特許第6880603号(P6880603)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6880603調光フィルム、調光装置およびスクリーン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880603
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】調光フィルム、調光装置およびスクリーン
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20210524BHJP
   G02B 1/11 20150101ALI20210524BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20210524BHJP
   G02F 1/1334 20060101ALI20210524BHJP
   E06B 9/24 20060101ALI20210524BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20210524BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20210524BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20210524BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   G02F1/13 505
   G02B1/11
   G02B1/14
   G02F1/1334
   E06B9/24 C
   B32B7/02 103
   B32B7/02 104
   B32B27/18 B
   C08J5/18CFD
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-163489(P2016-163489)
(22)【出願日】2016年8月24日
(65)【公開番号】特開2018-31870(P2018-31870A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森永 かおり
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/002780(WO,A1)
【文献】 特開平10−007871(JP,A)
【文献】 特開2016−136247(JP,A)
【文献】 特開2016−110148(JP,A)
【文献】 特開2013−148744(JP,A)
【文献】 特表2012−506327(JP,A)
【文献】 特開2016−035036(JP,A)
【文献】 特開2015−206934(JP,A)
【文献】 特開平02−120827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1334
E06B 9/24
B32B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印加電圧によってヘイズを2種類以上に切替可能な調光層の第1主面側に、直接もしくは他の層を介して前記調光層に電圧を印加する第1透明導電層と、前記第1透明導電層に直接もしくは他の層を介して第1透明基材が積層され、前記調光層の第1主面側と反対側の第2主面側に、直接もしくは他の層を介して前記調光層に電圧を印加する第2透明導電層と、前記第2透明導電層に直接もしくは他の層を介して第2透明基材が積層される調光フィルムであって、
前記調光フィルムはハードコート層、反射防止層および粘着層から選ばれた少なくとも1層の機能層をさらに備え、
前記機能層のうちの少なくとも1つの層に難燃性を有する難燃剤を含有し、
前記難燃性は、UL94規格におけるVTM−0、ISO4589(JISK7201)による酸素指数が27以上、ISO5660に準拠した発熱性試験において試験時間5分間の総発熱量が8MJ/m以下、鉄道車両用材料の燃焼試験により難燃の基準を満たす、JISA1322で規定する防炎試験の防炎1級に合格、の少なくとも何れかを充足する難燃性であり、
前記調光フィルムの総厚が250μm以下,且つ耐屈曲性試験での10mmφに合格した構成であることを特徴とする調光フィルム。
【請求項2】
前記難燃剤が、ハロゲン化合物、リン系化合物、窒素系化合物および金属水酸化物から選ばれた1種または2種以上の組合せからなることを特徴とする請求項1に記載の調光フィルム。
