特許第6880669号(P6880669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6880669炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880669
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20210524BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20210524BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20210524BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20210524BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20210524BHJP
   H01L 21/76 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   H01L29/78 652B
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 652E
   H01L29/78 652J
   H01L29/78 658E
   H01L29/78 658A
   H01L29/78 652C
   H01L29/78 655A
   H01L29/06 301M
   H01L29/06 301V
   H01L29/78 652R
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-223539(P2016-223539)
(22)【出願日】2016年11月16日
(65)【公開番号】特開2018-82058(P2018-82058A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】大瀬 直之
(72)【発明者】
【氏名】内海 誠
(72)【発明者】
【氏名】大西 泰彦
【審査官】 杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−032674(JP,A)
【文献】 特開2012−191056(JP,A)
【文献】 特開2010−087397(JP,A)
【文献】 特開2014−236120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/739
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型炭化珪素基板上に設けられるp型炭化珪素領域の上の少なくとも一部にn型炭化珪素領域を有する縦型のMOSFETの炭化珪素半導体装置において、
前記p型炭化珪素領域はチャネル領域であり、前記n型炭化珪素領域がソース領域であり、
前記チャネル領域の不純物濃度が1.0×1018cm-3以下であり、
前記ソース領域は、表面からみて深い位置にヒ素を含み、それ以外の浅い位置にリンを含むことを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
n型炭化珪素基板上に設けられるp型炭化珪素領域の上の少なくとも一部にn型炭化珪素領域を有する縦型のMOSFETの炭化珪素半導体装置において、
前記p型炭化珪素領域はチャネル領域であり、前記n型炭化珪素領域がソース領域であり、
前記チャネル領域の不純物濃度が1.0×1018cm-3以下であり、
前記ソース領域のうち、チャネルを決定する領域はリンを含み、当該リンを含む領域以外の隣接する領域はヒ素を含むことを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記チャネル領域はエピタキシャル成長法により形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記ソース領域のヒ素濃度は1.0×1019cm-3〜5.0×1020cm-3であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記ソース領域のヒ素濃度は表面側の濃度が高く、表面から奥行方向に減少する傾向を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記ソース領域のヒ素濃度は表面側が低く、表面から奥行方向に増加する傾向を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
前記ヒ素濃度のピーク値が表面から100nm〜200nmの間にあることを特徴とする請求項6に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項8】
前記n型炭化珪素基板の貫通螺旋転位上の前記ソース領域はヒ素を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項9】
前記n型炭化珪素基板の貫通螺旋転位の面密度は1個/cm2〜3000個/cm2であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項10】
