特許第6881133号(P6881133)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881133
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】真空用軸受の振動測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20210524BHJP
【FI】
   G01M13/04
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-147980(P2017-147980)
(22)【出願日】2017年7月31日
(65)【公開番号】特開2019-27940(P2019-27940A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細谷 眞幸
【審査官】 川瀬 正巳
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−098327(JP,U)
【文献】 特開2006−258473(JP,A)
【文献】 特開2010−066062(JP,A)
【文献】 特開2009−031100(JP,A)
【文献】 特開2003−113850(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0288787(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空室内に設けられた真空用軸受の振動方向に変位可能な振動子を備え、前記真空室を構成する隔壁を貫通する振動子ユニットと、
前記隔壁と前記振動子ユニットとの間に設けられ、前記真空室内を封止する封止部材と、
前記真空室外に配設され、前記振動子ユニットと接続されて、前記振動子の振動を検出する加速度センサと、
を備え
前記振動子ユニットは、円柱状の前記振動子に嵌合する円筒部と、該円筒部と同軸で、該円筒部よりも大径に形成されて、前記真空室外に配置される円盤部と、を有し、前記振動子と締結されることで、前記振動子と共に前記真空用軸受の振動方向に変位可能な振動子ホルダを備え、
前記円筒部の先端面は、前記真空室に臨み、
前記振動子ユニットは、吸引力によって前記真空室内へ引き込まれていることを特徴とする真空用軸受の振動測定装置。
【請求項2】
真空室内に設けられた真空用軸受の振動方向に変位可能な振動子を備え、前記真空室を構成する隔壁を貫通する振動子ユニットと、
前記隔壁と前記振動子ユニットとの間に設けられ、前記真空室内を封止する封止部材と、
前記真空室外に配設され、前記振動子ユニットと接続されて、前記振動子の振動を検出する加速度センサと、
を備え、
前記振動子は、断熱性能を有する部材で形成されることを特徴とする真空用軸受の振動測定装置。
【請求項3】
真空室内に設けられた真空用軸受の振動方向に変位可能な振動子を備え、前記真空室を構成する隔壁を貫通する振動子ユニットと、
前記隔壁と前記振動子ユニットとの間に設けられ、前記真空室内を封止する封止部材と、
前記真空室外に配設され、前記振動子ユニットと接続されて、前記振動子の振動を検出する加速度センサと、
を備え、
前記振動子ユニットは、前記真空室外に配設され、前記真空用軸受からの熱を放熱する放熱部をさらに備えることを特徴とする真空用軸受の振動測定装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空用軸受の振動測定装置に関し、より詳細には、真空環境中で作動する真空用軸受の振動を検出する真空用軸受の振動測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FPD(フラットパネルディスプレイ)を製造する設備の一部として、スパッタリング装置、プラズマCVD装置、イオン注入装置等の真空処理装置がある。これらの真空処理装置は、基板等の被処理品を真空状態で搬送する搬送装置や搬送ロボットを備えている。搬送装置や搬送ロボットの回転支持部分には転がり軸受が使用される。このように、真空環境中で作動する軸受の異常診断は、該軸受が真空環境中に配置されているので、ダイレクトに軸受の出力値(例えば、動摩擦トルク、振動加速度等)を計測するのが難しい。特許文献1には、真空処理装置内に配置された玉軸受の動摩擦トルクを、真空環境外から回転導入した駆動軸を介して計測可能とした真空処理装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−236314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の真空処理装置では、計測値には、少なくとも回転導入機の駆動軸を支持する軸受の動摩擦トルクも含まれて測定されてしまうため、試験軸受を精密に異常診断することが困難であった。
