(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ダイヘッドの吐出終了以降次の吐出までの待機中の温度(T2)を、液晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)に対して−5℃〜+25℃の範囲で保持する、請求項1に記載の液晶性ポリエステル樹脂の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂とは、異方性溶融相を形成する樹脂であり、例えば、液晶性ポリエステルや液晶性ポリエステルアミドなどエステル結合を有する液晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0018】
液晶性ポリエステル樹脂を構成する構造単位としては、例えば芳香族オキシカルボニル単位、芳香族および/または脂肪族ジオキシ単位、芳香族および/または脂肪族ジカルボニル単位などから選ばれた構造単位が好ましい。
【0019】
芳香族オキシカルボニル単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸などから生成した構造単位が挙げられ、p−ヒドロキシ安息香酸が好ましい。芳香族または脂肪族ジオキシ単位としては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどから生成した構造単位が挙げられ、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンが好ましい。芳香族または脂肪族ジカルボニル単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などから生成した構造単位が挙げられ、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
【0020】
液晶性ポリエステル樹脂の具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、2,6−ナフタレンジカルボン酸から生成した構造単位、テレフタル酸から生成した構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの中でも好ましい組み合わせとして、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、ハイドロキノンから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる組み合わせや、p−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、エチレングリコールから生成した構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位、テレフタル酸および/またはイソフタル酸から生成した構造単位からなる組み合わせが例示される。
【0021】
異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル樹脂の好ましい例としては、下記(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の構造単位からなる液晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。
【0023】
上記構造単位(I)はp−ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位を、構造単位(II)は4,4’−ジヒドロキシビフェニルから生成した構造単位を、構造単位(III)はハイドロキノンから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸から生成した構造単位を、構造単位(V)はイソフタル酸から生成した構造単位を各々示す。
【0024】
以下、この液晶性ポリエステル樹脂を例に挙げて説明する。
【0025】
上記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)の共重合量は任意である。しかし、液晶性ポリエステル樹脂の特性を発揮させるためには次の共重合量であることが好ましい。構造単位(I)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して65〜80モル%であることが好ましい。より好ましくは68〜78モル%である。構造単位(II)は構造単位(II)および(III)の合計に対して55〜85モル%であることが好ましい。より好ましくは55〜78モル%であり、最も好ましくは58〜73モル%である。構造単位(IV)は構造単位(IV)および(V)の合計に対して50〜95モル%であることが好ましい。より好ましくは55〜90モル%であり、最も好ましくは60〜85モル%である。
【0026】
構造単位(II)および(III)の合計と(IV)および(V)の合計とは実質的に等モルである。ここでいう「実質的に等モル」とは、末端を除くポリマー主鎖を構成する構造単位が等モルであることを示す。このため、末端を構成する構造単位まで含めた場合には必ずしも等モルとはならない態様も、「実質的に等モル」の要件を満たしうる。
【0027】
中でも、構造単位(I)が、全5構造単位の合計の、30モル%以上である液晶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。30モル%以上であると、液晶性ポリエステル樹脂が目標とする耐熱性を得られるため好ましい。
【0028】
上記好ましく用いられる液晶性ポリエステル樹脂は、上記構造単位(I)〜(V)を構成する成分以外に、3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸化合物、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸化合物、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸化合物、クロロハイドロキノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,4’−ジヒドロキシビフェニルなどの芳香族ジオール化合物、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオール化合物および脂環式ジオール化合物、ならびにm−ヒドロキシ安息香酸、ポリエチレンテレフタレートなどを、液晶性や特性を損なわない程度の範囲で有していてもよい。
【0029】
