特許第6880768号(P6880768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880768
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/04 20060101AFI20210524BHJP
   B60C 15/00 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   B60C15/04 C
   B60C15/00 C
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-9676(P2017-9676)
(22)【出願日】2017年1月23日
(65)【公開番号】特開2018-118553(P2018-118553A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2020年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 好司
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−032124(JP,A)
【文献】 特開2001−010311(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0106627(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードワイヤを環状かつ多重に巻き廻して成る一対のビードコアを備える空気入りタイヤであって、
前記ビードコアの径方向の断面視にて、前記ビードコアが、1本あるいは複数本の前記ビードワイヤを最密状態で巻き廻して成る六角形のワイヤ配列構造を有し、
前記六角形が、すべての頂点で鈍角な内角をもつ凸六角形であり、
前記ビードコアの最も内径側にある前記六角形の頂点を第一頂点P1として定義し、第一頂点P1を含みタイヤ幅方向外側に延在する前記六角形の辺を第一辺S12として定義し、前記六角形の第一辺S12に平行な軸をX軸として定義すると共に、X軸に垂直な軸をY軸として定義し、
Y軸方向におけるワイヤ断面の層数Mと、X軸方向における前記ワイヤ断面の配列数Nの最大値N_maxとが、0.75≦M/N_max≦1.30の関係を有し、且つ、
タイヤ幅方向の最も内側にある前記六角形の頂点から前記六角形の重心までのタイヤ幅方向の距離Aと、タイヤ幅方向の最も外側にある前記六角形の頂点から前記六角形の重心までのタイヤ幅方向の距離Bとが、1.05≦B/Aの関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
ビードワイヤを環状かつ多重に巻き廻して成る一対のビードコアを備える空気入りタイヤであって、
前記ビードコアの径方向の断面視にて、前記ビードコアが、1本あるいは複数本の前記ビードワイヤを最密状態で巻き廻して成る六角形のワイヤ配列構造を有し、
前記六角形が、すべての頂点で鈍角な内角をもつ凸六角形であり、
前記ビードコアの最も内径側にある前記六角形の頂点を第一頂点P1として定義し、第一頂点P1を含みタイヤ幅方向外側に延在する前記六角形の辺を第一辺S12として定義し、前記六角形の第一辺S12に平行な軸をX軸として定義すると共に、X軸に垂直な軸をY軸として定義し、
前記六角形の各辺におけるワイヤ断面の配列数が、前記六角形の第一辺S12からタイヤ幅方向外側に向かって順にN12、N23、N34、N45、N56、N61として定義され、
前記六角形の3組の対辺における前記ワイヤ断面の配列数が、2≦N12−N45=N34−N61=N56−N23≦3の条件を満たし、且つ、
前記六角形の第一辺S12に隣り合うタイヤ幅方向外側の辺S23における前記ワイヤ断面の配列数N23と、タイヤ幅方向内側の辺S61における前記ワイヤ断面の配列数N61とが、1≦N61−N23の関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項3】
Y軸方向における前記ワイヤ断面の層数Mと、X軸方向における前記ワイヤ断面の配列数Nの最大値N_maxとが、0.75≦M/N_max≦1.30の関係を有する請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記六角形のすべての内角が、105[deg]以上135[deg]以下の範囲にある請求項2または3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ビードワイヤがX軸方向に螺旋状に巻き廻されて、前記ワイヤ断面の層が形成されると共に、複数の前記ワイヤ断面の層が前記六角形の第一辺S12における前記ワイヤ断面の層を最内層としてY軸方向に積層されて、前記ビードコアが形成される請求項1〜4のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記ビードコアが、1本の前記ビードワイヤを前記最密状態で巻き廻して成る前記六角形のワイヤ配列構造を有する請求項1〜5のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記六角形の第一辺S12における前記ワイヤ断面の配列数N12が、5≦N12の範囲にある請求項1〜6のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記六角形の第一辺S12に隣り合うタイヤ幅方向外側の辺S23におけるワイヤ断面の配列数N23が、2≦N23の範囲にある請求項1〜7のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記六角形の第一辺S12における前記ワイヤ断面の配列数N12と、X軸方向における前記ワイヤ断面の配列数Nの最大値N_maxとが、1≦N_max−N12の関係を有する請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
