特許第6880991号(P6880991)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6880991
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/10 20160101AFI20210524BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20210524BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20210524BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20210524BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20210524BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20210524BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20210524BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20210524BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20210524BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20210524BHJP
   B60W 20/30 20160101ALI20210524BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20210524BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20210524BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20210524BHJP
   B60W 10/00 20060101ALI20210524BHJP
   B60W 10/11 20120101ALI20210524BHJP
【FI】
   B60W20/10ZHV
   B60K6/48
   B60K6/387
   B60K6/547
   B60W10/08 900
   B60W20/00 900
   B60W10/10 900
   B60W10/06 900
   B60W10/02 900
   B60W20/40
   B60W20/30
   B60L50/16
   B60L15/20 K
   B60L15/20 Y
   B60W10/00 102
   B60W10/00 148
   B60W10/02
   B60W10/08
   B60W10/11
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-87583(P2017-87583)
(22)【出願日】2017年4月26日
(65)【公開番号】特開2018-184103(P2018-184103A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】特許業務法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】緒方 恵介
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−068704(JP,A)
【文献】 特開2004−096822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/10
B60K 6/387
B60K 6/48
B60K 6/547
B60L 15/20
B60L 50/16
B60W 10/00
B60W 10/02
B60W 10/04
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 10/10
B60W 10/11
B60W 20/00
B60W 20/30
B60W 20/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられ、クラッチおよび変速ギヤを有する変速機と、
前記クラッチと前記駆動輪との間の動力伝達経路に連結されたモータジェネレータと、を備え、
前記エンジンのエンジントルクと前記モータジェネレータのモータトルクとの少なくとも一方を用いて走行する車両の制御装置であって、
前記エンジントルクを用いた車両の走行時に、前記クラッチを開放して前記変速ギヤのギヤ段を切換えて前記クラッチを締結する変速動作を実施し、かつ、前記変速動作中に前記モータトルクを前記駆動輪に付与する制御部を有し、
前記制御部は、
