特許第6881163号(P6881163)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881163
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20210524BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20210524BHJP
   B60T 13/68 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
   B60T8/17 Z
   B60T13/122 D
   B60T13/68
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-166620(P2017-166620)
(22)【出願日】2017年8月31日
(65)【公開番号】特開2019-43261(P2019-43261A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】本山 航也
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】内藤 政行
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−331538(JP,A)
【文献】 特開2005−35441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
B60T 13/122
B60T 13/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪に対して設けられているホイールシリンダとマスタシリンダとの間に配置されている差圧調整弁と、前記差圧調整弁と前記ホイールシリンダとの間に配置されている保持弁と、前記差圧調整弁と前記保持弁との間にブレーキ液を吐出するポンプと、を備える車両の制動装置に適用される車両の制動制御装置であって、
前記差圧調整弁を駆動させておらず、且つ、前記ポンプからブレーキ液を吐出させている制御状態を規定制御状態とした場合、
制御サイクル毎に前記ホイールシリンダ内の液圧を導出するホイール液圧導出部と、
前記規定制御状態において、前記ホイール液圧導出部によって導出された前記ホイールシリンダ内の液圧と当該液圧の前回値とを基に、当該ホイールシリンダ内の液圧の変化に伴って前記保持弁を通過して前記ホイールシリンダ側に流れるブレーキ液の量である保持弁通過流量を導出する通過流量導出部と、
前記規定制御状態において、前記ポンプのブレーキ液の吐出流量から前記通過流量導出部によって導出された前記保持弁通過流量を減じた差が大きいほど、前記差圧調整弁よりも前記マスタシリンダ側と前記ホイールシリンダ側との差圧が大きくなるように、当該差圧を導出する差圧導出部と、
前記規定制御状態において、前記差圧導出部によって導出された前記差圧と前記マスタシリンダ内の液圧との和から前記ホイール液圧導出部によって導出された前記ホイールシリンダ内の液圧を減じた差が大きいほど前記保持弁に対する指示開度が小さくなるように、当該指示開度を導出する開度導出処理を実施し、同開度導出処理によって導出した前記指示開度で前記保持弁を駆動させる保持弁処理部と、を備える
車両の制動制御装置。
【請求項2】
前記差圧導出部は、前記制動装置内を流通するブレーキ液の温度が低いほど、前記差圧調整弁よりも前記マスタシリンダ側と前記ホイールシリンダ側との差圧が大きくなるように、当該差圧を導出する
請求項1に記載の車両の制動制御装置。
【請求項3】
前記保持弁処理部は、前記マスタシリンダ内の液圧に補正値を加算した和から前記ホイール液圧導出部によって導出された前記ホイールシリンダ内の液圧を減じた差を基に、前記保持弁に対する前記指示開度を導出する他の開度導出処理を実施するようになっており、
前記保持弁処理部は、
前記規定制御状態において、
前記保持弁が閉弁している状態から当該状態を解除することで前記ホイールシリンダ内の液圧の増大を開始させるときには、前記他の開度導出処理によって導出した前記指示開度で前記保持弁を駆動させ、
前記保持弁が閉弁している状態が解除され、前記保持弁の開度が変更されているときには、前記開度導出処理によって導出した前記指示開度で前記保持弁を駆動させる
請求項1又は請求項2に記載の車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に対して設けられているホイールシリンダ内の液圧を制御する車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マスタシリンダとホイールシリンダとを繋ぐ液路に配置されている差圧調整弁と、差圧調整弁よりもホイールシリンダ側の液路に配置されている保持弁と、差圧調整弁と保持弁との間にブレーキ液を吐出するポンプとを備える制動装置の一例が記載されている。
【0003】
この制動装置では、差圧調整弁の開度を調整しつつポンプからブレーキ液を吐出させることで、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との間で差圧を発生させることができる。この場合、差圧調整弁と保持弁との間の液路の液圧は、差圧調整弁に対する差圧指令値とマスタシリンダ内の液圧との和とほぼ等しい。そのため、このように差圧を発生させている状況下で保持弁を駆動させるときには、差圧調整弁に対する差圧指令値とマスタシリンダ内の液圧との和と、ホイールシリンダ内の液圧の指示値とを基に、保持弁に対する指示開度を導出するようにしている。これにより、ホイールシリンダ内の液圧を精度良く制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−331538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、差圧調整弁を駆動させていないために同差圧調整弁が全開である状況下でポンプからブレーキ液を吐出させているときに、保持弁を駆動させることにより、ホイールシリンダ内の液圧を調整することがある。この場合、差圧調整弁に対する差圧指令値は「0」と等しいため、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との間には差圧が発生していないものとし、すなわち差圧調整弁と保持弁との間の液路内の液圧がマスタシリンダ内の液圧と同等であるものと見なし、保持弁に対する指示開度が導出される。
