特許第6880647号(P6880647)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6880647アクリル系樹脂組成物、アクリル系フィルム、加飾フィルム及び加飾成型体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880647
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】アクリル系樹脂組成物、アクリル系フィルム、加飾フィルム及び加飾成型体
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/00 20060101AFI20210524BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20210524BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20210524BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20210524BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20210524BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20210524BHJP
【FI】
   C08L33/00
   B32B27/00 E
   B32B27/26
   B32B27/30 A
   C08J7/046CER
   C08J7/04CEZ
【請求項の数】13
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-206171(P2016-206171)
(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公開番号】特開2018-65947(P2018-65947A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今野 隆寛
【審査官】 工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/029298(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/141380(WO,A1)
【文献】 特開2014−162834(JP,A)
【文献】 特開2016−047923(JP,A)
【文献】 特開2014−138985(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/141381(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/141382(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
B32B 27/00− 27/42
C08J 7/00− 7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基、カルボキシル基、およびアセトアセチル基からなる群より選択される少なくとも一つの官能基を有し、質量平均分子量が110,000〜1,000,000であり、ガラス転移温度が20〜150℃であるアクリル系樹脂(a)と、金属キレート化合物および金属アルコラート化合物からなる群より選択される少なくとも一つの硬化剤(b)とを含有する、アクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂(a)のガラス転移温度が25〜140℃であることを特徴とする、請求項1記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、イソシアネート硬化剤、カルボジイミド硬化剤、アジリジン硬化剤およびエポキシ硬化剤からなる群より選択される少なくとも一つの硬化剤(c)を含有することを特徴とする、請求項1または2記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記アクリル系樹脂(a)が水酸基を有し、水酸基価が1〜200mgKOH/gであることを特徴とする、請求項1〜3いずれか1項に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
前記アクリル系樹脂(a)が、カルボキシル基を有し、酸価が1〜200mgKOH/gであることを特徴とする、請求項1〜4いずれか1項に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載のアクリル系樹脂組成物の熱硬化物であるアクリル系フィルム。
【請求項7】
請求項1〜5いずれかに1項に記載のアクリル系樹脂組成物の熱硬化物であるハードコート層と、基材層とを含む積層体からなる加飾フィルム。
【請求項8】
前記基材層が、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群より選択される単層または複層からなることを特徴する、請求項7記載の加飾フィルム。
【請求項9】
前記ハードコート層と、前記基材層とが当接していることを特徴とする、請求項7または8に記載の加飾フィルム。
【請求項10】
接着剤層または着色層の少なくともいずれか一方をさらに有することを特徴とする、請求項7〜9いずれか1項に記載の加飾フィルム。
【請求項11】
前記接着剤層が、前記基材層と前記ハードコート層との間に積層されていることを特徴とする、請求項10記載の加飾フィルム。
【請求項12】
前記接着剤層が、前記基材層の前記ハードコート層の非対向面側に積層されていることを特徴とする、請求項10記載の加飾フィルム。
【請求項13】
被加飾体と、前記被加飾体の少なくとも一部を被覆する加飾フィルムとを具備し、前記加飾フィルムは、基材層とハードコート層を含む積層体からなり、且つ請求項7〜12いずれか1項に記載の加飾フィルムである、加飾成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のアクリル系樹脂組成物、アクリル系樹脂組成物より形成されるアクリル系フィルム、アクリル系フィルムより形成される加飾フィルムに関する。また、本発明は、前記加飾フィルムで表面が被覆された加飾成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の携帯情報端末機器、ノート型パソコン、家電製品、自動車内外装部品などには樹脂成型品が多く用いられている。これらの樹脂成型品はプラスチック樹脂を成型後にその意匠性を高めるため、通常その表面には塗装や印刷等による加飾を施している。
【0003】
従来から、意匠性付与のために、樹脂成型品の表面には着色塗料を塗装したり、印刷したりしてきた。また、表面保護のために、樹脂成型品の表面にはハードコート塗料をスプレー塗装したり、ディッピング塗装したりしてきた。しかし、このような従来の加飾方法は、意匠性の高い加飾を行うことが困難である。また、生産性に難点がある等の理由により、これに代わる方法として、加飾フィルムを用いて、樹脂成型物の表面を加飾する方法が普及してきた。加飾フィルムとは、基材フィルム上に印刷や塗布により図柄やアクリル系フィルムを設けたものである。
【0004】
加飾フィルムを用いる方法としては、(1)予め成型された樹脂成型品を加飾の対象とし、前記樹脂成型品の表面に加飾フィルムを積層する方法や、(2)金型内にセットした加飾フィルムに加飾対象の射出成型用樹脂を射出し、樹脂成型品と加飾フィルムとを一体化する方法等がある。(2)の方法は、射出成型用樹脂の射出に先立ち、加飾フィルムを予備成型しておくこともできる。予備成型の手段には真空成型の他、機械的成型等が挙げられる。
【0005】
様々な加飾フィルムの利用が特許文献1〜8に提案されている。特許文献1には、アクリル系樹脂(A)からなる層と、脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)からなる層を積層した多層体が記載されている。特定の構造を有する脂肪族ポリカーボネート樹脂(B)を用いることにより、透明性、耐熱性、耐衝撃性、耐UV変色性、表面硬度に優れた多層体が得られる旨記載されている。
【0006】
特許文献2には、割れ難く、耐白化性に優れ、表面硬度が高く、成型が容易な樹脂フィルムとして、ポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、メタクリル樹脂(ガラス転移温度が前記ポリカーボネート樹脂材料のガラス転移温度と所定の関係にある)85〜100質量部及びアクリルゴム粒子0〜15質量部を含有するメタクリル樹脂材料の層(B)を積層してなる多層フィルムが開示されている。また、その多層フィルムを、家電製品の外装部材や自動車の内装部材などの表面加飾フィルムとして好適に用いる旨も開示されている。前記メタクリル樹脂としては、メタクリル酸メチルの重合体が好適であることが示唆されている。
【0007】
特許文献3では、電離放射線硬化性を有するアクリル系フィルム用インキ組成物を用いて、工程(1)射出成型金型内に、基材フィルムの片面に少なくとも離型層と、電離放射線硬化性を有するアクリル系フィルム用インキ組成物を塗工してなるアクリル系フィルム形成層とを順に有する加飾シートを配する工程、
工程(2)キャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却・固化して、樹脂成型体と加飾シートとを積層一体化させる射出工程、
工程(3)樹脂成型体と加飾シートとが一体化した成型体を金型から取り出す工程、
工程(4)成型体から加飾シートの基材フィルムを剥離する工程、
工程(5)酸素濃度2%以下の雰囲気下で前記成型体上に設けられたアクリル系フィルム形成層を硬化させるアクリル系フィルム形成工程、
の各工程を経て加飾成型品を製造する方法が開示されている。
【0008】
特許文献4には、カルボキシル基と水酸基を有し、固形分酸価が15〜150mgKOH/gであり、固形分水酸基価が2〜80mgKOH/gであり、ガラス転移温度が70〜140℃であるビニル系重合体(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)を含有し、ポリイソシアネート化合物の含有量がビニル系重合体(A)の固形分水酸基価2〜80mgKOH/gと反応する含有量である熱成型用フィルム向け硬化性樹脂組成物が開示されている。
【0009】
