【文献】
小林洋平他,脳波解析と瞳孔反応,表情反応を用いた感情推定,IEICE Technical Report,2015年 3月,114巻514号,pp.95-100
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態によるストレス判定装置について説明する。本発明の実施形態によるストレス判定装置100の技術的特徴の1つは、脳の深部の状態を観測することでストレスに伴う脳内活性をより的確に捉え、被験者のストレス状態の判定(評価)を行うことである。最初に測定原理について説明し、その後、ストレス判定装置100の装置構成及び情報処理について説明する。
【0023】
[測定原理]
本実施形態における測定においては、脳深部に等価ダイポール電源を仮定している。ここで、このダイポール電位活動を解析するための電位分布測定を、頭皮上に配置した3つの異なる場所に配置された電極に限定して行う場合を考える。脳深部に電源がある場合には、これら3つの電極で観測される電位波形には強い位相関係が存在するという事実に基づいて、この位相関係を評価する。このようにして、脳深部に仮定した等価ダイポール電源の時間的な挙動を近似的に推定する。これは、地震波に例えれば、表層に震源を持つ地震波が観測地点ごとに大きく異なるのに比し、深部に震源を持つ地震波では、近い距離をおいて配置された地震計ではほぼ同じ振幅・位相のP波が観測されることと同等な現象である。
【0024】
本実施形態における測定においては、脳深部の活動に基づいて表面に現れる電位波形は近い距離離れた表面においてはほぼ同位相であることから、3つの電位の符号が同一であるデータのみを加算する方式を定義する。すなわち同一符号のデータのみを演算の対象とすることで、相関を有するデータを抽出することができる。ただし、すべてのデータを演算の対象とすることもできる。
【0025】
具体的な情報処理としては、まず3つの電位信号が入力されると、3つの電位が同符号の信号を選択する。1つの例では、電位の符号を判定する際の基準電位は皮質活動を直接反映しない耳朶が用いられる。他の例では、帯域フィルタやデジタルフィルタで直流分が遮断される場合、それぞれの電極ごとの時間平均から見た正負の符号により判定する。
【0026】
続いて3重相関値を算出する。3重相関値は、3つの電極からの特定の周波帯域(例えばδ波帯域)の電位信号をそれぞれEVA(t)、EVB(t)、EVC(t)としたとき、1つの電極の電位信号に対し、τ1、τ2の時間ずれのある信号との積を使用する。以下に示す式1は3重相関値Stの1つの例示である。ここでTは3重相関値の演算対象時間であり、Δtは各電位信号のデータサンプリング周期であり、Nは規格化するための定数であって、例えば3つの信号の積の計算回数である。
【0027】
ここで、上述の演算で得られる遅延パラメータ空間上の3重相関プロットが、脳深部の等価ダイポール電源の挙動とどのような関係にあるかを、均一媒質からなる球状モデルを用いて説明する。以下では、説明の便宜上、球モデル各部の呼称を地球になぞらえ、北極(NP)、南極(SP)、赤道等と記載する。
【0028】
脳深部の活動は、等価的に、深部に微小電流源があるように脳の表面上で観測されることから、球の中心部に、南極から北極に向かう方向に微小電流源を仮定する。この電流源が球表面上につくる電位分布は、
図2に示すように、北半球では+、南半球では−、赤道上ではゼロ電位となる。また、この電流源は、赤道上180度経度の異なる点P1、P2と、NP、SPを含む面内で、周期T秒で時計方向に回転する。回転角度90度ごとに各時点での球表面電位分布は、
図3、
図4、
図5のように逐次変化する。この電位変化を球の表面上に、面P1、NP、P2、SPに平行な三角形の頂点に、3つの電極A、B、Cを配置する。各電極から測定された電位波形は、式1により相関値が計算され、計算結果が
図6の遅延パラメータ空間上にプロットされる。
【0029】
A、B、Cの各電極の電位の時間発展は
図7のグラフのようになり、各電極は位相差1/3Tの関係で周期Tの正弦波で変化をする。電極Aを基準にみるとこれらの電極の符号が最も一致するτ
1、τ
2の値はそれぞれ1/3+kと2/3+k(kは整数)であり、結果として
図6における縦横方向に黒丸のプロットで示されるような、周期Tでピークを持つ特性が得られる。またこれらのピークからいずれかの電極が半周期ずれるような位置は、1つの電極が必ず他の2つの電極と逆位相になるため電極の符号が一致することはない。そのため白丸のプロットで示されるような位置は値がプロットされない。
【0030】
上述のように、脳深部の等価ダイポール電源の回転を2次元の遅延パラメータ空間上のプロットとして観測することができる。
図7などは、単一の等価ダイポール電源が球状の脳深部で滑らかに回転した場合について記載する。しかしながら、ダイポールが複数ある場合や回転が滑らかでない場合には、
図6上のプロットは、同符号条件を満たす個々のケースが複雑に分布し、遅延パラメータ空間上に細かい凹凸となって現れる。
