(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記励磁コイルおよび前記磁束密度検出コイルは、可撓性を有する絶縁被覆が施された電線を有することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の単板磁気特性試験器。
塑性変形された前記試験片が前記巻線枠の中空領域に挿入される際に、当該塑性変形された試験片の形状に応じて前記巻線枠が変形することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の単板磁気特性試験器。
前記巻線枠の中空領域に挿入された前記試験片が弾性変形されることに応じて前記巻線枠が変形することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の単板磁気特性試験器。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態を説明する。尚、各図において、X軸、Y軸、Z軸は、各図の向きの関係を示すものであり、○の中に●を付しているものは、紙面の奥側から手前側に向かう方向を示し、○の中に×を付しているものは、紙面の手前側から奥側に向かう方向を示す。
図1は、単板磁気特性試験器の構成の一例を示す図である。
図2は、試験片Sの形状の一例を示す図である。試験片Sは、1枚の軟磁性体板(例えば、方向性電磁鋼板または無方向性電磁鋼板)である。本実施形態では、試験片Sの平面形状は長方形である。
図2(a)は、試験片Sの板厚部分を示す図であり、
図2(b)は、試験片Sの板面部分を示す図である。
【0014】
単板磁気特性試験器において、試験片Sは、その板面が曲げられた状態になる。
図2に示す例では、試験片Sは、曲げ稜線が、試験片Sの短手方向に沿って、試験片Sの短手方向の一端から他端まで延びるように、試験片Sの長手方向の中央付近において曲げられる。尚、曲げは、屈曲であっても湾曲であってもよい。ただし、試験片Sにねじりが生じないようにするのが好ましい。また、
図2に示す例では、曲げ位置が一箇所である場合を例に挙げて示すが、曲げ位置は複数であってもよい。また、変形は、塑性変形であって弾性変形であってもよい。
【0015】
図1において、本実施形態の単板磁気特性試験器は、
図2に示すようにして曲げられた状態の試験片Sの磁気特性を測定する。単板磁気特性試験器は、ヨーク100と、巻線枠200と、励磁コイル300と、磁束密度検出コイル400とを有する。
ヨーク100は、試験片Sと磁気的に結合され、ヨーク100と試験片Sとで閉磁路が形成される。
【0016】
巻線枠200には、励磁コイル300および磁束密度検出コイル400が巻き回される。巻線枠200は、その長手方向の両端を貫くように形成された中空領域を有する。巻線枠200の中空領域に試験片Sが挿入される。このようにして試験片Sが巻線枠200の中空領域に配置されると、励磁コイル300および磁束密度検出コイル400は、試験片Sを取り巻くようになる。
【0017】
励磁コイル300には、試験片Sを取り巻くように配置されるコイルであり、試験片Sを励磁するための励磁電流が流れるコイルである。磁束密度検出コイル400は、試験片Sを取り巻くように配置されるコイルであり、励磁された試験片Sの内部の磁束密度を検出するためのコイルである。磁束密度検出コイル400の両端に誘起される誘導起電力から、試験片Sの内部の磁束密度が求められる。
【0018】
ここで、励磁コイル300および磁束密度検出コイル400のコイル軸(コイルがつくるループの中心を通る仮想線)は、略同軸であるのが好ましく、同軸であるのがより好ましい。励磁コイル300から発生する磁束が大きく且つ均一な領域に磁束密度検出コイル400を配置することができるからである。また、励磁コイル300のコイル軸と、試験片Sの軸(試験片Sの中心を通り、試験片Sの長手方向に沿う仮想線)と、が略一致するのが好ましく、一致するのがより好ましい。励磁コイル300から発生する磁束が大きく且つ均一な領域に試験片Sを配置することができるからである。
【0019】
次に、本実施形態のヨーク100について説明する。
