(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記重金属イオン吸着シートにおいて、前記繊維基材内部に前記バインダー樹脂が固着していない部分が存在し、該部分が、前記繊維基材全体の10%以上95%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
なお以下、本発明について詳述するが、本開示において「重金属」とは、好ましくは六価クロム、セレン、砒素、フッ素、ホウ素、鉛、またはカドミウムを意味するものとする。
【0010】
<吸着シート工法>
本発明に係る吸着シート工法は、建設工事現場における盛土の形成に適用できる。そして本発明に係る方法は、重金属を含有する汚染土を、2枚以上の重金属イオン吸着シートを含む積層構造体の一方面上に載置することを特徴とする。
図3には、本発明に係る吸着シート工法の一例を示し、2枚以上の重金属イオン吸着シートを含む積層構造体2は、通常、地盤3の上に設置され、そして前記積層構造体2の一方面上に重金属を含有する汚染土1を載置する。
従来の一般的な吸着層工法では、盛土の基礎に重金属等を捕捉するための吸着層を設け、該吸着層として、所望量の重金属イオン吸着剤を2枚の基材で挟んだ積層物や、所望量の重金属イオン吸着剤を砕石などに加えた混合材料を地盤3の上に敷設して使用していた。従来の吸着層工法では、重金属イオン吸着剤の量をn倍に増大した場合、重金属イオンの回収効率はnに比例して改善すると考えられていた。
本発明では、2枚以上の重金属イオン吸着シートを含む積層構造体の一方面上に汚染土を載置する。そして、前記汚染土内を浸透する水により前記重金属が溶出し、溶出した前記重金属が前記重金属イオン吸着シートと接触することにより重金属イオンを回収する。本発明者らが検討したところ、上記構成により、[1]重金属イオン吸着シートをZ枚積層したときの透過率Xは、1枚の重金属イオン吸着シートの透過率Yより、X=(Y)
Zとして求められることが分かり、[2]更にX=(Y)
Zにより透過率が予測できるため、予め汚染土から浸出する重金属イオンの濃度を測定しておけば、その濃度に併せて重金属イオン吸着シートの積層枚数を調整でき、これにより経済的でより安全な工法が提供されることが分かった。
【0011】
前記積層構造体は、好ましくは3枚以上の重金属イオン吸着シートを含むことが好ましいが、枚数が増えると経済性や設置時の作業効率が悪くなる虞があるため、好ましくは10枚以下、より好ましくは8枚以下、更に好ましくは6枚以下である。重金属イオン吸着シートの枚数の増加に伴い、重金属イオンの透過率を抑えることが可能となる。
【0012】
図3において、地盤3と汚染土1の間には、積層構造体2以外にも、透水層、遮水層、保護層等を適宜形成することができ、積層構造体2と汚染土1から浸出する重金属イオンの接触効率を良くする観点から、遮水層は、積層構造体2と地盤3の間、すなわち、積層構造体2において汚染土1を載置している側とは反対側に形成されることが好ましい。
【0013】
なお重金属イオン吸着シートとして、後述する片面塗布タイプの重金属イオン吸着シートを選択する場合には、積層構造体において塗布面を上に向けるか下に向けるかは任意である。しかし、汚染土による目詰りを抑制し、フィルタライフを長くできることから、積層構造体に含まれる重金属イオン吸着シートのうち、最上段に設置される重金属イオン吸着シートは、塗布面を上に向けて設置されることが好ましい。一方、汚染土から浸出する重金属イオンとの接触時間を長くでき、重金属イオンの回収効率を向上できることから、積層構造体に含まれる重金属イオン吸着シートのうち、最下段に設置される重金属イオン吸着シートは、塗布面を下に向けて設置されることが好ましい。
【0014】
積層構造体に載置された汚染土の表面の少なくとも一部は、覆土、植生または舗装されていてもよい。また前記汚染土の上部は均されていてもよい。更に重金属イオン吸着シートは、平地、斜面など、盛土が可能な地盤であれば、いかなる場所にも設置できる。
【0015】
<重金属イオン吸着シート>