液晶性ポリエステル樹脂の原料としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸化合物、ジオール化合物、ジカルボン酸化合物、アミノ基を有するモノマーが挙げられる。
【0030】
中でも、p−ヒドロキシ安息香酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸化合物、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、エチレングリコールなどのジオール化合物、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸化合物が好ましい。
【0031】
ハイドロキノン、エチレングリコール、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、テレフタル酸およびイソフタル酸以外に用いるモノマーとしては、以下のモノマーが挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸化合物としては、例えば6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が挙げられ、芳香族ジカルボン酸化合物としては、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸などが、それぞれ挙げられる。芳香族ジオール化合物としては、例えばレゾルシノール、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、クロロハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、3,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどが挙げられる。アミノ基を有するモノマーとしては、p−アミノ安息香酸、p−アミノフェノールなどが挙げられる。
【0032】
例えば、上記液晶性ポリエステル樹脂の製造において、次の製造方法が好ましく挙げられる。なお下記の製造方法は、p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸およびイソフタル酸からなる液晶性ポリエステル樹脂の合成を例にとり説明したものであるが、共重合組成としてはこれらに限定されるものではなく、それぞれをポリエチレンテレフタレート、その他のヒドロキシカルボン酸化合物、芳香族ジオール化合物または芳香族ジカルボン酸化合物に置き換え、下記の方法に準じて製造することもできる。
【0033】
本発明の実施形態において、液晶性ポリエステル樹脂における各構造単位の含有量は、以下の処理によって算出することができる。すなわち、液晶性ポリエステルをNMR(核磁気共鳴)試験管に量りとり、液晶性ポリエステルが可溶な溶媒(例えば、ペンタフルオロフェノール/重テトラクロロエタン−d
2混合溶媒)に溶解して、
1H−NMRスペクトル測定を行う。各構造単位の含有量は、各構造単位由来のピーク面積比から算出することができる。
【0034】
以下、本発明の液晶性ポリエステル樹脂の製造方法について詳述する。
【0035】
例えば、原料投入口、撹拌翼、精留管、留出管、減圧装置を備え、下部に吐出口を備えた反応槽中に、所定量のモノマー混合物と無水酢酸を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら加熱し、還流しながら水酸基をアセチル化させる。その後、反応槽から留出管を経由して酢酸を留出させながら所定の温度まで昇温を行い、規定量の酢酸が留出すれば、反応容器を減圧し、重縮合反応によって発生した酢酸を留出させる。酢酸を留出させた後、規定の撹拌トルクに到達するまで脱酢酸重縮合反応を行う。脱酢酸重縮合反応が終了すれば、撹拌を停止し、反応容器を窒素にて加圧し、反応容器底部に接続したダイヘッドを介し、吐出口の口金孔を経由してポリマーをストランド状に吐出し、得られたストランドをカッティング装置にてペレット化する。
【0036】
本発明において、反応槽の数は特に制限は無く、1槽または2槽以上の反応槽で行うことができる。2槽で行う場合の好ましい方法の例は次のとおりである。まず、反応槽1(アセチル化反応槽ともいう)に原料モノマーと無水酢酸を仕込み、アセチル化反応を行った後、所定の温度と所定の酢酸留出量までオリゴマー化反応を行う。次いで、反応槽2に連結した移行管を通して反応槽1の反応液を反応槽2に移行し、さらに所定の温度と所定の酢酸留出量まで脱酢酸重縮合を行い、次いで反応槽2を減圧にしてさらに重縮合を進め、所定の撹拌トルクに到達すれば反応を終了させる。本発明では、反応槽を1槽で行う場合および2槽以上で行う場合において、前記ダイヘッドおよび吐出口を有し、最終的にポリマーの吐出を行う反応槽のことを重縮合反応槽と呼ぶ。
【0037】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂の製造においては、バッチ式重合法によって行う。ここでいうバッチ式重合法とは、前記に示すように、1バッチ分の所定量のモノマー混合物と無水酢酸をアセチル化反応槽に仕込み、所定の反応が終了すれば、重縮合反応槽に移液し、所定の反応が終了すれば、ペレット化を行いながらポリマーを排出し、2バッチ目も前記と同様に、1バッチ分の所定量のモノマー混合物と無水酢酸をアセチル化反応槽に仕込み、同様に所定の反応を行うことである。なお、アセチル化反応槽の反応液を複数回に分けて重縮合反応槽に移液する方法や、アセチル化反応槽に一定量の反応液を残した状態で次バッチの所定量のモノマー混合物や無水酢酸を仕込む方法や、アセチル化反応槽を用いないような、1槽の反応槽でアセチル化反応および重縮合反応の両方を行う方法も、バッチ式重合法に含まれる。
【0038】
アセチル化反応に用いる無水酢酸の使用量は、用いる液晶性ポリエステル樹脂原料中のフェノール性水酸基の合計に対し1.00〜1.20モル当量であることが好ましい。より好ましくは1.03〜1.16モル当量である。アセチル化反応は125℃以上150℃以下の温度で還流しながら、芳香族ジオールのモノアセチル化物の残存量が特定範囲となるまで反応を行うことが好ましい。
【0039】
また、従来はテレフタル酸とイソフタル酸の合計モル数と、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンの合計モル数は等モルとなるようにモノマー仕込みを行うことが一般的であったが、ハイドロキノンの昇華性が高いため、ハイドロキノンは等モルとなる仕込みモノマー量に対して、2〜15モル%の範囲で過剰に添加しても良い。そうすれば、ハイドロキノンの昇華によって不足するハイドロキノンのモノマー量を抑えられ、目標とする重合速度を得ることができ、ポリマーの加熱滞留時のガス量の増加を抑制できるため好ましい。
