特許第6880805号(P6880805)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880805
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】誘導電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/14 20160101AFI20210524BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20210524BHJP
   H02P 21/13 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   H02P21/14
   H02M7/48 F
   H02P21/13
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-24594(P2017-24594)
(22)【出願日】2017年2月14日
(65)【公開番号】特開2018-133865(P2018-133865A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 崇伸
(72)【発明者】
【氏名】只野 裕吾
(72)【発明者】
【氏名】野村 昌克
【審査官】 大島 等志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−75398(JP,A)
【文献】 特開2016−144251(JP,A)
【文献】 特開2001−251705(JP,A)
【文献】 特開昭64−39286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00−25/03
H02P 6/00−6/34
H02M 7/42−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ軸電流指令値とγ軸電流検出値との偏差,δ軸電流指令値とδ軸電流検出値との偏差に基づいて、γ軸電圧指令値とδ軸電圧指令値とを出力する電流制御器と、
前記γ軸電圧指令値と前記δ軸電圧指令値とを三相電圧指令値に変換する第1座標変換部と、
前記三相電圧指令値に応じた電圧を出力するインバータと、
前記インバータが出力した電圧により駆動する誘導電動機と、
前記インバータの三相電流検出値を前記γ軸電流検出値,前記δ軸電流検出値に変換する第2座標変換部と、
前記γ軸電圧指令値と、前記δ軸電圧指令値と、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、電気角演算値と、一次時定数推定値の逆数と、二次時定数推定値の逆数と、機械回転数と、に基づいて、γ軸電流推定値と、δ軸電流推定値を演算する電流オブザーバと、
前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、前記γ軸電流推定値と前記γ軸電流検出値との差分であるγ軸電流誤差と、前記δ軸電流推定値と前記δ軸電流検出値との差分であるδ軸電流誤差と、推定開始信号と、に基づいて前記一次時定数推定値の逆数と前記二次時定数推定値の逆数を演算する時定数推定部と、
前記二次時定数推定値の逆数に基づいて、前記電気角演算値を演算するすべり演算・電気角演算部と、
を備え、
前記時定数推定部は、
前記一次時定数推定値の変化率が第1閾値以下で所定時間経過している場合は前記一次時定数推定値の推定を中止して現在の前記一次時定数推定値を保持し、
それ以外の場合は、繰り返し前記一次時定数推定値の演算を行い、
前記二次時定数推定値の変化率が第2閾値以下で所定時間経過している場合は前記二次時定数推定値の推定を中止して現在の前記二次時定数推定値を保持し、
それ以外の場合は、繰り返し前記二次時定数推定値の演算を行うことを特徴とする誘導電動機の制御装置。
【請求項2】
γ軸電流指令値とγ軸電流検出値との偏差,δ軸電流指令値とδ軸電流検出値との偏差に基づいて、γ軸電圧指令値とδ軸電圧指令値とを出力する電流制御器と、
前記γ軸電圧指令値と前記δ軸電圧指令値とを三相電圧指令値に変換する第1座標変換部と、
前記三相電圧指令値に応じた電圧を出力するインバータと、
前記インバータが出力した電圧により駆動する誘導電動機と、
前記インバータの三相電流検出値を前記γ軸電流検出値,前記δ軸電流検出値に変換する第2座標変換部と、
前記γ軸電圧指令値と、前記δ軸電圧指令値と、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、電気角演算値と、一次時定数推定値の逆数と、二次時定数推定値の逆数と、機械回転数と、に基づいて、γ軸電流推定値と、δ軸電流推定値を演算する電流オブザーバと、
前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、前記γ軸電流推定値と前記γ軸電流検出値との差分であるγ軸電流誤差と、前記δ軸電流推定値と前記δ軸電流検出値との差分であるδ軸電流誤差と、推定開始信号と、に基づいて前記一次時定数推定値の逆数と前記二次時定数推定値の逆数を演算する時定数推定部と、
前記二次時定数推定値の逆数に基づいて、前記電気角演算値を演算するすべり演算・電気角演算部と、
を備え、
前記時定数推定部は、
前記一次時定数推定値の変化率が第1閾値以下で所定時間経過している場合、または、前記一次時定数推定値の変化率が前記第1閾値よりも大きい第3閾値以上で所定時間経過している場合は前記一次時定数推定値の推定を中止して現在の前記一次時定数推定値を保持し、
それ以外の場合は、繰り返し、前記一次時定数推定値の演算を行い、