Y軸方向に隣り合う任意の前記ワイヤ断面の層における前記ワイヤ断面の配列数Nの差が、−1、0または1である請求項1〜のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記六角形の重心が、前記ビードコアのY軸方向の中央に位置する前記ビードワイヤの層からY軸方向の内径側にある請求項1〜10のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記一対のビードコア間に架け渡されたカーカス層を備え、且つ、
前記カーカス層の端部が、前記ビードコアを包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される請求項1〜11のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、ビードコアの耐コア崩れ性を適正に確保しつつビード・トゥの浮き上がり変形を効率的に抑制できる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トラック、バスに装着される重荷重用タイヤでは、車両走行時におけるビード・トゥの浮き上がり変形を抑制すべき課題がある。かかる浮き上がり変形は、タイヤの再インフレート容易性が悪化する原因となり、また、タイヤ更生時にて台タイヤの適正を損なう原因となるため、好ましくない。かかる課題に関する従来の重荷重用タイヤとして、特許文献1〜3に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5071137号公報
【特許文献2】特開平2−37003号公報
【特許文献3】特開平2−286408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ビード・トゥの浮き上がり変形を抑制するためには、ビードコアを構成するビードワイヤの巻き付け数を増加させることが効果的である。しかしながら、ビードワイヤの巻き付け数が増加すると、ビードコアおよび周辺部材(例えば、ビードフィラーなどのゴム材料)の材料コストが増加するという課題がある。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ビードコアの耐コア崩れ性を適正に確保しつつビード・トゥの浮き上がり変形を効率的に抑制できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明にかかる空気入りタイヤは、ビードワイヤを環状かつ多重に巻き廻して成る一対のビードコアを備える空気入りタイヤであって、前記ビードコアの径方向の断面視にて、前記ビードコアが、1本あるいは複数本の前記ビードワイヤを最密状態で巻き廻して成る六角形のワイヤ配列構造を有し、前記六角形が、すべての頂点で鈍角な内角をもつ凸六角形であり、前記ビードコアの最も内径側にある前記六角形の頂点を第一頂点P1として定義し、第一頂点P1を含みタイヤ幅方向外側に延在する前記六角形の辺を第一辺S12として定義し、前記六角形の第一辺S12に平行な軸をX軸として定義すると共に、X軸に垂直な軸をY軸として定義し、Y軸方向におけるワイヤ断面の層数Mと、X軸方向における前記ワイヤ断面の配列数Nの最大値N_maxとが、0.75≦M/N_max≦1.30の関係を有し、且つ、タイヤ幅方向の最も内側にある前記六角形の頂点から前記六角形の重心までのタイヤ幅方向の距離Aと、タイヤ幅方向の最も外側にある前記六角形の頂点から前記六角形の重心までのタイヤ幅方向の距離Bとが、1.05≦B/Aの関係を有することを特徴とする。
【0007】
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、ビードワイヤを環状かつ多重に巻き廻して成る一対のビードコアを備える空気入りタイヤであって、前記ビードコアの径方向の断面視にて、前記ビードコアが、1本あるいは複数本の前記ビードワイヤを最密状態で巻き廻して成る六角形のワイヤ配列構造を有し、前記六角形が、すべての頂点で鈍角な内角をもつ凸六角形であり、前記ビードコアの最も内径側にある前記六角形の頂点を第一頂点P1として定義し、第一頂点P1を含みタイヤ幅方向外側に延在する前記六角形の辺を第一辺S12として定義し、前記六角形の第一辺S12に平行な軸をX軸として定義すると共に、X軸に垂直な軸をY軸として定義し、前記六角形の各辺におけるワイヤ断面の配列数が、前記六角形の第一辺S12からタイヤ幅方向外側に向かって順にN12、N23、N34、N45、N56、N61として定義され、前記六角形の3組の対辺における前記ワイヤ断面の配列数が、2≦N12−N45=N34−N61=N56−N23≦3の条件を満たし、且つ、前記六角形の第一辺S12に隣り合うタイヤ幅方向外側の辺S23における前記ワイヤ断面の配列数N23と、タイヤ幅方向内側の辺S61における前記ワイヤ断面の配列数N61とが、1≦N61−N23の関係を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明にかかる空気入りタイヤでは、(1)ビードコアがビードワイヤを最密状態で巻き廻して成ると共に鈍角な内角をもつ凸六角形のワイヤ配列構造を有するので、ビードコアの耐コア崩れ性が適正に確保される利点がある。また、(2)ビードコアのワイヤ配列構造が適正化されることにより、ビード・トゥの浮き上がり変形を効率的に抑制できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
図2図2は、図1に記載した空気入りタイヤのビード部を示す拡大断面図である。
図3図3は、図2に記載したビード部のビードコアを示す説明図である。
図4図4は、図2に記載したビード部のビードコアを示す説明図である。
図5図5は、図3に記載したビードコアのワイヤ配列構造の変形例を示す説明図である。
図6図6は、図3に記載したビードコアのワイヤ配列構造の変形例を示す説明図である。
図7図7は、図3に記載したビードコアのワイヤ配列構造の変形例を示す説明図である。
図8図8は、図3に記載したビードコアのワイヤ配列構造の変形例を示す説明図である。