【請求項3】
前記難燃剤を含有する層が、更に難燃助剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の調光フィルム。
【請求項4】
前記難燃助剤が、三酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、ポリテトラフルオロエン、金属酸化物、二酸化ケイ素から選ばれた1種または2種以上の組合せであることを特徴とする請求項3に記載の調光フィルム。
【請求項5】
前記難燃剤を含有する層は第一の難燃剤含有層であり、
前記調光フィルムを構成するいずれかの層のうちの前記第一の難燃剤含有層と異なる層に前記第一の難燃剤含有層に含有された前記難燃剤と同じ難燃剤を含有した第二の難燃剤含有層を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の調光フィルム。
【請求項6】
前記調光層に電圧を印加した場合にヘイズが減少する調光フィルムであって、印加電圧0V以上100V以下のときの最小ヘイズが10%以下、印加電圧0V以上100V以下のときの最大透過率が40%以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の調光フィルム。
【請求項7】
前記調光層に電圧を印加した場合にヘイズが増加する調光フィルムであって、印加電圧0V以上100V以下のときの最大ヘイズが80%以上、印加電圧0V以上100V以下のときの最小透過率が10%以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の調光フィルム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の調光フィルムと、前記調光フィルムに電圧を供給する交流電源と、前記交流電源から供給される電圧を切替えて前記調光フィルムに印加する電圧を変更する切替器と、を備えていることを特徴とする調光装置。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の調光フィルムを使用したことを特徴とするスクリーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や建物の窓ガラスなどに使用され、透明な状態と不透明な状態を切り替えることができる調光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
調光装置は、2枚のガラス基板の間に高分子液晶層を挟み込んだ構成となっており、各ガラス基板に形成した透明電極によって、液晶層に電圧を印加することにより、透明状態と不透明状態を切り替え可能とする装置である。
【0003】
透明状態と不透明状態を切り替えることにより、例えば建物の窓ガラスとして使用した場合は、室内から外の景色を見える透明な状態から、不透明な状態にして外部から室内を見えなくすることもできる。また、透明度を調整することにより、室外から室内に差し込む光の強度を調整することも可能である。
【0004】
このように従来の調光装置は、2枚のガラス基板に透明電極を形成し、その透明電極側を対向させて形成した空間に液晶材料を封入し、封止したものである。透明電極の表面には液晶材料を配向させる配向膜が形成されている場合もある。
【0005】
例えば特許文献1には、鉄道車両用の窓用複層ガラスが開示されている。2枚のガラス板の周縁部がシリコンシーリング材によって封止された空間内において、片側のガラス板の内面に調光機能を持つ調光板材が貼り付けられた構成となっている。
【0006】
このように、2枚のガラス板のいずれかの内側に、調光機能を持つ調光板材が貼り付けられた構成の調光装置は、ガラスで保護されているため難燃性は良好であるが、2枚のガラス板の重量が重く、また既存インフラへの設置が困難である場合があることや、曲面への適用ができない、などの問題点がある。
【0007】
近年、このような問題点を解決するため、基板に貼り合せるタイプの調光フィルムへの要望が高まって来ている。貼り合せるタイプとすることで、基板が1枚になるため軽量化が可能となり、また施工コストも抑えることができ、更に既存インフラへの適用も可能となる。また調光フィルムの厚さを調整し、薄膜化することで曲面への加工も可能となる。
【0008】
一方、病院などの特殊な建物や高層ビルなどの内装材は、難燃性であることが法律で義務付けられている。また航空機や鉄道などの内装材も同様に火災対策として難燃性であることが求められている。
