(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂基材が、ウレタン系ゴム、ポリイミド系ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、プロロピレンゴム、ブタジエンゴムから成る群から選ばれるいずれかである請求項1記載の転写装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ダイヤモンドライクカーボン被覆層を有さないクリーニングブレードを具える場合と比べて、表面粗さRzが0.05以上0.15μm以下の範囲である無端状ベルトに対する清掃不良の発生が生じにくい、転写装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[転写装置]
請求項1に係る本発明は、表面粗さRzが0.05以上0.15μm以下である無端状のベルトと
前記ベルトを清掃するクリーニングブレードであって、板状の樹脂基材と、前記樹脂基材の少なくとも一つの辺部を覆う被覆層とを有し、前記被覆層には、前記樹脂基材との界面側に形成され、ダイヤモンドライクカーボンと、窒化チタン、シリコンチタン、タングステンチタン、炭化チタン及び炭窒化チタンから成る群から選ばれる少なくとも一つとを含有する繋ぎ層と、前記繋ぎ層を覆いダイヤモンドライクカーボンからなる表面層とが形成されている、前記クリーニングブレードと、
を具えた転写装置である。
【0007】
請求項2に係る本発明は、前記樹脂基材が、ウレタン系ゴム、ポリイミド系ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、プロロピレンゴム、ブタジエンゴムから成る群から選ばれるいずれかである請求項1記載の転写装置である。
【0008】
請求項3に係る本発明は、前記樹脂基材と前記被覆層との界面においては、前記樹脂基材及び前記被覆層の構成材料が混在した領域が形成されている、請求項1又は2記載の転写装置である。
【0009】
請求項4に係る本発明は、前記表面層の厚みが0.05μm以上0.3μm以下である、請求項1から3記載の転写装置である。
【0010】
請求項5に係る本発明は、前記表面層のビッカース硬度が1500Hv以上である、請求項1から4記載の転写装置である。
【0011】
[画像形成装置]
請求項6に係る本発明は、請求項1から5いずれか記載の転写装置を具えた、画像形成装置である。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明よれば、表面粗さRzが0.05以上0.15μm以下の範囲である無端状ベルトに対する清掃不良の発生が、被覆層を有さないクリーニングブレードを具える場合よりも、生じにくい転写装置が得られる。
【0013】
請求項2に係る本発明よれば、請求項1の効果に加えてウレタン系ゴム、ポリイミド系ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、プロロピレンゴム、ブタジエンゴムから成る群から選ばれるいずれかである場合に適用可能となる。
【0014】
請求項3に係る本発明よれば、請求項1又は2の効果に加えて、樹脂基材と被覆層の構成材料との混在領域を設けないクリーニングブレードを具える場合と比べて、クリーニングブレードの被覆層が更に剥がれにくい転写装置が得られる。
【0015】
請求項4に係る本発明によれば、請求項1から3いずれかの効果に加えて、クリーニングブレードの被覆層の剥がれにくさと耐摩耗性が両立された転写装置が得られる。
【0016】
請求項5に係る本発明によれば、請求項1から4いずれかの効果に加えて、クリーニングブレードの表面層のビッカース硬度が1500Hv未満である場合と比べて、クリーニングブレードの耐摩耗性が高い転写装置が得られる。
【0017】
請求項6に係る本発明によれば、転写装置が被覆層を有さないクリーニングブレードを具える場合と比べて、表面粗さRzが0.05以上0.15μm以下の範囲である無端状ベルトに対する清掃不良の発生が生じにくい、画像形成装置が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
画像形成装置においては、像保持体や中間転写ベルト等に残留した現像剤を清掃するためにクリーニング装置が設けられている。このクリーニング装置の例として、基材としてポリウレタンゴム等の樹脂を用いた弾性を有するクリーニングブレードがある。
【0020】
このようなクリーニングブレードは、被接触部材に角部(エッジ)が接触するよう設置され、摺擦によりエッジで現像剤を掻き落とすことで、クリーニング装置として機能する。
【0021】
以下、本実施形態に係るクリーニングブレードについて説明する。本実施形態に係るクリーニングブレードは、ブレード基材とその表面を覆う被覆層と、を具えている。
