(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
尿素1.94質量%、塩化ナトリウム0.80質量%、塩化カルシウム0.08質量%、硫酸マグネシウム0.2質量%及び水96.97質量%からなる人工尿56.3質量部に対して、前記パルプを3.0質量部となるように混合した場合、3分経過後の前記人工尿のpHが2.0以上である請求項1に記載の吸収性材料。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0010】
(吸収性材料)
本発明は、アニオン性置換基を有するセルロース繊維及びアニオン性置換基の対イオンを含むパルプと、吸水性ポリマーと、を含む吸収性材料に関する。ここで、パルプが含む対イオンの少なくとも一部は、水素イオンを除くカチオンである。
【0011】
本発明の吸収性材料は上記構成を有するものであるため、高い吸収性能を発揮することができる。本発明の吸収性材料は、吸収対象物が経血や尿といった塩類が多く含まれた排泄液であっても、高い吸収性能を発揮することができる。また、本発明の吸収性材料を薄膜のシート状とした場合であっても、該シートは高い吸収性能を発揮することができる。
【0012】
本発明の吸収性材料は、例えば、吸収性物品の吸収体を構成する材料として用いられる。吸収体は、尿などの液体を吸収し、吸収した液体を保持するための部材である。吸収性材料が吸収体を構成する場合は、アニオン性置換基を有するセルロース繊維及びアニオン性置換基の対イオンを含むパルプと、吸水性ポリマーを混合した繊維混合物を、構成材料として用いることができる。
【0013】
使い捨ておむつに代表される吸収性物品においては、吸収体は、コアラップシートによって被包された状態で、液透過性のトップシートと、液不透過性のバックシートの間に配置されることが多い。すなわち、吸収性物品の吸収領域においては、肌接触面側からトップシート、コアラップシート、吸収体、コアラップシート、バックシートがこの順で積層された構成となる。この場合、吸収体は、トップシートとコアラップシートを透過した排泄液を吸収する。本発明においては、このような吸収体と吸収体の周辺部材を構成する材料として吸収性材料を用いてもよい。例えば、コアラップシートやトップシートといった吸収体よりも肌接触面側に配設される部材を構成する材料として上記パルプを用い、吸収体を構成する材料として吸水性ポリマーを用いてもよい。この場合は、吸水性ポリマーを含む吸収体と、吸収体上に積層されるアニオン性置換基を有するセルロース繊維及びアニオン性置換基の対イオンを含むパルプを含むシートと、を合わせて吸収性材料と呼ぶ。なお、吸収体よりも肌接触面側に配設される部材を構成する材料に上記パルプを用いる場合、該部材は、上記パルプを含む不織布や、上記パルプを含むティシュペーパーから構成されるものであることが好ましい。
【0014】
本発明の吸収性材料は、高い吸収性能を発揮することができる。通常、経血や尿中には塩類が含まれており、これにより、吸収性材料の吸収性能が低下する。本発明の吸収性材料は、塩類が含まれている経血や尿に対しても高い吸収性能を発揮することができる。例えば、尿素1.94質量%、塩化ナトリウム0.80質量%、塩化カルシウム0.08質量%、硫酸マグネシウム0.2質量%及び水96.97質量%からなる人工尿の吸収倍率は、53倍以上であることが好ましく、55倍以上であることがより好ましく、57倍以上であることがさらに好ましい。
ここで、人工尿の吸収倍率は、以下の方法で算出することができる。まず、尿素1.94質量%、塩化ナトリウム0.80質量%、塩化カルシウム0.08質量%、硫酸マグネシウム0.2質量%及び水96.97質量%からなる人工尿56.3質量部に対して、パルプを3.0質量部(固液比)となるように混合し、3分間混合する(接触処理)。その後、ろ紙(アドバンテック社製、No.2)を用いてろ過を行い、接触処理後の人工尿を回収する。回収した人工尿20gと、吸水性ポリマー0.1gを3分間接触させた後、金属メッシュ(100メッシュ)を用いてろ過を行い、吸水性ポリマーを回収する。そして、回収後の吸水性ポリマーの重量を測定し、以下の式より吸収倍率を測定する。
吸収倍率(倍)=人工尿と接触後の吸水性ポリマーの重量(g)/人工尿と接触前の吸水性ポリマーの重量(g)
【0015】
(パルプ)
本発明の吸収性材料は、アニオン性置換基を有するセルロース繊維及びアニオン性置換基の対イオンを含むパルプを含有する。パルプが有する対イオンの少なくとも一部は、水素イオンを除くカチオンである。例えば、パルプが対イオンとしてナトリウムイオンを有する場合、パルプは、アニオン性置換基のナトリウム塩を有するセルロース繊維を含むことになる。
【0016】
パルプが有する対イオンの少なくとも一部は、水素を除くカチオンであり、該カチオンは一価のカチオンであることが好ましい。中でも、水素イオンを除く一価のカチオンは、ナトリウムイオン、リチウムイオン及びカリウムイオンから選択されるアルカリ金属イオン、または一価の有機イオンであるアンモニウムイオンであることが好ましい。
【0017】
本発明に用いるパルプは、人工尿等の溶液に接触させた場合に、接触溶液のpHを大幅に低下させない点にも特徴がある。本発明においては、パルプは、水素イオンを除くカチオンを対イオンとして含むものであるため、パルプを溶液に接触させた場合に該溶液中で電離する水素イオンがないか、もしくは電離する水素イオン量を少なくすることができる。これにより、接触溶液のpHを一定値以上に維持することができる。
