(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1のように、ビードの稜線がサイドメンバに向かって直線的に延設されている場合、スプリングハウスに入力された荷重等がこの稜線に沿って伝達され、稜線の延長線上あるいはその近傍に位置する溶接点に集中してしまう。一つの溶接点に荷重が集中すると、スプリングハウスの亀裂や溶接箇所の剥離,破断を招きやすくなる。また、エンジンマウントを配置するときには、荷重が集中しやすい溶接点から離隔させる必要があるため、エンジンマウントの配置の自由度を低下させるという課題もある。
【0006】
本件の車両前部構造は、このような課題に鑑み案出されたもので、スプリングハウスに入力された荷重等を滑らかに分散させるとともにスプリングハウスの亀裂や溶接箇所の剥離,破断を抑制することを目的の一つとする。なお、これらの目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示する車両前部構造は、車両の左右方向に互いに間隔をあけて配置され、前後方向に延設された一対のサイドメンバと、各々の前記サイドメンバの外側に位置し、サスペンションの上部を支持する上面ブラケットおよび前記上面ブラケットの周縁から下方に延設されて前記サイドメンバに接続される側面パネルを有するスプリングハウスと、を備える。前記側面パネルは、その内側を向く面に形成されるとともに上方から下方に向けて末広がりに延びる面部と、前記面部の前側および後側の各輪郭線に沿って延設されたビードと、を有する。また、前記面部には、前側および後側における前記ビードの少なくとも一方の前記下端部の下方に位置するとともに前記スプリングハウスと前記サイドメンバとを接合するための複数の溶接点を有する接合面が設けられ、前記サイドメンバは、前記接合面と接合される位置において上方に拡幅された拡大フランジ部を有
し、前記ビードの下端部は、車両側面視で前記サイドメンバの長手方向に延びる上縁と平行に設けられる。
【0008】
(2)前記複数の溶接点は、千鳥状に配置されていることが好ましい。すなわち、前記複数の溶接点は、前記接合面上において前記サイドメンバの長手方向に沿い、上下に互い違いになるように配置されていることが好ましい。
【0009】
(3
)前記車両前部構造は、前記サイドメンバに固定され、前記車両のパワープラントを前記サイドメンバに対して弾性的に支持するマウントを備えていることが好ましい。この場合、前記マウントは、車両側面視で、少なくとも一部が、前側または後側の前記ビードの前記下端部と重複する位置に配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
開示の車両前部構造によれば、スプリングハウスに入力された荷重を滑らかに分散させることができる。すなわち、荷重(応力)がスプリングハウスの側面パネルとサイドメンバとの接続箇所に集中して作用することを防ぐことができる。これにより、スプリングハウスの亀裂の発生や溶接箇所の剥離,破断を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して、実施形態としての車両前部構造について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0013】
[1.構成]
本実施形態の車両前部構造は、
図1に示す車両1のボディに適用される。ボディの車室前方側には、左右一対のサイドメンバ2が配置される。サイドメンバ2は、ボンネット下方の空間(例えばエンジンルームとして使用されるボンネット室)を下面側から支える骨格部材であり、例えばモノコックボデーのサブフレームとして形成される。
【0014】
一対のサイドメンバ2は、左右方向(車幅方向)に互いに間隔をあけて配置され、前後方向(車長方向)に延設される。なお、サイドメンバ2の間はクロスメンバや井桁フレームなどで接続される。各サイドメンバ2よりも上方には、アッパフレーム3が配置される。左右一対のアッパフレーム3は、例えばフェンダパネル4の上部が固定されるモノコックボデーのサブフレームであり、サイドメンバ2よりも車幅方向外側(車両外側)の位置でフロントピラーから前方に向かって延設される。
【0015】
サイドメンバ2およびアッパフレーム3は、いずれも閉断面の中空筒状とされる。例えばサイドメンバ2は、
図2に示すように、車幅方向外側に配置される平板状のアウタサイドメンバ2Aと、アウタサイドメンバ2Aの車幅方向内側に配置されるとともに車両外側に開放された断面ハット型のインナサイドメンバ2Bとが接合されて閉断面形状が形成される。また、
