(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜
図6を参照して、マイクロニードルの一実施形態について説明する。
[マイクロニードルの全体構成]
図1(a)および(b)が示すように、マイクロニードル10は、支持面11Sを有する基体部11と、支持面11Sから突き出た突起部12とを備えている。
【0016】
支持面11Sは、突起部12の基端を支持している。支持面11Sの形状は特に限定されず、支持面11Sは円形状であってもよいし、多角形形状であってもよい。基体部11は、
図1に示す例のように平板状であってもよいし、あるいは、支持面11Sから突起部12とは反対方向に延びる筒状であってもよい。基体部11は、基体部11の外周部等に、マイクロニードル10に液状の薬剤である液剤を供給するための器具とマイクロニードル10とを接続するための溝や突起等の構造を有していてもよい。
【0017】
突起部12は、支持面11Sから延びる柱体形状を有する柱状部13と、柱状部13の頂部から延びる錐体をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有する錐状部14とから構成される。
【0018】
詳細には、柱状部13は、四角柱形状を有し、支持面11S内に区画された正方形形状の底面から延びる4つの側面13Dを備える。側面13Dは、支持面11Sに直交している。また、錐状部14は、四角錐をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有しており、4つの側面14Dと、これらの側面14Dの各々と辺を共有して繋がる1つの尖端面14Tとを備えている。
【0019】
側面14Dは、支持面11Sに対して傾斜しており、1つの側面14Dは、1つの側面13Dと1辺を共有している。尖端面14Tもまた、支持面11Sに対して傾斜しており、尖端面14Tに含まれる辺は、いずれも、支持面11Sに対して傾斜している。
図1に示す例では、尖端面14Tが有する頂点のなかで最も基体部11に近い頂点、すなわち、最も突起部12の基端側に位置する頂点は、錐状部14における基端側の端部、すなわち、柱状部13と接する端部に位置している。こうした構成においては、尖端面14Tにおける最も基体部11に近い頂点を尖端面14Tと共有する側面14Dは、三角形形状を有する。
【0020】
尖端面14Tは、最も基体部11に近い頂点と最も基体部11から離れた頂点とを結ぶ直線に対して線対称な形状を有し、最も基体部11から離れた頂点が、突起部12の尖端の点である尖端点Pを構成している。
【0021】
突起部12の周面は、上記4つの側面13Dと、4つの側面14Dと、尖端面14Tとから構成される。突起部12の支持面11Sからの長さは、尖端点Pにて最も大きくなっている。
【0022】
突起部12は、その内部に、突起部12の基端から先端に向けて延びる1つの主流路15mと、主流路15mから突起部12の周面に向けて延びる1つの副流路15sとを有している。主流路15mと副流路15sとは互いに連通し、主流路15mおよび副流路15sの各々は、突起部12の内部に、流体を流すことの可能な空間を区画している。主流路15mは支持面11Sを貫通してマイクロニードル10の外部と連通し、副流路15sは突起部12の周面に開口している。
【0023】
マイクロニードル10の備える突起部12の数は1つであってもよいし、複数であってもよい。マイクロニードル10が1つの突起部12を備える場合、突起部12は支持面11Sの中央に位置することが好ましい。また、マイクロニードル10が複数の突起部12を備える場合、複数の突起部12は、支持面11S上に、例えば、格子状や、円形状や、同心円状に配列される。
【0024】
[流路の詳細構成]
図2〜
図4を参照して、主流路15mおよび副流路15sの詳細な構成について説明する。
図2(a)は、主流路15mおよび副流路15sの外形を実線で示し、突起部12の外形を二点鎖線で示す図であり、
図2(b)は、副流路15sの延びる方向に沿った突起部12の断面を示す図である。
