(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。一実施形態に係る半導体受光素子は、アレイ状に配列された複数のフォトダイオードを含む半導体受光素子であって、複数のフォトダイオードそれぞれは、互いに分離している複数の半導体積層それぞれを有し、各半導体積層は、第1導電型のIII−V族化合物半導体を含むタイプIIの超格子構造を有する第1半導体層と、第2導電型のIII−V族化合物半導体を含む第2半導体層と、第1半導体層と第2半導体層との間に設けられ、III−V族化合物半導体を含み赤外光に感応する光吸収層と、を有し、各フォトダイオードは、第1半導体層に接触する第1電極と、第2半導体層に接触する第2電極とを更に有する。
【0012】
この半導体受光素子では、複数の半導体積層が互いに分離しており、各半導体積層が第1半導体層を有する。第1半導体層は、第1電極と接触する下部コンタクト層であって、第1導電型のIII−V族化合物半導体を含むタイプIIの超格子構造を有する。そして、この半導体受光素子では、複数のフォトダイオードに対して共通の第1電極が設けられるのではなく、各フォトダイオードが第1電極を有している。従って、半導体積層を分離するためのエッチングを第1半導体層において停止する必要がない。故に、超格子構造の下部コンタクト層である第1半導体層を薄くできるので、フォトダイオードの暗電流を低減できる。また、キャリアの迅速な移動を妨げないので、バイアス電圧を小さくしても十分な受光感度を得ることができる。
【0013】
上記の半導体受光素子は、複数の第1電極に固着され赤外光を透過する支持基板を更に備えてもよい。これにより、半導体積層への赤外光の入射を妨げることなく、複数のフォトダイオードを支持することができる。この場合、支持基板は、良好な赤外光透過性を有するSi基板またはInP基板であってもよい。
【0014】
上記の半導体受光素子において、支持基板と第1半導体層との隙間は赤外光透過性の充填材によって埋められてもよい。これにより、第1半導体層の裏面における赤外光の反射を低減するとともに、複数のフォトダイオードの支持強度をさらに増すことができる。
【0015】
上記の半導体受光素子において、第1電極は第1半導体層の側面と接触してもよい。これにより、半導体積層の光入射面の少なくとも一部を第1電極によって覆わないことが可能となり、半導体積層への赤外光の入射を妨げることなく、第1電極と第1半導体層との接触を得ることができる。この場合、半導体積層の積層方向における第1電極と第1半導体層との接触長さは0.1μm以上0.2
μm以下であってもよい。これにより、第1電極と第1半導体層との十分な接触を得ることができる。
【0016】
上記の半導体受光素子において、第1電極は第1半導体層の光吸収層側とは反対側の面の一部と接触してもよい。これにより、当該面(すなわち光入射面)の残部から赤外光の入射が可能となり、半導体積層への赤外光の入射を確保することができる。この場合、第1電極の平面形状が枠状であることにより、半導体積層への赤外光の入射を確保しつつ、第1電極と第1半導体層との十分な接触を得ることができる。
【0017】
上記の半導体受光素子において、第1半導体層の厚さは300nm以上500nm以下であってもよい。上記の半導体受光素子によれば、このように薄い第1半導体層が実現可能である。
【0018】
上記の半導体受光素子において、第1半導体層の超格子構造は、Asを含む第1層と、Sbを含み第1層とは組成が異なる第2層とを有してもよい。例えばこのような構成により、赤外光に感応する光吸収層に対するコンタクト層を実現できる。
【0019】