【0006】
しかしながら、差圧調整弁には、オリフィスとなる部分が設けられている。そのため、差圧調整弁を駆動させていない状況下でポンプからブレーキ液が吐出されていると、差圧調整弁に対する差圧指令値が「0」と等しいにも拘わらず、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との間で差圧が発生してしまう。その結果、上記のように差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との間には差圧が発生していないことを前提として保持弁に対する指示開度を設定していると、ホイールシリンダ内の液圧が、当該液圧の指示値よりも高くなってしまう。したがって、差圧調整弁を駆動させていない状況下でポンプからブレーキ液が吐出されているときにおけるホイールシリンダ内の液圧の制御性を向上させるという点で改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための車両の制動制御装置は、車輪に対して設けられているホイールシリンダとマスタシリンダとの間に配置されている差圧調整弁と、差圧調整弁とホイールシリンダとの間に配置されている保持弁と、差圧調整弁と保持弁との間にブレーキ液を吐出するポンプと、を備える車両の制動装置に適用されるものである。この車両の制動制御装置は、差圧調整弁を駆動させておらず、且つ、ポンプからブレーキ液を吐出させている制御状態を規定制御状態とした場合、制御サイクル毎にホイールシリンダ内の液圧を導出するホイール液圧導出部と、規定制御状態において、ホイール液圧導出部によって導出されたホイールシリンダ内の液圧と当該液圧の前回値とを基に、当該ホイールシリンダ内の液圧の変化に伴って保持弁を通過してホイールシリンダ側に流れるブレーキ液の量である保持弁通過流量を導出する通過流量導出部と、規定制御状態において、ポンプのブレーキ液の吐出流量から通過流量導出部によって導出された保持弁通過流量を減じた差が大きいほど、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との差圧が大きくなるように、当該差圧を導出する差圧導出部と、規定制御状態において、差圧導出部によって導出された差圧とマスタシリンダ内の液圧との和からホイール液圧導出部によって導出されたホイールシリンダ内の液圧を減じた差が大きいほど保持弁に対する指示開度が小さくなるように、当該指示開度を導出する開度導出処理を実施し、同開度導出処理によって導出した指示開度で保持弁を駆動させる保持弁処理部と、を備える。
【0008】
規定制御状態である場合、差圧調整弁が駆動していないために差圧調整弁が全開であるにも拘わらず、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側とで差圧が発生する。このような規定制御状態である場合において、発明者は、以下のような知見を得た。
・差圧調整弁内をマスタシリンダ側にブレーキ液が通過する際の圧力損失が、差圧調整弁を介してマスタシリンダ側に流れるブレーキ液の流量が多いほど大きいこと。
・そして、当該圧力損失が大きいほど、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との差圧が大きくなること。
【0009】
そこで、上記構成では、規定制御状態である状況下で保持弁の開度を変更させる場合、保持弁を通過してホイールシリンダ側に流れるブレーキ液の流量である保持弁通過流量が導出される。このとき、ポンプのブレーキ液の吐出流量から保持弁通過流量を減じた差が、差圧調整弁を介してマスタシリンダ側に流れるブレーキ液の流量となる。差圧調整弁を介してマスタシリンダ側に流れるブレーキ液の流量は、上記圧力損失と相関する値である。そのため、差圧調整弁を介してマスタシリンダ側に流れるブレーキ液の流量を基に、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との間の差圧を導出することができる。すなわち、差圧調整弁を介してマスタシリンダ側に流れるブレーキ液の流量が多いほど、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との間の差圧が大きくなるように、当該差圧が算出される。そして、この差圧とマスタシリンダ内の液圧との和と、ホイールシリンダ内の液圧とを基に保持弁に対する指示開度を導出し、この指示開度で保持弁を駆動させることにより、ホイールシリンダ内の液圧を精度良く制御することができる。
【0010】
したがって、上記構成によれば、規定制御状態であっても、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との差圧を算出し、当該差圧を加味した指示開度で保持弁を駆動させることにより、ホイールシリンダ内の液圧の制御性を向上させることができるようになる。
【0011】
なお、制動装置内を流通するブレーキ液の温度が低いほど、ブレーキ液の粘度が高くなる分、差圧調整弁をマスタシリンダ側にブレーキ液が通過する際の圧力損失が大きくなりやすい。そして、圧力損失が大きいほど、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との間の差圧が大きくなりやすい。
【0012】
そこで、差圧導出部は、制動装置内を流通するブレーキ液の温度が低いほど、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との差圧が大きくなるように、当該差圧を導出することが好ましい。この構成によれば、ブレーキ液の温度を加味して差圧が導出される。この場合、ブレーキ液の温度を加味しない場合と比較し、差圧の導出精度を高くすることができる。そして、ブレーキ液の温度を加味して導出した差圧を利用して保持弁に対する指示開度を算出し、当該指示開度で保持弁を駆動させることにより、ホイールシリンダ内の液圧をより精度良く制御することができるようになる。
【0013】