前記炭化珪素半導体装置がトレンチMOSFETであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項11】
n型炭化珪素基板上にチャネル領域のp型炭化珪素領域が形成され、前記p型炭化珪素領域の上の少なくとも一部にソース領域のn型炭化珪素領域が形成される縦型のMOSFETの炭化珪素半導体装置の製造方法において、
前記チャネル領域のp型炭化珪素領域を、不純物濃度が1.0×1018cm-3以下で形成し、
前記チャネル領域のp型炭化珪素領域上の前記ソース領域は、表面からみて深い位置にヒ素を含むイオン注入で形成し、それ以外の浅い位置にリンを含むイオン注入で形成することを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項12】
n型炭化珪素基板上にチャネル領域のp型炭化珪素領域が形成され、前記p型炭化珪素領域の上の少なくとも一部にソース領域のn型炭化珪素領域が形成される縦型のMOSFETの炭化珪素半導体装置の製造方法において、
前記チャネル領域のp型炭化珪素領域を、不純物濃度が1.0×1018cm-3以下で形成し、
前記チャネル領域のp型炭化珪素領域上の前記ソース領域のうち、チャネルを決定する領域はリンを含むイオン注入で形成し、当該リンを含む領域以外の隣接する領域はヒ素を含むイオン注入で形成することを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記チャネル領域のp型炭化珪素領域をエピタキシャル成長法により形成することを特徴とする請求項11または12に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記ソース領域のヒ素濃度は1×1019cm-3〜5×1020cm-3であることを特徴とする請求項11〜13のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記n型炭化珪素基板の貫通螺旋転位上の前記ソース領域をヒ素を含み形成したことを特徴とする請求項11〜14のいずれか一つに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記n型炭化珪素基板の貫通螺旋転位の面密度は1個/cm2〜3000個/cm2であることを特徴とする請求項15に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、珪素(以下Siと記す)に代わる半導体材料の一つとして炭化珪素(SiC)が注目されている。SiCは、バンドギャップが4H−SiCで3.25eVと、Siのバンドギャップ(1.12eV)に比べて3倍近く大きいため、動作上限温度を高くできる。また、絶縁破壊電界強度が4H−SiCで3.0MV/cmと、Siの絶縁破壊電界強度(0.25MV/cm)に比べて約1桁大きいため、絶縁破壊電界強度の3乗の逆数となるオン抵抗を低減でき、定常状態での電力損失を低減できる。また、熱伝導度も4H−SiCで4.9W/cmKと、Siの熱伝導度(1.5W/cmK)に比べて3倍以上高いので、熱冷却効果が高く冷却装置を小型化できるという利点も生まれる。さらに、飽和ドリフト速度が2×107cm/sと大きいため、高速動作にも優れている。このようなことからSiCは、電力用半導体素子(以下パワーデバイスと呼ぶ)や高周波デバイス、高温動作デバイスなどへの応用が期待されている。
【0003】
現在、SiCを用いたMOSFET、pnダイオード、ショットキーダイオード等が試作され、絶縁耐圧とオン抵抗(=通電時の順方向電圧/順方向電流)に関してはSiの特性を超えるデバイスが続出している。これらの素子作成には、選択された領域において導電型やキャリア濃度を制御する技術が必要であり、その方法としては、熱拡散法とイオン注入法がある。SiC中においては不純物の拡散係数が非常に小さいため、Si半導体素子で広く用いられている熱拡散法はSiCには適用が難しい。
【0004】
そのため、SiCでは通常イオン注入法が用いられている。注入されるイオン種としては、n型に対しては窒素(以下Nと記す)、リン(以下Pと記す)が用いられ、p型に対してはアルミニウム(以下Alと記す)または、ホウ素(以下Bと記す)が多く用いられる。
【0005】
大容量・高耐圧のパワーデバイスは、素子の縦方向、つまり素子の表面から裏面に向かって電流が流れ、表面と裏面の間に電圧が印加されるという縦型の素子構造をしている。そのために、半導体素子の表面と裏面のそれぞれに電極を有する構成となっている。例えば、ショットキーダイオードの場合、素子の表面にショットキー電極を、裏面(第二の主面)にオーミック電極を有する構成となっている。また、縦型MOSFETの場合、基板表面にソース電極及びゲート電極を、裏面にオーミック電極であるドレイン電極を有する構成となっている。
【0006】
一方で、SiC基板には製造過程で形成される欠陥類が多種あり、欠陥種の中の一部はMOSデバイスのリーク電流に寄与することが報告されている(例えば、下記非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「パワーエレクトロニクスインバータ基盤技術開発プロジェクト」(事後評価)第1回分科会 資料5−2(2)、インターネット[http://www.nedo.go.jp/content/100095428.pdf]、平成28年11月1日検索