【0031】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態のストレス判定装置100は、前頭部に配置した3つの電極により自己報酬系の抑制を表すδ波(例えば2〜4Hz)を取得し、3つの時系列データの相関関係から脳の深部の状態を定量的に観測するための値を算出する。ストレス判定装置100は、算出された値をストレス指標値として定め、これにより被験者のストレス状態を判定する。
【0032】
<装置概要>
図1は、本発明の第1の実施形態のストレス判定装置100の概略構成図である。ストレス判定装置100は、脳電位センサ110と、電子装置120と、を含む。
【0033】
脳電位センサ110は、3つの電極111と、電極111で測定された脳電位信号(脳波データ)を電子装置120へ送信する通信部(図示せず)とを含む。電極111は、頭部に接触して取り付けられ、脳活動に基づく脳電位信号を測定する。脳電位センサ110は、基準電極(図示せず)を更に含む。基準電極は不感電極として使用され、例えば耳朶に取り付けられる電極である。通信部は、3つの電極111のそれぞれから取得された脳電位信号と、基準電極から得られた信号とを電子装置120へ送信し、電子装置120が3つの電極111のそれぞれと基準電極との差分を計算し、3つの脳電位信号の入力とする。或いは、通信部は、3つの電極111のそれぞれと基準電極との差分の信号3つを脳電位信号として電子装置120へ送信するように構成してもよい。なお、電極111は、被験者の脳電位を測定することが可能なあらゆるセンサとすることができる。
【0034】
電極111は、被験者が頭部に脳電位センサ110を装着した場合に、
図8に示すような国際10−20法の電極配置にFpz(Fp1、Fp2の中間点として定義)、Oz(O1、O2の中間点として定義)を加えた電極配置のうちのいずれかの位置に配置されるように脳電位センサ110に取り付けられる。
【0035】
1つの例では、脳電位センサ110は、前頭葉深部のδ波を観測するための3電極を用いるため、被験者により装着された場合に、該被験者の前頭部又は側頭部に3つの電極111が配置されるように構成される。この場合、好ましくは、3つの電極111は国際10−20法におけるF7、F8、T3の部位に配置される。
【0036】
好ましくは、脳電位センサ110は、
図1に示すように、被験者が頭部に装着したときに前頭部に電極111が当接するように予め電極111が取り付けられたヘッドギア型の脳電位センサである。脳電位センサ110は、予め電極111が配置されたキャップやヘルメット型等であってもよい。1つの例では、脳電位センサ110は、
図1に示すように、被験者が頭部に装着したときにF7、F8、T3の部位に電極111が当接するように予め電極111が取り付けられたヘッドギア型の脳電位センサである。ただし、脳電位センサ110は、3つ以上の電極110を有し、ストレス判定装置100は、選択的に3つの電極110から取得された脳電位信号を用いるように構成されてもよい。
【0037】
通信部は無線通信を行い、電極111で取得された脳電位信号を電子装置120へ送信する。ただし、イーサネット(登録商標)ケーブル、USBケーブル等を用いた有線通信を行うこともできる。脳電位センサ110は複数の電極111を有し、そのうちの1つの電極111で測定された脳電位信号を、通信部が電子装置120へ送信するように構成することもできる。
【0038】
電子装置120は処理部121、表示部122、入力部123、記憶部124、及び通信部125を備える。これらの各構成部はバス126によって接続されるが、それぞれが必要に応じて個別に接続される形態であってもかまわない。
【0039】
電子装置120は、好ましくはスマートフォンであるが、一般的なコンピュータやタブレット型コンピュータなどとすることもできる。
【0040】
処理部121は、電子装置120が備える各部を制御するプロセッサ(例えばCPU)を備えており、記憶部124(例えばメインメモリ)をワーク領域として各種処理を行う。表示部122は、処理部121の制御に従って、ユーザに対して画面を表示するものであり、例えば液晶ディスプレイから構成される。
【0041】
入力部123は、電子装置に対するユーザからの入力を受け付けるものであり、例えば、タッチパネル、タッチパッド、キーボード、又はマウスである。記憶部124は、ハードディスク、メインメモリ、及びバッファメモリを含む。ハードディスクにはプログラムが記憶される。ただしハードディスクは、情報を格納できるものであればいかなる不揮発性ストレージ又は不揮発性メモリであってもよく、着脱可能なものであっても構わない。また例えば電子装置120がスマートフォンである場合はROM及びRAMを含む。記憶部124には、プログラムや当該プログラムの実行に伴って参照され得る各種のデータが記憶される。
【0042】
通信部125は無線通信を行い、脳電位センサ110からの脳電位信号を受信し、記憶部124に格納する。ただし、イーサネット(登録商標)ケーブル、USBケーブル等を用いた有線通信を行うこともできる。
【0043】
図9は本発明の第1の実施形態のストレス判定装置100の機能ブロック図である。ストレス判定装置100は、脳電位信号取得手段201と、演算手段202とを備える。