図9図9は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。
図10図10は、図9に記載した従来例1を示す説明図である。
図11図11は、図9に記載した従来例2を示す説明図である。
図12図12は、図9に記載した比較例1を示す説明図である。
図13図13は、図9に記載した比較例2を示す説明図である。
図14図14は、図9に記載した比較例3を示す説明図である。
図15図15は、図9に記載した比較例4を示す説明図である。
図16図16は、図9に記載した比較例5を示す説明図である。
図17図17は、図9に記載した比較例6を示す説明図である。
図18図18は、図9に記載した比較例7を示す説明図である。
図19図19は、図9に記載した比較例8を示す説明図である。
図20図20は、図9に記載した比較例9を示す説明図である。
図21図21は、図9に記載した比較例10を示す説明図である。
図22図22は、図9に記載した比較例11を示す説明図である。
図23図23は、図9に記載した比較例12を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0011】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、タイヤ径方向の断面図の片側領域の断面図を示している。また、同図は、空気入りタイヤの一例として、長距離輸送用のトラック、バスなどに装着される重荷重用ラジアルタイヤを示している。
【0012】
同図において、タイヤ子午線方向の断面とは、タイヤ回転軸(図示省略)を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。また、符号CLは、タイヤ赤道面であり、タイヤ回転軸方向にかかるタイヤの中心点を通りタイヤ回転軸に垂直な平面をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいう。
【0013】
空気入りタイヤ1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のリムクッションゴム17、17とを備える(図1参照)。
【0014】
一対のビードコア11、11は、スチールから成るビードワイヤをタイヤ周方向に多重に巻き廻して成る環状構造を有し、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、ローアーフィラー121およびアッパーフィラー122から成り、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を構成する。
【0015】
カーカス層13は、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13は、スチールあるいは有機繊維材(例えば、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で85[deg]以上95[deg]以下のカーカス角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの長手方向の傾斜角として定義される)を有する。
【0016】
ベルト層14は、タイヤ径方向内側から順に、高角度ベルト141と、一対の交差ベルト142、143と、付加ベルト144とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。高角度ベルト141は、スチールから成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で45[deg]以上70[deg]以下のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの長手方向の傾斜角として定義される。)を有する。一対の交差ベルト142、143は、スチールから成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上55[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト142、143は、相互に異符号のベルト角度を有し、ベルトコードの長手方向を相互に交差させて積層される(いわゆるクロスプライ構造を有する)。付加ベルト144は、スチールから成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上55[deg]以下のベルト角度を有する。また、付加ベルト144のベルト角度が、外径側の交差ベルト143のベルト角度に対して同符号に設定される。
【0017】
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。一対のリムクッションゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側にそれぞれ配置されて、リムフランジに対する左右のビード部の接触面を構成する。
【0018】
[ビードコア]
図2は、図1に記載した空気入りタイヤ1のビード部を示す拡大断面図である。図3および図4は、図2に記載したビード部のビードコア11を示す説明図である。これらの図において、図2は、タイヤのリム組み状態におけるビード部のタイヤ子午線方向の断面図を示し、図3は、未加硫状態における単体のビードコア11の拡大図を示し、図4は、図3に記載したビードコア11におけるビードワイヤ111の配列状態を示している。
【0019】
図2において、ビードコア11は、スチールから成る1本あるいは複数本のビードワイヤ111を多重に巻き廻して成る環状構造を有し、ビード部に埋設されて左右のビード部のコアを構成する。また、ビードコア11の環状構造の軸が、タイヤ回転軸に一致する。また、ビードコア11が、カーカス層13の巻き上げ部に包み込まれて保持される。また、リムクッションゴム17が、カーカス層13の巻き上げ部のタイヤ径方向の内側を覆って配置されて、ビード部のリム嵌合部を構成する。また、図2の構成では、カーカス層13の端部が、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き上げられて、ビード部のリム嵌合面を越える位置まで延在している。また、スチールあるいは有機繊維材から成る補強層18が、カーカス層13とリムクッションゴム17との間に配置されて、カーカス層13の巻き上げ部の外周面に沿ってビードコア11の全体を囲んでいる。
