特許第6880757号(P6880757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880757
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】経口液体組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20210524BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20210524BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20210524BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20210524BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20210524BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20210524BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20210524BHJP
   C07H 17/07 20060101ALN20210524BHJP
【FI】
   A23L2/00 F
   A23L2/00 T
   A61K31/7048
   A61K47/36
   A61K9/08
   A61K47/12
   A61P39/06
   !C07H17/07
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-5497(P2017-5497)
(22)【出願日】2017年1月17日
(65)【公開番号】特開2017-131215(P2017-131215A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2020年1月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-10517(P2016-10517)
(32)【優先日】2016年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堂本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茜
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 貴則
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−010405(JP,A)
【文献】 特開2015−109875(JP,A)
【文献】 特開2016−003223(JP,A)
【文献】 特開2008−247858(JP,A)
【文献】 特開2012−036110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−35/00
A61K 6/00−51/00
A61P 39/00−39/06
C07H 17/00−17/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ナリンジン及び/又はルチン、並びに
(B)難消化性デキストリン及びポリデキストロースより選ばれる1種以上の食物繊維を
含み、(B)の含有量が(A)1質量部に対して20質量部以上であることを特徴とし、次のi)及びii)を満たす経口液体組成物。
i)(A)の濃度が50mg/100ml以上250mg/100ml以下
ii)(B)の濃度が5g/100ml以上
【請求項2】
さらに、(C)安息香酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の経口液体組成物。
【請求項3】
(C)の含有量が、(A)1質量部に対して3質量部以上である、請求項2に記載
の経口液体組成物。
【請求項4】
pH範囲が2〜7であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の経口液体組成
物。
【請求項5】
炭酸飲料である、請求項1〜4のいずれかに記載の経口液体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口液体組成物に関し、医薬品、医薬部外品及び食品等の分野において利用されうる。
【背景技術】
【0002】
ポリフェノールの一種であるフラボノイド類は、柑橘様の苦味を呈するナリンジン、高い抗酸化作用を有するルチンなど有用な様々な生理活性物質がある。しかしながらpHが中性以下の領域で難溶性であることから、食品及び医薬品などの製品への応用に際し、十分な濃度を添加できないなど産業利用上の制約が生じていた。
これら課題に対し、特開平7−107972(特許文献1)においては、フラボノイド類の配糖体を生成して可溶化フラボノイド類を製造する方法が記載されており、フラボノイド糖転移物の生成量を最も高める方法として、pH8〜10のβ−サイクロデキストリン溶液にヘスペリジンを溶解して、ヘスペリジンの溶解度を最大に高めた上で、中性のものと生産性の変わらない耐アルカリ性のサイクロデキストリン合成酵素を作用させる方法が提案されている。
また特開2000−236856号公報(特許文献2)には、ヘスペリジン配糖体を柑橘果汁飲料に添加した上で加熱処理することにより果汁中に含まれるヘスペリジンおよびナリンジン等のフラボノイド化合物の大部分を溶解する方法の発明が記載されている。
特許文献1においては、大量のサイクロデキストリンを必要とし、さらに高pHにて溶液を調製する必要があるため、本来不要なpH調製剤の添加に由来する金属塩を過剰に摂取せざるを得ず、またそれに伴い風味の質が低下する弊害が生じる。
特許文献2においては、元来果汁中に含まれるフラボノイドに対する溶解方法であり、さらに加熱処理を伴うため風味の質が低下する弊害が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−107972号
【特許文献2】特開2000−236856号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、溶解性の低いポリフェノールを含有した経口液体組成物に関して、ポリフェノールの析出を抑制し、特に、製造過程において取扱いやすい経口液体組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ナリンジン及び/又はルチンを経口液体組成物に配合するにあたり、難消化性デキストリン又はポリデキストロースから選ばれる1種以上の食物繊維を添加することによってナリンジン及び/又はルチンの経時的な析出の抑制が可能であることを見出した。さらに、安息香酸ナトリウムを添加することで、当該ポリフェノールの析出抑制効果がより高まることを見出した。
【0006】
かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
(1)(A)ナリンジン及び/又はルチン、並びに
(B)難消化性デキストリン及びポリデキストロースより選ばれる1種以上の食物繊維を含み、(B)の含有量が(A)1質量部に対して20質量部以上であることを特徴とする経口液体組成物、
(2)さらに、(C)安息香酸ナトリウムを含む、(1)に記載の経口液体組成物、
(3)(C)の含有量が、(A)1質量部に対して3質量部以上である、(2)に記載の経口液体組成物、
(4)pH範囲が2〜7であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の経口液体組成物、