特許文献5には、基材フィルム上に、樹脂を含有するアクリル系フィルムを設けてなる成型用積層ハードコートフィルムであって、前記積層ハードコートフィルムの23℃、50%RHの雰囲気下における伸び率が10%以上である成型用積層ハードコートフィルムが開示されている。アクリル系フィルムに含まれる樹脂は活性エネルギー線硬化性樹脂を用いている。
【0010】
特許文献6には、加飾シートの片面にトップコート層を有するトップコート付加飾シートであって、前記トップコート層が、−40℃〜130℃では表面硬度が鉛筆硬度B以上であり、150℃での引張試験機において延伸率が150%以上である、トップコート付加飾シートが開示されている。トップコート層は、樹脂組成物を光硬化してなるものである旨開示されている。
【0011】
特許文献7には、少なくともヒドロキシル基とカルボキシル基を有する重合体(A)、ポリイソシアネート(B)及び1分子中に3個以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するプレポリマー(C)を含有する樹脂組成物を、剥離性基体フィルム上に塗布して得られる転写フィルムが記載されている(請求項1、5)。請求項2には、前記重合体(A)が、ヒドロキシル基と不飽和二重結合を有する重合性単量体とカルボキシル基を有する不飽和二重結合を有する重合性単量体とを含む重合性単量体混合物を共重合させて得られる重合体である旨記載されており、請求項3には、前記重合体(A)の水酸基価は5〜100mgKOH/g、重量平均分子量は30,000〜300,000、ガラス転移温度は60〜180℃である旨、記載されている。
【0012】
特許文献8には、硬化樹脂層をトップコート層として有する一体成形可能な積層シートが開示されている(請求項1)。請求項2、3には、前記トップコート層の硬化樹脂層が、水酸基価が10〜300mgKOH/g、重量平均分子量が2,000〜50,000、且つガラス転移温度(Tg)が80℃以下である水酸基含有ビニル系共重合体(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)とからなる樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂層である旨、記載されている。
【0013】
特許文献9には、配位結合可能な部位を持つ重量平均分子量が5,000〜100,000の樹脂とび配位結合可能な金属化合物とを熱硬化させた加飾フィルム用ハードコートコーティング剤が開示されている(請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2011−161871号公報
【特許文献2】特開2010−125645号公報
【特許文献3】特開2011−161692号公報
【特許文献4】特開2012−097248号公報
【特許文献5】特開2012−210755号公報
【特許文献6】特開2013−006346号公報
【特許文献7】特開2010−126633号公報
【特許文献8】特開2002−347179号公報
【特許文献9】特開2016−047923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
加飾フィルムは、例えば自動車の内装部材に用いられるので、優れた意匠性が求められる。また、3次元成型できる優れた成形性を有するとともに、耐摩耗性が求められる。また、様々な用途に応用展開するためには、汎用性が高い製造方法が求められている。さらに、例えば自動車の内装部材に用いる場合、耐日焼け止めクリーム性が求められる。
上記特許文献1〜9においては、これらの特性を全て満足するものではなかった。
【0016】
本発明は、上記背景に鑑みて成されたものであり、汎用性が高く、成型時の成型性に優れ、さらに得られる加飾フィルムの意匠性、耐摩耗性に優れ、耐日焼け止めクリーム性に優れるフィルムおよび加飾成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
[1] 水酸基、カルボキシル基、およびアセトアセチル基からなる群より選択される少なくとも一つの官能基を有し、質量平均分子量が110,000〜1,000,000であるアクリル系樹脂(a)と、金属キレート化合物、および金属アルコラート化合物からなる群より選択される少なくとも一つの硬化剤(b)とを含有するアクリル系樹脂組成物。
[2] 前記アクリル系樹脂(a)のガラス転移温度が0〜150℃であることを特徴とする、[1]記載のアクリル系樹脂組成物。
[3] さらに、イソシアネート硬化剤、カルボジイミド硬化剤、アジリジン硬化剤およびエポキシ硬化剤からなる群より選択される少なくとも一つの硬化剤(c)を含有することを特徴とする、[1]または[2]記載のアクリル系樹脂組成物。
[4] 前記アクリル系樹脂(a)が水酸基を有し、水酸基価が1〜200mgKOH/gであることを特徴とする、[1]〜[3]いずれかに記載のアクリル系樹脂組成物。
[5] 前記アクリル系樹脂(a)が、カルボキシル基を有し、酸価が1〜200mgKOH/gであることを特徴とする、[1]〜[4]いずれかに記載のアクリル系樹脂組成物。
【0018】
[6] [1]〜[5]いずれかに記載のアクリル系樹脂組成物の熱硬化物であるアクリル系フィルム。
【0019】
[7] [1]〜[5]いずれかに記載のアクリル系樹脂組成物の熱硬化物であるハードコート層と、基材層とを含む積層体からなる加飾フィルム。
[8]
前記基材層が、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレンからなる群より選択される単層または複層からなることを特徴する、[7]記載の加飾フィルム。
[9] 前記ハードコート層と、前記基材層とが当接していることを特徴とする、[7]または[8]に記載の加飾フィルム。
[10] 接着剤層および着色層の少なくともいずれか一方をさらに有することを特徴とする、[7]〜[9]いずれかに記載の加飾フィルム。
[11] 前記接着剤層が、前記基材層と前記ハードコート層との間に積層されていることを特徴とする、[10]記載の加飾フィルム。
[12] 前記接着剤層が、前記基材層の前記ハードコート層の非対向面側に積層されていることを特徴とする、[10]記載の加飾フィルム。
【0020】
[13] 被加飾体と、前記被加飾体の少なくとも一部を被覆する加飾フィルムとを具備し、前記加飾フィルムは、基材層とハードコート層を含む積層体からなり、且つ[7]〜[12]いずれかに記載の加飾フィルムである、加飾成型体。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、汎用性が高く、成型時の成型性に優れ、さらに得られる加飾フィルムの意匠性、耐摩耗性に優れ、耐日焼け止めクリーム性に優れるフィルムおよび加飾成型体を提供できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の加飾フィルムの構成例を示す模式的断面図。
図2】本発明の加飾フィルムの構成例を示す模式的断面図。
図3】本発明の加飾フィルムの構成例を示す模式的断面図。
図4】本発明の加飾フィルムの構成例を示す模式的断面図。
図5】本発明の加飾フィルムの構成例を示す模式的断面図。
図6】本発明の加飾フィルムの構成例を示す模式的断面図。
図7】本発明の加飾フィルムの構成例を示す模式的断面図。
図8】本発明の加飾フィルムの構成例を示す模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。また、本明細書で特定する数値「A〜B」とは、数値Aと数値Aより大きい値であって、且つ数値Bと数値Bより小さい値を満たす範囲を示す。また、本明細書における「シート」とは、JISにおいて定義される「シート」のみならず、「フィルム」も含むものとする。本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に1種単独でも2種以上を併用してもよい。また「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、水酸基、カルボキシル基、アセトアセチル基から少なくとも一つ選択される官能基を持つアクリル系樹脂(a)と、金属キレート化合物、および金属アルコラート化合物からなる群より選択される少なくも一つの硬化剤(b)とを含有する樹脂組成物であり、前記アクリル系樹脂(a)の重量平均分子量が110,000〜1,000,000である。
【0025】
一般に、熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させてなる樹脂フィルムを、加熱して軟化させて加工する際、伸び性などの成型性を持たせるには、架橋密度を下げることが効果的である。しかし、一方で、加工後の塗膜に耐日焼止クリーム性や表面硬度などの耐久性を持たせるには、架橋密度を上げることが効果的である。
ところで、伸び性などの成型性が必要とされるのは、まさしく成型時、フィルムの温度が高い状態においてであり、成型後は一定の形状を維持することが求められる。一方、耐久性が必要とされるのは、成型後である。すなわち、成型性と耐久性は必ずしも同時に両立する必要はなく、成型時の加工温度で成型性が求められ、成型後実際に使用される室温付近を中心とする温度範囲での耐久性が求められる。架橋密度に置き換えて考えると、成型時の加熱時は架橋密度が低く、成型後は架橋密度が高いことが適すると考察される。
【0026】
本発明におけるアクリル系樹脂(a)は、水酸基、カルボキシル基、およびアセトアセチル基からなる群より選択される少なくとも一つ官能基を持つアクリル系樹脂(a)を金属キレート化合物、および金属アルコラート化合物からなる群より選択される少なくとも一種の硬化剤(b)により硬化させることで、上記のような要求に応えることが可能となる。すなわち、金属の配位結合に代表されるような熱的に可逆的な架橋である架橋構造を組み込むことで、成型時の高温領域では硬化したフィルムの架橋が一部解け、架橋密度が下がり成型性が良化し、成型後、室温付近では架橋が再構築され架橋密度が上がり耐久性を保持することができる。
【0027】
本発明におけるアクリル系樹脂(a)について説明する。上記架橋構造を構築するためには、硬化剤との可逆的な結合が可能な官能基が必要である。この官能基としては、水酸基、カルボキシル基、アセトアセチル基等が挙げられ、本発明のアクリル系樹脂(a)は、水酸基、カルボキシル基、アセトアセチル基から少なくとも一つ選択される官能基を持つ。
【0028】
本発明におけるアクリル系樹脂(a)は、水酸基、カルボキシル基、アセトアセチル基から少なくとも一つ選択される官能基が含まれていればよく、2つ以上の種類の官能基が共に含有されていてもよい。また、それぞれの官能基の含有量に特に制限はなく、求められる耐久性に応じて適宜調整して官能基を含有することができる。官能基の含有量はそれぞれ後述する方法で測定/算出した値で規定することができ、本発明では、水酸基は水酸基価(mgKOH/g)、カルボキシル基は酸価(mgKOH/g)、アセトアセチル基はアセトアセチル当量(mol/g)により規定する。アセトアセチル当量は以下、AA当量ということもある。