【0020】
また、図2に示すように、空気入りタイヤ1が、ビード部をリム10に嵌め合わせてリム10に装着される。具体的には、リム10のビードベース部101が、タイヤ回転軸方向に対して所定の傾斜角を有し、タイヤのビード部が、ビードベース部101の外周面に一致した形状をもつリム嵌合面を有する。また、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態としたときに、リム嵌合面のビード・トゥBtからビード・ヒールBhに至る領域がビードベース部101の外周面に密着し、また、ビード・トゥBtからタイヤ幅方向外側の領域がビードベース部101の外側縁部に形成されたリムフランジ部102に係合する。これにより、ビード部がリム10に適正に嵌合されて、タイヤの気密性が確保される。
【0021】
規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0022】
また、図3は、部品単体時における未加硫のビードコア11の径方向の断面図を示している。ビードコア11は、ビードワイヤ111を環状かつ多重に巻き廻して成り、後述する所定のワイヤ配列構造を有する。具体的には、コア成形治具(図示省略)が用いられ、1本あるいは複数本のビードワイヤ111が所定のワイヤ配列構造でコア成形治具に巻き付けられて、未加硫のビードコア11が成形される。また、ビードコア11が、ゴム材料から成ると共に巻き廻されたビードワイヤ111の外周を覆うビードカバー112を備える。そして、成形されたビードコア11がグリーンタイヤの加硫成形工程の前にプレ加硫される。なお、これに限らず、ビードコア11のプレ加硫が省略され、未加硫のビードコア11がグリーンタイヤに組み込まれて、グリーンタイヤの加硫成形工程が行われても良い。
【0023】
また、図4に示すように、ビードワイヤ111は、素線1111と、素線1111を覆うインシュレーションゴム1112とから成る。素線1111は、上記のようにスチールから成る。また、インシュレーションゴム1112が、70[M]以上のムーニー粘度を有するゴム組成物から成ることが好ましい。また、トラック・バス用の重荷重用タイヤでは、ビードワイヤ111の外径が、1.70[mm]以上2.20[mm]以下の範囲内にある。ムーニー粘度は、JIS K6300−1:2013に準拠して求める。
【0024】
[ビードコアのワイヤ配列構造]
一般に、トラック、バスに装着される重荷重用タイヤでは、車両走行時におけるビード・トゥの浮き上がり変形を抑制すべき課題がある。かかる浮き上がり変形は、タイヤの再インフレート容易性が悪化する原因となり、また、タイヤ更生時にて台タイヤの適正を損なう原因となるため、好ましくない。上記ビード・トゥの浮き上がり変形を抑制するためには、ビードコアを構成するビードワイヤの巻き付け数を増加させることが効果的である。しかしながら、ビードワイヤの巻き付け数が増加すると、ビードコアおよび周辺部材(例えば、ビードフィラーなどのゴム材料)の材料コストが増加するという課題がある。
【0025】
そこで、この空気入りタイヤ1は、ビードコア11の耐コア崩れ性を適正に確保しつつビード・トゥの浮き上がり変形を効率的に抑制するために、以下の構成を採用している。
【0026】
すなわち、図3に示すように、ビードコア11が、その径方向断面視にて、ビードワイヤ111を最密状態で巻き廻して成る六角形のワイヤ配列構造を有する。
【0027】
最密状態とは、図4に示すように、ビードコア11の径方向断面視にて、1つのワイヤ断面が、当該ワイヤ断面の周囲に略60[deg]間隔で配列された6つのワイヤ断面に対して隣り合う状態をいう。かかる最密状態でのワイヤ配列構造では、ワイヤ断面の列が縦横に直交する格子状のワイヤ配列構造と比較して、ビードコア11のワイヤ断面の配置密度が高まり、ビードコア11の耐コア崩れ性が向上する。なお、上記最密状態において、隣り合うワイヤ断面のすべての組が相互に接触する必要はなく、一部の組が後述する微少な隙間gを空けて配置されても良い。
【0028】
ワイヤ配列構造の形状は、図3に示すように、ビードコア11の外周面を構成するワイヤ断面群の中心点を結んだ図形として定義される。また、図形の1つの頂点が、1つのワイヤ断面の中心点により定義される。また、図形の各辺が、2以上のワイヤ断面の中心点により定義される。ただし、図形の1つの辺を構成するワイヤ断面の中心点は、1つの直線上に厳密に存在する必要はなく、製造誤差等に起因する微少な位置ズレをもって配置されても良い。図3の構成では、ワイヤ配列構造が、6つの頂点P1〜P6をもつ六角形状を有している。
【0029】
また、ワイヤ配列構造の六角形が、すべての頂点で鈍角な内角をもつ凸六角形である。すなわち、六角形のすべての内角が、90[deg]よりも大きく180[deg]よりも小さい範囲にある。かかる凸六角形のワイヤ配列構造は、例えば内側に凸となる頂点をもつ凹六角形のワイヤ配列構造(後述する図10参照)と比較して、ビードコア11の形状安定性が高いため、ビードコア11の耐コア崩れ性が適正に確保される。また、ワイヤ配列構造の六角形が鈍角な内角を有する構成では、鋭角な内角をもつ多角形のワイヤ配列構造と比較して、ビードコア11の耐コア崩れ性が高い。
【0030】
例えば、図3の構成では、ビードワイヤ111が一定の外径をもつ円形断面のスチールワイヤであり、ワイヤ断面が上記した最密状態で配列されている。このため、六角形のすべての内角が120[deg]付近、具体的には105[deg]以上135[deg]以下の範囲にある。
【0031】