また、振動加速度を計測する加速度センサは、圧電素子を積層して構成されており、圧電素子の積層を媒介するバインダーとして接着剤が用いられている。このため、加速度センサを試験軸受近傍(真空環境中)に配置して試験軸受の振動加速度を計測する場合、真空環境中では、加速度センサ(以下、「振動加速度ピックアップ」とも称する)を構成する接着剤の性状が変化して加速度のセンシング特性が変化してしまうため、真空用軸受の振動試験が困難となっていた。
【0005】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、真空環境中で作動する真空用軸受の振動を精度よく検出することができる真空用軸受の振動測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 真空室内に設けられた真空用軸受の振動方向に変位可能な振動子を備え、前記真空室を構成する隔壁を貫通する振動子ユニットと、
前記隔壁と前記振動子ユニットとの間に設けられ、前記真空室内を封止する封止部材と、
前記真空室外に配設され、前記振動子ユニットと接続されて、前記振動子の振動を検出する加速度センサと、
を備えることを特徴とする真空用軸受の振動測定装置。
(2) 前記振動子ユニットは、円柱状の前記振動子に嵌合する円筒部と、該円筒部と同軸で、該円筒部よりも大径に形成されて、前記真空室外に配置される円盤部と、を有し、前記振動子と締結されることで、前記振動子と共に前記真空用軸受の振動方向に変位可能な振動子ホルダを備え、
前記円筒部の先端面は、前記真空室に臨むことを特徴とする、(1)に記載の真空用軸受の振動測定装置。
(3) 前記振動子の軸中心と前記加速度センサとは、前記真空用軸受の中心を通る直線上に同軸に配置されることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の真空用軸受の振動測定装置。
(4) 前記振動子は、断熱性能を有する部材で形成されることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の真空用軸受の振動測定装置。
(5) 前記振動子ユニットは、前記真空室外に配設され、前記真空用軸受からの熱を放熱する放熱部をさらに備えることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の真空用軸受の振動測定装置。
(6) 前記封止部材は、弾性力により前記振動子を前記真空用軸受の振動方向に変位可能に支持するOリングであることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の真空用軸受の振動測定装置。
(7) 前記隔壁の貫通孔と前記振動子ユニットとの間には、振動子ハウジングが設けられ、
前記Oリングは、前記振動子ハウジングの内周面又は前記振動子ユニットの外周面に形成されたOリング溝に配置されることを特徴とする(6)に記載の真空用軸受の振動測定装置。
(8) 前記加速度センサは、前記振動子ユニットの前記真空室外の一端に磁力によって固定されることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれかに記載の真空用軸受の振動測定装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の真空用軸受の振動測定装置によれば、真空室内に設けられた真空用軸受の振動方向に変位可能な振動子を備え、真空室の隔壁を貫通する振動子ユニットと、隔壁と振動子ユニットとの間に設けられて真空室内を封止する封止部材と、真空室外に配設され、振動子の振動を検出する加速度センサと、を備えるので、真空環境中で作動する真空用軸受の振動を、常圧中に配置した加速度センサにより測定することができる。これにより、真空用軸受の振動を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る真空用軸受の振動測定装置の側面図である。
図2図1に示す真空用軸受の振動測定装置の要部拡大図である。
図3】耐久試験における真空用軸受の総回転数と振動、及び温度との試験結果を示すグラフである。
図4図3に示すグラフの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る真空用軸受の振動測定装置の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1及び図2に示すように、真空用軸受の振動測定装置10は、真空環境内に配置された真空用軸受1の振動を、真空環境外に設けた加速度センサである振動加速度ピックアップ48により測定可能とするものである。真空用軸受1は、外輪2、内輪3、外輪2及び内輪3の軌道面2a,3a間に転動自在に配設された複数の転動体4、転動体4を保持する保持器5、及び1対のシールド板6、を備える。