図1に示すように、車室とボンネット室との間は、ダッシュパネル5で前後方向に区画される。
【0016】
一対のサイドメンバ2の間には、車両1のエンジンやトランスミッションなどのパワープラント(図示略)が配置される。パワープラントは、サイドメンバ2に固定されるマウント6を介して、サイドメンバ2に対して弾性的に支持される。マウント6は、パワープラントの振動を吸収,減衰するための防振装置であり、例えば金属製の内筒および外筒と、内筒および外筒の間にゴムブッシュ等の弾性体を封入した構造を持つ。また、ダッシュパネル5の前方であってサイドメンバ2とアッパフレーム3との間(サイドメンバ2の外側かつアッパフレーム3の内側)には、スプリングハウス10が設けられる。
【0017】
スプリングハウス10は、図示しないフロントサスペンションの上部をボディに支持するための部位である。
図2に示すように、スプリングハウス10は、内側にショックアブソーバおよびコイルスプリング(いずれも図示略)を収容する容器形状に形成され、サイドメンバ2およびアッパフレーム3の各々に対して接合される。スプリングハウス10は、上面を形成する上面ブラケット11と側面を形成する側面パネル12とで構成される。
【0018】
上面ブラケット11は、サスペンションの上部(具体的には、ショックアブソーバの上端部)を支持する蓋状の部材である。上面ブラケット11のほぼ中央には開口11hが形成される。この開口11hには、ショックアブソーバの上端部がブッシュを介して固定される。上面ブラケット11は、車幅方向外側の縁部がアッパフレーム3に接合される。
【0019】
側面パネル12は、上面ブラケット11の周縁から下方に延設されてスプリングハウス10の側面全体を形成する部材であり、上面ブラケット11の下方でコイルスプリングを囲むように配設される。側面パネル12は、その上端部が上面ブラケット11の周縁に対して溶接接合され、その下端部がサイドメンバ2に対して溶接接合される。したがって、側面パネル12は、上面ブラケット11とサイドメンバ2との間を接続するように設けられる。
【0020】
図2および
図3に示すように、側面パネル12は、その内側を向く面(車幅方向内側に向かって法線が延びる面)に形成されるとともに上方から下方に向けて末広がりに延びる面部14と、面部14の前側および後側の各輪郭線14f,14rに沿って延設されたビード13f,13rを有する。ビード13f,13rは、側面パネル12の成形時におけるシワの発生を抑制するためのもの(シワ取りビード)である。ビード13f,13rは、例えば、面部14に対して車幅方向内側又は外側に向けて凸状に形成される。ビード13f,13rが面部14に対して凸状に形成されることで、後述する接合面13cの有する複数の溶接点15への荷重をより分散することが可能となる。
【0021】
面部14は、サイドメンバ2の長手方向(すなわち車両前後方向)および上下方向に沿って下方へ広がる部位であり、例えば平面状や、側面パネル12の面部14以外の部分の曲率よりも大きな曲率をもつ曲面状に形成される。側面パネル12は、この面部14の下端部がサイドメンバ2のアウタサイドメンバ2Aとインナサイドメンバ2Bとの間に配置された状態でサイドメンバ2に接合される。
【0022】
面部14は、車両側面視で(車幅方向内側から外側を見たときに)、末広がりの形状をなす。面部14の輪郭線14f,14rとは、面部14の輪郭線(外形線)のうち、面部14の前後に位置する線である。ビード13f,13rは、面部14の輪郭線14f,14rのそれぞれに沿って形成される。すなわち、ビード13f,13rは、ビード13f,13rを正面から見たときの形状がハの字型となるように形成される。
【0023】
前側のビード13f(以下「前側ビード13f」という)は、上端が下端よりも車両後方に位置するように、やや後傾した向きに形成される。一方、後側のビード13r(以下「後側ビード13r」という)は、上端が下端よりも車両前方に位置し、上端と下端とを繋いで弧を描くように形成される。
【0024】
前側ビード13fは、その上部が上下方向に沿って延びるとともに、下部に行くほど前方に向かうように湾曲形成されている。さらに、前側ビード13fの下端部13fbは、サイドメンバ2の長手方向(すなわち車両前後方向)に延びる上縁2eと平行に設けられる。なお、ここでいう下端部13fbとは、前側ビード13fの下側に位置する先端(例えば