前記二次時定数推定値の変化率が第2閾値以下で所定時間経過している場合、または、前記二次時定数推定値の変化率が前記第2閾値よりも大きい第4閾値以上で所定時間経過している場合は前記二次時定数推定値の推定を中止して現在の前記二次時定数推定値を保持し、
それ以外の場合は、繰り返し、前記二次時定数推定値の演算を行うことを特徴とする誘導電動機の制御装置。
【請求項3】
γ軸電流指令値とγ軸電流検出値との偏差,δ軸電流指令値とδ軸電流検出値との偏差に基づいて、γ軸電圧指令値とδ軸電圧指令値とを出力する電流制御器と、
前記γ軸電圧指令値と前記δ軸電圧指令値とを三相電圧指令値に変換する第1座標変換部と、
前記三相電圧指令値に応じた電圧を出力するインバータと、
前記インバータが出力した電圧により駆動する誘導電動機と、
前記インバータの三相電流検出値を前記γ軸電流検出値,前記δ軸電流検出値に変換する第2座標変換部と、
前記γ軸電圧指令値と、前記δ軸電圧指令値と、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、電気角演算値と、一次時定数推定値の逆数と、二次時定数推定値の逆数と、機械回転数と、に基づいて、γ軸電流推定値と、δ軸電流推定値を演算する電流オブザーバと、
前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、前記γ軸電流推定値と前記γ軸電流検出値との差分であるγ軸電流誤差と、前記δ軸電流推定値と前記δ軸電流検出値との差分であるδ軸電流誤差と、推定開始信号と、に基づいて前記一次時定数推定値の逆数と前記二次時定数推定値の逆数を演算する時定数推定部と、
前記二次時定数推定値の逆数に基づいて、前記電気角演算値を演算するすべり演算・電気角演算部と、
を備え、
前記時定数推定部は、
前記一次時定数推定値の変化率が第1閾値以下で所定時間経過している場合は前記一次時定数推定値の推定を中止して現在の前記一次時定数推定値を保持し、
前記一次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第1閾値よりも大きい第1リミッタ値で飽和している場合は前回一次時定数推定値を前記一次時定数推定値として保持して前記一次時定数推定値の推定を中止し、
それ以外の場合は、繰り返し、前記一次時定数推定値の演算を行い、
前記二次時定数推定値の変化率が第2閾値以下で所定時間経過している場合、前記二次時定数推定値の推定を中止して現在の前記二次時定数推定値を保持し、
前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2閾値よりも大きい第2リミッタ値で飽和している場合は前回二次時定数推定値を前記二次時定数推定値として保持して前記二次時定数推定値の推定を中止し、
それ以外の場合は、繰り返し、前記二次時定数推定値の演算を行うことを特徴とする誘導電動機の制御装置。
【請求項4】
γ軸電流指令値とγ軸電流検出値との偏差,δ軸電流指令値とδ軸電流検出値との偏差に基づいて、γ軸電圧指令値とδ軸電圧指令値とを出力する電流制御器と、
前記γ軸電圧指令値と前記δ軸電圧指令値とを三相電圧指令値に変換する第1座標変換部と、
前記三相電圧指令値に応じた電圧を出力するインバータと、
前記インバータが出力した電圧により駆動する誘導電動機と、
前記インバータの三相電流検出値を前記γ軸電流検出値,前記δ軸電流検出値に変換する第2座標変換部と、
前記γ軸電圧指令値と、前記δ軸電圧指令値と、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、電気角演算値と、一次時定数推定値の逆数と、二次時定数推定値の逆数と、機械回転数と、に基づいて、γ軸電流推定値と、δ軸電流推定値を演算する電流オブザーバと、
前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、前記γ軸電流推定値と前記γ軸電流検出値との差分であるγ軸電流誤差と、前記δ軸電流推定値と前記δ軸電流検出値との差分であるδ軸電流誤差と、推定開始信号と、に基づいて前記一次時定数推定値の逆数と前記二次時定数推定値の逆数を演算する時定数推定部と、
前記二次時定数推定値の逆数に基づいて、前記電気角演算値を演算するすべり演算・電気角演算部と、
を備え、
前記時定数推定部は、
前記一次時定数推定値の変化率が第1閾値以下で所定時間経過している場合は前記一次時定数推定値の推定を中止して現在の前記一次時定数推定値を保持し、
前記一次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第1閾値よりも大きい第1リミッタ値で飽和している場合は前回一次時定数推定値を前記一次時定数推定値として保持して前記一次時定数推定値の推定を中止し、
それ以外の場合は、繰り返し、前記一次時定数推定値の演算を行い、
前記二次時定数推定値の変化率が第2閾値以下で所定時間以上経過しておらず、かつ、前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2閾値よりも大きい第2リミッタ値で飽和していない場合は、繰り返し、前記二次時定数推定値の演算を行い、
前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和しておらず、かつ、前記二次時定数推定値の変化率が前記第2閾値以下で所定時間以上経過している場合は、前記二次時定数推定値の推定を中止して現在の前記二次時定数推定値を保持し、
前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和し、かつ、前記二次時定数推定値を演算した値に−1を乗算した逆符号二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和している場合は、前回二次時定数推定値を前記二次時定数推定値として保持して前記二次時定数推定値の推定を中止し、