具体的には、尿素1.94質量%、塩化ナトリウム0.80質量%、塩化カルシウム0.08質量%、硫酸マグネシウム0.2質量%及び水96.97質量%からなる人工尿56.3質量部に対して、パルプを3.0質量部となるように混合(接触)した場合、3分経過後の人工尿のpHは2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましく、4.0以上であることがさらに好ましく、5.0以上であることが一層好ましく、5.5以上であることが特に好ましい。パルプを混合した後の人工尿のpHの上限値は、例えば11とすることができる。上記条件でパルプを混合した後の人工尿のpHを上記範囲内とすることにより、吸水性ポリマーの吸収性能をより高めることができる。
【0018】
人工尿に対して、パルプを混合する工程は、人工尿とパルプの接触工程と呼ぶこともできる。この場合、接触時間は3分となる。接触後に、人工尿のpHを測定する際には、人工尿とパルプを固液分離する。例えば、ろ紙等を用いて濾過分離をし、得られた濾液のpHを測定することが好ましい。pHを測定する際には、pHメーター(メトラー・トレド社製)を用いることができる。
【0019】
本発明に用いるパルプは、水素イオンを除くカチオンを対イオンとして有していればよい。パルプに含まれる対イオンは、全て水素イオンを除くカチオンであってもよいが、水素イオンを除くカチオンとは別に、他の対イオンとして水素イオンを有していてもよい。パルプが他の対イオンとして水素イオンを有する場合は、パルプは酸型のリン酸を有するセルロース繊維を一部として含むことになる。なお、上記条件でパルプを混合した後の人工尿のpHは、パルプが含有する水素イオンの量や、水素イオンを除くカチオンの種類及び量に影響を受けるものである。このため、他の対イオンとして水素イオンを有する場合は、その含有量をコントロールすることで、パルプと接触後の人工尿のpHを上記範囲内にすることが好ましい。
【0020】
上述したように、パルプに含まれる対イオンは少なくともその一部が水素イオンを除くカチオンであればよく、他の対イオンとして水素イオンを有していてもよい。本発明においては、パルプが対イオンとして、水素イオンを除くカチオンと、水素イオンの両方を有している態様も好ましい。パルプが対イオンとして、水素イオンを除くカチオンと、水素イオンの両方を有している場合は、対イオン全数に対して水素イオンを除くカチオンの数は40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、70%以上であることが一層好ましく、80%以上であることが特に好ましい。また、パルプが対イオンとして、水素イオンを除くカチオンと、水素イオンの両方を有している場合は、対イオン全数に対して水素イオンの数は60%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましく、30%以下であることが一層好ましく、20%以下であることが特に好ましい。
【0021】
本発明においては、セルロース繊維が有するアニオン性置換基は、多価金属塩を吸着する働きをする。すなわち、本発明で用いられるパルプは、例えば、尿中に含まれる多価金属塩をトラップする働きを担うことができる。これにより、吸収性材料に含まれる吸水性ポリマーの吸収倍率をより効果的に高めることができる。
吸水性ポリマーにおいては、マグネシウムイオンやカルシウムイオンといった多価金属塩が排泄液等の溶液中に存在すると、多価金属塩が吸水性ポリマーに含まれるカルボニル基等を架橋し、吸水性ポリマーの吸水性が低下することが知られている。すなわち、排泄液中のマグネシウムイオンやカルシウムイオンといった多価金属塩は、吸水性ポリマーにおける吸水性能の阻害原因となると考えられている。本発明においては、セルロース繊維に、多価金属塩を吸着し得るアニオン性置換基を導入することにより、吸水性ポリマーにおける吸水性能の阻害原因となるマグネシウムイオンやカルシウムイオンといった多価金属塩をトラップすることができ、これにより、吸水性ポリマーの吸水性を効果的に高めることができる。
【0022】
本発明においては、尿素1.94質量%、塩化ナトリウム0.80質量%、塩化カルシウム0.08質量%、硫酸マグネシウム0.2質量%及び水96.97質量%からなる人工尿56.3質量部に対して、パルプを3.0質量部となるように混合(接触)した場合、3分経過後に回収した人工尿中のマグネシウムイオンの含有量は、200mg/L以下であることが好ましく、175mg/L以下であることがより好ましく、150mg/L以下であることがさらに好ましく、100mg/L以下であることが一層好ましく、50mg/L以下であることが特に好ましい。また、人工尿とパルプの接触工程後に回収した人工尿中のカルシウムイオンの含有量は、100mg/L以下であることが好ましく、75mg/L以下であることがより好ましく、60mg/L以下であることがさらに好ましく、50mg/L以下であることが一層好ましく、30mg/L以下であることが特に好ましい。
なお、人工尿とパルプの接触工程後に回収した人工尿中のイオン量は、高周波誘導プラズマ発光法(ICP)によって測定することができる。高周波誘導プラズマ発光法による測定は、例えば、ICP−OES(アメテック社製、型式:CIROS120)を用いることができる。なお、定量に際しては予め、含有量既知の金属塩標準液を用いて検量線を作製しておき、含有量(mg/L)を算出する。