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らが4H−SiC基板を用いダイオードを作成したところ、このダイオードにおいても上記非特許文献と同様にリーク電流が生じることが確認された。現在、所定種、例えば、貫通螺旋転位(TSD:threading screw dislocation)の欠陥が発生したSiC基板では、リーク電流を低減することができない。
【0009】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、リークの発生要因と考えられている欠陥を含む基板であっても、リーク電流の発生を抑えることができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、n型炭化珪素基板上に設けられるp型炭化珪素領域の上の少なくとも一部にn型炭化珪素領域を有する縦型のMOSFETの炭化珪素半導体装置において、前記p型炭化珪素領域はチャネル領域であり、前記n型炭化珪素領域がソース領域であり、前記チャネル領域の不純物濃度が1.0×1018cm-3以下であり、前記ソース領域は、表面からみて深い位置にヒ素を含み、それ以外の浅い位置にリンを含むことを特徴とする。
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、n型炭化珪素基板上に設けられるp型炭化珪素領域の上の少なくとも一部にn型炭化珪素領域を有する縦型のMOSFETの炭化珪素半導体装置において、前記p型炭化珪素領域はチャネル領域であり、前記n型炭化珪素領域がソース領域であり、前記ソース領域のうち、チャネルを決定する領域はリンを含み、当該リンを含む領域以外の隣接する領域はヒ素を含むことを特徴とする。
【0011】
また、前記p型炭化珪素領域はエピタキシャル成長法により形成されることを特徴とする。
【0012】
また、前記ソース領域のヒ素濃度は1.0×1019cm-3〜5.0×1020cm-3であることを特徴とする。
【0013】
また、前記ソース領域のヒ素濃度は表面側の濃度が高く、表面から奥行方向に減少する傾向を有することを特徴とする。
【0014】
また、前記ソース領域のヒ素濃度は表面側が低く、表面から奥行方向に増加する傾向を有することを特徴とする。また、前記ヒ素濃度のピーク値が表面から100nm〜200nmの間にあることを特徴とする。
【0015】
また、前記n型炭化珪素基板の貫通螺旋転位上の前記ソース領域はヒ素を含むことを特徴とする。
【0016】
また、前記n型炭化珪素基板の貫通螺旋転位の面密度は1個/cm2〜3000個/cm2であることを特徴とする。
【0017】
また、前記炭化珪素半導体装置が縦型のMOSFETであり、前記p型炭化珪素領域がチャネル領域であり、前記n型炭化珪素領域がソース領域であることを特徴とする。
【0018】
また、前記炭化珪素半導体装置がトレンチMOSFETであることを特徴とする。
【0021】
この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、n型炭化珪素基板上にチャネル領域のp型炭化珪素領域が形成され、前記p型炭化珪素領域の上の少なくとも一部にソース領域のn型炭化珪素領域が形成される縦型のMOSFETの炭化珪素半導体装置の製造方法において、前記チャネル領域のp型炭化珪素領域を、不純物濃度が1.0×1018cm-3以下で形成し、前記チャネル領域のp型炭化珪素領域上の前記ソース領域は、表面からみて深い位置にヒ素を含むイオン注入で形成し、それ以外の浅い位置にリンを含むイオン注入で形成することを特徴とする。
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、n型炭化珪素基板上にチャネル領域のp型炭化珪素領域が形成され、前記p型炭化珪素領域の上の少なくとも一部にソース領域のn型炭化珪素領域が形成される縦型のMOSFETの炭化珪素半導体装置の製造方法において、前記ソース領域のうち、チャネルを決定する領域はリンを含むイオン注入で形成し、当該リンを含む領域以外の隣接する領域はヒ素を含むイオン注入で形成することを特徴とする。
【0022】
また、前記p型炭化珪素領域をエピタキシャル成長法により形成することを特徴とする。
【0023】
また、前記n型炭化珪素領域のヒ素濃度は1×1019cm-3〜5×1020cm-3であることを特徴とする。
【0024】
また、前記n型炭化珪素基板の貫通螺旋転位上の前記n型炭化珪素領域をヒ素を含み形成したことを特徴とする。
【0025】
また、前記n型炭化珪素基板の貫通螺旋転位の面密度は1個/cm2〜3000個/cm2であることを特徴とする。
【0026】
上記構成によれば、不純物濃度が1.0×1018cm-3以下のp型炭化珪素領域の上のn型半導体領域がヒ素を含むことにより、リーク電流の要因となるTSDを含むSiC基板を用いた場合においても、リーク電流の発生を抑えることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、リーク電流の要因となるTSDを含むSiC基板を用いた場合においても、リーク電流の発生を抑えた炭化珪素半導体装置を実現できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。