前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和し、前記逆符号二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和しておらず、かつ、前記逆符号二次時定数推定値の変化率が前記第2閾値以下で所定時間以上経過している場合は、前記逆符号二次時定数推定値を保持して前記二次時定数推定値の推定を中止し、
前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和し、前記逆符号二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和しておらず、かつ、前記逆符号二次時定数推定値の変化率が前記第2閾値以下で所定時間以上経過していない場合は、繰り返し、前記逆符号二次時定数推定値の演算を行うことを特徴とする誘導電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機のベクトル制御に係り、特に力行・回生の4象限運転する際の一次時定数,二次時定数の補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PWMインバータなどの電力変換器を用いて誘導電動機を運転する手法の1つに、ベクトル制御がある。
【0003】
誘導電動機のベクトル制御では、制御設定値である一次抵抗設定値Rs_c,二次抵抗設定値Rr_c,一次漏れインクダクタンス設定値Ls_c,二次漏れインダクタンス設定値Lr_c,相互インダクタンス設定値M_cと、誘導電動機の実パラメータである一次抵抗Rs,二次抵抗Rr,一次漏れインダクタンスLs,二次漏れインダクタンスLr,相互インダクタンスMと、の間に誤差が生じると、ベクトル制御性能が悪化する。
【0004】
誘導電動機をトルク制御する場合、ベクトル制御性能が悪化した状態は、トルク誤差が生じるため好ましくない。また、一般的なすべり周波数型ベクトル制御を行う場合には、すべり周波数を誘導電動機の二次時定数τr(=Lr/Rr)から推定する。
【0005】
実際には、二次時定数τrの検出は困難であるため二次時定数設定値τr_c(=Lr_c/Rr_c)を用いる。運転中に温度変化等が生じる場合には、一次抵抗Rsの変動と合わせて、二次抵抗Rrも同様に変動する。そのような場合には、二次時定数設定値τr_cと二次時定数τrとの間に誤差が生じるためベクトル軸のずれ(軸ずれ)が生じ、所望の制御性能を得られない問題がある。
【0006】
そこで、運転中の二次抵抗補償法が多数開示されている。しかし、電流予測値と電流検出値の誤差である電流誤差を用いる補償方式の場合、誘導電動機の回生運転で二次抵抗補償値が不安定となることが、非特許文献1で示されている。
【0007】
また、実際の誘導電動機の運転では、力行・回生の4象限で運転する場合もあるため、回生領域でも安定して二次抵抗補償を行う方式が必要となる。
【0008】
力行・回生の4象限で運転するための従来技術として特許文献1が開示されている。この方式は、力行・回生を考慮した軸ずれの補償方式であり、トルク精度向上も実現可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−20993号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「誘導電動機パラメータ適応二次磁束オブザーバの提案とその安定性」久保田・松瀬,電気学会D部門論文誌,Vol.111,No.3,p188(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1では、力行時と回生時で軸ずれ角δの補償式が異なるため、力行・回生運転の判別が必要となっている。
【0012】
下記は、特許文献1の(11a)式,(11b)式に記載されている軸ずれ角δの演算式である。
【0013】
【数1】
【0014】
力行・回生運転の判別手法として、特許文献1では電動機モデルで求まる誘起電圧E1(12)式と電流モデルで求まる誘起電圧E2(13a)式から求めている。
【0015】
【数2】
【0016】
その他の力行・回生運転の判別手法としては、トルク検出値と回転数検出値から求める手法がある。
【0017】
しかし、これらの力行・回生運転の運転判別手法では、電圧、電流などの検出値がノイズなどの外乱によって真値から誤差が生じた場合、力行・回生判別が正しく行われなくなるおそれがある。その場合、制御性能が大きく悪化する問題がある。
【0018】
以上示したようなことから、力行・回生運転の判別を必要とせずに、4象限運転時のパラメータ誤差補償を行うことができ、ベクトル制御性能を向上させる誘導電動機の制御装置を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、γ軸電流指令値とγ軸電流検出値との偏差,δ軸電流指令値とδ軸電流検出値との偏差に基づいて、γ軸電圧指令値とδ軸電圧指令値とを出力する電流制御器と、前記γ軸電圧指令値と前記δ軸電圧指令値とを三相電圧指令値に変換する第1座標変換部と、前記三相電圧指令値に応じた電圧を出力するインバータと、前記インバータが出力した電圧により駆動する誘導電動機と、前記インバータの三相電流検出値を前記γ軸電流検出値,前記δ軸電流検出値に変換する第2座標変換部と、前記γ軸電圧指令値と、前記δ軸電圧指令値と、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、電気角演算値と、一次時定数推