特許第6881159号(P6881159)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881159
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】感触評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/00 20060101AFI20210524BHJP
   A45D 44/00 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   G01P15/00 A
   A45D44/00 A
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-163413(P2017-163413)
(22)【出願日】2017年8月28日
(65)【公開番号】特開2018-109599(P2018-109599A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2020年6月1日
(31)【優先権主張番号】特願2016-256495(P2016-256495)
(32)【優先日】2016年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】特許業務法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山岸 敦
(72)【発明者】
【氏名】小島 晴予
(72)【発明者】
【氏名】稲田 英里子
【審査官】 岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−176176(JP,A)
【文献】 特開2014−142206(JP,A)
【文献】 特開2013−54476(JP,A)
【文献】 特開2004−216011(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0142065(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P15/00−15/18
G01P 3/00− 3/80
G01P 7/00
G01L 5/00− 5/28
G01N33/00−33/46
A45D44/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度と角速度を検出する慣性センサ、及び該慣性センサを指の背側に装着可能とするアタッチメントを含むセンシングユニットを備えた感触評価装置であって、
慣性センサの検出出力に基づいて指の移動速度及び角速度を計測する感触評価装置。
【請求項2】
アタッチメントが、指の腹を覆うことなく、指の背側から指に嵌着する構造を有する請求項1記載の感触評価装置。
【請求項3】
センシングユニットの総重量が2〜20gである請求項1又は2記載の感触評価装置。
【請求項4】
感触評価装置が慣性センサの検出出力に基づいて情報処理を行う演算装置を備え、センシングユニットが、慣性センサの検出出力を無線で演算装置に送信する送信手段を備える請求項1〜3のいずれかに記載の感触評価装置。
【請求項5】
慣性センサが、互いに直交する3軸方向の加速度、及び互いに直交する3軸の周りの角速度を検出する請求項1〜4のいずれかに記載の感触評価装置。
【請求項6】
アタッチメントによる慣性センサの装着位置が指の第2関節よりも先端側である請求項1〜5のいずれかに記載の感触評価装置。
【請求項7】
慣性センサが指の背側の複数箇所、又は指の背側と指以外の箇所に装着される請求項1〜6のいずれかに記載の感触評価装置。
【請求項8】
慣性センサを指の背側に装着し、指の腹を対象物の表面に向けて該表面で指を移動させ、その移動時に慣性センサが検出した加速度と角速度に基づいて指の移動速度と角速度を計測し、指の移動速度と角速度に基づいて感触を評価する感触の評価方法。
【請求項9】
慣性センサを装着した指を、対象物の表面で左右に往復運動させる請求項8記載の感触の評価方法。
【請求項10】
指の腹を対象物に直接接触させて指を移動させる請求項8又は9記載の感触の評価方法。
【請求項11】
