(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
感触評価装置が慣性センサの検出出力に基づいて情報処理を行う演算装置を備え、センシングユニットが、慣性センサの検出出力を無線で演算装置に送信する送信手段を備える請求項1〜3のいずれかに記載の感触評価装置。
慣性センサを指の背側に装着し、指の腹を対象物の表面に向けて該表面で指を移動させ、その移動時に慣性センサが検出した加速度と角速度に基づいて指の移動速度と角速度を計測し、指の移動速度と角速度に基づいて感触を評価する感触の評価方法。
対象物を皮膚とし、皮膚に化粧料を適用することにより指の腹又は掌と皮膚の間に化粧料を介在させて指又は掌を移動させる請求項8〜10のいずれかに記載の感触の評価方法。
慣性センサと該慣性センサを指に装着させるアタッチメントを含むセンシングユニットを使用し、センシングユニットの総重量を2〜20gとする請求項8〜12のいずれかに記載の感触の評価方法。
化粧料の適用の前後の皮膚温の変化を計測し、指の移動速度、角速度及び皮膚温の変化量に基づいて感触を評価する請求項12〜14のいずれかに記載の感触の評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は、同一又は同等の構成要素を表している。
【0017】
(全体構成)
図1は、本発明の一つ実施例の感触評価装置の概略構成図である。この感触評価装置1は、慣性センサ2と該慣性センサ2を指20の背側に装着可能とするアタッチメント3とを含むセンシングユニット4と、演算装置10を備えている。演算装置10は、慣性センサ2を指20の背側に装着した指20の腹21を対象物30の表面に向け、その表面で指20を移動させたときの少なくとも指20の移動方向の速度(例えば、指幅の方向のY軸速度)と該移動方向を含み指の腹と直交する平面に対して垂直な軸の周りの角速度(例えば、指20の長手方向であるX軸の周りの角速度。以下、X軸角速度ともいう。)を、慣性センサ2の検出出力に基づいてディスプレイ、プリンタ等に出力する。
【0018】
一般に、指を対象物に接触させ、対象物の表面に沿って指を一定方向に移動させる間は、人は無意識のうちに指の移動速度を略一定とし、移動方向を反転させるときにはその加速度を略一定とする傾向があり、また、対象物を押圧する力は指を移動させる間は略一定とする傾向があるが、対象物に接触させている指の表面の皮膚の捻れの程度を意思で制御することはない。このため、この捻れの発生状況は、人の意思に関わることなく、指と対象物との関わりを表すものとなり、感触の客観的な評価指標となる。そこで、本実施例ではこの捻れの発生状況を、以下に説明するように、指の移動方向を含み指の腹と直交する平面に対して垂直な軸の周りの角速度として計測し、そうして得られた角速度と指の移動速度とから感触を評価する。
【0019】
(指の移動方向の速度と、その移動方向を含む平面に垂直な軸の周りの角速度を計測する意義)
図2(a)に示すように、慣性センサ2と、該慣性センサ2を指の背側に装着可能とするアタッチメント3を含むセンシングユニット4を、指20の第2関節よりも先端側の背側に装着し、その指20を、指の腹21で対象物30を擦るように指幅の方向に移動させるとき、慣性センサ2は、指20の移動方向の加速度を検出すると共に、その移動方向を含み指の腹に直交する平面に対して垂直な軸(即ち、指20の長手方向)の周りの角速度を検出する。このとき指の移動方向の速度は、移動方向の反転動作に入る前は通常一定となる。
【0020】
一方、
図2(b)に示すように、指20が移動方向を反転させるとき、指20の移動方向の速度は漸次小さくなり、反転時に速度がゼロとなる。また、反転後に移動方向の速度の絶対値は漸次大きくなり、移動方向の反転動作に入る前の大きさに回復する(同図(c))。
【0021】
これに対し、指20の長手方向の軸周りの角速度は、指が反転動作に入る前の