図1において、ヨーク100は、第1ヨーク部110、第2ヨーク部120、第3ヨーク部130、第1取付部140、および第2取付部150を有する。
図3は、ヨーク100の構成の一例を示す図であり、
図1のA方向からヨーク100を見た様子を示す図である。
図4は、第1ヨーク部110の断面の一例を示す図(
図1のI−Iの部分で切った場合の第1ヨーク部110の断面図)である。
【0020】
第1ヨーク部110は、形状および板厚が同一の複数の軟磁性体板111を用いて構成される(
図3および
図4では、表記の都合上、1つの軟磁性体板にのみ符号111を付している)。また、第1ヨーク部110は、補強板161、162を有し、複数の軟磁性体板111を挟むように2枚の補強板161および162が配置される。補強板は非磁性を有する。これら複数の軟磁性体板と補強板の平面形状は長方形であり、その長手方向の両側に穴が1つずつ形成される。
図4に示すように、これら複数の軟磁性体板は、当該軟磁性体板の板厚と略同じ長さの間隔を有して板面同士が相互に対向するように配置される。このようにして複数の軟磁性体板と補強板が配置されると、当該軟磁性体板と補強板に形成されている穴により、当該軟磁性体板と補強板の長手方向の両側に、当該軟磁性体板と補強板の板厚方向に貫通する貫通穴が形成される。補強板161および162は、後述するように、ボルトで押し付ける際に変形しない強度を有する。補強板161および162は、例えば、オーステナイトステンレスやチタンを用いて構成される。
【0021】
第2ヨーク部120は、形状および板厚が同一の複数の第1軟磁性体板121と、形状および板厚が同一の複数の第2軟磁性体板122とを有する(
図3では、表記の都合上、1つの第1軟磁性体板、第2軟磁性体板にのみ符号121、122を付している)。第1軟磁性体板121の平面形状は正方形である。第2軟磁性体板122の平面形状は長方形である。第2軟磁性体板122の板面の短辺の長さと第1軟磁性体板121の板面の一辺の長さは略同じである。第2ヨーク部120を構成する第1軟磁性体板121および第2軟磁性体板122の板厚と、第1ヨーク部110を構成する軟磁性体板111の板厚は、略同じである。
図3に示すように、第2ヨーク部120は、第1軟磁性体板121の板面の一辺と、第2軟磁性体板122の板面の短辺とが重なり、且つ、第1軟磁性体板121および第2軟磁性体板122の板厚方向(X軸方向)の両端に第2軟磁性体板122が配置されるように、第1軟磁性体板121と第2軟磁性体板122とが交互に配置された状態で一体にされることにより構成される。
図4に示すように、第2ヨーク部120の第2軟磁性体板122の数は、第1ヨーク部110の軟磁性体板111の間に形成される隙間の数と同数である。
【0022】
図3に示すように、第2ヨーク部120の長手方向(Z軸方向)の一端面は平坦な磁極面(試験片Sと接触される領域)になる。
図3に示す例では、第2軟磁性体板122の長手方向(Z軸方向)の両端のうち、第1軟磁性体板121が配置される側の端の領域が、平坦な磁極面になる。一方、第2ヨーク部120の長手方向の他端面は凹凸面になる。
図3に示す例では、第2軟磁性体板122の長手方向の両端のうち、第1軟磁性体板121が配置されていない側の領域は、凹凸が繰り返された形状(いわゆる櫛歯状)になる。
【0023】
尚、
図1と
図3における第2ヨーク部120の位置の関係を明示するために、
図1および
図3において、第2ヨーク部120の各位置120a、120b、120c、120dを示している。
第3ヨーク部130は、第2ヨーク部120と同じ構成を有する。
第1取付部140は、ボルト、ナット、ワッシャ等を有する。第2取付部150は、第1取付部140と同じ構成を有する。
【0024】
図1および