(5)炭酸飲料である、(1)〜(4)のいずれかに記載の経口液体組成物、
(6)(A)ナリンジン及び/又はルチンの濃度が1mg/L以上10g/L以下である(1)〜(5)のいずれかに記載の経口液体組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、溶解性の低いポリフェノールを含有した経口液体組成物に関して、ポリフェノールの析出を抑制し、特に、製造過程において取扱いやすい経口液体組成物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0008】
「ナリンジン」は、ナリンギンともいい、分子式C273214で表される、水に難溶性の物質である。グレープフルーツやはっさくの果皮、果汁又は種子に含まれるフラバノンの配糖体であり、水、エタノール又はそれらの混液を用いて抽出・分離して得られる。本発明における水溶液中のナリンジン濃度は、通常、1mg/L以上10g/L以下であり、1mg/L以上5g/L以下であることが好ましく、10mg/L以上2.5g/L以下がより好ましく、20mg/L以上2.5g/L以下がさらに好ましい。
【0009】
「ルチン」は、C273016であらわされる、水に難溶性の物質である。エンジュ、ソバやアズキなどに含まれるフラボノイドの配糖体である。本発明における水溶液中のルチン濃度は、通常、1mg/L以上10g/L以下であり、1mg/L以上5g/L以下であることが好ましく、10mg/L以上2.5g/L以下がより好ましく、20mg/L以上2.5g/L以下がさらに好ましい。
【0010】
「難消化性デキストリン」は、澱粉の加水分解・熱分解により生成され、ヒトの消化酵素によって分解されない特徴を有する水溶性植物繊維である。本発明における難消化性デキストリンの含有量は、ナリンジン及び/又はルチン1質量部に対して20質量部以上であることが好ましく、40質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましい。
【0011】
「ポリデキストロース」とはトウモロコシを由来とする水溶性食物繊維である。ブドウ糖、ソルビトールを混合し、クエン酸を加えることにより生成することができる。本発明におけるポリデキストロースの含有量は、ナリンジン及び/又はルチン1質量部に対して20質量部以上であることが好ましく、40質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましい。
【0012】
「安息香酸ナトリウム」は安息香酸の水溶性のナトリウム塩であり、清涼飲料の保存料として用いられている。本発明における安息香酸ナトリウムの含有量は、ナリンジン及び/又はルチン1質量部に対して3質量部以上であることが好ましく、6質量部以上であることがより好ましい。
【0013】
「経口液体組成物」とは、食品の飲料、経口液剤の形態である医薬品または医薬部外品を指す。風味や粘性の範囲が限定されるものではなく、果肉など一部固形物を含有する形態も含まれる。本発明においては、pHは2〜7が好ましく、2〜5がより好ましい。
【0014】
本発明における炭酸飲料のガスボリュームは、炭酸飲料としての服用性という観点から0.5〜5.0が好ましく、1.3〜4.0がより好ましい。ガスボリュームとは、溶液中に同一体積の何倍の炭酸ガスが溶解しているかを表した数値で、単位はない。
【0015】
また、その他の成分として、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸及びその塩類、生薬、生薬抽出物、カフェイン、ローヤルゼリー等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。さらに必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、保存剤、甘味料等の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0016】
本発明の経口液体組成物を調製する方法は、特に限定されるものではない。通常、各成分を適量の精製水で溶解し、さらに精製水を加えて容量調整する。ナリンジン、ルチンの溶解方法は手段を問わず、例えば、超音波を照射する、加温する、少量の有機溶媒に溶解させる、などの方法がある。溶液は、必要に応じて濾過、滅菌処理を施すことにより、経口液体組成物として提供することができる。
【実施例】
【0017】
以下に、実施例等を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
(試験例1)
精製水に、表2〜5に示す処方に従い、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、安息香酸ナトリウムを適宜濃度で溶解し、精製水又は炭酸水、別途溶解させたナリンジン溶液を加えて混ぜ、実施例1〜8、比較例1〜10の試験液を得た。ナリンジンは超音波照射により溶解させた。試験液10mLを15mLガラス試験管に入れ室温で静置し、継続的に性状を観察し、表1の基準に従って評価した。実施例1〜6及び比較例1〜3は、試験液調整2日後に評価を実施した。実施例7〜8及び比較例4〜10は、試験液調整4日後に評価を実施した。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
【表3】
【0021】
【表4】
【0022】
【表5】
【0023】
比較例に比べ、実施例1〜8においては難消化性デキストリン、ポリデキストロースの添加によりナリンジンの経時的な析出を低減することが可能となった。また、実施例7で示されるように、安息香酸ナトリウムの添加により、さらに、経時的な析出の低減が認められた。一方、比較例2、3、5、8のように、難消化性デキストリン、ポリデキストロースの配合割合が低いと析出は抑制できなかった。
【0024】
(試験例2)
精製水に、表6に示す処方に従い、アラビアガムを適宜濃度で溶解し、精製水、別途溶解させたナリンジン溶液を加えて混ぜ、比較例11〜12の試験液を得た。ナリンジンは超音波照射により溶解させた。試験液10mLを15mLガラス試験管に入れ室温で静置し、継続的に性状を観察し、表1の基準に従って評価した。比較例11〜12は、試験液調整2日後に評価を実施した。
【0025】
【表6】
【0026】
比較例12は、比較例11と同程度の析出が観察された。アラビアガムではナリンジンの析出を抑制できなかった。
【0027】
(試験例3)
精製水に、表7の処方に従い、難消化性デキストリン、ポリデキストロースを適宜濃度で溶解し、精製水、別途溶解させたルチン溶液を加えて混ぜ、実施例9〜11、比較例13の試験液を得た。ルチンは超音波照射により溶解させた。試験液10mLを15mLガラス試験管に入れ室温で静置し、継続的に性状を観察し、表1の基準に従って評価した。比較例13及び実施例9〜11は、試験液調整1時間後に評価を実施した。
【0028】
【表7】
【0029】
多量の析出が確認できた比較例13に比べ、実施例9〜11は析出抑制効果が認められた。
【0030】
(製剤例)
表8に記載の処方に従い、各成分を精製水に溶解し、ナリンジンは超音波照射により溶解させた。継続的に性状を観察したところ、水溶液調整6日後でも、ナリンジンの析出は抑制されており、良好な結果を示した。
【0031】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明により、溶解性の低いポリフェノールを含有する経口液体組成物に関して、ポリフェノールの析出を抑制し、特に、製造過程においてポリフェノールの析出が抑制された取扱いやすい経口液体組成物を提供することが可能となった。よって、本発明を医薬品、医薬部外品及び食品として提供することにより、これらの産業の発達が期待される。