前記変速動作中に前記駆動輪の空転を検出している場合、前記変速動作中の所定期間は前記モータトルクを要求トルクに基づくトルクに維持し、前記所定期間の経過後に前記モータトルクを小さくすることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記所定期間は、前記変速動作の開始時から第1の維持時間が経過するまでの期間であることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記所定期間は、前記ギヤ段の切換え完了時から第2の維持時間が経過するまでの期間であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、車速が小さいほど前記所定期間を短くすることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記所定期間の経過後に前記モータトルクを漸減することを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記駆動輪の空転が検出されなくなった場合、前記空転が検出されなくなったときの前記モータトルクを上限トルクとして設定し、該上限トルクを超えないように前記モータトルクを制限することを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両は、エンジンと、バッテリから供給される電力で駆動するモータジェネレータとを駆動源として備えており、エンジンまたはモータジェネレータの少なくとも一方の動力により走行する。
【0003】
従来のハイブリッド車両としては、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載のハイブリッド車両は、自動変速可能な有段歯車変速機とエンジンとの間に、制御信号により断・接動作するクラッチ装置が介装されており、変速指令信号によりクラッチ装置が切断されると同時に変速が実行される。
【0004】
また、従来のハイブリッド車両は、クラッチ装置が切断されると同時に、エンジンの吹き上がり防止のために、スロットル開度が自動的に減少する。さらに、このハイブリッド車両は、発進時等の補助や電力回生を行うためのモータジェネレータが変速機の中間軸に直結されており、変速時にはクラッチ装置の切断と同時にモータジェネレータの駆動トルクが増大し、この駆動トルクが駆動輪に付加される。
【0005】
特許文献1に記載のハイブリッド車両によれば、変速時にクラッチ装置の切断と同時にモータジェネレータの駆動トルクが駆動輪側に付加されることで、クラッチの開放中に途絶するエンジンから駆動輪への駆動力が、モータジェネレータの駆動力により補填されるため、減速感が発生することを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−69509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の車両の制御装置にあっては、駆動輪の空転中に変速を行う際に、クラッチ装置の切断と同時にモータジェネレータの駆動トルクを駆動輪側に付加しているため、モータジェネレータの駆動トルクによって駆動輪の空転が継続してしまうおそれがある。一方、駆動輪の空転を解消するためにモータジェネレータの駆動トルクを減少させた場合、減速感が発生してドライブフィーリングが悪化してしまうおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、駆動輪の空転中に変速を行う際に、駆動輪の空転が継続することを防止でき、かつ、減速感が発生することを抑制できる車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の一態様は、エンジンと、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられ、クラッチおよび変速ギヤを有する変速機と、前記クラッチと前記駆動輪との間の動力伝達経路に連結されたモータジェネレータと、を備え、前記エンジンのエンジントルクと前記モータジェネレータのモータトルクとの少なくとも一方を用いて走行する車両の制御装置であって、前記エンジントルクを用いた車両の走行時に、前記クラッチを開放して前記変速ギヤのギヤ段を切換えて前記クラッチを締結する変速動作を実施し、かつ、前記変速動作中に前記モータトルクを前記駆動輪に付与する制御部を有し、前記制御部は、前記変速動作中に前記駆動輪の空転を検出している場合、前記変速動作中の所定期間は前記モータトルクを要求トルクに基づくトルクに維持し、前記所定期間の経過後に前記モータトルクを小さくすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、駆動輪の空転中に変速を行う際に、駆動輪の空転が継続することを防止でき、かつ、減速感が発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置を搭載するハイブリッド車両の構成図である。
図2図2は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置による、走行トルク補填動作を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置における、駆動輪のスリップ中にシフトアップする場合のタイミングチャートである。
図4図4は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置における、駆動輪のスリップ中にシフトダウンする場合のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、エンジンと、エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に設けられ、クラッチおよび変速ギヤを有する変速機と、クラッチと駆動輪との間の動力伝達経路に連結されたモータジェネレータと、を備え、エンジンのエンジントルクとモータジェネレータのモータトルクとの少なくとも一方を用いて走行する車両の制御装置であって、エンジントルクを用いた車両の走行時に、クラッチを開放して変速ギヤのギヤ段を切換えてクラッチを締結する変速動作を実施し、かつ、変速動作中にモータトルクを駆動輪に付与する制御部を有し、制御部は、変速動作中に駆動輪の空転を検出している場合、変速動作中の所定期間はモータトルクを要求トルクに基づくトルクに維持し、所定期間の経過後にモータトルクを小さくすることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、駆動輪の空転中に変速を行う際に、駆動輪の空転が継続することを防止でき、かつ、減速感が発生することを抑制できる。