定値の逆数と、二次時定数推定値の逆数と、機械回転数と、に基づいて、γ軸電流推定値と、δ軸電流推定値を演算する電流オブザーバと、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、前記γ軸電流推定値と前記γ軸電流検出値との差分であるγ軸電流誤差と、前記δ軸電流推定値と前記δ軸電流検出値との差分であるδ軸電流誤差と、推定開始信号と、に基づいて前記一次時定数推定値の逆数と前記二次時定数推定値の逆数を演算する時定数推定部と、前記二次時定数推定値の逆数に基づいて、電気角演算値を演算するすべり演算・電気角演算部と、を備え、前記時定数推定部は、前記一次時定数推定値の変化率が第1閾値以下で所定時間経過している場合は前記一次時定数推定値の推定を中止して現在の前記一次時定数推定値を保持し、それ以外の場合は、繰り返し前記一次時定数推定値の演算を行い、前記二次時定数推定値の変化率が第2閾値以下で所定時間経過している場合は前記二次時定数推定値の推定を中止して現在の二次時定推定値を保持し、それ以外の場合は、繰り返し前記二次時定数推定値の演算を行うことを特徴とする。
【0020】
また、他の態様として、γ軸電流指令値とγ軸電流検出値との偏差,δ軸電流指令値とδ軸電流検出値との偏差に基づいて、γ軸電圧指令値とδ軸電圧指令値とを出力する電流制御器と、前記γ軸電圧指令値と前記δ軸電圧指令値とを三相電圧指令値に変換する第1座標変換部と、前記三相電圧指令値に応じた電圧を出力するインバータと、前記インバータが出力した電圧により駆動する誘導電動機と、前記インバータの三相電流検出値を前記γ軸電流検出値,前記δ軸電流検出値に変換する第2座標変換部と、前記γ軸電圧指令値と、前記δ軸電圧指令値と、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、電気角演算値と、一次時定数推定値の逆数と、二次時定数推定値の逆数と、機械回転数と、に基づいて、γ軸電流推定値と、δ軸電流推定値を演算する電流オブザーバと、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、前記γ軸電流推定値と前記γ軸電流検出値との差分であるγ軸電流誤差と、前記δ軸電流推定値と前記δ軸電流検出値との差分であるδ軸電流誤差と、推定開始信号と、に基づいて前記一次時定数推定値の逆数と前記二次時定数推定値の逆数を演算する時定数推定部と、前記二次時定数推定値の逆数に基づいて、電気角演算値を演算するすべり演算・電気角演算部と、を備え、前記時定数推定部は、前記一次時定数推定値の変化率が第1閾値以下で所定時間経過している場合、または、前記一次時定数推定値の変化率が前記第1閾値よりも大きい第3閾値以上で所定時間経過している場合は前記一次時定数推定値の推定を中止して現在の前記一次時定数推定値を保持し、それ以外の場合は、繰り返し、前記一次時定数推定値の演算を行い、前記二次時定数推定値の変化率が第2閾値以下で所定時間経過している場合、または、前記二次時定数推定値の変化率が前記第2閾値よりも大きい第4閾値以上で所定時間経過している場合は前記二次時定数推定値の推定を中止して現在の前記二次時定数推定値を保持し、それ以外の場合は、繰り返し、前記二次時定数推定値の演算を行うことを特徴とする。
【0021】
また、他の態様として、γ軸電流指令値とγ軸電流検出値との偏差,δ軸電流指令値とδ軸電流検出値との偏差に基づいて、γ軸電圧指令値とδ軸電圧指令値とを出力する電流制御器と、前記γ軸電圧指令値と前記δ軸電圧指令値とを三相電圧指令値に変換する第1座標変換部と、前記三相電圧指令値に応じた電圧を出力するインバータと、前記インバータが出力した電圧により駆動する誘導電動機と、前記インバータの三相電流検出値を前記γ軸電流検出値,前記δ軸電流検出値に変換する第2座標変換部と、前記γ軸電圧指令値と、前記δ軸電圧指令値と、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、電気角演算値と、一次時定数推定値の逆数と、二次時定数推定値の逆数と、機械回転数と、に基づいて、γ軸電流推定値と、δ軸電流推定値を演算する電流オブザーバと、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、前記γ軸電流推定値と前記γ軸電流検出値との差分であるγ軸電流誤差と、前記δ軸電流推定値と前記δ軸電流検出値との差分であるδ軸電流誤差と、推定開始信号と、に基づいて前記一次時定数推定値の逆数と前記二次時定数推定値の逆数を演算する時定数推定部と、前記二次時定数推定値の逆数に基づいて、電気角演算値を演算するすべり演算・電気角演算部と、を備え、前記時定数推定部は、前記一次時定数推定値の変化率が第1閾値以下で所定時間経過している場合は前記一次時定数推定値の推定を中止して現在の前記一次時定数推定値を保持し、前記一次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第1閾値よりも大きい第1リミッタ値で飽和している場合は前回一次時定数推定値を前記一次時定数推定値として保持して前記一次時定数推定値の推定を中止し、それ以外の場合は、繰り返し、前記一次時定数推定値の演算を行い、前記二次時定数推定値の変化率が第2閾値以下で所定時間経過している場合、前記二次時定数推定値の推定を中止して現在の前記二次時定数推定値を保持し、前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2閾値よりも大きい第2リミッタ値で飽和している場合は前回二次時定数推定値を前記二次時定数推定値として保持して前記二次時定数推定値の推定を中止し、それ以外の場合は、繰り返し、前記二次時定数推定値の演算を行うことを特徴とする。