図2(a)の状態では大きな変化はない。しかしながら、
図2(b)に示す反転時に、慣性センサ2とアタッチメント3を含むセンシングユニット4は、その重量により反転前の移動方向に進もうとするので、指20の表面の皮膚が捻れ、指20の長手方向を軸として回転しようとする。そのため、大きな角速度が検出される。
【0022】
次に、
図2(c)に示すように指20が対象物30の表面を移動している状態から、
図2(d)に示すように移動方向を反転させるときも、指20の移動方向の速度は漸次低下して反転時にゼロとなり、その後、移動方向の速度の絶対値は当初の大きさに回復する。これに対して、移動方向の反転時にセンシングユニット4は、その重さにより直ちには移動方向を反転させることができず、このときも指20の皮膚が捻れ、指の長手方向を軸とする大きな角速度が検出される。
【0023】
このように、指20を往復運動させると、指20の移動方向の速度がゼロとなるときに、指20の長手方向を軸とする角速度が大きくなるという傾向があり、指20が移動方向を反転させずに一方向に移動させる場合には、指20の移動方向の速度と指20の長手方向を軸とする角速度の大きさの関係は、指20が対象物30上をどのように移動するかに応じて変化する。例えば、指がなめらかに対象物上を移動する場合には、移動方向の速度は略一定となり、指の長手方向を軸とする角速度は小さい値で安定するが、指がひっかかるように対象物上を移動すると、ひっかかりの度に指の長手方向を軸とする角速度が変化する。したがって、本発明によれば、指の移動方向の速度と、指の長手方向を軸とする角速度との関係から、指で感じられる感触を評価することが可能となる。
【0024】
ここで、指の移動方向の速度と指の長手方向を軸とする角速度とから指で感じる感触を評価することは、指が一直線上を往復運動する場合に限られず、指が対象物の表面を2次的に移動する場合にも適用することができ、さらに対象物をパッティングする場合のように対象物の表面から離れた位置から対象物に触れる場合にも適用することができる。
【0025】
指の移動方向の速度と指の長手方向を軸とする角速度とからどのように感触を評価できるかについての詳細は、後述する実施例で具体的に説明する。
【0026】
(慣性センサ)
慣性センサ2としては、少なくとも指を指幅方向に移動させるときの指の移動方向の角速度と、その移動方向を含み指の腹に直交する平面に対して垂直な軸の周りの角速度を検出できるものを使用する。したがって、3軸方向の加速度と各軸周りの角速度を測定することのできる公知の慣性センサを使用することができる。これにより、対象物の表面で指を平面的に移動させた場合の感触を評価することが可能となり、またパッティングを伴う動作の感触も評価することが可能となる。
【0027】
慣性センサ2としては、加速度と角速度に加えて方位を検出できるものを使用してもよい。これにより、指の移動方向の絶対的な向きを検出することができる。
【0028】
慣性センサ2は、第2関節よりも先端側の背側に慣性センサ2を装着した指20で対象物30の感触をみる動作を阻害しないようにする点から、小型で軽量なものが好ましい。そのため、慣性センサ2と該慣性センサ2を指20に装着するアタッチメント3を含むセンシングユニット4の総重量は20g以下が好ましく、15g以下がより好ましい。一方、移動方向の反転時の角速度を検出しやすくする点から上述の総重量は2g以上が好ましく、5g以上がより好ましい。
【0029】
慣性センサ2としては、サンプリングした検出結果を無線で出力できるBluetooth(登録商標)等の送信機能を備えた小型のマイコンシステムを含むものを使用することが好ましい。この送信機能により、指で感触をみる動作を阻害することなく、慣性センサの検出結果を使用することができ、また、リアルタイムで動作を解析することが可能となる。また、慣性センサ2としては、検出した加速度から速度を出力する機能を備えたものを使用してもよい。これらの機能を備えた慣性センサとしては市販のものを使用することができる。