なお、規定制御状態では、保持弁が閉弁していても、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との間で差圧が発生している。保持弁が閉弁している場合、同保持弁を介したホイールシリンダ側へのブレーキ液の流通がないため、保持弁通過流量が「0」となり、その後に保持弁の閉弁を解除してホイールシリンダ内の液圧を増圧させる場合、差圧調整弁よりもマスタシリンダ側とホイールシリンダ側との差圧が大きくなっている。そのため、規定制御状態において、保持弁が閉弁している状態から当該状態を解除することでホイールシリンダ内の液圧の増大を開始させるときに、マスタシリンダ内の液圧からホイールシリンダ内の液圧を減じた差を基に、保持弁に対する指示開度を設定するようにした場合、当該差圧を加味していない分、ホイールシリンダ内の液圧が高くなりやすい。一方、規定制御状態において、保持弁が閉弁している状態から当該状態を解除することでホイールシリンダ内の液圧の増大を開始させるときには、保持弁通過流量が「0」の状態から急速に変化するため、上記開度導出処理の演算間隔によっては当該差圧の変化に追従した保持弁流通量や差圧の算出を行いにくくなることがある。
【0014】
そこで、保持弁処理部は、上記開度導出処理の他に、マスタシリンダ内の液圧に補正値を加算した和からホイール液圧導出部によって導出されたホイールシリンダ内の液圧を減じた差を基に、保持弁に対する指示開度を導出する他の開度導出処理を実施するようにしてもよい。
【0015】
この場合、保持弁処理部は、規定制御状態において、保持弁が閉弁している状態から当該状態を解除することでホイールシリンダ内の液圧の増大を開始させるときには、他の開度導出処理によって導出した指示開度で保持弁を駆動させることが好ましい。また、保持弁処理部は、規定制御状態において、保持弁が閉弁している状態が解除され、保持弁の開度が変更されているときには、開度導出処理によって導出した指示開度で保持弁を駆動させることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、保持弁が閉弁している状態から当該状態を解除してホイールシリンダ内の液圧の増大を開始させるときには、他の開度導出処理で導出された指示開度で保持弁を駆動させる。これにより、保持弁の開弁直後では、マスタシリンダ内の液圧とホイールシリンダ内の液圧との差に応じた値を指示開度とする場合と比較し、指示開度をより小さくすることができる分、ホイールシリンダ内の液圧が高くなりすぎることを抑制できる。すなわち、保持弁の開弁直後でのホイールシリンダ内の液圧の制御性を高めることができる。
【0017】
そして、他の開度導出処理によって導出された指示開度で保持弁が駆動しているときには、同保持弁を介してブレーキ液がホイールシリンダ内に流入するようになっているため、開度導出処理によって導出された指示開度での保持弁の駆動が開始される。このように開度導出処理によって導出された指示開度で保持弁を駆動させることにより、ホイールシリンダ内の液圧を精度良く制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】車両の制動制御装置の一実施形態である制御装置を備える制動装置の一部を示す概略構成図。
図2】制動装置を構成する差圧調整弁を模式的に示す断面図。
図3】規定制御状態であるときに保持弁を駆動させるために実行される処理ルーチンを説明するフローチャート。
図4】指示開度を求めるために参照されるマップ。
図5】ホイールシリンダ内のブレーキ液の量であるホイール液量を求めるために参照されるマップ。
図6】差圧弁差圧を求めるために参照されるマップ。
図7】差圧弁差圧を補正するための補正係数を求める際に参照されるマップ。
図8】比較例の場合において、液圧の推移を示すタイミングチャート。
図9】実施形態の場合において、液圧の推移を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、車両の制動制御装置を具体化した一実施形態を図1図9に従って説明する。
図1に示す車両は、本実施形態の制動制御装置の一例である制御装置100を備える制動装置40と、複数の車輪10に対して個別に設けられている複数(すなわち、車輪と同数)の制動機構20とを備えている。
【0020】
図1に示すように、各制動機構20は、ブレーキ液が供給されるホイールシリンダ21と、車輪10と一体回転する回転体22と、回転体22に近づく方向及び離れる方向に相対移動する摩擦材23とをそれぞれ有している。そして、各制動機構20では、ホイールシリンダ21内の液圧であるWC圧Pwcが高いほど、回転体22に摩擦材23を押し付ける力、すなわち車輪10に対する制動力をそれぞれ大きくすることができる。
【0021】
制動装置40は、運転者によって操作されるブレーキペダルなどの制動操作部材41が連結されている液圧発生装置50と、各ホイールシリンダ21内のWC圧Pwcを個別に調整することのできる制動アクチュエータ60とを有している。
【0022】
液圧発生装置50は、マスタシリンダ51を有している。このマスタシリンダ51内で発生する液圧であるMC圧Pmcは、運転者による制動操作部材41の操作量が多いほど高くなる。
【0023】
制動アクチュエータ60には、2系統の液圧回路611,612が設けられている。第1の液圧回路611には、各ホイールシリンダ21のうちの2つのホイールシリンダ21が接続されている。また、第2の液圧回路612には、残りの2つのホイールシリンダ21が接続されている。
【0024】
第1の液圧回路611には、マスタシリンダ51とホイールシリンダ21との間に配置されている差圧調整弁62と、WC圧Pwcの増大を規制する際に閉弁される保持弁64と、WC圧Pwcを減少させる際に開弁される減圧弁65とが設けられている。差圧調整弁62は、常開型のリニア電磁弁であり、差圧調整弁62よりもマスタシリンダ51側と差圧調整弁62よりもホイールシリンダ21側との圧力差である差圧を調整すべく駆動する。保持弁64は、差圧調整弁62よりもホイールシリンダ21側の液路に配置されている。保持弁64は、常開型の電磁弁であり、保持弁64よりも差圧調整弁62側と保持弁64よりもホイールシリンダ21側との圧力差である差圧を調整すべく駆動する。
【0025】
また、第1の液圧回路611には、ホイールシリンダ21から減圧弁65を介して流出したブレーキ液を一時的に貯留するリザーバ66と、電動モータ67の駆動に基づき作動するポンプ68とが接続されている。このポンプ68は、リザーバ66内のブレーキ液、及び、マスタシリンダ51内のブレーキ液を汲み上げ、差圧調整弁62と保持弁64との間の液路にブレーキ液を吐出する。