【0023】
パルプは、アニオン性置換基を有するセルロース繊維の他に、アニオン性置換基もカチオン性置換基も有さないセルロース繊維を含んでもよい。このようなセルロース繊維は汎用パルプと呼ばれ、リン酸化反応といった化学的処理を行っていないパルプである。
【0024】
なお、本発明においては、パルプはカチオン性置換基を有するセルロース繊維を実質的に含まないことが好ましい。具体的には、パルプに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、カチオン性置換基を有するセルロース繊維の含有量は1質量%以下であればよく、0.1質量%以下であってもよい。
【0025】
<セルロース繊維>
セルロース繊維を得るためのセルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。
【0026】
セルロース繊維の繊維幅は特に限定されない。例えば、セルロース繊維の繊維幅は1000nmよりも大きいものであってもよく、1000nm以下であってもよい。また、繊維幅が1000nmよりも大きいセルロース繊維と、繊維幅が1000nm以下のセルロース繊維が混在していてもよい。なお、セルロース繊維の繊維幅が1000nm以下である場合、このようなセルロース繊維を微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
【0027】
ここで、セルロース繊維の繊維幅は、電子顕微鏡観察によって以下の方法で測定することができる。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下のセルロース繊維水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。この際、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0028】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0029】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。
【0030】
セルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、0.1mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であることがより好ましい。また、50mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましい。ここで、セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、カヤーニオートメーション社のカヤーニ繊維長測定器(FS−200形)を用い、長さ加重平均繊維長を測定することにより求めることができる。また、繊維の長さに応じて走査型顕微鏡(SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)等を用いて測定することもできる。
【0031】
セルロース繊維はI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
セルロース繊維の全質量に対するI型結晶構造を有するセルロース繊維の割合は30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0032】
セルロース繊維は、アニオン性置換基を有する。パルプに含まれるセルロース繊維の全質量に対して、アニオン性置換基を有するセルロース繊維の含有量は5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。なお、パルプに含まれる全てのセルロース繊維がアニオン性置換基を有していてもよい。
【0033】
パルプに含まれるセルロース繊維のアニオン性置換基の含有量は、0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、アニオン性置換基の含有量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。
【0034】
アニオン性置換基は、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基又はカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、及び、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。
【0035】
<リン酸基を有するセルロース繊維>
セルロース繊維がリン酸基を有するものである場合、リン酸基導入工程を経ることでセルロース繊維にリン酸基を導入することができる。リン酸基は、リン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO
3H
2で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であることが好ましい。
【0036】
また、リン酸基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
【化1】
【0037】
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);α
