特許第6881094号(P6881094)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6881094-耐酸性混和材 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881094
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】耐酸性混和材
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20210524BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20210524BHJP
   C01B 33/24 20060101ALI20210524BHJP
   C01B 33/26 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   C04B22/08 A
   C04B22/08 Z
   C04B28/02
   C01B33/24 101
   C01B33/26
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-128408(P2017-128408)
(22)【出願日】2017年6月30日
(65)【公開番号】特開2019-11218(P2019-11218A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】境 徹浩
(72)【発明者】
【氏名】長井 正明
(72)【発明者】
【氏名】小西 和夫
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−065626(JP,A)
【文献】 特開2002−241154(JP,A)
【文献】 特開平4−139046(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/084958(WO,A1)
【文献】 特開2005−194117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00− 32/02
C04B 40/00− 40/06
C01B 33/20− 39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネット系水和物とを含む、混和材。
【請求項2】
結晶性固体を含む、請求項1に記載の混和材。
【請求項3】
前記ケイ酸マグネシウム水和物と前記ハイドロガーネット系水和物とを、XRDで測定される結晶相の面積比 0.1:1〜10:1で含む、請求項1又は2に記載の混和材。
【請求項4】
XRDで測定される結晶相のピーク面積の3〜60%が前記ケイ酸マグネシウム水和物に由来するピーク面積である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の混和材。
【請求項5】
XRDで測定される結晶相のピーク面積の3〜60%が前記ハイドロガーネット系水和物に由来するピーク面積である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の混和材。
【請求項6】
前記ケイ酸マグネシウム水和物が、アメス石(Amesite)、カオリナイト−リザード石系鉱物、滑石(タルク)、アンチゴライト及びセピオライトからなるからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の混和材。
【請求項7】
前記ハイドロガーネット系水和物が3CaO・Al・(3−x)SiO・(2x)HO(0<x≦3)又は、CaAl(SiO3−X(OH)4X(0<x≦3)で表される化合物である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の混和材。
【請求項8】
Alの含有量が1〜30質量%であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の混和材。
【請求項9】
廃棄物又は副産物を原料として使用して、ケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネット系水和物を水熱合成することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の混和材の製造方法。
【請求項10】
前記廃棄物又は副産物が石炭灰を含むことを特徴とする、請求項9に記載の混和材の製造方法。
【請求項11】
セメント、請求項1〜8のいずれか1項に記載の混和材、細骨材および水を含むモルタル組成物。
【請求項12】