【0026】
なお、第2の液圧回路612の構造は、第1の液圧回路611の構造とほぼ同一であるため、本明細書では、第2の液圧回路612の構造の説明については割愛するものとする。
【0027】
次に、図2を参照し、差圧調整弁62の構成について説明する。
図2に示すように、差圧調整弁62は、制動アクチュエータ60のハウジング60Aに取り付けられるとともに、図中上下方向である軸方向に延びる略円筒形状のガイド71を備えている。このガイド71は、図中下側の部分である基端部711と、図中上側の部分である先端部712とを有している。基端部711内には、シート72が圧入状態で設けられている。そして、ガイド71の内部におけるシート72よりも図中上側に、弁室73が形成されている。
【0028】
シート72は、弁室73に臨む部位に形成されている弁座721と、弁座721から軸方向(具体的には、図中下方)に延びる流入路722とを有している。この流入路722は、ホイールシリンダ21側に連通している。そのため、弁室73内とホイールシリンダ21内との間でのブレーキ液の流通が、流入路722を介して行われる。
【0029】
ガイド71の基端部711の周壁には、弁室73内に連通する流出路7111が設けられている。この流出路7111は、マスタシリンダ51側に連通している。そのため、弁室73内からマスタシリンダ51側へのブレーキ液の流出、及び、マスタシリンダ51側から弁室73内へのブレーキ液の流入が、流出路7111を介して行われる。
【0030】
また、差圧調整弁62は、ガイド71の先端部712の内部で弁座721に近づく方向及び離れる方向に移動する弁体74を備えている。この弁体74の図中下端である先端741はシート72の弁座721に着座可能であり、弁体74が弁座721に着座すると、弁座721に開口する流入路722が弁体74によって閉塞されるため、弁室73内とホイールシリンダ21内との連通が遮断される。なお、この弁体74は、コイルスプリング75によって、弁座721から離れる方向(すなわち、図中上方)に付勢されている。
【0031】
また、差圧調整弁62には、弁体74に固定されているプランジャ76と、弁体74及びプランジャ76の径方向外側に位置するソレノイド77とが設けられている。このソレノイド77には、制動装置40の制御装置100から制御信号が入力されると、同制御信号に応じた大きさの電流が流れる。そして、このようにソレノイド77に電流が流れることで、電磁力が発生される。この電磁力は、コイルスプリング75によって付勢される方向とは反対方向、すなわち弁体74及びプランジャ76を弁座721に押し付ける方向(すなわち、図中下方)に作用する。したがって、ソレノイド77に流れる電流の大きさ、すなわち差圧調整弁62に対する差圧指令値を調整することにより、弁体74を弁座721に押し付ける力を調整することができる。
【0032】
なお、液圧回路611,612において差圧調整弁62と保持弁64との間の液路の液圧である中間液圧Pmidは、差圧調整弁62の駆動と、ポンプ68の作動とによって調整することができる。すなわち、ポンプ68からブレーキ液が吐出されている状況下で、差圧調整弁62を駆動させると、差圧調整弁62よりもマスタシリンダ51側とホイールシリンダ21側との間に、差圧調整弁62に対する差圧指令値に応じた差圧が発生する。したがって、マスタシリンダ51内のMC圧Pmcと差圧指令値との和を、中間液圧Pmidとして導出することができる。
【0033】
ところで、差圧調整弁62にあっては、図2に示すように弁体74の先端741とシート72の弁座721との間の隙間が狭い。そのため、差圧指令値が「0」と等しくて差圧調整弁62を駆動させていなくても、すなわち差圧調整弁62が全開であっても、ポンプ68からブレーキ液が吐出されている場合、弁体74と弁座721との間の隙間が、差圧調整弁62内をマスタシリンダ51側にブレーキ液が流通する際の圧力損失を発生させるオリフィスとして機能する。したがって、差圧調整弁62が駆動していないために差圧調整弁62が全開であるにも拘わらず、差圧調整弁62よりもマスタシリンダ51側とホイールシリンダ21側との間に、差圧が発生してしまう。
【0034】
なお、本実施形態では、差圧調整弁62よりもマスタシリンダ51側とホイールシリンダ21側との間に発生する差圧のことを、「差圧弁差圧DPsm」という。また、差圧調整弁62を駆動させておらず、且つ、ポンプ68からブレーキ液を吐出させている制御状態のことを「規定制御状態」というものとする。
【0035】
次に、図1を参照し、制御装置100について説明する。
図1に示すように、制御装置100には、制動スイッチ201、液圧検出センサ202及び車輪速度センサ203などの各種の検出系からの信号が入力される。制動スイッチ201は、制動操作部材41の操作の有無に応じた信号を出力する。液圧検出センサ202は、MC圧Pmcに応じた信号を出力する。車輪速度センサ203は、車輪10と同数設けられており、対応する車輪10の車輪速度VWに応じた信号を出力する。
【0036】
制御装置100は、制動アクチュエータ60を制御するための機能部として、モータ制御部110、差圧調整弁制御部120、減圧弁制御部130及び保持弁制御部140を有している。
【0037】
モータ制御部110は、電動モータ67の駆動制御を通じてポンプ68のブレーキ液の吐出流量を調整する。すなわち、モータ制御部110は、電動モータ67の回転速度を大きくすることで、ポンプ68のブレーキ液の吐出流量を多くすることができる。
【0038】
差圧調整弁制御部120は、差圧指令値を導出し、この差圧指令値を基に差圧調整弁62の駆動を制御する。すなわち、差圧調整弁制御部120は、差圧指令値を大きくすることで、上記差圧弁差圧DPsmを大きくする、すなわち中間液圧Pmidを高くすることができる。
【0039】
減圧弁制御部130は、減圧弁65の駆動を制御する。例えばアンチロックブレーキ制御の実施時においてWC圧Pwcを減圧させる場合、減圧弁制御部130は、減圧弁65を開弁させるべく駆動する。また、例えばアンチロックブレーキ制御の実施時においてWC圧Pwcを保持する場合及びWC圧Pwcを増圧させる場合、減圧弁制御部130は、減圧弁65が閉弁している状態を維持させる。
【0040】