【0025】
図2(a)および(b)が示すように、主流路15mは、突起部12の中央部に位置し、突起部12の長さ方向、すなわち、支持面11Sと直交する方向に沿って延びている。主流路15mの延びる方向における両端部のうち、突起部12の基端側の端部は開口端である。例えば、主流路15mは、基体部11を貫通して基体部11における支持面11Sとは反対側の面に開口している。一方、主流路15mの延びる方向における両端部のうち、突起部12の先端側の端部は、閉塞されている。すなわち、主流路15mにおける突起部12の先端側の端部は、突起部12の尖端面14Tに達していない。
【0026】
副流路15sは、突起部12の幅方向、すなわち、支持面11Sと平行な方向に沿って延びている。副流路15sの延びる方向における両端部のうち、一方の端部は主流路15mに接続し、他方の端部は、突起部12における錐状部14の側面14Dに開口している。尖端面14Tおよび柱状部13の側面13Dは、流路の端部である開口を有していない。
【0027】
主流路15mと副流路15sとによって、突起部12の内部には、主流路15mの開口端から副流路15sの開口へ向かう流体の流路が形成されており、この流路は、主流路15mと副流路15sとの接続部分で折れ曲がっている。
【0028】
主流路15mおよび副流路15sの各々について、各流路の延びる方向と直交する断面において各流路が区画する領域は円形状を示す。主流路15mの延びる方向と直交する断面において主流路15mが区画する領域の面積が主流路面積Msであり、1つの主流路15mにおいて、主流路面積Msは一定である。副流路15sについて、副流路15sの延びる方向と直交する断面において副流路15sが区画する領域の面積が副流路面積Ssであり、1つの副流路15sにおいて、副流路面積Ssは一定である。
副流路面積Ssは、300μm
2以上であり、700μm
2以上であることが好ましい。また、副流路面積Ssは、8000μm
2以下であることが好ましく、2000μm
2以下であることがさらに好ましい。
主流路面積Msは、3000μm
2以上70000μm
2以下であることが好ましい。主流路面積Msと副流路面積Ssとは、等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0029】
突起部12の長さLtは、突起部12の長さ方向、すなわち、支持面11Sと直交する方向における支持面11Sから突起部12の尖端点Pまでの長さである。突起部12の長さLtは、皮膚の最外層である角質層を貫通し、かつ、皮下へ到達しない長さであることが好ましく、具体的には200μm以上2000μm以下であることが好ましい。
【0030】
また、柱状部13の長さLcは、突起部12の長さ方向における支持面11Sから柱状部13の頂部までの長さであり、柱状部13の長さLcは、突起部12の長さLtの1/20以上1/2以下であることが好ましい。
【0031】
突起部12の幅Wtは、突起部12の幅方向、すなわち、支持面11Sと平行な方向における突起部12の最大の長さである。つまり、突起部12の幅Wtは、支持面11S内に区画された突起部12の底面が示す正方形の対角線の長さである。突起部12の幅Wtは、150μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【0032】
主流路15mの高さHmは、突起部12の長さ方向における支持面11Sからの主流路15mの長さであり、すなわち、支持面11Sから、主流路15mにおける突起部12の先端側の端部までの長さである。主流路15mの高さHmは、突起部12の長さLtよりも小さい。
【0033】
副流路15sの高さHsは、突起部12の長さ方向における支持面11Sから副流路15sの開口の中心Cまでの距離である。開口の中心Cは、開口が区画する領域が示す図形の重心であり、副流路15sの延びる方向と直交する各断面において副流路15sが区画する領域の重心を通る線上に位置する。例えば、副流路15sが上記各断面において円形であり、副流路15sが円筒形状である場合には、上記円の中心を通る線、すなわち、上記円筒の中心軸の端部に、副流路15sの開口の中心Cが位置する。