図4に示すように、第1ヨーク部110を構成する軟磁性体板111と補強板161および162の長手方向の一側(Y軸の負の方向側)において当該軟磁性体板111と補強板161および162の板厚方向(X軸方向)に貫通する貫通穴に第1取付部140のボルトが挿入される。同様に、第1ヨーク部110を構成する軟磁性体板111と補強板161および162の長手方向の他側(Y軸の正の方向側)において当該軟磁性体板111の板厚方向に貫通する貫通穴に第2取付部150のボルトが挿入される。ボルトの先端側にはナットが取り付けられる。ボルトとナットは、非磁性を有する。このとき、例えば、ボルトと軟磁性体板111とが接触しないようにし、ボルトの頭部および軟磁性体板111の間と、ナットおよび軟磁性体板111の間に、それぞれ絶縁ワッシャと絶縁スリーブを配置することにより、ボルトおよびナットと軟磁性体板111とが絶縁された状態にする。尚、第1取付部140を構成するボルトおよびナット等を、非磁性且つ絶縁性を有する材料で構成してもよい。
【0025】
ヨーク100を構成する際には、まず、
図1および
図3に示すように、第1ヨーク部110の隙間に、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の、第2軟磁性体板122の第1軟磁性体板121よりも突き出ている領域(前述した櫛歯状の凸部)を挿入する。そして、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130を第1ヨーク部110に挿入した状態で、第1ヨーク部110を構成する軟磁性体板111の板面に対して、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130を構成する軟磁性体板121、122の板面を摺動させて、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の位置および向きを変える。
【0026】
このようにして第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の位置および向きを変えることにより、第2ヨーク部120の磁極面、第3ヨーク部130の磁極面が、それぞれ、試験片Sの長手方向の一端、他端の領域における板面と合わさると、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130をその状態に保持して、第1取付部140および第2取付部150により、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130が挿入された第1ヨーク部110を締め付ける。これにより、第1ヨーク部110に対し第2ヨーク部120および第3ヨーク部130が固定される。
【0027】
尚、
図1では、第1ヨーク部110を構成する軟磁性体板111の長手方向(Y軸方向)の両側の合計2箇所に第1取付部140および第2取付部150を取り付けることにより、第1ヨーク部110に対し第2ヨーク部120および第3ヨーク部130が固定されるようにする場合を例に挙げて示した。しかしながら、固定部の位置および数は、このようなものに限定されない。例えば、第1ヨーク部110を構成する軟磁性体板111の長手方向(Y軸方向)の中央の位置にも固定部が取り付けられるようにして、第1ヨーク部110に対し第2ヨーク部120および第3ヨーク部130をより確実に固定することができるようにしてもよい。また、第1ヨーク部110に対し第2ヨーク部120および第3ヨーク部130を固定することができれば、必ずしもボルトおよびナットを用いる必要はない。例えば、第1ヨーク部110を構成する複数の軟磁性体板111のうち、当該軟磁性体板111の板厚方向(X軸方向)の両端に位置する軟磁性体板111の板面を、非磁性且つ絶縁性を有する板状の部材を使って押し付けるようにしてもよい。
【0028】
また、ここでは、1枚おきに隙間を有するように(隙間の両側にある軟磁性体板111の数が1となるように)板面が相互に対向する状態で複数の軟磁性体板111を配置することにより第1ヨーク部110を構成する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、必ずしも隙間は1枚おきに形成する必要はなく、複数枚おきに形成してもよいし、隙間の両側にある軟磁性体板111の数を場所により異ならせてもよい。また、隙間は、複数枚の軟磁性体板の板厚の和と略同じ長さとしてもよい。この場合、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の前述した櫛歯状の1つの凸部を構成する第2軟磁性体板の板厚の和が、第1ヨーク部110に形成される隙間の長さと略同じになるようにする。
