(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記任意のパターン状に設けられた第1硬化遅延剤層と第2硬化遅延剤層とが、相似形の関係にあることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート用パターニング工程紙。
前記コンクリート硬化遅延剤層が、アクリル系樹脂、オキシカルボン酸、珪藻土の各材料を少なくとも含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレキャストコンクリート用パターニング工程紙。
前記第1硬化遅延剤層に占めるオキシカルボン酸の質量比率が、前記第2硬化遅延剤層に占めるオキシカルボン酸の質量比率よりも少ないことを特徴とする請求項3に記載のプレキャストコンクリート用パターニング工程紙。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製品の意匠性を高めるために、その表面に模様や凹凸を形成したいという要望に対して、型枠を一つ一つ作製することは、精度面やコスト面などの課題がある。
【0003】
これらの課題に対し、例えば特許文献1では、コンクリート表面にタイルを設置する際に、目地を精度良く、また効率的設けるための手法として、紙に対してコンクリート硬化遅延剤を含浸、あるいは塗布含浸して乾燥した後、タイルを貼り付けてタイルユニットを作製することが提案されている。
【0004】
これにより、コンクリートの一部がタイルの目地部分から漏洩し、タイル表面に回り込んで硬化してしまうことを防ぎ、精度よく目地部を形成することができる。
【0005】
また、特許文献2では、同様の目的として、合成樹脂よりなる基材の一面にコンクリート硬化遅延剤を含有する粘着剤を積層し、その粘着剤にタイルを貼り付けることが提案されている。
【0006】
これらの手法と同様に、硬化遅延剤を用いて、モルタル層の表面に浮彫模様を形成するために、特許文献3では、液体透過性部分と液体不透過性部分とで模様を形成したシートを作製し、このシートをモルタル層に接着し、前記シートの表面にセメント硬化遅延剤を塗布して、模様の形に添ってセメント硬化遅延剤をモルタル層に含浸させた後、モルタル層を養生させる方法が提案されている。
【0007】
しかし、これらの手法はいずれも、硬化遅延剤は全面に塗布設けられ、コンクリート層あるいはモルタル層と、硬化遅延剤との間に、硬化遅延剤の浸透を妨げるものを設けることによって、コンクリート層あるいはモルタル層の表面にパターン状の未硬化部を形成して、未硬化部を水洗による洗い出しによって除去するというものである。
【0008】
これらの手法では、「はみ出し」などが発生する場合があり、またコンクリートの未硬化部を洗い出すことによって得られるコンクリート表面の凹部の深さ、即ち硬化遅延深度を比較的深く形成しようとする場合には、凹部形成部と非形成部の境界付近において、コンクリートの変色が発生することがあり、意匠性を著しく損なう場合があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような状況に鑑み、コンクリート表面に比較的深い凹部を形成する場合であっても、凹部形成部と非形成部の境界付近での変色を低減し、意匠性の高いプレキャ
ストコンクリートを作製することが可能なプレキャストコンクリート用パターニング工程紙を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものである。
すなわち、請求項1に記載の発明は、基材シート上に、コンクリート硬化遅延剤層を任意のパターン状に設けてなるプレキャストコンクリート用パターニング工程紙であって、前記コンクリート硬化遅延剤層が、基材シート側に設けられた硬化遅延深度の低い第1硬化遅延剤層と、それに積層された硬化遅延深度の高い第2硬化遅延剤層とを少なくとも有し、前記第1硬化遅延剤層の面積が、前記第2硬化遅延剤層の面積よりも大き