【0044】
脳電位信号取得手段201は、被験者の前頭部又は側頭部の表面の3つの異なる位置に取り付けられた電極111を用いて脳電位信号を取得する機能を有するものであり、脳電位センサ110は1つの例示である。脳電位信号取得手段201は、好ましくは、被験者の国際10−20法におけるF7、F8、T3の部位の頭部表面に取り付けられた3つの電極から脳電位信号を取得する機能を有する。
【0045】
演算手段202は、それぞれの電極111において取得された3つの脳電位信号から脳深部の活動に起因する特定の周波数帯(好ましくはδ波帯域)の脳電位データをそれぞれ抽出し、抽出された3つの時系列データの位相関係に基づいてそれぞれの電極111において取得された脳電位信号の相関関係を示す相関値を算出し、該相関値に基づいて被験者のストレス状態を判定する。
【0046】
演算手段202は、プログラムを電子装置120に実行させることで実現される。例えば電子装置120がスマートフォンである場合、プログラムである専用のアプリがダウンロードされて起動されると、演算手段202の機能が実現される。本実施形態では、演算手段202は、以下の情報処理を行うことにより、ストレス状態を判定する。
【0047】
<情報処理>
頭部に取り付けられた3つの電極をEA、EB、ECとすると、演算手段202(電子装置120)は、各電極111から取得される脳電位信号と、基準電極との差として、電位信号VA(t)、VB(t)、VC(t)を取得する。続いて、演算手段202は、デジタルフィルタ等のバンドパスフィルタによりδ波帯域の周波数帯(2〜4Hz)を抽出する。演算手段202は、抽出された電位信号に対して、
図10のフローチャートに示す情報処理を実行する。ただし、演算手段202は、δ波帯域以外の特定の周波数帯を抽出することもできる。
【0048】
図10は、本実施形態による演算手段202が3重相関値Sを算出する情報処理を示すフローチャートである。
図10は、i秒からi+1秒における3重相関値Si(i=1、2、…、T)を算出する処理のフローチャートを示す。なお本フローチャートは、趣旨を逸脱しない範囲において変更することができる。
【0049】
ステップ1001において3つの信号が入力されると、ステップ1002において、それぞれの電極111の電位ごとに標準偏差(σ
A、σ
B、σ
C)で割って規格化(EVA(t) =VA(t)/σ
A、EVB(t) =VB(t)/σ
B、EVC(t) =VC(t)/σ
C)する。この規格化処理は1秒ごとに行うのが好ましいが、これに限定されない。また上記3つの信号は、電極E
Aに対し、電極E
Bはτ1、電極E
Cはτ2の時間のずれを有している。
【0050】
なお前述の周波数抽出処理は、規格化処理後に行われてもよい。また規格化処理の前には、ノイズ処理を行うのが好ましい。ノイズ処理は、例えば、1)±100μV以上のセグメントを除く、2)フラットな電位(25msec以上一定の電位だった場合)を除く、3)±1μV以内の電位が1秒以上続く場合は除く、という処理から構成される。
【0051】
続いてステップ1003において、3つの信号の符号がすべて正(EVA(t)>0、EVB(t-τ1)>0、EVC(t-τ2)>0)、又はすべて負(EVA(t)<0、EVB(t-τ1)<0、EVC(t-τ2)<0)の信号のみを計算対象とする処理をする。
【0052】
ステップ1004において、時間ずれのある3つの電位信号の積を加算することで、3重相関値(3重相関値の1要素)を算出する。3重相関値の算出は、tがt=i+1秒となるまでΔt秒ずつずらして行う(S1006,S1007)。例えば、電位データサンプリング周波数をfs(Hz)とすると、fs=200Hzの場合はΔt=1/fs=0.005秒ずつずらして、3つの電位信号の積を算出する。本フローチャートにおいては3重相関値を算出するとともに3つの信号が正または負になった時の回数Nを求め(S1005)、最後に割る(S1008)。
【0053】
ステップ1003〜ステップ1007では、3つの信号の符号がすべて同符号である場合のtについて、以下に示す式2を計算することにより、3重相関値Siを算出する。
(i=1、2、…、T、τ1=Δt、2Δt、…、1(秒)、τ2=Δt、2Δt、…、1(秒))
【0054】
このようにして、1秒ごとにSiを全データT秒まで算出する(S
1、S
2、・・・、S
T)。T(秒)は好ましくは10(秒)である。上記のとおり、3重相関値は、全データ(T秒)について一度に算出されるのではなく、所定時間ごとに、例えば
図10に示すように1秒ごとに算出される。最終的に算出される3重相関値Sは、T個の3重相関値Siの平均値である。
【0055】
時間ずれτ1、τ2についても、Δt秒ずつずらして3重相関値Sを算出する。τ1及びτ2の取りうる値はΔtの整数倍に等しい1秒以下の時間であるが、これらの値の大きさの最大値は1秒に限定されない。なお3重相関値は、3つの信号の符号判定を行わずに、式2によって算出することもできる。
【0056】