図2A図2Aは、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の製造工程を示す断面図である。(その1)
図2B図2Bは、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の製造工程を示す断面図である。(その2)
図2C図2Cは、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の製造工程を示す断面図である。(その3)
図2D図2Dは、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の製造工程を示す断面図である。(その4)
図2E図2Eは、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の製造工程を示す断面図である。(その5)
図2F図2Fは、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の製造工程を示す断面図である。(その6)
図2G図2Gは、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の製造工程を示す断面図である。(その7)
図3図3は、実施の形態1により作成したMOSFETのリーク電流値を示す図表である。
図4図4は、実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。
図5図5は、実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置のAsの濃度プロファイルを示す図表である。
図6図6は、実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置のAsの濃度プロファイルを示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。+および−を含めたnやpの表記が同じ場合は近い濃度であることを示し濃度が同等とは限らない。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、ミラー指数の表記において、“−”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“−”を付けることで負の指数をあらわしている。また、以下の各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型として説明する。
【0030】
発明者らは本発明の効果を確認するために、以下の実験を行い、結果を導き出した。本発明にかかる半導体装置は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成される。以下の各実施の形態においては、ワイドバンドギャップ半導体として例えば炭化珪素(SiC)を用いて作製された炭化珪素半導体装置について、MOSFETを例に説明する。
【0031】
図1は、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。図1に示すように、実施の形態1にかかる炭化珪素半導体装置は、第1の導電型であるn+型炭化珪素基板(ワイドバンドギャップ半導体基板)1の第1主面、例えば(0001)面(Si面)に、n型炭化珪素エピタキシャル層(ワイドバンドギャップ半導体堆積層)2が堆積されている。
【0032】
+型炭化珪素基板1は、例えば窒素(N)がドーピングされた炭化珪素単結晶基板である。n型炭化珪素エピタキシャル層2は、n+型炭化珪素基板1よりも低い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている低濃度n型ドリフト層である。n型炭化珪素エピタキシャル層2の第1主面側は濃いn型(n+)領域5が形成されており、濃いn型領域5は、n+型炭化珪素基板1よりも低くn型炭化珪素エピタキシャル層2よりも高い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている。以下、n+型炭化珪素基板1単体、またはn+型炭化珪素基板1とn型炭化珪素エピタキシャル層2、またはn+型炭化珪素基板1とn型炭化珪素エピタキシャル層2と後述するpベース領域とを併せて炭化珪素半導体装置基体とする。
【0033】
図1に示すように、n+型炭化珪素基板1のφ2の主面(炭化珪素半導体装置基体の裏面)には、裏面電極13が設けられている。裏面電極13は、ドレイン電極を構成する。
【0034】
炭化珪素半導体装置基体の第1主面側には、トレンチ構造が形成されている。具体的には、第2導電型(p型)のワイドバンドギャップ層6のn+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体装置基体の第1主面側)の表面からp型ワイドバンドギャップ層6を貫通してn型炭化珪素エピタキシャル層2に達する。トレンチの表面に沿って、トレンチの底部および側部には、ゲート絶縁膜9が形成されており、ゲート絶縁膜9によりn型炭化珪素エピタキシャル層2およびp型ワイドバンドギャップ層6と絶縁されているゲート電極10がトレンチ内部に形成されている。ゲート電極10の一部はトレンチ外部に突出していても良い。