【0010】
真空槽は、隔壁を構成する天板11、側壁12、13、及び底板16等によって構成され、周囲(外部)から隔離されて、内部を真空環境に維持することができる真空室VRを形成する。真空槽の底板16には、互いに対向する一対の門型ハウジング17が立設する。また、底板16には、不図示の真空ポンプに接続されて真空室VR内を真空環境にすることができる排気ポート16aが真空気密的に接続されている。
【0011】
各門型ハウジング17には、つば部18aを有する軸受ハウジング18が内嵌し、つば部18aが門型ハウジング17の側面にねじ19により一体に固定されている。
【0012】
一対の軸受ハウジング18の同一軸線上に形成された軸受孔18bには、それぞれ真空用軸受1が内嵌し、水平に配置された回転軸20の両端を回転自在に支承する。各真空用軸受1の内輪3は、一端が回転軸20の端部に形成された段部20aに当接し、他端がスラストワッシャ21を介してねじ止めされたナット22により軸方向に固定されている。
【0013】
各真空用軸受1の外輪2は、軸受ハウジング18の軸受孔18bに内嵌すると共に、回転軸20の段部20aと反対側の一端が、押圧リング23に当接する。押圧リング23は、コイルばね24の弾性力により段部20aに向けて付勢されている。これにより、各真空用軸受1には、定圧予圧が付与される。また、軸受ハウジング18のつば部18aの外周には、真空用軸受1を加熱して昇温させるためのヒータ25が設けられている。
【0014】
回転軸20には、真空室VRの外部、即ち、常圧(以下、「大気中」とも称する)環境下に配設された不図示のモータにより回転駆動される回転導入軸26がカップリング27を介して接続されている。回転導入軸26は、真空室VR内に配置されており、モータの駆動軸と回転導入軸26との間は、磁気シール、磁気カップリング、差動排気シール、あるいはOリング等(いずれも図示せず)により封止されて真空室VRの真空が保持されている。
【0015】
門型ハウジング17、軸受ハウジング18、及び回転軸20の材質は特に限定されず、一般の軟鋼、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS420J2、SUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、SUS630等の析出硬化型ステンレス鋼等を用いることができる。
【0016】
また、コイルばね24の材質は、一般のピアノ線、オイルテンパー線等を用いることができ、ヒータ25で加熱して高温試験を行う場合は、SUS304やSUS631等のステンレス鋼、さらに350℃以上での試験を行う場合は、インコネル600やインコネルX-750等の耐熱性能の優れる合金材料を使用するのが望ましい。
【0017】
カップリング27の材質も特に問われるものではなく、A5052、A5056等の一般なアルミニウム合金や、A2017、A2024、A7075等のジュラルミン、SUS316LやSUS304、SUS303等のステンレス鋼等が、単独、あるいは複合的に用いられる。
【0018】
また、真空用軸受1を昇温させて試験を行う場合は、回転軸20が熱膨張することが考えられるので、カップリング27は、熱膨張長さを十分に吸収可能な許容軸方向変位量を有するものが選定されるのがよい。図示しないが、軸とそれを覆うカップと、その両者をボールで機械結合した形式のボールカップリング等は許容軸方向変位量が大きいので好適である。
【0019】
なお、図では、真空用軸受1に付与される荷重負荷は、コイルばね24による予圧荷重だけであるが、必要に応じて、図示しない軸受箱を一対の真空用軸受1間に配置し、軸受箱に負荷荷重を懸垂させてラジアル荷重を負荷することもできる。その場合、2つの真空用軸受1で負荷荷重を支持することになる。
【0020】
真空用軸受1の中心を通る鉛直線Vの延長線上には、真空室VRの天板11を上下方向に貫通する振動子ユニット30が鉛直線Vと同軸的に配設されている。振動子ユニット30は、略円柱状の振動子32と、振動子ホルダ33と、フィンブロック34とを主に備える。
【0021】
振動子32は、真空用軸受1の振動を振動加速度ピックアップ48に伝達するものであり、半球状に形成された先端部32aが、平面度よく水平に形成された門型ハウジング17の上面17aに当接している。即ち、振動子32は、その軸中心位置で門型ハウジング17の上面17aに当接している。
【0022】