図3中の右下の端)から所定の長さだけ横方向(車両前後方向)に延びた部分をいう。これにより、スプリングハウス10に入力された突き上げ荷重が、前側ビード13fを介して前方へと滑らかに分散される。
【0025】
前側ビード13fの下端部13fbの下方には、スプリングハウス10とサイドメンバ2とを接合するための接合面13cが設けられる。接合面13cは、面部14の一部であり、サイドメンバ2の長手方向および上下方向に広がるほぼ平坦な面として設けられる。接合面13cには、スプリングハウス10およびインナサイドメンバ2Bを接合するための複数の溶接点15が千鳥状に配置される。すなわち、面部14には、下端部13fbの下方に位置するとともに複数の溶接点15を有する接合面13cが設けられる。
【0026】
図2および
図3には、7つの溶接点15がサイドメンバ2の長手方向(車両前後方向)に沿い、上下に互い違いになるように配置されている場合を例示している。これらの溶接点15には、スプリングハウス10およびインナサイドメンバ2Bをスポット溶接した点と、これら二つの部材10,2Bに加えてフェンダシールド7もスポット溶接した点(三枚打ちした点)と、二つの部材10,2Bに加えてアウタサイドメンバ2Aもスポット溶接した点(三枚打ちした点)とが含まれる。複数の溶接点15を千鳥状に配置することで、溶接点15の配置に関するスペース効率が高まる。
【0027】
また、サイドメンバ2には、スプリングハウス10の接合面13cと接合される位置において上方に拡幅された拡大フランジ部2gが設けられる。拡大フランジ部2gは、インナサイドメンバ2Bのうち、車両前後方向に延びるとともにアウタサイドメンバ2Aに接合される上側のフランジ部2fの一部であって、高さ寸法を拡大させた部位である。拡大フランジ部2gは、車両側面視で(車幅方向内側から外側を見たときに)、接合面13cと重なる位置に設けられるとともに、上述した複数の溶接点15が配置される。
【0028】
なお、本実施形態では、後側ビード13rもその上部が上下方向に沿って延びるとともに、その下部が下方に行くほど後方に向かうように湾曲形成されている。さらに、後側ビード13rの下端部13rbは、サイドメンバ2の長手方向に延びる上縁2eと平行に設けられる。なお、ここでいう下端部13rbは、上記の下端部13fbと同様に、後側ビード13rの下側に位置する先端(例えば
図3中の左下の端)から所定の長さだけ横方向(車両前後方向)に延びた部分をいう。本実施形態では、前側ビード13fの下端部13fbの方が、後側ビード13rの下端部13rbよりも上方に位置する。これにより、接合面13cの面積が広く確保される。なお、本実施形態では、後側ビード13rの下端部13rbの下方にも、スプリングハウス10とサイドメンバ2とをスポット溶接した溶接点16が設けられる。
【0029】
図2および
図3中に二点鎖線で示すように、本実施形態のマウント6は、車両側面視で、その後部が前側ビード13fの下端部13fbと重複する位置に配置され、インナサイドメンバ2Bの上面2uに固定される。なお、マウント6の下方には、サイドメンバ2のインナリンフォース2Cが配置される。インナリンフォース2Cは、断面ハット型のインナサイドメンバ2Bの内側(アウトサイドメンバ2A側)の面に固定された補強部材である。
【0030】
[2.作用,効果]
(1)スプリングハウス10には下方からの突き上げ荷重が入力され、この荷重はビード13f,13rに沿って下方へと伝達される。このとき、仮にビードがサイドメンバに向かって直線的に延びている場合には、ビードの延長線とサイドメンバとの交差部分に荷重が集中し、スプリングハウスの亀裂や溶接箇所の剥離,破断を招きやすくなる。
【0031】
これに対し、上述した車両前部構造では、側面パネル12が、車幅方向内側を向く面に形成された末広がり状の面部14と、面部14の前側および後側の各輪郭線に沿って延設されたビード13f,13rとを有する。つまり、ビート13f,13rのそれぞれは、その上部が上下方向に沿って延びるとともに、下部に行くほど前方又は後方に向かうように湾曲形成されている。このため、ビード13f,13rに沿って伝達された荷重を一点に集中させることなく前後へと滑らかに分散させることができる。言い換えると、荷重(応力)がスプリングハウス10の側面パネル12とサイドメンバ2との接続箇所に集中して作用することを防ぐことができる。これにより、スプリングハウス10の亀裂や溶接箇所の剥離,破断を抑制することができる。