【0035】
n型炭化珪素エピタキシャル層2のn+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体装置基体の第1主面側)の表面層には、第2導電型の第1p(p+)ベース領域(第1の第2導電型半導体領域)3と、第2p(p+)ベース領域4が選択的に設けられており、第2pベース領域4はトレンチ下に形成されている。第1pベース領域3と第2pベース領域4は、例えばアルミニウムがドーピングされている。第1pベース領域3の一部をトレンチ側に引き伸ばすことで第2pベース領域4に接続した構造となっていても良い。
【0036】
n型炭化珪素エピタキシャル層2の第1主面側には、p型ワイドバンドギャップ層6が設けられており、p型ワイドバンドギャップ層6の第1主面側にn+ソース領域7およびp++コンタクト領域8が設けられている。また、n+ソース領域7およびp++コンタクト領域8は互いに接する。また、n型炭化珪素エピタキシャル層2の表面層の第1pベース領域3と第2pベース領域4に挟まれた領域と、p型ワイドバンドギャップ層6と第2pベース領域4に挟まれた領域には濃いn型領域5が設けられている。
【0037】
図1では、2つのトレンチMOS構造のみを図示しているが、さらに多くのトレンチMOS構造が並列に配置されていてもよい。
【0038】
層間絶縁膜11は、炭化珪素半導体装置基体の第1主面側の全面に、トレンチに埋め込まれたゲート電極10を覆うように設けられている。ソース電極12は、層間絶縁膜11に開口されたコンタクトホールを介して、n+ソース領域7およびp++コンタクト領域8に接する。ソース電極12は、層間絶縁膜11によって、ゲート電極10と電気的に絶縁されている。ソース電極12上には、電極パッド14が設けられている。
【0039】
(実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法の一例)
図2A図2Gは、本発明の実施の形態1にかかる半導体装置の製造工程を示す断面図である。まず、図2Aに示すように、n+型炭化珪素基板1の第1主面上に、窒素等のn型不純物をドーピングした第1炭化珪素エピタキシャル層2を、例えば10μmの厚さで形成する。第1炭化珪素エピタキシャル層2の不純物濃度が3×1015/cm3程度となるように設定してもよい。
【0040】
次いで、第1炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、厚さ1.5μmの酸化珪素膜をプラズマCVD等の方法で堆積し、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを形成する。そして、図2Bに示すように、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化珪素膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度のpベース領域4を形成する。pベース領域3aと同時に、トレンチの底部となるpベース領域4を形成しても良い。pベース領域3aおよびpベース領域4の不純物濃度は、例えば5.0×1018/cm3程度に設定する。後述するが、pベース領域3は、積層される複数のpベース領域3a,3bよりなる。pベース領域3は第1pベース領域3、pベース領域4は第2pベース領域4である。
【0041】
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第1炭化珪素エピタキシャル層1の表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の濃いn型領域5aを設ける。濃いn型領域5aは、不純物濃度を例えば1.0×1017/cm3程度に設定する。
【0042】
次に、図2Cに示すように、第1炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、窒素等のn型の不純物をドーピングした第2炭化珪素エピタキシャル層2bを、0.5μm程度の厚さで形成する。第2炭化珪素エピタキシャル層2bの不純物濃度が3.0×1015/cm3程度となるように設定する。以後、第1炭化珪素エピタキシャル層2には、第2炭化珪素エピタキシャル層2bが含まれることとする。
【0043】
次いで、第2炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、厚さ1.5μmの酸化珪素膜をプラズマCVD等の方法で堆積し、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを形成する。そして、アルミニウム(Al)等のp型の不純物を、酸化珪素膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度のpベース領域3bを、pベース領域3aに重なるように形成する。pベース領域3aと3bは連続した領域を形成し、pベース領域3となる。pベース領域3bは、不純物濃度を例えば5.0×1018/cm3程度となるように設定する。
【0044】