前記重金属イオン吸着シートは、重金属イオンを吸着できる性能を有していれば、いかなるシートでもよい。前記重金属イオン吸着シートは、例えば、繊維基材と、前記繊維基材内に形成され、バインダー樹脂から構成されるバインダー樹脂層と、前記バインダー樹脂を介して前記繊維基材に固定される重金属イオン吸着剤と、を有することが好ましい。繊維基材を用いることで、重金属イオン吸着シート自体の透水性が良好になり、水と重金属イオン吸着剤とが接触し易くなる。更に、バインダー樹脂を介して重金属イオン吸着剤を繊維基材に固定しておくことで、重金属イオン吸着剤が水と共に流れることを抑制できる。
【0016】
1.繊維基材
繊維基材としては、具体的には、バインダー樹脂が基材内部にまで浸透するよう、繊維を一部または全部に含むシート状の部材であることが好ましく、重金属イオン吸着シートに水が接触した際に透水性に優れるよう、繊維を含む不織布から構成されることがより好ましい。前記不織布は、長繊維不織布、短繊維不織布のいずれであってもよく、不織布のウェブ形成には、乾式法(カーディング法)、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法等を適宜採用するとよい。ウェブの結合方法も特に限定されるものではなく、例えば、ニードルパンチ法、スパンレース法(水流絡合法)等の機械的絡合法;不織布層に予め低融点繊維を混繊しておき、この低融点繊維の一部又は全部を熱溶融させて、繊維交点を固着する方法(サーマルボンド法);等の各種結合方法を採用できる。本発明では、繊維基材の強度を向上できることから、ニードルパンチ法、水流絡合法等の機械的絡合法が好ましく、特にニードルパンチ不織布が好ましく採用できる。
【0017】
繊維基材に含まれる繊維としては、化学繊維が好ましい。具体的には、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生繊維;アセテート繊維、トリアセテート繊維等の半合成繊維;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維;ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維、ポリアリレート等のポリエステル繊維;ポリアクリロニトリル繊維、ポリアクリロニトリル−塩化ビニル共重合体繊維等のアクリル繊維;ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維;ビニロン繊維、ポリビニルアルコール繊維等のポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリクラール繊維等のポリ塩化ビニル系繊維;ポリウレタン繊維;ポリエチレンオキサイド繊維、ポリプロピレンオキサイド繊維等のポリエーテル系繊維;等が好ましい。これらの繊維は、単独で使用しても、混繊して使用してもよい。
中でも、強度に優れることから、再生繊維や合成繊維が好ましく、より好ましくは、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、またはポリオレフィン繊維等の合成繊維であり、特に劣化が少ないことから、ポリエステル繊維が好ましく、ポリエチレンテレフタレート繊維が最適である。ポリエステル繊維は、繊維基材100質量%中、70質量%以上(より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上)含まれている事が望ましい。
【0018】
繊維基材に使用される繊維は、中実繊維であっても中空繊維であってもよく、捲縮を有していても有していなくてもよい。また前記繊維は芯鞘型、偏心型等の複合繊維であってもよい。これらの繊維は単独で使用してもよく、また複数を混綿して使用してもよい。
【0019】
繊維基材を構成する繊維の平均繊維径は、例えば、0.4μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、35μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以下であり、さらに好ましくは25μm以下である。平均繊維径が下限値を下回ると、繊維が細かすぎて繊維間が密になり、透水性が悪化する虞がある。また上限値を上回ると、繊維間が粗になり、重金属イオン吸着剤を均一に固着できない可能性があるため好ましくない。
