特許第6880862号(P6880862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880862
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】ヘッドフォン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20210524BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   H04R1/10 101B
   H04R3/00 310
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-49854(P2017-49854)
(22)【出願日】2017年3月15日
(65)【公開番号】特開2018-157240(P2018-157240A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【弁理士】
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100128598
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 聖一
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 力
【審査官】 大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−538520(JP,A)
【文献】 特開2004−336251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号の音量を調整する調整部と、
前記調整部により音量が調整された信号に基づいて発音する発音体と、
前記発音体による出力音を収音するマイクと、
前記マイクによる収音信号に基づいて前記発音体による出力音の音圧を推定し、当該推定した音圧の積算値が所定の閾値以上となったときに、前記調整部に対して前記音量を小さく変更させる旨を指示する音量変更部と、
を具備し、
前記音量変更部は、
前記マイクによる収音信号を音圧に変換する変換部と、
使用開始からの経過時間が、前記変換された音圧の平均値に対応する時間しきい値以上となったか否かを判別する判別部と、
を有し、
経過時間が時間しきい値以上となったときに、前記音量を小さく変更させる旨を指示する
ことを特徴とするヘッドフォン。
【請求項2】
前記音圧の積算値が前記閾値以上となったときに、所定の警告を出力する警告部を有する
ことを特徴とする請求項に記載のヘッドフォン。
【請求項3】
前記音量変更部は、
前記音圧の平均値が所定値以上であれば、前記調整部に対して前記音量をゼロに変更させる旨を指示する
請求項1または2に記載のヘッドフォン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドフォンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンのような携帯型の外部機器が普及している。ユーザーは、ヘッドフォンを装着して、当該外部機器から出力される音楽等をユーザー自身が設定した音量で聴く場合が多い。また、周辺音を低減してユーザーに音楽等を聴かせる、いわゆるノイズキャンセル式のヘッドフォンも普及しつつある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−005413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ヘッドフォン難聴と呼ばれる一種の音響外傷が問題となりつつある。このヘッドフォン難聴は、ヘッドフォンで大音量の音楽等を長期間にわたって聴くことにより、内耳の蝸牛が障害を受けて、聴力が低下する症状をいう。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、ヘッドフォン難聴を防止することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るヘッドフォンは、入力信号の音量を調整する調整部と、前記調整部により音量が調整された信号に基づいて発音する発音体と、前記発音体による出力音を収音するマイクと、前記マイクによる収音信号に基づいて前記発音体による出力音の音圧を推定し、当該推定した音圧の積算値が所定の閾値以上となったときに、前記調整部に対して前記音量を小さく変更させる旨を指示する音量変更部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態に係るヘッドフォンを示す図である。
図2】ヘッドフォンの構成を示すブロック図である。
図3】時間しきい値テーブルの一例を示す図である。
図4】ヘッドフォンの動作例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、実施形態に係るヘッドフォン1を示す図である。この図に示されるように、ヘッドフォン1は、略円筒形状で左耳用のヘッドフォンユニット5Lと、同じく右耳用のヘッドフォンユニット5Rと、当該ヘッドフォンユニット5Lおよび5R同士を連結するヘッドバンド3と、を有する。
【0008】