【0030】
一方、慣性センサ2としては、無線で検出結果を出力する機能を備えず、検出結果をメモリに記憶するものを使用してもよい。その場合には、記憶した検出結果をメモリから読み出して解析すればよい。また、慣性センサ2が送信機能を備えていない場合に、送信装置をアタッチメントに取り付け、その送信装置によって慣性センサ2の検出出力が送信されるようにしてもよい。
【0031】
慣性センサ2の装着位置は、通常、上述のように指の第2関節よりも先端側の背側であり、第1関節よりも先端側とすることが好ましく、爪の付け根あたりとすることがより好ましいが、指の動きの態様によっては必ずしも指の第2関節よりも先端側に限られない。例えば、掌全体を使用して化粧料を顔に塗布する動きの場合には、指の付け根の背側を慣性センサ2の装着位置としてもよい。また、指の背側の複数箇所を装着位置としてもよく、指の背側を装着位置とすることに加えて、指と異なる部位を装着位置としてもよく、例えば手の甲、腕、肩、頭などに装着してもよい。これにより、対象物と指の相対的な移動方向でなく、絶対的な移動方向を判定することが可能となる。
【0032】
(アタッチメント)
本発明では、慣性センサ2を指の背側に装着することを可能とするアタッチメント3を使用する。例えば、
図1の実施例のアタッチメント3は、指20の第2関節よりも先端側の背側に装着することを可能とする。また、同図のアタッチメント3は、指の腹21を覆うことなく指20の背側から指20に嵌着するもので、断面が概略コ字形であり、容易に着脱できる樹脂製治具となっている。一方、慣性センサ2を指の背側に装着させるアタッチメント3としては、指の腹21で対象物を直接的に擦ることを可能とする限り、指輪のように指を挿入するタイプのものでもよく、慣性センサ2と指の背とを貼着する粘着シート等であってもよい。
【0033】
アタッチメント3を指に嵌着させる断面コ字型のもの、あるいは指を挿入する指輪タイプのものとする場合に、対象物の感触をみる個々の被験者の指の形や大きさにアタッチメント3が適合するように、アタッチメント3をカスタマイズしてもよい。その場合、アタッチメント3は、3Dプリンタ等を使用して作製することができる。
【0034】
一方、指の背側の以外の位置(例えば、手の甲、腕、肩、頭など)にも慣性センサを装着する場合、各装着位置に適したアタッチメントを使用することができる。
【0035】
(演算装置)
本実施例において、演算装置10は、慣性センサ2が出力した加速度及び角速度を取得し、少なくとも指の移動方向の速度と、その移動方向を含み指の腹に直交する平面に対して垂直な軸の周りの角速度とを出力するという情報処理を行う。演算装置10は、慣性センサ2で検出される加速度と角速度から所定の方向の速度と角速度を出力する公知のセンサ・ヒュージョンを搭載したパーソナルコンピュータ等から構成することができる。
【0036】
なお、本明細書でいう演算装置10における情報処理は、演算装置10により行われるデータの入力と出力を伴う一切の処理をさし、具体的には慣性センサ2の検出出力である生データが演算装置10に入力された場合にその検出出力をそのまま人が可読可能に表示するための処理や印刷するためのデータとして出力することも含む。即ち、慣性センサ2が、加速度と角速度を検出し、それを出力する機能だけでなく、指の移動方向の速度とその移動方向を含み指の腹に直交する平面に対して垂直な軸の周りの角速度を出力する機能も有する場合、演算装置10は慣性センサ2から出力されたデータを可読可能に処理するだけでもよい。
【0037】
(対象物)
対象物30としては、指で感触を調べられるものである限り特に制限はない。例えば、化粧料の適用前又は適用後の皮膚、皮膚に塗布する化粧料それ自体、衣料品、日用品、運動具などをあげることができ、化粧料の形態は、液体、クリーム、パウダー、泡などをあげることができる。
【0038】