なお平均繊維径は、例えば、目視や、繊維を構成する素材の繊度及び密度などに基づき計算により求めることができる。
【0020】
繊維基材の見掛け密度は、例えば、0.01g/cm
3以上が好ましく、より好ましくは0.05g/cm
3以上であり、更に好ましくは0.07g/cm
3以上であり、0.3g/cm
3以下が好ましく、0.25g/cm
3以下がより好ましく、0.2g/cm
3以下が更に好ましい。繊維基材の見掛け密度が前記範囲内であれば、汚染土内を浸透する水により溶出した重金属イオンが、重金属イオン吸着シート内部にまで浸透しやすくなるため、重金属イオンを効率よく低減できる。なお、繊維基材の見掛け密度の測定方法は、繊維基材の目付を厚さで除すことで求めることができる。
【0021】
また、見掛け密度を上記範囲内に調整するためには、繊維基材の目付と厚さのバランスが重要となる。繊維基材の目付は、例えば、10g/m
2以上が好ましく、50g/m
2以上がより好ましく、150g/m
2以上が更に好ましく、1000g/m
2以下が好ましく、700g/m
2以下がより好ましく、500g/m
2以下が更に好ましい。目付を前記範囲内に調整することにより、所望量の重金属イオン吸着剤を固着することが可能になる。
【0022】
繊維基材の厚さは、例えば、10mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましく、6mm以下が更に好ましい。下限は特に限定されないが、例えば、0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましく、2mm以上が更に好ましい。繊維基材の厚さを前記範囲内に調整することで、所望量の重金属イオン吸着剤を固着することが可能になる。
【0023】
2.重金属イオン吸着剤
重金属イオン吸着剤としては、重金属イオンを吸着できる材料である限り特に限定されないが、重金属イオン吸着剤としては、個数平均粒子径が0.2μm以上5μm以下であり、
一般式:[Mg
2+1-xAl
3+x(OH)
2]
x+[(A
n-)
x/n・mH
2O]
x-
(A
n-はn価のアニオン、0.20≦x≦0.33)
で表される合成ハイドロタルサイト様物質が好ましい。該合成ハイドロタルサイト様物質としては、例えば、特許第4036237号公報に記載の方法により合成されたハイドロタルサイト様物質が好ましく、該合成ハイドロタルサイト様物質は層状鉱物である。特許第4036237号公報に記載の方法により合成されたハイドロタルサイト様物質のように、20nm以下の結晶子サイズを有する合成ハイドロタルサイト様物質は、特に重金属イオンに対する選択吸着性に優れるため、本発明には好ましい。
【0024】
A
n-で表されるn価のアニオンは、好ましくはNO
3-、CO
32-、Cl
-およびSO
42-から選択される少なくとも1以上であり、特に六価クロム、セレン、砒素、フッ素またはホウ素等の重金属イオンに対する吸着性能がより高いことから、A
n-はより好ましくはCl
-である。
【0025】
前記合成ハイドロタルサイト様物質は合成品であることから、A
n-の含有比率を細かく調整することが可能である。天然のハイドロタルサイトには2以上のA
n-が様々な比率で混在しているが、合成ハイドロタルサイト様物質においては、単一種のA
n-の含有率を、A
n-の総モル中、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、好ましくは100モル%以下にコントロールすることができる。単一種のA
n-の含有率を高めることにより、重金属イオンに対する選択性を高めることが可能となる。
【0026】
重金属イオン吸着剤の個数平均粒子径は、好ましくは0.2μm以上5μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上であり、更に好ましくは1μm以上であり、より好ましくは4μm以下であり、更に好ましくは3μm以下である。重金属イオン吸着剤の個数平均粒子径が前記範囲内であれば、重金属イオン吸着シート製造時に、重金属イオン吸着剤が塗料中で沈んでしまうことを抑制でき、且つ、重金属イオン吸着剤がバインダー被膜に埋没することによる、重金属イオンの吸着量の低下を抑制できる。