セメント、請求項1〜8のいずれか1項に記載の混和材、細骨材、粗骨材および水を含むコンクリート組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント、モルタル又はコンクリート用の混和材に関する。特に、耐薬品性、耐酸性、耐硫酸性に優れたセメント・コンクリート構造物を製造するための混和材に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道施設、下水処理施設、汚泥処理施設、温泉地など、コンクリート構造物が酸に曝される環境においては、コンクリート中のセメント水和物が酸によって分解されてしまう為、セメント硬化体の腐食・劣化が従来から問題となっている。特に下水道施設等では下水中に存在する硫酸イオン又は有機物から硫化水素が発生し、細菌によって酸化還元されて硫酸が生成する。硫酸はコンクリート中の水酸化カルシウムと反応して硫酸カルシウムを生成し、さらに硫酸カルシウムはコンクリート中のカルシウムアルミネートと反応してエトリンガイトを生成する。エトリンガイトの生成時には膨張圧を生じるため、徐々にコンクリートが崩壊し、構造物が腐食する原因となる。
【0003】
下水道施設等のインフラ構造物の長寿命化の観点、及びライフサイクルコスト低減の観点から、腐食を抑制する材料や技術が提案されている。例えば、硫酸による腐食を抑制する技術として、高炉スラグやフライアッシュ、シリカフューム等の混和材を混合したセメント組成物が報告されており(特許文献1、2)、特に高炉スラグが多く用いられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−324985号
【特許文献2】特開2002−128559号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリート構造物には、さらなる耐酸性の向上が望まれている。また、石炭火力発電所から発生する石炭灰をはじめとする産業廃棄物・副産物の発生量は現状もかなり多く、その大部分はセメントに有効利用されている。しかし、依然として一部が有効利用されずに埋め立て処分されており、これらの有効利用も課題としてあげられる。
【0006】
上記問題点を考慮してなされた本発明の課題は、優れた耐硫酸性をセメント・モルタル・コンクリートに付与することのできる混和材料を提供することにある。また、産業廃棄物・副産物を原料として有効活用する、セメント・モルタル・コンクリート用の混和材を提供することにある。将来の姿を鑑みるに、廃棄物や副産物を有効利用でき、且つ耐酸性を向上できる材料を提供できれば、インフラ構造物のライフサイクルコスト低減に加え、廃棄物の有効利用も両立でき、より環境負荷を低減可能な社会を構築できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に関して鋭意検討した結果、廃棄物・副産物を利用して合成したケイ酸マグネシウム水和物及びハイドロガーネット系水和物を使用することで、セメント・コンクリートの耐硫酸性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネット系水和物を含むセメント・モルタル・コンクリート用の混和材を提供するものである。
本発明の混和材は、ケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネット系水和物を含み、その他の無機酸化物又はその水和物を含んでいてもよい。本発明の混和材は、主に結晶性物質からなる固体であり、含有される前記ケイ酸マグネシウム水和物及びハイドロガーネット系水和物もまた、結晶性物質である。
【0009】
ケイ酸マグネシウム水和物は、酸化マグネシウムと酸化珪素と水とが結合した結晶性の固体物質であり、(xMgO・ySiO・zHO・+α)の組成で表される。前記組成の「+α」は、酸化マグネシウムと酸化珪素以外の無機酸化物が含有されていてもよいことを表す。より詳しくは、化学組成がaMgO・bAl・cSiO・dNaO・eKO・fFe・gHO(1≦a≦6,0≦b≦2,1≦c≦4,0≦d≦1,0≦e≦1,0≦f≦1,0<g≦8)で表される化合物である。具体例としては、2MgO・Al・SiO・2HO(MASH)、(Mg3−x,Al)(Si2−y,Al)O(OH) (0≦x≦1,0≦y≦1)で表されるアメス石(Amesite)又はカオリナイト−リザード石系鉱物、MgSi10(OH)で表される滑石(タルク)、(Mg,Fe)Si10(OH)で表されるアンチゴライトや(Mg,Al)Si(OH)(OH)4HOで表されるセピオライト等が挙げられる。ケイ酸マグネシウム水和物は、上記のうち複数を含んでも良い。
好ましいケイ酸マグネシウム水和物は、2MgO・Al・SiO・2HO(MASH)である。
【0010】
ハイドロガーネット系水和物は、酸化カルシウムと酸化アルミニウムと水とが結合した結晶性の固体物質であり、(xCaO・yAl・zHO・+α)の組成で表される。前記組成の「+α」は、酸化カルシウムと酸化アルミニウム以外の無機酸化物が含有されていてもよいことを表す。より詳しくは、CaO、Al、MgO、Fe、SiO、HOを構成成分とするガーネット構造を有する水和物である。具体例としては、3CaO・Al・(3−x)SiO・(2x)HO(0<x≦3)又は、CaAl(SiO3−x(OH)4x(0<x≦3)で表される化合物である。より具体的には3CaO・Al・6HO(CAH)、3CaO・Al・SiO・4HO(CASH)、3CaO・Al・2SiO・2HO(CAS)、3CaO・(Al,Fe)O・2SiO・4HO)等が挙げられる。好ましいハイドロガーネット系水和物は、3CaO・Al・6HOである。
【0011】