【0040】
アセチル化反応の装置としては例えば還流管や精留塔、凝縮器を備えた反応槽を用いることができる。アセチル化の反応時間としては大まかには1〜5時間程度であるが、芳香族ジオールのモノアセチル化物の残存量が特定範囲となるまでの時間は、用いる液晶性ポリエステル樹脂原料や、反応温度によっても異なる。アセチル化反応は、好ましくは、1.0〜2.5時間であり、反応温度が高い程短時間でよく、無水酢酸のフェノール性水酸基末端に対するモル比が大きい程、短時間で反応が進行するため好ましい。
【0041】
酢酸を留出させながら所定の温度まで昇温を行う際には、精留塔の塔頂温度を115℃〜150℃の範囲で行うことが好ましい。より好ましくは130℃〜145℃の範囲である。塔頂温度が低すぎると、未反応の無水酢酸が系内に多く残ってしまい、ポリマーの着色の原因や加熱滞留時のガス量の増加となる恐れがあるため、115℃以上とすることが好ましい。また、塔頂温度を150℃以下とすることにより、モノマー類が系外に留出してしまい、所望の組成からのズレが起こり、重合速度が低下することがない。この場合、留出する酢酸中には、過剰な無水酢酸やモノマー類が含まれるが、酢酸と無水酢酸を除いたモノマー類の質量%は1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
【0042】
脱酢酸重縮合反応は、液晶性ポリエステル樹脂が溶融する温度で減圧下反応させ、重合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。溶融重合法は均一なポリマーを製造するために有利な方法であり、ガス発生量がより少ないポリマーを得ることができ好ましい。
【0043】
最終重合温度は、融点+20℃程度が好ましく、370℃以下であることが好ましい。重合させる時の減圧度は、通常13.3Pa(0.1torr)〜2666Pa(20torr)であり、好ましくは1333Pa(10torr)以下、より好ましくは667Pa(5torr)以下である。好ましい重合速度としては、減圧度が1333Pa以下になった後、規定の重合撹拌トルクが検出されて重合を終了するまでの重合時間が0.3〜1.0時間である。
【0044】
液晶性ポリエステル樹脂の重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を使用することもできる。
【0045】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂の製造方法は、反応槽内で原料を溶融重縮合させて得られた液晶性ポリエステル樹脂を、前記反応槽からバルブを介してダイヘッド内に供給し、前記ダイヘッドから吐出口を介してストランド群をなすように吐出するバッチ式重合法による液晶性ポリエステル樹脂の製造方法において、前記ダイヘッドの吐出開始時の温度(T1)を液晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)以上とし、前記ダイヘッドから吐出口を介してストランド群をなすように吐出する間はダイヘッドの温度を吐出開始時の温度(T1)で保持し、前記ダイヘッドの吐出終了以降次の吐出までの待機中の温度(T2)を前記ダイヘッドの吐出開始時の温度(T1)に対して−25℃〜−3℃の範囲で保持する方法である。
【0046】
本発明における液晶性ポリエステル樹脂の製造方法では、重縮合反応槽内のポリマーの吐出が終了すれば、ダイヘッドの温度を吐出開始時の温度(T1)より低い温度(T2)で一定時間コントロールし、次のバッチの吐出開始までに再び、吐出終了以降の温度(T2)より高い温度(T1)まで昇温を行い、吐出終了まで当該温度(T1)を保つように一定時間コントロールを行う。
【0047】
本発明においては、ダイヘッドの温度コントロール方法には特に制限はないが、規定の勾配で冷却や昇温を行う方法や、規定のタイミングになれば、ダイヘッドの設定温度を複数回変更する方法が挙げられるが、中でも、ダイヘッドの設定温度を複数回変更する方法が好ましく、より好ましくは、2〜3点の設定温度を変更する方法が好ましい。この方法だと比較的容易に温度制御が可能である。特に、ダイヘッドの吐出終了以降の温度(T2)を、ダイヘッドの温度コントロールを規定の勾配で冷却や昇温を行いコントロールする場合には、温度コントロールしている間の最低温度がT2となるように調整する。
【0048】
前記ダイヘッドの吐出開始時の温度(T1)は、液晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)以上である。融点(Tm)未満であると、ダイヘッド内の残留ポリマーが固化して口金孔に詰まる恐れや、吐出中にポリマーが固化して安定した吐出ができなくなる恐れがある。なお、ダイヘッドの吐出開始時の温度(T1)を融点以上として吐出を開始し、すべてのポリマーの吐出が完了するまでダイヘッドの温度は融点(Tm)以上に保持しておくことが好ましい。また、温度T1は融点以上であれば特に限定はされないが、ダイヘッド内の残留ポリマーが変質し高融点化して異物となる恐れや、その異物によって口金詰まりを生じる恐れや、分解ガスによる残留ポリマーの飛散を抑制する観点から、その上限は融点+40℃とすることが好ましく、融点+35℃とすることがより好ましい。
【0049】
前記ダイヘッドの吐出終了以降次の吐出まで待機中の温度(T2)は、前記ダイヘッドの吐出開始時の温度(T1)に対し−25℃〜−3℃の範囲で保持する。より好ましくは、T1に対し−20℃〜−5℃の範囲である。T1に対し−25℃よりも低温であると、ダイヘッド内の残留ポリマーが溶融不足となって口金詰まりを生じる恐れや、残留ポリマーが高融点化して異物となる恐れや、ポリマーの品質が低下する恐れがある。T1に対し−3℃よりも高温であると、ダイヘッド内の残留ポリマーが溶融不足となって口金詰まりを生じる恐れや、ダイヘッド内の残留ポリマーが高融点化し、連続バッチ生産性の低下やポリマー品質が低下する恐れがある。
【0050】