本発明において、重金属イオン吸着剤の個数平均粒子径は、例えば、レザー回折式粒度分布測定装置により測定することが可能である。特に、合成ハイドロタルサイト様物質は凝集しやすい性質を有しているため、本発明でいう「重金属イオン吸着剤の個数平均粒子径」は、重金属イオン吸着剤(例えば、合成されたハイドロタルサイト様物質)の凝集体の個数平均粒子径を意味する場合がある。
【0027】
重金属イオン吸着剤の個数平均粒子径と、繊維基材中の繊維の平均繊維径との比(個数平均粒子径:平均繊維径)は、例えば、1:3〜1:20が好ましく、より好ましくは1:4〜1:16であり、更に好ましくは1:5〜1:14である。比を前記範囲内に調整することにより、繊維表面で重金属イオン吸着剤が重なり合うことなく、重金属イオン吸着剤の表面が露出し易くなるため、吸着性能の向上に寄与する。
【0028】
3.塗料
次に繊維基材に塗布する塗料について説明する。塗料とは、重金属イオン吸着剤とバインダー樹脂とを含む液体である。固形の重金属イオン吸着剤は、前記塗料中にほぼ均一に分散されていることが好ましい。
【0029】
本発明において、重金属イオン吸着シートに固着するバインダー樹脂(固形分)と重金属イオン吸着剤の質量比(バインダー樹脂(固形分)/重金属イオン吸着剤)は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.6以上であり、より更に好ましくは0.7以上であり、上限は特に限定されないが、好ましくは5以下であり、より好ましくは3以下であり、更に好ましくは2以下であり、より更に好ましくは1.5以下であり、特に好ましくは1.2以下である。重金属イオン吸着剤の配合比率を前記範囲内に調整することにより、バインダー樹脂に重金属イオン吸着剤がしっかりと固定されるため、重金属イオン吸着剤が繊維基材から脱落することを抑制できる。また、重金属イオン吸着剤の表面がバインダー樹脂に完全に被覆されることも防止できるため、重金属イオン吸着剤の表面が外部に露出し、所望の重金属イオンの吸着性能も発揮される。
【0030】
塗料は、安価であり、且つ、環境に対する負荷が少ないことから、水を分散媒とするエマルジョン系が好ましい。
【0031】
バインダー樹脂としては、通常、不織布の接着用途で用いる樹脂を適宜使用するとよいが、例えば、酢酸ビニル単量体を構成単位に含む酢酸ビニル系バインダー、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルの共重合体であるアクリル系バインダー、合成ゴム系(例えば、ブタジエン−スチレン系、ブタジエン−アクリロニトリル系、クロロプレン系)バインダーが好ましい。中でも、接着強度が高いという利点を有するため、アクリル系バインダーが好ましい。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2,2−ジメチルプロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−2−tert−ブチルフェニル、アクリル酸2−ナフチル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2,2−ジメチルプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸−2−tert−ブチルフェニル、メタクリル酸2−ナフチル、メタクリル酸フェニル等のラジカル重合性単量体が例示できる。
【0033】
アクリル系バインダーのガラス転移温度は、−10〜50℃が好ましく、より好ましくは0〜40℃である。
【0034】
重金属イオン吸着剤の含有量は、塗料100質量%中、0.1〜90質量%が好ましく、0.5〜50質量%がより好ましく、1〜40質量%が更に好ましい。
【0035】
塗料には、本発明の効果を阻害しない程度で、起泡剤、消泡剤、分散剤、増粘剤、着色料、防腐剤等の添加物が含まれていてもよい。
【0036】
4.製造方法