保持弁制御部140は、保持弁64の駆動を制御する。例えばアンチロックブレーキ制御の実施時においてWC圧Pwcを減圧させる場合及びWC圧Pwcを保持させる場合、保持弁制御部140は、保持弁64が閉弁している状態を維持させる。また、例えばアンチロックブレーキ制御の実施時においてWC圧Pwcを増圧させる場合、保持弁制御部140は、保持弁64の開度を調整することで、WC圧Pwcの増圧速度を調整する。
【0041】
このような保持弁制御部140は、上記規定制御状態であるときに保持弁64の駆動を制御するための機能部として、WC圧指示値設定部141、ポンプ流量算出部142、通過流量導出部143、差圧導出部144及び保持弁処理部145を有している。
【0042】
WC圧指示値設定部141は、所定の制御サイクル毎に、WC圧Pwcに対する指示値であるWC圧指示値PwcIを設定する。規定制御状態である場合、WC圧PwcがWC圧指示値PwcIに近づくように、保持弁64の駆動が制御される。すなわち、WC圧指示値設定部141は、制御サイクル毎にWC圧Pwcを導出しているということができる。したがって、本実施形態では、WC圧指示値設定部141が、「ホイール液圧導出部」の一例として機能する。
【0043】
ポンプ流量算出部142は、ポンプ68における単位時間あたりのブレーキ液の吐出流量であるポンプ吐出流量FRpmpを算出する。ここでいう「単位時間」は、上記制御サイクルの時間的な長さと同じであるものとする。ポンプ流量算出部142は、モータ制御部110によって制御されている電動モータ67の回転速度が大きいほどポンプ吐出流量FRpmpが多くなるように、ポンプ吐出流量FRpmpを算出する。
【0044】
通過流量導出部143は、WC圧指示値設定部141によって設定されたWC圧指示値PwcIと、WC圧指示値PwcIの前回値とを基に、WC圧Pwcの変化に伴って保持弁64を通過してホイールシリンダ21側に流れるブレーキ液の量である保持弁通過流量FRnoを導出する。ここでいうWC圧指示値PwcIの前回値は、前回の制御サイクルでWC圧指示値設定部141によって設定されたWC圧指示値PwcIのことである。そして、WC圧指示値PwcIが増大している場合、すなわちWC圧指示値PwcIがWC圧指示値PwcIの前回値よりも大きい場合、ホイールシリンダ21内のブレーキ液の量が増大するため、保持弁通過流量FRnoは正の値となる。
【0045】
差圧導出部144は、ポンプ流量算出部142によって算出されたポンプ吐出流量FRpmpから通過流量導出部143によって導出された保持弁通過流量FRnoを減じた差が大きいほど、差圧弁差圧DPsmが大きくなるように、差圧弁差圧DPsmを導出する。
【0046】
保持弁処理部145は、差圧導出部144によって算出された差圧弁差圧DPsmを用いないで、保持弁64に対する指示開度Inoを導出する第1の開度導出処理と、差圧弁差圧DPsmを用い、保持弁64に対する指示開度Inoを導出する第2の開度導出処理とを実施する。そして、保持弁処理部145は、第1の開度導出処理又は第2の開度導出処理で導出した指示開度Inoで保持弁64を駆動させる。
【0047】
本実施形態では、保持弁処理部145は、保持弁64が閉弁している状態から当該状態を解除することでWC圧Pwcの増大を開始させるときには、第1の開度導出処理によって導出した指示開度Inoで保持弁64を駆動させる。すなわち、保持弁処理部145は、第1の開度導出処理では、MC圧Pmcに補正値ΔPofを加算した和から、WC圧指示値設定部141によって設定されたWC圧指示値PwcIを減じた差(=(Pmc+ΔPof)−PwcI(N))を導出し、当該差が大きいほど指示開度Inoが小さくなるように、指示開度Inoを導出する。したがって、本実施形態では、この第1の開度導出処理が、当該差(=(Pmc+ΔPof)−PwcI)を基に、指示開度Inoを導出する「他の開度導出処理」の一例に相当する。
【0048】
保持弁処理部145は、第1の開度導出処理によって導出した指示開度Inoで保持弁64を駆動させていることを条件に、第2の開度導出処理によって導出した指示開度Inoでの保持弁64の駆動を開始させる。すなわち、保持弁処理部145は、第2の開度導出処理では、差圧導出部144によって導出された差圧弁差圧DPsmとMC圧Pmcとの和から、WC圧指示値設定部141によって設定されたWC圧指示値PwcIを減じた差(=(Pmc+DPsm)−PwcI(N))を導出し、当該差が大きいほど指示開度Inoが小さくなるように、指示開度Inoを導出する。したがって、本実施形態では、この第2の開度導出処理が、当該差(=(Pmc+DPsm)−PwcI(N))を基に、指示開度Inoを導出する「開度導出処理」の一例に相当する。
【0049】
次に、図3図7を参照し、規定制御状態である状況下で保持弁64を駆動させることによってWC圧Pwcを調整するときに、保持弁制御部140によって実行される処理ルーチンについて説明する。なお、本処理ルーチンは、所定の制御サイクル毎に実行される。
【0050】
図3に示すように、本処理ルーチンにおいて、はじめのステップS11では、保持弁64に対する指示開度Inoが「0」と等しいか否かの判定が行われる。すなわち、ここでは、保持弁64が閉弁しているか否かが判定されているということができる。指示開度Inoが「0」と等しい場合(S11:YES)、処理が次のステップS12に移行される。ステップS12において、全閉フラグFLGにオンがセットされる。この全閉フラグFLGは、保持弁64が閉弁しているときにはオンがセットされる一方、保持弁64が閉弁していないときにはオフがセットされるフラグである。続いて、次のステップS13において、保持弁処理部145によって、保持弁64に対する指示開度Inoが「0」で保持される。そして、処理が後述するステップS26に移行される。
【0051】
一方、ステップS11において、保持弁64に対する指示開度Inoが「0」ではない場合(NO)、処理が次のステップS14に移行される。そして、ステップS14において、保持弁64を閉弁させる指示があるか否かの判定が行われる。例えばアンチロックブレーキ制御の実施時においてWC圧Pwcを減圧させたり、WC圧Pwcを保持させたりする場合、保持弁64に対して閉弁が指示される。そして、閉弁の指示がある場合(S14:YES)、処理が前述したステップS12に移行される。一方、閉弁の指示がない場合(S14:NO)、処理が次のステップS15に移行される。
【0052】