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第2炭化珪素エピタキシャル層1の表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の濃いn型領域5bを設ける。濃いn型領域5bは、不純物濃度を例えば1.0×1017/cm3程度に設定する。これらn型領域5bとn型領域5aは少なくとも一部が接するように形成され、濃いn型領域5を形成する。
【0045】
次に、図2Dに示すように、第2炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、アルミニウム等のp型不純物をドーピングした第3炭化珪素エピタキシャル層(p型ワイドバンドギャップ層)6を1.3μm程度の厚さで形成する。第3炭化珪素エピタキシャル層6の不純物濃度は4.0×1017/cm3程度に設定する。
【0046】
次に、第3炭化珪素エピタキシャル層6上にフォトリソグラフィにより素子中央部にフォトレジストを形成し、このフォトレジストをマスクとして、SF6等のフッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、第3炭化珪素エピタキシャル層6の周囲を1.3μm程度の深さで除去し、メサを作製する。
【0047】
次に、図2Dに示すように第3炭化珪素エピタキシャル層6の表面上に、厚さ1.5μmの酸化珪素膜をプラズマCVD等の方法で堆積し、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを形成する。この開口部にリン等のn型の不純物をイオン注入し、第3炭化珪素エピタキシャル層6の表面の一部にn+ソース領域7を設ける。n+ソース領域7の不純物濃度は、第3炭化珪素エピタキシャル層6の不純物濃度より高くなるように設定する。
【0048】
次に、n+ソース領域7形成に用いたイオン注入用マスクを除去した後、所定の開口部を有するイオン注入用マスクを同様の方法で形成し、第3炭化珪素エピタキシャル層6の表面の一部にアルミニウム等のp型の不純物をイオン注入し、p++コンタクト領域8を設ける。p++コンタクト領域8の不純物濃度は、第3炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度より高くなるように設定する。
【0049】
次に、第3炭化珪素エピタキシャル層6およびメサ形成部の表面上に、厚さ1.5μmの酸化珪素膜をプラズマCVD等の方法で堆積し、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを形成する。この開口部にアルミニウム等のp型の不純物をイオン注入し、露出した第2炭化珪素エピタキシャル層2の表面の低不純物濃度の耐圧構造領域を設ける。耐圧構造領域は、pベース領域4の端部から素子の外側の領域に形成する構造や、メサ側面から素子の外側の領域に形成する構造をとることができる。
【0050】
次いで、以上の工程で製作した炭化珪素半導体装置に対し、1700℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理を行い、第1pベース領域3、第2pベース領域4、n+ソース領域7、p++コンタクト領域8の活性化処理を実施する。その後、第3炭化珪素エピタキシャル層6および露出した第2炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、厚さ1.5μmの酸化珪素膜をプラズマCVD等の方法で堆積し、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するトレンチ形成用マスクを作製する。
【0051】
次に、図2Eに示すように、ドライエッチングによって第3炭化珪素エピタキシャル層6を貫通し、第2炭化珪素エピタキシャル層2に達するトレンチを形成する。トレンチの底部は第1炭化珪素エピタキシャル層に形成されたpベース領域4に達しても良い。次に、トレンチ形成用マスクを除去する。
【0052】
次に、n+ソース領域7、p++コンタクト領域8、トレンチの表面に沿ったトレンチの底部および側部に酸化膜(トレンチ部分はゲート絶縁膜9)を形成する。この酸化膜は、酸素雰囲気中において1000℃程度の温度の熱処理によって熱酸化によって形成してもよい。また、この酸化膜はプラズマCVD法や、HTOのような気相成長法によって堆積してもよい。
【0053】
次に、図2Fに示すように、ゲート絶縁膜9上に、例えばリン原子がドーピングされた多結晶シリコン層を設ける。この多結晶シリコン層は、トレンチ内を埋めるように形成しても良い。この多結晶シリコン層をフォトリソグラフィによりパターニングし、トレンチ内部に残すことによって、ゲート電極10を設ける。ゲート電極10の一部はトレンチ外部に突出していても良い。
【0054】
次いで、ゲート絶縁膜9及びゲート電極10を覆うように、例えばリンガラスを1μm程度の厚さで成膜し、層間絶縁膜11を設ける。そして、層間絶縁膜11及びゲート絶縁膜9をフォトリソグラフィによりパターニングしn+ソース領域7及びp++コンタクト領域8を露出させたコンタクトホールを形成する。その後、熱処理(リフロー)を行って層間絶縁膜11を平坦化する。
【0055】
次に、図2Gに示すように、コンタクトホール内及び層間絶縁膜11の上にソース電極12となるNi等の導電性の膜を設ける。この導電性の膜をフォトリソグラフィによりパターニングし、コンタクトホール内にのみソース電極12を残す。
【0056】