対象物を皮膚とし、皮膚を指の腹又は掌で触れ、指又は掌を移動させる請求項8〜10のいずれかに記載の感触の評価方法。
【請求項12】
対象物を皮膚とし、皮膚に化粧料を適用することにより指の腹又は掌と皮膚の間に化粧料を介在させて指又は掌を移動させる請求項8〜10のいずれかに記載の感触の評価方法。
【請求項13】
慣性センサと該慣性センサを指に装着させるアタッチメントを含むセンシングユニットを使用し、センシングユニットの総重量を2〜20gとする請求項8〜12のいずれかに記載の感触の評価方法。
【請求項14】
慣性センサを指の背側の複数箇所、又は指の背側と指以外の箇所に装着する請求項8〜13のいずれかに記載の感触の評価方法。
【請求項15】
化粧料の適用の前後の皮膚温の変化を計測し、指の移動速度、角速度及び皮膚温の変化量に基づいて感触を評価する請求項12〜14のいずれかに記載の感触の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感触評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感触は、それを評価する対象物に指で触れ、擦ったり押圧したりしたときに得られる感覚であり、感触によって皮膚の乾燥、湿潤、はり等の性状が調べられたり、化粧料を適用した後の皮膚や毛髪の状態が調べられたりしている。感触は、衣料品、日用品、運動具等の種々の物品の使用感や使いやすさにも影響しており、種々の場面で判断されている。
【0003】
感触は、個々の評価者によって主観的に判断され、言葉によって表されている。これに対し、感触に対応した客観的な計測データを得る技術として、指先に加速度センサと歪みゲージを取り付け、加速度センサにより指の動作の速度を測定すると共に、歪みゲージで指の変形を検出し、指の変形から指に印加されている接触圧を求める方法がある(特許文献1)。
【0004】
また、指を剛体面に押し付けたときの指先の左右の側端の位置と、押圧力と、剛体面の面内方向の接触力と、指を剛体面に押し付けて指を左右に移動させたときの滑りに基づいて指先の弾性体モデルのパラメータを算出しておき、指を被験面に接触させたときの指先の側端の位置と弾性体モデルのパラメータから押圧力と接触力を求める方法がある(特許文献2)。
【0005】
感触の評価対象物の表面が平滑な場合に、その平滑面に圧電素子を接触させ、移動させることにより感触を評価する方法もある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−3782号公報
【特許文献2】特開2015−114169号公報
【特許文献3】特開2016−122363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の感触の評価方法のうち、指で対象物を押圧しているときの押圧力や接触圧に基づく方法によれば、握るあるいは押すという動作時の感触に対応するデータは得られるが、化粧料を肌に塗布するときのように指を対象物の表面に接触させ、その表面に沿って動かすときの感触は評価することができない。
【0008】
また、対象物の表面に圧電素子を接触させて移動させる方法によれば、対象物自体の滑り性は評価できるが、この方法で得られるデータは指で対象物に直接触れて得るものではないため、指で対象物に触れて感じられる感触に対して必ずしも対応するものとはならない。感触は、対象物に触れる指先の状態によっても異なるためである。さらに、この方法によっても肌に化粧料を塗布するときの感触は評価することができない。
【0009】
これに対し、本発明は、指を対象物の表面で移動させたときの感触を、肌に化粧料を塗布する場合などの感触も含めて客観的に評価できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、指の背側に慣性センサを装着し、指の腹で対象物を擦る動作を行った場合に、指の移動速度と角速度を測定すると、その移動速度と角速度との関係から感触を評価できることを見出し、本発明を想到した。
【0011】