ステップS15において、全閉フラグFLGにオンがセットされているか否かの判定が行われる。全閉フラグFLGにオンがセットされている場合(S15:YES)、処理が次のステップS16に移行される。ステップS16において、WC圧指示値設定部141によって、WC圧指示値PwcI(N)が設定される。例えば、車輪10の車輪速度VWなどに基づき、WC圧指示値PwcI(N)が設定される。このようにWC圧指示値PwcI(N)が設定されると、保持弁処理部145によって、第1の開度導出処理が実施される(S17,S18)。
【0053】
すなわち、ステップS17において、保持弁処理部145によって、中間液圧Pmidが算出される。具体的には、保持弁処理部145が、MC圧Pmcと補正値ΔPofとの和を中間液圧Pmidとして求める。そして、次のステップS18において、保持弁処理部145によって、ステップS17で算出された中間液圧PmidからステップS16で設定されたWC圧指示値PwcI(N)を減じた差である保持弁差圧DPnoを基に、保持弁64に対する指示開度Inoが設定される。例えば、保持弁処理部145は、図4に示すマップを参照し、指示開度Inoを設定する。
【0054】
図4に示すマップは、指示開度Inoと、保持弁差圧DPnoとの関係を示すマップである。図4に示すように、保持弁差圧DPnoが大きいほど指示開度Inoが小さい。したがって、このマップを参照することにより、保持弁処理部145は、保持弁差圧DPnoが大きいほど指示開度Inoを小さくすることができる。
【0055】
図3に戻り、第1の開度導出処理によって指示開度Inoが設定されると、処理が次のステップS19に移行される。そして、ステップS19において、全閉フラグFLGにオフがセットされる。その後、処理が後述するステップS26に移行される。
【0056】
その一方で、ステップS15において、全閉フラグFLGにオフがセットされている場合(NO)、処理が次のステップS20に移行される。ステップS20において、WC圧指示値設定部141によって、WC圧指示値PwcI(N)が設定される。このようにWC圧指示値PwcI(N)が設定されると、保持弁処理部145によって、第2の開度導出処理が実施される(S21〜S25)。
【0057】
すなわち、次のステップS21において、通過流量導出部143によって、保持弁通過流量FRnoが導出される。例えば、通過流量導出部143は、図5に示すマップを参照し、保持弁通過流量FRnoを導出する。
【0058】
図5に示すマップは、WC圧Pwcと、ホイールシリンダ21内のブレーキ液の量であるホイール液量Qwcとの関係を示すマップである。図5に示すように、ホイール液量Qwcは、WC圧Pwcが高いほど多い。通過流量導出部143は、当該マップを参照することで、WC圧指示値PwcI(N)に相当する第1のホイール液量Qwc1と、WC圧指示値の前回値PwcI(N−1)に相当する第2のホイール液量Qwc2とを導出する。そして、通過流量導出部143は、第1のホイール液量Qwc1から第2のホイール液量Qwc2を減じた差を、上記制御サイクルで除することで保持弁通過流量FRnoを導出することができる。すなわち、保持弁通過流量FRnoは、以下に示す関係式(式1)で表すことができる。なお、関係式(式1)における「CS」は、制御サイクルの時間的な長さのことである。
【0059】
FRno=(Qwc1−Qwc2)/CS ・・・(式1)
図3に戻り、保持弁通過流量FRnoが導出されると、処理が次のステップS22に移行される。そして、ステップS22において、差圧導出部144によって、差圧弁差圧DPsmが算出される。例えば、差圧導出部144は、図6に示すマップを参照し、差圧弁差圧DPsmを導出する。
【0060】
図6に示すマップは、差圧調整弁62をマスタシリンダ51側に通過するブレーキ液の流量である差圧弁通過流量FRsmと、差圧弁差圧DPsmとの関係を示すマップである。差圧調整弁62をマスタシリンダ51側にブレーキ液が通過する際の圧力損失が、差圧弁通過流量FRsmが多いほど高くなる。そして、この圧力損失が大きいほど、差圧弁差圧DPsmが大きくなる。そのため、図6に示すように、差圧弁差圧DPsmは、差圧弁通過流量FRsmが多いほど大きくなる。
【0061】
差圧導出部144は、ポンプ流量算出部142によって算出されたポンプ吐出流量FRpmpからステップS21で導出された保持弁通過流量FRnoを減じた差を、差圧弁通過流量FRsmとして求める。そして、差圧導出部144は、差圧弁通過流量FRsmに応じた値を図6に示すマップから導出し、当該値を差圧弁差圧DPsmとする。これにより、差圧導出部144は、差圧弁通過流量FRsmが多いほど差圧弁差圧DPsmを大きくすることができる。
【0062】
図3に戻り、差圧弁差圧DPsmが導出されると、処理が次のステップS23に移行される。そして、ステップS23において、差圧導出部144によって、ステップS22で算出された差圧弁差圧DPsmの補正処理が実施される。すなわち、制動アクチュエータ60内を流通するブレーキ液の温度が低いほど、ブレーキ液の粘度が高くなる分、差圧調整弁62をマスタシリンダ51側にブレーキ液が通過する際の圧力損失が大きくなりやすい。そのため、差圧導出部144は、ブレーキ液の温度が低いほど差圧弁差圧DPsmが大きくなるように、差圧弁差圧DPsmを補正する。このとき、差圧導出部144は、図7に示すマップを参照し、差圧弁差圧DPsmを補正する。
【0063】
図7に示すマップは、ブレーキ液の温度TMPと、差圧弁通過流量FRsmと、差圧弁差圧DPsmを補正するための係数である補正係数αとを示している。図7に示す各特性線L1,L2,L3のうち、第1の特性線L1は、ブレーキ液の温度TMPが第1の温度TMP1であるときの差圧弁通過流量FRsmと補正係数αとの関係を示している。各特性線L1,L2,L3のうち、第2の特性線L2は、ブレーキ液の温度TMPが第1の温度TMP1よりも低い第2の温度TMP2であるときの差圧弁通過流量FRsmと補正係数αとの関係を示している。各特性線L1,L2,L3のうち、第3の特性線L3は、ブレーキ液の温度TMPが第2の温度TMP2よりも低い第3の温度TMP3であるときの差圧弁通過流量FRsmと補正係数αとの関係を示している。そして、何れのブレーキ液の温度TMPであっても、差圧弁通過流量FRsmが多いほど、補正係数αが大きくなる。また、差圧弁通過流量FRsmが同等である場合、ブレーキ液の温度TMPが低いほど、補正係数αが大きくなる。
【0064】