【0029】
本発明におけるアクリル系樹脂(a)の水酸基価は、特に制限がないが、耐久性、成型性の観点から、1〜200mgKOH/gであることが好ましい。水酸基を含有させる場合、水酸基価を1mgKOH/g以上にすることで耐久性が向上し、200mgKOH/g以下にすることで成型性を向上させることができる。
【0030】
アクリル系樹脂(a)に水酸基を導入するためには、水酸基を有するモノマーと水酸基を有さない他のモノマー、また、必要に応じてカルボキシル基を有するモノマーやアセトアセチル基を有するモノマーとを共重合することにより行うことができる。
水酸基を有するモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン1モル付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン2モル付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン3モル付加物、1,1−ジヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、1,2−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,2−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、他にもヒドロキシエチルビニルエーテルなどのアクリル系以外の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーなどが挙げられるが、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの水酸基を有するモノマーは、それぞれ単独で用いても良く、2種類以上併用してもよい。
【0031】
水酸基を有さないモノマーとしては、例えば、エステル部分のアルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを挙げることができる。ここで、エステル部分のアルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーの例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2 −エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。また、エステル部分が脂環式炭化水素基の(メタ)アクリル酸エステルモノマーなども挙げられ、例えば、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、 ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。他にも、エステル部分が芳香族基の(メタ)アクリル酸エステルモノマー、また、スチレン、ビニルエーテル、酢酸ビニル、アクリロニトリルなどのアクリル酸エステル以外のエチレン性不飽和モノマーも挙げられる。これらの水酸基を有さないモノマーは、かかる例示のみに限定されるものではなく、それぞれ単独で用いても良く、2種類以上併用してもよいが、耐候性の観点から1種類以上は(メタ)アクロイル基を持つエチレン性不飽和モノマーを用いることが好ましい。
【0032】
アクリル系樹脂(a)の酸価は、特に制限がないが、耐久性、成型性の観点から、1〜200mgKOH/gであることが好ましい。カルボキシル基を含有させる場合、酸価を1mgKOH/g以上にすることで耐久性が向上し、200mgKOH/g以下にすることで成型性を向上させることができる。
【0033】
アクリル系樹脂(a)にカルボキシル基を導入するためには、カルボキシル基を有するモノマーとカルボキシル基を有さない他のモノマー、また、必要に応じて水酸基を有するモノマー、アセトアセチル基を有するモノマーとを共重合することにより行うことができる。カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート、p − カルボキシベンジルアクリレート、エチレンオキサイド変性(付加モル数:2〜18)フタル酸アクリレート、フタル酸モノヒドロキシプロピルアクリレート、コハク酸モノヒドロキシエチルアクリレート、β− カルボキシエチルアクリレート、2−(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレートなどが挙げられる。モノ(メタ)アクリレートモノマーではないが、マレイン酸、モノエチルマレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びフマル酸なども、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和モノマーとして用いることもできる。これらカルボキシル基を有するモノマーは、かかる例示のみに限定されるものではなく、それぞれ単独で用いても良く、2種類以上併用してもよい。
【0034】
カルボキシル基を有さない他のモノマーの例としては、水酸基を有さない他のモノマーで例示したモノマーを挙げることができる。
【0035】
アクリル系樹脂(a)のアセトアセチル当量は、特に制限がないが、耐久性、成型性の観点から、1×10−5〜350×10−5mol/gであることが好ましい。アセトアセチル基を含有させる場合、アセトアセチル当量を1×10−5mol/g以上にすることで耐久性が向上し、350×10−5mol/g以下にすることで成型性を向上させることができる。
【0036】
アクリル系樹脂(a)にアセトアセチル基を導入するためには、アセトアセチル基を有するモノマーとアセトアセチル基を有さない他のモノマー、また、必要に応じて水酸基を有するモノマー、カルボキシル基を有するモノマーとを共重合することにより行うことができる。アセトアセチル基を有するモノマーとしては、例えば、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシプロピル(メタ アクリレート、アセトアセトキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではない。これらのアセトアセチル基を有するモノマーは、それぞれ単独で用いても良く、2種類以上併用してもよい。
【0037】
アセトアセチル基を有さない他のモノマーの例としては、水酸基を有さない他のモノマーで例示したモノマーを挙げることができる。
【0038】
本発明のアクリル系樹脂(a)は、上記で例示した種々のモノマーを、重合開始剤を用いて重合することで得ることができる。重合は、公知の重合方法で行うことができる。重合は無溶剤で行うこともできるが溶剤中で行うことが好ましく、用いることができる溶剤としては、例えば、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、水等が挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではなく、単独で用いてもよく、2種類以上併用して用いてもよい。重合温度は、目的の質量平均分子量を得る、また、反応速度調節のため、適宜選択することができるが、50〜130℃の範囲であることが好ましい。
【0039】
重合開始剤の例としては、アゾ系化合物や有機過酸化物などが挙げられる。アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルや2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)や2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)やジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリック酸)や2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]などが挙げられる。また、アゾ系化合物としては過酸化ベンゾイルやtert−ブチルパーベンゾエート、クメンヒドロパーオキシドやジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネートやジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエートやtert−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシドやジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシドなどが挙げられる。
【0040】
アクリル系樹脂(a)の質量平均分子量は110,000〜1,000,000である。質量平均分子量が110,000以上であることで膜の伸長性と耐久性を両立することができ、また、質量平均分子量が1,000,000以下であることで、硬化剤(b)を配合した際の保存安定性や優れた塗工適性を付与することができる。また、数平均分子量については、多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)が1.5以上となる分子量であることが好ましい。多分散度が1.5以上あることで伸長性が良化する。
【0041】
質量平均分子量を調整するためには、公知の方法をしようすることができる。例えば、重合開始剤の濃度、溶媒中のモノマーの濃度、反応温度を適宜選択することで所望の質量平均分子量を持つアクリル系樹脂(a)を合成することが可能である。
【0042】
アクリル系樹脂(a)のガラス転移温度(以下、「Tg」ともいう)は0〜150℃であることが好ましい。Tgが0℃以上であることで硬化膜の耐久性が良化し、150℃以下であることで硬化膜の伸長性が良化し、また、樹脂組成物の粘度上昇を抑制ことができる。Tgは20〜150℃であることがより好ましく、さらに25〜140℃であることがより好ましい。
【0043】
本発明における硬化剤(b)について説明する。本発明における硬化剤(b)は金属キレート化合物、および金属アルコラート化合物からなる群より選択される。金属キレート化合物や金属アルコラート化合物を構成する金属としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロム、ジルコニウムなどが挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではなく、単独または2種類以上併用して用いてよい。中でも、アルミニウム、亜鉛、ジルコニウム、チタンが好ましい。