【0022】
ブレード基材は板状の樹脂基材から成り、ダイヤモンドライクカーボンを主成分とする被覆層によって、少なくとも一辺を覆うように被覆されている。この被覆された一辺は、画像形成装置内に設置される際に、クリーニング対象であるベルトと当接することになる部分に相当する。
【0023】
被覆層で被覆されていないブレード基材単体は、従来型の弾性ブレードに相当し、この被覆層は、その硬さと低摩擦係数から、クリーニング対象との接触部における耐摩耗性及び低摩擦性を向上させるものである。すなわち、ブレード基材が直接ベルトと接する態様と比べて、ベルトとの摺動によって生じる摩耗への耐性が向上し、かつ、ベルトとの摩擦の軽減化が図られる。
【0024】
耐摩耗性の向上はクリーニングブレードの長寿命化に寄与するものであり、低摩擦性の向上は、クリーニング性能の向上に寄与する。
【0025】
ブレード基材を構成する樹脂基材としては、非金属製のクリーニングブレードとして一般的に用いられている各種弾性基材を採用可能であり、例えば、ポリウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、プロロピレンゴム、ブタジエンゴム等の、可撓性及び形状復元性を有することが知られている、いわゆるゴム材が挙げられる。
【0026】
ゴム材の物性としては、JIS−Aの硬度70〜85程度であることが好ましい。
【0027】
被覆層は、板状である樹脂基材の少なくとも一辺を覆うように形成されており、主としてダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜から成るが、基材との界面側には、樹脂基材と被覆層との密着性をより強固にするための繋ぎ層を有している。
【0028】
繋ぎ層は、被覆層の主成分であるDLCに加えて、アンカー材として窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン、シリコンチタン、窒化クロム、炭化タングステン、炭化ケイ素、タングステンチタンの少なくともいずれかを含んでいる。
【0029】
繋ぎ層を覆うことになるDLCから成る表面層は、その厚みを0.05μm以上0.3μm以下とすること好ましい。膜厚が厚くなる程、被覆膜が弾性変形する基材の動きに追従しきれず、膜剥がれが生じやすくなってしまう。また、膜厚が薄すぎると、ブレード材の表面の摩擦係数を低減させるという、DLC膜を設けることの目的である効果が十分に得られない。
【0030】
被覆膜の形成方法としてはDLCを基材表面に成膜する方法として一般的な手法である、各種蒸着法(PVD:物理気相成長法、CVD:化学気相成長法)を用いることができる。
【0031】
例えば、マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、高周波プラズマCVD法、有磁場プラズマCVD法、イオンビーム・スパッタ法、イオンビーム蒸着法、反応性プラズマ・スパッタ法、アンバランスドマグネトロンスパッタ法等により形成される。
【0032】
このとき用いることができる原料ガスは、含炭素ガスであり、例えば、メタン、エタン、プロパン、エチレン、ベンゼン、アセチレン等の炭化水素ガス、塩化メチレン、四塩化炭素、クロロホルム、トリクロルエタン等のハロゲン化炭素、メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール類、アセトン、ジフェニルケトン等のケトン類、一酸化炭素、二酸化炭素等のガス、及び、これらのガスにN
2、H
2、O
2、H
2O、Ar等を混合したものが挙げられる。
【0033】
なお、各種蒸着法の中でも、アークプラズマ源を用いたイオンビーム蒸着法である、フィルター型カソーディック真空アーク(FCVA:Filtered Cathodic Vacuum Arc)方式を用いて、形成することが好ましい。
【0034】
PVD法の一種であるFCVAでは、固体の炭素源から直接的に炭素を取り出すため、炭素源として炭化水素ガスを用いるプラズマCVD法等と比較し、水素含有量の少ないDLC膜が得られる。そのため、FCVA法によって形成されたDLC膜は、より耐摩耗性に優れ、かつ、摩擦係数が低い物性が得られる。
【0035】
繋ぎ層は、炭素とアンカー材が一定の比率で分散した状態とするよりも、被覆層の成長方向(基材との界面側ら表面層に向かう方向)に進むにつれて、アンカー材の割合が徐々に下がっていくように形成されていることが好ましい。なお、アンカー材の比率がゼロになって以降のアンカー材を含まない部分が、被覆層の表面層に相当し、ダイヤモンドライクカーボンから成る表面層のビッカース硬度は1500Hv以上となる。
【0036】