振動子ホルダ33は、振動子32が嵌合し、先端面が真空室VRに臨む円筒部33a、及び該円筒部33aと同軸で、該円筒部33aよりも大径に形成されて真空室VRの外側(外部)に配置される円盤部33bを有する。円筒部33aの一端部を塞ぐ円盤部33bの部分に設けられたボルトにより、振動子32と振動子ホルダ33とは、一体に締結されている。
【0023】
振動子ユニット30が貫通する天板11の貫通部には、振動子ハウジング35が装着されている。振動子ハウジング35は、ハウジング円筒部35aと、ハウジング円筒部35aの軸方向一端部に設けられたつば部35bを有する。
【0024】
ハウジング円筒部35aは、天板11の貫通孔11aに真空室VR側から挿入され、つば部35bが天板11の下面11bに当接した状態で、天板11の上面11c側(真空室VRの外側)に配置された略リング板状の背板37と、ボルト38により一体に締結されている。即ち、天板11は、ハウジング円筒部35aのつば部35bと背板37により上下方向から挟持されている。
【0025】
背板37には、挿入される振動子ホルダ33と干渉しないように、振動子ホルダ33の円筒部33aの外径より大きな内径の貫通孔が形成されている。また、ハウジング円筒部35aが天板11の貫通孔11aに挿入され、つば部35bが天板11の下面11bに当接した状態で、ハウジング円筒部35aは、その上端面が天板11の上面11cから突出しないように設計されている。
【0026】
なお、天板11がガラス製である場合には、背板37と天板11との間にニトリルゴムやシリコンゴム等の弾性部材からなる扁平リング50を挿入して、ガラスの破損防止するのがよい。
【0027】
つば部35bと天板11の下面11bとの間は、つば部35bの上面に形成されたOリング溝35cに装着されたOリング39により封止されている。ハウジング円筒部35aの上端面と背板37とを締結することで、Oリング39が圧縮されることにより、天板11の貫通孔11aと振動子ハウジング35間における所定の気密封止性能を発現している。なお、Oリング39の配置位置は、上記した位置に限定されず、天板11の貫通孔11aと振動子ハウジング35との間を気密に封止可能であれば、任意の位置に配置することができる。
【0028】
振動子ハウジング35のハウジング円筒部35aに形成された嵌合孔35dには、図中、上方(真空室VRの外側)から挿入された振動子ホルダ33の円筒部33aが、軸方向(上下方向)に摺動自在にすきま精度よく嵌合する。ハウジング円筒部35aの嵌合孔35dと振動子ホルダ33の円筒部33aとの間は、嵌合孔35dの内周面のOリング溝35eに装着されたOリング(封止部材)40により封止されている。即ち、振動子ユニット30の先端部は、真空室VR内に配置され、振動子ユニット30の円盤部33b側は、真空室VR外の常圧中に配置されている。なお、Oリング溝35eは、上記とは逆に、振動子ホルダ33の外周面に設けられてもよい。
【0029】
弾性力により振動子ホルダ33とハウジング円筒部35aとの間を封止するOリング40は、振動子ホルダ33の振動方向(鉛直軸方向)とOリング40の摺動可能方向とが同一方向であるので、Oリング40による振動加速度の減衰が最小限に抑えられる。
【0030】
振動子ホルダ33の円盤部33b上面には、略円柱形状のフィンブロック34がねじ41により締結されている。円盤部33bの上面と、フィンブロック34の下面との間は、円盤部33bに設けられたOリング溝42に装着されたOリング43により封止されている。このOリング43により、振動子ホルダ33の円筒部33aの内周面と振動子32の外周面との間は、気密に封止される。
【0031】
フィンブロック34は、多数のスリットが外径から中心に向かって彫りこまれており、放熱のためのヒートシンクとして作用する。なお、円盤部33bの上面は、振動子ホルダ33の自身の軸に直角度良く、且つ、平面度良く成形されている。また、フィンブロック34の上下面は、平行度良く成形されているので、フィンブロック端面の法線は、真空用軸受1の中心を通る鉛直線Vに対して平行となる。したがって、フィンブロック34は、振動子ホルダ33の円盤部33bの上面に同軸的に締結されている。
【0032】
振動子32の材質は、一般の軟鋼の他、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS420J2・SUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、SUS630等の析出硬化型ステンレス鋼等が使用可能であり、SK材、SKD材、SKH材等の工具鋼を用いれば耐摩耗性能が向上する。また、窒化ケイ素やアルミナ、ジルコニア等のエンジニアセラミックス、フッ素金雲母系、フッ素金雲母ジルコニア系等の熱伝導率が、40w/m・K程度以下のマシナブルセラミックス等を用いて断熱性能を向上させれば、より高温での試験に対応可能となる。