【0044】
本発明における硬化剤(b)をより具体的に例示するならば、
例えば、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムモノアセチルアセテートビスエチルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムモノイソプロポキシモノオレオキシエチルアセトアセテートのアルミニウム化合物;
ジルコニウムテトラアセチルアセテート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセテート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセテートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムジブトキシビスエチルアセトアセテート等のジルコニウム化合物;
チタンジイソプロポキシビスアセチルアセテート、チタンテトラアセチルアセテート、チタンジオクチロキシビスオクチレングリコレート、チタンジイソプロポキシビスエチルアセトアセテート、ポリヒドロキシチタンステアレート等のチタン化合物;
エトキシ・アセチルアセトナート亜鉛、ビスアセチルアセトナート亜鉛、プロポキシ・アセチルアセトナート亜鉛、ブトキシ・アセチルアセトナート亜鉛、エトキシ・エチルアセトアセテート亜鉛、ビスエチルアセトアセテート亜鉛、プロポキシ・エチルアセトアセテート亜鉛、ブトキシ・エチルアセトアセテート亜鉛などの亜鉛化合物が挙げられ、
【0045】
金属アルコラート化合物としては、例えば、
アルミニウムエチレート、アルミニウムプロピレート、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムジイソプロピレートモノsec ブチレート、アルミニウムモノイソプロピレートジsec ブチレート、アルミニウムsecブチレートのアルミニウム化合物;
ジエトキシ亜鉛、ジプロポキシ亜鉛、ジブトキシ亜鉛等の亜鉛化合物;
チタニウムエチレート、チタニウムプロピレート、チタニウムイソプロピレート、チタニウムブチレート、等のチタニウム化合物;
ジルコニウムエチレート、ジルコニウムプロピレート、ジルコニウムイソプロピレート、ジルコニウムブチレート、ジルコニウムモノプロピルトリステアレート、ジルコニウムジプロピルジステアレート、ジルコニウムトリプロピルモノステアレート、ジルコニウムモノブトキシトリステアレート、ジルコニウムジブトキシジステアレート、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート、等のジルコニウム化合物が挙げられる。
また、該金属アルコラートの縮合物としては、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、環状アルミニウムオキサイドオクチレート、環状アルミニウムオキサイドステアレートが挙げられる。
【0046】
本発明のアクリル系樹脂組成物中の硬化剤(b)の配合量に特に限定はないが、アクリル系樹脂(a)の水酸基、カルボキシル基、およびアセトアセチル基の合計100molに対して、硬化剤(b)は5〜300molであることが好ましい。5mol以上あることで、硬化後の膜耐久性が良化し、300mol以下であることで樹脂組成物の保存安定性が損なわれない。
なお、カルボキシル基や水酸基の量は、酸価や水酸基価から求めることができ、酸価56.1mgKOH/gは、アクリル系樹脂(a)1g中にカルボキシル基を1mmol含む意であり、水酸基も同様である。
【0047】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、イソシアネート硬化剤、カルボジイミド硬化剤、アジリジン硬化剤およびエポキシ硬化剤からなる群より選択される少なくとも一つの硬化剤(c)をさらに含有することができる。硬化剤(c)をさらに含有することで、硬化後の膜耐久性が向上する。硬化剤(c)の含有量は、成型性を損なわない範囲で任意に設定してもよいが、特に成型性を重視する場合、硬化剤(c)の官能基は、アクリル系樹脂(a)の官能基に対して1当量以下にすることが好ましく、さらに0.8当量以下であることがより好ましい。
【0048】
イソシアネート硬化剤は、イソシアネート基やブロックイソシアネート基を持つ化合物を指し、公知のものを使用することができる。イソシアネート硬化剤として、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、若しくは水添化ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートから誘導された化合物、即ち、前記ジイソシアネートのヌレート体、トリメチロールプロパンアダクト体、ビウレット型、イソシアネート残基を有するプレポリマー(ジイソシアネートとポリオールから得られる低重合体)、イソシアネート残基を有するウレトジオン体、アロファネート体、若しくはこれらの複合体、及びブロックイソシアネートが挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではなく、これらを単独または2種以上併用して用いることができる。
【0049】
また、イソシアネート硬化剤は、架橋後の塗膜の透明性向上の観点から、脂環式ジイソシアネート、若しくは肪族ジイソシアネートから誘導されるポリイソシアネートを使用することが好ましい。より詳細には、脂環族ジイソアネートとしてはイソホロンジイソシアネート、メチル− 2 , 6 − シクロヘキサンジイソシアネートなどが挙げられ、脂肪族ジイソシアネートとしてはヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネートなどが挙げられ、またそれらの誘導体として、ジイソシアネートのヌレート体、トリメチロールプロパンアダクト体、ビウレット型、イソシアネート残基を有するプレポリマー( ジイソシアネートとポリオールから得られる低重合体)、イソシアネート残基を有するウレトジオン体、アロファネート体、若しくはこれらの複合体などが挙げられる。
【0050】
カルボジイミド硬化剤としては、N,N’−ジ−o−トルイルカルボジイミド、N,N’−ジフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’−ジオクチルデシルカルボジイミド、N−トリイル−N’−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,2−ジ−tert.−ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N’−フェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、およびN,N’−ジ−p−トルイルカルボジイミドなどが挙げられる。このようなカルボジイミドとしては日清紡績株式会社製のカルボジライトシリーズが挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではなく、これらを単独または2種以上併用して用いることができる。
その中でもカルボジライトV−01,03,05,07,09は有機溶剤との相溶性に優れており好ましい。
【0051】
アジリジン硬化剤としては、2,2’−ビスヒドロキシメチルブタノールトリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、4,4’−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等が挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではなく、これらを単独または2種以上併用して用いることができる。
【0052】
エポキシ硬化剤としては、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールのような脂肪族のジオールのジグリシジルエーテル、ソルビトール、ソルビタン、ポリグリセロール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、グリセロール、トリメチロールプロパンなどの脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ポリオールのポリグリシジルエーテル、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族、芳香族の多価カルボン酸のジグリシジルエステルまたはポリグリシジルエステル、レゾルシノール、ビス−(p−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス−(p−ヒドロキシフェニル)プロパン、トリス−(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンなどの多価フェノールのジグリシジルエーテルもしくはポリグリシジルエーテル、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−ビス−(p−アミノフェニル)メタンのようにアミンのN−グリシジル誘導体、アミノフェールのトリグリシジル誘導体、トリグリシジルトリス(2−−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、トリグリシジルイソシアヌレート、オルソクレゾール型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシが挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではなく、これらを単独または2種以上併用して用いることができる。
【0053】
また、上記硬化剤のほかにも、アクリル系樹脂(a)に含有される官能基と化学結合することができる化合物、例えば、オキサゾリン化合物をさらに併用することも可能である。オキサゾリン化合物としては、2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−フェニル−2−オキサゾリン、2,5−ジメチル−2−オキサゾリン、2,4−ジフェニル−2−オキサゾリンなどのモノオキサゾリン化合物、2,2’−(1,3−フェニレン)−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−(1,2−エチレン)−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−(1,4−ブチレン)−ビス(2−オキサゾリン)、2,2’−(1,4−フェニレン)−ビス(2−オキサゾリン)などのジオキサゾリン化合物が挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではなく、これらを単独または2種以上併用して用いることができる。