【0029】
図5は、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の配置の第1の例を示す図である。
図5(a)は、第1ヨーク部110と第2ヨーク部120とのなす角度θ1と、第1ヨーク部110と第3ヨーク部130とのなす角度θ2とが同じである場合の第1ヨーク部110における第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の配置を示す。
図5(b)は、第1ヨーク部110と第2ヨーク部120とのなす角度θ1と、第1ヨーク部110と第3ヨーク部130とのなす角度θ2とが異なる場合の第1ヨーク部110における第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の配置を示す。
【0030】
図5(b)に示す状態は、
図5(a)に示す状態に対し、第2ヨーク部120を第3ヨーク部130から遠ざかる方向に回動させた状態である。このように、第2ヨーク部120の磁極面と第3ヨーク部130の磁極面とがなす角度θtを変えることができる。
【0031】
図6は、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の配置の第2の例を示す図である。
図6(a)は、第1ヨーク部110と第2ヨーク部120との距離が相対的に遠い場合の第1ヨーク部110における第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の配置を示す。
図6(b)は、第1ヨーク部110と第2ヨーク部120との距離が相対的に近い場合の第1ヨーク部110における第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の配置を示す。
【0032】
図6(a)および
図6(b)に示すように、第2ヨーク部120の磁極面と第3ヨーク部130の磁極面とがなす角度θtを変えずに、第2ヨーク部120の磁極面と第3ヨーク部130の磁極面との距離を変えることができる。
この他、例えば、
図5(a)の状態に対し、第2ヨーク部120を第3ヨーク部130から遠ざかる方向に回動させると共に、第3ヨーク部130を第2ヨーク部120から遠ざかる方向に回動させることもできる。逆に、
図5(a)の状態に対し、第2ヨーク部120を第3ヨーク部130に近づける方向に回動させると共に、第3ヨーク部130を第2ヨーク部120に近づける方向に回動させることもできる。また、
図5(a)の状態に対し、第2ヨーク部120を第3ヨーク部130から遠ざかる方向に回動させると共に、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の少なくとも何れか一方を、第1ヨーク部110を構成する軟磁性体板の長手方向に移動させることもできる。
【0033】
このように、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130が第1ヨーク部110に挿入されている状態で、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の少なくとも何れか一方について、第1ヨーク部110を構成する軟磁性体板111の板面に沿う方向におおいて、平行移動および回動の少なくとも何れか一方を行うことができる。従って、試験片Sの長さおよび形状に合わせて、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の磁極面の位置および向きを調節することができる。
【0034】
次に、本実施形態の巻線枠200、励磁コイル300および磁束密度検出コイル400について説明する。
図7は、巻線枠200、励磁コイル300および磁束密度検出コイル400の構成の一例を示す図である。巻線枠200、励磁コイル300、磁束密度検出コイル400、および試験片Sの、第3ヨーク部130側の領域の構成は、第2ヨーク部120側の領域の構成と同じであるので、