【0033】
また、振動子ホルダ33、及び振動子ハウジング35の材質は、一般の軟鋼の他、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS420J2・SUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、SUS630等の析出硬化型ステンレス鋼等が用いられる。
【0034】
天板11の材質は、SUS304、SUS316、SUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼の他、A5052、A5056等の一般アルミニウム合金、A2017、A2024、A7075等のジュラルミン等が用いられるが、ガラスを使用して真空室VRの内部を覗くことができるようにしてもよい。ガラスの材質は、一般のソーダガラスの他、強化ガラス、石英ガラス等が使用可能であり、酸化ホウ素添加の耐熱ガラス等を使用すれば、高温での軸受試験に好適である。
【0035】
フィンブロック34の材質は、一般の軟鋼の他、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS420J2・SUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、SUS630等の析出硬化型ステンレス鋼の他、A5052、A5056等の一般アルミニウム合金、A2017、A2024、A7075等のジュラルミン等が用いられる。アルミニウム合金を使用した場合は、熱伝導率が大きいので、ヒートシンクとしての放熱性能が向上する。
【0036】
フィンブロック34の上面には、磁石板44がねじ45によりフィンブロック34と同軸に締結されている。磁石板44には、不図示の磁石が埋設された磁石ホルダ46が、磁石の磁力により吸着保持されている。磁石ホルダ46の上面側に形成された雌ネジ(図示せず)には、ピックアップアダプタ47の下方に突設された不図示のねじ軸が螺合して固定される。また、ピックアップアダプタ47の上方に突設された不図示のねじ軸には、振動加速度ピックアップ48の雌ネジ(図示せず)が螺合して固定されている。即ち、ピックアップアダプタ47は、上方、及び下方に突設された2本のねじ軸を有している。さらに、磁石ホルダ46、ピックアップアダプタ47、及び振動加速度ピックアップ48は、それぞれの中心が同軸上とされて、ユニット化される。
【0037】
フィンブロック34、磁石板44、磁石ホルダ46、及びピックアップアダプタ47の上下面は、平行度及び平面度よく成形されている。したがって、磁石ホルダ46が磁石板44に同軸となるように吸着保持されることで、磁石板44、磁石ホルダ46、ピックアップアダプタ47、及び振動加速度ピックアップ48の中心は、真空用軸受1の中心を通る鉛直線Vの延長線上に位置する。
【0038】
磁石板44の材質は、一般の軟鋼の他、SUS420J2、SUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、SUS630等の析出硬化型ステンレス鋼等の強磁性体である。
【0039】
磁石ホルダ46に埋設される磁石は、ピックアップアダプタ47や、振動加速度ピックアップ48等を締結した後、振動加速度ピックアップ48が鉛直方向真下に向くように配置しても脱落しないように、充分な磁力を有する。磁石ホルダ46の材質は、特に限定されず、一般の軟鋼の他、SUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS420J2・SUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、SUS630等の析出硬化型ステンレス鋼の他、A5052、A5056等の一般アルミニウム合金、A2017、A2024、A7075等のジュラルミン等を用いることができる。
【0040】
次に、実施形態の真空用軸受の振動測定装置10により真空用軸受1の振動を測定する手順について説明する。
【0041】
先ず、真空室VR内の回転軸20に2つの真空用軸受1をセットし、所定の手順で試験装置を組み立て、門型ハウジング17によって回転軸20が水平となるように配置する。回転軸20は回転導入軸26にカップリング27によって接続される。また、真空槽の底板16に設けられた排気ポート16aを真空気密的に図示しない真空ポンプと接続する。
【0042】
さらに、振動子32を振動子ホルダ33に装填・締結し、振動子ホルダ33にフィンブロック34を締結、さらにフィンブロック34に磁石板44を締結することで、振動子ユニット30を形成する。振動子ユニット30は、上述したように、振動子32と振動子ホルダ33との間は真空封止がなされている。