前記ダイヘッドの吐出終了以降の温度(T2)は、液晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)に対して−5℃〜+25℃の範囲で保持することが好ましく、より好ましくは、融点(Tm)に対し0℃(すなわち、融点(Tm)と等しい温度)〜+20℃の範囲である。融点(Tm)に対し−5℃よりも低温であると、ダイヘッド内の残留ポリマーが完全に固化してしまい、再溶融に時間がかかる恐れや、未溶融ポリマーによって口金部が閉塞する恐れや、ダイヘッド内の残留ポリマーが変質し高融点化して異物となる恐れがある。融点(Tm)に対し+25℃よりも高温であると、ダイヘッド内の残留ポリマーが変質し高融点化して異物となる恐れや、その異物によって口金詰まりを生じる恐れや、分解ガスによって残留ポリマーが勢いよく吹き出して飛散する恐れがある。前記ダイヘッドの吐出終了以降の温度(T2)が液晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)以下であっても、ダイヘッド内の残留ポリマーが溶融状態であることが必要であり、部分的に固化している場合であっても、ダイヘッド内の残留ポリマーのうち固化している部分が50%以下の場合は溶融状態とする。
【0051】
前記ダイヘッドの温度保持時間は、下記式(1)の関係を満足することが好ましく、より好ましくは下記式(2)を満足する。
式(1): 0.05≦(t1/(t1+t2))≦0.5
式(2): 0.1≦(t1/(t1+t2))≦0.4
【0052】
上記式中、t1はバッチ式重合の1サイクルにおける温度T1でのダイヘッド温度保持時間(hr)を表し、t2はバッチ式重合の1サイクルにおける温度T2でのダイヘッド温度保持時間(hr)を表す。本発明におけるt1(バッチ式重合の1サイクルにおける温度T1でのダイヘッド温度保持時間(hr))とは、前のバッチのT2からT1になるよう昇温を開始した時点から、次のバッチのT1からT2になるよう冷却を開始した時点までの間の時間(hr)を表す。また、t2(バッチ式重合の1サイクルにおける温度T2でのダイヘッド温度保持時間(hr))とは、T1からT2になるよう冷却を開始した時点から、次のバッチのT2からT1になるよう昇温を開始した時点までの間の時間(hr)を表す。前記ダイヘッドの温度保持時間(t1/(t1+t2))を0.05以上とすることにより、ダイヘッド内の残留ポリマーが溶融不足となって口金詰まりを生じることを抑制できる。また、0.5以下とすることで、ダイヘッド内の残留ポリマーが高融点化して異物となることや、分解ガスによって残留ポリマーが勢いよく吹き出して飛散することを抑制できる。
【0053】
ここでいうバッチ式重合の1サイクルとは、バッチ式重合を繰り返し行う工程において、同じ作業や工程を行うバッチ間のサイクルタイム(所要時間)のことであり、例えば、1バッチ目の吐出開始から2バッチ目の吐出開始までの所要時間を1サイクルという。すなわち、1サイクルはt1とt2の合計時間のことをいい、(t1/(t1+t2))は、1サイクルタイムに対する温度T1でのダイヘッドの温度保持時間の割合を表す。1サイクルの基準となる作業や工程は吐出開始時点を基準とすることに限らず、バッチ式重合の繰り返しによって1サイクルの所要時間が必ずしも同じとならなくても、バッチ式重合の1サイクルとみなす。ダイヘッド温度とt1およびt2との関係の一例を
図2に示す。
【0054】
本発明における(t1/(t1+t2))を0.05以上0.5以下の範囲とするには、1サイクルタイム((t1+t2)(hr))の調整や、t1(hr)を調整すればよい。具体的には、1サイクルタイムの調整の場合には、反応槽への原料モノマーと無水酢酸の仕込みタイミングを調整したり、移行開始タイミングを調整すればよい。また、t1の調整の場合には、前のバッチのT2からT1への昇温を開始するタイミングを調整したり、脱酢酸重縮合反応時間を調整したり、吐出時間を調整すればよい。t1およびt2を調整した場合の、ダイヘッド温度とt1およびt2との関係の一例を
図4に示す。
【0055】
ダイヘッドの温度は、吐出開始時に温度T1となるように、吐出開始時よりも前から温度T1で予熱しておくことも可能である。吐出前にダイヘッドの温度をT1に予熱しておく時間(予熱時間)は、ダイヘッド内の残留ポリマーの変質や、分解ガスによる残留ポリマーの飛散を抑制する観点から、4時間以内であることが好ましく、3時間以内であることがより好ましい。
【0056】
ダイヘッドの温度保持時間t1の間、温度T1を段階的に温度T1’に変更することも可能である。この場合の温度T1’は、融点(Tm)以上であれば特に制限はないが、ダイヘッド内の残留ポリマーの変質を抑制する観点から、融点(Tm)以上かつ温度T1±8℃が好ましく、温度T1±5℃がより好ましい。また、温度T1は吐出開始以降で複数回変更してもかまわない。ダイヘッドの温度保持時間t2の間、温度T2を温度T2’に変更することも可能である。その場合、t2の間で最も長時間保持している温度をT2とする。この場合の温度T2’は、温度T1に対して−25℃〜−3℃の範囲であれば特に制限はないが、ダイヘッド内の残留ポリマーの変質を抑制する観点から、温度T1に対して−25℃〜−3℃かつ温度T2±8℃が好ましく、温度T2±5℃がより好ましい。また、温度T2は複数回変更してもかまわない。ダイヘッド温度T1とT2を複数回変更した場合の一例を
図3に示す。
【0057】
本発明のダイヘッドの温度コントロールについては、バッチ式重合を繰り返し行う工程において効果を発揮するものであるが、例えば、工程トラブルや生産量調整のために1サイクルタイム以上の待機時間を要する場合には、ダイヘッド内の残留ポリマーをできるだけ少なくした状態で、ダイヘッドの吐出終了以降の温度(T2)を液晶性ポリエステル樹脂の降温結晶化温度(Tc)以下にコントロールし、ダイヘッド内の残留ポリマーを固化した状態で保持することが好ましい。このようにコントロールすることで、ダイヘッド内の残留ポリマーの変質や高融点化を抑制できるため好ましい。なお、本発明における液晶性ポリエステル樹脂の降温結晶化温度は、以下の方法により測定する。液晶性ポリエステル樹脂を、示差走査熱量計により室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、吸熱ピーク温度(Tm1)+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で測定した際に観測される発熱ピーク温度を降温結晶化温度(Tc)とする。
【0058】
図1に示すように、重縮合反応槽1で重縮合反応が終了した溶融状態の液晶性ポリエステル樹脂は、吐出バルブ7の開閉弁を開とした状態で、ダイヘッド8に供給され、スライドプレート弁11を開とした状態で、複数の口金孔を有する吐出口プレート10を介してストランド群をなすように吐出される。ストランド群は、冷却固化され、カッティング装置にてペレット状に切断される。
【0059】
本発明における製造方法では、重縮合反応槽1とダイヘッド8の間、もしくはダイヘッド8の上部位置に、1つ以上のバルブを有する。コスト面やメンテナンス面からも、1つのバルブを有することが好ましい。バルブの形態には特に制限が無いが、ボールバルブ、または押し込みバルブを用いることが好ましく、特に押し込みバルブが、ポリマーのシール性および作動性が良好のため、より好ましく用いられる。