n(n=1以上n以下の整数)およびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上のカチオンであり、本発明においては、βの少なくとも一部は、水素イオンを除く1価以上のカチオンである。
【0038】
リン酸基導入工程では、セルロース繊維に対し、リン酸基又はリン酸基由来の置換基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化剤」又は「化合物A」ともいう)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化剤は、乾燥状態または湿潤状態のセルロース繊維に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、セルロース繊維のスラリーにリン酸化剤の粉末や水溶液を添加してもよい。すなわち、リン酸基導入工程は、少なくとも、セルロース繊維とリン酸化剤を混合する工程を含む。
【0039】
リン酸基導入工程は、セルロース繊維にリン酸化剤を反応させることにより行うことができるが、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。
【0040】
化合物Aを化合物Bの共存下でセルロース繊維に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態のセルロース繊維に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、セルロース繊維含有スラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態のセルロース繊維に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態のセルロース繊維に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。セルロース繊維の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0041】
リン酸化剤(化合物A)は、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。中でも、リン酸、リン酸のナトリウム塩、又はリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩は好ましく用いられる。
【0042】
反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率がより高くなることからリン酸化剤(化合物A)は水溶液として用いることが好ましい。リン酸化剤(化合物A)の水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、セルロース繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。リン酸化剤(化合物A)の水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0043】
セルロース繊維に対するリン酸化剤(化合物A)の添加量は特に限定されないが、リン酸化剤(化合物A)の添加量をリン原子量に換算した場合、セルロース繊維(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。セルロース繊維に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、リン酸化セルロース繊維の収率をより向上させることができる。セルロース繊維に対するリン原子の添加量を100質量%以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。一方、セルロース繊維に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0044】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
【0045】
化合物Bは化合物Aと同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。セルロース繊維(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
【0046】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0047】
リン酸基導入工程は、加熱をする工程(以下、加熱処理工程ともいう)を有することが好ましい。加熱処理工程を設けることで、セルロース繊維にリン酸基を効率的に導入し、さらにリン酸基又はリン酸基由来の置換基の少なくとも一部を架橋させることができる。すなわち、本発明の組成物の製造方法は、セルロース繊維とリン酸化剤と混合する工程と、セルロース繊維とリン酸化剤の混合物を加熱する工程を含むことが好ましい。
【0048】
加熱処理工程における加熱処理温度は、セルロース繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0049】