【0054】
上記、樹脂組成物は主剤と硬化剤とを使用時に混合する、いわゆる2 液混合タイプであってもよいし、主剤と硬化剤とが予め混合された1 液タイプであってもよい。
【0055】
本発明の樹脂組成物は溶剤で希釈して使用することができる。溶剤は公知のものを適宜選択して使用してよく、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテートなどのエステル類; アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類; テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類; メチレンクロリド、エチレンクロリドなどのハロゲン化炭化水素類; ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホアミド;水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類などが挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2 種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
【0056】
本発明では、後述するアクリル系フィルムに滑り性を付与する目的で、樹脂組成物にスリップ剤を添加することができる。スリップ剤としてはフッ素系スリップ剤、シリコーン系スリップ剤、ワックス系スリップ剤などがあげられる。これらのスリップ剤は樹脂組成物の固形分100質量部に対して、0.01〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部用いることが好ましい。
【0057】
また、本発明の樹脂組成物からアクリル系フィルムを得る際、は比較的厚膜になるように塗布されるため、一般的に厚膜化によって表面不良が生じやすくなる傾向があるが、本発明では、表面不良をより効果的に防止する目的で樹脂組成物に表面調整剤などを添加してもよい。表面調整剤としてはBYK社製BYK−300、BYK−315、BYK−320などが挙げられる。これらの表面調整剤は塗料の固形分100質量部に対して、0.01〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部用いることが好ましい。
【0058】
本発明では、成型性を向上させるためにポリオールを添加することができる。ここでのポリオールとは、アクリル系樹脂(a)以外の、水酸基を2つ以上含有する化合物である。例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどが挙げられ、1種類又は2種類以上併用して用いることができる。硬化膜の耐久性、成型性の点から、特に、ポリエステルポリオールが好ましい。
本発明では、本発明の目的が阻害されない範囲内で、樹脂組成物に、前記アクリル系樹脂(a)以外の他の樹脂や、有機系もしくは無機系の微粒子や、有機溶媒などが含まれていてもよい。前記アクリル系樹脂(a)以外の他の樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂や、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、熱可塑性アクリル樹脂、フェノール樹脂、セルロースエステル樹脂などを挙げることができる。これら樹脂は、架橋性官能基を有してもよいし、架橋性官能基を有さないものでもよい。好ましくは架橋性官能基を有していた方がよい。
【0059】
本発明のアクリル系樹脂組成物には有機系もしくは無機系の微粒子を含有することにより、アクリル系フィルムの表面を凹凸にしてブロッキング防止効果を付与したり、表面の凹凸によるマット感を出したり、皮膜に強度を与えて、傷付き難くしたりすることができる。これら微粒子は、アクリル系樹脂(a)100質量部に対して0.01〜20質量部含有することが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部含有することが好ましい。含有量が0.01重量部以上とすることにより上記効果が期待でき、20質量部以下とすることにより成型性に優れ、透明性を阻害しない丈夫なアクリル系フィルムを形成できる。
【0060】
有機系微粒子の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン樹脂やポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルメタアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、メタクリレート樹脂、アクリレート樹脂などのポリマー微粒子、あるいは、セルロースパウダー、ニトロセルロースパウダー、木粉、古紙粉、殻粉、澱粉などが挙げられる。有機系粒子は1種類を用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0061】
無機微粒子の具体例としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、ジルコニウム、モリブデン、ケイ素、アンチモン、などの金属の酸化物、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩などを含有する無機系微粒子が挙げられる。さらに詳細な具体例としては、シリカ、シリカゲル、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、アルミノシリケート、タルク、マイカ、ガラス繊維、ガラス粉末などを含有する無機系粒子が挙げられる。無機系粒子は、1種類で用いてもよいし、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0062】
また、アクリル系樹脂組成物には、必要に応じて、本発明による効果を妨げない範囲で、硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤は、アクリル系樹脂(a)中の水酸基とイソシアネート硬化剤とのウレタン結合反応を促進する触媒としての役割を果たす。硬化促進剤としては、スズ化合物、金属塩、塩基などが上げられ、具体例としては、オクチル酸スズ、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、塩化スズ、オクチル酸鉄、オクチル酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、トリエチルアミン、トリエチレンジアミンなどが挙げられる。これらは、単独または組み合わせて用いることができる。
【0063】
アクリル系樹脂組成物には、必要に応じて、本発明による効果を妨げない範囲で、充填剤、チクソトロピー付与剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、熱伝導性改良剤、可塑剤、ダレ防止剤、防汚剤、防腐剤、殺菌剤、消泡剤、レベリング剤、硬化剤、増粘剤、顔料分散剤、シランカップリング剤等の各種の添加剤をさらに添加してもよい。
【0064】
次に、本発明のアクリル系樹脂組成物からなるアクリル系フィルムについて説明する。本発明のアクリル系フィルムは、上記アクリル系樹脂(a)及び硬化剤(b)を含むアクリル系樹脂組成物を塗工し、乾燥、硬化して得ることができるフィルムである。アクリル系フィルムは後述するように、ハードコート層として好適に用いることが可能であり、その場合、アクリル系フィルムの厚みは、特に限定はないが、成型性と耐久性の観点から5〜200μmであることが好ましく、さらに10〜100μmであることが好ましい。
【0065】
次に、本発明の加飾フィルムについて説明する。本発明の加飾フィルムは、本発明の樹脂組成物を硬化させたハードコート層と基材層とを含む積層体からなる。
【0066】
本発明の基材層は、ハードコート層や後述するその他の着色層や接着剤層などを支持する役割を果たす。
基材層は、支持体としての役割を果たすフィルムであれば、特に限定されず、公知のものを使用することができる。例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、アルミニウム箔、紙などが挙げられ、1種または複数種類が積層されたものを使用することができる。
特に、透明性、成型性の観点から、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルムであることが好ましい。これらのフィルムにおいても、単独で用いることも複数種類が積層されたものを用いることもでき、例えば、ポリカーボネート(PC)上にポリメチルメタクリレート(PMMA)が共押し出しされたPMMA/PCフィルムや、ポリカーボネートフィルムとポリエステルフィルムが接着剤でラミネートされたフィルムなどを用いることもできる。
なお、ポリカーボネートフィルムは成型性が良く、ポリエステルフィルムは耐溶剤性(有機溶剤、日焼け止めクリームなどに対して)が良く、ポリメチルメタクリレートフィルムは硬度が良いという特徴があるため、使用用途によりフィルムやその組み合わせを適宜選択して使用することができる。
【0067】
基材層のハードコート層と対向していない非対向面側には、剥離性フィルムを保護フィルムとして積層してもよい。特に、ポリカーボネート系基材は、傷付きやすいため使用直前まで保護フィルムにて裏側を保護しておくことが好ましい。
【0068】
基材層の厚みに特に限定はないが、成型性と耐久性の観点から、5〜1000μmであることが好ましく、さらに、10〜500μmであることが好ましく、さらには10〜400μmであることが好ましい。基材層は厚みの異なる複数種類の基材を組み合わせてもよく、その場合は組み合わせた各基材層の合計の厚みが5〜1000μmであることが好ましい。
【0069】
<加飾フィルムの製造方法>
本発明の加飾フィルムの製造方法の一例について説明するが、本発明の加飾フィルムの製造方法は、以下の方法に限定されないことは言うまでもない。
まず、上述したアクリル系フィルムを形成するためのアクリル系樹脂(a)と硬化剤(b)とを含む樹脂組成物(以下、塗料とも言う)を用意する。そして、前記樹脂組成物を塗工して塗工層を得、この塗工層の硬化塗膜を有する積層体を形成する工程を含む。
【0070】
塗料の塗工は、(α)積層体からなる加飾フィルムを構成するいずれかの層に塗料を塗工する方法と、(β)剥離フィルムに塗工する方法が例示できる。