図7では、巻線枠200、励磁コイル300、磁束密度検出コイル400、および試験片Sの、第2ヨーク部120側の領域のみを示す。また、
図7では、第2ヨーク部120の磁極面付近の領域も示す。
図7は、これらの領域を、励磁コイル300および磁束密度検出コイル400のコイル軸を通るように、試験片Sの板厚方向に沿って切った場合の断面を示す。
図8は、巻線枠200の構成の一例を示す図である。具体的に
図8(a)は、
図7のII−IIの部分で切った場合の巻線枠200の断面図であり、
図8(b)は、
図7のIII−IIIの部分で切った場合の巻線枠200の断面図である。
図9は、励磁コイル300および磁束密度検出コイル400の巻き方の一例を示す図である。以下、
図7〜
図9を参照しながら、本実施形態の巻線枠200、励磁コイル300および磁束密度検出コイル400について説明する。
【0035】
巻線枠200は、巻線枠本体部210および固定部220を有する。
巻線枠本体部210は、可撓性を有する。本実施形態では、巻線枠本体部210を蛇腹状として、巻線枠本体部210が可撓性を有するようにしている。また、蛇腹の凹部および凸部はそれぞれ螺旋状になっている。巻線枠本体部210は、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂を用いて構成される。この場合、例えば、蛇腹の凸部の領域に硬質のポリ塩化ビニル樹脂を用い、その他の領域に軟質のポリ塩化ビニル樹脂を用いることにより、蛇腹の凸部が変形しにくくなるようにすることができる。また、例えば、巻線枠本体部210(蛇腹)の内部に、螺旋に沿って非磁性の針金を埋め込むことにより、巻線枠本体部210が曲げられた状態になると巻線枠本体部210がその状態を保持するようにすることができる。
【0036】
励磁コイル300および磁束密度検出コイル400は、可撓性の絶縁被覆で覆われた撚線の電線を用いて構成される。磁束密度検出コイル400は、巻線枠本体部210の蛇腹の凹部の螺旋状の領域に沿って配置される。これにより磁束密度検出コイル400は、
図9に示すように、巻線枠本体部210に螺旋状に巻き回される。励磁コイル300は、磁束密度検出コイル400よりも巻線枠本体部210の外周側において、巻線枠本体部210の蛇腹の凹部の螺旋状の領域に沿って配置される。これにより励磁コイル300も磁束密度検出コイル400と同様に、巻線枠本体部210に螺旋状に巻き回される。
【0037】
巻線枠本体部210には、その長手方向(励磁コイル300も磁束密度検出コイル400のコイル軸の方向)において貫通する中空領域が形成される。
図8(a)に示すように、巻線枠本体部210をその長手方向に垂直な方向に沿って切った場合の断面において、巻線枠本体部210の中空領域は、長方形の領域となる。この長方形の長辺が試験片Sの板面と対向し、短辺が試験片Sの板厚部分と対向するようにする。また、この長方形の長辺の長さは、試験片Sの板面の短辺の長さ(幅)として想定される長さよりも長い範囲で可及的に短いのが好ましく、短辺の長さは、試験片Sの板厚として想定される長さよりも長い範囲で可及的に短いのが好ましい。試験片Sと磁束密度検出コイル400との間の領域の面積を小さくすることができるので、磁束密度検出コイル400の両端に発生する誘導起電力に、この領域を貫く磁束に基づく成分が含まれることを抑制することができるからである。
【0038】
巻線枠本体部210の長手方向の端部には固定部220が取り付けられる。固定部220は、可撓性を有しない。固定部220は、固定部本体221、第3取付部222、および第4取付部223を有する。固定部本体221は、非磁性且つ絶縁性を有し、且つ、後述するようにして試験片Sを押さえ付けても変形しない強度を有する材料を用いて構成される。例えば、固定部本体221は、ガラスエポキシ樹脂やフェノール樹脂を用いて構成される。
図7および
図8(a)に示すように、固定部本体221は、巻線枠本体部210の中空領域と連通する中空領域を有する。この中空領域は、巻線枠本体部210の長手方向に沿う方向において、固定部本体221を貫くように形成される。また、巻線枠本体部210の長手方向に沿う方向に垂直に切った場合の断面において、巻線枠本体部210の中空領域と固定部本体221の中空領域は、略同じ長方形の領域となる。これら長方形の領域が合うように、固定部本体221は、巻線枠本体部210の長手方向の端部に着脱不能に取り付けられる。