【0043】
そして、2つの振動子ユニット30を振動子ハウジング35の嵌合孔35dに常圧空間側(上方)から挿入して振動子32の先端部32aを門型ハウジング17の上面17aに当接させるまで直進させる。振動子ハウジング35に配置されているOリング40によって、振動子ユニット30と振動子ハウジング35との間が真空封止され、真空室VR内の真空封止が完了する。
【0044】
また、磁石ホルダ46を磁石板44に対してほぼ同軸的に吸着させると、振動子32と振動加速度ピックアップ48とは、ほぼ同軸に配置される。さらに、振動子ハウジング35の嵌合孔35dは、真空用軸受1の中心を通る鉛直線V上にあるので、振動加速度ピックアップ48は、該鉛直線V上に配置される。
【0045】
そして、真空ポンプを作動させて真空室VRの排気ポート16aから内部の空気を排気して真空室VR内を所定の圧力の真空環境とした後、モータ(図示せず)によって回転導入軸26を介して回転軸20を回転させ、回転軸20に装着された真空用軸受1の真空環境における回転試験を行う。
【0046】
真空環境に配設された真空用軸受1の回転試験の期間中、振動子ユニット30は、振動子ホルダ33の円筒部33aに装着されたOリング40で真空封止されているので、振動子ホルダ33の断面積に応じた吸引力によって真空室VR内に引き込まれている。即ち、振動子32の先端部32aは、真空用軸受1の全試験期間にわたって、該吸引力による一定の安定した荷重で門型ハウジング17の上面17aに当接している。これにより、安定した振動測定が可能となる。
【0047】
また、振動加速度ピックアップ48は、ピックアップアダプタ47を介して磁石ホルダ46と同軸的に締結されてユニット化されている。そして、磁石ホルダ46を磁石板44に同軸的に吸着させることで、振動加速度ピックアップ48は、振動子32の軸中心と同軸となり、真空用軸受1の中心を通る鉛直線V上に配置される。これにより、真空用軸受1の鉛直方向の振動加速度は、最小のタイムラグで、もれなく振動加速度ピックアップ48に伝播されて測定される。
【0048】
また、高温での真空用軸受1の試験は、軸受ハウジング18のつば部18aに配設されたヒータ25に通電し、軸受ハウジング18を介して真空用軸受1を加熱することで可能となる。真空用軸受1の温度は、図示しない熱電対等の温度センサを真空用軸受1(例えば、外輪2)に接触配置し、真空用軸受1の温度を測定しながらヒータ25への通電を制御することにより、任意の温度に設定することができる。このように、振動測定装置10は、高温環境下での試験に用いられるため、Oリング39,40,43は、高温用Oリングを使用することが望ましい。
【0049】
一般に振動加速度ピックアップ48のセンサ本体は、圧電素子を積層して構成されており、規定の温度範囲でしか正しい出力が得られない。即ち、高温での真空用軸受1の試験では、真空用軸受1(軸受ハウジング18)の熱が振動加速度ピックアップ48の測定値に影響を及ぼす虞がある。このため、振動子32をセラミックス等の熱伝導率40w/m・K程度以下の材料で形成して断熱機能を持たせることで、軸受ハウジング18から振動加速度ピックアップ48に伝導される熱を制限するのがよい。さらに、フィンブロック34の放熱機能により放熱すれば、振動加速度ピックアップ48への熱の影響を最小限に抑制することができる。フィンブロック34には、図示しないファンや冷却機によって空気流を供給して放熱効率を向上させることが好ましい。
【0050】
従って、上記構成の真空用軸受の振動測定装置10によれば、真空用軸受1が真空環境中で高温に保持されている場合でも、振動子32の断熱機能、及びフィンブロック34の放熱機能により、振動加速度ピックアップ48への熱の影響を最小限に抑制して、常温、常圧中に配置した振動加速度ピックアップ48により、真空、高温での真空用軸受1の振動を継続的に精度よく測定することができる。
さらに、振動子32の振動方向(鉛直軸方向)と、Oリング40の摺動可能方向とが同一方向であるので、Oリング40による振動加速度の減衰が最小限に抑えられ、精度の良い測定が可能となる。加えて、振動子ホルダ33の断面積に応じた吸引力によって振動子32が真空室VR内に引き込まれ、常に同一の荷重値で振動子32が門型ハウジング17の上面17aに押し付けられているので、門型ハウジング17と振動子32とが離れることなく、常時安定した振動の伝達が確保されて、精度のよい測定が可能となる。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の真空用軸受の振動測定装置10によれば、真空室VR内に設けられた真空用軸受1の振動方向に変位可能な振動子32を備え、真空室VRの天板11を貫通する振動子ユニット30と、天板11と振動子ユニット30との間に設けられて真空室VR内を封止するOリング39,40,43と、真空室VR外に配設されて、振動子32の振動を検出する振動加速度ピックアップ48と、を備えるので、真空環境中で作動する真空用軸受1の振動を、常圧中に配置した振動加速度ピックアップ48により精度よく測定することができる。