く、且つ、前記第1硬化遅延剤層の輪郭部と前記第2硬化遅延剤層の輪郭部との間に、一定の幅を有していることを特徴とするプレキャストコンクリート用パターニング工程紙である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記任意のパターン状に設けられた第1硬化遅延剤層と第2硬化遅延剤層とが、相似形の関係にあることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリート用パターニング工程紙である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記コンクリート硬化遅延剤層が、アクリル系樹脂、オキシカルボン酸、珪藻土の各材料を少なくとも含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレキャストコンクリート用パターニング工程紙である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記第1硬化遅延剤層に占めるオキシカルボン酸の質量比率が、前記第2硬化遅延剤層に占めるオキシカルボン酸の質量比率よりも少ないことを特徴とする請求項3に記載のプレキャストコンクリート用パターニング工程紙である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、「はみ出し」などの不具合や、コンクリート表面に比較的深い凹部を形成しようとする場合であっても、凹部形成部と非形成部の境界領域における変色などを低減し、高い意匠性を有するプレキャストコンクリートを作製することが可能なプレキャストコンクリート用パターニング工程紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。尚、図中共通する項目については、同一の番号を附している。また、各図面は本発明の実施形態の1例を示すもので、これらに限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明のプレキャストコンクリート用パターニング工程紙の構成例を示す断面図である。
【0019】
図1は、基材シート10上に、第1硬化遅延剤層21と第2硬化遅延剤層22とからなるコンクリート硬化遅延剤層20が形成されており、前記第1硬化遅延剤層21は硬化遅
延深度が低い層であり、硬化遅延深度の高い第2硬化遅延剤層22よりも、その面積が大きくなっている。
【0020】
ここで、基材シート10は、紙基材11の両面にポリオレフィン層12が積層された構成例が示されている。
【0021】
紙基材11は、上質紙、中質紙、コート紙、アート紙、クラフト紙、樹脂含浸紙などの所謂紙素材や、各種合成紙などを例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
紙基材11の両面に設けられるポリオレフィン層12は、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレンなどを例示することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0023】
また、基材シート10は、必ずしも上述のような紙基材11の両面にポリオレフィン層12を設けたものである必要はなく、各種プラスチック素材を単独あるいは複合物として用いられてあってもよい。
【0024】
本発明の実施形態においては、厚さ120μm〜250μm程度のクラフト紙を紙基材とし、その両面に厚さ20μm〜40μm程度のポリエチレンを設けた基材シートが好適に用いられる。
【0025】
また基材シート10のコンクリート硬化遅延剤層20が設けられる面側には、コンクリート硬化遅延剤層20との密着性を向上させるための各種表面処理が施されてあっても良い。
【0026】
表面処理としては、薬品処理、機械的処理、コロナ放電処理、火焔処理、紫外線照射処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理、混酸処理、オゾン酸処理など、従来公知の処理方法のいずれの手段が取られてあっても良い。中でもコロナ放電処理は、好適に用いることができる。
【0027】
次に、第1硬化遅延剤層21と第2硬化遅延剤層22とからなるコンクリート硬化遅延剤層20は、アクリル系樹脂、オキシカルボン酸、珪藻土の各素材を少なくとも含んでいる。
【0028】
ここで、アクリル系樹脂は、コンクリートに対する硬化遅延効果と共に、硬化遅延剤であるオキシカルボン酸などを保持するために用いるもので、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸エステル類やこれらを含む共重合体などからなる樹脂を例示することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0029】