【0039】
図7および
図8(a)に示すように、固定部本体221には、その中空領域に対して垂直な方向に2つのねじ穴が形成される。これら2つのねじ穴は、試験片Sの板面を介して相互に対向する位置に配置される。
第3取付部222および第4取付部223は、同じ構成を有する。第3取付部222および第4取付部223は、ねじと板とを有する。固定部220のねじ穴に挿入された状態のねじの先端に、板が取り付けられる。この板の板面は、試験片Sの板面と略平行な状態になるようにする。ねじと板は、一体となっており、非磁性且つ絶縁性を有し、後述するようにして試験片Sを押さえ付けても変形しない強度を有する材料を用いて構成される。第3取付部222および第4取付部223は、例えば、ガラスエポキシ樹脂やフェノール樹脂を用いて構成される。
【0040】
図7および
図8(a)に示すように、巻線枠本体部210および固定部220の中空領域に試験片Sを挿入し、第2ヨーク部120の磁極面と試験片Sの板面とを合わせた後、試験片Sを間に挟んだ状態で第3取付部222および第4取付部223の板で試験片Sの板面をその上下から押さえ付けるように第3取付部222および第4取付部223のねじを回すことにより、巻線枠200に試験片S(の一端側の領域)が取り付けられる。
【0041】
巻線枠本体部210の他端にも、固定部220、第3取付部222および第4取付部223と同じ構成の固定部220、第3取付部222および第4取付部223が取り付けられる。第3ヨーク部130の磁極面と試験片Sの板面とを合わせた後、試験片Sを間に挟んだ状態で第3取付部222および第4取付部223の板で試験片Sの板面をその上下から押さえ付けるように第3取付部222および第4取付部223のねじを回すことにより、巻線枠200に試験片S(の他端側の領域)が取り付けられる。
【0042】
試験片Sを弾性変形させる場合には、試験片Sを弾性変形させずに巻線枠本体部210および固定部220の中空領域に挿入した後、試験片Sを弾性変形させ、その状態で、第3取付部222および第4取付部223を用いて巻線枠本体部210に試験片Sを取り付けることができる。一方、塑性変形された試験片Sの磁気特性を測定する場合には、塑性変形された試験片Sの形状に合わせて巻線枠本体部210を曲げることにより試験片Sを巻線枠本体部210および固定部220の中空領域に挿入することができる。
【0043】
以上のようにして試験片Sが巻線枠本体部210に取り付けられた後、第2ヨーク部120、第3ヨーク部130の磁極面と試験片Sの板面とが合うように、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の少なくとも何れか一方を動かす。そして、第2ヨーク部120、第3ヨーク部130の磁極面と試験片Sの板面とが合った状態で、励磁コイル300に励磁電流を流し、磁束密度検出コイル400の両端に発生する誘導起電力を測定する。この誘導起電力に基づいて、試験片Sの内部の磁束密度を導出する。
【0044】
尚、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の磁極面と、試験片Sの板面とを合わせて、第2ヨーク部120および第3ヨーク部130の位置決めをした後に、前述したようにして巻線枠本体部210に試験片Sを挿入し、巻線枠200に試験片Sを取り付けてもよい。
【0045】
巻線枠本体部210および固定部220は、巻線枠本体部210および固定部220が動かないように不図示の保持部により保持される。また、第2ヨーク部120、第3ヨーク部130の磁極面と試験片Sの板面とが合わさった状態がより確実に継続されるように、試験片Sを間に挟んだ状態で不図示の押付部により第2ヨーク部120の磁極面、第3のヨーク部130の磁極面をそれぞれ押さえ付けるようにするのが好ましい。この押付部は、非磁性且つ絶縁性を有する材料を用いて構成される。また、試験片Sの板面の領域のうち、第2ヨーク部120の磁極面と接触する領域の反対側の領域と、第3ヨーク部120の磁極面と接触する領域の反対側の領域を磁極面とするヨーク部をヨーク部110が有するようにし、試験片Sの板面をヨーク部の磁極面で上下から挟み込むようにしてもよい。このようにする場合も、各ヨーク部の磁極面を、試験片Sの板面に密着させるようにするのが好ましい。