【実施例】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。以下、本発明の実施例に係る制御装置を搭載した車両について説明する。
【0014】
図1に示すように、ハイブリッド車両1は、エンジン2と、変速機3と、モータジェネレータ4と、駆動輪5と、ハイブリッド車両1を総合的に制御するHCU(Hybrid Control Unit)10と、エンジン2を制御するECM(Engine Control Module)11と、変速機3を制御するTCM(Transmission Control Module)12と、ISGCM(Integrated Starter Generator Control Module)13と、INVCM(Invertor Control Module)14と、低電圧BMS(Battery Management System)15と、高電圧BMS16とを含んで構成される。
【0015】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。
【0016】
エンジン2には、ISG(Integrated Starter Generator)20と、スタータ21とが連結されている。ISG20は、ベルト22などを介してエンジン2のクランクシャフト18に連結されている。ISG20は、電力が供給されることにより回転することでエンジン2を始動させる電動機の機能と、クランクシャフト18から入力された回転力を電力に変換する発電機の機能とを有する。
【0017】
本実施例では、ISG20は、ISGCM13の制御により、電動機として機能することで、エンジン2をアイドリングストップ機能による停止状態から再始動させるようになっている。ISG20は、電動機として機能することで、ハイブリッド車両1の走行をアシストすることもできる。
【0018】
スタータ21は、図示しないモータとピニオンギヤとを含んで構成されている。スタータ21は、モータを回転させることにより、クランクシャフト18を回転させて、エンジン2に始動時の回転力を与えるようになっている。このように、エンジン2は、スタータ21によって始動され、アイドリングストップ機能による停止状態からISG20によって再始動される。
【0019】
変速機3は、エンジン2から出力された回転を変速し、ドライブシャフト23を介して駆動輪5を駆動するようになっている。変速機3は、平行軸歯車機構からなる常時噛合式の変速機構25と、乾式単板クラッチによって構成されるクラッチ26と、ディファレンシャル機構27と、クラッチアクチュエータ51と、シフトアクチュエータ52と、を備えている。
【0020】
クラッチアクチュエータ51は、TCM12の制御によってクラッチ26の断続(切断と接続)を行うようになっている。シフトアクチュエータ52は、TCM12の制御によって変速機構25の図示しないシフトスリーブを移動して、変速ギヤ25Aのギヤ段を行うようになっている。以下、クラッチ26を切断して変速ギヤ25Aのギヤ段を切換えることを単に変速ともいう。
【0021】
このように、変速機3は、TCM12の制御により自動で変速を行うことが可能な、AMT(Automated Manual Transmission)と称される自動変速機として構成されている。ディファレンシャル機構27は、変速機構25によって出力された動力をドライブシャフト23に伝達するようになっている。
【0022】
モータジェネレータ4は、ディファレンシャル機構27に対して、チェーン等の動力伝達機構28を介して連結されている。モータジェネレータ4は、電動機として機能する。
【0023】
このように、ハイブリッド車両1は、エンジン2とモータジェネレータ4の両方の動力を車両の駆動に用いることが可能なパラレルハイブリッドシステムを構成している。ハイブリッド車両1は、エンジン2及びモータジェネレータ4の少なくとも一方が発生する動力により走行する。
【0024】
ハイブリッド車両1は、エンジン2が発生するエンジントルクのみによる走行(エンジン走行)と、モータジェネレータ4が発生するモータトルクのみによる走行(EV走行)と、モータトルクをアシストトルクとして用いてエンジン2のエンジントルクをアシストする走行(アシスト走行)が可能である。このように、ハイブリッド車両1は、エンジン走行機能に加えて、EV走行機能とアシスト走行機能を備えている。
【0025】
モータジェネレータ4は、発電機としても機能し、ハイブリッド車両1の走行によって発電を行うようになっている。なお、モータジェネレータ4は、変速機3から駆動輪5までの動力伝達経路の何れかの箇所に動力伝達可能に連結されていればよく、必ずしもディファレンシャル機構27に連結される必要はない。
【0026】
ハイブリッド車両1は、第1蓄電装置30と、第2蓄電装置31を含む低電圧パワーパック32と、第3蓄電装置33を含む高電圧パワーパック34と、高電圧ケーブル35と、低電圧ケーブル36とを備えている。
【0027】