【0022】
また、他の態様として、γ軸電流指令値とγ軸電流検出値との偏差,δ軸電流指令値とδ軸電流検出値との偏差に基づいて、γ軸電圧指令値とδ軸電圧指令値とを出力する電流制御器と、前記γ軸電圧指令値と前記δ軸電圧指令値とを三相電圧指令値に変換する第1座標変換部と、前記三相電圧指令値に応じた電圧を出力するインバータと、前記インバータが出力した電圧により駆動する誘導電動機と、前記インバータの三相電流検出値を前記γ軸電流検出値,前記δ軸電流検出値に変換する第2座標変換部と、前記γ軸電圧指令値と、前記δ軸電圧指令値と、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、電気角演算値と、一次時定数推定値の逆数と、二次時定数推定値の逆数と、機械回転数と、に基づいて、γ軸電流推定値と、δ軸電流推定値を演算する電流オブザーバと、前記γ軸電流検出値と、前記δ軸電流検出値と、前記γ軸電流推定値と前記γ軸電流検出値との差分であるγ軸電流誤差と、前記δ軸電流推定値と前記δ軸電流検出値との差分であるδ軸電流誤差と、推定開始信号と、に基づいて前記一次時定数推定値の逆数と前記二次時定数推定値の逆数を演算する時定数推定部と、前記二次時定数推定値の逆数に基づいて、電気角演算値を演算するすべり演算・電気角演算部と、を備え、前記時定数推定部は、前記一次時定数推定値の変化率が第1閾値以下で所定時間経過している場合は前記一次時定数推定値の推定を中止して現在の前記一次時定数推定値を保持し、前記一次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第1閾値よりも大きい第1リミッタ値で飽和している場合は前回一次時定数推定値を前記一次時定数推定値として保持して前記一次時定数推定値の推定を中止し、それ以外の場合は、繰り返し、前記一次時定数推定値の演算を行い、前記二次時定数推定値の変化率が第2閾値以下で所定時間以上経過しておらず、かつ、前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2閾値よりも大きい第2リミッタ値で飽和していない場合は、繰り返し、前記二次時定数推定値の演算を行い、前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和しておらず、かつ、前記二次時定数推定値の変化率が前記第2閾値以下で所定時間以上経過している場合は、前記二次時定数推定値の推定を中止して現在の前記二次時定数推定値を保持し、前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和し、かつ、前記二次時定数推定値を演算した値に−1を乗算した逆符号二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和している場合は、前回二次時定数推定値を前記二次時定数推定値として保持して前記二次時定数推定値の推定を中止し、前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和し、前記逆符号二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和しておらず、かつ、前記逆符号二次時定数推定値の変化率が前記第2閾値以下で所定時間以上経過している場合は、前記逆符号二次時定数推定値を保持して前記二次時定数推定値の推定を中止し、前記二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和し、前記逆符号二次時定数推定値の変化率の絶対値が前記第2リミッタ値で飽和しておらず、かつ、前記逆符号二次時定数推定値の変化率が前記第2閾値以下で所定時間以上経過していない場合は、繰り返し、前記逆符号二次時定数推定値の演算を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、力行・回生運転の判別を必要とせずに、4象限運転時のパラメータ誤差補償を行うことができ、ベクトル制御性能を向上させる誘導電動機の制御装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態1における誘導電動機の制御システム構成図。
図2】実施形態1における時定数調整器を示すブロック図。
図3】実施形態1における時定数推定部の動作を示すフローチャート。
図4】実施形態1における回転数,トルク,一次時定数推定値,二次時定数推定値,γ軸,δ軸電流偏差を示すタイムチャート。
図5図4のトルク部の拡大図。
図6】実施形態2における時定数推定部の動作を示すフローチャート。
図7】実施形態3における時定数調整器を示すブロック図。
図8】実施形態3における時定数推定部の動作を示すフローチャート。
図9】実施形態1〜3の一次時定数推定値を示すタイムチャート。
図10】実施形態4における時定数推定部の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[実施形態1]
本実施形態1における誘導電動機の制御装置について説明する。図1は本実施形態1における誘導電動機の制御装置の構成図である。
【0026】
電流指令演算部1は、γ軸磁束指令値φγr_rとトルク指令値T_rとに基づいて、例えば(1)式,(2)式によりγ軸電流指令値iγs_rとδ軸電流指令値iδs_rを出力する。
【0027】
【数3】
【0028】
減算器2a,2bは、γ軸電流指令値iγs_rとγ軸電流検出値iγs_dとのγ軸電流偏差、δ軸電流指令値iδs_rとδ軸電流検出値iδs_dとのδ軸電流偏差を計算し、電流制御部3へ出力する。
【0029】
電流制御部3では、例えば、PI制御のような電流偏差がゼロとなるγ軸電圧指令値vγs_r,δ軸電圧指令値vδs_rを第1座標変換部4に出力する。