(感触の評価方法)
本発明の感触の評価方法は、慣性センサ2を指20の背側に装着し、指の腹を上述の種々の対象物30の表面に向け、その表面で指20を移動させ、その移動時に慣性センサ2が検出した加速度と角速度に基づいて指の移動速度と角速度を計測し、指の移動速度と角速度に基づいて感触を評価する方法である。この場合、慣性センサ2を装着した指20の腹を対象物30に直接接触させて指を移動させてもよく、対象物によっては指の腹を浮かし、掌の一部又は全部を対象物に接触させて指を移動させてもよい。例えば、対象物を皮膚とする場合、指の腹で皮膚に触れた状態でその指を移動させてもよく、指の腹を皮膚から浮かし、掌の一部又は全部を皮膚に触れさせ、その掌を移動させてもよい。また、指の腹又は掌を皮膚に直接接触させずに、皮膚に化粧料を適用することにより指の腹又は掌と皮膚の間に化粧料を介在させて指又は掌を移動させてもよい。この場合、皮膚への化粧料の適用の前後の皮膚温を計測し、指の移動速度と角速度だけでなく、皮膚温の変化量にも基づいて感触を評価することが好ましい。これにより指の移動速度と角速度だけでは区別できない感触を区別できるようになる。したがって、より多様な感触を評価することが可能となる。
【0039】
なお、皮膚温は、接触式の温度計により計測してもよく、非接触式の温度計で計測してもよい。
【0040】
また、化粧料を適用することにより皮膚温が変化する状況としては、例えば、化粧水を皮膚に塗布したときに生じる気化熱によって皮膚の温度が低下する場合、化粧料に含まれている刺激成分により、その化粧料を塗布した皮膚の温度が上昇する場合、加温又は冷却した化粧料を皮膚に適用する場合等をあげることができる。
【0041】
こうして得られた本発明による感触の評価は、既存の対象物の感触の評価として使用できる他、化粧料などの開発においては、感触に応じて組成を変えることができるので、化粧料の設計にも有用となる。
【0042】
さらに、本発明は、対象物に触れる指の圧力のかけ方や移動速度の変化のさせ方による感触の違いを調べることにも使用することができる。したがって、例えば、マッサージにおける指のタッチの評価等にも使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
(1)感触評価装置の作製
慣性センサとして、Bluetooth(登録商標)モジュールが組み込まれている、臼田総合研究所株式会社製、U−BRAIN MicroSmartを使用した。
【0044】
また、
図1に示した、断面コ字形のアタッチメント3を光硬化樹脂を用いて3Dプリンタにより作製し、その天面に慣性センサを取り付けた。慣性センサ2とアタッチメント3を含むセンシングユニット4の総重量は12gであった。
【0045】
一方、慣性センサから出力される加速度と角速度から指の移動方向の速度と該移動方向を含み指の腹に直交する平面に垂直な軸の周りの角速度を計測するアプリケーションをパーソナルコンピュータに搭載した。
【0046】
(2)試験例1
(1)で作製した感触評価装置において、次のように慣性センサを設定した。
・サンプリング:50Hz
・検出項目:XYZの加速度と角速度の合計6項目
・加速度の検出:±4G
・角速度の検出:±500°/sec
【0047】
慣性センサ2を取り付けたアタッチメント3を中指の第1関節付近に背側から装着した。
皮膚上に試料として美容液1を0.2gおき、その美容液1を上記中指の腹で皮膚に塗り広げた。この場合、中指は指の幅方向に往復運動させた。
【0048】
この往復運動の間に計測された指の移動方向の加速度(Y軸加速度)と、該移動方向を含み指の腹に直交する平面に垂直な軸の周りの角速度(X軸角速度)のログを記録した。結果を
図3Aに示す。
【0049】
試料として、美容液2を用意し、美容液1に代えて美容液2を使用する以外は上述と同様にして指の移動方向の加速度(Y軸加速度)と、該移動方向を含む平面に垂直な軸の周りの角速度(X軸角速度)のログを記録した。結果を