本発明においては、ケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネット系水和物の混和材中の存在量は、XRDを使用して、混和材中に含まれる各成分の結晶相の面積比を測定することによって近似的に求められる。
【0012】
本発明の混和材中に含まれるケイ酸マグネシウム水和物のXRDで測定される結晶相のピーク面積は、混和材中、3〜60%が好ましく、4〜50%がより好ましく、5〜25%がさらに好ましい。
本発明の混和材中に含まれるハイドロガーネット系水和物のXRDで測定される結晶相のピーク面積は、混和材中、3〜60%が好ましく、5〜50%がより好ましく、15〜45%がさらに好ましい。
本発明の混和材中に含まれるケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネット系水和物のXRDで測定される結晶相のピーク面積比は、0.1〜10が好ましく、0.2〜5がより好ましく、0.5〜4がさらに好ましい。
【0013】
本発明の混和材に含まれる各結晶相のピーク面積は、以下の手順で求めることができる。すなわち、第一の工程として、混和材のXRDパターン中の各ピークについて結晶相・結晶面を同定する。次に第二工程として、第一工程で同定した各ピークとバックグラウンドのハローパターンとの接点を低角度側と高角度側とでそれぞれ決定する。続く第三工程では、低角度側の接点の角度(2θ)から高角度側の接点の角度(2θ)までX線回折強度を積分し、該積分値からバックグラウンドを高角度側の接点の角度(2θ)から低角度側の接点の角度(2θ)まで積分した値を差し引いて、結晶相のピーク面積とする。図1に、測定されたXRDパターンにおいて結晶相のピーク面積を導出する模式図を示す。
なお、市販のX線回折用のフィティング解析ソフトウェア(例えばTOPAS:ブルカー・エイエックスエス株式会社製 など)を用い、ピークを精密化して算出したピーク面積の値を用いてもよい。
【0014】
本発明の混和材には、Alが含有される。Alは、ハイドロガーネット系水和物の必須成分であるが、ケイ酸マグネシウム水和物、又はその他の成分において含有されていてもよい。混和材中のAlの含有量は、結晶水及び未燃炭素を除いた、鉱物の総量として1〜30質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましく、10〜15質量%がさらに好ましい。このような範囲でAlを含む混和材であれば、製造時に廃棄物・産業副産物を有効利用することができる。なお、水和物から結晶水及び未燃炭素を除去する方法は特に限定されないが、例えばJIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」に記載の方法に従えば良い。具体的には、950±25℃で15分間の加熱と質量の計量とを強熱前後の質量差が0.0005g未満となるまで行う。Al含有量は、JIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法」に記載の方法に従って定量することができる。
【0015】
本発明の混和材は、固体中に、ケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネット系水和物以外の結晶性無機酸化物又はその水和物を一種以上、含むことができる。結晶性無機酸化物又はその水和物の例として、トバモライト(5CaO・6SiO・5HO)、ゾノトライト、ジャイロライト、CSH1.5、CH等の珪酸カルシウム水和物、ブルーサイト(Mg(OH))、消石灰、炭酸カルシウム、ドロマイト等が挙げられる。このような結晶性無機酸化物水和物のXRDで測定される結晶相の合計面積は、混和材中、37〜94%であり、60〜80%が好ましい。本発明の混和材は、それ以外に非晶質性無機酸化物又はその水和物を一種以上、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた耐薬品性、特に耐酸性、中でも耐硫酸性をセメント・モルタル・コンクリートに付与することのできる混和材が提供される。本発明の混和材を使用したセメント・モルタル・コンクリートは、高い耐酸性、中でも耐硫酸性を発揮する。
また、本発明によれば、産業廃棄物・副産物を原料として有効活用する、セメント・モルタル・コンクリート用の混和材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1はX線回折パターンからピーク面積を導出する方法を示す図である。
図2図2は実施例1にて作製した水和物のXRD測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明の混和材は、廃棄物・副産物を原料として使用して製造することができる。廃棄物・副産物としては、石炭灰、スラグ、ALC廃材、ケイ酸カルシウム版廃材が例示される。好ましい廃棄物・副産物は、石炭灰、スラグ、ALC廃材、ケイ酸カルシウム版廃材及びこれらの組み合わせである。
ケイ酸マグネシウム水和物及びハイドロガーネット系水和物は、原料において化学組成(Ca, Al, Mg, Si)を調整して水熱合成することで製造される。ケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネット系水和物を別々に製造し、混ぜ合わせてもよい。好ましくは、ケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネット系水和物が水熱合成によって一緒に生成するように製造する。