更に演算手段202は、遅延時間τ1、τ2をそれぞれ、Δt秒、2Δt秒、…、1秒ずつずらして算出された3重相関値Sを、2つの遅延パラメータ(τ1、τ2)が形成する特徴空間上にプロットする機能を有する。これにより、2つの遅延パラメータ(τ1、τ2)が形成する特徴空間上にプロットされた3重相関値分布の疑似3次元表示をすることができる。
【0057】
図11は、一の被験者(被験者A)から取得される脳電位信号に基づく3重相関値分布の疑似3次元表示であるが、相関を有しないデータの影響を排除するため、予め定められたtの値、例えばt=i+1、においてEVA(t)、EVB(t−τ1)及びEVC(t−τ2)のすべてが同符号であったSi(τ1,τ2)のみをプロットしたものである。プロットするSiをこのように限定することにより、ノイズを除去し、より良い精度で3重相関値分布の疑似3次元表示を示すことができる。
【0058】
図12は、
図11と同様にして、他の一の被験者(被験者B)から取得される脳電位信号に基づく3重相関値分布の疑似3次元表示である。
図11の特徴空間内の3重相関分布は滑らかであるのに対して、
図12の特徴空間内の3重相関分布は細かいピークが複雑に分布する場合が多いことが確認できる。
【0059】
更に演算手段202は、上記の3重相関値分布の疑似3次元表示を用いて、指標値SDを算出する機能を有する。
図11及び
図12で示したように、2つの遅延時間パラメータ空間内で、被験者Aのデータでは樹木状の分布が規則的に並ぶのに対し、被験者Bのデータでは樹木状の分布の不規則性が大きい。この差を定量的に表現するために、
図13に示すように、樹木の列がτ1、τ2軸に平行となるように、座標軸を回転する。
図13は、
図11に示す3次元表示を上から見た図で、3つの波形が同符号をとる領域を白で表示し、3信号のどれか1つ符号が異なる領域を黒で表す。このような表示をすると、被験者Aの場合には規則的な格子縞となるのに対して、被験者Bの場合には、
図14に示すように、格子縞が乱れることが確認できる。この乱れを定量化した指標が指標値SDである。
【0060】
図13及び
図14に示すように白い四角形の領域は、隣接する白い四角形の領域と、縦横方向にそれぞれ間隔を有する。その間隔を
図15に示すように、dxi(i=1,2、…、m)、dyj(j=1,2、…、n)とする。このdxiとdyjがτ1方向とτ2方向において、それぞれ白い四角形の縦横が均等に並んでいるか、又は白い四角形が乱れて並んでいるかを判断することで乱れ具合を定量化することができる。
【0061】
具体的には式3、式4に示すように、m個のdxiの標準偏差Std_dxとn個のdyjの標準偏差Std_dyを算出する。
【0062】
指標値SDは、式5に示すように、2つの標準偏差の平均値である。
【0063】
上述したように、演算手段202(ストレス判定装置100)は、3重相関値S及び指標値SDを用いて脳深部の状態をストレス指標値(第1のストレス指標値)として定量化して観測し、これにより被験者のストレス状態を判定する。ここで、3重相関値Sは、3つの脳電位信号の相関(位相関係)を示すものであり、一方、指標値SDは、乱れ具合、ばらつき具合を示すものである。
【0064】
1つの例では、演算手段202は、指標値SDを3重相関値Sで割ることにより算出される値をストレス指標値として定め、ストレス指標値により被験者のストレス状態を判定する。この場合、演算手段202は、ストレス指標値SD/Sが大きいほど被験者のストレスが大きいと判断する。1つの例では、ストレス指標値SD/Sが9以上の場合、被験者は高ストレス状態であると判断する。
【0065】
他の例では、演算手段202は、3重相関値Sをストレス指標値として定める。この場合、3重相関値Sが小さいほど被験者のストレスが大きいと判断する。同様にして、他の例では、演算手段202は、指標値SDをストレス指標値として定める。この場合、指標値SDが大きいほど被験者のストレスが大きいと判断する。
【0066】
<実施例>
以下の実験結果により、第1の実施形態のストレス判定装置100を用いて、ストレス状態を判定できることを説明する。
【0067】
本実験においては、被験者18名のそれぞれに対し、安静開眼(120s)、タスク(380s)の状態に順次なってもらい、それぞれの状態における脳電位信号を取得した。このとき被験者に対しては
図2に示す21電極を頭皮上に設置し、21電極から脳電位信号を取得した。本実験において用いた電極は、ストレス判定装置100における電極111と同等のものである。
【0068】
ここで、タスク(漢字)とは、被験者が監視者の前で難読な漢字を大声で読むことを強制された状態(高ストレス状態)であり、安静開眼とは、被験者が目を開けて安静にしている状態(低ストレス状態)である。
【0069】
なお、取得された脳電位信号には(特に前頭部の電極から取得される脳電位信号には)瞬き等による脳波以外の過大生体ノイズが混入するため、脳電位信号の解析を行う前に、これらのノイズを除去し、更に2〜4Hzの周波数帯域(δ波帯域)を抽出した。
【0070】
以下では、F7、F8、T3の部位に取り付けられた電極111から取得された脳電位信号の解析について、例えばストレス指標値の算出について、説明する。
【0071】