ここで、図3において、ビードコア11の最も内径側にある六角形の頂点P1を第一頂点として定義する。また、第一頂点P1を含みタイヤ幅方向外側に延在する六角形の辺S12を第一辺として定義する。また、六角形の第一辺S12に平行な軸をX軸として定義し、X軸に垂直な軸をY軸として定義する。ビード部のリム嵌合面が傾斜するため(図2参照)、X軸が、タイヤ幅方向外側に向かってタイヤ径方向外側に傾斜する。
【0032】
このとき、Y軸方向におけるワイヤ断面の層数Mと、X軸方向におけるワイヤ断面の配列数Nの最大値N_maxとが、0.75≦M/N_max≦1.30の関係を有することが好ましく、0.95≦M/N_max≦1.20の関係を有することがより好ましい。これにより、ビードコア11の偏平率が適正化される。すなわち、上記M/N_maxの下限により、ビードコア11が過剰に幅広となる事態が抑制されて、ビードコア11および周辺部材(特にビードフィラー12)の材料コストが低減される。また、上記M/N_maxの上限により、ビードコア11がY軸方向に縦長となる事態が抑制されて、ビードコア11のねじり剛性が適正に確保される。なお、トラック・バス用の重荷重用タイヤでは、X軸方向におけるワイヤ断面の配列数Nの最大値N_maxが、7≦N_max≦13の範囲にある。
【0033】
ワイヤ断面の層数Mは、六角形の第一辺S12に沿ってX軸方向に配列されたワイヤ断面の列を最内層とし、この最内層に対して上記最密状態でY軸方向に積層されたワイヤ断面の層の数として定義される。
【0034】
ワイヤ断面の配列数Nは、上記ワイヤ断面の各層を構成するワイヤ断面の数として定義される。
【0035】
例えば、図3の構成では、単一のビードワイヤ111がX軸方向に螺旋状に巻き廻されて、ワイヤ断面の層が形成される。また、単一のビードワイヤ111がX軸方向に往復して巻き廻されて、複数のワイヤ断面の層が形成される。また、最初に、六角形の第一辺S12におけるワイヤ断面の層が形成され、これを最内層として、複数のワイヤ断面の層がY軸方向に積層されてビードコア11が形成される。このため、六角形の3組の対辺S12、S45;S23、S56;S34、S61が、相互に平行である。また、上記したワイヤ断面の層数Mと配列数Nの最大値N_maxとの比M/N_maxが、M/N_max=8/8=1.00である。かかる構成では、ワイヤ断面の層がリム10のビードベース部101に直交する方向に積層されるので、ビードコア11の強度が高まり、タイヤのリム嵌合性が向上する。
【0036】
また、図3において、タイヤ幅方向の最も内側にある六角形の頂点P6から六角形の重心Gまでのタイヤ幅方向の距離Aと、タイヤ幅方向の最も外側にある六角形の頂点P3から六角形の重心Gまでのタイヤ幅方向の距離Bとが、1.05≦B/Aの関係を有することが好ましく、1.06≦B/Aの関係を有することがより好ましい。これにより、六角形の重心G、すなわちビードコア11の重心位置が適正化される。すなわち、比B/Aの上記下限により、ビードコア11の重心がビード・トゥBt(図2参照)側に偏在する。すると、タイヤのインフレート時にて、カーカス層13からの張力がビードコア11に作用したときに、この張力がビードコア11により適正に担持される。これにより、ビード・トゥBtの浮き上がり変形が抑制される。例えば、図3の構成では、上記したタイヤ幅方向の距離A、Bの比B/Aが、B/A=1.07である。なお、B/Aの上限は、特に限定がないが、上記した六角形の内角の条件および比M/N_maxの条件により制約を受ける。
【0037】
六角形の重心Gは、六角形の各頂点P1〜P6の座標の算術平均により算出される。
【0038】
距離A、Bは、製品タイヤを規定リムに装着して規定内圧の5[%]を付与すると共に無負荷状態として測定される。かかる5[%]内圧時におけるタイヤ形状は、タイヤ加硫成形金型内におけるタイヤ形状、すなわちインフレート前の自然なタイヤ形状に最も近い。
【0039】
また、ビードワイヤ111がX軸方向に所定ピッチで螺旋状に巻き廻されるため、図4に示すように、X軸方向に隣り合うワイヤ断面の間に、製造誤差に起因する微少な隙間gが生じ得る。この隙間gが小さいほど、ビードコア11の強度が向上するため好ましい。具体的には、隙間gが、g≦0.08[mm]の範囲にあることが好ましい。また、隙間gと、X軸方向に隣り合うワイヤ断面のコード間距離D1とが、0.020≦g/D1≦0.045の関係を有することが好ましい。
【0040】
一方、Y軸方向に隣り合うワイヤ断面では、ビードワイヤ111が張力を付与されて巻き付けられるため、ワイヤ断面がY軸方向に押圧されて、インシュレーションゴム1112が押し潰される。このため、X軸方向に隣り合うワイヤ断面のコード間距離D1とY軸方向に隣り合うワイヤ断面のコード間距離D2とが、D2<D1の関係を有する。また、ビードコア11の内部では、1つのワイヤ断面が2つのワイヤ断面によりY軸方向から支持される。これにより、Y軸方向、すなわちビードコア11の径方向の強度が向上する。
【0041】
また、図3に示すように、六角形の第一辺S12に沿ってX軸方向に配列されたワイヤ断面の層、すなわちY軸方向の最内層が、タイヤ幅方向に対して所定の傾斜角θをもって傾斜する。このため、ビードコア11の内径が、六角形の第一頂点P1からタイヤ幅方向外側に向かって拡径する。また、傾斜角θは、タイヤのリム装着時にてリム10のビードベース部101(図2参照)の外周面に平行になるように設定される。一般的な重荷重用タイヤでは、傾斜角θが15[deg]に設定されている。これにより、タイヤのリム装着時にて、ビードコア11のY軸方向の最内層がビードベース部101に対向して、ビード部のリム嵌合性が効率的に高められる。
【0042】
また、図3の構成では、六角形の辺S23が、タイヤのリム装着時にてリム10のリムフランジ部102(図2参照)の外周面に平行になるように形成される。これにより、タイヤのリム装着時にて、ビードコア11のタイヤ幅方向外側の端面がリムフランジ部102に対向して、ビード部のリム嵌合性が効率的に高められる。
【0043】