第1蓄電装置30、第2蓄電装置31及び第3蓄電装置33は、充電可能な二次電池から構成されている。これらのうち、第1蓄電装置30は鉛電池からなる。また、第2蓄電装置31は、第1蓄電装置30よりも高出力かつ高エネルギー密度な蓄電装置である。
【0028】
第2蓄電装置31は、第1蓄電装置30と比較して短い時間で充電が可能である。本実施例では、第2蓄電装置31はリチウムイオン電池からなる。なお、第2蓄電装置31はニッケル水素蓄電池であってもよい。
【0029】
第1蓄電装置30及び第2蓄電装置31は、所定の出力電圧を発生するようにセルの個数等が設定された低電圧バッテリである。第3蓄電装置33は、例えば、ニッケル水素蓄電池またはリチウムイオン電池からなる。
【0030】
第3蓄電装置33は、第1蓄電装置30及び第2蓄電装置31より所定の高電圧を発生するようにセルの個数等が設定された高電圧バッテリである。第3蓄電装置33の残容量などの状態は、高電圧BMS16によって管理される。
【0031】
ハイブリッド車両1には、電気負荷としての一般負荷37及び被保護負荷38が設けられている。一般負荷37及び被保護負荷38は、スタータ21及びISG20以外の電気負荷である。
【0032】
被保護負荷38は、常に安定した電力供給が要求される電気負荷である。この被保護負荷38は、車両の横滑りを防止するスタビリティ制御装置38A、操舵輪の操作力を電気的にアシストする電動パワーステアリング制御装置38B、及びヘッドライト38Cを含んでいる。なお、被保護負荷38は、図示しないインストルメントパネルのランプ類及びメータ類並びにカーナビゲーションシステムも含んでいる。
【0033】
一般負荷37は、被保護負荷38と比較して安定した電力供給が要求されず、一時的に使用される電気負荷である。一般負荷37には、例えば、図示しないワイパー、及び、エンジン2に冷却風を送風する電動クーリングファンが含まれる。
【0034】
低電圧パワーパック32は、第2蓄電装置31に加えて、スイッチ40、41と、低電圧BMS15とを有している。第1蓄電装置30及び第2蓄電装置31は、低電圧ケーブル36を介して、スタータ21と、ISG20と、電気負荷としての一般負荷37及び被保護負荷38とに電力を供給可能に接続されている。被保護負荷38に対しては、第1蓄電装置30と第2蓄電装置31とが並列に電気的に接続されている。
【0035】
スイッチ40は、第2蓄電装置31と被保護負荷38との間の低電圧ケーブル36に設けられている。スイッチ41は、第1蓄電装置30と被保護負荷38との間の低電圧ケーブル36に設けられている。
【0036】
低電圧BMS15は、スイッチ40、41の開閉を制御することで、第2蓄電装置31の充放電及び被保護負荷38への電力供給を制御している。低電圧BMS15は、アイドリングストップによりエンジン2が停止しているときは、スイッチ40を閉じるとともにスイッチ41を開くことで、高出力かつ高エネルギー密度な第2蓄電装置31から被保護負荷38に電力を供給するようになっている。
【0037】
低電圧BMS15は、エンジン2をスタータ21によって始動するとき、及び、アイドリングストップ制御によって停止しているエンジン2をISG20によって再始動するときに、スイッチ40を閉じるとともにスイッチ41を開くことで、第1蓄電装置30からスタータ21又はISG20に電力を供給するようになっている。スイッチ40を閉じるとともにスイッチ41を開いた状態では、第1蓄電装置30から一般負荷37にも電力が供給される。
【0038】
このように、第1蓄電装置30は、エンジン2を始動する始動装置としてのスタータ21及びISG20に少なくとも電力を供給するようになっている。第2蓄電装置31は、一般負荷37及び被保護負荷38に少なくとも電力を供給するようになっている。
【0039】
第2蓄電装置31は、一般負荷37と被保護負荷38の両方に電力を供給可能に接続されているが、常に安定した電力供給が要求される被保護負荷38に優先的に電力を供給するようにスイッチ40、41が低電圧BMS15により制御される。
【0040】
低電圧BMS15は、第1蓄電装置30及び第2蓄電装置31の充電状態(SOC:State Of Charge、蓄電状態、充電残量、充電容量ともいう)、並びに、一般負荷37及び被保護負荷38への作動要求を考慮しつつ、被保護負荷38が安定して作動することを優先して、スイッチ40、41を上述した例と異なるように制御することがある。
【0041】
高電圧パワーパック34は、第3蓄電装置33に加えて、インバータ45と、INVCM14と、高電圧BMS16とを有している。高電圧パワーパック34は、高電圧ケーブル35を介して、モータジェネレータ4に電力を供給可能に接続されている。
【0042】
インバータ45は、INVCM14の制御により、高電圧ケーブル35にかかる交流電力と、第3蓄電装置33にかかる直流電力とを相互に変換するようになっている。例えば、INVCM14は、モータジェネレータ4を力行させるときには、第3蓄電装置33が放電した直流電力をインバータ45により交流電力に変換させてモータジェネレータ4に供給する。
【0043】
INVCM14は、モータジェネレータ4を回生させるときには、モータジェネレータ4が発電した交流電力をインバータ45により直流電力に変換させて第3蓄電装置33に充電する。
【0044】
HCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13と、INVCM14、低電圧BMS15及び高電圧BMS16は、それぞれCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0045】
これらのコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをHCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13と、INVCM14、低電圧BMS15及び高電圧BMS16としてそれぞれ機能させるためのプログラムが格納されている。
【0046】
すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、これらのコンピュータユニットは、本実施例におけるHCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13と、INVCM14、低電圧BMS15及び高電圧BMS16としてそれぞれ機能する。
【0047】
本実施例において、ECM11は、アイドリングストップ制御を実行するようになっている。このアイドリングストップ制御において、ECM11は、所定の停止条件の成立時にエンジン2を停止させ、所定の再始動条件の成立時にISGCM13を介してISG20を駆動してエンジン2を再始動させるようになっている。このため、エンジン2の不要なアイドリングが行われなくなり、ハイブリッド車両1の燃費を向上させることができる。
【0048】
本実施例では、ECM11は、車両停止状態(車速がゼロである)であることを所定の停止条件としてエンジン2を停止させるようになっている。このように、ハイブリッド車両1は、車両停車時にアイドリングストップを行う停車IS(Idling Stop)機能を備えている。路面状態が傾斜した登坂路においてアイドリングストップによる車両停止を実施した場合には、車両の停止状態を維持するためにモータジェネレータ4の電動機機能が用いられる。このモータジェネレータ4による車両の停止状態維持は、第3蓄電装置33の電力を用いて実施される。
【0049】
ハイブリッド車両1には、CAN(Controller Area Network)等の規格に準拠した車内LAN(Local Area Network)を形成するためのCAN通信線48、49が設けられている。
【0050】
HCU10は、INVCM14及び高電圧BMS16にCAN通信線48によって接続されている。HCU10、INVCM14及び高電圧BMS16は、CAN通信線48を介して制御信号等の信号の送受信を相互に行う。
【0051】
HCU10は、ECM11、TCM12、ISGCM13及び低電圧BMS15にCAN通信線49によって接続されている。HCU10、ECM11、TCM12、ISGCM13及び低電圧BMS15は、CAN通信線49を介して制御信号等の信号の送受信を相互に行う。
【0052】
なお、高電圧BMS16は、第3蓄電装置33の端子間電圧を検出する電圧計と、第3蓄電装置33への入出力電流を検出する電流計を備えている。高電圧BMS16は、この電圧計と電流計とにより第3蓄電装置33の充電状態を検出し、検出信号をHCU10に送信している。
【0053】
ここで、変速機3の変速動作は、クラッチ26を開放し、変速機構25における変速ギヤ25Aのギヤ段を切替え、クラッチ26を締結することである。変速機3の変速動作中は、クラッチ26が切断されることでエンジン2から駆動輪5へのエンジントルクが断絶する。そこで、HCU10は、変速機3の変速中にモータジェネレータ4のトルク(以下、モータトルクともいう)を補填トルクとして駆動輪5に付与する走行トルク補填動作を実行するようになっている。
【0054】
この走行トルク補填動作により、変速中のクラッチ26の切断により途絶したエンジントルクをモータトルクによって補填できる。このため、変速機3の変速中の減速感(引き込み感)が抑制でき、車両の走行性能を向上できる。
【0055】
ここで、摩擦係数の小さい路面でハイブリッド車両1が走行する状況においては、駆動輪5がスリップ(空転)している状態で変速機3の変速が行われることがある。この場合、スリップを解消するために走行トルク補填動作時のモータトルクを直ちに小さくすると、ドライバに減速感を与えてしまう。一方、モータトルクを維持したままである場合、スリップが継続し、クラッチ26の差回転が大きいままとなり、クラッチ26の係合を開始できず、変速動作を完了できない。
【0056】
そこで、HCU10は、変速動作中に駆動輪5の空転を検出している場合、走行トルク補填動作において、変速動作中の所定期間はドライバ要求トルクを満たすように決定されるモータトルクを出力し、所定期間の経過後にモータトルクを小さくするようになっている。この所定期間は、変速動作の開始時から第1の維持時間が経過するまでの期間、または変速ギヤの切替完了(ギヤインともいう)から第2の維持時間が経過するまでの期間である。HCU10は、第1の維持時間または第2の維持時間の何れかが経過するまでの間は、ドライバ要求トルクを満たすように決定されるモータトルクを出力するようになっている。また、HCU10は、車速が小さいほど所定期間を短くするようになっている。また、HCU10は、スリップ終了時のモータトルクを、モータジェネレータ4の上限トルクとして設定し、この上限トルクを超えないようにモータトルクを制限するようになっている。
【0057】
以上のように構成されたハイブリッド車両において実行される走行トルク補填動作について、図2に示すフローチャートを参照して説明する。この走行トルク補填動作は、エンジントルクのみによるエンジン走行と、エンジントルクをモータトルクでアシストするアシスト走行と、の何れかの走行状態における変速動作時に実施される。
【0058】
図2において、HCU10は、変速機3が変速中であるか否かを繰り返し判別する(ステップS1)。HCU10は、変速のためのトルク要求をTCM12から受信している場合、変速機3が変速動中であると判断する。