【0034】
副流路15sの高さHsは、100μm以上であることが好ましい。換言すれば、副流路15sの中心Cと、支持面11Sとは、100μm以上、離れていることが好ましい。副流路15sの高さHsが100μm以上であれば、突起部12に供給された薬剤が、突起部12における支持面11Sの付近、すなわち、皮膚の表面に近い部位から流れ出ることが抑えられる。そのため、皮内に投与すべき薬剤が皮膚の表面に漏れ出ることが抑えられる。なお、副流路15sの高さHsは、1500μm以下であることが好ましい。
【0035】
副流路15sは、
図2(b)が示すように、主流路15mにおける突起部12の先端側の端部と同じ高さから延びていてもよい。あるいは、副流路15sは、
図3が示すように、主流路15mと接続される端部において、主流路15mにおける突起部12の先端側の端部よりも、突起部12の基端側に位置してもよい。いずれの場合であれ、副流路15sの高さHsは、主流路15mの高さHmよりも小さい。
【0036】
図2(b)に示す構成では、副流路15sと主流路15mとの接続部分において、主流路15mにおける突起部12の先端側の端部の位置と、副流路15sにおける突起部12の先端側の端部の位置とは、突起部12の長さ方向において一致している。
【0037】
一方、
図3に示す構成では、突起部12の長さ方向において、主流路15mは、副流路15sを越えて突起部12の先端側へ延び、副流路15sと主流路15mとの接続部分には、段差部16が形成されている。
図3に示す構成は、
図2(b)に示す構成と比較して、主流路15mの後に副流路15sを形成する方法によってマイクロニードル10を製造する場合に、主流路15mと副流路15sとの位置合わせに高い精度が必要とされない。
【0038】
図4が示すように、支持面11Sと対向する方向から見て、突起部12の尖端点Pは、尖端面14Tの縁部に位置する。副流路15sが開口している側面14Dは、突起部12の尖端点Pを含まない側面14Dであって、尖端面14Tの有する辺のなかで傾斜の下側に位置する辺、すなわち、突起部12の基端に近い辺を尖端面14Tと共有する側面14Dである。換言すれば、副流路15sは、4つの側面14Dを、尖端点Pに近い2つ側面14Dと尖端点Pから遠い2つ側面14Dとに分けたとき、尖端点Pから遠い2つの側面14Dのいずれかに開口している。尖端点Pに近い側面14Dは、尖端面14Tの縁部のなかで尖端点Pを含む辺を尖端面14Tと共有する側面14Dであり、尖端点Pから遠い側面14Dは、尖端面14Tの縁部のなかで尖端点Pを含まない辺を尖端面14Tと共有する側面14Dである。
【0039】
尖端点Pが尖端面14Tの縁部に位置する構成では、突起部12が皮膚に刺さるとき、突起部12は、尖端面14Tを押圧する力、すなわち、突起部12を突起部12の中心に対して尖端点Pが位置する側に倒そうとする力を大きく受ける。したがって、副流路15sが、尖端点Pから遠い側面14Dに開口している構成であれば、副流路15sが尖端点Pに近い側面14Dに開口している構成と比較して、上記突起部12を尖端点Pが位置する側に倒そうとする力に対する突起部12の強度が高められる。
【0040】
[作用]
図5を参照して、本実施形態のマイクロニードル10の作用について説明する。
図5が示すように、マイクロニードル10は、注射筒30の備える外筒31の筒先に取り付けられる。薬剤の投与に際しては、マイクロニードル10が薬剤の投与対象の皮膚に押し当てられることによって、突起部12が皮膚を刺す。そして、突起部12が皮膚を刺した状態で、押子32がマイクロニードル10に向けて押し込まれる。押子32が押し込まれることによって、外筒31に充填されている液状の薬剤lmが、突起部12の主流路15mに供給され、さらに、薬剤lmは、主流路15mから副流路15sへ流れる。そして、薬剤lmは、突起部12の側面14Dの開口から出て皮内に入る。
【0041】