また、図3において、六角形の3組の対辺S12、S45;S23、S56;S34、S61におけるワイヤ断面の配列数N12、N45;N23、N56;N34、N61が、2≦N12−N45=N34−N61=N56−N23≦3の条件を満たすことが好ましい。すなわち、同一径をもつワイヤ断面が最密状態(図4参照)で凸六角形に配置される構成において、ワイヤ配列構造が、(1)N12−N45=N34−N61=N56−N23=2、および、(2)N12−N45=N34−N61=N56−N23=3のいずれか一方の条件を満たすことが好ましい。
【0044】
ワイヤ断面の配列数N12〜N61は、六角形の各頂点P1〜P6にあるワイヤ断面をそれぞれ含む数として定義される。例えば、図3の構成では、N12=6、N23=3、N34=6、N45=4、N56=5、N61=4であり、N12−N45=N34−N61=N56−N23=2である。
【0045】
上記の構成では、Y軸方向の最内層(六角形の第一辺S12)におけるワイヤ断面の配列数N12が最外層(六角形の辺S45)におけるワイヤ断面の配列数N45よりも多い。このため、ビードコア11が、内周面を拡幅した形状を有する。また、Y軸方向の最内層に隣り合う2辺S23、S61におけるワイヤ断面の配列数N23、N61が、それぞれの対辺S56、S34におけるワイヤ断面の配列数N56、N34よりも少ない。このため、ビードコア11が、外周面側の斜辺(六角形の辺S56、S34)を拡幅した形状を有する。これらにより、ビードコア11の強度効率が高められる。
【0046】
また、N12−N45=N34−N61=N56−N23=2であることにより、ビードコア11の重心Gがビード・トゥBt側に適正に偏在して、ビード・トゥBtの浮き上がり変形の抑制作用が確保される。また、N12−N45=N34−N61=N56−N23=3であることにより、ビードコア11の周辺部品の材料コストの増加が抑制される。
【0047】
また、六角形の第一辺S12におけるワイヤ断面の配列数N12が、5≦N12≦8の範囲にあることが好ましく、6≦N12≦7の範囲にあることがより好ましい。これにより、ビードベース部101(図2参照)に対向する側の辺S12の長さが適正に確保されて、ビードコア11によるリム嵌合性の補強作用が適正に確保される。
【0048】
また、六角形の第一辺S12に隣り合うタイヤ幅方向外側の辺S23におけるワイヤ断面の配列数N23が、2≦N23≦5の範囲にあることが好ましく、3≦N23≦4の範囲にあることがより好ましい。リム10のリムフランジ部102(図2参照)に対向する側の辺S23では、リムフランジ部102から作用する反力が大きいため、リム崩れが生じ易い傾向にある。したがって、この位置におけるワイヤ断面の配列数N23が適正に確保されることにより、ビードコア11のリム崩れが効果的に抑制される。
【0049】
また、六角形の第一辺S12に隣り合うタイヤ幅方向外側の辺S23におけるワイヤ断面の配列数N23と、タイヤ幅方向内側の辺におけるワイヤ断面の配列数N61とが、1≦N61−N23の関係を有することが好ましく、2≦N61−N23の関係を有することがより好ましい。したがって、ビードコア11のY軸方向内径側の領域では、リム10のリムフランジ部102(図2参照)に対向する側の辺S23がビード・トゥBt側の辺S61よりも短い。これにより、六角形の重心Gの位置をビード・トゥBt側に効率的に偏在させ得る。なお、差N61−N23の上限は特に限定がないが、上記した六角形の内角の条件および比M/N_maxの条件により制約を受ける。
【0050】
また、上記のように、六角形の対辺におけるワイヤ断面の配列数がN34−N61=N56−N23の条件を満たすため、ビードコア11のY軸方向内径側の領域にある辺S23、S61のワイヤ断面の配列数N23、N61が上記1≦N61−N23の条件を満たすことにより、六角形のY軸方向の最も外側にある辺S45に隣り合うタイヤ幅方向外側の辺S34におけるワイヤ断面の配列数N34と、タイヤ幅方向内側の辺S56におけるワイヤ断面の配列数N56とが、1≦N34−N56の関係を有することとなる。
【0051】
また、六角形の第一辺S12におけるワイヤ断面の配列数N12と、X軸方向におけるワイヤ断面の配列数Nの最大値N_maxとが、前提として1≦N_max−N12の関係を有し、好ましくは、2≦N_max−N12の関係を有する。これにより、六角形の重心Gの位置をビード・トゥBt側に効率的に偏在させ得る。
【0052】
また、Y軸方向に隣り合う任意のワイヤ断面の層におけるワイヤ断面の配列数Nの差が、−1、0または1である。すなわち、ビードワイヤ111の巻き数の増減がY軸方向に向かって最大で1回ずつとなるように、ビードコア11のワイヤ配列構造が構成される。これにより、ワイヤ配列構造の形状安定性が向上して、ビードコア11の耐リム崩れ性が向上する。
【0053】
また、図3に示すように、六角形の重心Gが、ビードコア11のY軸方向の中央位置YcよりもY軸方向内径側にあることが好ましい。これにより、ワイヤ配列構造の形状安定性が向上して、ビードコア11の耐リム崩れ性が向上する。
【0054】
なお、上記したビードコア11のワイヤ配列構造にかかる条件は、ビードコア11のタイヤ周方向の50[%]以上の領域、より具体的には、ビードワイヤ11の巻き始め端部および巻き終わり端部を除いた大半の領域で成立すれば足りる。
【0055】
[変形例]
図5図8は、図3に記載したビードコア11のワイヤ配列構造の変形例を示す説明図である。未加硫状態における単体のビードコア11の拡大図を示している。
【0056】
ビードコア11のワイヤ配列構造は、図3の構成に限定されず、上記の条件を満たす範囲内で適宜変更できる。
【0057】
例えば、図5の実施例では、ビードコア11のワイヤ配列構造が鈍角な内角をもつ凸六角形であり、Y軸方向におけるワイヤ断面の層数Mと、X軸方向における前記ワイヤ断面の配列数Nの最大値N_maxとの比M/N_maxが、M/N_max=1.14であり、タイヤ幅方向の最も内側にある六角形の頂点P6から六角形の重心Gまでのタイヤ幅方向の距離Aと、タイヤ幅方向の最も外側にある六角形の頂点P3から六角形の重心Gまでのタイヤ幅方向の距離Bとの比B/Aが、B/A=1.09である。また、六角形の各辺S12〜S61におけるワイヤ断面の配列数N12〜N61が、N12=6、N23=2、N34=7、N45=4、N56=4、N61=5であり、N12−N45=N34−N61=N56−N23=2である。