【0009】
このように、貼り合せるタイプは適用できる範囲が拡大できる可能性がある一方で、調光フィルムが露出した状態となるため、従来タイプでは問題にならなかった難燃性の確保が重要な課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2016/043164号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の事情に鑑み、本発明は、透明基板に貼り合わせて調光装置とすることができる難
燃性を備えた調光フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する手段として、本発明の第一の態様は、印加電圧によってヘイズを2種類以上に切替可能な調光層の第1主面側に、直接もしくは他の層を介して前記調光層に電圧を印加する第1透明導電層と、前記第1透明導電層に直接もしくは他の層を介して第1透明基材が積層され、前記調光層の第1主面側と反対側の第2主面側に、直接もしくは他の層を介して前記調光層に電圧を印加する第2透明導電層と、前記第2透明導電層に直接もしくは他の層を介して第2透明基材が積層される調光フィルムであって、前記調光フィルムを構成するいずれかの層のうちの1つの層に難燃性を有する難燃剤を含有し、 前記難燃性は、UL94規格におけるVTM−0、ISO4589(JISK7201)による酸素指数が27以上、ISO5660に準拠した発熱性試験において試験時間5分間の総発熱量が8MJ/m以下、鉄道車両用材料の燃焼試験により難燃の基準を満たす、JISA1322で規定する防炎試験の防炎1級に合格、の少なくとも何れかを充足する難燃性であり、前記調光フィルムの総厚が250μm以下,且つ耐屈曲性試験での10mmφに合格した構成であることを特徴とする調光フィルムである。
【0013】
また、前記難燃剤が、ハロゲン化合物、リン系化合物、窒素系化合物および金属水酸化物から選ばれた1種または2種以上の組合せからなることを特徴とする。
【0014】
また、前記難燃剤を含有する層が、更に難燃助剤を含有することを特徴とする。
【0015】
また、前記難燃助剤が、三酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、ポリテトラフルオロエン、金属酸化物、二酸化ケイ素から選ばれた1種または2種以上の組合せであることを特徴とする。
【0016】
また、前記調光フィルムはハードコート層、反射防止層および粘着層から選ばれた少なくとも1層を含むことを特徴とする。
【0017】
また、前記難燃剤を含有する層は第一の難燃剤含有層であり、前記調光フィルムを構成するいずれかの層のうちの前記第一の難燃剤含有層と異なる層に前記第一の難燃剤含有層に含有された前記難燃剤と同じ難燃剤を含有した第二の難燃剤含有層を有することを特徴とする。
【0018】
また、前記調光層に電圧を印加した場合にヘイズが減少する調光フィルムであって、印加電圧0V以上100V以下のときの最小ヘイズが10%以下、印加電圧0V以上100V以下のときの最大透過率が40%以上であることを特徴とする。
【0019】
また、前記調光層に電圧を印加した場合にヘイズが増加する調光フィルムであって、印加電圧0V以上100V以下のときの最大ヘイズが80%以上、印加電圧0V以上100V以下のときの最小透過率が10%以下であることを特徴とする。
【0020】
また、第二の態様は、前記調光フィルムと、前記調光フィルムに電圧を供給する交流電源と、前記交流電源から供給される電圧を切替えて前記調光フィルムに印加する電圧を変更する切替器と、を備えていることを特徴とする調光装置である。
【0021】
また、第三の態様は、前記調光フィルムを使用したことを特徴とするスクリーンである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第一の態様の調光フィルムによれば、調光フィルムを構成する複数の層の少なくともいずれかの層に難燃剤を含有しているため、調光フィルムとしての難燃性を備えることができる。また、本発明の第二の態様によれば、調光フィルムを透明基板に貼り付けることによって作製した調光装置は、難燃性を備えた調光装置とすることができる。
また、本発明の第三の態様の調光フィルムによれば、光散乱状態と、透明状態に切替え可能なスクリーンを実現することができる。
また、本発明において、難燃性の指標として選定した下記5基準のうち、少なくとも何れか(好ましくは2以上,一層好ましくは3以上)を充足することが好ましい