【0071】
上記(α)の方法の一例として、基材層に塗工する例について説明する。まず、ハートコート層形成用の塗料を基材層の一方の面に塗工、硬化する。具体的には、基材層に本発明の塗料を塗工し、すぐに乾燥オーブン中に投入し、溶剤を揮発させる。溶剤が揮発したあと、エージングを行いアクリル系樹脂(a)中の官能基と硬化剤(b)中の金属キレート化合物及び/または金属アルコラート化合物とを反応させ硬化させてアクリル系フィルムを得ることができる。
【0072】
上記(β)の方法の一例として、接着剤を用いる例について説明する。まず、剥離性シート上に塗料を塗工し、乾燥オーブン中に投入し、溶剤を揮発させる。溶剤が揮発した後、エージングを行いアクリル系樹脂(a)中の官能基と硬化剤(b)中の金属キレート化合物及び/または金属アルコラート化合物とを反応させ、硬化塗膜(キャストフィルム)を得る。次いで、ラミネート用接着剤をキャストフィルム又は/および基材層に塗工し、ラミネート用接着剤が溶剤を含む場合はその溶剤を揮発させた後に、キャストフィルムと基材層をラミネートしてハートコート層と基材層とを有する加飾フィルムを得ることができる。剥離性シートはラミネートの前後で適宜剥離する。
【0073】
前記塗料を塗布する方法としては、上記いずれの方法に対しても公知の方法を用いることができる。具体的には、コンマコーティング、グラビアコーティング、リバースコーティング、ロールコーティング、リップコーティング、スプレーコーティングなど挙げることができる。
【0074】
前記塗料は、50〜200℃にて乾燥することが好ましく、70〜180℃で乾燥することがより好ましい。さらにオーブンを数段階のゾーンに区分けして、例えば、第一ゾーンは50℃、第二ゾーンは70℃、第三ゾーンは100℃等のように、低温から高温へ傾斜するようにオーブン温度を設定することが好ましい。オーブン中に滞留している時間は、通常1分から10分程度である。温度を固定したオーブンを数台用意し、其々の温度のオーブン中で数分間ずつ乾燥させる方法も取られることがある。
【0075】
乾燥後、通常は室温〜200℃程度の環境下、10分〜5日間程度、官能基と金属キレート化合物及び/または金属アルコラート化合物との反応を進行(エージング)させる。また、さらに硬化剤(c)など他の硬化剤も含有させる場合は、上記エージングとは別に、適宜追加でエージングさせることが好ましい。例えば、イソシアネート硬化剤やカルボジイミド硬化剤の場合は室温〜150℃程度の環境下、1日〜10日間程度のエージングが好ましく、アジリジン硬化剤やエポキシ硬化剤の場合は室温〜200℃程度の環境下、1分〜5日間程度のエージングが好ましい。エージング温度、時間は上記条件に限定されず、官能基量や硬化剤/官能基の比、また、硬化促進触媒の有無などにより適切な条件を適宜選択してよい。
【0076】
オーブンにて溶剤を乾燥し、取り出した積層体は、枚葉でエージングされる場合もあるし、ロール状に巻き取ってエージングされる場合もある。いずれの場合も、エージング前の塗膜にタックが残り、基材層の反対面と重なるとブロッキング現象を生じる場合がある。このようなブロッキング現象を防止するために、枚葉で積み重ねる際や、ロール状に巻き取る際に、塗膜にブロッキング防止用のセパレーターを積層しておくことができる。セパレーターとしては、離形処理を施したPETフィルムや、未延伸のプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム等が好適に用いられる。
【0077】
本発明の加飾フィルムは、後述するようにさらに接着剤層、着色層を設けることができる。接着剤層は、前述のように、アクリル系フィルムと基材層との間に設けアクリル系フィルムと基材層とを貼り合わせるために用いる他、複数の基材層を用いる場合や、着色層を用いる場合に、種々の層を貼り合せるためにも用いられる。
例えば、接着剤層を用いて第一の基材層と第二の基材層とを貼り合わせることができる。あるいは、基材層のアクリル系フィルム側とは反対側に接着剤層を設け、加飾フィルムと樹脂成型体等の被加飾体とを貼り合わせることもできる。
【0078】
接着剤層を構成する接着剤は特に限定されず、公知のものを使用することができ、例えば熱硬化型接着剤、感圧接着剤、ホットメルト接着剤などが挙げられ、1種類又は2種類以上併用して用いることができる。
これら接着剤を構成する成分は特に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン―酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、天然ゴムなどが挙げられ1種類又は2種類以上併用して用いることができる。
【0079】
接着剤層を設ける方法を説明する。接着剤層は、溶剤を含む接着剤を基材層やアクリル系フィルムに直接塗工・乾燥して設ける方法や、溶剤を含まない接着剤を熱で軟化させ、基材層やハードコート(HC)に塗工・冷却し設ける方法や、溶剤を含む、もしく含まない接着剤を剥離性シート上に上記方法で塗工し、接着性シートを設けた後、接着の対象物の間に前記接着性シートを挟む方法などにより設けることができる。接着剤層を設けた後に、さらにエージング処理を施してもよい。また、接着剤層の厚さは特に限定されず、接着力が確保できる厚みを任意に設定して設けることができるが、接着力、耐久性とのバランスから、1〜200μmの範囲であることが好ましい。
【0080】
前記接着剤を塗布する方法としては、公知の方法を用いることができ、具体的には、コンマコーティング、グラビアコーティング、リバースコーティング、ロールコーティング、リップコーティング、スプレーコーティングなど挙げることができる。
【0081】
本発明の加飾フィルムはさらに着色層を設けてもよい。着色層は、加飾フィルムに意匠性を持たせるために積層され、アクリル系フィルムと基材層との間、基材層のアクリル系フィルムと他方の面など、加飾成型体とした際に、最外層にならない位置であれば自由に設けることができる。また、本発明で言う着色とは、単一の色以外にも、絵・図柄、金属調、文字、模様など様々な装飾を含む意であり、異なる着色層を複数積層させてもよい。
【0082】
着色層を得る方法を説明する。着色層は着色塗料を基材層に塗工し乾燥して得る方法、基材層に塗工、乾燥、エージングを行い得る方法、基材層に塗工し光照射して得る方法、基材層に印刷し乾燥して得る方法、基材層に印刷し光照射を行い得る方法、基材層に金属を蒸着して得る方法などが挙げられる。着色層の厚さは、意図した色、柄などが認識できる厚みであれば特に限定されないが、成型性の観点から500μm以下であることが好ましい。
【0083】
前記着色層を基材上に設ける方法としては、公知の方法を用いることができ、具体的には、コンマコーティング、グラビアコーティング、リバースコーティング、ロールコーティング、リップコーティング、スプレーコーティング、シルクスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、蒸着など挙げることができる。
【0084】
本発明の加飾フィルムは、真空成型、圧空成型、TOM成型、射出成型、インモールド成型、プレス成型、スタンピング成型など様々な成型方法で加飾成型体を作製することができる。
加飾フィルム製造時のブロッキング防止、傷付防止、成型時の傷付防止、金型跡防止、成型後加飾成型体が使用に供されまでの汚れ防止の点から、アクリル系フィルム上に剥離可能な保護フィルムをアクリル系フィルム上にさらに設けることができる。
また、接着剤層を用いて、被加飾対象である被加飾体に加飾フィルムを貼り付ける場合は、ブロッキング防止の観点から、加飾フィルムの内側に設けられる接着剤層上に剥離可能な保護フィルムをさらに設けることもできる。
【0085】
本発明で用いることのできる保護フィルムは特に限定されず、公知のプラスチックフィルム、紙フィルムを適宜選択して用いることができる。保護フィルムとして用いることのできるフィルムとして、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、アルミニウム箔、紙などが挙げられるが、限定されるものではなく、1種または複数種類が積層されたものを使用することができる。また、保護フィルムは上記プラスチックフィルム上に、剥離処理、または、粘着処理が施されていてもよい。
【0086】
本発明の加飾フィルムに保護フィルムを設ける方法としては、基材層に塗液を塗布、乾燥させて、アクリル系フィルムや接着剤層を設けた際に、保護フィルムを貼り合わせる方法や、保護フィルム上に塗液を塗布、乾燥、必要に応じてエージングを行いアクリル系フィルムや接着剤層を設けた後に、基材層や加飾フィルムと貼り合わせる方法などが挙げられる。なお、アクリル系フィルムを先に保護フィルム上に設けた場合は、必要に応じて接着剤を用いて貼り合わせてもよい。
【0087】
本発明の加飾フィルムには様々な態様がある。その態様の具体例を図に基づいて説明する。
図1に、アクリル系フィルム10と基材層1の2層構成からなる加飾フィルム101を示す。
図2に、アクリル系フィルム10と2層の第一基材層1a、第二基材層1bの積層体からなる加飾フィルム102を示す。第一の基材層1a、第二基材層1bは、例えば共押出しで設けることができる。
図3に、アクリル系フィルム10と基材層1との間に接着剤層2が挟持された加飾フィルム103を示す。
図4に、アクリル系フィルム10と基材層1とを有し、基材層1のアクリル系フィルム10との非対向側に着色層3を有する加飾フィルム104を示す。
図5に、アクリル系フィルム10と基材層1と着色層3とを有し、アクリル系フィルム2と基材層1との間に着色層3が挟持された積層体からなる加飾フィルム105を示す。
図6に、アクリル系フィルム10と基材層1と接着剤層2と着色層3を有し、アクリル系フィルム10と基材層1との間に接着剤層2が挟持され、基材層1の接着剤層2との非対向面側に着色層3を有する加飾フィルム106を示す。
図7に、アクリル系フィルム10と第一の基材層1a、第二の基材層1bと第一の接着剤層2aと第二の接着剤層2bとを有し、第一の接着剤層2aがアクリル系フィルム10と第一の基材層1aとの間に、第二の接着剤層2bが第一の基材層1aと第二の基材層1bに位置する加飾フィルム107を示す。
図8に、アクリル系フィルム10と基材層1と着色層3と接着剤層2とを有し、基材層1の反対側(アクリル系フィルムとの非対向面側)に着色層3が位置し、アクリル系フィルム10と接着剤層2とがそれぞれ表面に位置する加飾フィルム108の態様を示す。
【0088】
<加飾成型体>
本発明の加飾成型体とは、前記加飾フィルムで表面が覆われた成型体等の被加飾体であり、被覆される被加飾体の素材に特に限定はなく、公知の素材を使用することができる。