図16は、被験者18名の高ストレス状態と低ストレス状態における指標値SD/3重相関値Sの平均値と標準偏差を示す図である。図に示すとおり、算出されるストレス指標値SD/Sが大きいほど被験者のストレスが大きい。1つの例では、被験者のストレス指標値SD/Sが9以上であるとき、被験者はストレスを感じていると判定することができる。
【0072】
図17は、被験者18名の高ストレス状態と低ストレス状態における3重相関値Sと指標値SDをプロットした図であり、一方の軸(横軸)を3重相関値S、他方の軸(縦軸)を指標値SDとした2次元座標を示す。図に示すとおり、当該2次元座標において、被験者の高ストレス状態と低ストレス状態における領域を分離することにより、ストレス状態を判定することができる。
【0073】
なお本実験では、F7、F8、T3の部位に取り付けられた電極111から取得された脳電位信号を用いた解析について説明した。これは、この場合が、ストレス状態と安静状態で最も大きな差が得られたためである。ただし、これらの3つの部位以外に取り付けられた電極111から取得された脳電位信号を用いた場合であっても、同様の結果を得られる場合がある。
【0074】
<作用効果>
このような構成とすることにより、本実施形態では、前頭部又は側頭部に取り付けられた3つの電極111より取得される脳電位信号から3重相関値及び指標値を算出することにより、被験者のストレス状態を判定する。これにより、被験者はストレス状態を判定したい場合に、後頭部よりも電極が取り付けやすい前頭部又は側頭部に電極111を3つ取り付ければよいので、被験者への負担をより低減させることが可能となる。また、脳深部の状態に基づいた定量的なストレス判定を行うことが可能となる。
【0075】
<他の実施例>
図18は、本発明の第1の実施形態の他の実施例によるストレス判定装置100の概略構成図である。ストレス判定装置100は、3つの電極111及び基準電極112を含む頭部装着部113と、3つの電極111と信号ケーブルで接続された3ch増幅器・帯域フィルタ130と、3ch増幅器・帯域フィルタ130と信号ケーブルで接続された電子装置120と、を有する。
【0076】
基準電極112は、基準電位測定用の電極であり、不感電極として使用され、好ましくは耳朶接続用クリップ電極である。基準電極112は、3ch増幅器・帯域フィルタ130に接続される。
【0077】
3つの電極111は、固定具114によって固定される。頭部装着部113は、3つの電極111を固定する固定具114を含む。頭部装着部113は、例えばヘルメットから切り出したブーメラン状プラスティック製の装着部であってもよいし、
図1に示すようなヘッドギア形状の装着部であってもよい。頭部装着部113は、好ましくは、被験者が頭部装着部113を装着した場合に、3つの電極が国際10−20法におけるFp1、Fp2、F8の部位に当接するように電極が配置されている。電極111は、好ましくは生理食塩水を含んだ多孔質ファイバー電極であり、電極111上部は導線接続用金属円筒で構成される。
【0078】
図19は、他の実施例によるストレス判定装置100の帽子装着型電極の外観概要図である。
図20は、基準電位測定用の導電性ゴム電極の外観概要図である。頭部装着部113は、メッシュ状帽子に測定用の電極111が3つ取り付けられたものである。電極111はプリアンプ115と接続されたシールドケーブル116と接続され、好ましくは食塩水を含んだ多孔質導電性ゴムが使用される。
【0079】
プリアンプ115は、3ch増幅器・帯域フィルタ130の増幅器の機能を有するものであり、帯域フィルタを経由して電子装置120に接続される。基準電極112は、プリアンプ115と電気的に接続された導電性ゴム電極117であり、これによって耳朶接続用クリップ電極は不要となる。ここで、導電性ゴム状の電位均一化と、プリアンプ115からのケーブル接続の際の接触抵抗の低減を図るため、円周状の導電性ゴム電極117と帽子の間には金属フィルム118が設置される。
【0080】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態のストレス判定装置100は、第1の実施形態のストレス判定装置100と同様の構成を有し、被験者の脈拍を測定する脈拍センサを更に備えたものである。
【0081】
生体がストレスを受けると、一次的には情動の発現を司る扁桃体の活動が活発になるが、その結果は、2次的な反応として、前頭深部に位置する側坐核を中心として自己報酬系への抑制がもたらされる。これと並行して、扁桃体の活動は、情動の発現機構の一つである視床下部に位置する自律神経系にも働きかけ、心拍数や血圧にも影響が及ぼされる。特に、心拍数については、ストレスの少ない生体については、呼吸や精神活動に伴い、通常数%の心拍ゆらぎが見られ、自律神経系が正常に働いていることの証とも考えられている。第2の実施形態のストレス判定装置100は、ストレス状態をより精度よく判定するために、脈拍データを更に用いてストレス状態を判定する。
【0082】
第2の実施形態のストレス判定装置100においても、第1の実施形態のストレス判定装置100と同様にして、3重相関値Sや指標値SDを用いる。本実施形態において、3重相関値Sの算出や指標値SDの算出など、脳深部の状態の観測に関しては第1の実施形態と同様であるため、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0083】