即ち、本発明は、加速度と角速度を検出する慣性センサ、及び該慣性センサを指の背側に装着可能とするアタッチメントを含むセンシングユニットを備えた感触評価装置であって、慣性センサの検出出力に基づいて指の移動速度及び角速度を計測する感触評価装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、慣性センサを指の背側に装着し、指の腹を対象物の表面に向けて該表面で指を移動させ、その移動時に慣性センサが検出した加速度と角速度に基づいて指の移動速度と角速度を計測し、指の移動速度と角速度に基づいて感触を評価する感触の評価方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、慣性センサが検出した加速度と角速度に基づき、指の移動方向の速度と角速度を計測する。この移動速度と角速度の関係は、指が対象物の表面を滑るようにして移動しているのか、引っ張られるように移動しているのか、くっつくように移動しているのかなど、指がどのように移動しているのかを表す。したがって、指で感じられる感触に対応する客観的な評価を得ることができる。
【0014】
また、本発明によれば、指が直接対象物に触れて対象物を擦るように移動させた場合の感触も、指と対象物の間に化粧料などを介在させて指を移動させた場合の感触も評価することができる。したがって、日常生活で感じ取られる種々の感触を評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例の感触評価装置の概略構成図である。
図2図2は、本発明の感触評価装置が計測する移動速度と角速度の説明図である。
図3A図3Aは、美容液1を皮膚に塗布したときに実施例の感触評価装置で検出された加速度データと角速度データである。
図3B図3Bは、美容液2を皮膚に塗布したときに実施例の感触評価装置で検出された加速度データと角速度データである。
図3C図3Cは、美容液1と美容液2をそれぞれ皮膚に塗布したときに実施例の感触評価装置で測定されたY軸方向の速度である。
図3D図3Dは、美容液1と美容液2をそれぞれ皮膚に塗布したときに実施例の感触評価装置で測定されたX軸の周りの角速度である。
図4A図4Aは、化粧料Aを皮膚に塗布したときに実施例の感触評価装置で測定されたY軸方向の速度とX軸の周りの角速度である。
図4B図4Bは、化粧料Bを皮膚に塗布したときに実施例の感触評価装置で測定されたY軸方向の速度とX軸の周りの角速度である。
図4C図4Cは、化粧料Cを皮膚に塗布したときに実施例の感触評価装置で測定されたY軸方向の速度とX軸の周りの角速度である。
図5図5は、化粧料A、B、CのY軸方向の速度平均とX軸の周りの角速度平均の棒グラフである。
図6A図6Aは、クリーム1を皮膚に塗布したときに実施例の感触評価装置で測定されたY軸方向の速度とX軸の周りの角速度である。
図6B図6Bは、クリーム2を皮膚に塗布したときに実施例の感触評価装置で測定されたY軸方向の速度とX軸の周りの角速度である。
図6C図6Cは、クリーム3を皮膚に塗布したときに実施例の感触評価装置で測定されたY軸方向の速度とX軸の周りの角速度である。
図6D図6Dは、クリーム4を皮膚に塗布したときに実施例の感触評価装置で測定されたY軸方向の速度とX軸の周りの角速度である。
図7図7は、サンスクリーン製剤A、B、Cを腕に塗布したときに実施例の感触評価装置で測定されたX軸の周りの角速度である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は、同一又は同等の構成要素を表している。
【0017】
(全体構成)
図1は、本発明の一つ実施例の感触評価装置の概略構成図である。この感触評価装置1は、慣性センサ2と該慣性センサ2を指20の背側に装着可能とするアタッチメント3とを含むセンシングユニット4と、演算装置10を備えている。演算装置10は、慣性センサ2を指20の背側に装着した指20の腹21を対象物30の表面に向け、その表面で指20を移動させたときの少なくとも指20の移動方向の速度(例えば、指幅の方向のY軸速度)と該移動方向を含み指の腹と直交する平面に対して垂直な軸の周りの角速度(例えば、指20の長手方向であるX軸の周りの角速度。以下、X軸角速度ともいう。)を、慣性センサ2の検出出力に基づいてディスプレイ、プリンタ等に出力する。
【0018】