被加飾体として用いることのできる素材の例として、木材、紙、金属、プラスチック、繊維強化プラスチック、ゴム、ガラス、鉱物、粘土などあげることができ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル、ポリテトラフルオロロエチレンなどが挙げられ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
繊維強化プラスチックとしては、例えば、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック、ポリエチレン繊維強化プラスチックなどが挙げられ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
金属としては、例えば、熱延鋼、冷延鋼、亜鉛メッキ鋼、電気亜鉛めっき鋼、溶融亜鉛めっき鋼、合金化溶融亜鉛めっき鋼、亜鉛合金めっき鋼、銅めっき鋼、亜鉛―ニッケルめっき鋼、亜鉛―アルミめっき鋼、鉄−亜鉛メッキ鋼、アルミメッキ鋼、アルミニウム−亜鉛メッキ鋼、スズめっき鋼等、アルミ、ステンレス鋼、銅、アルミ合金、電磁鋼などが挙げられ、1種類又は2種類以上組み合わせて使用することができる。また、金属の表面に防剤層などが設けられていてもよい。
【0089】
本発明の加飾フィルムと被加飾体と一体化する方法に特に限定はなく、公知の一体化方法で一体化させることができる。一体化方法として、例えば、インサート成型、インモールド成型、真空成型、圧空成型、TOM成型、プレス成型などを用いることができる。
【0090】
例えば、本発明の加飾フィルムを所望の形状に予備成型した後、アクリル系フィルム側が最外層になるように、プラスチックや繊維強化プラスチックを射出成型し、加飾成型体を得ることもできる。
あるいは、プラスチック、繊維強化プラスチック、金属から成型体を得ておき、該成型体の表面に、本発明の加飾フィルムを、もしくは加飾フィルム所望の形状に予備成型した予備成型体を、アクリル系フィルム側が最外層になるように貼り付け、得ることもできる。
【0091】
本発明の加飾成型体は、前記加飾フィルムのアクリル系フィルム側が最外層に位置する。前述のように、加飾フィルムのアクリル系フィルムは塗工、乾燥、エージング、成型一体化などの各工程で生じうる、外観不良を保護するための保護フィルムが設けられていてもよいが、得られた加飾成型体が使用される場面においては、前記保護フィルムは剥離されていることが好ましい。
【0092】
本発明の加飾フィルムを用いて製造した加飾成型体は、金属調やピアノブラック調のインパネデコレーションパネルや、シフトゲートパネル、ドアトリム、エアコン操作パネル、カーナビゲーション等の自動車の内装部品として、あるいは自動車前後部のエンブレムや、タイヤホイールのセンターオーナメント、ネームプレート等の外装部品として用いられる。
また、自動車内外部品以外に、家電、スマートキー、スマートフォンや携帯電話、ノートパソコン等の外装材に限らず、ヘルメットやスーツケース等の外装材料、カーナビゲーションシステムや液晶テレビ等の液晶画面を保護する保護シート、蓄電デバイス等の外装材、テニスラケットやゴルフシャフトなどのスポーツ用品、住宅用のドアやパーテーション、壁材等の建材等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、実施例中、部は質量部を、%は質量%をそれぞれ示す。
【0094】
合成例A−1「アクリル系樹脂(a)A−1溶液」
冷却管、撹拌装置、温度計、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、メチルイソブチルケトン(MIBK)を150部仕込み、窒素雰囲気下で攪拌しながら昇温した。フラスコ内の温度が78℃になったらこの温度を合成温度として維持し、メタクリル酸アダマンチル74部、メタクリル酸メチル25.75部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル0.25部、アゾビスイソブチロニトリル0.5部を混合したモノマー溶液を2時間掛けて滴下した。モノマー滴下終了1時間後から1時間毎に、アゾビスイソブチロニトリルを0.02部ずつ加えて反応を続け、溶液中の未反応モノマーが1%以下になるまで反応を続けた。未反応モノマーが1%以下になったら冷却して反応を終了し、固形分約40%のアクリル系樹脂(a)A−1溶液を得た。アクリル系樹脂(a)A−1は、ガラス転移温度:200℃、水酸基価:1mgKOH/g、質量平均分子量:110,000であった。
固形分、ガラス転移温度(Tg)、酸価、水酸基価、質量平均分子量(Mw)は、下記に記述する方法により測定・算出した。
【0095】
《固形分の測定》
直径55mm、深さ15mmの蓋付きアルミ皿の質量を、小数点以下4桁まで測定する。アルミ皿に樹脂溶液を約1.5g採取し、直ちに蓋をして素早く正確に質量を測定する。蓋を外した状態で、200℃のオーブンに入れて10分間乾燥させる。室温まで冷却してから、アルミ皿と蓋の質量を測定し、下記式で固形分を算出する。
固形分(%)=(乾燥後の質量−アルミ皿の質量)÷(乾燥前の質量−アルミ皿の質量)×100
【0096】
《ガラス転移温度(Tg)の測定》
溶剤を乾燥させ、固形分100%とし、得た樹脂約10mgのサンプルを入れたアルミニウムパンと、試料を入れていないアルミニウムパンとを示差走査熱量分析(DSC)装置にセットし、これを窒素気流中で液体窒素を用いて、予測されるガラス転移温度よりマイナス50℃の温度まで冷却処理し、その後、昇温速度10℃/分で、予測されるガラス転移温度よりプラス50℃の温度まで昇温してDSC曲線をプロットする。このDSC曲線の低温側のベースライン(試験片に転移および反応を生じない温度領域のDSC曲線部分)を高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点から、補外ガラス転移開始温度(Tig)を求め、これをガラス転移温度とした。
【0097】
《酸価(AV)の測定》
共栓付き三角フラスコ中に樹脂溶液を約1g精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液50mLを加えて溶解する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間保持する。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1mol/Lアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。酸価は次式により求めた。酸価は樹脂の乾燥状態の数値とした。
酸価(mgKOH/g)=(a×F×56.1×0.1)/S
S:試料の採取量×(試料の固形分/100)(g)
a:0.1mol/Lアルコール性水酸化カリウム溶液の滴定量(mL)
F:0.1mol/Lアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0098】
《水酸基価(OHV)の測定》
共栓付き三角フラスコ中に樹脂溶液を約1g精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液50mLを加えて溶解する。更にアセチル化剤(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mLとした溶液)を正確に5mL加え、100℃に加熱して約1時間攪拌する。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間持続する。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.5mol/Lアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。別途、空試験として、トルエン/エタノール混合液のみにアセチル化剤を加えて、100℃1時間加熱した溶液について、0.5mol/Lアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。水酸基価は次式により求めた。水酸基価は樹脂の乾燥状態の数値とした。
水酸基価(mgKOH/g)={(b−a)×F×56.1×0.5}/S+D
S:試料の採取量×(試料の固形分/100)(g)
a:0.5mol/Lアルコール性水酸化カリウム溶液の滴定量(mL)
b:空実験の0.5mol/Lアルコール性水酸化カリウム溶液の滴定量(mL)
F:0.5mol/Lアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
D:酸価(mgKOH/g)
【0099】
《アセトアセチル当量(AA当量)の計算》
アセトアセチル基を有するモノマーの合成時仕込量から、以下の計算式より算出した。
AA当量=(WAA/MAA)/WALL
AA:アセトアセチル基を有するモノマーの仕込量(g)
AA:アセトアセチル基を有するモノマーの分子量(g/mol)
ALL:仕込モノマーの全量(g)
【0100】
《数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)の測定》
昭和電工社製ShodexGPC−104/101システムを用いて測定した。
カラムShodexKF−805L+KF−803L+KF−802
検出器示差屈折率計(RI)
カラム温度40℃
溶離液テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/min
試料濃度:0.2%
検量線用標準試料TSK標準ポリスチレン
【0101】
*合成例A−2〜A−19「アクリル系樹脂(a)A−2〜A−19溶液」
表1の組成に従って反応を行い、アクリル系樹脂(a)A−2〜A−19溶液を得た。ガラス転移温度、酸価、水酸基価、AA当量、質量平均分子量を表1に示す。なお、固形分はすべて40%となるよう調整した。また、表中の記号は以下のとおりである。
ADMA:メタクリル酸アダマンチル
MMA:メタクリル酸メチル
EMA:メタクリル酸エチル
nBMA:メタクリル酸n−ブチル
LMA:メタクリル酸ラウリル
HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
MAA:メタクリル酸
AAEM:メタクリル酸2−アセトアセトキシエチル
【0102】
*比較例用合成例B−1「アクリル系樹脂B−1溶液」