差圧導出部144は、現時点で制動アクチュエータ60内を流れているブレーキ液の温度に応じた特性線を選択し、当該特性線に基づいて差圧弁通過流量FRsmに応じた値を導出し、当該値を補正係数αとする。そして、差圧導出部144は、ステップS22で算出された差圧弁差圧DPsmに補正係数αを乗じることで、差圧弁差圧DPsmを補正する。したがって、差圧導出部144は、求めた補正係数αが大きいほど、差圧弁差圧DPsmを大きくすることができる。
【0065】
なお、ブレーキ液の温度TMPは、例えば、外気温と、ポンプ68の作動時間などを基に推定することができる。もちろん、制動アクチュエータ60にブレーキ液の温度を検出するためのセンサを設け、当該センサによる検出結果を基に温度TMPを算出するようにしてもよい。
【0066】
図3に戻り、差圧弁差圧DPsmを補正すると、処理が次のステップS24に移行される。そして、ステップS24において、保持弁処理部145によって、中間液圧Pmidが算出される。すなわち、保持弁処理部145が、MC圧Pmcと差圧弁差圧DPsmとの和を中間液圧Pmidとして求める。そして、次のステップS25において、保持弁処理部145によって、ステップS24で算出された中間液圧PmidからステップS20で設定されたWC圧指示値PwcI(N)を減じた差である保持弁差圧DPnoを基に、保持弁64に対する指示開度Inoが設定される。例えば、保持弁処理部145は、図4に示すマップを参照し、指示開度Inoを設定する。この場合、指示開度Inoは、保持弁差圧DPnoが大きいほど小さくなる。第1の開度導出処理によって指示開度Inoが設定されると、処理が次のステップS26に移行される。
【0067】
ステップS26において、保持弁処理部145によって、ステップS13又はステップS18又はステップS25で導出された指示開度Inoで保持弁64の駆動が制御される。そして、次のステップS27において、サイクル係数Nが「1」だけインクリメントされる。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0068】
次に、図8及び図9を参照し、規定制御状態で保持弁64を駆動させる際の作用について効果とともに説明する。なお、図8及び図9に示す例は、規定制御状態でアンチロックブレーキ制御を実施している場合である。そして、図8には、規定制御状態であるにも拘わらず、差圧弁差圧DPsmが発生していないものとして保持弁64に対する指示開度Inoを導出する比較例が図示されている。一方、図9には、差圧弁差圧DPsmを算出し、この差圧弁差圧DPsmを加味して保持弁64に対する指示開度Inoを導出する本実施形態が図示されている。
【0069】
図8に示す比較例にあっては、アンチロックブレーキ制御の実施中のタイミングt11までは、ポンプ68が作動していても、保持弁64及び減圧弁65の双方が閉弁されているため、WC圧Pwcが保持される。そして、タイミングt11からタイミングt13までの期間では、WC圧Pwcを増圧させるべく保持弁64の開度が調整される。すなわち、タイミングt11からタイミングt12までの期間では、車輪10に対する制動力を速やかに増大させるためにWC圧指示値PwcIが早期に増大される。また、タイミングt12からタイミングt13までの期間では、車輪10に対する制動力がある程度大きくなったため、WC圧指示値PwcIが緩やかに増大される。
【0070】
タイミングt11からタイミングt13までの期間のようにWC圧Pwcを増大させる場合、比較例では、差圧弁差圧DPsmが「0」であるものとみなし、保持弁64に対する指示開度Inoが導出される。そのため、保持弁64の開度を徐々に大きくしてWC圧Pwcを増圧させる場合、実際に発生している差圧弁差圧に相当する分だけ、WC圧指示値PwcIと実際のWC圧Pwcとの間に乖離が生じてしまう。
【0071】
これに対し、図9に示す本実施形態にあっては、差圧弁差圧DPsmが「0」ではないものとし、保持弁64に対する指示開度Inoが導出される。しかし、タイミングt21では、保持弁64が閉弁している。このように保持弁64が閉弁しており、保持弁64を介したホイールシリンダ21側へのブレーキ液の流通がない場合、すなわち保持弁通過流量FRnoが「0」である場合、本実施形態では、第1の開度導出処理によって指示開度Inoが導出される。すなわち、保持弁64が閉弁しているときに発生する差圧弁差圧の予測値に応じた値に補正値ΔPofが設定されており、この補正値ΔPofとMC圧Pmcとの和を中間液圧Pmidと見なしている。そして、この中間液圧PmidからWC圧指示値PwcIを減じた差である保持弁差圧DPnoを基に、指示開度Inoが導出される。
【0072】
このように導出された指示開度Inoは、比較例の場合の指示開度Inoよりも小さい。そのため、当該指示開度Inoで保持弁64を駆動させることにより、保持弁64の開度が大きくなりすぎることを抑制できる。すなわち、保持弁64の開弁直後におけるWC圧Pwcの過剰な増圧を抑制することができる。
【0073】
そして、第1の開度導出処理によって導出された指示開度Inoで保持弁64を駆動させているときには、第2の開度導出処理によって指示開度Inoが導出される。すなわち、ポンプ吐出流量FRpmpと保持弁通過流量FRnoとを基に差圧弁差圧DPsmが算出される。
【0074】
例えばタイミングt21からタイミングt22までの期間のように、WC圧指示値PwcIが比較的小さく、且つ、WC圧指示値PwcIの増大速度が大きい場合、ポンプ68から吐出されたブレーキ液の流量のうち、保持弁64を介してホイールシリンダ21側に流通するブレーキ液の流量が多く、差圧調整弁62を介してマスタシリンダ51側に流通するブレーキ液の流量が少ない。そのため、差圧調整弁62を介してマスタシリンダ51側に流通するブレーキ液に対する圧力損失が小さい。その結果、導出される差圧弁差圧DPsmが比較的小さくなる。
【0075】
一方、例えばタイミングt22からタイミングt23までの期間のように、WC圧指示値PwcIが比較的大きく、且つ、WC圧指示値PwcIの増大速度が小さい場合、ポンプ68から吐出されたブレーキ液の流量のうち、保持弁64を介してホイールシリンダ21側に流通するブレーキ液の流量が少なく、差圧調整弁62を介してマスタシリンダ51側に流通するブレーキ液の流量が多い。そのため、差圧調整弁62を介してマスタシリンダ51側に流通するブレーキ液に対する圧力損失が大きい。その結果、導出される差圧弁差圧DPsmが比較的大きくなる。
【0076】