【0058】
また、図6の実施例では、ビードコア11のワイヤ配列構造が鈍角な内角をもつ凸六角形であり、比M/N_maxがM/N_max=1.29であり、比B/AがB/A=1.08であり、ワイヤ断面の配列数N12〜N61がN12=5、N23=3、N34=7、N45=3、N56=5、N61=5であり、N12−N45=N34−N61=N56−N23=2である。
【0059】
また、図7の実施例では、ビードコア11のワイヤ配列構造が鈍角な内角をもつ凸六角形であり、比M/N_maxがM/N_max=1.13であり、比B/AがB/A=1.12であり、ワイヤ断面の配列数N12〜N61がN12=6、N23=3、N34=7、N45=3、N56=6、N61=4であり、N12−N45=N34−N61=N56−N23=3である。
【0060】
また、図8の実施例では、ビードコア11のワイヤ配列構造が鈍角な内角をもつ凸六角形であり、比M/N_maxがM/N_max=1.00であり、比B/AがB/A=1.13であり、ワイヤ断面の配列数N12〜N61がN12=6、N23=2、N34=6、N45=3、N56=5、N61=3であり、N12−N45=N34−N61=N56−N23=3である。図8の実施例は、ビードワイヤ111の総巻き数が少ないため、図3の実施例と比較して、ビード・トゥBtの浮き上がり変形の抑制作用は小さい。しかしながら、ビードワイヤ111の総巻き数が同レベルである他のワイヤ配列構造と比較して、後述する強度効率が高く、ビード・トゥBtの浮き上がり変形を効率的に抑制できる。
【0061】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、ビードワイヤ111を環状かつ多重に巻き廻して成る一対のビードコア11を備える(図3参照)。また、ビードコア11の径方向の断面視にて、ビードコア11が、1本あるいは複数本のビードワイヤ111を最密状態(図4参照)で巻き廻して成る六角形のワイヤ配列構造を有する。また、六角形が、すべての頂点で鈍角な内角をもつ凸六角形である。また、Y軸方向におけるワイヤ断面の層数Mと、X軸方向におけるワイヤ断面の配列数Nの最大値N_maxとが、0.75≦M/N_max≦1.30の関係を有する。また、タイヤ幅方向の最も内側にある六角形の頂点P6から六角形の重心Gまでのタイヤ幅方向の距離Aと、タイヤ幅方向の最も外側にある六角形の頂点P3から六角形の重心Gまでのタイヤ幅方向の距離Bとが、1.05≦B/Aの関係を有する。
【0062】
かかる構成では、(1)ビードコア11がビードワイヤ111を最密状態(図4参照)で巻き廻して成ると共に鈍角な内角をもつ凸六角形のワイヤ配列構造を有するので、例えば内側に凸となる頂点をもつ凹六角形のワイヤ配列構造(後述する図10参照)と比較して、ビードコア11の形状安定性が高く、ビードコア11の耐コア崩れ性が適正に確保される利点がある。また、(2)ビードコア11の偏平率M/N_maxが適正化されて、ビードコア11および周辺部材(特にビードフィラー12)の材料コストが低減され、また、ビードコア11のねじり剛性が適正に確保される利点がある。また、(3)比B/Aによりビードコア11の重心位置の偏在が適正化されて、ビード・トゥBtの浮き上がり変形が適正に抑制される利点がある。
【0063】
また、この空気入りタイヤ1は、ビードワイヤ111を環状かつ多重に巻き廻して成る一対のビードコア11を備える(図3参照)。また、ビードコア11の径方向の断面視にて、ビードコア11が、1本あるいは複数本のビードワイヤ111を最密状態で巻き廻して成る六角形のワイヤ配列構造を有する。また、六角形が、すべての頂点で鈍角な内角をもつ凸六角形である。また、六角形の3組の対辺S12、S45;S23、S56;S34、S61におけるワイヤ断面の配列数N12、N45;N23、N56;N34、N61が、2≦N12−N45=N34−N61=N56−N23≦3の条件を満たす。
【0064】
かかる構成では、(1)ビードコア11がビードワイヤ111を最密状態(図4参照)で巻き廻して成ると共に鈍角な内角をもつ凸六角形のワイヤ配列構造を有するので、例えば内側に凸となる頂点をもつ凹六角形のワイヤ配列構造(後述する図10参照)と比較して、ビードコア11の形状安定性が高く、ビードコア11の耐コア崩れ性が適正に確保される利点がある。また、(2)六角形の3組の対辺S12、S45;S23、S56;S34、S61が上記の条件を満たすことにより、ワイヤ配列構造の六角形の形状が適正化されて、ビードコア11の強度効率が高まり、また、ビードコア11の重心Gがビード・トゥBt側に適正に偏在して、ビード・トゥBtの浮き上がり変形の抑制作用が確保される利点がある。
【0065】
また、この空気入りタイヤ1では、Y軸方向におけるワイヤ断面の層数Mと、X軸方向におけるワイヤ断面の配列数Nの最大値N_maxとが、0.75≦M/N_max≦1.30の関係を有する(図3参照)。これにより、ビードコア11の偏平率M/N_maxが適正化されて、ビードコア11および周辺部材(特にビードフィラー12)の材料コストが低減され、また、ビードコア11のねじり剛性が適正に確保される利点がある。
【0066】
また、この空気入りタイヤ1では、六角形のすべての内角が、105[deg]以上135[deg]以下の範囲にある(図3参照)。これにより、ビードコア11のワイヤ断面が最密状態で適正に配列されて、ビードコア11の耐コア崩れ性が適正に確保される利点がある。
【0067】
また、この空気入りタイヤ1では、ビードワイヤ11がX軸方向に螺旋状に巻き廻されて、ワイヤ断面の層が形成されると共に、複数のワイヤ断面の層が六角形の第一辺S12におけるワイヤ断面の層を最内層としてY軸方向に積層されて、ビードコア11が形成される(図3参照)。かかる構成では、ワイヤ断面の層がリム10のビードベース部101に直交する方向に積層されるので、ビードコア11の強度が高まり、タイヤのリム嵌合性が向上する利点がある。