【0059】
ステップS1で変速機3が変速中である場合、HCU10は、補填トルクの第1の維持時間を決定し、計時を開始する(ステップS2)。
【0060】
ここで、補填トルクとは、クラッチ26の開放に伴って断絶したエンジントルクを補填して減速感を低減するための、モータジェネレータ4のモータトルクのことである。第1の維持時間の計時開始タイミングは、変速動作を開始したタイミング、すなわちクラッチ26の開放を開始したタイミングである。
【0061】
次いで、HCU10は、補填トルクの大きさを決定する(ステップS3)。ここでは、HCU10は、ドライバの要求トルクからクラッチトルクを減じたトルクを補填トルクとして決定する。
【0062】
次いで、HCU10は、駆動輪5のスリップを検出中であるか否かを判別する(ステップS4)。HCU10は、図示しない車輪速センサにより駆動輪5のスリップを検出している場合、または、スタビリティ制御装置38A、図示しないTCS装置やABS装置、ESP装置等がスリップ防止制御を実施している場合、スリップを検出中であると判断する。ここで、スリップ防止制御とは、駆動輪5のスリップを解消するために、図示しないブレーキ装置の制動力、またはエンジン2のエンジントルクを調整する制御である。
【0063】
ステップS4でスリップを検出中ではない場合、HCU10は、変速機3の変速が終了したか否かを判別する(ステップS11)。HCU10は、変速が終了している場合は今回の動作を終了し、変速が終了していない場合は、ステップS3に戻る。
【0064】
ステップS4でスリップを検出中である場合、HCU10は、補填トルクを許可し(ステップS5)、第1の維持時間が経過したか否かを判別する(ステップS6)。ステップS5では、モータジェネレータ4による補填トルクの発生が許可されたことで、HCU10は、ドライバ要求トルクを満たすように決定したモータトルクを、モータジェネレータ4に出力させる。
【0065】
ステップS6で第1の維持時間が経過している場合、HCU10は、補填トルクの上限値を漸減し(ステップS10)、今回の動作を終了する。ここで、補填トルクの上限値とは、補填トルクとしてモータジェネレータ4に発生させるモータトルクの制御上の上限値を意味しており、上限トルクともいう。ステップS10で補填トルクの上限値を漸減した結果、モータトルクはこの上限値に沿って漸減する。言い換えれば、ステップS10において、HCU10は、補填トルクの上限値を漸減する手法を用いて、モータトルクを漸減している。
【0066】
ステップS6で第1の維持時間が経過していない場合、HCU10は、変速機3の変速機構25において現在のギヤ段(図中、実ギヤと記す)が目標のギヤ段(図中、目標ギヤと記す)と等しいか否かを判別する。すなわち、HCU10は、ギヤ段の切替が完了しているか否かを判別する。
【0067】
ステップS7で現在のギヤ段が目標のギヤ段と等しくない場合、HCU10は、駆動輪5のスリップを検出中であるか否かを判別する(ステップS12)。
【0068】
HCU10は、ステップS12でスリップを検出中である場合、ステップS5に戻り、ステップS12でスリップを検出中ではない場合、補填トルクの上限値を、スリップ終了時のモータトルクに設定する(ステップS13)。すなわち、駆動輪5のスリップが解消して駆動輪5のスリップ(空転)が検出されなくなった場合、HCU10は、スリップが検出されなくなったときのモータトルクを上限トルクとして設定し、この上限トルクを超えないようにモータトルクを制限するようになっている。次いで、HCU10は、クラッチ26の締結度に基づいて補填トルクを漸減し(ステップS14)、クラッチ26が締結したか否かを繰り返し判別し(ステップS15)、クラッチ26が締結していれば補填トルクの上限値をリセットし(ステップS16)、今回の動作を終了する。
【0069】
ステップS7で現在のギヤ段が目標のギヤ段と等しい場合、HCU10は、補填トルクの第2の維持時間を決定し、計時を開始する(ステップS8)。第2の維持時間の計時開始タイミングは、変速ギヤの切替完了(ギヤインともいう)のタイミングとなっている。なお、図2のフローチャートでは、駆動輪5のスリップが検出中である場合(ステップS12でYESの場合)は、ステップS5からステップS9が繰り返されることがあるが、繰り返し時(2回目以降の実行時)はステップS8がスキップされ、初回のみステップS8が実行されるようになっている。言い換えれば、ステップS8において、第2の維持時間は、一度決定および計時が開始されたら、図2のフローチャートが終了するまでの間は、再度決定および計時開始が実行されないようになっている。
【0070】
次いで、HCU10は、第2の維持時間が経過したか否かを判別する(ステップS9)。HCU10は、第2の維持時間が経過していない場合、ステップS12に移行し、第2の維持時間が経過した場合、ステップS10で補填トルクの上限値を漸減し、今回の動作を終了する。
【0071】
次に、図2の走行トルク補填動作が実施される際の車両状態の推移について、図3図4のタイミングチャートを参照して説明する。図3は、駆動輪5がスリップしている状態で変速機3をシフトアップする場合の走行トルク補填動作による車両状態の推移を示している。図4は、駆動輪5がスリップしている状態で変速機3をシフトダウンする場合の走行トルク補填動作による車両状態の推移を示している。
【0072】
図3図4は、車両状態として、変速機入力軸回転数、エンジン出力軸回転数、クラッチ締結度、変速ギヤ25Aのギヤ段、モータジェネレータ4のモータトルク、駆動輪5のスリップ検出状態を示している。