図3Bに示す。
【0050】
また、
図3A及び
図3Bの結果から算出した、指の移動方向の速度(Y軸速度)を
図3Cに示し、該移動方向を含み指の腹に直交する平面に垂直な軸の周りの角速度(X軸角速度)であって7.5秒間の平均値の変化を
図3Dに示す。
図3C及び
図3Dから、美容液1と美容液2のY軸速度は略等しいが、X軸角速度は時間の経過に伴って美容液2よりも美容液1が増加している。各試料の官能評価を化粧料の専門パネラーの言葉による評価として得たところ、美容液1は「ゆっくりなじんで徐々に重くなる」、美容液2は「つるつるとした感触が長く続く」という結果が得られた。
図3Dの角速度の変化は、製剤の塗布過程における抵抗感(なじんで重くなっていく感じ)と相関が高く、2つの剤の差異を的確にしている。
【0051】
(3)試験例2
美容液1に代えて市販の3種類の化粧料A(乳液)、化粧料B(日焼け止め)、化粧料C(おしろい)をそれぞれ使用し、それぞれのY軸速度とX軸角速度を同様に求めた。結果を
図4A、
図4B、
図4Cに示す。
【0052】
一方、化粧料A、B、Cをそれぞれ皮膚に塗布した場合の感触を、化粧料の専門パネラーの言葉による評価として得た。その結果、化粧料Aはなめらかな感触、化粧料Bは重くひっかかる感触、化粧料Cはするする滑る感触という評価を得た。
【0053】
これにより、指を左右に往復運動させる場合、なめらかな感触はY軸速度が正弦波状のなめらかな波形となり、この波形では、Y軸速度が、指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、反転時にはゼロとなること、X軸角速度も指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、それ以外では概略一定であることがわかる。
【0054】
また、重くひっかかる感触でも、Y軸速度は指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、反転時にゼロとなるが、小さい周期のノイズが乗った波形となること、また、X軸角速度は、反転時と反転時の中間でY軸速度がピークとなるときに、鋭く大きなピークとなることがわかる。
【0055】
するする滑る感触では、Y軸速度は、なめらかな感触の場合と同様に正弦波状のなめらかな波形となるが、X軸角速度はY軸速度よりも短い周期の波形となり、移動方向の反転時に、そのピークが鋭く大きくなることがわかる。移動方向の反転時にX軸角速度のピークが大きくなるのは、
図2(b)、(d)で説明したように、センシングユニットの重みにより、指の移動方向の反転時に指の皮膚が捻れ、指の長手方向を回転の軸とする大きな角速度が発生するためと考えられる。
【0056】
図5に化粧料A、B、CのそれぞれのY軸速度の平均値とX軸角速度の平均値を示した。同図から、するする滑る感触の化粧料Cでは、なめらかな感触の化粧料Aや重くひっかかる感触の化粧料BよりもY軸速度平均が高いこと、また、重くひっかかる感触の化粧料Bでは、X軸角速度平均のY軸速度平均に対する相対的な割合が他の化粧料A、Cよりも高いことがわかる。
【0057】
(4)試験例3
美容液1に代えて、市販の4種類のクリーム1、2、3、4を使用し、Y軸速度とX軸角速度を同様に求めた。結果を
図6A、
図6B、
図6C、
図6Dに示す。
【0058】
また、これら4種類についても、皮膚に塗布した場合の感触を、化粧料の専門パネラーの言葉による評価として得た。その結果、クリーム1はすべりがよくなめらかな感触、クリーム2は抵抗が大きく引っ張られる感触、クリーム3はつるつるよく滑る感触、クリーム4は密着する感じが強い感触という評価を得た。
【0059】