加熱処理の際、化合物Aを添加したセルロース繊維含有スラリーに水が含まれている間において、セルロース繊維を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aがセルロース繊維表面に移動する。そのため、セルロース繊維中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、セルロース繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥によるセルロース繊維中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状のセルロース繊維を用いるか、ニーダー等でセルロース繊維と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0050】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、セルロース繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することができる。
【0051】
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるがパルプスラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0052】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。例えば、リン酸基導入工程を2回行うことも好ましい態様である。
【0053】
セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、セルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、リン酸基の含有量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、後述するようにセルロース繊維が有するリン酸基の強酸性基量と等しい。
【0054】
セルロース繊維が有するリン酸基の含有量は、TAPPI T237 cm−08(2008)を応用して算出する。具体的には、リン酸化パルプに導入されたリン酸基の導入量をより広範囲まで算出可能にするために、上記試験方法に用いる試験液のうち、炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)/塩化ナトリウム(NaCl)=0.84g/5.85gを蒸留水で1000mlに溶解希釈した試験液を、水酸化ナトリウム1.60gを蒸留水で1000mlに溶解希釈した試験液に変更し、さらに置換基導入前後の繊維における算出値の差を実質的な置換基導入量とした以外は、TAPPI T237 cm−08(2008)に準じて算出する。なお、TAPPI T237 cm−08(2008)の酸性基導入量算出方法は、1価の酸性基の導入量算出方法であることから、多価の酸性基であるリン酸基の導入量の算出については、1価の酸性基の導入量として得られた上記置換基導入量を、リン酸基の酸価数で除した数値を、リン酸の基の導入量とする。
【0055】
リン酸基導入工程で得られたセルロース繊維は、対イオンとしてアンモニウムイオンを有している。リン酸基導入工程の後にアルカリ処理工程や酸処理工程を設けない場合は、セルロース繊維の対イオンはアンモニウムイオンである。
【0056】
<カルボキシル基を有するセルロース繊維>
セルロース繊維がカルボキシル基を有するものである場合、カルボキシル基導入工程を経ることでセルロース繊維にカルボキシル基を導入することができる。カルボキシル基導入工程では、TEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物、その誘導体、またはその酸無水物もしくはその誘導体によってセルロース繊維を処理することで、セルロース繊維にカルボキシル基を導入することができる。
【0057】
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等トリカルボン酸化合物が挙げられる。
【0058】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
【0059】
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0060】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0061】
カルボキシル基の導入量は、セルロース繊維1g(質量)あたり0.10mmol/g以上であることが好ましく、0.20mmol/g以上であることがより好ましく、0.50mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.00mmol/g以上であることが特に好ましい。また、カルボキシル基の導入量は、3.65mmol/g以下であることが好ましく、3.50mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。
【0062】
カルボキシル基の導入量は、以下の手法により測定することができる。まず、乾燥質量を精秤したパルプから0.5質量%以上1質量%以下のスラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式を用いて官能基量を決定する。該官能基量がカルボキシル基の量を示す。