【0020】
本発明の混和材は、原料である廃棄物・副産物とCa系原料及びMg系原料を混合する原料調合工程(A)と、ケイ酸マグネシウム水和物を含む水和物を合成する水熱合成工程(B)により製造される。ケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネットを別々に製造しても良いが、産業廃棄物・副産物の利用の観点及び製造コストの観点から、ケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネットを同時に水熱合成することが好ましい。すなわち、本発明の一つは、廃棄物又は副産物を原料として使用して、ケイ酸マグネシウム水和物とハイドロガーネット系水和物を同時に水熱合成することを特徴とする、混和材の製造方法である。
【0021】
原料調合工程(A)においては、原料のCaO/(SiO+Al)(以後、C/(S+A)と表現する)が0.3〜4.0、SiO/Al(以後、S/Aと表現する)が0.5〜30、MgO/(SiO+Al(以後、M/(S+A))と表現する)が0.01〜0.3となるように、廃棄物・副産物を調合する。原料として使用する廃棄物・副産物は、CaO、SiO、Al又はMgOを含むものであれば特に限定されないが、石炭灰や焼却灰を使用することが産業廃棄物・副産物利用の観点から特に好ましい。
【0022】
原料として、場合によりMg系原料、Si系原料、Al系原料又はCa系原料等の補助原料を添加することができる。Mg系原料とは、Mg原子を含有する材料を指し、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))が例示される。Si系原料とは、Si原子を含有する材料を指し、酸化ケイ素(SiO)が例示される。Al系原料とは、Al原子を含有する材料を指し、酸化アルミニウム(Al)が例示される。Ca系原料とは、Ca原子を含有する材料を指し、消石灰(Ca(OH))、生石灰(CaO)、石灰石(CaCO)が例示される。補助原料は、廃棄物・副産物の種類に合わせ、混和材に含有される成分の制御を行うため、適量が配合される。
水熱合成工程(B)においては、原料調合工程(A)で調合された原料を温度100〜250℃、好ましくは100〜180℃、圧力1気圧〜50気圧、好ましくは1気圧〜10気圧の条件下で水熱合成して、ケイ酸マグネシウム水和物及びハイドロガーネット系水和物を含む結晶性固体を合成する。
【0023】
本発明の混和材は、ケイ酸マグネシウム水和物、ハイドロガーネット系水和物及び結晶性無機酸化物(又はその水和物)以外の添加成分を含有してもよい。添加成分としては、各種ポルトランドセメント、アルミナセメント、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、炭酸カルシウム、膨張剤、消石灰、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、減水剤、消泡剤、ケイ酸カルシウム、アルカリ金属塩、有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩、樹脂粉末、等が例示される。
【0024】
本発明の混和材は、セメント、モルタル、コンクリート、グラウト、セルフレベリング材等に混ぜて使用する。本発明の混和材を使用した場合、生成する構造物は向上した耐酸性、特に耐硫酸性を有する。
モルタル(生モルタル)は、例えば、セメント(組成物)、本発明の混和材、細骨材および水を混練して得ることができる。
モルタルの組成は、セメント100質量部に対して、本発明の混和材が10〜300質量部、細骨材が100〜1000質量部および水20〜140質量部が好ましい。
コンクリート(生コンクリート)は、例えば、セメント、本発明の混和材、細骨材、粗骨材、減水剤および水を混練して得ることができる。
【0025】
コンクリートの組成は、セメント100質量部に対して、本発明の混和材が10〜300質量部、細骨材が100〜1000質量部、粗骨材100〜1000質量部、減水剤0〜10質量部および水20〜140質量部が好ましい。
セメントとしては、JISに規定されたポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等を使用することができる。
細骨材としては、砂、砕石、川砂、海砂等を使用することができる。
粗骨材としては、砂利、スラグ粗骨材、砕石粗骨材等を使用することができる。
減水剤としては、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することができる。減水剤の使用により所定の流動性を保持することができる。
【0026】
本発明の混和材は、セメント、モルタル、コンクリート、グラウト、セルフレベリング材等に混ぜて使用する。一般的にはセメントに水を加えて混練する際に投入するが、混和材を入れるタイミングは特に限定されない。セメント等の粉体材料と混和材とを予め混合しておいたり(プレミックス)、混和材を予め水などに分散させておいて投入したり、水とセメントとの混練の最中に添加することもできる。