1)UL94規格におけるVTM−0
2)ISO4589(JIS K7201)による酸素指数が27以上。
3)ISO5660に準拠した発熱性試験において試験時間5分間の総発熱量が8MJ/m2以下。
4)鉄道車両用材料の燃焼試験により難燃の基準を満たす。
5)JISA1322で規定する防炎試験の防炎1級に合格。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の調光フィルムの層構成の一例を説明する概略断面図。
図2】本発明の調光フィルムの層構成の一例を説明する概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1および2を用いて、本発明の調光フィルムを説明する。
【0027】
<第一の実施形態>
図1は、本発明の調光フィルム20の第一の実施形態の層構成の一例を示す概略断面図である。これは、調光層6に電圧を印加していない時に不透明であり、電圧を印加すると透明になるノーマルモードに対応する層構成である。
【0028】
本発明の調光フィルム20は、印加電圧によってヘイズを2種類以上に切替え可能な調光層6の第一主面側に、直接または樹脂層を介して調光層6に電圧を印加する第1透明導電層3と、第1透明基材1と、がこの順に積層されており、調光層6の第一主面とは反対側の第二主面側に、直接または樹脂層を介して調光層6に電圧を印加する第2透明導電層9と、第2透明基材11と、がこの順に積層されてなるノーマルモードの調光フィルム20である。ここで、ノーマルモードとは、調光層6に電圧を印加することにより、ヘイズが低下するモードであることを指す。
【0029】
また、本発明の調光フィルム20は、この調光フィルムを構成する層の少なくともいずれかに難燃剤を含有することにより、UL94規格VTM0およびISO4589−2による酸素指数が27以上の難燃性を備え、調光フィルム20の厚みが250μm以下であり、印加電圧の実効値が0〜100Vにおける最小ヘイズが10%以下および最大透過率が40%以上であることが特徴である。
【0030】
調光フィルム(スクリーン)自身に難燃性を付与する上で、構成部材である透明基材に難燃剤,難燃助剤を過剰に添加すると、基材の透明度が低下し、調光フィルム(スクリーン)の特性に空く影響を及ぼすことになる。難燃剤,難燃助剤の添加量を確保して添加密度を低下するために透明基材の厚さを増大すると、コストアップだけでなく加工性(可撓性)も低下し、樹脂フィルムを採用する利点が損なわれることになる。以下、透明基材の厚さ増大に伴う加工性悪化を、JIS K5600−5−1や ISO1519による耐屈曲性試験で用いられる円筒形マンドレルへの巻き付け(可能な曲率の増大)により評価する。
調光フィルム20の厚みが250μmを超えると、屈曲性が悪くなり曲面形状への加工が難しくなる。
また、印加電圧0〜100Vにおける最小ヘイズが10%を超える場合、最大透過率が40%未満である場合は、透明性が悪く、調光フィルムを通して見える景色の視認性が低下する。
【0031】
また、本発明の調光フィルム20においては、上記の難燃剤が、ハロゲン化合物、リン系化合物、窒素系化合物および金属水酸化物から選ばれた1種または2種以上の組合せからなっていても良い。また、難燃剤を含有する層が、更に難燃助剤を含有していても良い。また、上記の難燃助剤が、三酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、ポリテトラフルオロエン、金属酸化物、二酸化ケイ素から選ばれた1種または2種以上の組合せであることが好ましい。
【0032】
また、本発明の調光フィルム20は、前記第1透明基材1および前記第2透明基材11の少なくとも外側に、ハードコート層、反射防止層および粘着層から選ばれた少なくとも1層からなる層が備えられていることが好ましい。
【0033】
<調光層>
本発明の調光フィルム20の調光層6としては、例えば、高分子分散型液晶層を好適に使用することができるが、これに限定する必要は無く、電圧印加によってヘイズを2種類以上に変化させ、透明/不透明を切替えることができる電圧駆動型素子を構成できる材料
からなる層であることが好ましい。
【0034】
<第1および第2透明導電層>