【0073】
変速機入力軸回転数とは、変速機3の入力軸3Aの回転数であり、エンジン出力軸回転数とは、エンジン2のクランクシャフト18の回転数である。したがって、変速機入力軸回転数はクラッチ26の出力側回転要素(クラッチディスク)の回転数と等しく、エンジン出力軸回転数はクラッチ26の入力側回転要素(フライホイール)の回転数と等しいため、変速機入力軸回転数とエンジン出力軸回転数との差は、クラッチ26の2つの回転要素間の差回転を表している。
【0074】
図3の時刻t0において、クラッチ26は締結されており、ギヤ段は2速(図中、2ndと記す)になっており、変速機入力軸回転数とエンジン出力軸回転数とが、同じ回転数を保ったまま増加している。そして、時刻t1においてスリップ検出状態がON(スリップ検出)となる。
【0075】
その後、時刻t2においてギヤ段のシフトアップのためにクラッチ26が開放され始め、走行トルクの補填のためにモータトルクが力行側(上方)に増加し始める。この時刻t2では、エンジン2への制御によりエンジン回転数がアイドル回転数の近傍に低下していること、およびクラッチ26の締結度が低下していることにより、エンジン出力軸回転数が低下し、変速機入力軸回転数より小さい回転数となる。
【0076】
その後、時刻t3において、クラッチ26が完全に開放され、ドライバ要求トルクを満たすように決定されるトルクでモータトルクが推移する。図3はドライバ要求トルクが一定の場合を例示しており、モータトルクも一定で推移している。この状態では、クラッチ26が完全に開放しているが、モータトルクにより走行トルクが補填されているため、減速感(引き込み感)の発生を抑制できている。
【0077】
その後、時刻t4において、ギヤ段の目標値が2速から3速(図中、3rdと記す)に変更されたことで、実際のギヤ段が3速に向かって変化し始める。また、変速機入力軸回転数は、上昇が止まり、概ね一定で推移する。
【0078】
その後、時刻t5において、3速へのギヤ段の切換えが完了する。そして、ギヤ段の切換え完了から第2の維持時間が経過した時刻t6において、モータトルク(力行トルク)が0に向けて漸減され、このモータトルクの漸減に伴って変速機入力軸回転数が漸減する。なお、時刻t6以降に第1の維持時間が経過しているが、第1の維持時間と第2の維持時間の何れの経過タイミングが先になるかは、これらの維持時間の設定値や、ギヤ段の切換え完了のタイミングによって異なる。
【0079】
この時刻t6では、モータトルクは、緩やかな減少率となるように漸減される。なお、モータトルクが減少されずに一定値を保った場合の変速機入力軸回転数を一点鎖線で示している。
【0080】
その後、時刻t7において、駆動輪5が路面との間のグリップを回復し、スリップ検出状態がOFF(空転解消)となったため、スリップ検出状態がOFFとなったときのモータトルクが上限トルクに設定される。このため、モータトルクは、この上限トルクで一定で推移する。なお、駆動輪5のスリップが継続してモータトルクが漸減を継続した場合を一点鎖線で示しており、この場合、時刻t9においてモータトルクが0まで減少する。
【0081】
そして、時刻t8において、変速機入力軸回転数とエンジン出力軸回転数との差、すなわちクラッチ26の差回転が所定差回転未満に減少し、クラッチ26の係合が可能な状態となる。このため、クラッチ26が締結側に変化するよう制御され、クラッチ締結度が大きくなる。
【0082】
その後、時刻t9において、クラッチ締結度が係合開始点まで大きくなり、クラッチ26における動力伝達が開始される。この時刻t9では、クラッチ締結度の増加率が緩められ、クラッチ26がスムーズに締結される。また、この時刻t9では、クラッチ26における動力伝達が開始されたことで、エンジン出力軸回転数が変速機入力軸回転数に向かって増加する。また、この時刻t9では、クラッチ26の締結度に応じた減少率で、モータトルクが減少される。
【0083】
その後、時刻t10において、クラッチ26が完全に締結して変速動作が終了する。この時刻t10では、クラッチ26が完全に締結したことで、エンジン出力軸回転数が変速機入力軸回転数に一致する。
【0084】
図4の時刻t20において、クラッチ26は締結されており、ギヤ段は3速(図中、3rdと記す)になっており、変速機入力軸回転数とエンジン出力軸回転数とが、同じ回転数を保ったまま減少している。そして、時刻t21においてスリップ検出状態がON(スリップ検出)となる。
【0085】
その後、時刻t22においてギヤ段のシフトアップのためにクラッチ26が開放され始め、走行トルクの補填のためにモータトルクが回生側(下方)に増加し始める。この時刻t22では、エンジン2への制御によりエンジン回転数がアイドル回転数の近傍に増加していること、およびクラッチ26の締結度が低下していることにより、エンジン出力軸回転数が増加し、変速機入力軸回転数より大きい回転数となる。
【0086】
その後、時刻t23において、クラッチ26が完全に開放され、ドライバ要求トルクを満たすように決定されるトルクでモータトルクが推移する。図4はドライバ要求トルクが一定の場合を例示しており、モータトルクも一定で推移している。この状態では、クラッチ26が完全に開放しているが、モータトルクにより走行トルクが補填されているため、加速感(押し出し感)の発生を抑制できている。
【0087】
その後、時刻t24において、ギヤ段の目標値が3速から2速(図中、2ndと記す)に変更されたことで、実際のギヤ段が2速に向かって変化し始める。
【0088】