モルタルまたはコンクリートの硬化方法としては、例えば常温、大気圧下での養生、水蒸気養生やオートクレーブ養生などを採用することができる。モルタルまたはコンクリートは、通常の構造物や二次製品の他に、吹き付け、裏込め、グラウトなどに用いることができる。
【実施例】
【0027】
1.実験方法
[使用原料]
使用した原料は以下の通り。
(1)石炭灰
石炭火力発電所由来の石炭灰。組成を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
(2)酸化マグネシウム(MgO)
宇部マテリアルズ株式会社製、商品名:UC95S。
(3)消石灰(CH)
宇部マテリアルズ株式会社製、特級消石灰(Ca(OH))。
(4)普通ポルトランドセメント(NC)
宇部三菱セメント株式会社製。
(5)標準砂
社団法人セメント協会製。
(6)高炉スラグ
日鐵住金高炉セメント株式会社製、商品名:エスメント。
【0030】
[水和物の合成]
石炭灰、酸化マグネシウム(MgO)及び消石灰(CH)を表2に示す割合で混合して原材料とし、これに水を質量比2.0で混合し、オートクレーブ中、180℃、10気圧で24時間水熱合成することによって水和物を得た。得られた水和物は105℃で乾燥した。また、得られた水和物をJIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」に記載の方法で950℃加熱し、水和物中の結晶水を除去した場合の化学組成をJIS R 5202:2010「セメントの化学分析方法に準じて測定し、表2に水和物1として示した。
【0031】
【表2】
【0032】
[水和物の特性評価方法]
(1)XRDによる結晶相の分析
作製した水和物の結晶相を確認するために、標準試料としてAl(和光純薬工業(株)製、コランダム)を内割り10wt%添加し、乳鉢で30分間混合し、XRD(ブルカー・エイエックスエス社製、加速電圧:30kV、電流:10mA、管球:Cu)を測定した。得られたXRDチャートから結晶相の同定をDIFFRAC.EVAで行った。測定結果を図2に示す。作製した水和物は、トバモライト(5CaO・6SiO・5HO;珪酸カルシウム水和物)、CASH(3CaO・Al・SiO・4HO;ハイドロガーネット系水和物)及びMASH(2MgO・Al・SiO・2HO;ケイ酸マグネシウム)の結晶で占められていることがXRDチャートから確認された。
また、トバモライトの0 0 2面、CASHの2 1 1面又はMASHの0 0 6面のピーク面積と標準試料Al(コランダム)の1 1 6面のピーク面積との比から、トバモライト、CASH又はMASHと標準試料Alのピーク面積比(トバモライト、CASH又はMASH/標準試料)を求め、水和物中における結晶相ピーク面積比(%)を計算した。作製した水和物のケイ酸マグネシウムMASHとハイドロガーネット系水和物CASHの結晶相ピーク面積比は、22.3:6.6=3.4:1であった。
【0033】
【表3】
【0034】
(2)SEM−EDSによるトバモライト結晶の分析
作製したケイ酸カルシウム水和物に含まれるトバモライト結晶の大きさを、走査型電子顕微鏡(SEM)TM3030((株)日立ハイテクノロジーズ製)で確認した。
また、トバモライト結晶の組成を、上記の走査型電子顕微鏡とエネルギー分散型エックス線分析装置SwiftED3000(英国オックスフォードインスツゥルメンツ社製)とを用いて測定した。トバモライト結晶部分を3点分析し、その定量結果の平均値からCaO/SiO質量比、Al/SiO質量比、MgO/SiO質量比を求めた。
【0035】
【表4】
【0036】
(3)粒径
表5に示すように上記水和物と水とを20:80(質量比)で混合し、ボールミルで粉砕して混和材を作製した。作製した混和材をヘキサメタリン酸ナトリウム0.2質量%水溶液に分散し、超音波を10分間照射後、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製作所、LA−950V2)を用いて粒度分布を測定した。
【0037】
【表5】
【0038】
[モルタル組成物の調製]
モルタル組成物は、表6に示す配合を用いて、JIS R 5201−2015に規定される練混ぜ方法で調製した。
【0039】
【表6】
【0040】
[モルタル組成物の耐硫酸性の確認]
調製したモルタル組成物をJIS R 5201−2015に規定される方法で4cm×4cm×16cmの寸法の型枠に成形し、材齢1日後に型枠から脱型し、20℃の水中で材齢7日まで養生し、供試体を得た。この供試体を5質量%硫酸水溶液に浸漬し、浸漬期間7日、14日、21日、28日ごとに、供試体の表面を水洗いの後、表面の水をふき取り質量を測定した。なお、5質量%硫酸水溶液は7日ごとに全量新しいものに交換した。質量変化率は下記の式で求めた。
質量変化率(%)=(硫酸水溶液に浸漬する前の供試体質量−硫酸水溶液に所定期間浸漬した後の供試体の質量)/(硫酸水溶液に浸漬する前の供試体の質量)×100
結果を表7に示す。浸漬期間28日で、本発明の混和材を使用せず高炉スラグを使用した比較例1は33.4%、混和材を一切使用しなかった比較例2は38.4%、モルタル組成物の質量が減少した。対して、本発明の混和材を使用した実施例1の質量減少率は24.5%と小さくなり、耐硫酸性が向上する効果が確認された。
【0041】
【表7】
図1
図2