官能基量(mmol/g)=V(ml)×0.05/パルプの質量(g)
【0063】
<アルカリ処理工程>
上述したアニオン性置換基の導入工程の後には、アルカリ処理工程を設けてもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、セルロース繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0064】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、水系溶媒であってもよい。また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を挙げることができる。
【0065】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、セルロース繊維の絶乾質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0066】
<酸処理工程>
上述したアニオン性置換基の導入工程の後には、アルカリ処理工程に代えて酸処理工程を設けてもよく、酸処理工程で得られたセルロース繊維と、アルカリ処理工程で得られたセルロース繊維とを併用してもよい。なお、酸処理工程で得られたセルロース繊維は、対イオンとして水素イオンを有するものである。
【0067】
酸処理工程では、例えば、無機酸(硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等)、有機酸(ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸等)を用いて処理を行うことが好ましい。酸処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、酸性液中に、セルロース繊維を浸漬する方法が挙げられる。
【0068】
使用する酸性液の濃度は特に限定されないが、10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下である。酸性液の濃度を上記範囲とすることにより、セルロースの分解による劣化を抑制することができる。
【0069】
<シート化工程>
アルカリ処理工程の後には、洗浄工程を設けた後に、パルプからシートを形成する工程を設けてもよい。この場合、パルプを含むスラリーを抄紙することでシートを形成することが好ましい。抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
【0070】
<解繊工程>
得られたシートを解繊機により解繊することで、アニオン性置換基を有するセルロース繊維及びアニオン性置換基の対イオンを含む、フラッフパルプなどのパルプを得ることができる。
【0071】
(吸水性ポリマー)
吸水性ポリマーは、高吸水性ポリマーであることが好ましく、いわゆるSAP(Superabsorbent polymer)であることが好ましい。ここで、高吸水性ポリマーの「高吸水性」とは、自重の20倍以上の水分を吸収可能なことをいう。高吸水性ポリマー(SAP)としては、澱粉系、セルロース系、合成樹脂系等のものがあり、澱粉−アクリル酸(塩)グラフト共重合体、イソブチレン−マレイン酸共重合体、澱粉−アクリル酸エチルグラフト共重合体のケン化物、澱粉−メタクリル酸メチルグラフト共重合体のケン化物、澱粉−アクリロニトリル共重合体のケン化物、澱粉−アクリルアミドグラフト共重合体のケン化物、アクリル酸(塩)重合体、アクリル酸で架橋されたポリエチレンオキサイド、ナトリウムカルボキシメチルセルロースの架橋物、ポリビニルアルコール−無水マレイン酸共重合体の架橋物、生分解性のあるポリアスパラギン酸のアミノ酸架橋物、Alcaligenes Latusからの培養生成物等を挙げることができる。中でも、アクリル酸(塩)重合体は好ましく用いられ、特にポリアクリル酸ナトリウム系樹脂が好ましく用いられる。なお、本発明においては、高吸水性ポリマー(SAP)繊維化した高吸水性繊維(SAF)を用いてもよい。
【0072】
(吸収性材料の製造方法)
上述した製造工程で得られたフラッフパルプなどのパルプは、アニオン性置換基を有するセルロース繊維及びアニオン性置換基の対イオンを含む。このようなフラッフパルプで上述した吸水性ポリマーを被包したり、フラッフパルプと吸水性ポリマーを混合したりすることで吸収性材料を得ることができる。
【0073】
吸水性ポリマーを被包するフラッフパルプは、空気流を利用して3次元的にランダムに積層させてウェブを形成するエアレイド法を採用することが好ましい。吸水性ポリマーは粒状もしくは粉状であってもよく、このような場合、吸水性ポリマーを該ウェブ上に噴霧し、さらに該ウェブを積層させることで製造することができる。なお、フラッフパルプと吸水性ポリマーを空気中で混合し、該混合物を空気流を利用して3次元的にランダムに積層させてウェブを形成してもよい。
【0074】
該ウェブには、該ウェブへの加熱加圧加工によって強度の付与や、パルプや吸水性ポリマーの脱落を防止するために、熱融着性繊維を配合してもよい。その種類としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の繊維があげられる。
【0075】
また、本発明においては、上述した製造工程で得られたパルプを液透過性のシートにし、該シートを吸水性ポリマーシート上に積層したり、該シートで吸水性ポリマーを被包したりすることで吸収性材料としてもよい。