前記重金属イオン吸着シートは、特に限定されるものではないが、例えば、前記塗料を前記繊維基材に含浸させる、或いは、前記塗料を前記繊維基材の片面に塗布することにより製造される。含浸法では、繊維基材の一方面から他方面にまで繊維基材の内部全体に塗料が付着するため、より多量に重金属イオン吸着剤を繊維基材に固定でき、重金属イオンの吸着量が増大するため好ましい。一方、前記塗料を前記繊維基材の片面に塗布する場合には、繊維基材の内部に塗料が付着しない部分(より好ましくは層)が形成されるため、この繊維基材中の塗料が付着していない部分において、繊維基材自体が本来有する透水性が発揮される。これにより、汚染土内を浸透する水により溶出した重金属イオンが、重金属イオン吸着シート全体に浸透しやすくなるため、大量の処理が可能となる。
図1は、重金属イオン吸着シートの断面を100倍に拡大したときのSEM写真であるが、片面塗布の場合には、下側の白く光る部分には吸着剤を含有するバインダー樹脂が固着しないため、この部分が透水性に寄与することとなる。
【0037】
塗料を繊維基材の片面に塗布する場合には、バインダー樹脂層が、繊維基材の厚さ方向に表面から途中までに形成されることになるが、重金属イオン吸着シートにおいて、繊維基材内部にバインダー樹脂が固着していない部分は、例えば、繊維基材全体の10%以上であることが好ましく、より好ましくは45%以上であり、更に好ましくは60%以上であり、上限は特に限定されないが、95%以下が好ましく、90%以下、85%以下、更には80%以下であっても問題ない。なおバインダー樹脂が固着していない部分の比率は、例えば、繊維基材の厚さと、繊維基材の厚さ方向におけるバインダー樹脂が固着していない部分の厚さの比率から求めることが可能である。
【0038】
塗料を、繊維基材の片面に塗布する方法は特に限定されるものではなく、グラビア法、ロータリープリント法等一般的な塗布法を用いるとよい。塗料を塗布するときは、リバースコーター、キスロールコーター、ナイフコーター等の各種設備を用いるとよく、特にナイフコーターが好ましい。なお後述する発泡性塗料を使用する場合には、塗料中の気泡をできるだけ壊さないようにする点に注意が必要である。
【0039】
また、重金属イオン吸着シートの製造において、前記塗料は、発泡性であっても非発泡性であっても差し支えないが、好ましくは発泡性である。発泡性の塗料を用いると、固化した塗料中には、発泡性塗料の気泡に由来する細かな微多孔が形成される。
【0040】
図2に、重金属イオン吸着シートの表面を500倍に拡大したときのSEM写真を示す。
図2中の丸囲みの部分にあるように、発泡性の塗料を使用すると、固化後のバインダー樹脂層に微多孔(細かな穴)が形成される。この微多孔の存在により、重金属イオン吸着シートの透水性が更に高まるため、大量の処理が可能となる。更にこの微多孔の存在により、重金属イオン吸着剤の表面が表に露出しやすくなるため、水との接触頻度が高まる。そのため、発泡性を有しない塗料を塗布する場合に比べ、重金属イオンの回収効率を高めることも可能となる。加えて、塗料を発泡性にしておけば、塗料中の気泡が、塗料が繊維基材の内部奥深くにまで浸透することを遮り、塗料の一部のみが繊維基材に浸透し、残りは繊維基材の表面に気泡を形成した状態で固化するため、繊維基材の内部に塗料が付着しない部分(より好ましくは層)が形成されやすくなる。そのため特に発泡性塗料の使用は、塗料を繊維基材の片面に塗布する場合には好ましい方法である。また重金属イオン吸着シートの表面には、発泡性塗料中の気泡が一部、固化後も、気泡が破泡した連通状の状態で残っていてもよい。
【0041】
前記塗料は、好ましくは機械的発泡等により発泡した状態、または発泡剤を含む状態で繊維基材に付与されることが好ましい。発泡倍率の調整が容易なことや、発泡のタイミングを制御できることから、少なくとも機械発泡を行うことが好ましい。また発泡の条件を考慮して、機械発泡と化学発泡の両発泡法にて塗料を発泡させても構わない。
【0042】
また発泡状態の塗料を塗布する際、発泡状態の塗料は、未発泡のものに比べ、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、更に好ましくは3倍以上、特に好ましくは5倍以上、好ましくは20倍以下、より好ましく15倍以下、更に好ましく10倍以下、特に好ましくは9倍以下に起泡してから繊維基材に付与されることが好ましい。発泡倍率を前記範囲内に調整することにより、塗料の浸透の程度や微多孔の形成量をコントロールし易くなる。