一般に、指を対象物に接触させ、対象物の表面に沿って指を一定方向に移動させる間は、人は無意識のうちに指の移動速度を略一定とし、移動方向を反転させるときにはその加速度を略一定とする傾向があり、また、対象物を押圧する力は指を移動させる間は略一定とする傾向があるが、対象物に接触させている指の表面の皮膚の捻れの程度を意思で制御することはない。このため、この捻れの発生状況は、人の意思に関わることなく、指と対象物との関わりを表すものとなり、感触の客観的な評価指標となる。そこで、本実施例ではこの捻れの発生状況を、以下に説明するように、指の移動方向を含み指の腹と直交する平面に対して垂直な軸の周りの角速度として計測し、そうして得られた角速度と指の移動速度とから感触を評価する。
【0019】
(指の移動方向の速度と、その移動方向を含む平面に垂直な軸の周りの角速度を計測する意義)
図2(a)に示すように、慣性センサ2と、該慣性センサ2を指の背側に装着可能とするアタッチメント3を含むセンシングユニット4を、指20の第2関節よりも先端側の背側に装着し、その指20を、指の腹21で対象物30を擦るように指幅の方向に移動させるとき、慣性センサ2は、指20の移動方向の加速度を検出すると共に、その移動方向を含み指の腹に直交する平面に対して垂直な軸(即ち、指20の長手方向)の周りの角速度を検出する。このとき指の移動方向の速度は、移動方向の反転動作に入る前は通常一定となる。
【0020】
一方、図2(b)に示すように、指20が移動方向を反転させるとき、指20の移動方向の速度は漸次小さくなり、反転時に速度がゼロとなる。また、反転後に移動方向の速度の絶対値は漸次大きくなり、移動方向の反転動作に入る前の大きさに回復する(同図(c))。
【0021】
これに対し、指20の長手方向の軸周りの角速度は、指が反転動作に入る前の図2(a)の状態では大きな変化はない。しかしながら、図2(b)に示す反転時に、慣性センサ2とアタッチメント3を含むセンシングユニット4は、その重量により反転前の移動方向に進もうとするので、指20の表面の皮膚が捻れ、指20の長手方向を軸として回転しようとする。そのため、大きな角速度が検出される。
【0022】
次に、図2(c)に示すように指20が対象物30の表面を移動している状態から、図2(d)に示すように移動方向を反転させるときも、指20の移動方向の速度は漸次低下して反転時にゼロとなり、その後、移動方向の速度の絶対値は当初の大きさに回復する。これに対して、移動方向の反転時にセンシングユニット4は、その重さにより直ちには移動方向を反転させることができず、このときも指20の皮膚が捻れ、指の長手方向を軸とする大きな角速度が検出される。
【0023】
このように、指20を往復運動させると、指20の移動方向の速度がゼロとなるときに、指20の長手方向を軸とする角速度が大きくなるという傾向があり、指20が移動方向を反転させずに一方向に移動させる場合には、指20の移動方向の速度と指20の長手方向を軸とする角速度の大きさの関係は、指20が対象物30上をどのように移動するかに応じて変化する。例えば、指がなめらかに対象物上を移動する場合には、移動方向の速度は略一定となり、指の長手方向を軸とする角速度は小さい値で安定するが、指がひっかかるように対象物上を移動すると、ひっかかりの度に指の長手方向を軸とする角速度が変化する。したがって、本発明によれば、指の移動方向の速度と、指の長手方向を軸とする角速度との関係から、指で感じられる感触を評価することが可能となる。
【0024】
ここで、指の移動方向の速度と指の長手方向を軸とする角速度とから指で感じる感触を評価することは、指が一直線上を往復運動する場合に限られず、指が対象物の表面を2次的に移動する場合にも適用することができ、さらに対象物をパッティングする場合のように対象物の表面から離れた位置から対象物に触れる場合にも適用することができる。
【0025】
指の移動方向の速度と指の長手方向を軸とする角速度とからどのように感触を評価できるかについての詳細は、後述する実施例で具体的に説明する。
【0026】
(慣性センサ)
慣性センサ2としては、少なくとも指を指幅方向に移動させるときの指の移動方向の角速度と、その移動方向を含み指の腹に直交する平面に対して垂直な軸の周りの角速度を検出できるものを使用する。したがって、3軸方向の加速度と各軸周りの角速度を測定することのできる公知の慣性センサを使用することができる。これにより、対象物の表面で指を平面的に移動させた場合の感触を評価することが可能となり、またパッティングを伴う動作の感触も評価することが可能となる。