次いで、炭化珪素半導体装置基板1の第2主面上に、ニッケル等のドレイン電極13を設ける。この後、1000℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理を行って、n+ソース領域7及びp++コンタクト領域8および炭化珪素半導体装置基板1とオーミック接合するソースコンタクト電極およびドレイン電極を形成する。
【0057】
次いで、炭化珪素半導体装置基板1の第1主面上に、スパッタ法によって5μm程度の厚さのアルミニウム膜を堆積し、フォトリソグラフィによりソース電極12及び層間絶縁膜11を覆うようにアルミニウムを除去し、電極パッド14を形成する。次いで、ドレイン電極13の表面に、例えばチタン、ニッケル及び金を順に積層することによって、ドレイン電極パッド15を設ける。以上のようにして、図1に示すMOSFETが完成する。
【0058】
図3は、実施の形態1により作成したMOSFETのリーク電流値を示す図表である。横軸はX線トポグラフィーにより計測した基板のTSD密度、縦軸はデバイスに200Vを印加した際のリーク電流密度である。
【0059】
図3に示すように、上記実施の形態1に示す作製方法において、n+ソース領域7にリン(P)がイオン注入によってドーピングされている素子を実施例A、n+ソース領域7にヒ素(As)を用いた場合を実施例Bとしたデバイスを作製し、それぞれ評価を行った。なお、これらの実施例A,Bでは、トレンチ形成プロセスの影響を無くすため、トレンチ形成工程は実施していない。
【0060】
+ソース領域7にPを用いてイオン注入した実施例Aでは、TSD面密度によらず、大きなリーク電流値が流れてしまうのに対し、n+ソース領域7にAsを用いた実施例Bでは、リーク電流値を大幅に低減できる改善効果が見られた。
【0061】
このリーク電流低減の効果は、転位中のPとAsの拡散しやすさによるものと考えられる。転位中あるいは転位周辺部にPが拡散し、エピタキシャル形成されたp型ワイドバンドギャップ層6を反転させ、リークパスを形成すると考えられる。
【0062】
さらに、p型ワイドバンドギャップ層6の不純物濃度を変化させてリーク電流への影響を調査した。具体的にはp型ワイドバンドギャップ層6のAl濃度が3.0×1018cm-3,1.0×1018cm-3,3.0×1017cm-3の場合について、同様の試作を行った。3.0×1018cm-3の場合にのみ、閾値電圧Vthの高い不良、および単位面積当たりのオン抵抗RonAの増大が確認され、1.0×1018cm-3,3.0×1017cm-3の場合にはこれらの不良が見られなかった。
【0063】
また、同様にAsの注入ドーズ量の影響も調査した。具体的には、Asのイオン注入時、BOX注入のピーク濃度を1.0×1017cm-3,1.0×1018cm-3,1.0×1019cm-3,5.0×1020cm-3としデバイスを試作した。これらのすべての素子でリーク電流は1×10-6A/cm2以下であることが確認できたが、Asのピーク濃度が1.0×1017cm-3の素子はコンタクト抵抗が著しく増加してしまい、実デバイスには適用できないと判断した。
【0064】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1とほぼ同じ構成および製造方法により作成したMOSFETであるが、n+ソース領域7内において、素子の表面側からみて深い位置にAsを使用し、それ以外にはPを使用したイオン注入を行うものである。
【0065】
深い位置にあるAsは、素子の表面側からのPの拡散を防止する効果を期待できる構造である。そして、以下のようにビーム電流を確保し難いAsについてのイオン注入量(段数)を減らすことでイオン注入時間を改善できる。例えば、5段注入の一番深い注入のみをAsとし、残り4段をP注入とすると、ビーム電流の取れ量の差から1ロット当たり数十分程度の工程時間を短縮できる改善効果が得られる。さらには、Asのイオン注入について、これまで一般的に広く使用されているP注入との共用が可能になることによる工程時間の短縮が図れるようになる。
【0066】
(実施の形態3)
実施の形態3では、チャネルを決定する領域のみのn+ソース領域をPイオン注入で形成し、それ以外の領域をAsの注入で形成する構造としたものである。一般的に、リークの発生位置を特定すると、デバイスの構造が表面側からn++/p+/n+となっている部分で生じたTSDがリーク起因となっていることが確認されている。この場合の不純物濃度は、例えばn++:3.0×1019cm-3,p+:1.0×1018cm-3,n+:3.0×1018cm-3程度である。
【0067】
実施の形態1で説明したようなトレンチ構造のデバイスの場合は、n+ソース領域7を形成する工程で、ゲートチャネル幅も規定しているため、チャネル長の短縮のためにはイオン注入の加速エネルギーを高くする必要がある。ところが、イオン注入装置の構造として、Pのビーム電流に比べてAsのビーム電流は確保し難いことが一般的である。さらに、PはAsに比べ原子半径が大きいことから、SiC中の飛程が短い。
【0068】
図4は、実施の形態3にかかる炭化珪素半導体装置の構成を示す断面図である。図4は実施の形態1(図1参照)と比べて基本構造は同じであるが、上述したイオン注入の制約等の状況から、実施の形態3では、チャネルを決定する領域のみのn+ソース領域7をPイオンの注入401で形成し、それ以外のn+ソース領域7をAsの注入402で形成する構造としている点が異なる。