従って、特に繋ぎ層については、FCVA方式を用いて形成することが好ましい。FCVA方式を用いることで、炭素源のガスと、各イオン源(チタン源・クロム源・タングステン源・ケイ素源)となるガスの混合比率の調整を精密に行いながら成膜することができる。
【0037】
イオン源ガスを注入することにより、基材成分(窒素やケイ素)、あるいは、炭素と各イオンが結合することで、繋ぎ層の構成成分として上述した、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン、シリコンチタン、窒化クロム、炭化ケイ素、タングステンチタン、炭化タングステン、等が形成される。
【0038】
ブレード基材の樹脂とDLC膜とでは、材質の違いに起因するモジュラス硬度の差がある。モジュラス硬度の差が大きい程、弾性変形を繰り返すことによる被覆層の剥がれやすさつながると考えられることから、ブレード基材と被覆層(繋ぎ層)との界面には、窒化チタンやシリコンチタン、炭窒化チタン、または、タングステンチタンが形成されてブレード基材の樹脂成分(窒素やケイ素)とチタンやタングステンが混在した状態となっている混在領域が存在していることが好ましい。混在領域が存在することで、樹脂から被覆層にかけてのモジュラス硬度の段差が緩やかなものとなり、被覆層がブレード基材からより剥がれにくくなる。
【実施例1】
【0039】
[クリーニングブレード]
初めに、以下の様にしてブレード基材を作成した。ポリカプロラクトンポリオール(ダイセル化学工業(株)製、プラクセル205、平均分子量529、水酸基価212KOHmg/g)およびポリカプロラクトンポリオール(ダイセル化学工業(株)製、プラクセル240、平均分子量4155、水酸基価27KOHmg/g)と、をポリオール成分のソフトセグメント材料として用いた。また、2つ以上のヒドロキシル基を含むアクリル樹脂(綜研化学社製、アクトフローUMB−2005B)をハードセグメント材料として用い、上記ソフトセグメント材料およびハードセグメント材料を8:2(質量比)の割合で混合した。
【0040】
次に、このソフトセグメント材料とハードセグメント材料との混合物100部に対して、イソシアネート化合物として4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(日本ポリウレタン工業(株)製、ミリオネートMT)を6.26部加えて、窒素雰囲気下で70℃で3時間反応させた。尚、この反応で使用したイソシアネート化合物量は、反応系に含まれる水酸基に対するイソシアネート基の比(イソシアネート基/水酸基)が0.5となるよう選択したものである。
【0041】
続いて、上記イソシアネート化合物を更に34.3部加え、窒素雰囲気下で70℃で3時間反応させて、プレポリマーを得た。尚、プレポリマーの使用に際して利用したイソシアネート化合物の全量は40.56部であった。
【0042】
次に、このプレポリマーを100℃に昇温し、減圧下で1時間脱泡した。その後、プレポリマー100部に対して、1,4−ブタンジオールとトリメチロールプロパンとの混合物(質量比=60/40)を7.14部加え、3分間泡を巻きこまないよう混合し、基材形成用組成物を調製した。
【0043】
次いで、140℃に金型を調整した遠心成形機に上記基材形成用組成物を流し込み、1時間硬化反応させた。次いで、110℃で24時間熟成加熱し、冷却した後切断して、長さ320mm、幅12mm、厚さ2mmの基材Aを得た。
【0044】
続いて、得られた基材Aに対して、FCVA方式により被覆層を形成した。被覆層としてのDLC膜は、元素源として炭素のみを用いた場合は炭素のみから成る純粋なDLC膜となるが、本実施例においては、成膜処理の初期に、アンカー材としてのチタン源となるガスを炭素の気化ガスに混合することで、基材と繋ぎ層との界面に混在領域が存在する繋ぎ層を形成することで、本実施例に係るクリーニングブレードを作製した。
【0045】
繋ぎ層の組成について、X線光電子分光分析器で確認したところ、表面層の厚みは200nm、繋ぎ層の厚みは133nmであった。また、繋ぎ層に含有されるチタンの原子数濃度のピークは7%であること、及び、基材と被覆層との界面領域において、基材成分とチタン・炭素とが混在していることが確認された。
【0046】
以上の様にして得られたクリーニングブレードを、光源入射角60°における鏡面光沢度Gs(60°)が135である無端状ベルトと共に、市販の画像形成装置(富士ゼロックス製 ApeosIV−5575)に設置することで、実施例1に係る画像形成装置を準備した。
【実施例2】
【0047】
無端状ベルトを、Gs(60°)が129であるものとした点以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る画像形成装置を準備した。
【実施例3】
【0048】