撹拌機、温度計、還流冷却機、窒素流入口及び滴下ロートを取り付けた四つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、PM)99.8部を仕込み、窒素ガスを流入し撹拌しながら80℃まで昇温させた。次いで、メタクリル酸エチル(以下、EMA)30部、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート(以下、AAEM)69.8部、AIBN0.6部からなる混合液を滴下ロートから2時間掛けて滴下し、窒素雰囲気下で0℃12時間反応させ、樹脂分50%のアクリル系樹脂B−1溶液を得た。アクリル系樹脂B−1は、ガラス転移温度:24℃、AA当量:330×10−5mol/g、質量平均分子量:62,000であった。
【0103】
*比較例用合成例B−2〜3「アクリル系樹脂B−2〜3溶液」
表1に示す組成で、実施例用合成例A−1と同様の方法にて合成を行い、アクリル系樹脂B−2〜B−3溶液を得た。ガラス転移温度、酸価、水酸基価、AA当量、質量平均分子量を表1に示す。なお、固形分はすべて40%となるよう調整した。
【0104】
[実施例1]
アクリル系樹脂(a)(A−1)100質量部(固形分)を含む合成例A−1で得られたアクリル系樹脂(a)(A−1)溶液に、金属アルコラート化合物として「TA−10」(マツモトファインケミカル社製、テトライソプロピルチタネート)0.43質量部(固形質量)を加え、さらに固形分が30%となるようにアセチルアセトン(ACAC)を加えて撹拌し、ハードコート用塗料(HC−1)を得た。
【0105】
ドクターブレードを用いて、ハードコート用塗料(HC−1)を、剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの剥離面に塗布し、100℃のオーブン中で1分間、さらに140℃のオーブン中で1分間乾燥して溶剤類を揮発させた。乾燥後の膜厚が50μmとなるようにドクターブレードを選択した。次いで140℃の恒温室に20分間放置してアクリル系樹脂(a)と金属アルコラート化合物との反応を進行(エージング)させて、PETフィルム上に硬化塗膜を形成した。
得られた硬化塗膜について、後述する方法に従い、伸長性を評価した。結果を表2に示す。
【0106】
別途、剥離処理を施したPETフィルムの代わりにポリカーボネート(PC)フィルムを用い、乾燥後の膜厚が20μmとなるようにドクターブレードを選択した以外は、PETフィルム上に硬化塗膜を設けるのと同様にして、PCフィルム上に硬化塗膜を形成した。
得られた硬化塗膜について、後述する方法に従い、鉛筆硬度、耐薬品性、耐日焼止クリーム性を評価した。結果を表2に示す。
【0107】
《伸長性の評価》
剥離処理を施したPETフィルム上に設けたアクリル系フィルムを単離し、以下の条件で引張試験を行った。
引張試験機:「卓上形精密万能試験機AGS−X」(島津製作所製)
加熱炉:「恒温槽TCE−N300」(島津製作所製)
試料幅:10mm
温度:160℃
引張速度:1mm/min
チャック間距離:10mm
アクリル系フィルムが破断時の伸び率から、以下の基準で評価を行った。
◎:伸び率400%以上
〇:伸び率300%以上、400%未満
△:伸び率200%以上、300%未満
×:伸び率200%未満
なお、アクリル系フィルム破断時のチャック間距離が20mmの場合、伸び率100%と計算する。(10mmのアクリル系フィルムがさらに10mm伸びたこととなる。)
【0108】
《鉛筆硬度の評価》
アクリル系フィルムの表面硬度として、鉛筆硬度を測定した。
雰囲気温度23℃の恒温室内で、80mm×60mmに切り出したPCフィルム上に設けたアクリル系樹脂層側表面に対して、円筒状の鉛筆の芯の先端を平らに削った先端部を45度の角度に保って、750gの荷重をかけた状態で線を引き、表面の傷付きを評価した。例えば、Hの鉛筆で5本の線を引き、5本の内2本以内に傷が付いているものを鉛筆硬度Hと表す。5本の内3本傷が付いた場合は、Fの鉛筆で再度試験を行い、傷が2本以内になる鉛筆の硬度で表す。
【0109】
《耐薬品性の評価》
PCフィルム上に設けたアクリル系樹脂層側表面に、メタノール、トルエン、アセトンの各有機溶剤をそれぞれ染み込ませた脱脂綿を4.9Nの荷重をかけて10往復ラビング後、硬化膜表面を目視にて観察し、変化がなければさらに90往復ラビングした。10往復、100往復ラビング後それぞれの硬化膜表面の変化を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
◎:100往復ラビング後でも表面変化がない。
○:10往復ラビング後は表面変化がないが、100往復ラビング後は表面変化がある。
×:10往復ラビング後、表面変化がある。
【0110】
《耐日焼止クリーム性の評価》
PCフィルム上に設けたアクリル系樹脂層側表面に、日焼け止めクリーム(NeutrogenaUltraSheerDRY−TOUCHSUNSCREENSPF55(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製))を0.5g塗布し、上からガラスの板をせる。ガラス板の上に荷重500gをさらに載せて、日焼け止めクリームが広がるに任せた状態で、80℃24時間放置した。放置後、日焼け止めクリームを水で洗い流し水気を取った後、日焼け止めクリームを滴下した部分を中心にした直径3cmの円の範囲の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
4:アクリル系フィルム、基材層ともに皺の発生や変色などの外観不良が見られない。
3:アクリル系フィルムの一部(面積の10%以下)が基材層から浮いているが、基材層の変色は見られない。
2:アクリル系フィルムの一部(面積の10%以下)が基材層から浮き、さらに基材層の変色も見られる。
1:面積の10%を超える範囲のアクリル系フィルムが基材層から浮いている、または面積の10%を超える範囲で基材層の変色が見られる。
【0111】
[実施例2〜17]、[参考例18〜19]
実施例1と同様にして表2に示す割合で調整したハードコート用塗料を得た後、実施例1と同様にしてフィルム上に硬化塗膜を形成した。得られた硬化塗膜について、実施例1と同様の方法で伸長性、鉛筆硬度、耐日焼止クリーム性を評価した。結果を表2に示す。
なお、表2にある実施例18〜19は参考例18〜19の意である。
【0112】
[実施例20]
アクリル系樹脂(a)(A−6)100質量部(固形分)を含む合成例A−6で得られたアクリル系樹脂(a)(A−6)溶液に、金属アルコラート化合物として「AIPD」(川研ファインケミカル社製、アルミニウムイソプロピレート)6.6質量部(固形質量)、イソシアネート硬化剤として「デュラネートMHG−80B」(旭化成社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体溶液)2.4質量部、さらに固形分が30%となるようにアセチルアセトン(ACAC)を加えて撹拌し、ハードコート用塗料(HC−20)を得た。
前記ハードコート用塗料(HC−20)を、剥離処理を施したPETフィルム上、PCフィルム上にそれぞれ塗工し、100℃のオーブン中で1分間、さらに140℃のオーブン中で1分間乾燥して溶剤類を揮発させた。
なお、ドクターブレードは、剥離処理を施したPETフィルムに塗工する場合は、乾燥後の膜厚が50μmとなるように、PCフィルムに塗工する場合は、乾燥後の膜厚が膜厚が20μmとなるように選択した。
次いで140℃の恒温室に20分間、さらに50℃の恒温室に4日間放置してアクリル系樹脂(a)と金属アルコラート化合物、イソシアネート化合物との反応を進行(エージング)させて、フィルム上に硬化塗膜を形成した。
得られた硬化塗膜について、実施例1と同様の方法で伸長性、鉛筆硬度、耐日焼止クリーム性を評価した。結果を表3に示す。
【0113】
[実施例21〜35]
実施例20と同様にして表3に示す割合で調整したハードコート用塗料を得た後、実施例1と同様にしてフィルム上に硬化塗膜を形成した。得られた硬化塗膜について、実施例1と同様の方法で伸長性、鉛筆硬度、耐日焼止クリーム性を評価した。結果を表3に示す。
【0114】
[比較例1]
アクリル系樹脂(B−1)100質量部(固形分)を含む合成例B−1で得られたアクリル系樹脂(a)(A−6)溶液に、金属キレート化合物として「アルミキレートD」(川研ファインケミカル社製、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、76%プロパノール溶液)82.7質量部(固形質量)、さらに固形分が25%となるようにアセチルアセトン(ACAC)を加えて撹拌し、ハードコート用塗料(HC−1’)を得た。
ドクターブレードを用いて、ハードコート用塗料(HC−1’)をポリカーボネート(PC)フィルムの剥離面、及び剥離処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに塗布し、150℃のオーブン中で3分間乾燥して溶剤類を揮発及び硬化させ硬化塗膜を得た。なお、乾燥後の膜厚が20μm(PCフィルム塗布)、50μm(PETフィルム塗布)となるようにドクターブレードを選択した。
得られた硬化塗膜について、実施例1と同様の方法で伸長性、鉛筆硬度、耐薬品性、耐日焼止クリーム性を評価した。結果を表4に示す。
【0115】
[比較例2〜4]
比較例1と同様にして表4に示す割合で調整したハードコート用塗料(固形分30%)を得た後、比較例1と同様にしてフィルム上に硬化塗膜を形成した。得られた硬化塗膜について、実施例1と同様の方法で伸長性、鉛筆硬度、耐日焼止クリーム性を評価した。結果を表4に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
表2に示す通り、実施例1〜19は、適切なアクリル系樹脂(a)と、金属キレート化合物、および金属アルコラート化合物からなる群より選択される硬化剤(b)との硬化物であるアクリル系フィルムは、伸長性、鉛筆硬度、耐日焼け止めクリーム性に優れる。また、表3に示す通り、実施例20〜35は、硬化剤(c)をさらに含むので耐日焼止クリーム性がさらに優れる。
【0121】
一方、表4に示すように、比較例1はアクリル系樹脂(a)の質量平均分子量が小さいので分子鎖間の絡み合いが減少し、伸長性、耐日焼止クリーム性に劣る。
比較例2は、アクリル系樹脂(a)の質量平均分子量が大きすぎるため硬化剤配合時の増粘が激しく、塗工不良が生じた。
比較例3はアクリル系樹脂(a)に水酸基、カルボキシル基、およびアセトアセチル基から選択される官能基が組み込まれていないため、硬化剤(b)との架橋が進行せず、耐日焼止クリーム性に劣る。
比較例4は硬化剤(b)が含有されていないため、架橋が進行せず、耐日焼止クリーム性に劣る。
【符号の説明】
【0122】
101〜108:加飾フィルム
10:アクリル系フィルム
1:基材層
1a:第一の基材層
1b:第二の基材層
2:接着剤層
2a:第一の接着剤層
2b:第二の接着剤層
3:着色層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8