第2の実施形態のストレス判定装置100は、脳電位センサ110と、電子装置120と、脈拍センサ(図示せず)を含む。脈拍センサは、被験者の脈拍データを取得することが可能なあらゆるセンサとすることができる。脈拍センサは、脈拍データを脈拍信号として電子装置120へ送信する通信部(図示せず)を含む。通信部は無線通信を行い、脈拍センサで取得された脈拍データを電子装置120へ送信する。ただし、イーサネット(登録商標)ケーブル、USBケーブル等を用いた有線通信を行うこともできる。
【0084】
図21は本発明の第2の実施形態のストレス判定装置100の機能ブロック図である。ストレス判定装置100は、脳電位信号取得手段201と、演算手段202と、脈拍信号取得手段203とを備える。脳電位信号取得手段201及び演算手段202は、第1の実施形態のストレス判定装置100と同様の機能を有する。以下では、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0085】
脈拍信号取得手段203は、被験者の脈拍信号(脈拍データ)を取得する機能を有するものであり、脈拍センサは1つの例示である。本実施形態では、演算手段202は、以下の情報処理を行うことにより、ストレス状態を判定する。
【0086】
図22は、本発明の第2の実施形態のストレス判定装置100のデータ処理ブロック図である。図に示すように、演算手段202(ストレス判定装置100)は、脳電位データを取得し(S2201)、例えばSD/Sなどのストレス指標値(第1のストレス指標値)を算出する(S2202)。当該情報処理は、第1の実施形態のストレス判定装置100と同様である。上記処理とは別に、演算手段202は、脈拍データを取得し(S2211)、脈拍データに基づいてストレス指標値(第2のストレス指標値)を算出する(S2212)。演算手段202は、上記のとおり算出された2つの指標値を用いて、被験者のストレス状態を判定する(S2221)。
【0087】
このとき、同じ時間に取得される脳電位データ及び脈拍データに基づいた2つの指標値により判定を行うため、演算手段202は、好ましくは、第1のストレス指標値にデータ遅延をつける(S2203)。これはストレス状態を判定するための脈拍データの取得は数分、例えば2〜3分、程度必要であることから、第2のストレス指標値の算出は、脳波から直接観測して算出される第1のストレス指標値の算出よりも時間を要するためである。ただし、データ遅延の処理は、ステップ2221のデータ演算と同時に実行してもよい。
【0088】
次に、ステップ2212における第2のストレス指標値の算出処理について説明する。演算手段202は、脈拍信号から脈拍のRR間隔の時系列データである脈拍間隔データを生成する。
【0089】
演算手段202は、脈拍間隔データに対して離散フーリエ変換を行うことで周波数スペクトルを算出する。演算手段202は、周波数スペクトルにおける低周波数成分である第1の周波数帯域内の各周波数のスペクトル強度の合計値の、第1の周波数帯域より高い周波数帯域であって第1の周波数帯域とは異なる第2の周波数帯域内の各周波数のスペクトル強度の合計値に対する比率を算出する。例えば、周波数スペクトルは、0〜1Hzの周波数帯域で算出し、第1の周波数帯域は0.05〜0.15Hz、第2の周波数帯域は0.15〜0.40Hzである。
【0090】
演算手段202は、算出された比率を第2のストレス指標値として定め、第1のストレス指標値及び第2のストレス指標値に基づいてストレス状態を判定する。1つの例では、一方の軸(横軸)を第2のストレス指標値、他方の軸(縦軸)を第1のストレス指標値とした2次元座標において、被験者の高ストレス状態と低ストレス状態における領域を分離することによりストレス状態を判定することができる。
【0091】
第2の実施形態の他の実施例においては、演算手段202は、脈拍間隔データから脈拍間隔値ごとの出現頻度を示す脈拍ヒストグラムを生成する。演算手段202は、脈拍ヒストグラムにおける、脈拍間隔が大きい方から順に抽出された所定量のデータの分散の合計値の、脈拍間隔が小さい方から順に抽出された所定量のデータの分散の合計値に対する比率を算出する。1つの例では、演算手段202は、脈拍ヒストグラムにおいて、脈拍間隔が大きい方から順に抽出された複数のデータであって該脈拍ヒストグラムを構成するデータのうちの7%に相当する量のデータの分散の合計値の、脈拍間隔が大きい方から順に抽出された当該7%に相当する量のデータの分散の合計値に対する比率を算出する。
【0092】
演算手段202は、算出された比率を第2のストレス指標値として定め、第1のストレス指標値及び第2のストレス指標値に基づいてストレス状態を判定する。1つの例では、一方の軸(横軸)を第2のストレス指標値、他方の軸(縦軸)を第1のストレス指標値とした2次元座標において、被験者の高ストレス状態と低ストレス状態における領域を分離することによりストレス状態を判定することができる。
【0093】
