、
図4(b)に示すように、対象物設置場所に基準反射体Kに代えて試料Sを設置することにより反射波dの波形を取得する(ステップS1)。第2反射鏡5から試料Sの表面m1にテラヘルツ波bを照射すると、試料Sでテラヘルツ波bが反射し、反射波dが第3反射鏡6に向けて出射する。計測部10は、検出器8から入力される反射波dの波形信号uに基づいて反射波dの波形を試料波形E
0(t)として内部メモリに記憶する。つまり、この試料波形E
0(t)は、第1〜第3の反射波動を含む対象物波動の波形であり、本発明における対象物波形に相当する。
【0035】
ここで、反射波dは、テラヘルツ波bが入射角θで膜Fの表面(平面)に入射して反射したものであり、上述したように第1〜第3反射波B1〜B3の多重波である。これら3つの第1〜第3反射波B1〜B3のうち、第1反射波B1は、テラヘルツ波bが膜Fの表面m1(平面)で反射したものであり、第2反射波B2は、テラヘルツ波bが膜Fの表面m1から内部に伝搬し、膜Fの裏面m2で反射して表面m1から出射したものであり、第3反射波B3は、膜Fの裏面m2で反射して膜Fの表面m1に到達したテラヘルツ波bが膜Fの表面m1で2次反射して膜Fの裏面m2に向かって伝搬し、当該裏面m2で反射して表面m1から出射したもの、つまり試料Sで多重反射した多重反射波である。
【0036】
これら3つの第1〜第3反射波B1〜B3は、光路長が互いに異なっているので、
図4(c)に示すように、異なる強度(振幅)を有すると共に異なる遅延時間を経て検出器8に入射する。すなわち、第2反射波B2は、第1反射波B1よりも対象物遅延時間である膜遅延時間Δτ(時間差)だけ遅れて表面m1から出射し、また第3反射波B3は、第2反射波B2よりも膜遅延時間Δτだけ遅れて表面m1から出射する。したがって、試料波形E
0(t)は、下式(1)のように、振幅係数A
0〜A
3、膜遅延時間Δτ及び基準遅延時間τ
0とをパラメータとすると共に時間が互いに異なる3つの基準波形Ei(t)の重ね合わせとして表現することができる。
【0038】
この式(1)において、膜遅延時間Δτは、試料Sの膜Fにおけるテラヘルツ波bの往復伝搬時間に相当し、また基準遅延時間τ
0は、基準反射体Kの表面と試料S(膜F)の表面の位置との差分Dに相当するテラヘルツ波bの伝搬時間に相当する。また、式(1)の右辺において、第1項(振幅係数A
0)は反射波dの直流(DC)成分を示し、第2項は第1反射波B1の波形(第1の反射波形)を示し、第3項は第2反射波B2の波形(第2の反射波形)を示し、第4項は第3反射波B3の波形を示している。
【0039】
一方、本実施形態に係る膜厚計測装置は、上述したようにTOF法に基づいて、つまり膜遅延時間Δτ(計測値)、光速c(既知)、膜Fの屈折率n(既知)及びテラヘルツ波bの入射角θ(既知)をパラメータとする以下の関係式(2)に基づいて膜厚Xを演算するものである。すなわち、この膜厚計測装置は、テラヘルツ波bの反射波dのうち、膜Fの表面で反射して発生する第1反射波B1と膜Fの裏面で反射して発生する第2反射波B2とに着目し、両者の光路長の違いに依存する第1反射波B1に対する第2反射波B2の遅延時間つまり膜遅延時間Δτを計測し、この計測値を式(2)に代入することによって膜厚Xを演算するものである。
【0041】
そして、膜遅延時間Δτを計測するためには、
図4(c)に示すように、第1反射波B1の振幅ピーク(第1ピークP1)と第2反射波B2の振幅ピーク(第2ピークP2)とを識別する必要がある。この第1ピークP1及び第2ピークP2の識別精度が膜遅延時間Δτの計測精度を左右するので、第1ピークP1及び第2ピークP2の識別精度を向上させることは、TOF法に基づいて測定対象物の各種寸法を計測する寸法計測装置にとって極めて重要な要件である。
【0042】
このような事情から、本実施形態に係る膜厚計測装置は、上述したステップS1、S2によって基準波形Ei(t)及び試料波形E
0(t)を取得すると、基準波形Ei(t)及び試料波形E
0(t)を用いて第1〜第3反射波B1〜B3を推定する。そして、この推定手法として、多変量解析の一手法である重回帰分析を用いる。
【0043】
すなわち、計測部10は、