【0027】
慣性センサ2としては、加速度と角速度に加えて方位を検出できるものを使用してもよい。これにより、指の移動方向の絶対的な向きを検出することができる。
【0028】
慣性センサ2は、第2関節よりも先端側の背側に慣性センサ2を装着した指20で対象物30の感触をみる動作を阻害しないようにする点から、小型で軽量なものが好ましい。そのため、慣性センサ2と該慣性センサ2を指20に装着するアタッチメント3を含むセンシングユニット4の総重量は20g以下が好ましく、15g以下がより好ましい。一方、移動方向の反転時の角速度を検出しやすくする点から上述の総重量は2g以上が好ましく、5g以上がより好ましい。
【0029】
慣性センサ2としては、サンプリングした検出結果を無線で出力できるBluetooth(登録商標)等の送信機能を備えた小型のマイコンシステムを含むものを使用することが好ましい。この送信機能により、指で感触をみる動作を阻害することなく、慣性センサの検出結果を使用することができ、また、リアルタイムで動作を解析することが可能となる。また、慣性センサ2としては、検出した加速度から速度を出力する機能を備えたものを使用してもよい。これらの機能を備えた慣性センサとしては市販のものを使用することができる。
【0030】
一方、慣性センサ2としては、無線で検出結果を出力する機能を備えず、検出結果をメモリに記憶するものを使用してもよい。その場合には、記憶した検出結果をメモリから読み出して解析すればよい。また、慣性センサ2が送信機能を備えていない場合に、送信装置をアタッチメントに取り付け、その送信装置によって慣性センサ2の検出出力が送信されるようにしてもよい。
【0031】
慣性センサ2の装着位置は、通常、上述のように指の第2関節よりも先端側の背側であり、第1関節よりも先端側とすることが好ましく、爪の付け根あたりとすることがより好ましいが、指の動きの態様によっては必ずしも指の第2関節よりも先端側に限られない。例えば、掌全体を使用して化粧料を顔に塗布する動きの場合には、指の付け根の背側を慣性センサ2の装着位置としてもよい。また、指の背側の複数箇所を装着位置としてもよく、指の背側を装着位置とすることに加えて、指と異なる部位を装着位置としてもよく、例えば手の甲、腕、肩、頭などに装着してもよい。これにより、対象物と指の相対的な移動方向でなく、絶対的な移動方向を判定することが可能となる。
【0032】
(アタッチメント)
本発明では、慣性センサ2を指の背側に装着することを可能とするアタッチメント3を使用する。例えば、図1の実施例のアタッチメント3は、指20の第2関節よりも先端側の背側に装着することを可能とする。また、同図のアタッチメント3は、指の腹21を覆うことなく指20の背側から指20に嵌着するもので、断面が概略コ字形であり、容易に着脱できる樹脂製治具となっている。一方、慣性センサ2を指の背側に装着させるアタッチメント3としては、指の腹21で対象物を直接的に擦ることを可能とする限り、指輪のように指を挿入するタイプのものでもよく、慣性センサ2と指の背とを貼着する粘着シート等であってもよい。
【0033】
アタッチメント3を指に嵌着させる断面コ字型のもの、あるいは指を挿入する指輪タイプのものとする場合に、対象物の感触をみる個々の被験者の指の形や大きさにアタッチメント3が適合するように、アタッチメント3をカスタマイズしてもよい。その場合、アタッチメント3は、3Dプリンタ等を使用して作製することができる。
【0034】
一方、指の背側の以外の位置(例えば、手の甲、腕、肩、頭など)にも慣性センサを装着する場合、各装着位置に適したアタッチメントを使用することができる。
【0035】
(演算装置)
本実施例において、演算装置10は、慣性センサ2が出力した加速度及び角速度を取得し、少なくとも指の移動方向の速度と、その移動方向を含み指の腹に直交する平面に対して垂直な軸の周りの角速度とを出力するという情報処理を行う。演算装置10は、慣性センサ2で検出される加速度と角速度から所定の方向の速度と角速度を出力する公知のセンサ・ヒュージョンを搭載したパーソナルコンピュータ等から構成することができる。
【0036】