オキシカルボン酸は、コンクリートに対する硬化遅延剤としての役割を有しており、例えば、乳酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリコール酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシカルボン酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸及びトロパ酸等の芳香族オキシカルボン酸などを例として挙げることができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0030】
珪藻土は、オキシカルボン酸などを保持すると同時に、コンクリートに対して放出する
機能を有している。珪藻土の粒径としては、10μm〜100μm程度が望ましい。
【0031】
ここで、第1硬化遅延剤層21と第2硬化遅延剤層22において、少なくとも各硬化遅延剤層に占めるオキシカルボン酸の質量比率が異なり、第1硬化遅延剤層21に占めるオキシカルボン酸の質量比率が、第2硬化遅延剤層22のそれと比べて、少ない添加量となっている。
【0032】
これにより、オキシカルボン酸の添加量が多い第2硬化遅延剤層22の部分では、コンクリートに対する深さ方向への硬化遅延効果すなわち硬化遅延深度を高くすることができるが、コンクリート表面に形成される凹部の形成部と非形成部の境界領域において、硬化遅延剤の横方向への拡散に起因するコンクリートの変色が発生する。
【0033】
これに対し、オキシカルボン酸の添加量が少ない第1硬化遅延剤層21では、硬化遅延深度は低いが、凹部形成部と非形成部の境界領域におけるコンクリートの変色を少なくすることができる。
【0034】
従って、第1硬化遅延剤層21を、第2硬化遅延剤層22よりも大きい面積で設けることにより、第2硬化遅延剤層の影響で変色する部分を第1硬化遅延剤層によって未硬化状態とし、洗い出しによって、除去することが可能となる。
【0035】
上述のような第1硬化遅延剤層としては、アクリル系樹脂25〜60質量%に対して、オキシカルボン酸10〜20質量%、珪藻土10〜25質量%程度の配合のものが好適に用いることができ、第1硬化遅延剤層の厚さとしては、3μ〜30μm程度であることが望ましい。
【0036】
また、第2硬化遅延剤層としては、アクリル系樹脂25〜60質量%に対して、オキシカルボン酸15〜25質量%、珪藻土10〜25質量%程度の配合のものが好適に用いることができ、第2硬化遅延剤層の厚さとしては、3μ〜30μm程度であることが望ましい。
【0037】
また、第1の硬化遅延剤層21ならびに第2硬化遅延剤層22は、直線状、曲線状、格子状などを始め、任意の絵柄模様として形成することが可能であり、第1硬化遅延剤層21と第2硬化遅延剤層22とは、相似形の関係にあることが望ましい。
【0038】
図2は、第1硬化遅延剤層と第2硬化遅延剤層とが、相似形として設けられている例を示す平面図である。
図2に示すように、第1硬化遅延剤層の輪郭部と第2硬化遅延剤層の輪郭部との間には、一定の幅nを有することが望ましく、幅nは、1.5mm以上であることが望ましい。
【0039】
図3は、上述のようにして得られたプレキャストコンクリート用パターニング工程紙を用いて、プレキャストコンクリート30に対し、凹部31を形成した例を示している。
【0040】
プレキャストコンクリート用パターニング工程紙1に、第1硬化遅延剤層21が無い場合には、
図3(A)に示されるように変色部32が視認され、意匠性が損なわれる。
【0041】
これに対し、
図3(B)に示される第1硬化遅延剤層21が有る場合いは、変色部32が取除かれ、目立たなくなることから、高い意匠性を有するプレキャストコンクリート30を得ることができる。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
基材シートは、紙基材として厚さ180μmのクラフト紙を用意し、その両面に溶融したポリエチレンをTダイと呼ばれるスリット状のダイからフィルム状(厚さ35μm)に押出してラミネートすることにより、作製した。
【0043】
作製した基材シートに対し、コンクリート硬化遅延剤層を設ける側の面にコロナ放電処理(60W・min/m
2)を実施し、表面の濡れ性を44〜50mN/m程度とした。