図5に示すように、上述した基準遅延時間τ
0及び膜遅延時間Δτについて所定の範囲τ
01〜τ
0N、Δτ
1〜Δτ
Nを設定し、当該範囲内で基準遅延時間τ
0及び膜遅延時間Δτを所定の刻み幅(ピッチ)で順次変化させた複数の設定値(基準遅延時間τ
0及び膜遅延時間Δτに関する設定値)について、上記式(1)に関する重回帰分析処理をそれぞれ実行する。
【0044】
そして、この重回帰分析処理によって、基準遅延時間τ
0及び膜遅延時間Δτの各設定値(τ
0i及びΔτ
j)における振幅係数A
0〜A
3及び相関係数R
ijを演算する。なお、上記添え字「i」及び「j」は1〜Nの自然数である。なお、上記範囲τ
01〜τ
0Nについては、基準反射体Kの表面と試料S(膜F)の表面の位置との差分Dとして予め想定される距離の例えば2倍程度に設定される。また、範囲Δτ
1〜Δτ
Nについては、試料Sにおける膜Fの膜厚Xとして予め想定される厚さの例えば2倍程度に設定される。
【0045】
周知のように、重回帰分析では、データ数がN(1〜N)である目的変数y、説明変数x
1〜x
Mがあり、切片をA
0、偏回帰係数をA
1〜A
Mとすると、偏回帰係数A
1〜A
Mは下式(3)で与えられる。また、この式(3)におけるS行列の各成分は下式(4)で与えられ、bベクトルの各成分は式(5)によって与えられる。さらに、切片A
0は式(6)によって与えられる。なお、重回帰分析における目的変数yは上述した式(1)における試料波形E
0(t)に対応し、説明変数x
1〜x
Mは基準波形Ei(t)に対応し、切片A
0は及び偏回帰係数A
1〜A
3は、上述した振幅係数A
0〜A
3に対応する量である。
【0048】
上記式(3)〜(6)によって得られた偏回帰係数A
1〜A
M、切片A
0、説明変数x
1〜x
Mによって関数fは、下式(7)のように表される。また、この関数fに対応する相関係数Rは下式(8)によって与えられる。なお、重回帰分析における関数fは、上述した式(1)に対応する関係式であり、相関係数Rは上述した相関係数R
ijに対応する量である。
【0050】
計測部10は、
図3におけるステップS3〜S5の処理を繰り返すことにより、
図5に示した基準遅延時間τ
0及び膜遅延時間Δτの全設定値(マス目)に関する振幅係数A
0〜A
3及び相関係数R
ijを演算する。そして、計測部10は、各設定値(マス目)のうち、相関係数R
ijが最も大きなもの検索する(ステップS6)。この最も大きな相関係数R
ijに対応する膜遅延時間Δτ
Pを式(2)に代入することにより試料Sにおける膜Fの膜厚Xを演算する。例えば、
図5において、相関係数R
89が最大値であった場合、計測部10は、この相関係数R
89に対応する膜遅延時間Δτ
8に基づいて膜厚Xを演算する。
【0051】
図6は、計測部10が取得した基準反射波B0の波形(基準波形Ei(t))、反射波dの波形(試料波形E
0(t))、重回帰分析によって推定された第1〜第3反射波B1〜B3の波形、また第1〜第3反射波B1〜B3の合成波形Cを示している。合成波形Cは、反射波dの波形(試料波形E
0(t))と良く一致している(相関が極めて高い)ので、第1〜第3反射波B1〜B3の波形は、重回帰分析によって高精度に推定されていることがわかる。
【0052】
このような本実施形態によれば、基準波形Ei(t)及び試料波形E
0(t)に基づく重回帰分析によって相関係数R
ijが最大となることを条件に第1〜第3反射波B1〜B3を推定(分離)するので、第1反射波B1の第1ピークP1と第2反射波B2の第2ピークP2とが比較的接近していた場合であっても第1ピークP1と第2ピークP2とを従来よりも正確に識別することが可能である。したがって、本発明によれば、従来よりも小さな寸法を計測することが可能である。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、テラヘルツ波bを計測用波動として用いたが、本発明はこれに限定されない。テラヘルツ波b以外の計測用波動とし、例えば超音波、赤外線等の各種波長の電磁波あるいは中性子線等の各種粒子線を用いても良い。なお、中性子線等の各種粒子線が波動性を備えていることは周知の事項である。また、本願発明における計測対象物は、上記実施形態における膜Fに限定されない。例えば各種物体において平行に対向する2面間の距離(寸法)を計測しても良い。