一実施形態に係る半導体受光素子の製造方法は、アレイ状に配列された複数のフォトダイオードを含む半導体受光素子を製造する方法であって、III−V族化合物半導体領域上に、第1導電型のIII−V族化合物半導体を含むタイプIIの超格子構造を有する第1半導体層、III−V族化合物半導体を含み赤外光に感応する光吸収層、及び第2導電型のIII−V族化合物半導体を含む第2半導体層を順に成長する工程と、第2半導体層上に仮基板を貼り付ける工程と、III−V族化合物半導体領域を除去して第1半導体層を露出させる工程と、第1半導体層に接触する複数の第1電極を形成する工程と、複数の第1電極に支持基板を固着する工程と、仮基板を除去し、第2半導体層、光吸収層、及び第1半導体層をエッチングすることにより、互いに分離した複数の半導体積層を形成する工程と、複数の半導体積層の第2半導体層にそれぞれ接触する複数の第2電極を形成する工程と、を含む。例えばこのような方法により、超格子構造の下部コンタクト層を薄くすることができる半導体受光素子を提供できる。
【0020】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る半導体受光素子、及び半導体受光素子の製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本実施形態に係る半導体受光素子を備える赤外光受光装置の構造を示す断面図である。
図2は、
図1の一部を拡大して示す断面図である。
図1及び
図2には、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸を含む直交座標系が示されている。
図1及び
図2に示す赤外光受光装置1Aは、半導体受光素子2A及びシリコン集積素子34を備える。半導体受光素子2Aは、アレイ状に配列された複数のフォトダイオード2を含む。複数のフォトダイオード2は、二次元アレイ、又は一次元アレイを構成するように配置される。本実施例では、フォトダイオード2はX軸方向及びY軸方向に沿って並ぶ二次元アレイを構成するように配列されている。一例としてQVGAタイプの赤外光受光装置1Aでは、X軸方向におけるフォトダイオード2の個数は320個であり、Y軸方向におけるフォトダイオード2の個数は256個である。隣り合うフォトダイオード2間のピッチは例えば30μmであり、各フォトダイオード2の一辺の長さは例えば24μmである。また、VGAタイプの赤外光受光装置1Aでは、X軸方向におけるフォトダイオード2の個数は620個であり、Y軸方向におけるフォトダイオード2の個数は512個である。隣り合うフォトダイオード2間のピッチは例えば15μmであり、各フォトダイオード2の一辺の長さは例えば13μmである。
【0022】
シリコン集積素子34は、半導体受光素子2Aからの信号を処理する処理回路を備える。この処理回路は、複数のフォトダイオード2にそれぞれ対応する複数の処理回路部を備える。複数の処理回路部もまた、フォトダイオード2のアレイに合わせてアレイ状に配置される。各処理回路部は、対応するフォトダイオード2のアノード電極24に接続され、フォトダイオード2からの信号を処理する。すなわち、各処理回路部は、フォトダイオード2からの光電流を受けて、例えばこの電流信号を電圧信号に変換すると共に信号増幅を行う。シリコン集積素子34は、シリコン集積回路の製造技術を適用して作製される。
【0023】
半導体受光素子2Aは、支持基板10と、支持基板10上に設けられた複数のフォトダイオード2とを備える。複数のフォトダイオード2それぞれは、互いに分離している複数の半導体積層11それぞれを有する。各半導体積層11は、n型(第1導電型)コンタクト層14、赤外光に感応する光吸収層16、及びp型(第2導電型)コンタクト層18を有する。n型コンタクト層14は支持基板10上に設けられ、光吸収層16はn型コンタクト層14上に設けられ、p型コンタクト層18は光吸収層16上に設けられている。また、各半導体積層11は、シリコン系無機絶縁膜(例えばSiO
2)といったパッシベーション膜30によって覆われている。複数の半導体積層11間の隙間は、樹脂(アンダーフィル)32によって満たされている。
【0024】
n型コンタクト層14は、本実施形態における第1半導体層である。n型コンタクト層14は、n型のIII−V族化合物半導体を含むタイプIIの超格子構造を有する。p型コンタクト層18は、本実施形態における第2半導体層である。p型コンタクト層18は、p型のIII−V族化合物半導体を含むタイプIIの超格子構造を有してもよい。