【0030】
第1座標変換部4は、γ軸電圧指令値vγs_rとδ軸電圧指令値vδs_rを、電気角基準位相θeに基づいて座標変換を行い、三相電圧指令値vu_r,vv_r,vw_rに変換し、PWMインバータ5に出力する。本実施形態1での座標変換は(3)式,(4)式の回転行列Cと3相2相変換行列Dを用いて行っている。
【0031】
【数4】
【0032】
PWMインバータ5は、三相電圧指令値vu_r,vv_r,vw_rに基づいて、誘導電動機IMに電圧を出力する。
【0033】
第2座標変換部6は、三相電流検出値iu_d,iv_d,iw_dを電気角基準位相θeに基づいて、γ軸電流検出値iγ_dとδ軸電流検出値iδ_dを出力する。
【0034】
適応制御部7は、電流オブザーバ8と時定数調整器9とを備える。電流オブザーバ8は、γ軸電圧指令値vγs_r,δ軸電圧指令値vδs_r,γ軸電流検出値iγs_d,δ軸電流検出値iδs_d,機械回転数(極数倍)ωre_d,電気角演算値ωe_e,一次時定数推定値の逆数1/τs_e,二次時定数推定値の逆数1/τr_eを入力する。電流オブザーバ8で以下の(5)式の演算を行い、γ軸電流推定値iγs_e,δ軸電流推定値iδs_eを出力する。
【0035】
【数5】
【0036】
推定したγ軸電流推定値iγs_e,δ軸電流推定値iδs_eと、γ軸電流検出値iγs_d,δ軸電流検出値iδs_d,推定開始信号Start_estを時定数調整器9に入力する。時定数調整器9の詳細を図2に示す。時定数調整器9は、電流誤差演算部9aと時定数推定部9bと、を備える。
【0037】
電流誤差演算部9aは、γ軸電流推定値iγs_e,δ軸電流推定値iδs_eと、γ軸電流検出値iγs_d,δ軸電流検出値iδs_dからγ軸電流誤差eiγs,δ軸電流誤差eiδsを(6)式で求める。
【0038】
【数6】
【0039】
時定数推定部9bは、γ軸電流誤差eiγs,δ軸電流誤差eiδs,γ軸電流検出値iγs_d,δ軸電流検出値iδs_d,推定開始信号Start_estを入力し、一次時定数推定値の逆数1/τs_eと二次時定数推定値の逆数1/τr_eを推定する。時定数推定部9bでの処理に関しては後述する。
【0040】
図1に示すように、時定数調整器9で推定した一次時定数推定値の逆数1/τs_e,二次時定数推定値の逆数1/τr_eは電流オブザーバ8に出力される。また、二次時定数推定値の逆数1/τr_eは適応制御部7の出力として、すべり演算・電気角演算部10へ出力される。その他、γ軸電流指令値iγs_r,δ軸電流指令値iδs_r,機械回転数ωre_dを、すべり演算・電気角演算部10へ入力し(7)式で電気角演算値ωe_eを求める。
【0041】
【数7】
【0042】
(7)式は誘導電動機IMでδ軸磁束指令値φδr_r=0とするベクトル制御で導出可能な一般的な式であるため説明は省略する。
【0043】
積分器11は、(7)式で求めた電気角演算値ωe_eに基づいて、電気角基準位相θeを求め、電気角基準位相θeを座標変換時の基準軸として利用する。
【0044】
本実施形態1は、運転前の実二次抵抗値Rrと二次抵抗設定値Rr_cに誤差がある場合や、運転中の温度変化により実二次抵抗値Rrと二次抵抗設定値Rr_cに誤差が生じ、軸ずれが生じてしまう条件でも、運転中に逐次推定される二次時定数推定値τr_eを用いてすべり周波数を推定することで軸ずれを防ぎ、所望の制御性能を得ることができる。加えて、従来制御では困難であった力行・回生の4象限運転においても、その効果を得ることができる方式である。
【0045】
時定数推定部9bでの動作フローチャートを図3に示す。
【0046】
はじめに推定開始信号Start_estを受信し、S1で時定数推定部9bが動作を始める。時定数推定部9bでは一次時定数推定値τs_eを(8)式で演算する。一次時定数推定値τs_eは(8)式を積分し、その逆数をとることで求める。
【0047】
【数8】
【0048】
S2において推定した一次時定数推定値τs_eの変化率Δτs_eを演算し、S3において変化率Δτs_eがあらかじめ定めた第1閾値以下の状態を所定時間t1継続しているか否かを判定する。
【0049】
条件を満たしていない場合はS1に戻り、(8)式の演算を繰り返し、一次時定数推定値τs_eの推定を続ける。条件を満たした場合には、S4へ移行し、その時の一次時定数推定値τs_eの値を保持したまま推定を中止し、S5へ移行して二次時定数推定値τr_eの推定を開始する。
【0050】
二次時定数推定値τr_eは(9)式で演算する。二次時定数推定値τr_eは(9)式を積分し、その逆数をとることで求める。
【0051】
【数9】
【0052】
(9)式はγ軸電流誤差eiγsとδ軸電流誤差eiδsがゼロとなるように調整する信号を二次時定数推定値τr_eとする演算である。
【0053】
S6で、推定した二次時定数推定値τr_eの変化率Δτr_eを演算し、S7で変化率Δτr_eがあらかじめ定めた第2閾値以下の状態を所定時間t2継続しているか判定する。条件を満たしていない場合はS5に戻り、(9)式の演算を繰り返し、二次時定数推定値τr_eの推定を続ける。条件を満たした場合には、S8へ移行し、二次時定数推定値τr_eの値を保持したまま推定を中止し、S1に戻って一次時定数推定値τs_eの推定を開始する。
【0054】
本実施形態1では、電流モデルとの誤差がゼロとなるように二次時定数を調整することで、力行・回生の運転状態の判別を行うことなく、誘導電動機IMのトルクを精度よく制御できる。
【0055】
本実施形態1での回転数,トルク,一次時定数推定値の逆数1/τs_e,二次時定数推定値の逆数1/τr_e,γ軸,δ軸電流誤差eiγs,eiδsを図4に示す。図4は時刻Aまでと時刻B以降が回生領域(回転数×トルク<0),時刻AB間が力行領域(回転数×トルク>0)である。図5は、図4のトルク部の拡大図である。