【0043】
前記塗料の塗布量(WET付量)は、固着させたい重金属イオン吸着剤の量に応じて適宜調整すると良いが、例えば、50g/m
2以上が好ましく、より好ましくは100g/m
2以上であり、600g/m
2以下が好ましく、より好ましくは550g/m
2以下である。
【0044】
前記塗料塗布後には、繊維基材を乾燥する。乾燥工程での温度は、例えば、100℃以上170℃以下が好ましく、より好ましくは110℃以上160℃以下である。乾燥温度が低すぎると、塗料中の水分が蒸発しにくくなる。またアクリル系バインダーを使用する場合には、硬化のために、高温での実施が好ましい。また乾燥時間は、例えば0.5〜5分が好ましく、より好ましくは1〜3分である。
【0045】
重金属イオン吸着シートにおいて、バインダー樹脂は、重金属イオン吸着シートに固着するバインダー樹脂100質量%中、90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、更に好ましくは95質量%以上が繊維基材内部で固着していることが望ましい。上限は特に限定されないが、100質量%以下が好ましい。バインダー樹脂が繊維基材の内部で固定化されれば、外部からの摩擦に対して優れた耐摩耗性が発揮され、且つ、重金属イオン吸着剤の脱落の少ないシートとなる。
【0046】
重金属イオン吸着シートに固着する重金属イオン吸着剤の合計量は、乾燥付着量で10g/m
2以上が好ましく、より好ましくは15g/m
2以上であり、更に好ましくは20g/m
2以上であり、特に好ましくは35g/m
2以上である。上限は特に限定されないが、400g/m
2以下が好ましく、より好ましくは200g/m
2以下であり、更に好ましくは120g/m
2以下であり、80g/m
2以下であってもよい。重金属イオン吸着剤の量が前記範囲内であれば、所望の性能を発揮し得る重金属イオン吸着シートが得られる。
【0047】
重金属イオン吸着シートの透水係数は、0.01cm/sec以上が好ましく、繊維基材の厚さや目付にもよるが、例えば、0.50cm/sec以下であり、0.30cm/sec以下であってもよい。透水係数が大きくなるほど、一度に大量の処理が可能となるため好ましい。なお透水係数は、例えば、JIS A1218−1998に準じて測定することが可能である。
【0048】
このようにして製造された重金属イオン吸着シートの目付は、重金属イオン吸着シートの用途及び使用環境を考慮して適宜調整するとよいが、例えば、10g/m
2以上がよく、好ましくは100g/m
2以上、より好ましくは200g/m
2以上、更に好ましくは300g/m
2以上であり、2500g/m
2以下が好ましく、1000g/m
2以下がより好ましく、更に好ましくは750g/m
2以下であり、より更に好ましくは650g/m
2以下である。
【0049】
重金属イオン吸着シートの厚さは、例えば、30mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、7mm以下が更に好ましく、6mm以下がより更に好ましい。下限は特に限定されないが、例えば、0.5mm以上が好ましく、1mm以上がより好ましく、2mm以上が更に好ましい。繊維基材の厚さを前記範囲内に調整することで、所望量の重金属イオン吸着剤を固着することが可能になる。
【0050】
なお厚さや目付を調整するために、重金属イオン吸着シートは、繊維シートと複合一体化されてもよい。前記繊維シートとしては、例えば、重金属イオン吸着シートや重金属イオン吸着剤が繊維基材に固定されていない不織布等の繊維基材等が挙げられる。重金属イオン吸着シートとこれらの繊維シートとは、ニードルパンチ法等の機械的絡合法;呉羽テック社製「ダイナック(登録商標)」に代表される熱融着性不織布を介しての熱接着;接着剤を介して接着;等、種々の接合手段により一体化されていることが好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0052】
本実施例で用いた測定装置は以下の通りである。
重金属イオン濃度の測定:誘導結合プラズマ質量分析装置(アジレント・テクノロジー社製「ICP−MS(型式:Agilent7700)」)