【0025】
光吸収層16は、n型コンタクト層14とp型コンタクト層18との間に設けられ、III−V族化合物半導体を含み赤外光(特に中赤外光)に感応する。光吸収層16は、例えば6μm〜15μmの赤外領域の光を受ける。本実施形態の光吸収層16は、III−V族化合物半導体を含むタイプIIの超格子構造を有する。
【0026】
ここで、n型コンタクト層14、光吸収層16、及びp型コンタクト層18を構成するIII−V族化合物半導体について説明する。これらのIII−V族化合物半導体は、InAs、GaSb、InSb、GaSb、AlSbといった二元混晶、並びにGaInSb、InAsSbといった三元混晶からなる群に含まれる少なくとも一つの組成を含むことができる。そして、タイプIIの超格子構造では、Asを含む第1層(例えばInAs)と、Sbを含み第1層とは組成が異なる第2層(例えばGaSb若しくはInSb)とを含む単位構造が周期的に積層される。第1層がInAsである場合、第2層はInGaSbであってもよい。また、第2層がGaSbである場合、第1層はInAsSbであってもよい。或いは、第1層がInAsSbであり、第2層がInGaSbであってもよい。また、単位構造には、第1層及び第2層とは組成が異なる一又は二以上のIII−V族化合物半導体層(例えば上記の二元混晶及び三元混晶のうちいずれか)が更に含まれてもよい。p型ドーパントは例えばBeである。n型ドーパントは例えばSiである。
【0027】
図3は、半導体積層11の具体的な構成例を模式的に示す図である。
図3に示すように、n型コンタクト層14は、例えばSiがドープされたGaSb層、InAs層、及びInSb層が50周期にわたって積層された超格子構造を有する。n型コンタクト層14のドーパント濃度は例えば1×10
17cm
−3〜3×10
17cm
−3である。また、n型コンタクト層14の厚さは例えば300nm〜500nmである。
【0028】
光吸収層16は、例えばBeがドープされたGaSb層、InAs層、及びInSb層が200周期にわたって積層された超格子構造を有する。光吸収層16のドーパント濃度は例えば1×10
15cm
−3〜3×10
16cm
−3である。また、光吸収層16の厚さは例えば1.0μm〜2.0μmである。
【0029】
p型コンタクト層18は、p型超格子層18aと、p型キャップ層18bとを含む。p型超格子層18aは、例えばBeがドープされたGaSb層、InAs層、及びInSb層が50周期にわたって積層された超格子構造を有する。p型超格子層18aのドーパント濃度は例えば1×10
17cm
−3〜3×10
17cm
−3である。また、p型超格子層18aの厚さは例えば25nm〜50nmである。p型キャップ層18bは、p型超格子層18a上に設けられ、例えばp型InAs層である。p型キャップ層18bのドーパント濃度は例えば1×10
18cm
−3〜3×10
18cm
−3である。また、p型キャップ層18bの厚さは例えば200nm〜300nmである。
【0030】
図3に示すように、n型コンタクト層14と光吸収層16との間には、ホールバリア層15が設けられてもよい。ホールバリア層15は、例えばSiがドープされたGaSb層、InAs層、GaSb層、InAs層、及びInSb層が16周期にわたって積層された超格子構造を有する。ホールバリア層15のドーパント濃度は例えば1×10
16cm
−3〜3×10
16cm
−3である。また、ホールバリア層15の厚さは例えば150nm〜300nmである。
【0031】
また、光吸収層16とp型コンタクト層18との間には、電子バリア層17が設けられてもよい。電子バリア層17は、例えばアンドープのGaSb層、AlSb層、GaSb層、InAs層、及びInSb層が50周期にわたって積層された超格子構造を有する。電子バリア層17の厚さは例えば350nm〜500nmである。
【0032】