従来のように、突起部の長さ方向に沿った貫通孔の端部が突起部の尖端付近に開口している構成では、突起部の長さ方向に沿って薬剤が放出されることに対し、本実施形態の突起部12からは、突起部12の幅方向に沿って薬剤が放出される。突起部12が皮膚に刺さった状態において、皮内の組織は、突起部12の長さ方向よりも幅方向に広く広がっているため、従来の構成よりも、本実施形態の構成の方が、皮下への薬剤の漏れを抑えて皮内に薬剤を拡散させやすい。
【0042】
また、突起部12は、その長さ方向に沿って尖端点Pから皮膚に挿入される。そのため、従来のように突起部の長さ方向に沿った貫通孔の端部が突起部の尖端付近に開口している構成よりも、本実施形態のように、突起部12の長さ方向とは異なる方向に延びる副流路15sの端部が突起部12の周面に開口している構成の方が、穿孔の過程で薬剤の流路内に皮膚の組織が入り込みにくい。
【0043】
ここで、副流路面積Ssが小さいと、突起部12からの薬剤の流出口が小さくなるため、薬剤が副流路15sから皮内へ円滑に流れ出にくい。副流路面積Ssが300μm
2以上であることによって、副流路15sから皮内へ薬剤を円滑に放出することが可能であり、副流路面積Ssが700μm
2以上であれば、特に、副流路15sから皮内への薬剤の放出が円滑に進む。
【0044】
さらに、副流路面積Ssが8000μm
2以下であれば、ヒトはもちろん、試験として小動物を投与対象とする場合でも、皮膚の厚さに対する副流路15sの開口の大きさが大きすぎないため、皮内への薬剤の的確な投与が可能である。
【0045】
このように、本実施形態のマイクロニードル10によれば、薬剤の円滑な投与が可能である。その結果、薬剤の押圧に要する力の増大や薬剤の投与に要する時間の増大が抑えられるため、薬剤の投与者や被投与者の負担が大きくなることを抑えられる。また、皮内に広がることのできる薬剤の量が制限されることに起因して薬剤が皮膚の表面や皮下に流出することが抑えられるため、薬剤が所望の位置とは異なる部位に漏れ出して皮内に投与される薬剤の量が少なくなることも抑えられる。
【0046】
また、突起部12が、先端に向けて尖る錐状部14を有していることによって、皮膚に突起部12が刺さりやすい。その一方で、突起部12が、柱状部13を有しているため、突起部が錐状部14のみから構成される場合、すなわち、支持面11Sに対して傾斜した側面が支持面11Sまで延びる場合と比較して、突起部によって形成された孔の径が皮膚の表面付近で広がることが抑えられる。その結果、皮内に投与された薬剤が皮膚の表面に漏れにくくなる。特に、副流路15sは、錐状部14の側面14Dに開口し、柱状部13の側面13Dは、副流路15sの端部である開口を有していないため、薬剤が皮膚の表面に漏れにくくなる効果が高く得られる。
【0047】
[マイクロニードルの製造方法]
上記マイクロニードル10の材料および製造方法について説明する。
突起部12を形成するための材料は特に限定されず、突起部12は、シリコンやステンレス、チタン、コバルトクロム合金、マグネシウム合金等の金属材料から形成されていてもよい。また、突起部12は、汎用のプラスチック、医療用のプラスチック、および、化粧品用のプラスチック等の樹脂材料から形成されていてもよい。樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、アクリル、ウレタン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン、エポキシ樹脂、および、これらの樹脂の共重合材料等が挙げられる。
基体部11の材料は特に限定されず、基体部11は、例えば、上述の突起部12の材料として例示した材料から形成されればよい。
【0048】
マイクロニードル10は、基体部11と突起部12とが一体に形成された一体成形物であってもよいし、基体部11と突起部12とが各別に形成された後に接合されることによって形成されてもよいし、金属材料と樹脂材料との組み合わせにより形成されていてもよい。例えば、突起部12が金属製かつ基体部11が樹脂製であってもよいし、その逆に突起部12が樹脂製かつ基体部11が金属製であってもよい。