【0044】
上述のようにして得られた基材シートに対し、グラビア印刷機を用いて、下記第1硬化遅延剤層インキをパターン状に印刷し、80〜120℃の乾燥炉で10〜20秒ほど乾燥させることにより、厚さ20〜30μmの第1硬化遅延剤層を形成し、続けて下記第2硬化遅延剤層インキを用いてグラビア印刷機により、第1硬化遅延剤層の形状と相似形のパターン状に印刷し、同様に乾燥して、厚さ20〜30μmの第2硬化遅延剤層を形成して、プレキャストコンクリート用パターニング工程紙を得た。
【0045】
<第1硬化遅延剤層インキ>
アクリル樹脂 … 80質量部
オキシカルボン酸 … 10質量部
珪藻土 … 10質量部
<第2硬化遅延剤層インキ>
アクリル樹脂 … 65質量部
オキシカルボン酸 … 20質量部
珪藻土 … 15質量部
【0046】
(比較例1)
第1硬化遅延剤層に、第2硬化遅延剤層インキを用い、第2硬化遅延剤層に、第1硬化遅延剤層インキを用いた以外は、実施例1と同様にして、プレキャストコンクリート用パターニング工程紙を得た。
【0047】
(比較例2)
第1硬化遅延剤層の印刷形状と、第2硬化遅延剤層の印刷形状を同一とした以外は、実施例1と同様にして、プレキャストコンクリート用パターニング工程紙を得た。
【0048】
(比較例3)
第1硬化遅延剤層を除いた以外は、実施例1と同様にして、プレキャストコンクリート用パターニング工程紙を得た。
【0049】
(比較例4)
第2硬化遅延剤層を除いた以外は、実施例1と同様にして、プレキャストコンクリート用パターニング工程紙を得た。
【0050】
(評価方法)
実施例1ならびに比較例1〜4の各工程紙を型枠(W10cm×D10cm×H5cm)の底面に接着テープで貼り付ける。
【0051】
コンクリート(シリカ60〜90質量%、ポルトランドセメント15〜40質量%)8質量部に対し、水を1質量部投入し、薬匙を用いて2〜3分間攪拌する。
【0052】
上述のように準備した型枠に、攪拌したコンクリート0.2〜0.4kg程度流し込み、24時間養生した後、脱枠した。
【0053】
脱枠したコンクリートを水に浸しながら、ブラシを用いて5分ほど洗い流すことにより、未硬化部を除去した。
【0054】
上述の様にして得られたコンクリート表面の凹部形成部と非形成部の境界領域における変色部分を金属製定規により測定し、変色部分が1mm未満の場合を○、1mm以上の場合を×とした。
【0055】
また、洗い出し後の凹部深さについては、深さが2mm〜5mm程度あることを目標とした。
【0056】
(評価結果)
評価結果について、表1に示した
【0057】
【表1】
【0058】
表1の結果より、実施例1に対し、比較例1では第1硬化遅延剤層と第2硬化遅延剤層とが入れ替わっており、硬化遅延深度の深い第2硬化遅延剤層インキを用いた層の方が、より大きい面積で形成されている。
【0059】
従って、第2硬化遅延剤層インキの影響によるコンクリートの変色を取除くことができないことから、変色幅の評価が×となっている。
【0060】
比較例1から、第2硬化遅延剤層インキの上に第1硬化遅延剤層インキによる層が設けられた場合であっても、硬化遅延深度に影響しないことがわかる。
【0061】
また、比較例2では、第1硬化遅延剤層と第2硬化遅延剤層とが同じ形状で設けられており、
図2における幅nが「0」となっている。このため、第2硬化遅延剤層インキの影響によるコンクリートの変色部を除去することができず、変色幅の評価が×となっている。
【0062】
比較例3では、第1硬化遅延剤層が取除かれており、第2硬化遅延剤層のみでパターニングが実施されている。このため、比較例2と同様に第2硬化遅延剤層インキの影響によるコンクリートの変色部を取除く事ができず、変色幅の評価が×となっている。
【0063】
比較例4では、第2硬化遅延剤層が取除かれており、第1硬化遅延剤層のみでパターニングが実施されている。このため、硬化遅延深度が0.5mm〜1.0mmと浅くなってしまい、十分な凹部深さが得られていない。
【0064】
しかし、第1硬化遅延剤層インキを用いてパターニングすることにより、コンクリートの変色は低減されていることが判る。
【0065】
以上のように、本発明のプレキャストコンクリート用パターニング工程紙を用いることにより、比較的深い硬化遅延深度を有しながら、コンクリートの変色部を低減することが可能となり、極めて意匠性の高いプレキャストコンクリートを提供することができる。