個数平均粒子径(D50)の測定:レザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製「SALD−7000」)
【0053】
<作製例1>
重金属イオン吸着剤として、合成ハイドロタルサイト様物質(A
n-がCl
-であり、該Cl
-の含有率が、A
n-の総モル中100モル%である塩素型の合成ハイドロタルサイト(ビーズ分散前の個数平均粒子径:5.6μm))を用いた。重金属イオン吸着剤が30質量%、分散剤等の固形分が10質量%となるようにしてこれらを水に撹拌し、得られた混合液をビーズ分散機で、ガラス製ビーズ(ビーズ直径:0.3〜5mm)を一定時間接触させた。その後、増粘剤を加えて粘度を調整することにより、個数平均粒子径が2.8μmの重金属イオン吸着剤分散液を作製した。
そこへ、水を分散媒とするアクリル系バインダー(日本合成化学工業社製「モビニール(登録商標)710A」、固形分41%、粘度200〜700mpas)及び起泡剤を、重金属イオン吸着剤分散液:アクリル系バインダー:起泡剤=100:60:2(質量部)の混合比となるように添加し、機械発泡にて発泡倍率3〜5倍にまで発泡させて発泡性塗料とした。
この発泡性塗料を、ポリエステル製スパンボンド不織布(東洋紡社製「945RHB」、スパンボンド不織布を構成する繊維の平均繊維径24μm、目付450g/m
2、厚さ4.0mm)の片面に塗布し、その後130℃で乾燥させて、微多孔を有する重金属イオン吸着シートを得た。
なおバインダー樹脂層は、繊維基材の厚さ方向に表面から途中までに形成されており、バインダー樹脂が塗布されていない部分は、基材全体の72%であった。
また得られた重金属イオン吸着シートのJIS A1218−1998に準じて測定される透水係数は0.24cm/secであった。
【0054】
<散水試験>
[1]汚染模擬土として、60%砒酸溶液を水で希釈したものを、洗い砂に散布して良く混ぜて得られる、砒素溶出濃度が0.032mg/L(溶出基準の3.2倍)の土を用いた。
[2]整地した地盤に、保護シート、遮水シート、透水シート、4角塩ビパイプ、積層構造体をこの順で敷設し、積層構造体の上に汚染模擬土を盛土(サイズ:底辺2.4m×1.5m、高さ0.4m、盛土重量約1000kg、充填密度1.7g/cm
3)した。
[3]散水/散水休止を一定時間毎に繰り返し、盛土に260L散水した。
[4]散水終了後、積層構造体を通過した水を採取して、採取した水に硫酸及び硝酸を加え、加熱灰化後、ICPにより砒素含有量を測定した。
[5]ICPにより測定された砒素含有量(μg)を、積層構造体を通過した水の総量(L)で除して砒素溶出濃度を求めた。結果を表1に示す。
【0055】
<実施例1、比較例1〜2>
実施例1では、散水試験における積層構造体として、作製例1により得られた重金属イオン吸着シートを3枚重ねたものを使用した。
比較例1では、実施例1における積層構造体を、作製例1により得られた1枚の重金属イオン吸着シートに変更したこと以外は、実施例1と同様に試験を行った。
比較例2では、実施例1における積層構造体を、1枚のポリエステル製スパンボンド不織布(東洋紡社製「945RHB」)に変更したこと以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0056】
【表1】
【0057】
なお上記表1において、砒素吸着率及び透過率は下記式(1)〜(2)により求めることができる。
砒素吸着率(%)=100−{(a×b)/(m×n)}×100 …(1)
透過率(−)=(a×b)/(m×n) …(2)
[式(1)〜(2)中、a:各試験例における通過した水の総量(L)、b:各試験例における砒素溶出濃度(μg/L)、m:比較例2における通過した水の総量(L)、n:比較例2における砒素溶出濃度(μg/L)]
【0058】
上記結果が示すように、実施例1では、1枚の重金属イオン吸着シートを使用した比較例1の透過率が0.439であるから、予想される透過率がX=(0.439)
3≒0.085であるところ、これに近似する0.044の結果が得られた。すなわち、重金属イオン吸着シートをZ枚積層したときの透過率Xは、1枚の重金属イオン吸着シートの透過率Yより、X=(Y)
Zとして求められることが明らかとなった。