各フォトダイオード2は、n型コンタクト層14に接触するカソード電極22(第1電極)と、p型コンタクト層18に接触するアノード電極24(第2電極)とを更に有する。すなわち、本実施形態の半導体受光素子2Aは、複数のフォトダイオード2に対して共通のカソード電極を有するのではなく、各フォトダイオード2に対して個別にカソード電極22を有する。なお、ここでいう「個別に」とは、各フォトダイオード2のカソード電極22が、隣接するフォトダイオード2のn型コンタクト層14に接触することを妨げるものではない。カソード電極22は、各フォトダイオード2において、パッシベーション膜30から露出したn型コンタクト層14の側面と接触している。カソード電極22は、例えばAlからなる。半導体積層11の積層方向(すなわちZ軸方向)におけるカソード電極22とn型コンタクト層14との接触長さは、例えば0.1μm以上0.2μm以下である。アノード電極24は、各フォトダイオード2において、パッシベーション膜30に形成された開口を介してp型コンタクト層18の上面(光吸収層16とは反対側の面)と接触している。アノード電極24は、例えばTi/Pt/Auからなる。
【0033】
支持基板10は、平坦な主面10a及び裏面10bを有する平板状の基板である。支持基板10は、複数のカソード電極22に固着され、半導体受光素子2Aの機械的強度を保持する。支持基板10は、赤外光透過性の良い材料からなることが望ましく、例えばSi基板またはInP基板である。本実施形態の支持基板10は、金属パターン21を主面10a上に有する。金属パターン21は例えばAu膜によって構成される。
【0034】
ここで、複数のカソード電極22及び金属パターン21の平面形状について説明する。
図4は、複数のカソード電極22の平面形状及び配置を示す図であって、
図1のV−V線に沿った断面を示している。また、
図5は、金属パターン21の平面形状を示す図であって、
図1のVI−VI線に沿った断面を示している。
【0035】
図4に示すように、各カソード電極22は、矩形状の平面形状を有し、X軸方向及びY軸方向に沿って二次元状に並んでいる。また、各カソード電極22は、X軸方向に並ぶ半導体積層11(n型コンタクト層14)の間に挟まれており、X軸方向において、半導体積層11(n型コンタクト層14)及びカソード電極22が交互に配置されている。Y軸方向に並ぶカソード電極22の間、及びY軸方向に並ぶ半導体積層11(n型コンタクト層14)の間には、アンダーフィル32が充填されている。
【0036】
また、
図5に示すように、金属パターン21は、複数の接合部21aと、複数の配線部21bと、配線部21cとを含んで構成される。複数の接合部21aは、X軸方向及びY軸方向に沿って二次元状に並んでおり、複数のカソード電極22それぞれの直下に設けられる。各接合部21aは、例えばフリップチップボンディング技術により、各フォトダイオード2のカソード電極22と導電接合される。配線部21bは、Y軸方向に並ぶ接合部21a間に設けられ、隣り合う接合部21aを相互に接続する。配線部21cは、支持基板10の主面10a上におけるY軸方向の一端に設けられ、X軸方向に延びており、Y軸方向に沿った接合部21aの複数の列同士を相互に接続する。
図1に示すように、配線部21cは、基板端部に設けられた半導体積層11の側面に沿って配設された配線20を介して、該半導体積層11の上面に設けられた電極26と電気的に接続される。電極26は、シリコン集積素子34の処理回路に接続される。
【0037】
図5に示すように、金属パターン21を除く支持基板10の主面10a上の領域は、赤外光透過性の充填材12によって満たされている。このため、
図1及び
図2に示すように、支持基板10と半導体積層11のn型コンタクト層14との隙間は、充填材12によって埋められる。充填材12は、例えば樹脂(アンダーフィル)、シリコン化合物(例えばSiO
2)、或いは反射防止膜などによって構成される。充填材12が設けられず、支持基板10とn型コンタクト層14との隙間が空隙になっていてもよい。
【0038】
図6は、一つの接合部21aと一つの各カソード電極22とからなる金属体28を示す斜視図である。