液透過性シートは、上述した製造工程で得られたパルプを含むスラリーを抄紙することで形成してもよい。抄紙機としては、ティシュマシン、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
【0076】
(用途)
本発明は、上述した吸収性材料を備える吸収性物品に関するものであってもよい。吸収性物品としては、例えば、使い捨ておむつや、乳児用又は失禁者用として供される吸収パッド、生理用ナプキンを挙げることができる。吸収性物品において、吸収性材料は吸収体及び吸収体の周辺部材を構成する材料として用いられることが好ましい。
【実施例】
【0077】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0078】
(実施例1)
[リン酸化]
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m
2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。得られたリン酸化パルプ(絶乾質量)100質量部に対して10000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。得られたリン酸化パルプは、リン酸基の導入量が1.7mmol/gであった。
【0079】
なお、リン酸基の導入量は、TAPPI T237 cm−08(2008)を応用して算出した。具体的には、リン酸化パルプに導入された酸性基の導入量をより広範囲まで算出可能にするために、上記試験方法に用いる試験液のうち、炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)/塩化ナトリウム(NaCl)=0.84g/5.85gを蒸留水で1000mlに溶解希釈した試験液を、水酸化ナトリウム1.60gを蒸留水で1000mlに溶解希釈した試験液に変更し、さらに置換基導入前後の繊維における算出値の差を実質的な置換基導入量とした以外は、TAPPI T237 cm−08(2008)に準じて算出した。なお、TAPPI T237 cm−08(2008)の酸性基導入量算出方法は、1価の酸性基の導入量算出方法であることから、多価の酸性基であるリン酸基の導入量の算出については、1価の酸性基の導入量として得られた上記置換基導入量を、リン酸基の酸価数で除した数値を、リン酸の基の導入量とした。
【0080】
[アルカリ処理及び洗浄]
次いで、リン酸基を導入したパルプ(絶乾質量)100gに5000mlのイオン交換水を加え、撹拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpHが12以上13以下になるまで少しずつ添加して、パルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返し、リン酸のナトリウム塩を有するセルロース繊維からなるパルプを得た。
【0081】
[フラッフパルプの作製]
洗浄脱水後に得られたパルプを、角型手抄き装置を用いて目標坪量が100g/m
2となるシートを作製した後、解繊機により解繊し、リン酸のナトリウム塩を有するセルロース繊維からなるフラッフパルプを得た。X線回折により、このフラッフパルプはセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
【0082】
(実施例2)
実施例1のパルプの作製において、リン酸のナトリウム塩を有するセルロース繊維からなるパルプ100質量部を、リン酸のナトリウム塩を有するセルロース繊維と市販の汎用パルプ(NBKP)の混合物(乾燥質量で15質量部:85質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、パルプを得た。なお、汎用パルプとは、リン酸化反応といった化学的処理を行っていないパルプである。
【0083】
(実施例3)
実施例1のパルプの作製において、リン酸のナトリウム塩を有するセルロース繊維からなるパルプ100質量部を、リン酸のナトリウム塩を有するセルロース繊維と市販の汎用パルプ(NBKP)の混合物(乾燥質量で5質量部:95質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、パルプを得た。
【0084】
(実施例4)
実施例1のアルカリ処理において、水酸化ナトリウム水溶液を水酸化リチウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様にしてパルプを得た。
【0085】
(実施例5)
実施例1のアルカリ処理を実施しなかった以外は、実施例1と同様にしてパルプを得た。実施例5で得られたパルプは、リン酸のアンモニウム塩を有するセルロース繊維からなる。
【0086】
(実施例6)
実施例1のアルカリ処理に代えて、酸処理を行った。具体的には、リン酸基を導入したパルプ(絶乾質量)100gに5000mlのイオン交換水を加え、撹拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの塩酸をpHが1以上2以下になるまで少しずつ添加して、酸処理を行った。その後、このパルプスラリーを脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返し、酸型(水素イオン付加型)のリン酸化セルロース繊維からなるパルプを得た。