第1透明導電層3および第2透明導電層9の材料としては、ITO(Indium Tin Oxide、錫を添加した酸化インジウム)を好適に使用することができるが、これに限定する必要はなく、例えば、酸化錫、酸化亜鉛およびそれらに添加物を加えた材料の薄膜を使用することができる。それらの材料の薄膜を形成する手段としてはマグネトロンスパッタリング装置を使用した薄膜形成方法を好適に使用可能であるが、それに限定する必要はなく、必要な、光学的な透過率、表面抵抗または電気伝導率および基材との密着力などを得ることができれば、薄膜形成手段を限定する必要は無い。
【0035】
なお、図2に示したように、調光層6と第1透明導電層3および調光層6と第2透明導電層9、の間に、それぞれ樹脂層が介在していても構わない。それらの樹脂層は同一材質、同一の厚さを持つものであっても良いし、材質も厚さも異なるものであっても良い。
【0036】
<第1および第2透明基材>
第1透明基材1および第2透明基材11の材料としては、透明な樹脂フィルムであれば使用可能である。例えば、PETなどの透明フィルムを好適に使用することができる。
第1透明基材1および第2透明基材11は、別工程にて難燃剤および難燃助剤が添加されたものを製造しても良いし、また外部にて製造したものを購入しても良い。
【0037】
<調光フィルムの製造方法>
図1に例示した層構成を備えた調光フィルム20の製造方法を説明する。
まず、第1透明基材1や第2透明基材11になる透明な基材に、所望の表面抵抗を備えた透明導電層を形成する。形成方法としてはマグネトロンスパッタ装置を使用して、透明基材上にITO薄膜などの透明導電層を形成し、透明導電層が形成された透明基材を作製する。
【0038】
次に、液晶とポリマーを含むエマルジョンを作製し、そのエマルジョンを、この透明導電層が形成された透明基材の透明導電層側に塗布し、乾燥することで、水分を除去したフィルムを得ることができる。更に、その乾燥したエマルジョン層の上に、透明導電層が形成された透明基材の透明導電層側を積層し密着することにより、調光フィルム20を作製することができる(エマルジョン方式)。
【0039】
また、別の製造方法として、2つの透明導電層が形成された透明基材の透明導電層側を内側にして、一定のギャップを保って積層することにより形成したギャップに、液晶をモノマーやオリゴマーに溶解した材料を注入し、紫外線照射処理や加熱処理することによって硬化することによって調光フィルム20を作製することができる(相分離方式)。あるいは、液晶とポリマーを溶媒に溶かした溶液を、透明導電層が形成された透明基材の透明導電層上に塗布、乾燥し、その上からもう1つの透明導電層が形成された透明基材の透明導電層側を積層、密着することによって調光フィルム20を作製することができる。
【0040】
本発明の調光フィルム20には、上記で説明した第1透明基材1および第2透明基材11の少なくともどちらか一方の外側にハードコート層が形成されていても良い。また、少なくともどちらか一方の外側に、反射防止層が形成されていても良い。また、どちらか一方の外側に粘着層が備えられていても良い。
また、難燃性を備えさせるため、それらハードコート層、反射防止層および粘着層に難燃剤や難燃助剤が添加されていることが好ましい。
【0041】
以上、本発明の調光フィルム20について説明したが、この調光フィルム20と、調光
フィルム20に電圧を供給する交流電源と、交流電源から供給される電圧を切替えて調光フィルム20に印加する電圧を変更する切替器と、を備えることによって、調光フィルム20のヘイズを変更し、透明な状態と不透明な状態を作り出すことができる調光装置とすることができる。
また、本発明の調光フィルム20は、プロジェクターから投影された映像を映し出すスクリーンとしても使用することが可能である。
【0042】
<第二の実施形態>
次に、本発明の調光フィルムの第二の実施形態について説明する。
図2は、本発明の調光フィルム20−1の第二の実施形態の層構成の一例を示す概略断面図である。これは、調光層6に電圧を印加している時に不透明となり、電圧を印加していない時に透明になるリバースモードに対応する層構成である。
【0043】
本発明の調光フィルム20−1の第二の実施形態は、印加電圧によってヘイズを2種類以上に切替え可能な調光層6の第1主面側に積層された第1配向層5と、調光層4に電圧を印加する第1透明導電層3と、第1透明基材1と、がこの順に積層されており、調光層6の第1主面とは反対側の第2主面側に積層された第2配向層7と、調光層6に電圧を印加する第2透明導電層9と、第2透明基材11と、がこの順に積層されてなるリバースモードの調光フィルム20−1である。ここで、リバースモードとは、調光層4に電圧を印加すると、ヘイズが増大するモードを指す。
【0044】