図6に示すように、この金属体28は、直方体といった外観を有し、X軸方向における幅W1は例えば2μm〜6μmであり、Y軸方向における幅W2は例えば13μm〜24μmであり、Z軸方向における高さH1は例えば0.5μm〜1.0μmである。なお、接合部21aの高さは、必要に応じ、n型コンタクト層14の厚さを調整することによって増減可能である。
【0039】
この赤外光受光装置1Aは、裏面入射型の構造を有する。
図1に示す支持基板10の裏面10bから入射した赤外光Lは、支持基板10及び充填材12を透過した後に、n型コンタクト層14の裏面から半導体積層11に入射する。そして、この赤外光Lは、光吸収層16において光電変換される。光吸収層16において生じた一方のキャリアは、n型コンタクト層14を介してカソード電極22へ移動し、金属パターン21、配線20及び電極26を経てシリコン集積素子34の処理回路に達する。また、光吸収層16において生じた他方のキャリアは、p型コンタクト層18を介してアノード電極24へ移動し、シリコン集積素子34の処理回路に達する。
【0040】
以上の構成を備える本実施形態の半導体受光素子2Aを製造する方法について説明する。
図7〜
図10は、本実施形態の製造方法の各工程を示す図である。まず、
図7(a)に示されるように、n型コンタクト層14、光吸収層16、及びp型コンタクト層18のエピタキシャル成長が可能な主面50aを有するIII−V族化合物半導体基板50を用意する。III−V族化合物半導体基板50としては、例えばGaSb基板が用いられる。このIII−V族化合物半導体基板50の主面50a上に、バッファ層52をエピタキシャル成長させる。バッファ層52は、III−V族化合物半導体層であり、例えばGaSb層である。バッファ層52の厚さは、例えば1.0μmである。III−V族化合物半導体基板50及びバッファ層52は、本実施形態におけるIII−V族化合物半導体領域を構成する。
【0041】
次に、バッファ層52上に、n型コンタクト層14、光吸収層16、及びp型コンタクト層18をこの順にエピタキシャル成長させて、基板生産物4を作製する。この工程では、n型コンタクト層14、光吸収層16、及びp型コンタクト層18を、例えば分子線エピタキシ(MBE)法といった成長方法を用いて成長させる。その後、仮基板54をp型コンタクト層18に貼り付ける。仮基板54は、基板生産物4の機械的強度を維持できればどのような材料から成ってもよく、例えばシリコン基板である。この工程では、仮基板54を例えばボンディングによってp型コンタクト層18に貼り付ける。
【0042】
続いて、III−V族化合物半導体領域(III−V族化合物半導体基板50およびバッファ層52)を除去して、
図7(b)に示されるように、n型コンタクト層14を露出させる。III−V族化合物半導体領域の除去は、例えば機械的研磨(ラッピング)、化学的研磨、化学的機械的研磨など様々な方法が用いられる。一例としては、機械的な研磨を行った後に、研磨面のエッチングが行われる。ウェットエッチング用溶液としては、水、リン酸、クエン酸、過酸化水素水を含む溶液が用いられる。
【0043】
続いて、
図8(a)に示されるように、カソード電極22が形成されるn型コンタクト層14の領域に対してエッチングを行うことにより、n型コンタクト層14に複数の凹部14aを形成する。各凹部14aの深さは、層厚方向(Z方向)におけるカソード電極22とn型コンタクト層14との接触長さと同じであり、例えば0.1μm以上0.2
μm以下である。このエッチングは、例えばドライエッチングまたはウェットエッチングである。
【0044】
続いて、
図8(b)に示されるように、n型コンタクト層14に接触する複数のカソード電極22を、複数の凹部14a内にそれぞれ形成する。カソード電極22の形成は、例えば次のようにして行われる。まず、n型コンタクト層14の表面上にレジストを形成し、複数の凹部14a上のレジストを除去して開口を形成する。次に、カソード電極22となる金属の蒸着を行う。これにより、複数の凹部14a内及びレジスト上に金属膜が形成される。その後、レジスト上の金属膜とともにレジストを除去する。こうして、複数の凹部14a内にカソード電極22が形成される。
【0045】