【0056】
時刻(1)までは、パラメータ設定誤差として一次時定数推定値の逆数1/τs_eは一次時定数の逆数1/τsに対して−5[%]の誤差、二次時定数推定値の逆数1/τr_eは二次時定数の逆数1/τrに対して+5[%]の誤差が生じた状態で運転を行っている。パラメータ誤差の影響でトルク指令値T_rに対してトルク検出値T_dに誤差が生じており、トルク精度が良くないことが確認できる。
【0057】
時刻(1)にて推定開始信号Start_estを受信し推定開始となる。まずは、一次時定数推定値の逆数1/τs_eを推定するため、一次時定数推定値の逆数1/τs_eが変化していることが確認できる。その後、一次時定数推定値の逆数1/τs_eの変化率が第1閾値以下となり所定時間t1経過した時刻が(2)である。時刻(2)で一次時定数推定値τs_eの推定を中止し、その値を保持し二次時定数推定値τr_eの推定を開始する。
【0058】
二次時定数推定値τr_eの推定開始後、その変化率Δτr_eが第2閾値以下となり所定時間t2経過した時刻が(3)である。ここで、二次時定数推定値τr_eの推定を中止し、その値を保持して再び一次時定数推定値τs_eの推定を開始する。
【0059】
この動作を繰り返すことで、図4は一次時定数推定値の逆数1/τs_e,二次時定数推定値の逆数1/τr_eが100[%]に近づき、トルク精度もよくなっていることが確認できる。
【0060】
また、推定中に回生から力行,力行から回生と運転状態が変化しているが、運転状態判別なしであるにもかかわらず、推定が不安定となることなくパラメータ誤差を小さくするように動作することができていることを確認できる。
【0061】
本実施形態1によれば、力行・回生の判別を必要とせずに4象限運転時のパラメータ誤差補償を行うことができ、ベクトル制御性能を向上させることが可能となる。
【0062】
また、本実施形態1は力行・回生の判別が不要であるのでノイズの影響を受けやすい計測器等を使用する場合においても安定して適応制御を行うことが可能となり、ロバスト性も向上する。
【0063】
[実施形態2]
本実施形態2の制御システムの構成は実施形態1(図1)と同様である。
【0064】
本実施形態2は、時定数推定部9bの動作が実施形態1とは異なる。図6に本実施形態2の時定数推定部9bのフローチャートを示す。
【0065】
本実施形態2のフローチャートでは、実施形態1のフローチャートにおけるS1〜S8に加え、S9,S10の処理を行う。
【0066】
S9では、一次時定数推定値の変化率Δτs_eが第3閾値a_max以上で所定時間t1b継続しているか否かを判定し、第3閾値a_max以上で所定時間t1b継続している場合はS4へ移行し、一次時定数推定値τs_eを保持し、一次時定数推定値τs_eの推定を中止する。
【0067】
それ以外の場合はS3へ移行し、一次時定数推定値の変化率Δτs_eが第1閾値a_min以下で所定時間t1a継続しているか否かを判定し、第1閾値a_min以下で所定時間t1a継続している場合はS4へ移行し、それ以外の場合はS1に戻る。
【0068】
また、S10では、二次時定数推定値の変化率Δτr_eが第4閾値b_max以上で所定時間t2b継続しているか否かを判定し、第4閾値b_max以上で所定時間t2b継続している場合はS8へ移行し、二次時定数推定値τr_eを保持し、二次時定数推定値τr_eの推定を中止する。
【0069】
それ以外の場合はS7へ移行し、二次時定数推定値の変化率Δτr_eが第2閾値b_min以下で所定時間t2a継続しているか否かを判定し、第2閾値b_min以下で所定時間t2a継続している場合はS8へ移行し、それ以外の場合はS5に戻る。
【0070】
すなわち、一次時定数推定値,二次時定数推定値の変化率Δτs_e,Δτr_eの上限を設定し、変化率Δτs_e,Δτr_eが第3,第4閾値a_max(一次時定数推定値の場合)b_max(二次時定数推定値の場合)を超えた場合に、推定を中止する機能を追加している。なお、変化率Δτs_e,Δτr_eの第3,第4閾値a_max,b_maxは以下の関係となるように設定する。(a_max>a_min),(b_max>b_min)。
【0071】
実施形態1では、外乱ノイズなどの影響によって時定数調整器9に入力されるγ軸,δ軸電流検出値iγs_d,iδs_dに誤差が生じた場合に、一次時定数推定値τs_e,二次時定数推定値τr_eが発散してしまう恐れがある。
【0072】
しかし、本実施形態2により、一次時定数推定値τs_e,二次時定数推定値τr_eが発散するような状況で確実に推定を中止することができる。
【0073】
以上示したように、本実施形態2では、実施形態1の効果に加え、一次時定数推定値τs_e,二次時定数推定値τr_eが発散するような状況になった場合を検出することが可能となるため、適応制御系のロバスト性を実施形態1よりも保証することが可能となる。
【0074】
[実施形態3]
本実施形態3は、時定数調整器9の構成が実施形態1と異なる。その他の構成は実施形態1と同様である。本実施形態3の時定数調整器9の構成を図7に示す。図7に示すように、本実施形態3の時定数推定部9bは、バッファを介した前回一次時定数推定値τs_ez,前回二次時定数推定値τr_ezが入力される。
【0075】
図8に本実施形態3の時定数推定部9bの動作フローチャートを示す。本実施形態3では、実施形態1のフローチャートに、S11,S12,S13,S14の処理が加えられている。
【0076】