【0069】
このような実施の形態3の構造では、Pを適用したn+ソース領域7の直下にはpベース領域4が存在することが特徴である。リーク電流の起因と考えられるPがこの位置に存在する欠陥中を拡散してもpベース領域3部分を反転させることは無く、リーク経路は形成されない。
【0070】
さらに、PはAsよりも飛程が大きく、同じ加速エネルギーにおいても深く注入することが可能であるため、チャネル長を短く設計することが可能となる。チャネル長はp型ワイドバンドギャップ層6の膜厚により変わるが、今回作成したデバイスではAs注入のみだとチャネル長が0.85μmであったのに対し、深いPを用いることで0.70μmに短縮することができた。
【0071】
(実施の形態4)
SiCは不純物の拡散が起こりにくいため、一般的に拡散を用いたプロセスが用いられず、イオン注入によりドーパントを多段に注入することで不純物層を形成する。そのためイオン注入装置には製造負荷がかかり、リードタイムの短縮の要求が強い。Asを注入する層の役割はオーミックコンタクトの形成と、チャネルの形成であるが、前者には高濃度が必要であるが、後者は比較的低濃度しか必要としない。そのため、実施の形態4では、Asの濃度プロファイルについて表面側を高濃度、深さ方向に次第に低濃度化させるAsプロファイルの改善を行った。
【0072】
図5は、実施の形態4にかかる炭化珪素半導体装置のAsの濃度プロファイルを示す図表である。横軸は第1主面側からの深さ、縦軸はドーピング濃度である。図5に示す例では、最表面の濃度を3.0×1019cm-3とし、深さ方向に濃度が減少するプロファイルでデバイスを形成した。具体的には1段目は加速エネルギー350keV,ドーズ量3.3×1013cm-2、2段目は加速エネルギー200keV,ドーズ量6.0×1013cm-2,3段目は加速エネルギー80keV,ドーズ量6.0×1013cm-2,4段目は加速エネルギー30keV,ドーズ量5.0×1013cm-2の条件で注入を行った。
【0073】
このようにAsの濃度プロファイルについて表面側を高濃度、深さ方向に次第に低濃度化させるAsプロファイルにより、オーミックコンタクトおよびチャネルの形成に適した濃度プロファイルとしつつ、イオン注入装置の製造負荷を軽減し、リードタイムを短縮できるようになる。
【0074】
(実施の形態5)
実施の形態5ではn+ソース領域7に対してAsのみの注入を行うが、イオン注入時に加速エネルギーを増やさずに、注入深さを深くすることを目的としている。このため、n+ソース領域7の最表面側から3.0×1019cm-3の濃度でAs注入を実施し、最も加速の大きい(例えば350keV)にて3.0×1020cm-3の濃度の注入を実施する。
【0075】
図6は、実施の形態5にかかる炭化珪素半導体装置のAsの濃度プロファイルを示す図表である。実施の形態5によるAs注入では、Asのプロファイルは最表面側から深さ方向につれて増加するプロファイルを示し、結果としてp型ワイドバンドギャップ層6とのp/n界面の最表面からの深さを深くすることができる。これはチャネル長の短縮化につながり、デバイス特性の向上が期待できる。具体的には、1段目は加速エネルギー350keV,ドーズ量3.3×1015cm-2、2段目は加速エネルギー80keV,ドーズ量6.0×1013cm-2,3段目は加速エネルギー30keV,ドーズ量2.0×1013cm-2の条件で注入を行った。
【0076】
以上説明した各実施の形態2〜5についても、実施の形態1と同様に、欠陥を有するSiC基板にイオン注入でソース領域を形成する構造において、リーク電流を低減できる効果が確認された。また、上述した各実施の形態1〜5で使用した4H−SiC基板は、通常市販されているデバイスグレードの3inch基板を用いた。これらの基板を測定すると、基板面内のTSD密度にはバラツキが見られた。例えば、異なるウエハの中から無作為に測定した200ポイント(1ポイントは3mm×3mmのエリア)における、TSD密度は、数個/cm2レベルのものから、多いもので3000個/cm2のものが含まれていた。しかしながら、上記の実施の形態1〜5に説明した各構造を適用することで、どのレベルの基板を用いても、リーク電流による不良を発生させることなく、デバイスを作製することができるようになる。
【0077】
以上説明した実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。例えば、n+型炭化珪素基板1の裏面にp型領域を設けたIGBTについても本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置は、電力変換装置や種々の産業用機械などの電源装置などに使用される高耐圧半導体素子に有用である。
【符号の説明】
【0079】
1 n+型炭化珪素基板
2 n型炭化珪素エピタキシャル層
3,4 pベース領域
5 濃いn型領域
6 p型ワイドバンドギャップ層
7 n+ソース領域
8 p++コンタクト領域
9 ゲート絶縁膜
10 ゲート電極
11 層間絶縁膜
12 ソース電極
13 ドレイン電極
14 電極パッド
15 ドレイン電極パッド
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3
図4
図5
図6