無端状ベルトを、Gs(60°)が123であるものとした点以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る画像形成装置を準備した。
【実施例4】
【0049】
無端状ベルトを、Gs(60°)が118であるものとした点以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る画像形成装置を準備した。
【実施例5】
【0050】
無端状ベルトを、Gs(60°)が110であるものとした点以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る画像形成装置を準備した。
【0051】
被覆層を形成していない基材Aそのものをクリーニングブレードとして画像形成装置に設置した点以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る画像形成装置を準備した。
【0052】
被覆層を形成していない基材Aそのものをクリーニングブレードとして画像形成装置に設置した点以外は、実施例2と同様にして比較例2に係る画像形成装置を準備した。
【0053】
被覆層を形成していない基材Aそのものをクリーニングブレードとして画像形成装置に設置した点以外は、実施例3と同様にして比較例3に係る画像形成装置を準備した。
【0054】
被覆層を形成していない基材Aそのものをクリーニングブレードとして画像形成装置に設置した点以外は、実施例4と同様にして比較例4に係る画像形成装置を準備した。
【0055】
被覆層を形成していない基材Aそのものをクリーニングブレードとして画像形成装置に設置した点以外は、実施例5と同様にして比較例5に係る画像形成装置を準備した。
【0056】
無端状ベルトを、Gs(60°)が103であるものとした点以外は、実施例1と同様にして比較例6に係る画像形成装置を準備した。
【0057】
被覆層を形成していない基材Aそのものをクリーニングブレードとして画像形成装置に設置した点以外は、比較例6と同様にして比較例7に係る画像形成装置を準備した。
【0058】
無端状ベルトを、Gs(60°)が141であるものとした点以外は、実施例1と同様にして比較例8に係る画像形成装置を準備した。
【0059】
被覆層を形成していない基材Aそのものをクリーニングブレードとして画像形成装置に設置した点以外は、比較例8と同様にして比較例9に係る画像形成装置を準備した。
【0060】
[清掃性能確認試験]
各実施例及び比較例に係る画像形成装置を用いて、A4用紙30000回の印刷を実施した後、筋状の印刷汚れの発生の有無を確認することで、各実施例及び比較例における清掃品質を判定した。筋状の汚れは、ベルト表面に付着したトナー溜りがクリーニングブレードによって除去しきれない場合に発生する印刷不良である。結果を表1に示す。
【0062】
なお、表1には記載していないが、比較例5及び7においては、印刷不良の他クリーニングブレードのメクレが生じた。クリーニングブレードのメクレとは、クリーニングブレードが、ベルトとの摩擦によってベルトの進行方向に巻き込まれて撓んでしまうことを意味する。
【0063】
比較例1〜5では、いずれも印刷不良が生じたのに対して、実施例1〜5では印刷不良は発生しなかった。
【0064】
また、鏡面光沢度Gs(60°)が103である同一の無端状ベルトを具えた比較例6及び7では、被覆層の有無が異なるクリーニングブレードを用いているが、共に印刷不良が生じた。
【0065】
また、鏡面光沢度Gs(60°)が141である同一の無端状ベルトを具えた比較例6及び7では、被覆層の有無が異なるクリーニングブレードを用いているが、共に印刷不良は生じなかった。
【0066】
このことから、ダイヤモンドライクカーボンによって被覆されたクリーニングブレードは、鏡面光沢度Gs(60°)が、110以上141以下の無端状ベルトに対して良好な性能を発揮することがわかる。
【0067】
また、比較例9が示すように、鏡面光沢度Gs(60°)が141の無端状ベルトでは、ダイヤモンドライクカーボンによって被覆されていないクリーニングブレードでも印刷不良は発生しないため、各実施例に係るダイヤモンドライクカーボンによって被覆されたクリーニングブレードは、鏡面光沢度Gs(60°)が、110以上135以下の無端状ベルトと組み合わせることで、ダイヤモンドライクカーボンによって被覆されていないクリーニングブレードに対して顕著な効果を奏することがわかる。
【0068】
なお、鏡面光沢度Gs(60°)110以上135以下の範囲の無端状ベルトは、
図1に示す検量線によって、表面粗さRz0.05μm以上0.15μm以下の範囲に相当する無端状ベルトであることから、各実施例に係るダイヤモンドライクカーボンによって被覆されたクリーニングブレードは、表面粗さRz0.05μm以上0.15μm以下の無端状ベルトと組み合わせることで、顕著な効果を奏することがわかる。