本実施形態では、このように差圧弁差圧DPsmが導出することができるようになると、この差圧弁差圧DPsmを利用して保持弁64に対する指示開度Inoが導出されるようになる。すると、導出された差圧弁差圧DPsmとMC圧Pmcとの和である中間液圧Pmidが算出される。そして、中間液圧PmidからWC圧指示値PwcIを減じた差である保持弁差圧DPnoを基に、指示開度Inoが導出される。すなわち、第2の導出処理によって指示開度Inoが導出される。そして、この指示開度Inoで保持弁64が駆動されるようになる。このように第2の導出処理によって指示開度Inoを導出できる場合にあっては、第2の導出処理によって導出された指示開度Inoで保持弁64を駆動させることにより、WC圧指示値PwcIと実際のWC圧Pwcとの乖離を抑制することができる。
【0077】
したがって、規定制御状態である場合、保持弁64の開度を大きくしているときにおけるWC圧Pwcの精度を高くすることができる。
なお、本実施形態では、図6に示すマップを参照して求めた差圧弁差圧DPsmを、ブレーキ液の温度TMPによって補正するようにしている。これは、ブレーキ液の温度TMPが低く、ブレーキ液の粘度が低い場合ほど、差圧調整弁62をマスタシリンダ51側にブレーキ液が通過する際の圧力損失が大きくなりやすいためである。そして、このようにブレーキ液の温度TMPを加味した差圧弁差圧DPsmを用いて導出した指示開度Inoで保持弁64を駆動させることにより、WC圧Pwcをより精度良く制御することができる。
【0078】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・アンチロックブレーキ制御の実施時にあっては、保持弁64の開弁直後ではWC圧Pwcを急激に増圧させるようになっている。そのため、アンチロックブレーキ制御の実施時において保持弁64が閉弁している状態から当該状態を解除することでWC圧Pwcの増圧を開始させるときには、第1の開度導出処理によって導出した指示開度Inoで保持弁64を駆動させなくてもよい。例えば、アンチロックブレーキ制御の実施時において保持弁64が閉弁している状態から当該状態を解除することでWC圧Pwcの増圧を開始させるときには、従来の場合と同様に、MC圧PmcからWC圧指示値PwcIを減じた差を保持弁差圧DPnoとみなし、この保持弁差圧DPnoを基に指示開度Inoを導出するようにしてもよい。例えば、図3を用いて説明した処理ルーチンにおいて、保持弁64に対して閉弁の指示がない場合(S14:NO)、全閉フラグFLGがオンであるか否かに拘わらず、処理をステップS20に移行させることで、このような構成を実現させることができる。
【0079】
・差圧弁通過流量FRsmを基に導出した差圧弁差圧DPsmを、ブレーキ液の温度TMPによって補正しなくてもよい。この場合、差圧弁差圧DPsmを利用して算出した保持弁差圧DPnoを基に導出した指示開度Inoを、ブレーキ液の温度TMPで補正し、補正後の指示開度Inoで保持弁64を駆動させるようにしてもよい。例えば、ブレーキ液の温度TMPが低いほど、指示開度Inoが小さくなるように補正し、当該補正後の指示開度Inoで保持弁64を駆動させることにより、WC圧Pwcを精度良く制御することができる。
【0080】
・上記実施形態では、WC圧指示値PwcI(N)とWC圧指示値の前回値PwcI(N−1)とを用い、保持弁通過流量FRnoを導出するようにしている。しかし、WC圧Pwcを推定又は検出する手段が別途ある場合、当該手段で得た値を基に保持弁通過流量FRnoを導出するようにしてもよい。例えば、WC圧Pwcを検出するセンサが車両に設けられている場合、当該センサによって検出されたWC圧の検出値と、WC圧の検出値の前回値とを用い、保持弁通過流量FRnoを導出するようにしてもよい。
【0081】
・規定制御状態である状況下で保持弁64が閉弁されている場合における差圧弁差圧DPsmは、ポンプ吐出流量FRpmpが多いほど大きくなることが予測される。そのため、第1の開度導出処理で用いられる補正値ΔPofを、ポンプ吐出流量FRpmpが多い場合ほど大きくするようにしてもよい。
【0082】
・規定制御状態である状況下で保持弁64が閉弁されている場合における差圧弁差圧DPsmは、ブレーキ液の温度TMPが低いほど大きくなることが予測される。そのため、第1の開度導出処理で用いられる補正値ΔPofを、ブレーキ液の温度TMPが低いほど大きくするようにしてもよい。
【0083】
・第1の開度導出処理は、保持弁64が閉弁している状態から当該状態を解除することでWC圧Pwcの増圧を開始させる際に実施される処理である。この第1の開度導出処理では、保持弁64が閉弁している状態の解除時に保持弁64の開度が急激に大きくなるのを抑制できるのであれば、上記実施形態とは異なる方法で指示開度Inoを導出するようにしてもよい。例えば、第1の開度導出処理では、まず始めに図3を用いて説明した処理ルーチンにおけるステップS20〜S25の各処理と同等の処理を実施することで、目標指示開度InoTを導出する。閉弁している保持弁64に対する指示開度を目標指示開度InoTと等しくして保持弁64を開弁させる際における保持弁64の開度の変化速度を所定変化速度とする。この場合、第1の開度導出処理では、次に、保持弁64の開度の変化速度が所定変化速度未満となるように、保持弁64に対する指示開度Inoを目標指示開度InoTに向けて変化させる。例えば、第1の開度導出処理の実施による保持弁64の駆動開始時からの経過時間が所定時間になったときに指示開度Inoが目標指示開度InoTと等しくなるように指示開度Inoを変化させるようにしてもよいし、予め設定されたパターンで指示開度Inoを調整し、指示開度Inoを目標指示開度InoTまで変化させるようにしてもよい。なお、この場合、指示開度Inoが目標指示開度InoTと等しくなると、第2の開度導出処理によって導出された指示開度Inoで保持弁64の駆動が制御されるようになる。
【符号の説明】
【0084】
10…車輪、21…ホイールシリンダ、40…制動装置、51…マスタシリンダ、62…差圧調整弁、64…保持弁、68…ポンプ、100…制動制御装置の一例である制御装置、141…ホイール液圧導出部の一例であるWC圧指示値設定部、143…通過流量導出部、144…差圧導出部、145…保持弁処理部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9