続いて、
図9(a)に示されるように、n型コンタクト層14及び複数のカソード電極22に支持基板10を固着させる。この支持基板10は、前述した金属パターン21を主面10a上に有するものである。この工程では、金属パターン21が形成された主面10aがn型コンタクト層14及び複数のカソード電極22と対向するように、支持基板10をn型コンタクト層14及び複数のカソード電極22に固着させる。具体的には、支持基板10上の金属パターン21の複数の接合部21aそれぞれを、複数のカソード電極22それぞれに対してフリップチップボンディング技術により導電接合する。複数のカソード電極22と複数の接合部21aとの間には、インジウムバンプ等の導電性接合部材が介在してもよい。また、金属パターン21が設けられていない支持基板10の主面10a上の領域とn型コンタクト層14との間に充填材12を充填し、充填材12を硬化させる。充填材12は、硬化することにより支持基板10とn型コンタクト層14とを相互に接合する。
【0046】
続いて、
図9(b)に示されるように、p型コンタクト層18上から仮基板54を除去する。仮基板54の除去は、例えば機械的研磨(ラッピング)、化学的研磨、化学的機械的研磨など様々な方法が用いられる。その後、
図10(a)に示されるように、p型コンタクト層18、光吸収層16、及びn型コンタクト層14をエッチングすることにより、互いに分離したメサ状の複数の半導体積層11を形成する。具体的には、仮基板54の除去により露出したp型コンタクト層18上に、半導体積層11となる領域のみを覆うエッチングマスクを形成する。そして、エッチングマスクから露出した領域のp型コンタクト層18、光吸収層16、及びn型コンタクト層14に対してドライエッチングまたはウェットエッチングを行う。このエッチングは、カソード電極22が露出するまで行われる。従って、複数の半導体積層11は互いに完全に分離することとなる。
【0047】
続いて、
図10(b)に示されるように、複数の半導体積層11の表面上にパッシベーション膜30を成膜する。パッシベーション膜30がシリコン系無機絶縁膜(例えばSiO
2)である場合、成膜方法としては例えばプラズマ気相成長法が用いられる。その後、p型コンタクト層18上のパッシベーション膜30に開口を形成し、該開口を塞ぐように、p型コンタクト層18と接触するアノード電極24を形成する。同時に、
図1に示された配線20及び電極26を形成する。アノード電極24、配線20及び電極26は、例えば前述したカソード電極22と同様の方法(リフトオフ法)により形成される。その後、複数のアノード電極24および電極26とシリコン集積素子34の複数の電極とを導電接合する。すなわち、シリコン集積素子34の複数の電極それぞれを、複数のアノード電極24および電極26それぞれに対してフリップチップボンディング技術により導電接合する。複数のアノード電極24および電極26とシリコン集積素子34の複数の電極との間には、インジウムバンプ等の導電性接合部材が介在してもよい。その後、複数の半導体積層11間の隙間、及び複数のアノード電極24間の隙間にアンダーフィル32を充填し、アンダーフィル32を硬化させる。以上の工程を経て、本実施形態の半導体受光素子2Aが完成する。
【0048】
以上に説明した本実施形態の半導体受光素子2A及びその製造方法によって得られる効果について説明する。この半導体受光素子2Aでは、複数の半導体積層11が互いに分離しており、各半導体積層11がn型コンタクト層14を有する。n型コンタクト層14は、カソード電極22と接触する下部コンタクト層であって、n型III−V族化合物半導体を含むタイプIIの超格子構造を有する。そして、この半導体受光素子2Aでは、複数のフォトダイオード2に対して共通の電極が設けられるのではなく、各フォトダイオード2がカソード電極22を有している。従って、半導体積層11を分離するためのエッチング(