【0060】
図1において、ダイヘッド8の位置は、重縮合反応槽1の底部に位置し、重縮合反応槽1との間に吐出バルブ7を挟んで接続されているが、吐出バルブが内蔵されたダイヘッドの場合には、直接重縮合反応槽1の底部に接続される。
【0061】
ダイヘッド8は、内部を通過または滞留するポリマーを加熱するため、加熱体を有しており、加熱体の設置位置や種類は特に制限が無く、ダイヘッド8の内壁面に取り付けてもダイヘッド8の壁の内側に埋め込んでも、ダイヘッドの外壁面に取り付けてダイヘッド8の壁を介して内壁面を間接的に加熱しても、吐出バルブ7部分を加熱しても良い。加熱体の種類としては、コイルやジャケット、帯状の発熱体で覆って加熱する方法などが例示できる。これらの中でも、加熱範囲を均一な温度で加熱できる点で、外壁面にジャケット9を取り付ける方法が好ましい。加熱体の発熱方法としては、コイルやジャケット9内をベーパーまたは液状の熱媒で循環する方法や、電熱線で加熱体を加熱する方法などが用いられる。好ましくは、ベーパーまたは液状の熱媒で循環する方法であり、さらに好ましくは、ジャケット9内を液状の熱媒でポンプにて循環する方法であり、この方法だと安定して温度を制御できる。
【0062】
本発明のダイヘッド温度T1、T2とは、ダイヘッド内部に温度素子等を設けて温度を測定できる場合には、ダイヘッドの内温のことをいい、ダイヘッドの内温を測定できない場合には、加熱体のコントロール温度のことを指す。
【0063】
ダイヘッド8の形状は、液晶性ポリエステル樹脂が吐出口に向かって流れる方向に広くなってゆく形状であることが好ましい。
【0064】
ダイヘッド8には、複数の口金孔を有する吐出口プレート10が設けられている。さらにその吐出口プレート11の下には、残留ポリマーの封入および口金孔の保温を目的に、開閉弁を設けることが好ましい。開閉弁の形状は特に制限が無く、一般的に公知に使用されているもので問題無いが、具体的には、スリット弁、ボール弁、スライドプレート弁11などが挙げられる。この場合、次バッチの吐出時まで口金孔を弁体プレートなどで圧着しておき、吐出の際にこの弁体プレートを取り外して吐出を行うことにより、開閉弁として機能させることも可能である。この開閉弁の形状は、スリット弁またはスライドプレート弁11が好ましく、作動面、メンテナンス面でも優れている。
【0065】
吐出口の口金孔径は、3mm〜6mmであることが好ましい。3.5mm〜6.0mmであることがより好ましく、4.0mm〜5.5mmであることが最も好ましい。口金孔径が3mm未満であると、口金部分の圧損が大きくなり、より高い吐出圧力が必要となり、ストランドも細く、湾曲、蛇行し、良好なペレットが得られない。また、口金孔径が6mmより大きいと、ストランド群が太く剛直となり、上下のばたつきが生じ、ストランド群の流れ不良が生じるおそれや、連球ペレットや未切断ペレットが多くなり、良好なペレットが得られない恐れがある。
【0066】
吐出口の口金孔数は、20個以上あることが好ましく、40個以上であるとより好ましい。これは、優れたペレット形状を得るためには、ダイヘッド内の残留ポリマーの滞留が少なく、ストランド群全体が安定して走行することが必要であり、口金孔数が多い場合、すなわちストランド群が多い場合には、より安定した液晶性ポリエステル樹脂を得ることができる。
【0067】
吐出口の口金孔の配列は特に制限は無いが、ストランド群が引き取られる際、ストランド群が重ならないような配列が好ましく、具体的な例としては、口金孔を横一列に配列したり、千鳥状に配列したりする方法が挙げられるが、千鳥状とした場合には、ストランド群が重ならず、目標とする口金孔数を得られるため好ましい。さらに、ダイヘッド両端部に近い位置にまで口金孔を設ければ、口金両端部に残留ポリマーが溜まりにくいため好ましい。
【0068】
重縮合反応終了後、得られた溶融樹脂を反応槽から取り出すには、液晶性ポリエステル樹脂が溶融する温度で反応槽内を、例えばおよそ0.02〜0.5MPaに加圧し、溶融樹脂を重縮合反応槽下部に接続されたダイヘッドの吐出口よりストランド状に吐出する。ストランド群は、冷却水が流されたトラフ中に吐出され、冷却水中で冷却して固化し、カッターにてペレット状に切断し、液晶性ポリエステル樹脂を得ることが好ましい。吐出されるストランドは、中心部が半溶融状態であっても特に問題は無く、カッターにてペレット状に吐出するに際し、ペレット同士が融着しない程度、ひげ状の突起物が生じない程度に固化できていれば問題は無い。
【0069】
なお、本発明の液晶性ポリエステル樹脂を製造する際に、固相重合法により重縮合反応を完了させることも可能である。例えば、本発明の液晶性ポリエステル樹脂のポリマーまたはオリゴマーを粉砕機で粉砕し、窒素気流下、または、減圧下、液晶性ポリエステル樹脂の融点−50℃〜融点−5℃の範囲で1〜50時間加熱し、所望の重合度まで重縮合し、反応を完了させる方法が挙げられる。固相重合法は高重合度のポリマーを製造するための有利な方法である。
【0070】
本発明で得られる液晶性ポリエステル樹脂の溶融粘度は10〜500Pa・sが好ましい。より好ましくは12〜200Pa・sである。なお、この溶融粘度は融点(Tm)+10℃〜+20℃の条件で、剪断速度1000[1/秒]の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0071】
本発明における液晶性ポリエステル樹脂の融点は特に限定されるものではないが、高耐熱用途に用いるために280℃以上となるよう共重合成分を組み合わせることが好ましい。なお、本発明における液晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、以下の方法により測定する。液晶性ポリエステル樹脂を、示差走査熱量計により室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、吸熱ピーク温度(Tm1)+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点(Tm)とする。
【0072】