その後、時刻t25において、2速へのギヤ段の切換えが完了する。そして、ギヤ段の切換え完了から第2の維持時間が経過した時刻t26において、モータトルク(回生トルク)が0に向けて漸減され、このモータトルクの漸減に伴って変速機入力軸回転数が漸増する。
【0089】
なお、時刻t26以降に第1の維持時間が経過しているが、第1の維持時間と第2の維持時間の何れの経過タイミングが先になるかは、これらの維持時間の設定値や、ギヤ段の切換え完了のタイミングによって異なる。
【0090】
この時刻t26では、モータトルクは、緩やかな減少率となるように漸減される。なお、モータトルクが減少されずに一定値を保った場合の変速機入力軸回転数を一点鎖線で示している。
【0091】
その後、時刻t27において、駆動輪5が路面との間でグリップを回復し、スリップ検出状態がOFF(空転解消)となったため、スリップ検出状態がOFFとなったときのモータトルクが上限トルクに設定される。このため、モータトルクは、この上限トルクで一定で推移する。なお、駆動輪5のスリップが継続してモータトルクが漸減を継続した場合を一点鎖線で示しており、この場合、時刻t28においてモータトルクが0まで減少する。
【0092】
そして、時刻t27以降に、変速機入力軸回転数とエンジン出力軸回転数との差、すなわちクラッチ26の差回転が所定差回転未満に減少し、クラッチ26の係合が可能な状態となる。このため、クラッチ26が締結側に変化するよう制御される。
【0093】
その後、時刻t28において、クラッチ締結度が係合開始点まで大きくなり、クラッチ26における動力伝達が開始される。この時刻t28では、クラッチ締結度の増加率が緩められ、クラッチ26がスムーズに締結される。また、この時刻t28では、クラッチ26における動力伝達が開始されたことで、変速機入力軸回転数がエンジン出力軸回転数に向かって増加する。また、この時刻t28では、クラッチ26の締結度に応じた減少率で、モータトルクが減少される。
【0094】
その後、時刻t29においてクラッチ26が完全に締結し、変速動作が終了する。
【0095】
以上説明したように、HCU10は、エンジントルクを用いた車両の走行時に、クラッチ26を開放して変速ギヤ25Aを切換えてクラッチ26を締結する変速動作を実施し、かつ、変速動作中にモータトルクを駆動輪5に付与する。
【0096】
そして、HCU10は、変速動作中に駆動輪5の空転を検出している場合、変速動作中の所定期間はモータトルクを要求トルクに基づくトルクに維持し、所定期間の経過後にモータトルクを小さくする。
【0097】
これにより、所定期間中はモータトルクを要求トルクに基づくトルクに維持することで、クラッチ26の開放に伴う減速感を発生させることなくギヤ段を切換えることができる。また、所定期間後にモータトルクを小さくすることで、駆動輪5のグリップを回復でき、駆動輪5の空転が継続することを防止できる。
【0098】
この結果、駆動輪5の空転中に変速を行う際に、駆動輪5の空転が継続することを防止でき、かつ、減速感が発生することを抑制できる。
【0099】
上記の所定期間は、変速動作の開始時から第1の維持時間が経過するまでの期間であることが好ましい。
【0100】
これにより、第1の維持時間を適切に設定しておくことで、ギヤ段の切換えが確実に完了した後のタイミングでモータトルクを小さくし、駆動輪5の空転が継続することを防止できる。また、ギヤ段の切換えが完了していない場合でも、第1の維持時間の経過後にモータトルクが小さくされるため、駆動輪5の空転が長い時間継続することを防止できる。
【0101】
上記の所定期間は、ギヤ段の切換え完了時から第2の維持時間が経過するまでの期間であることが好ましい。
【0102】
これにより、ギヤ段の切換えが完了した後にモータトルクを小さくするので、変速動作の開始からギヤ段の切換え完了までの期間はモータトルクにより走行トルクが補填され、減速感を抑制できる。また、ギヤ段の切換え完了後は、モータトルクが小さくされることで、駆動輪5の空転が継続することを防止できる。
【0103】
また、HCU10は、車速が小さいほど所定期間を短くする。
【0104】
これにより、運転者が駆動輪5の空転を感じやすい低車速ほど所定期間が短くなり、空転を早期に解消できるため、駆動輪5の空転によりドライブフィーリングが悪化することを抑制できる。
【0105】
また、HCU10は、所定期間の経過後にモータトルクを漸減する。
【0106】
これにより、モータトルクを漸減することで、減速感によるドライブフィーリングの悪化を一層抑制できる。また、クラッチ26の回転要素間の差回転が所定差回転未満になったことに基づいてクラッチ26を再係合させる制御を実施する際に、クラッチ26をスムーズに係合させることができる。
【0107】
また、HCU10は、所定期間の経過後に駆動輪5の空転が検出されなくなった場合、空転が検出されなくなったときのモータトルクを上限トルクとして設定し、この上限トルクを超えないようにモータトルクを制限する。
【0108】
これにより、駆動輪5の空転が解消された場合は、駆動輪5が路面とのグリップにより回転されてクラッチ26の差回転が小さくなり、クラッチ26の締結を開始することができる。また、駆動輪5の空転が解消された場合は、モータトルクの減少率を大きくすることで、クラッチ26の差回転を速やかに所定差回転未満まで小さくでき、早期にクラッチ26を係合させて変速動作を完了することができる。
【0109】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0110】
1 ハイブリッド車両(車両)
2 エンジン
3 変速機
4 モータジェネレータ
5 駆動輪
10 HCU(制御部)
25A 変速ギヤ
26 クラッチ
図1
図2
図3
図4