【0049】
基体部11と突起部12とが各別に形成される場合や、マイクロニードル10が金属材料と樹脂材料との組み合わせにより形成される場合には、必要に応じて、マイクロニードル10を構成する各別の部分を密接させるためのシール剤、接着剤、ガスケット、O−リング等を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
マイクロニードル10の形成方法としては、例えば、機械加工によって、基体部11と突起部12との外形を形成した後に、主流路15mとなる孔および副流路15sとなる孔を形成する方法が用いられる。具体的には、柱体に錐体もしくは錐台が接続された形状の構造体が形成され、この構造体がその長さ方向に対して斜めに切断されることによって、柱状部13と錐状部14とから構成される突起部12の外形が形成される。
【0051】
あるいは、マイクロニードル10が樹脂材料から形成される場合には、射出成形と機械加工との組み合わせによって、マイクロニードル10が形成されてもよい。例えば、射出成形によって基体部11と突起部12との外形および主流路15mとなる孔が形成された後、機械加工によって副流路15sとなる孔が形成される。
あるいは、複数の可動金型の組み合わせによって、射出成形のみを利用して、マイクロニードル10が形成されてもよい。
主流路15mや副流路15sを形成するために用いられる機械加工方法としては、例えば、レーザー加工が挙げられる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)突起部12が、主流路15mから延びて突起部12の周面に開口する副流路15sを有しているため、皮下への薬剤の漏れを抑えて皮内に薬剤を拡散させやすい。そして、こうした副流路15sにおける副流路面積Ssが300μm
2以上であることによって、副流路15sから皮内へ薬剤を円滑に放出することができる。さらに、副流路面積Ssが700μm
2以上であれば、副流路15sから皮内へ薬剤をより円滑に放出することができる。
【0053】
(2)副流路面積Ssが8000μm
2以下であることにより、ヒトはもちろん、皮膚の厚さに対する副流路15sの開口の大きさが大きすぎないため、皮内への薬剤の的確な投与が可能である。
【0054】
(4)副流路15sが、4つの側面14Dのうち、尖端点Pを含まない側面14Dに開口している。こうした構成によれば、皮膚への穿孔時に突起部12が受ける力、すなわち、突起部12を突起部12の中心に対して尖端点Pが位置する側に倒そうとする力に対する突起部12の強度が高められる。
【0055】
(5)突起部12が、先端に向けて尖る錐状部14を有していることによって、皮膚に突起部12が刺さりやすい。その一方で、突起部12が、柱状部13を有しているため、突起部12によって形成された孔の径が皮膚の表面付近で広がることが抑えられる。その結果、皮内に投与された薬剤が皮膚の表面に漏れにくくなる。そして、副流路15sが錐状部14の周面に開口しているため、薬剤が皮膚の表面に漏れにくくなる効果が高く得られる。
【0056】
[変形例]
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・主流路15mおよび副流路15sの各々について、流路の延びる方向と直交する断面にて流路が区画する領域の形状は円形でなくてもよく、例えば、矩形であってもよい。また、上記断面にて主流路15mが区画する領域の形状と、上記断面にて副流路15sが区画する領域の形状とは異なってもよい。副流路15sが区画する領域の形状に関わらず、薬剤の円滑な放出のためには、副流路面積Ssは300μm
2以上であればよく、さらに、副流路面積Ssは700μm
2以上であることが好ましい。
【0057】
・突起部12の形状は、上記実施形態の形状に限られない。例えば、突起部の形状は、柱体の上面に錐体の底面が接続された立体を、その延びる方向に対して斜めに切断した形状であれば、尖端面14Tにおける最も基体部11に近い頂点は、柱体と錐体との境界よりも突起部の先端側に位置してもよいし、突起部の基端側に位置してもよい。