【0068】
また、この空気入りタイヤ1では、ビードコア11が、1本のビードワイヤ11を最密状態で巻き廻して成る六角形のワイヤ配列構造を有する(図3参照)。これにより、ビードコア11のワイヤ断面の配置密度が高まり、ビードコア11の耐コア崩れ性が向上する利点がある。
【0069】
また、この空気入りタイヤ1では、六角形の第一辺S12におけるワイヤ断面の配列数N12が、5≦N12の範囲にある(図3参照)。これにより、ビードベース部101(図2参照)に対向する側の辺S12の長さが適正に確保されて、ビードコア11によるリム嵌合性の補強作用が適正に確保される利点がある。
【0070】
また、この空気入りタイヤ1では、六角形の第一辺S12に隣り合うタイヤ幅方向外側の辺S23におけるワイヤ断面の配列数N23が、2≦N23の範囲にある(図3参照)。これにより、ビードコア11のリム崩れが効果的に抑制される利点がある。
【0071】
また、この空気入りタイヤ1では、六角形の第一辺S12に隣り合うタイヤ幅方向外側の辺S23におけるワイヤ断面の配列数N23と、タイヤ幅方向内側の辺S61におけるワイヤ断面の配列数N61とが、1≦N61−N23の関係を有する(図3参照)。これにより、六角形の重心Gの位置をビード・トゥBt側に効率的に偏在させ得る利点がある。
【0072】
また、この空気入りタイヤ1では、六角形の第一辺S12におけるワイヤ断面の配列数N12と、X軸方向におけるワイヤ断面の配列数Nの最大値N_maxとが、1≦N_max−N12の関係を有する(図3参照)。これにより、六角形の重心Gの位置をビード・トゥBt側に効率的に偏在させ得る利点がある。
【0073】
また、この空気入りタイヤ1では、Y軸方向に隣り合う任意のワイヤ断面の層におけるワイヤ断面の配列数Nの差が、−1、0または1である(図3参照)。これにより、ワイヤ配列構造の形状安定性が向上して、ビードコア11の耐リム崩れ性が向上する利点がある。
【0074】
また、この空気入りタイヤ1では、六角形の重心Gが、ビードコア11のY軸方向の中央に位置するビードワイヤ111の層からY軸方向の内径側にある(図3参照)。これにより、ワイヤ配列構造の形状安定性が向上して、ビードコア11の耐リム崩れ性が向上する利点がある。
【0075】
また、この空気入りタイヤ1では、一対のビードコア11、11間に架け渡されたカーカス層13を備える(図2参照)。また、カーカス層13の端部が、ビードコア11を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される(図2参照)。かかるカーカス構造では、カーカス層13からの張力に起因するビード・トゥBtの浮き上がり変形が生じ易い。したがって、かかるカーカス構造をもつタイヤを適用対象とすることにより、上記したビードコア11のワイヤ配列構造によるビード・トゥBtの浮き上がり変形の抑制作用を効率的に得られる利点がある。
【実施例】
【0076】
図9は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す表である。図10図23は、図9に記載した従来例1、2および比較例1〜12を示す説明図である。
【0077】
この性能試験では、複数種類の試験タイヤについて、(1)耐トゥ変形性、(2)強度効率および(3)低コスト性に関する評価が行われた。また、タイヤサイズ275/70R22.5の試験タイヤがJATMAの規定リムに組み付けられ、この試験タイヤにJATMA規定の75[%]の内圧および140[%]の荷重が付与される。また、試験タイヤが、試験車両である6×2トラックの総輪に装着される。
【0078】
(1)耐トゥ変形性に関する評価は、室内ドラム試験機を用いた低圧耐久試験により行われる。そして、距離4万[km]の走行後にビード・トゥ部の浮き上がり変形量が測定され、この測定結果に基づいて従来例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
【0079】
(2)強度効率に関する評価では、上記(1)で測定されたビード・トゥ部の浮き上がり変形量の逆数と1つのビードコアにおけるビードワイヤの総巻き付け回数との比が算出され、この算出結果に基づいて従来例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
【0080】
(3)低コスト性に関する評価では、ビードコア11および周辺部材(特にビードフィラー12)の材料コストが算出され、この算出結果に基づいて従来例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
【0081】
実施例1の試験タイヤは、図1図4の構成を備える。実施例2〜5の試験タイヤは、実施例1の変形例であり、図5図8のワイヤ配列構造をそれぞれ備える。また、これらの実施例1〜5では、ビードワイヤ111の素線1111が、1.55[mm]の外径をもつスチールコードであり、インシュレーションゴム1112により被覆される。
【0082】
従来例1、2および比較例1〜12の試験タイヤは、図10図23のワイヤ配列構造を備える。
【0083】
試験結果が示すように、実施例1〜5の試験タイヤでは、タイヤの(1)耐トゥ変形性、(2)強度効率および(3)低コスト性が両立することが分かる。
【符号の説明】
【0084】
1:空気入りタイヤ、11:ビードコア、111:ビードワイヤ、1111:素線、1112:インシュレーションゴム、12:ビードフィラー、121:ローアーフィラー、122:アッパーフィラー、13:カーカス層、14:ベルト層、141:高角度ベルト、142、143:交差ベルト、144:ベルトカバー、145:周方向補強層、15:トレッドゴム、16:サイドウォールゴム、17:リムクッションゴム、15:トレッドゴム、16:サイドウォールゴム、17:リムクッションゴム、18:補強層、10:リム、101:ビードベース部、102:リムフランジ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図23