図10(a)参照)をn型コンタクト層14において停止する必要がない。故に、超格子構造の下部コンタクト層であるn型コンタクト層14を薄くできるので、フォトダイオード2の暗電流を低減して光検出精度を高めることができる。また、キャリアの迅速な移動を妨げないので、カソード電極22とアノード電極24との間に印加するバイアス電圧を小さくしても十分な受光感度を得ることができる。
【0049】
図11は、半導体受光素子のバイアス電圧と暗電流密度との関係の一例を示すグラフである。横軸は、カソード電極とアノード電極との間に印加されるバイアス電圧の大きさを示す。縦軸は、半導体受光素子に生じる暗電流密度の大きさを示す。グラフG1は本実施形態の特性を示し、グラフG2は従来の半導体受光素子(複数のフォトダイオードに対して共通の電極が設けられたもの。n型コンタクト層の厚さは3μm)の特性を示す。
図11に示されるように、従来の半導体受光素子(グラフG2)と比較して、本実施形態の半導体受光素子2Aでは暗電流密度が格段に小さくなっていることがわかる。このように、本実施形態の半導体受光素子2Aによれば、フォトダイオード2の暗電流を効果的に低減できる。
【0050】
また、本実施形態のように、半導体受光素子2Aは、複数のカソード電極22に固着され赤外光Lを透過する支持基板10を備えてもよい。これにより、半導体積層11への赤外光Lの入射を妨げることなく、複数のフォトダイオード2を支持することができる。従って、半導体受光素子2Aの信頼性を高めることができる。
【0051】
また、本実施形態のように、支持基板10とn型コンタクト層14との隙間は赤外光透過性の充填材12によって埋められてもよい。これにより、n型コンタクト層14の裏面における赤外光Lの反射を低減するとともに、複数のフォトダイオード2の支持強度を更に増し、半導体受光素子2Aの信頼性をより高めることができる。
【0052】
また、本実施形態のように、カソード電極22はn型コンタクト層14の側面と接触してもよい。これにより、n型コンタクト層14の裏面すなわち半導体積層11の光入射面の少なくとも一部をカソード電極22によって覆わないことが可能となり、半導体積層11への赤外光Lの入射を妨げることなく、カソード電極22とn型コンタクト層14との接触を得ることができる。この場合、半導体積層11の積層方向におけるカソード電極22とn型コンタクト層14との接触長さは0.1μm以上0.2
μm以下であってもよい。これにより、カソード電極22とn型コンタクト層14との十分な接触を得ることができる。
【0053】
また、本実施形態のように、n型コンタクト層14の厚さは300nm以上500nm以下であってもよい。本実施形態の半導体受光素子2Aによれば、このように薄いn型コンタクト層14を実現することができる。
【0054】
また、本実施形態のように、n型コンタクト層14の超格子構造は、Asを含む第1層と、Sbを含み第1層とは組成が異なる第2層とを有してもよい。例えばこのような構成により、赤外光に感応する光吸収層16に対するコンタクト層を実現できる。
【0055】
(変形例)
図12は、上記実施形態の一変形例に係る赤外光受光装置1Bの構成を拡大して示す断面図である。
図12に示されるように、本変形例の赤外光受光装置1Bは、上記実施形態の複数のカソード電極22に代えて、複数のカソード電極27を備えている。複数のカソード電極27は、複数のフォトダイオード2のn型コンタクト層14の直下にそれぞれ配置されている。各カソード電極27は、各n型コンタクト層14の光吸収層16側とは反対側の面(すなわち裏面)の一部と接触している。具体的には、カソード電極27の平面形状(Z方向から見た形状)は四角形の枠状であり、カソード電極27はn型コンタクト層14の裏面の外周部分上に設けられている。カソード電極27は枠の内側に開口27aを有しており、開口27aからn型コンタクト層14の裏面が露出している。赤外光受光装置1Bの裏面側から入射した赤外光Lは、開口27aを通過して半導体積層11に入射する。なお、カソード電極27の構成材料は上記実施形態のカソード電極22と同じである。また、赤外光受光装置1Bを製造する際には、凹部14a(
図8(a)参照)を形成することなく、カソード電極27をn型コンタクト層14の裏面上に形成する。
【0056】