【0058】
また例えば、突起部は、円錐や角錐を、その延びる方向に対して斜めに切断した形状を有していてもよい。
図6に例示する突起部17は、四角錐をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有する。この場合、突起部17の周面は、支持面11Sから支持面11Sに対して傾斜した方向に延びる4つの側面17Dと、4つの側面17Dと繋がる尖端面17Tであって、支持面11Sに対して傾斜した尖端面17Tとから構成される。また、突起部が、円錐をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有している場合には、突起部の周面は、支持面11Sから延びる曲面である側面と、側面と繋がり、支持面11Sに対して傾斜した尖端面とから構成される。
【0059】
また例えば、突起部は、角柱や円柱をその延びる方向に対して斜めに切断した形状を有していてもよいし、傾斜した尖端面を有さず、円錐形状や角錐形状のように、支持面11Sと対向する方向から見て、突起部の尖端点が突起部の中央部に位置する形状を有していてもよい。さらには、突起部の尖端面は湾曲していてもよいし、突起部の周面には溝や段差が形成されていてもよい。要は、突起部は、皮膚を刺すことの可能な形状であればよい。
【0060】
突起部が、突起部の幅方向の大きさが突起部の先端から基端に向かって支持面11Sまで徐々に大きくなる形状を有する場合、突起部の基端付近における強度が高められる。一方、突起部が、突起部の幅方向の大きさが一定である部分を基端部に有する場合、幅方向の大きさが変化する場合と比較して、突起部を皮膚に刺す際の抵抗を小さく抑えられる。
【0061】
・突起部12が、主流路15mから延びて突起部12の周面に開口する副流路15sを有していれば、副流路15sの開口の位置や副流路15sの延びる方向は限定されない。例えば、副流路15sは、尖端点Pに近い側面14Dに開口していてもよいし、尖端面14Tや柱状部13の側面13Dの面内、あるいは、突起部12の周面を構成する面のなかで互いに隣接する面を跨ぐ位置に開口していてもよい。また、副流路15sは、突起部12の幅方向とは異なる方向に延びていてもよく、換言すれば、支持面11Sに対して傾斜した方向に延びていてもよい。また、主流路15mと副流路15sとが接続される部分において、副流路15sにおける突起部12の先端側の端部は、主流路15mにおける突起部12の先端側の端部よりも、突起部12の先端側に位置してもよい。
【0062】
・突起部12は、主流路15mから延びて突起部12の周面に開口する複数の副流路15sを有していてもよい。
図7は、突起部12が2つの副流路15sを有する例を示す。突起部12の強度が特定の位置で過度に低下することを抑えるためには、複数の副流路15sの高さHsは互いに異なっていることが好ましく、また、支持面11Sと対向する方向から見て、複数の副流路15sが主流路15mから互いに異なる方向に延びていることが好ましい。例えば、各副流路15sの開口する側面14Dは、他の副流路15sの開口する側面14Dとは異なることが好ましい。
【0063】
突起部12が、複数の副流路15sを有している場合、薬剤の円滑な放出のためには、副流路15sの各々について、副流路面積Ssが300μm
2以上であればよく、さらに、副流路面積Ssは700μm
2以上であることが好ましい。
【0064】
・マイクロニードル10の使用形態は、注射筒30に取り付けられて用いられる形態に限られない。突起部12の主流路15mへ、注射筒30とは異なる器具によって薬剤が供給されてもよい。また、薬剤の投与後に、突起部12は、基体部11と分離されて、投与対象の皮内に残されてもよい。
【0065】
・マイクロニードル10によって薬剤を投与される対象は、人に限らず、他の動物であってもよい。また、上述した実施形態の構成、および、変形例の構成の各々は、適宜組み合わせて実施することができる。