なお、第1透明基材1と第1透明導電層3の間に樹脂層2が、また第1透明導電層3と第1配向層5の間に樹脂層4が、第2配向層7と第2透明導電層9の間に樹脂層8が、第2透明導電層9と第2透明基材11の間に樹脂層10が、介在していても構わない。
【0045】
また、本発明の調光フィルムの第二の実施形態においては、この調光フィルムを構成する層の少なくともいずれかに難燃剤を含有することにより、UL94規格VTM−0およびISO4589−2による酸素指数が27以上の難燃性を備え、調光フィルム20−1の厚みが250μm以下であり、印加電圧の実効値が0〜100Vにおける最大ヘイズが80%以上および最小透過率が10%以下であることが特徴である。
調光フィルムの厚みが250μmを超えると、屈曲性が悪くなり曲面形状への加工が難しくなる。また、印加電圧0〜100Vにおける最大ヘイズが80%未満である場合、最小透過率が10%を越える場合は、十分な遮蔽性が得られず、スクリーン等への適用が難しい。
【0046】
<第一および第二配向層>
第一配向層5および第二配向層5は、通常の配向膜の形成工程と同様に形成することができる。まずポリアミック酸溶液などの可溶性ポリイミドを、透明基材上に透明導電層を形成した基板上にオフセット印刷し、250℃程度に加熱することにより、溶剤の除去と脱水縮合反応を促進して硬化させる。次に、再生セルロース・レーヨン・ナイロン・ポリエチレンなどのラビング用の布を使用してラビング処理を施すことにより、配向膜を形成することができる。このような高温処理を必要としない配向膜の形成方法としては、光配向技術がある。
【0047】
その他の点については、第一の実施形態と同様である。
【実施例】
【0048】
次に、本発明の調光フィルムの実施例について説明する。
実施例1〜5および比較例1〜3については、調光層に隣接して配向層が形成されていないノーマルモードに対応する層構成であり、実施例6〜10および比較例4〜6につい
ては、調光層に隣接して配向層が形成されているリバースモードに対応する層構成についての実施例および比較例である。
なお、実施例1〜5および比較例1〜3についての測定結果は表1に、実施例6〜10および比較例4〜6についての測定結果は表2に、それぞれまとめて示した。
【0049】
<実施例1>
ポリカーボネートフィルム(厚さ50μm)の片面にITO(Indium Tin Oxide)薄膜(厚さ0.1μm)を形成した導電性フィルムを用意した。その導電性フィルムのITO薄膜側に、液晶と硬化性樹脂、二官能モノマー、並びにヒドロキシ基、カルボキシ基及びリン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の極性基を有するモノマーを含む。液晶には、ネマチック液晶、スメクチック液晶又はコレステリック液晶を用いることができる。
【0050】
次に、同じ仕様の導電性フィルムのITO薄膜側を、上記で作製した高分子分散液晶層の上に積層し密着することにより、厚さ120μmの調光フィルムを作製した。
【0051】
ポリカーボネート樹脂(住友ダウ社製、カリバー200−13、ビスフェノールA型ポリカーボネート)を100重量部、リン系難燃剤(大八化学工業社製、PX−200)15重量部で配合してヘンシェルミキサーで均一に混合し、樹脂組成物を調整した。該樹脂組成物を、同方向二軸押出機に供給し、シリンダー温度280℃で溶融混練し、Tダイから溶融樹脂を吐出させ、ピンチロールで引き取りつつ冷却することで、リン系難燃剤を含有する厚み50μmの基材を作成した。また、調光フィルムとしての厚さは、120μmとした。
この様にして作成した調光フィルムの難燃性を、UL−94規格の難燃性の判定およびISO4589−2による酸素指数にて測定した。また、光学的な特性として印加電圧0〜100Vにおける最小ヘイズ、最大透過率を測定した。また、屈曲性については、マンドレル試験機を用いて測定した。屈曲性はフィルムをマンドレルに巻きつけ、巻きつけ後のフィルムのクラックについて評価し、クラックが発生しない場合には、その太さ(φ)での屈曲性がOKとする。本発明では、10mmφでクラックが発生しないフィルムを屈曲性OKとした。また、ヘイズおよび全光線透過率の測定は、JIS K7136に従って実施した。
【0052】
<実施例2>
ポリカーボネート樹脂(住友ダウ社製、カリバー200−13、ビスフェノールA型ポリカーボネート)を100重量部、ハロゲン系難燃剤(DIC社製、メガファックF114)0.5重量部で配合してヘンシェルミキサーで均一に混合し、樹脂組成物を調整した。該樹脂組成物を、同方向二軸押出機に供給し、シリンダー温度280℃で溶融混練し、Tダイから溶融樹脂を吐出させ、ピンチロールで引き取りつつ冷却することで、ハロゲン系難燃剤を含有する厚み100μmの基材を作成した。調光フィルムとしての厚さは、220μmとした。