特に、圧電素子を積層して構成される振動加速度ピックアップ48は、常圧・常温環境下に配置されるので、正しい出力を得ることができる。また、圧電素子の積層を媒介する接着剤の性状が変化することなく、接着剤はバインダー機能を維持することができ、振動加速度ピックアップ48の振動センシング特性が変化するおそれがない。
【0052】
また、振動子ユニット30は、円柱状の振動子32に嵌合する円筒部33aと、該円筒部33aと同軸で、該円筒部33aよりも大径に形成されて、真空室VR外に配置される円盤部33bと、を有し、振動子32と締結されることで振動子32と共に真空用軸受1の振動方向に変位可能な振動子ホルダ33を備える。円筒部33aの先端面は真空室VRに臨むので、振動子32は、振動子ホルダ33の断面積に応じた吸引力による一定の安定した荷重で門型ハウジング17の上面17aに当接し、安定して振動測定することができる。
【0053】
また、振動子32の軸中心と振動加速度ピックアップ48とは、真空用軸受1の中心を通る直線、即ち、鉛直線V上に同軸に配置されるので、真空用軸受1の振動値を、もれなく振動加速度ピックアップで捕捉することができる。
【0054】
また、振動子32は、断熱性能を有する部材で形成されるので、真空用軸受1から振動加速度ピックアップ48に伝達される熱を遮断することができ、真空用軸受1が高温環境下にある場合でも振動加速度ピックアップ48に対する熱の影響を排除して精度よく測定することができる。
【0055】
また、振動子ユニット30は、真空室VR外に配設され、真空用軸受1からの熱を放熱するフィンブロック34をさらに備えるので、真空用軸受1から伝達される熱を放熱することができ、真空用軸受1が高温環境下にある場合でも振動加速度ピックアップ48に対する熱の影響を排除して精度よく測定することができる。
【0056】
また、封止部材は、弾性力により振動子32を真空用軸受1の振動方向に変位可能に支持するOリング40であるので、Oリング40による振動の減衰を最小限に抑制することができ、真空用軸受1の振動を精度よく測定することができる。
【0057】
また、天板11の貫通孔11aと振動子ユニット30との間には、振動子ハウジング35が設けられ、Oリング40は、振動子ハウジング35の内周面に形成されたOリング溝35eに配置されるので、Oリング40によって、天板11と振動子ユニット30との間を気密封止することができる。
【0058】
また、振動加速度ピックアップ48は、振動子ユニット30の真空室VR外の一端に磁力によって固定されるので、振動加速度ピックアップ48を簡単に着脱することができる。
【実施例】
【0059】
本発明の効果を確認するため、本発明に係る図1に示す真空用軸受の振動測定装置10を用いて、真空環境下にある真空用軸受1の振動値を測定しながら軸受寿命となるまでの耐久試験を行った。
【0060】
試験条件:
試験軸受:軸受形式: 深溝玉軸受(呼び番号:6200)、プレス保持器
材質: SUS440C製
内径: 10mm
潤滑被膜: 真空用オイル塗布
被膜部位: 転動面
個数: 2個
軸姿勢: 水平
回転速度: 10000min−1
環境: 1Pa程度の真空環境
軸受温度: 300℃
【0061】
試験結果を図3及び図4に示す。図3及び図4に示すように、2つの真空用軸受1は、略800万回転を越えたとき、振動値が著しく上昇した。さらに、試験を続けると、略1105万回転に達したとき、振動加速度ピックアップ48が異常振動を検出したので、軸受寿命と判断して試験を終了した。試験終了後の確認作業において、いずれの真空用軸受1も、大きな手回しゴリ感が認められ、潤滑寿命に到達していると判断される。
以上の試験結果から、本発明に係る真空用軸受の振動測定装置10により真空環境中、且つ高温条件での真空用軸受1の振動測定が可能であることが確認された。
【0062】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 真空用軸受
10 真空用軸受の振動測定装置
11 天板(隔壁)
16 底板(隔壁)
25 ヒータ
30 振動子ユニット
32 振動子
33 振動子ホルダ
33a 円筒部
33b 円盤部
34 フィンブロック(放熱部)
40 Oリング(封止部材)
48 振動加速度ピックアップ(加速度センサ)
V 鉛直線(真空用軸受の振動方向)
VR 真空室
図1
図2
図3
図4