本発明においては、液晶性ポリエステル樹脂の機械強度その他の特性を付与するために、さらに充填材を配合することが可能である。充填材は特に限定されるものでないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの充填材を使用することができる。具体的には例えば、ガラス繊維、PAN系やピッチ系の炭素繊維、ステンレス繊維、アルミニウム繊維や黄銅繊維などの金属繊維、芳香族ポリアミド繊維や液晶性ポリエステル繊維などの有機繊維、石膏繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、ジルコニア繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、酸化チタン繊維、炭化ケイ素繊維、ロックウール、バサルト繊維、酸化チタンウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー、チタン酸バリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーなどの繊維状、ウィスカー状充填材、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、酸化亜鉛、ポリリン酸カルシウムおよび黒鉛などの粉状、粒状あるいは板状の充填材が挙げられる。本発明に使用される上記の充填材は、その表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0073】
これら充填材のなかで特にガラス繊維が入手性、機械的強度のバランスの点から好ましく使用される。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものならば特に限定はなく、例えば、長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランドおよびミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、これらのうち2種以上を併用して使用することもできる。本発明で使用されるガラス繊維としては、弱アルカリ性のものが機械的強度の点で優れており、好ましく使用できる。また、ガラス繊維はエポキシ系、ウレタン系、アクリル系などの被覆あるいは収束剤で処理されていることが好ましく、エポキシ系が特に好ましい。またシラン系、チタネート系などのカップリング剤、その他表面処理剤で処理されていることが好ましく、エポキシシラン、アミノシラン系のカップリング剤が特に好ましい。
【0074】
なお、ガラス繊維は、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0075】
充填材の配合量は、液晶性ポリエステル樹脂100重量部に対し、通常30〜200重量部であり、好ましくは40〜150重量部である。
【0076】
さらに、本発明の液晶性ポリエステル樹脂には、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ハイドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート)、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料および顔料を含む着色剤、導電剤あるいは着色剤としてカーボンブラック、結晶核剤、可塑剤、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、赤燐、シリコーン系難燃剤など)、難燃助剤、および帯電防止剤などの通常の添加剤、熱可塑性樹脂以外の重合体を配合して、所望の特性をさらに付与することができる。
【0077】
これらの添加剤を配合する方法は、溶融混練によることが好ましく、溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、180〜350℃、より好ましくは250〜320℃の温度で溶融混練して液晶性ポリエステル樹脂組成物とすることができる。その際には、1)液晶性ポリエステル樹脂、任意成分である充填材およびその他の添加剤との一括混練法、2)まず液晶性ポリエステルにその他の添加剤を高濃度に含む液晶性ポリエステル樹脂組成物(マスターペレット)を作成し、次いで規定の濃度になるようにその他の熱可塑性樹脂、充填材およびその他の添加剤を添加する方法(マスターペレット法)、3)液晶性ポリエステル樹脂とその他の添加剤の一部を一度混練し、ついで残りの充填材およびその他の添加剤を添加する分割添加法など、どの方法を用いてもかまわない。
【0078】
本発明の液晶性ポリエステル樹脂およびそれを含む液晶性ポリエステル樹脂組成物は、通常の射出成形、押出成形、プレス成形などの成形方法によって、優れた表面外観(色調)および機械的性質、耐熱性、難燃性を有する三次元成形品、シート、容器、パイプ、フィルムなどに加工することが可能である。なかでも射出成形により得られる電気・電子部品用途に適している。
【0079】
このようにして得られた液晶性ポリエステル樹脂およびそれを含む液晶性ポリエステル樹脂組成物は、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレイ部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディマー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、エアコン用モーターインシュレーター、セパレーター、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンべーン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品などに用いることができる。フィルムとして用いる場合は磁気記録媒体用フィルム、写真用フィルム、コンデンサー用フィルム、電気絶縁用フィルム、包装用フィルム、製図用フィルム、リボン用フィルム、シート用途としては自動車内部天井、ドアトリム、インストルメントパネルのパッド材、バンパーやサイドフレームの緩衝材、ボンネット裏等の吸音パット、座席用材、ピラー、燃料タンク、ブレーキホース、ウインドウォッシャー液用ノズル、エアコン冷媒用チューブおよびそれらの周辺部品に有用である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0081】
実施例1〜9および比較例1〜3の製造工程をそれぞれ最大20回(20バッチ)行い、次の(1)〜(5)で示す評価を行った。なお、最大バッチ数に満たないバッチで試験を終了した場合は、終了したバッチまでの平均値を記載した。
【0082】
(1)ダイヘッドの温度保持時間
試験バッチ毎に下記式(3)によりダイヘッドの温度保持時間を求め、20バッチの平均を求めた。
【0083】
式(3):ダイヘッドの温度保持時間 =(t1/(t1+t2))
上記式中、t1はバッチ式重合の1サイクルにおける温度T1でのダイヘッド温度保持時間(hr)を表し、t2はバッチ式重合の1サイクルにおける温度T2でのダイヘッド温度保持時間(hr)を表す。