【0053】
<実施例3>
実施例1と同じ層構成の調光フィルムの層構成の表裏面の最外層の基材(透明基材)の上に、それぞれ、厚さ5μmのHC(ハードコート)層を形成した。HC層を形成する塗液の組成は、下記の通りである。ただし、基材には難燃剤を含まない構成とした。調光フィルムの厚さは、130μmとした。
A材料:PETA(大阪有機社製、ビスコート#300) 100重量部
B材料:Irg.184(DKSHジャパン) 5重量部
C材料:MEK 100重量部
難燃材料(金属水酸化物):水酸化マグネシウム(堺化学社製、MGZ−3)
50重量部
この塗液をグラビア印刷にて、塗布し乾燥して表1の実施例3に示した層構成の調光フィルムを得た。なお、難燃材料は、金属水酸化物からなるものである。
【0054】
<実施例4>
実施例3と同じ層構成で、HC層には、リン−窒素系の難燃剤が含有されるものとした。HC層を形成する塗液の組成は、下記の通りである。調光フィルムの厚さは、130μmとした。
A材料:PETA(大阪有機社製、ビスコート#300) 100重量部
B材料:Irg.184(DKSHジャパン) 5重量部
C材料:MEK 100重量部
難燃材料(リン−窒素系):ホスファゼン化合物(大塚化学社製、SPE−100)
10重量部
【0055】
<実施例5>
実施例1と同じ層構成で、表裏面の基材には難燃剤を含まない構成とし、一方の基材の表面に厚さ20μmの粘着層を形成した。実施例1と同じリン系の難燃剤をその粘着層に含有させた。調光フィルムとしての厚さは140μmとした。
なお、粘着層への難燃剤は次の様にして作製した。
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、n−ブチルアクリレート(東亞合成社製、BA)を95重量部、アクリル酸(AA)を5重量部、トルエンを150重量部、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.1重量部投入し、60℃にて8時間重合させ重合体トルエン溶液を得た。この重合体トルエン溶液の固形分100重量部に対し、イソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業製、コロネートL)を固形分で2重量部、更にリン系難燃剤ビスフェノールAビス(ADEKA社製、FP−600)を80重量部添加した。
【0056】
<実施例6>
実施例1の層構成に加えて、調光層の表裏面側の導電層との間に、配向層を挿入した構成とした(表3の層構成参照)。配向層の厚さは、0.1μmとした。配向層の厚さは薄いため、調光フィルムとしての厚さは実施例1と同じ120μmである。また、ヘイズおよび全光線透過率の測定は、JIS K7136に従って、印加電圧0〜100Vにおける最大ヘイズと最小透過率を測定した。その他は実施例1と同様である。
【0057】
<実施例7>
実施例2の層構成に加えて、調光層の表裏面側の導電層との間に、配向層を挿入した構成とした(表3の層構成参照)。また、基材に添加した難燃剤をハロゲン系とし、その添加量も変更した。調光フィルムとしての厚さは220μmとした。それ以外は、実施例6と同様とした。
【0058】
<実施例8>
実施例3の層構成に加えて、調光層の表裏面側の導電層との間に、配向層を挿入した構成とした(表2の層構成参照)。配向層の厚さは、0.1μmとした。配向層の厚さは薄いため、調光フィルムとしての厚さは実施例3と同じ130μmである。その他は実施例3と同様である。
【0059】
<実施例9>
実施例4の層構成に加えて、調光層の表裏面側の導電層との間に、配向層を挿入した構成とした(表2の層構成参照)。基材に添加した難燃剤をリン−窒素系とし、添加量を変更した以外は、実施例8と同様とした。
【0060】
<実施例10>
実施例5の層構成に加えて、調光層の表裏面側の導電層との間に、配向層を挿入した構成とした(表2の層構成参照)。配向層の厚さは、0.1μmとした。配向層の厚さは薄いため、調光フィルムとしての厚さは実施例5と同じ140μmである。その他は実施例5と同様である。
【0061】
次に、比較例について説明する。
【0062】
<比較例1>
実施例1と同じ層構成であるが、基材に難燃剤を添加しない構成とした。
【0063】
<比較例2>
基材の厚さを50μmから150μmに変更した点以外は、実施例1と同じ構成とした。