ヘッドバンド3は、弾力性を備える金属や樹脂などにより、長手方向に円弧を描く外形に形成されたものである。ヘッドフォンユニット5Lおよび5Rの各々において、ヘッドバンド3における円弧の内側に、円環状で弾力性を有するイヤーパッド10がそれぞれ設けられている。
【0009】
ヘッドフォンユニット5Lにおいて、発音体12Lがイヤーパッド10における円環のほぼ中心に設けられる。マイク14Lは、イヤーパッド10の円環内であって発音体12Lの近傍に設けられる。
また、ヘッドフォンユニット5Lにおける円筒の側面にはダイヤル16aおよびLED(Light Emitting Diode)19が設けられ、当該側面からはコード18が引き出されている。なお、コード18は、外部機器から供給されるステレオ信号を入力する。本実施形態では、ステレオ信号を、コード18を介して有線で入力する構成としているが、赤外線や無線などによりワイヤレスで受信する構成としても良い。
【0010】
また、ヘッドフォンユニット5Rにおいて、発音体12Rがイヤーパッド10における円環のほぼ中心に設けられ、マイク14Rが、イヤーパッド10の円環内であって発音体12Rの近傍に設けられる。
発音体12Lおよび12Rは、それぞれ電気的な信号を物理的な振動の音に変換して出力するものであり、典型的にはスピーカーが用いられる。
【0011】
ダイヤル16aは、ユーザーによって設定される音量調整用のつまみである。なお、図の例では、ダイヤル16aをユーザーが回転させることで音量が設定されるが、例えば音量上昇用のプッシュボタンと下降用のプッシュボタンとを設けて、当該プッシュボタンの押下回数または押下時間により音量を設定する構成としても良い。
【0012】
ヘッドフォン1を装着する際に、ユーザーは、ヘッドフォンユニット5Lおよび5Rを持ってヘッドバンド3の円弧を広げつつ、イヤーパッド10の各々をそれぞれ自身の耳介に被せる。ヘッドフォンユニット5Lおよび5Rの各々に取り付けられたイヤーパッド10には、ヘッドバンド3の弾力性によって端部同士を近づけようとする復元力が発生するので、ユーザーの頭部に側圧を与える。この側圧によって、ヘッドフォン1は装着時において所定の位置で保持される。
【0013】
このようにユーザーがヘッドフォン1を装着したときに、発音体12Lおよびマイク14Lは、イヤーパッド10の閉空間に位置することになるので、マイク14Lは、発音体12Lで出力された音を収音することになる。マイク14Rも同様に、ユーザーがヘッドフォン1を装着したときに、発音体12Rで出力された音を収音することになる。
【0014】
図2は、ヘッドフォン1の電気的な構成を示すブロック図である。この図に示されるように、ヘッドフォン1は、発音体12L、12R、マイク14L、14R、コード18、LED19、調整部30、音量変更部40、増幅器55Lおよび55Rを含む。
【0015】
ヘッドフォン1においては、ステレオ信号における左チャネルの信号処理と右チャネルの信号処理とは、ほぼ同じである。そこでまず、左チャネルを処理するための系について先に説明する。
コード18を介して入力されたステレオ信号のうち、左チャネル用の信号Linは、調整部30に供給される。調整部30は、乗算器32L、32Rおよび係数出力部34を含む。調整部30に供給された信号Linは、乗算器32Lに供給される。乗算器32Lは、信号Linに、係数出力部34から供給される係数を乗じて増幅器55Lに供給する。
係数出力部34は、ダイヤル16aによって設定された音量に対応した係数を出力する。なお、係数出力部34は、後述するように音量変更部40からの指示があった場合、ダイヤル16aの設定にかかわらず、係数を変更する。
【0016】
増幅器55Lは、乗算器32Lによる乗算信号を、所定の増幅率で増幅して発音体12Lに供給する。
一方、マイク14Lは、上述したように発音体12Lで出力された音を収音して、当該収音信号を音量変更部40に供給する。
【0017】
ステレオ信号における右チャネルを処理するための系についても、左チャネルと同様である。すなわち、乗算器32Rは、コード18を介して入力されたステレオ信号のうち、右チャネル用の信号Rinに、係数出力部34からの係数を乗じ、増幅器55Rは、乗算器32Rによる乗算信号を、所定の増幅率で増幅して発音体12Rに供給する。一方、マイク14Rは、発音体12Rで出力された音を収音して、当該収音信号を音量変更部40に供給する。
【0018】
音量変更部40は、変換部42および判別部44を含む。
変換部42は、マイク14Lおよび14Rの各収音信号を入力し、それぞれの収音信号の振幅値を音圧値に変換して判別部44に供給する。詳細には、変換部42は、例えば予め振幅値と音圧値とを対応付けたテーブルを有し、収音信号の振幅値を、当該テーブルを参照して音圧値に変換し、当該音圧値を判別部44に供給する。なお、変換部42は、収音信号の振幅値を、テーブルではなく、所定の演算により算出しても良い。
【0019】
判別部44は、変換部42から供給された音圧値を、次のような判別を含む処理を実行し、当該判別の結果に応じた指示をする。
詳細には、第1に、判別部44は、ヘッドフォン1の使用開始時(例えば電源オン時)からの使用時間(経過時間)を計測する。第2に、判別部44は、変換部42から供給された左右の音圧値について、経過時間にわたった時間平均値(音圧平均値)を算出する。具体的には、判別部44は、変換部42から供給された左右の音圧値を使用開始時から所定時間間隔(例えば1秒毎)に積算し、当該積算値を上記経過時間で除して、音圧平均値を算出する。第3に、判別部44は、経過時間が音圧平均値に対応する時間しきい値以上となったか否かを判別する。