なお、本明細書でいう演算装置10における情報処理は、演算装置10により行われるデータの入力と出力を伴う一切の処理をさし、具体的には慣性センサ2の検出出力である生データが演算装置10に入力された場合にその検出出力をそのまま人が可読可能に表示するための処理や印刷するためのデータとして出力することも含む。即ち、慣性センサ2が、加速度と角速度を検出し、それを出力する機能だけでなく、指の移動方向の速度とその移動方向を含み指の腹に直交する平面に対して垂直な軸の周りの角速度を出力する機能も有する場合、演算装置10は慣性センサ2から出力されたデータを可読可能に処理するだけでもよい。
【0037】
(対象物)
対象物30としては、指で感触を調べられるものである限り特に制限はない。例えば、化粧料の適用前又は適用後の皮膚、皮膚に塗布する化粧料それ自体、衣料品、日用品、運動具などをあげることができ、化粧料の形態は、液体、クリーム、パウダー、泡などをあげることができる。
【0038】
(感触の評価方法)
本発明の感触の評価方法は、慣性センサ2を指20の背側に装着し、指の腹を上述の種々の対象物30の表面に向け、その表面で指20を移動させ、その移動時に慣性センサ2が検出した加速度と角速度に基づいて指の移動速度と角速度を計測し、指の移動速度と角速度に基づいて感触を評価する方法である。この場合、慣性センサ2を装着した指20の腹を対象物30に直接接触させて指を移動させてもよく、対象物によっては指の腹を浮かし、掌の一部又は全部を対象物に接触させて指を移動させてもよい。例えば、対象物を皮膚とする場合、指の腹で皮膚に触れた状態でその指を移動させてもよく、指の腹を皮膚から浮かし、掌の一部又は全部を皮膚に触れさせ、その掌を移動させてもよい。また、指の腹又は掌を皮膚に直接接触させずに、皮膚に化粧料を適用することにより指の腹又は掌と皮膚の間に化粧料を介在させて指又は掌を移動させてもよい。この場合、皮膚への化粧料の適用の前後の皮膚温を計測し、指の移動速度と角速度だけでなく、皮膚温の変化量にも基づいて感触を評価することが好ましい。これにより指の移動速度と角速度だけでは区別できない感触を区別できるようになる。したがって、より多様な感触を評価することが可能となる。
【0039】
なお、皮膚温は、接触式の温度計により計測してもよく、非接触式の温度計で計測してもよい。
【0040】
また、化粧料を適用することにより皮膚温が変化する状況としては、例えば、化粧水を皮膚に塗布したときに生じる気化熱によって皮膚の温度が低下する場合、化粧料に含まれている刺激成分により、その化粧料を塗布した皮膚の温度が上昇する場合、加温又は冷却した化粧料を皮膚に適用する場合等をあげることができる。
【0041】
こうして得られた本発明による感触の評価は、既存の対象物の感触の評価として使用できる他、化粧料などの開発においては、感触に応じて組成を変えることができるので、化粧料の設計にも有用となる。
【0042】
さらに、本発明は、対象物に触れる指の圧力のかけ方や移動速度の変化のさせ方による感触の違いを調べることにも使用することができる。したがって、例えば、マッサージにおける指のタッチの評価等にも使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
(1)感触評価装置の作製
慣性センサとして、Bluetooth(登録商標)モジュールが組み込まれている、臼田総合研究所株式会社製、U−BRAIN MicroSmartを使用した。
【0044】
また、図1に示した、断面コ字形のアタッチメント3を光硬化樹脂を用いて3Dプリンタにより作製し、その天面に慣性センサを取り付けた。慣性センサ2とアタッチメント3を含むセンシングユニット4の総重量は12gであった。
【0045】
一方、慣性センサから出力される加速度と角速度から指の移動方向の速度と該移動方向を含み指の腹に直交する平面に垂直な軸の周りの角速度を計測するアプリケーションをパーソナルコンピュータに搭載した。
【0046】
(2)試験例1
(1)で作製した感触評価装置において、次のように慣性センサを設定した。
・サンプリング:50Hz
・検出項目:XYZの加速度と角速度の合計6項目
・加速度の検出:±4G
・角速度の検出:±500°/sec
【0047】
慣性センサ2を取り付けたアタッチメント3を中指の第1関節付近に背側から装着した。