この試験例3においても、指を左右に往復運動させるとなめらかな感触のクリーム1では、試験例2におけるなめらかな感触の化粧料Aの場合と同様に、Y軸速度が正弦波状のなめらかな波形となり、指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、反転時にはゼロとなること、また、X軸角速度も指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、それ以外では概略一定であることから、このようなY軸速度とX軸角速度の関係は、なめらかな感触を表すことがわかる。
【0060】
抵抗が大きく引っ張られる感触のクリーム2は、試験例2における重くひっかかる感触の化粧料Bと同様に、Y軸速度は指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、反転時にゼロとなるが、小さい周期のノイズが乗った波形となること、また、X軸角速度は、反転時と反転時の中間でY軸速度がピークとなるときに、鋭く大きなピークとなることから、このようなY軸速度とX軸角速度の関係は、ひっかかる感触を表すことがわかる。
【0061】
つるつるよく滑る感触のクリーム3は、試験例2におけるするする滑る感触の化粧料Cと同様に、Y軸速度は、なめらかな正弦波状の波形となるが、X軸角速度はY軸速度よりも短い周期の波形となり、移動方向の反転時に、そのピークが鋭く大きくなることから、このようなY軸速度とX軸角速度の関係は、滑る感触を表すことがわかる。
【0062】
密着する感じが強いクリーム4では、Y軸速度の波形とX軸角速度の波形のピークの位相がほぼそろっていた。
【0063】
(5)試験例4
美容液1に代えて市販のサンスクリーン製剤A、B、Cを腕に塗布し、試験例1と同様にしてY軸速度とX軸角速度を求めた。X軸角速度の結果を
図7に示す。
また、各サンスクリーン製剤の塗布の前後の腕の皮膚の温度を計測し、サンスクリーン製剤の塗布による最大低下温度(ΔT)を測定した。ここで、最大低下温度ΔTは次式により求まる。
ΔT=−([サンスクリーン製剤の塗布後の皮膚温]−[サンスクリーン製剤の塗布前の皮膚温])
【0064】
サンスクリーン製剤の塗布による皮膚温の最大低下温度は次の通りであった。
サンスクリーン製剤A;3.9℃
サンスクリーン製剤B:3.9℃
サンスクリーン製剤C:2.9℃
【0065】
また、各サンスクリーン製剤A、B、Cについて、「なじみはやさ」、「なめらかさ」、「みずみずしさ」、「ひんやり感」の4種の感触を、製剤Aでは74名、製剤Bでは17名,製剤Cでは72名の成人女性が1(弱)〜7(強)の7段階に官能評価した。表1に、各剤における評価値の平均を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
「なじみはやさ」及び「なめらかさ」について、表1に示した官能評価の結果によれば、サンスクリーン製剤A、B、Cのいずれも区別されるが、
図7に示したX軸角速度の計測結果によればサンスクリーン製剤Bとサンスクリーン製剤Cを区別することができない。また、「みずみずしさ」、「ひんやり感」について、表1に示した官能評価の結果によれば、サンスクリーン製剤Aとサンスクリーン製剤Bを区別することができないが、
図7に示したX軸角速度の計測結果からはサンスクリーン製剤Aとサンスクリーン製剤Bを区別することができる。
【0068】
このように、
図7に示したX軸角速度の計測結果だけでは、サンスクリーン製剤A、B、Cを実際の感触と整合するように区別することができない。
一方、皮膚温の最大効果温度によれば、サンスクリーン製剤A、Bとサンスクリーン製剤Cとは明確に区別することができるが、サンスクリーン製剤Aとサンスクリーン製剤Bとは区別することができない。
【0069】
これに対し、X軸角速度の計測結果と皮膚温の最大低下温度ΔTの計測結果の双方に基づくことにより、サンスクリーン製剤A、B、Cを実際の感触と整合するように区別できることがわかる。よって、本発明の感触の評価方法において皮膚温の変化量も計測することで、より幅広い感触を評価できることがわかる。