【0084】
(2)液晶性ポリエステル樹脂の口金孔の詰まり発生バッチ数(バッチ)
試験バッチの運転を続けて行い、吐出口の口金孔が詰まり始めたバッチ数を調べた。
【0085】
(3)液晶性ポリエステル樹脂のペレット中の黒色異物数(個/15g)
ホットプレス機(テスター産業製)を用いて測定した。試験バッチ毎に得られたペレットから15gを採取し、それを5gごとに3等分し、その5gのペレットを融点+10℃の設定温度でプレスし、円板状の薄いシートを作成した。同様に、5gのペレットから円板状の薄いシートを作成する作業を2回繰り返し、合計3枚のシートを作成した。その3枚のシート全てを、サイズが0.2mm以上の黒色異物の個数を目視により数え、その合計値を黒色異物数(個/15g)とし、全ての試験バッチの平均値を求めた。
【0086】
(4)液晶性ポリエステル樹脂の融点(Tm)の測定
液晶性ポリエステル樹脂を、示差走査熱量計DSC−7(パーキンエルマー製)により、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、吸熱ピーク温度(Tm1)+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却し、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)を融点(Tm)とした。
【0087】
(5)液晶性ポリエステル樹脂の溶融粘度測定
高化式フローテスターCFT−500D(オリフィス0.5φ×10mm)(島津製作所製)を用いて、融点(Tm)+10℃の温度において剪断速度1000[1/秒]で測定した。
【0088】
(実施例1)
撹拌翼、留出管、凝縮器、留出酢酸容器を備えたアセチル化反応槽(図示略)を用いた。
【0089】
また、
図1に示すように、撹拌翼2、留出管4、留出酢酸容器(図示略)、減圧装置(図示略)、移液ライン(図示略)を備え、底部に吐出口を備えた容積2500Lの重縮合反応槽1を用い、この重縮合反応槽1の底部には、吐出バルブ7を接続したダイヘッド8を取り付け、ダイヘッド8の底部に吐出口として、直径5.0mmの口金孔を40個有する吐出口プレート10を取り付けた。ダイヘッド8は外壁面にジャケット9を有し、液状の熱媒をポンプにて循環し、ダイヘッドの吐出終了以降の温度(T2)が325℃になるよう加熱コントロールした。ダイヘッド8の吐出口にはさらに、電熱線を埋め込んだ加熱式のスライドプレート弁11を取り付けた。
【0090】
次に、アセチル化反応槽にp−ヒドロキシ安息香酸562質量部(54モル%)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル227質量部(16モル%)、ハイドロキノン58質量部(7モル%)、テレフタル酸188質量部(15モル%)、イソフタル酸101質量部(8モル%)、さらにハイドロキノンの過剰添加分としてさらにハイドロキノン3質量部、および無水酢酸854質量部(フェノール性水酸基合計の1.10当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で撹拌しながら145℃で1.5時間アセチル化反応させた。
【0091】
次に、留出管を留出酢酸容器側に切り替え、4時間かけて270℃まで反応を続け、移液ライン経由でアセチル化反応槽の反応液を重縮合反応槽1に移液した。
【0092】
次に、重縮合反応槽1の反応液を2時間かけて335℃まで昇温していき、減圧装置にて減圧を開始し、2時間かけて133Pa(1torr)まで減圧を行い、規定の撹拌トルクに到達したところで重縮合反応を終了させた。
【0093】
次に、重縮合反応槽1内を0.25MPaに窒素で加圧し、ダイヘッド8の吐出バルブ7とスライドプレート弁11を開として吐出口プレート10から複数の口金孔を経由してポリマーをストランド状に吐出し、冷却水にて固化させながらカッター(図示略)にてペレット化した。吐出にかかった時間は35分であった。
【0094】
この重縮合反応の途中で、ダイヘッド温度を325℃(T2)からダイヘッドの吐出開始時の温度(T1)335℃となるよう昇温を行い、吐出終了までのt1(hr)の間、温度335℃(T1)となるようにコントロールした。吐出が終了した後に、ダイヘッド温度335℃(T1)を325℃(T2)まで冷却し、t2(hr)の間、325℃(T2)でコントロールした。
【0095】
2バッチ目も前記の方法でアセチル化反応と重縮合反応を行い、重縮合反応途中の1バッチ目と同じタイミングで、ダイヘッド温度325℃(T2)から335℃(T1)になるよう昇温を行い、吐出終了まで335℃(T1)となるようにコントロールした。
【0096】
前記の方法で繰り返し20バッチの重合を行った。
【0097】
この時のダイヘッドの温度保持時間(20バッチの平均値)は0.19であった。
【0098】
吐出時の口金孔の詰まりは無かった。得られたペレットについては、黒色異物数(20バッチの平均値)も少なく問題無かった。
【0099】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点(20バッチの平均値)は311℃であり、溶融粘度(20バッチの平均値)は31Pa・sであった。
【0100】
(実施例2)
ダイヘッドの吐出終了以降の温度(T2)を332℃に変更する以外は、実施例1と同様に液晶性ポリエステル樹脂の製造を行った。
【0101】
吐出時の口金孔の詰まりは無かった。得られたペレットについては、黒色異物数(20バッチの平均値)も少なく問題無かった。
【0102】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点(20バッチの平均値)は311℃であり、溶融粘度(20バッチの平均値)は31Pa・sであった。
【0103】
(実施例3)
ダイヘッドの吐出終了以降の温度(T2)を311℃に変更する以外は、実施例1と同様に液晶性ポリエステル樹脂の製造を行った。
【0104】
吐出時の口金孔の詰まりは14バッチ目で起こり始めたが、20バッチの重合は可能であった。得られたペレットについては、黒色異物数(20バッチの平均値)も少なく問題無かった。
【0105】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点(20バッチの平均値)は311℃であり、溶融粘度(20バッチの平均値)は31Pa・sであった。
【0106】
(実施例4)
ダイヘッドの吐出開始時の温度(T1)を350℃に変更する以外は、実施例1と同様に液晶性ポリエステル樹脂の製造を行った。
【0107】
吐出時の口金孔の詰まりは18バッチ目で起こり始めたが、20バッチの重合は可能であった。得られたペレットについては、黒色異物数(20バッチの平均値)は問題無い値であった。