皮膚上に試料として美容液1を0.2gおき、その美容液1を上記中指の腹で皮膚に塗り広げた。この場合、中指は指の幅方向に往復運動させた。
【0048】
この往復運動の間に計測された指の移動方向の加速度(Y軸加速度)と、該移動方向を含み指の腹に直交する平面に垂直な軸の周りの角速度(X軸角速度)のログを記録した。結果を図3Aに示す。
【0049】
試料として、美容液2を用意し、美容液1に代えて美容液2を使用する以外は上述と同様にして指の移動方向の加速度(Y軸加速度)と、該移動方向を含む平面に垂直な軸の周りの角速度(X軸角速度)のログを記録した。結果を図3Bに示す。
【0050】
また、図3A及び図3Bの結果から算出した、指の移動方向の速度(Y軸速度)を図3Cに示し、該移動方向を含み指の腹に直交する平面に垂直な軸の周りの角速度(X軸角速度)であって7.5秒間の平均値の変化を図3Dに示す。図3C及び図3Dから、美容液1と美容液2のY軸速度は略等しいが、X軸角速度は時間の経過に伴って美容液2よりも美容液1が増加している。各試料の官能評価を化粧料の専門パネラーの言葉による評価として得たところ、美容液1は「ゆっくりなじんで徐々に重くなる」、美容液2は「つるつるとした感触が長く続く」という結果が得られた。図3Dの角速度の変化は、製剤の塗布過程における抵抗感(なじんで重くなっていく感じ)と相関が高く、2つの剤の差異を的確にしている。
【0051】
(3)試験例2
美容液1に代えて市販の3種類の化粧料A(乳液)、化粧料B(日焼け止め)、化粧料C(おしろい)をそれぞれ使用し、それぞれのY軸速度とX軸角速度を同様に求めた。結果を図4A図4B図4Cに示す。
【0052】
一方、化粧料A、B、Cをそれぞれ皮膚に塗布した場合の感触を、化粧料の専門パネラーの言葉による評価として得た。その結果、化粧料Aはなめらかな感触、化粧料Bは重くひっかかる感触、化粧料Cはするする滑る感触という評価を得た。
【0053】
これにより、指を左右に往復運動させる場合、なめらかな感触はY軸速度が正弦波状のなめらかな波形となり、この波形では、Y軸速度が、指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、反転時にはゼロとなること、X軸角速度も指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、それ以外では概略一定であることがわかる。
【0054】
また、重くひっかかる感触でも、Y軸速度は指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、反転時にゼロとなるが、小さい周期のノイズが乗った波形となること、また、X軸角速度は、反転時と反転時の中間でY軸速度がピークとなるときに、鋭く大きなピークとなることがわかる。
【0055】
するする滑る感触では、Y軸速度は、なめらかな感触の場合と同様に正弦波状のなめらかな波形となるが、X軸角速度はY軸速度よりも短い周期の波形となり、移動方向の反転時に、そのピークが鋭く大きくなることがわかる。移動方向の反転時にX軸角速度のピークが大きくなるのは、図2(b)、(d)で説明したように、センシングユニットの重みにより、指の移動方向の反転時に指の皮膚が捻れ、指の長手方向を回転の軸とする大きな角速度が発生するためと考えられる。
【0056】
図5に化粧料A、B、CのそれぞれのY軸速度の平均値とX軸角速度の平均値を示した。同図から、するする滑る感触の化粧料Cでは、なめらかな感触の化粧料Aや重くひっかかる感触の化粧料BよりもY軸速度平均が高いこと、また、重くひっかかる感触の化粧料Bでは、X軸角速度平均のY軸速度平均に対する相対的な割合が他の化粧料A、Cよりも高いことがわかる。
【0057】
(4)試験例3
美容液1に代えて、市販の4種類のクリーム1、2、3、4を使用し、Y軸速度とX軸角速度を同様に求めた。結果を図6A図6B図6C図6Dに示す。
【0058】
また、これら4種類についても、皮膚に塗布した場合の感触を、化粧料の専門パネラーの言葉による評価として得た。その結果、クリーム1はすべりがよくなめらかな感触、クリーム2は抵抗が大きく引っ張られる感触、クリーム3はつるつるよく滑る感触、クリーム4は密着する感じが強い感触という評価を得た。
【0059】