【0032】
さらに、面部14には、下端部13fbの下方に位置するとともに複数の溶接点15を有する接合面13cが設けられる。これにより、複数の溶接点15によって前側ビード13fに沿って伝達された荷重を分担することができるため、スプリングハウス10の亀裂等の発生を抑制することができるとともに、側面パネル12の面剛性を向上させることができる。
【0033】
加えて、上述したサイドメンバ2には、接合面13cと接合される位置において上方に拡幅された拡大フランジ部2gが設けられるため、溶接点15の個数を増やすことができ、ひとつの溶接点15が負担する荷重の大きさをより小さくすることができる。これにより、溶接箇所の剥離,破断を抑制することができる。
【0034】
(2)また、上述した車両前部構造によれば、接合面13cに複数の溶接点15が千鳥状に配置されているため、溶接点15の配置に関するスペース効率を高めることができる。これにより、スポット溶接時に必要な隣の溶接点15との間隔を確保しながら多くの溶接点15を設けることができ、ひとつの溶接点15が負担する荷重の大きさを小さくすることができる。
【0035】
(3)さらに、前側ビード13fの下端部13fbおよび後側ビード13rの下端部13rbがいずれも、サイドメンバ2の長手方向に延びる上縁2eと平行に設けられ、ビード13f,13rの延長線とサイドメンバ2とが交差することがない。このため、ビード13f,13rに沿って伝達された荷重を一点に集中させることなく前後へと滑らかに分散させることができる。言い換えると、荷重(応力)がスプリングハウス10の側面パネル12とサイドメンバ2との接続箇所に集中して作用することを防ぐことができる。これにより、スプリングハウス10の亀裂や溶接箇所の剥離,破断を抑制することができる。
【0036】
(4)また、上述した車両前部構造では、マウント6の後部が前側ビード13fの下端部13fbと車両側面視で重複する位置に配置されているため、マウント6からの荷重(パワープラント2の振動)も前側ビード13f付近に入力される。しかし、上述した面部14は末広がりの形状をなし、かつ、前側ビード13fの下端部13fbがサイドメンバ2の上縁2eと平行であるため、マウント6からの入力も前側ビード13fを通じて車体前方へと分散させることができる。
【0037】
言い換えると、上述した車両前部構造では、サスペンションから伝達される突き上げ荷重もマウント6からの入力も、どこか一点に集中することがないため、荷重が集中しやすい位置を避けてマウント6を配置するという制約がない。このため、マウント6の配置の自由度を高めることができる。
【0038】
[3.その他]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。上述した実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上述した溶接点15の個数や配置は一例であり、上述したものに限られない。上述した実施形態では、拡大フランジ部2gの上縁部に沿う4つの溶接点15と、フランジ部2fの上縁部の高さ位置に沿って配置された3つの溶接点15とを例示しているが、例えば拡大フランジ部2gを省略し、千鳥配置の溶接点15を全体的に下方に移動させてもよい。
【0039】
上述した実施形態では、マウント6の後部が、前側ビード13fの下端部13fbと車両側面視で重複する位置に配置されている場合を例示したが、マウント6の前部が下端部13fbと重複するように配置されていてもよい。あるいは、マウント6の一部が、後側ビード13rの下端部13rbと車両側面視で重複する位置に配置されていてもよい。少なくともマウント6の一部が、前側ビード13fまたは後側ビード13rの下端部13fb,13rbと重複して配置されていれば、上述した効果と同様の効果を得ることができる。なお、マウント6の前後方向位置はこれらに限られず、下端部13fbと車両側面視で重複しない位置であってもよい。
【0040】
上述した面部14およびビード13f,13rの具体的な形状は一例であり、上述したものに限られない。例えば、接合面が後側ビード13rの下端部13rbの下方に設けられていてもよい。少なくとも、面部14が車両側面視で末広がりの形状であり、面部14の前側および後側の輪郭線14f,14rのそれぞれに沿ってビード13f,13rが設けられ、さらに、ビード13f,13rの下端部13fb,13rbの一方または両方がサイドメンバ2の上縁2eと平行に設けられていればよい。