【0020】
図3は、音圧平均値と時間しきい値との関係を規定するテーブルの一例を示す図である。この図において、例えば音圧平均値が92dB以上94dB未満であれば、時間しきい値は1時間であり、また、音圧平均値が85dB未満であれば、時間しきい値は8時間であることを示している。
このテーブルは、過度な音量で聴き続けた場合に発生し得るヘッドフォン難聴を防止するために設けられたものであり、人が騒音にこれ以上の時間曝されることが好ましくない、という観点から規定される。なお、このテーブルはあくまでも一例であり、実際には、種々の試験結果や安全マージンなどを考慮して設定される。
【0021】
第4に、判別部44は、当該経過時間が時間しきい値未満であると判別すれば、調整部30に対してダイヤル16aの設定に応じた値の係数の出力を指示する一方、当該経過時間が時間しきい値以上であると判別すれば、係数出力部34に対し、ダイヤル16aの設定にかかわらず、ゼロの係数を出力するように指示するとともに、LED19を点灯させる。
【0022】
次に、ヘッドフォン1の動作について説明する。
図4は、ヘッドフォン1の動作を説明するための図である。図において、Xは、音圧平均値の時間的な変化を示している。
ヘッドフォン1の使用開始時において、音圧平均値が101dB以上でなければ、当該使用開始時からの経過時間が当該音圧平均値に対応する時間しきい値未満である旨が判別部44によって判別されるので、係数出力部34は、ダイヤル16aで設定された値に応じた係数を出力する。このため、ヘッドフォン1を装着したユーザーは、自身でダイヤル16aにより調整した音量にて外部機器による音楽等を聴くことができる。
【0023】
一方、使用開始してから時間Tを経過した時点で、経過時間が当該時点での音圧平均値に対応する時間しきい値以上である旨が判別部44によって判別されると、係数出力部34は、ダイヤル16aの設定にかかわらず、ゼロの係数を出力する。
これにより、ヘッドフォン1を装着したユーザーは、以降、外部機器による音楽等を聴くことができなくなるので、聴き過ぎによりヘッドフォン難聴に至るのを抑えることができる。また、経過時間が音圧平均値に対応する時間しきい値以上であると判別されるとLED19が点灯して警告されるので、ユーザーは、聴き過ぎという状態を知ることができる。
【0024】
なお、使用開始時において、音圧平均値が101dB以上であれば、即時に時間しきい値以上である旨が判別部44によって判別されるので、ヘッドフォン1で音楽等を聴くことができなくなる。
【0025】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば次に述べるような各種の応用・変形が可能である。なお、次に述べる応用・変形の態様は、任意に選択された一または複数を適宜に組み合わせることもできる。
【0026】
上述した実施形態において、マイク14Lおよび14Rによる収音信号は、音圧平均値を算出するためのみに用いたが、他の用途、例えばノイズキャンセルに用いても良い。具体的には、マイク14Lによる収音信号を逆相化(極性を反転化)させて、当該逆相信号と信号Linと加算する一方、マイク14Rによる収音信号を逆相化させて、当該逆相信号と信号Rinと加算する構成としても良い。この構成によれば、ユーザーに知覚される周辺音を低減させることができる。
【0027】
実施形態では、経過時間が音圧平均値に対応する時間しきい値以上であると判別された場合に、音量をゼロに絞る構成としたが、音量を例えば半分とする構成としても良いし、時間しきい値を複数設けて、段階的に音量を絞る構成としても良い。
図2における信号処理についてはデジタルで処理しても良いし、アナログで処理しても良い。
また、実施形態では、聴き過ぎという状態をLED19の点灯でユーザーに知らせたが、例えばアラームの鳴動や音声合成による告知など、様々な態様で知らせても良い。
【0028】
上述した実施形態において、ヘッドフォン難聴を防止する、という観点より以下の態様が把握される。
【0029】
まず、入力信号の音量を調整する調整部と、前記調整部により音量が調整された信号に基づいて発音する発音体と、前記発音体による出力音を収音するマイクと、前記マイクによる収音信号に基づいて前記発音体による出力音の音圧を推定し、当該推定した音圧の積算値が所定の閾値以上となったときに、前記調整部に対して前記音量を小さく変更させる旨を指示する音量変更部と、を具備することを特徴とするヘッドフォンが把握される。上記ヘッドフォンによれば、ユーザーは、聴き過ぎによりヘッドフォン難聴に至る可能性を抑えることができる。
【0030】
上記ヘッドフォンにおいて、前記音量変更部は、前記マイクによる収音信号を音圧に変換する変換部と、使用開始からの経過時間が、前記変換された音圧の平均値に対応する時間しきい値以上となったか否かを判別する判別部と、を有し、経過時間が時間しきい値以上となったときに、前記音量を小さく変更させる旨を指示する構成としても良い。
【0031】
また、上記ヘッドフォンにおいて前記音圧の積算値が前記閾値以上となったときに、所定の警告を出力する警告部を有する構成としても良い。この構成により、ユーザーは、聴き過ぎという状態を知ることができる。
【符号の説明】
【0032】
1…ヘッドフォン、3…ヘッドバンド、5L、5R…ヘッドフォンユニット、10…イヤーパッド、12L、12R…発音体、14L、14R…マイク、30…調整部、40…音量変更部、42…変換部、44…判別部。
図1
図2
図3
図4