【0046】
以上のように本実施形態では、可撓性を有する巻線枠200の外周面に、励磁コイル300が外側、磁束密度検出コイル400が内側になるように励磁コイル300および磁束密度検出コイル400を螺旋状に配置する。ヨーク100は、試験片Sと接触する磁極面の位置と向きとを可変にすることができる。巻線枠200は、その一端と他端とを貫くように形成された中空領域を有する。この中空領域に挿入された試験片Sの形状に合わせて巻線枠200を変形し、試験片Sの一端側の板面の領域と他端側の板面の領域とをヨーク100の磁極面に合わせた状態とする。その状態で、励磁コイル300に励磁電流を流し、磁束密度検出コイル400の両端に発生する誘導起電力を測定する。従って、試験片Sの板面を曲げる場合であっても、1つの巻線枠200に励磁コイル300および磁束密度検出コイル400を巻き回すことができる。従って、励磁コイル300および磁束密度検出コイル400における磁束の漏れを低減することができる。また、巻線枠本体部210第2ヨーク部120、および第3ヨーク部130により調整できる範囲内であれば、試験片Sの曲げ角度を自由に調整することができる。よって、弾性変形させた試験片や塑性変形された試験片の磁気特性を正確に測定することができる単板磁気特性試験器を提供することができる。
【0047】
本実施形態では、ヨーク100が、相互に分離された3つのヨーク部(第1ヨーク部110、第2ヨーク部120、および第3ヨーク部130)で構成される場合を例に挙げて説明した。しかしながら、
図5および
図6を参照したようにしてヨーク部の磁極面の位置および向きを調整することができれば、必ずしもこのようにしてヨークを構成する必要はない。
【0048】
図10は、単板磁気特性試験器の構成の変形例を示す図である。本変形例の単板磁気特性試験器は、ヨーク1000と、巻線枠200と、励磁コイル300と、磁束密度検出コイル400とを有する。
図11に示す単板磁気特性試験器と
図1に示した単板磁気特性試験器とでは、ヨーク100、1000が異なり、巻線枠200、励磁コイル300、および磁束密度検出コイル400は同じである。
【0049】
ヨーク1000は、試験片Sと磁気的に結合され、ヨーク1000と試験片Sとで閉磁路が形成される。
図10において、ヨーク1000は、第4ヨーク部1010、第5ヨーク部1020、第6ヨーク部1030、第7ヨーク部1040、およびヒンジ部1051〜1053を有する。
図11は、ヨーク1000の構成の一例を示す図である。具体的に
図11(a)は、ヨーク1000の平面図を示し、
図11(b)は、
図10のIV−IVの部分で切った場合のヨーク1000の断面図を示す。
【0050】
第4ヨーク部1010は、平面形状が、長方形に対し短辺の1つを湾曲した凹形状とした形状を有する第1軟磁性体板1011と、平面形状が、長方形に対し短辺の1つを湾曲した凸形状とした形状を有する第2軟磁性体板1012とを、それらの板厚方向の両端が第1軟磁性体板1011となるように、当該長方形の長辺を合わせて交互に積み重ねて一体とすることにより構成される(
図11(b)では、表記の都合上、1つの第1軟磁性体板、第2軟磁性体板にのみ符号1011、1012を付している)。これら第1軟磁性体板1011および第2軟磁性体板1012の板厚は同じである。また、第2軟磁性体板1012の凸形状となっている領域には穴が形成されており、第1軟磁性体板1011および第2軟磁性体板1012が積み重ねられることにより、第2軟磁性体板1012の凸形状となっている領域には、第1軟磁性体板1011および第2軟磁性体板1012の板厚方向に貫通する貫通穴が形成される。
【0051】
第5ヨーク部1020は、平面形状が、長方形に対し短辺の1つを湾曲した凹形状とし他の1つを湾曲した凸形状とした形状を有する複数の軟磁性体板1021を、当該凹形状と当該凸形状とが交互に配置されるように、当該長方形の長辺を合わせて積み重ねて一体とすることにより構成される(