実施例1のパルプの作製において、リン酸のナトリウム塩を有するセルロース繊維からなるパルプ100質量部を、上記方法により得られたリン酸化セルロース繊維と、実施例1と同様にして得られたリン酸のナトリウム塩を有するセルロース繊維の混合物(乾燥質量で50質量部:50質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、パルプを得た。
【0087】
(実施例7)
[酸化]
乾燥質量100質量部相当の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプと、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部とを水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が3.5mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は1.0Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上11以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、パルプ中のセルロースにカルボキシル基を導入した。このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、カルボキシル基を有するセルロース繊維からなるパルプを得た。得られたカルボキシル基を有するセルロース繊維からなるパルプは、カルボキシル基の導入量が1.4mmol/gであった。
実施例1のパルプの作製において、リン酸のナトリウム塩を有するセルロース繊維からなるパルプを、カルボキシル基を有するセルロース繊維からなるパルプに変更した以外は、実施例1と同様にしてパルプを得た。
【0088】
なお、カルボキシル基の導入量は、以下の手法により測定した。まず、乾燥質量を精秤したパルプから0.5質量%以上1質量%以下のスラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行った。測定はpHが約11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式を用いて官能基量を決定した。該官能基量がカルボキシル基の量を示す。
官能基量(mmol/g)=V(ml)×0.05/パルプの質量(g)
【0089】
(比較例1)
実施例1のパルプの作製において、市販の汎用パルプ(NBKP)のみを使用した以外は、実施例1と同様にしてパルプを得た。
【0090】
(比較例2)
実施例1のアルカリ処理に代えて、酸処理を行った。具体的には、リン酸基を導入したパルプ(絶乾質量)100gに5000mlのイオン交換水を加え、撹拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの塩酸をpHが1以上2以下になるまで少しずつ添加して、酸処理を行った。その後、このパルプスラリーを脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返し、リン酸化セルロース繊維からなるパルプを得た。
実施例1のパルプの作製において、リン酸のナトリウム塩を有するセルロース繊維からなるパルプを、上記方法により得られたリン酸化セルロース繊維からなるパルプに変更した以外は、実施例1と同様にして、パルプを得た。
【0091】
(評価及び分析)
(吸水性評価)
パルプに対する人工尿の固液比が18.8倍となるように実施例および比較例で得たパルプ3gと人工尿56.3gをビーカー内で攪拌しながら3分間混合した(接触処理)。その後、ろ紙(アドバンテック社製、No.2)を用いてろ過を行い、接触処理後の人工尿を回収した。
回収した人工尿20gと、高吸水性ポリマー(SAP)0.1gを3分間接触させた後、金属メッシュ(100メッシュ)を用いてろ過を行い、処理後のSAPを回収した。SAPの重量を測定し、以下の式より吸収倍率を測定した。
吸収倍率(倍)=人工尿と接触後のSAPの重量(g)/人工尿と接触前のSAPの重量(g)
なお、使用した人工尿の組成は次の通りである。
尿素 1.94質量%
NaCl 0.80質量%
CaCl
2 0.08質量%
MgSO
4 0.2質量%
H
2O 96.97質量%
【0092】
(pHの測定)
pHメーター(メトラー・トレド社製)を用いて、パルプと接触処理後に回収した人工尿のpHを測定した。
【0093】
(人工尿中のイオン量の測定)
パルプと接触処理後に回収した人工尿中のイオン量(マグネシウムイオン及びカルシウムイオン)を、高周波誘導プラズマ発光法(ICP)によって測定した。測定は、ICP−OES(アメテック社製、型式:CIROS120)を用いて測定した。なお、定量に際しては予め、含有量既知の金属塩標準液を用いて検量線を作製しておき、含有量(mg/L)を算出した。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例で得られたパルプを含む吸収性材料は吸収倍率が高く、高い吸収性を発揮していた。
【0096】
なお、各実施例で得られたフラッフパルプを用いて乾式不織布設備を用いたエアレイド法により液透過性シートを得た。次いで、この液透過性シートに粒状のSAPを噴霧して吸収性材料を作製した。このようにして得られた吸収性材料は、高い吸収性能を発揮し得るものであった。