この試験例3においても、指を左右に往復運動させるとなめらかな感触のクリーム1では、試験例2におけるなめらかな感触の化粧料Aの場合と同様に、Y軸速度が正弦波状のなめらかな波形となり、指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、反転時にはゼロとなること、また、X軸角速度も指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、それ以外では概略一定であることから、このようなY軸速度とX軸角速度の関係は、なめらかな感触を表すことがわかる。
【0060】
抵抗が大きく引っ張られる感触のクリーム2は、試験例2における重くひっかかる感触の化粧料Bと同様に、Y軸速度は指の移動方向の反転時と反転時の中間でピークを示し、反転時にゼロとなるが、小さい周期のノイズが乗った波形となること、また、X軸角速度は、反転時と反転時の中間でY軸速度がピークとなるときに、鋭く大きなピークとなることから、このようなY軸速度とX軸角速度の関係は、ひっかかる感触を表すことがわかる。
【0061】
つるつるよく滑る感触のクリーム3は、試験例2におけるするする滑る感触の化粧料Cと同様に、Y軸速度は、なめらかな正弦波状の波形となるが、X軸角速度はY軸速度よりも短い周期の波形となり、移動方向の反転時に、そのピークが鋭く大きくなることから、このようなY軸速度とX軸角速度の関係は、滑る感触を表すことがわかる。
【0062】
密着する感じが強いクリーム4では、Y軸速度の波形とX軸角速度の波形のピークの位相がほぼそろっていた。
【0063】
(5)試験例4
美容液1に代えて市販のサンスクリーン製剤A、B、Cを腕に塗布し、試験例1と同様にしてY軸速度とX軸角速度を求めた。X軸角速度の結果を図7に示す。
また、各サンスクリーン製剤の塗布の前後の腕の皮膚の温度を計測し、サンスクリーン製剤の塗布による最大低下温度(ΔT)を測定した。ここで、最大低下温度ΔTは次式により求まる。
ΔT=−([サンスクリーン製剤の塗布後の皮膚温]−[サンスクリーン製剤の塗布前の皮膚温])
【0064】
サンスクリーン製剤の塗布による皮膚温の最大低下温度は次の通りであった。
サンスクリーン製剤A;3.9℃
サンスクリーン製剤B:3.9℃
サンスクリーン製剤C:2.9℃
【0065】
また、各サンスクリーン製剤A、B、Cについて、「なじみはやさ」、「なめらかさ」、「みずみずしさ」、「ひんやり感」の4種の感触を、製剤Aでは74名、製剤Bでは17名,製剤Cでは72名の成人女性が1(弱)〜7(強)の7段階に官能評価した。表1に、各剤における評価値の平均を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
「なじみはやさ」及び「なめらかさ」について、表1に示した官能評価の結果によれば、サンスクリーン製剤A、B、Cのいずれも区別されるが、図7に示したX軸角速度の計測結果によればサンスクリーン製剤Bとサンスクリーン製剤Cを区別することができない。また、「みずみずしさ」、「ひんやり感」について、表1に示した官能評価の結果によれば、サンスクリーン製剤Aとサンスクリーン製剤Bを区別することができないが、図7に示したX軸角速度の計測結果からはサンスクリーン製剤Aとサンスクリーン製剤Bを区別することができる。
【0068】
このように、図7に示したX軸角速度の計測結果だけでは、サンスクリーン製剤A、B、Cを実際の感触と整合するように区別することができない。
一方、皮膚温の最大効果温度によれば、サンスクリーン製剤A、Bとサンスクリーン製剤Cとは明確に区別することができるが、サンスクリーン製剤Aとサンスクリーン製剤Bとは区別することができない。
【0069】
これに対し、X軸角速度の計測結果と皮膚温の最大低下温度ΔTの計測結果の双方に基づくことにより、サンスクリーン製剤A、B、Cを実際の感触と整合するように区別できることがわかる。よって、本発明の感触の評価方法において皮膚温の変化量も計測することで、より幅広い感触を評価できることがわかる。
【符号の説明】
【0070】
1 感触評価装置
2 慣性センサ
3 アタッチメント
4 センシングユニット
10 演算装置
20 指
21 指の腹
30 対象物
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7