S11では、一次時定数推定値の変化率の絶対値|Δτs_e|のリミッタ処理を行う。このリミッタ処理でのリミッタ値が第1リミッタ値a_limである。さらに、一次時定数推定値の変化率の絶対値|Δτs_e|が第1リミッタ値a_limで飽和しているか否か(すなわち、リミッタ処理後の|Δτs_e|=a_limか否か)を判定し、飽和している場合(リミッタ処理後の|Δτs_e|=a_limの場合)はS12、飽和していない場合(リミッタ処理後の|Δτs_e|<a_limの場合)はS3へ移行する。S3へ移行した場合は、実施形態1と同様である。
【0077】
S12では前回一次時定数推定値τs_ezを一次時定数推定値τs_eとし、S4へ移行して一次時定数推定値τr_eを保持し、推定を中止する。
【0078】
S13では、二次時定数推定値の変化率の絶対値|Δτr_e|のリミッタ処理を行う。このリミッタ処理でのリミッタ値が第2リミッタ値b_limである。二次時定数推定値の変化率の絶対値|Δτr_e|が第2リミッタ値b_limで飽和しているか否かを判定し、飽和している場合はS14、飽和していない場合はS7へ移行する。S7へ移行した場合は実施形態1と同様である。
【0079】
S14では前回二次時定数推定値τr_ezを二次時定数推定値τs_eとし、S8へ移行して二次時定数推定値τr_eを保持し、推定を中止する。
【0080】
すなわち、一次時定数推定値,二次時定数推定値の変化率の絶対値|Δτs_e|,|Δτr_e|に第1,第2リミッタ値a_lim,b_limを設定し,一次時定数推定値,二次時定数推定値の変化率の絶対値|Δτs_e|,|Δτr_e|が第1,第2リミッタ値a_lim,b_limを超えた場合に、一次,二次時定数推定値τs_e,τr_eを前回一次時定数推定値τs_ez、前回二次時定数推定値τr_ezとして推定を中止する機能を追加している。なお、第1,第2リミッタ値は以下の関係となるように設定する。(a_lim>a_min),(b_lim>b_min)。
【0081】
本実施形態3により、一次時定数推定値τs_e,二次時定数推定値τs_eが発散するような状況で確実に推定を中止することができる。
【0082】
図9に、実施形態1〜3の一次時定数推定τs_eの動作を示す。推定を開始してから通常であれば一次時定数推定値τs_eは真値に向かい収束するが、外乱等により推定がうまくいかない場合には発散してしまうことが考えられる。実施形態1ではそのような場合に推定を止める機能がないため、図9に示すように発散している値を推定値としてすべり演算で利用し続けてしまう。
【0083】
実施形態2では、発散状態が所定時間以上継続していると思われる場合には推定を中止する。しかし発散している途中の値で保持してしまうため推定開始前よりも悪い値をすべり演算で利用することとなる。
【0084】
本実施形態3では推定を中止した場合には、前回の値を用いるため推定開始前より悪い値をすべり演算で用いることはない。したがって、仮に発散状態が発生した場合では、実施形態2よりも精度よく誘導電動機IMを制御できることになる。
【0085】
以上示したように、本実施形態3は、実施形態1の効果に加え、実施形態1では一次,二次時定数推定値τs_e,τr_eが発散するような状況になった場合を検出することが可能となるため、適応制御系のロバスト性を保証することが可能となる。
【0086】
[実施形態4]
本実施形態4における制御システムの構成は、実施形態3と同様である。本実施形態4は、時定数推定部9bの動作が実施形態3と異なる。図10に本実施形態4の時定数推定部9bの動作フローチャートを示す。
【0087】
本実施形態4は、実施形態3の処理に、S15,S16,S17,S18,S19の処理が加えられている。
【0088】
S15は、二次時定数推定値の変化率の絶対値|Δτr_e|が第2リミット値b_limで飽和した場合にS14で前回二次時定数推定値τr_ezを二次時定数推定値τr_eとした後に、二次時定数推定値τr_eを以下の(10)式で演算する。(10)式は(9)式と符号が異なり、(10)式で演算された値を逆符号二次時定数推定値とする。
【0089】
【数10】
【0090】
S16では、逆符号二次時定数推定値τr_eの変化率Δτr_eを演算する。S17は、逆符号二次時定数推定値の変化率の絶対値|Δτr_e|が第2リミッタ値b_limで飽和しているか否かを判定し、飽和している場合はS18、飽和していない場合はS19へ移行する。
【0091】
S18は、前回二次時定数推定値τr_ezを二次時定数推定値τr_eとして、S8へ移行する。S19は、逆符号二次時定数推定値の変化率Δτr_eが第2リミット値b_min以下で所定時間t2a継続しているか否か判定し、継続している場合はS8へ移行し、継続していない場合はS15へ移行する。その他は実施形態3と同様である。
【0092】
すなわち、(10)式の演算により、(9)式では電流偏差を小さくできなかった場合に電流偏差を小さくすることができる場合がある。(9)式,(10)式の演算を行っても二次時定数推定値の変化率Δτr_eが小さくならない場合に推定を中止する。
【0093】
本実施形態4では、一次時定数推定値τs_eが発散するような状況になった場合でも二次時定数推定値演算方法を(10)式に変更するフローが追加されているため、適応制御系のロバスト性を実施形態3よりも保証することが可能となる。
【0094】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0095】
1…電流指令演算部
2a,2b…減算部
3…電流制御部
4…第1座標変換部
5…PWMインバータ
6…第2座標変換部
7…適応制御部
8…電流オブザーバ
9…時定数調整器
10…すべり演算・電気角演算部
11…積分器
図1
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図10