<実施例>
以下の実験結果により、第2の実施形態のストレス判定装置100を用いて、ストレス状態を判定できることを説明する。実験の条件は、第1の実施形態の場合と同様であるが、本実験においては、第1のストレス指標値算出のためにF7、F8、T3から脳電位信号を取得するとともに、第2のストレス指標値算出のために被験者18名それぞれから脈拍信号を取得した。
図23は、低ストレス状態において脈拍信号から生成された脈拍間隔データを示し、
図24は、高ストレス状態において脈拍信号から生成された脈拍間隔データを示す。
【0094】
図25は、
図23の脈拍間隔データに対して離散フーリエ変換を行うことにより生成された周波数スペクトルを示し、
図26は、
図24の脈拍間隔データに対して離散フーリエ変換を行うことにより生成された周波数スペクトルを示す。ここで、各被験者の低ストレス状態と高ストレス状態のそれぞれにおいて、低周波数帯域(0.05〜0.15Hz)のスペクトル強度の、高周波数帯域(0.15〜0.40Hz)のスペクトル強度に対する比率(LF/HF)を算出し、第2のストレス指標値とする。
【0095】
図27は、被験者18名の高ストレス状態と低ストレス状態における第1のストレス指標値(SD/S)と第2のストレス指標値(LF/HF)をプロットした図であり、一方の軸(横軸)をLF/HF、他方の軸(縦軸)をSD/Sとした2次元座標を示す。図に示すとおり、当該2次元座標において、被験者の高ストレス状態と低ストレス状態における領域を分離することにより、ストレス状態を判定することができる。1つの例では、F1=3(LF/HF)+SD/S−12.5と定め、F1>0であれば高ストレス状態であると判定し、F1≦0であれば低ストレス状態と判定する。ただし、F1の示す式は一例であって、これに限定されない。
【0096】
<作用効果>
このような構成とすることにより、本実施形態では、前頭部又は側頭部に取り付けられた3つの電極111より取得される脳電位信号から第1のストレス指標値を算出するとともに、脈拍センサから取得される脈拍信号から第2のストレス指標値を算出することにより、被験者のストレス状態を判定する。これにより、被験者はストレス状態を判定したい場合に、後頭部よりも電極が取り付けやすい前頭部又は側頭部に電極111を3つ取り付け、更に脈拍信号を測定すればよいため、被験者への負担をより低減させることが可能となる。また、脳深部の状態及び脈拍の状態に基づいた定量的なストレス判定を行うことが可能となる。
【0097】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態のストレス判定装置100は、第1の実施形態のストレス判定装置100と同様の構成を有するとともに、更に3つの電極111を用いて特定の周波数帯(好ましくはθ波帯域)の脳電位信号を取得する構成を有するものである。
【0098】
生体がストレスを受けると、側頭葉内側の奥に存在する扁桃体の活動が活発になるが、その結果として、側頭葉近傍の脳波に影響が出現していると考えられ、すなわち側頭から後頭に跨る3電極(T3、C3、T5)間の波形のコヒーレンスは高くなっていることが予想される。コヒーレンスの度合いは、ここでは3電極の波形の主成分分析の第一主成分相対寄与度(PCA)により表すことができる。第3の実施形態のストレス判定装置100は、ストレス状態をより精度よく判定するために、PCAを更に用いてストレス状態を判定する。
【0099】
第3の実施形態のストレス判定装置100においても、第1の実施形態のストレス判定装置100と同様にして、3重相関値Sや指標値SDを用いる。本実施形態において、3重相関値Sの算出や指標値SDの算出など、脳深部の状態の観測に関しては第1の実施形態と同じであるため、第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0100】
本発明の第3の実施形態のストレス判定装置100の機能ブロック図は第1の実施形態のストレス判定装置100と同様である。ストレス判定装置100は、脳電位信号取得手段201と、演算手段202とを備える。脳電位信号取得手段201及び演算手段202は、第1の実施形態のストレス判定装置100と同様の機能を有する。
【0101】
本実施形態においては、脳電位信号取得手段201は、第1の実施形態における電極111の位置とは異なる、被験者の側頭部又は後頭部の表面に更に取り付けられた3つの電極111を用いて被験者の脳電位信号を更に取得する。3つの電極は、被験者の側頭部又は後頭部の表面の3つの異なる位置に取り付けられたものである。脳電位信号取得手段201は、好ましくは、被験者の国際10−20法におけるT3、C3、T5の部位の頭部表面に取り付けられた3つの電極から脳電位信号を取得する機能を有する。本実施形態では、演算手段202は、以下の情報処理を行うことにより、ストレス状態を判定する。
【0102】