【0054】
(2)上記実施形態では、多変量解析の一手法である重回帰分析を採用したが、本発明はこれに限定されない。重回帰分析以外の手法を用いて第1〜第3反射波B1〜B3の波形を推定しても良い。
(3)また、上記実施形態の重回帰分析では第1〜第3反射波B1〜B3を推定対象としたが、本発明はこれに限定されない。例えば2次反射が無視できるような計測対象物の場合、第1反射波B1と第2反射波B2のみを推定対象とすればよい。また、より高精度な測定を行うために、第1〜第3反射波B1〜B3に加えて、第4反射波以上も推定対象としてよい。
【0055】
(4)上記実施形態では、基準遅延時間τ
0及び膜遅延時間Δτを所定の範囲で変化させて重回帰分析を行ったが、本発明はこれに限定されない。例えば基準反射体Kの表面位置と試料Sにおける膜Fの表面位置とを所定の調整手段によって一致させることにより、膜遅延時間Δτのみを所定の範囲で変化させて重回帰分析を行っても良い。
【0056】
(5)上記実施形態では、試料Sにおける膜Fの屈折率nを既知としたが、本発明はこれに限定されない。以下の手法によって膜Fの屈折率nを計測してもよい。
図4(b)を参照して説明すると、第1〜第3反射波B1〜B3は、テラヘルツ波bが膜Fの表面m1において反射する際の減衰率r12、テラヘルツ波bが膜Fの表面m1から内部に入射する際の減衰率p12、表面m1から裏面m2に伝搬する際の減衰率p2、裏面m2で反射する際の減衰率r2、表面m1から出射する際の減衰率p21、また裏面m2から表面m1に向けて伝搬するテラヘルツ波bが表面m1で反射する際の減衰率r21を用いて以下のように表される。
【0057】
B1=Ei・r12
B2=Ei・p12・p2
2・r2・p21
B3=Ei・p12・p2
4・r2
2・r21・p21
また、第1反射波B1と第2反射波B2との強度比(振幅比)q1及び第2反射波B2と第3反射波B3との強度比(振幅比)q2は、重回帰分析の結果得られる振幅係数A
1〜A
3によって以下のように表される。
q1=B2/B1=A
2/A
1
q2=B3/B2=A
3/A
2
【0058】
一方、上記各減衰率r12、r21、p12、p21については、周知のスネルの法則に基づいて屈折率nとの間に以下の関係が成立する。
r12=(1−n)/(n+1)
r21=(n−1)/(n+1)
p12=2/(1+n)
p21=2n/(1+n)
【0059】
ここで、上記2つの強度比(振幅比)q1、q2の比をγとすると、当該比γは下式によって表される。
γ=q2/q1=A
1・A
3/A
22
=(r21・r12)/(p12・p21)
この式と上記スネルの法則に基づく屈折率nと各減衰率r12、r21、p12、p21との関係式に基づいて屈折率nは比γの関数として以下のように表される。すなわち、屈折率nは、重回帰分析の振幅係数A
1〜A
3によって表される。
n=−2γ+1+2(γ
2+γ)
1/2
上記計測部10は、重回帰分析の結果として得られる第1〜第3反射波B1〜B3の各振幅係数A
1〜A
3を用いて屈折率nを演算し、当該演算によって得られた屈折率nを用いて表面m1から裏面m2との膜厚Xを演算する。
【0060】
(6)さらには、より正確な基準波形Ei(t)及び試料波形E
0(t)を取得することは計測対象物の寸法計測精度を向上させる上で重要な事項である。この観点から、検出器8におけるサンプリングポイントの数を増大させることは極めて重要である。例えばプローブ光eのゼロクロス点で反射波dをサンプリング(計測)するのではなく、プローブ光eの振幅最大点及び振幅最少点においても反射波dをサンプリング(計測)することにより基準波形Ei(t)及び試料波形E
0(t)の取得精度を向上させても良い。
【0061】
また、基準波形Ei(t)及び試料波形E
0(t)に内挿法を適用することにより、本来の計測点間(サンプリングポイント間)に擬似的なサンプリングポイントを設定(内挿)することによって基準波形Ei(t)及び試料波形E
0(t)の取得精度を向上させても良い。