また、本変形例の赤外光受光装置1Bでは、支持基板10の主面10a上に、上記実施形態の金属パターン21に代えて金属パターン21Aが設けられている。
図13は、金属パターン21Aの平面形状を示す図であって、
図12のXIV−XIV線に沿った断面を示している。
図13に示すように、金属パターン21Aは、複数の接合部21dと、複数の配線部21eと、2つの配線部21fとを含んで構成される。複数の接合部21dは、X軸方向及びY軸方向に沿って二次元状に並んでおり、複数のカソード電極27それぞれの直下に設けられる。各接合部21dは、例えばフリップチップボンディング技術により、各フォトダイオード2のカソード電極27と導電接合される。接合部21dは、カソード電極27と同様の平面形状(例えば四角形の枠状)を有している。接合部21dの枠線の太さW3(すなわちカソード電極27の枠線の太さ)は、例えば2μmである。接合部21dの一辺の幅W4(すなわちカソード電極27の一辺の幅)は、例えば13μm〜24μmである。配線部21eは、X軸方向に並ぶ接合部21d間、及びY軸方向に並ぶ接合部21d間に設けられ、隣り合う接合部21dを相互に接続する。
【0057】
1つの配線部21fは、支持基板10の主面10a上におけるX軸方向の一端に設けられ、Y軸方向に延びており、X軸方向に沿った接合部21dの複数の列同士を相互に接続する。他の1つの配線部21fは、支持基板10の主面10a上におけるY軸方向の一端に設けられ、X軸方向に延びており、Y軸方向に沿った接合部21dの複数の列同士を相互に接続する。これらの配線部21fは、基板端部に設けられた半導体積層11の側面に沿って配設された配線20(
図1参照)を介して、該半導体積層11の上面に設けられた電極26(
図1参照)と電気的に接続される。
【0058】
支持基板10の主面10a上における接合部21dの内側領域は、赤外光透過性の充填材12によって満たされている。このため、
図12に示すように、支持基板10と半導体積層11のn型コンタクト層14との隙間は、充填材12によって埋められる。なお、本変形例においても、充填材12は、例えば樹脂(アンダーフィル)、シリコン化合物(例えばSiO
2)、或いは反射防止膜などによって構成される。充填材12が設けられず、支持基板10とn型コンタクト層14との隙間が空隙になっていてもよい。また、支持基板10の主面10a上における接合部21dの外側領域には、アンダーフィル32が充填されている。
【0059】
本変形例の赤外光受光装置1Bによれば、上記実施形態の赤外光受光装置1Aと同様に、n型コンタクト層14を薄くできるので、フォトダイオード2の暗電流を低減して光検出精度を高めることができる。また、キャリアの迅速な移動を妨げないので、カソード電極27とアノード電極24との間に印加するバイアス電圧を小さくしても十分な受光感度を得ることができる。
【0060】
また、本変形例のように、カソード電極27はn型コンタクト層14の光吸収層16側とは反対側の面の一部と接触してもよい。これにより、当該面(すなわち光入射面)の残部から赤外光Lの入射が可能となり、半導体積層11への赤外光Lの入射を確保することができる。この場合、カソード電極27の平面形状が枠状であることにより、半導体積層11への赤外光Lの入射を確保しつつ、カソード電極27とn型コンタクト層14との十分な接触を得ることができる。
【0061】
本発明による半導体受光素子、及び半導体受光素子の製造方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態及び変形例では第1導電型がn型であり、第2導電型がp型である場合を説明したが、第1導電型がp型であり、第2導電型がn型であってもよい。また、上記実施形態では隣り合う半導体積層のn型コンタクト層の双方に第1電極が接触している場合を例示したが、第1電極は、一つの半導体積層のn型コンタクト層にのみ接触してもよい。また、上記変形例では第1電極の平面形状が枠状である場合を例示したが、第1電極は、n型コンタクト層の裏面の一部に接触する形状であれば他に様々な形状を有することができる。