【0064】
<比較例3>
基材の厚さを50μmから150μmに変更した点以外は、比較例1と同じ構成とした。
【0065】
<比較例4>
基材に難燃剤を添加しなかった点以外は、実施例6と同じ構成とした。
【0066】
<比較例5>
基材の厚さを50μmから150μmに変更した点以外は、実施例6と同じ構成とした。
【0067】
<比較例6>
基材に難燃剤を添加しなかった点以外は、比較例5と同じ構成とした。
【0068】
以上、実施例1〜5、比較例1〜3で作成した調光フィルムの難燃性評価と光学特性の評価結果を表1にまとめて示した。また、実施例6〜10、比較例4〜6で作成した調光フィルムの難燃性評価と光学特性の評価結果を表2にまとめて示した。なお、表3に実施例1〜10と比較例1〜6の調光フィルムの層構成を示した。
【0069】
実施例1〜10については、難燃性をUL−94規格で評価した結果は全てVTM−0となり、高い難燃性を備えていた。またISO4589−2による酸素指数は全て27となり、高い難燃性を備えていた。これらの調光フィルムの厚さは120μm〜140μmであった。また、実施例1〜5におけるノーマルモードにおいては、最小ヘイズは10%、最大透過率は75%であった。実施例6〜10におけるリバースモードにおいては、最大ヘイズ80%、最小透過率は10%であった。また、マンドレルを用いた屈曲性は、全てφ10mmであり、良好であった。
【0070】
一方、ノーマルモードの比較例1は、調光フィルムの厚さは120μmであったが、難燃剤を添加していないため、難燃性をUL−94規格で評価した結果はVTM−2、ISO4589−2による酸素指数は22となり、良好な結果ではなかった。また、マンドレルを用いた屈曲性は、全てφ10mmであり、良好であった。
【0071】
比較例2は、難燃剤を基材に添加した構成であったため、難燃性をUL−94規格で評価した結果はVTM−0、ISO4589−2による酸素指数は27となり、良好な難燃性であった。光学的な特性は、最小ヘイズが10%、最大透過率が75%であり、良好であった。しかし調光フィルムの厚さが320μmと厚かったため、マンドレルを用いた屈
曲性は、φ20mmであり、良好ではなかった。
【0072】
比較例3は、難燃剤が添加されていないため、難燃性をUL−94規格で評価した結果はVTM−2、ISO4589−2による酸素指数は22となり、良好な結果ではなかった。また、マンドレルを用いた屈曲性は、調光フィルムの厚さが320μmと厚かったため、φ20mmとなり、良好ではなかった。
【0073】
一方、リバースモードの比較例4は、難燃剤を添加していなかったため、難燃性をUL−94規格で評価した結果はVTM−2、ISO4589−2による酸素指数は22となり、良好な結果ではなかった。屈曲性と光学的特性は良好だった。
【0074】
リバースモードの比較例5は、難燃剤を添加しているため、難燃性をUL−94規格で評価した結果はVTM−0、ISO4589−2による酸素指数は27となり、良好な難燃性であった。また、光学特性も実施例6〜10と同じく最大ヘイズが80%、最小透過率が10%と良好であった。しかしながら、調光フィルムの厚さが320μmと厚かったため、マンドレルを用いた屈曲性がφ20mmとなり、良好ではなかった。
【0075】
リバースモードの比較例6は、難燃剤が添加されていないため、難燃性をUL−94規格で評価した結果はVTM−2、ISO4589−2による酸素指数は22となり、良好な結果ではなかった。また、マンドレルを用いた屈曲性は、調光フィルムの厚さが320μmと厚かったため、φ20mmとなり、良好ではなかった。光学的な特性は、最大ヘイズが80%、最小透過率が10%と良好であった。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
なお、難燃剤としては、下記の様なものを使用した。
実施例1、6:リン系、大八化学工業社製、PX−200
実施例2、7:ハロゲン系、DIC社製、メガファックF114
実施例3、8:金属水酸化物、大塚化学社製、MGZ−3
実施例4、9:リン−窒素系、大塚化学社製、SPE−100
実施例5、10:リン系、ADEKA社製、FP−600
【符号の説明】
【0080】
1・・・第1透明基材
2・・・樹脂層
3・・・第1透明導電層
4・・・樹脂層
5・・・第1配向層
6・・・調光層
7・・・第2配向層
8・・・樹脂層
9・・・第2透明導電層
10・・・樹脂層
11・・・第2透明基材
20、20−1・・・調光フィルム
図1
図2