図28は、本発明の第3の実施形態のストレス判定装置100のデータ処理ブロック図を示す。図に示すように、演算手段202(ストレス判定装置100)は、脳電位データを取得し(S3101)、取得された3つの脳電位信号から脳深部の活動に起因する特定の周波数帯(好ましくはδ波帯域)の脳電位データをそれぞれ抽出し(S3102)、例えばSD/Sなどの第1のストレス指標値を算出する(S3103)。当該情報処理は、第1の実施形態のストレス判定装置100と同様である。上記処理とは別に、演算手段202は、ステップ3101において脳電位データを取得する位置とは異なる被験者の頭部表面から脳電位データを取得し(S3111)、取得された3つの脳電位信号から扁桃体の活動に起因する特定の周波数帯(好ましくはθ波帯域、例えば5〜8Hz)の脳電位データをそれぞれ抽出し(S3112)、ストレス指標値(第3のストレス指標値)を算出する(S3113)。演算手段202は、上記のとおり算出された2つの指標値を用いて、被験者のストレス状態を判定する(S3121)。
【0103】
次に、ステップ3113における第3のストレス指標値の算出処理について説明する。演算手段202は、ステップ3112においてそれぞれ抽出された扁桃体の活動に起因する特定の周波数帯(好ましくはθ波帯域)の3つの時系列データに対して主成分分析を行う。当該主成分分析においては、3つの脳電位データの値が変数である。演算手段202は、主成分分析を行うことにより、第1主成分寄与率(比率)を算出する。
【0104】
演算手段202は、第1主成分寄与率を第3のストレス指標値として定め、第1のストレス指標値及び第3のストレス指標値に基づいてストレス状態を判定する。1つの例では、一方の軸(横軸)を第3のストレス指標値、他方の軸(縦軸)を第1のストレス指標値とした2次元座標において、被験者の高ストレス状態と低ストレス状態における領域を分離することによりストレス状態を判定することができる。
【0105】
ここで第3の実施形態のストレス判定装置100の実施例を説明する前に、θ波帯域の脳電位に基づいて算出されたPCA(PCAθ)と主観評価の相関関係を示す実験について説明する。
【0106】
図29は、恐怖画像、リラックス画像、喜び画像、及び悲しみ画像を被験者5名に見せたときのアンケートのうち、高ストレス状態と考えられる「イライラした」とその対極の「リラックスした」の項目の点数と、PCAとの相関係数の関係を示す図である。図から、「イライラした」とPCAは、5名中4名が正の相関、「リラックスした」とPCAは、5名全員が負の相関となっていることが分かる。またPCAは、高ストレス状態では高い数値に、低ストレス状態では低い数値になる傾向があることが分かる。
【0107】
<実施例>
以下の実験結果により、第3の実施形態のストレス判定装置100を用いて、ストレス状態を判定できることを説明する。実験の条件は、第1の実施形態の場合と同様であるが、本実験においては、第1のストレス指標値算出のためにF7、F8、T3の部位の頭部表面から脳電位信号を取得するとともに、第3のストレス指標値算出のためにT3、C3、T5の部位の頭部表面から脳電位信号を取得した。ここで、各被験者の低ストレス状態と高ストレス状態のそれぞれにおいて、扁桃体の活動に起因するθ波帯域(5〜8Hz)の3つの時系列データに対して主成分分析を行うことで第1主成分寄与率(比率)を算出し、第3のストレス指標値とする。
【0108】
図30は、被験者18名の高ストレス状態と低ストレス状態における第1のストレス指標値(SD/S)と第3のストレス指標値(PCAθ)をプロットした図であり、一方の軸(横軸)をPCAθ、他方の軸(縦軸)をSD/Sとした2次元座標を示す。図に示すとおり、当該2次元座標において、被験者の高ストレス状態と低ストレス状態における領域を分離することにより、ストレス状態を判定することができる。1つの例では、F3=12.4*PCAθ+SD/S−20と定め、F3>0であれば高ストレス状態であると判定し、F3≦0であれば低ストレス状態と判定する。ただし、F3の示す式は一例であって、これに限定されない。
【0109】
<作用効果>
このような構成とすることにより、本実施形態では、前頭部又は側頭部に取り付けられた3つの電極111より取得される脳電位信号から第1のストレス指標値を算出するとともに、側頭部又は後頭部に取り付けられた3つの電極111より取得される脳電位信号から第3のストレス指標値を算出することにより、被験者のストレス状態を判定する。これにより、被験者はストレス状態を判定したい場合に、電極111を6つ取り付ければよいため、被験者への負担をより低減させることが可能となる。また、脳深部の状態及び扁桃体の状態に基づいた定量的なストレス判定を行うことが可能となる。
【0110】
以上に説明した処理又は動作において、矛盾が生じない限りにおいて、処理、動作及び組み合わせを自由に変更することができる。また以上に説明してきた各実施例又は実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの実施例又は実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、種々の形態で実施することができる。また、本実施形態に記載された効果は、本発明から生じる好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。