【0108】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点(20バッチの平均値)は311℃であり、溶融粘度(20バッチの平均値)は31Pa・sであった。
【0109】
(実施例5)
ダイヘッドの吐出開始時の温度(T1)を328℃に変更する以外は、実施例1と同様に液晶性ポリエステル樹脂の製造を行った。
【0110】
吐出時の口金孔の詰まりは16バッチ目で起こり始めたが、20バッチの重合は可能であった。得られたペレットについては、黒色異物数(20バッチの平均値)は問題無い値であった。
【0111】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点(20バッチの平均値)は311℃であり、溶融粘度(20バッチの平均値)は31Pa・sであった。
【0112】
(実施例6)
ダイヘッドの温度保持時間を0.09に変更する以外は、実施例1と同様に液晶性ポリエステル樹脂の製造を行った。
【0113】
吐出時の口金孔の詰まりは17バッチ目で起こり始めたが、20バッチの重合は可能であった。得られたペレットについては、黒色異物数(20バッチの平均値)も少なく問題無かった。
【0114】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点(20バッチの平均値)は311℃であり、溶融粘度(20バッチの平均値)は31Pa・sであった。
【0115】
(実施例7)
ダイヘッドの温度保持時間を0.49に変更する以外は、実施例1と同様に液晶性ポリエステル樹脂の製造を行った。
【0116】
吐出時の口金孔の詰まりは19バッチ目で起こり始めたが、20バッチの重合は可能であった。得られたペレットについては、黒色異物数(20バッチの平均値)は問題無い値であった。
【0117】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点(20バッチの平均値)は311℃であり、溶融粘度(20バッチの平均値)は31Pa・sであった。
【0118】
(実施例8)
図3に示すように、吐出開始直後に、ダイヘッド温度335℃(T1)を333℃(T1’)まで冷却し、吐出終了後まで333℃(T1’)となるようにコントロールし、吐出が終了した後に、ダイヘッド温度333℃(T1’)を323℃(T2’)まで冷却し、次バッチの重縮合反応開始まで323℃(T2’)となるようにコントロールし、次バッチの重縮合反応開始直後に、ダイヘッド温度323℃(T2’)を325℃(T2)まで昇温し、次の吐出開始時の温度335℃(T1)に昇温を開始するまで325℃(T2)となるようにコントロールした以外は、実施例1と同様に液晶性ポリエステル樹脂の製造を行った。この時のT2’のコントロール時間とT2のコントロール時間の比率は4.5:5.5であった。
【0119】
吐出時の口金孔の詰まりは無かった。得られたペレットについては、黒色異物数(20バッチの平均値)は問題無い値であった。
【0120】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点(20バッチの平均値)は311℃であり、溶融粘度(20バッチの平均値)は31Pa・sであった。
【0121】
(実施例9)
重縮合反応槽1とそれ以外の装置については、実施例1と同じものを使用した。
【0122】
アセチル化反応槽に仕込む成分を、下記のものに変更し、反応容器に仕込んだ。
・p−ヒドロキシ安息香酸752質量部(73モル%)
・4,4’−ジヒドロキシビフェニル127質量部(9モル%)
・テレフタル酸113質量部(9モル%)
・ポリエチレンテレフタレート131質量部(9モル%)
・次亜リン酸ナトリウム0.2質量部(0.02質量%)
・無水酢酸771質量部(フェノール性水酸基合計の1.11当量)
アセチル化反応と重縮合反応については、実施例1と同様に実施した。
【0123】
重縮合反応槽1内を0.15MPaに窒素で加圧してペレット化し、ダイヘッドの吐出終了以降の温度(T2)を340℃に変更し、ダイヘッドの吐出開始時の温度(T1)を350℃に変更する以外は、実施例1と同様に液晶性ポリエステル樹脂の製造を行った。
【0124】
吐出時の口金孔の詰まりは無かった。得られたペレットについては、黒色異物数(20バッチの平均値)も少なく問題無かった。
【0125】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点(20バッチの平均値)は326℃であり、溶融粘度(20バッチの平均値)は13Pa・sであった。
【0126】
(比較例1)
ダイヘッドの温度を306℃一定とした以外は、実施例1と同様に液晶性ポリエステル樹脂の製造を行った。
【0127】
吐出開始約2分後からストランドが細くなり始め、15分後に糸状ポリマーとなったため、吐出を中断した。その後、吐出再開を試みたが、口金孔からポリマーが出てこなくなったため、1バッチで試験を中止した。
【0128】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点は311℃であり、溶融粘度は31Pa・sであった。
【0129】
(比較例2)
ダイヘッドの吐出終了以降の温度(T2)を200℃に変更する以外は、実施例5と同様に液晶性ポリエステル樹脂の製造を行った。
【0130】
1バッチ目の吐出は口金孔の詰まりも無く、黒色異物も問題無かったが、2バッチ目の吐出開始時から口金が詰まり傾向にあった。その後、バッチ数を重ねるごとにストランドが細くなったため、5バッチで試験を中止した。得られたペレットについては、黒色異物数(5バッチの平均値)が多い値であった。
【0131】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点(5バッチの平均値)は311℃であり、溶融粘度(5バッチの平均値)は31Pa・sであった。
【0132】
(比較例3)
ダイヘッドの吐出終了以降の温度(T2)を350℃に変更する以外は、実施例4と同様に液晶性ポリエステル樹脂の製造を行った。
【0133】
吐出時の口金孔の詰まりは10バッチ目で起こり始め、その後、バッチ数を重ねるごとにストランドが細くなったため、16バッチで試験を中止した。ダイヘッド内の残留ポリマーは着色しており、吐出開始時にはポリマーが勢いよく吹き出していた。得られたペレットについては、黒色異物数(16バッチの平均値)が多い値であった。
【0134】
この液晶性ポリエステル樹脂の融点(16バッチの平均値)は311℃であり、溶融粘度(16バッチの平均値)は31Pa・sであった。
【0135】
【表1】