【0066】
[実施例]
上述したマイクロニードルについて、具体的な実施例を用いて説明する。
<マイクロニードルの作製>
マイクロニードルの材料としてポリカーボネートを用い、射出成形によって、板状の基体部とともに、底面が正方形である四角柱の上面に接続された四角錐をその延びる方向に対して斜めに切断した形状の構造体であって、内部に主流路となる孔を有する構造体を形成した。さらに、レーザー加工によって、上記構造体に副流路となる孔を形成することにより、突起部を形成した。レーザー加工によって形成する孔の形状を変更することによって、副流路面積Ssの互いに異なる試験例1〜11のマイクロニードルを得た。
【0067】
試験例1〜11のマイクロニードルのいずれについても、突起部の外形は
図1に示した形状であり、錐状部の側面の支持面に対する傾きは80°であり、突起部の長さLtは750μmであり、柱状部の長さLcは100μmである。また、試験例1〜11のマイクロニードルのいずれについても、主流路の高さHmは600μmであり、主流路の延びる方向と直交する断面にて主流路が区画する領域の形状は円形であり、その直径は100μmである。また、試験例1〜11のマイクロニードルのいずれについても、副流路の高さHsは、450μmであり、副流路は、錐状部の側面のなかで突起部の尖端点Pから遠い側面に開口している。
【0068】
試験例1〜6のマイクロニードルにおいて、副流路の延びる方向と直交する断面にて副流路が区画する領域の形状は円形であり、その直径は試験例ごとに異なる。
【0069】
試験例7〜11のマイクロニードルにおいて、副流路の延びる方向と直交する断面にて副流路が区画する領域の形状は矩形であり、その長辺の長さと短辺の長さとの組み合わせは、試験例ごとに異なる。
【0070】
<液体の放出能力の評価>
試験例1〜11のマイクロニードルについて、液体の放出能力の評価を行った。各マイクロニードルを、純水が充填された注射筒に取り付け、この純水を0.2MPaの力で押圧し続けて突起部の副流路から大気中に純水を放出させ、1000μLの純水の放出が完了するまでに要する時間を計測した。純水の押圧は、圧力計を接続したチューブを注射筒の外筒に押子の代わりに挿入し、チューブ内に、チューブ内が0.2MPaになるようにガスを供給することにより行った。
【0071】
表1は、試験例1〜11のマイクロニードルについて、副流路の形状および副流路面積Ssと、上記純水の放出に要した時間の測定結果を示す。なお、副流路面積Ssは、少数第1位を四捨五入して示している。
【0072】
図8は、横軸を副流路面積Ss、縦軸を純水の放出に要した時間として、表1の結果をグラフに表した図であり、
図9は、
図8のうち、副流路面積Ssが3000μm
2以下である領域を拡大して示す図である。すなわち、
図9には、試験例1〜5について得られた結果が示されている。
【0074】
図8および
図9が示すように、副流路面積Ssが100μm
2程度である試験例1においては、放出時間が他の試験例と比べて極めて大きく、副流路面積Ssが300μm
2未満の範囲においては、副流路面積Ssの増加に伴って、放出時間が急激に小さくなる。そして、副流路面積Ssが300μm
2以上の範囲においては、副流路面積Ssが300μm
2未満の水準と比べて放出時間は小さく保たれ、副流路面積Ssの増加による放出時間の変化は緩やかである。特に、副流路面積Ssが700μm
2以上の範囲においては、副流路面積Ssの増加による放出時間の変化が小さい。なお、純水を押圧する力の大きさを0.1MPa以上0.3MPa以下の範囲で変更した場合にも、副流路面積Ssと放出時間との間には同様の傾向が認められた。
【0075】
以上の結果により、副流路面積Ssが300μm
2以上であれば、副流路面積Ssが300μm
2未満である場合と比較して、放出時間が顕著に小さくなり、副流路からの円滑な薬剤の吐出が可能であることが示された。さらに、副流路面積Ssが700μm
2以上であれば、放出時間は最小付近となり、副流路からのより円滑な薬剤の吐出が可能であることが示された。