図11(b)では、表記の都合上、1つの軟磁性体板にのみ符号1021を付している)。複数の軟磁性体板1021の板厚は同じである。また、軟磁性体板1021の凸形状となっている領域には穴が形成されており、前述したようにして複数の軟磁性体板1021が積み重ねられることにより、軟磁性体板1021の凸形状となっている領域には、それぞれ、軟磁性体板1021の板厚方向に貫通する貫通穴が形成される。
【0052】
第6ヨーク部1030は、第5ヨーク部1020と同じ構成を有する。
第7ヨーク部1040は、平面形状が、長方形に対し短辺の1つを湾曲した凹形状とした形状を有する第1軟磁性体板1041と、平面形状が、長方形に対し短辺の1つを湾曲した凸形状とした形状を有する第2軟磁性体板1042とを、それらの板厚方向の両端が第2軟磁性体板1042となるように、当該長方形の長辺を合わせて交互に積み重ねて一体とすることにより構成される(
図11(b)では、表記の都合上、1つの第1軟磁性体板、第2軟磁性体板にのみ符号1041、1042を付している)。これら第1軟磁性体板1041および第2軟磁性体板1042の板厚は同じである。また、第2軟磁性体板1042の凸形状となっている領域には穴が形成されており、第1軟磁性体板1041および第2軟磁性体板1042が積み重ねられることにより、第2軟磁性体板1042の凸形状となっている領域には、第1軟磁性体板1041および第2軟磁性体板1042板の板厚方向に貫通する貫通穴が形成される。
【0053】
第5ヨーク部1020を構成する軟磁性体板1021の凸形状となっている領域に形成された貫通穴と、第6ヨーク部1030を構成する軟磁性体板1031の凸形状となっている領域に形成された貫通穴とが合うように第5ヨーク部1020および第6ヨーク部1030は組み合わされ、当該貫通孔にヒンジ部1052が挿入される。
【0054】
第4ヨーク部1010を構成する第2軟磁性体板1012の凸形状となっている領域に形成された貫通穴と、第5ヨーク部1020を構成する軟磁性体板1021の凸形状となっている領域に形成された貫通穴のうち、ヒンジ部1052が挿入されない貫通穴とが合うように第4ヨーク部1010および第5ヨーク部1020は組み合わされ、当該貫通孔にヒンジ部1051が挿入される。
【0055】
第7ヨーク部1040を構成する第2軟磁性体板1042の凸形状となっている領域に形成された貫通穴と、第6ヨーク部1030を構成する軟磁性体板1031の凸形状となっている領域に形成された貫通穴のうち、ヒンジ部1052が挿入されない貫通穴とが合うように第6ヨーク部1030および第7ヨーク部1040は組み合わされ、当該貫通孔にヒンジ部1053が挿入される。
【0056】
ヒンジ部1051〜1053は、非磁性且つ絶縁性を有し、第4ヨーク部1010、第5ヨーク部1020、第6ヨーク部1030、および第7ヨーク部1040が動いても変形しない強度を有する材料を用いて構成される。例えば、ヒンジ部1051〜1053は、ガラスエポキシ樹脂やフェノール樹脂を用いて構成される。
以上のようにして構成されるヨーク1000の長手方向の両端面(第4ヨーク部1010、第7ヨーク部1040を構成する第1軟磁性体板1011、1041および第2軟磁性体板1012、1042の短辺のうち凹凸が形成されていない方の辺により構成される端面)が磁極面になる。
【0057】
ヒンジ部1051を回動軸として第4ヨーク部1010および第5ヨーク部1020が回動し、ヒンジ部1052を回動軸として第5ヨーク部1020および第6ヨーク部1030が回動し、ヒンジ部1053を回動軸として第6ヨーク部1030および第7ヨーク部1040が回動する。これにより、
図1等に示したヨーク100と同様に、第4ヨーク部1010の磁極面と第7ヨーク部1040の磁極面とがなす角度を変えたり、第4ヨーク部1010の磁極面と第7ヨーク部1040の磁極面とがなす角度を変えずに、第4ヨーク部1010の磁極面と第7ヨーク部1040の磁極面との距離を変えたりすることができる。
【0058】
以上のようにヨークは、
図1等に示したヨーク100のように複数の分離した部分を有していても、
図10等に示したヨーク1000のように一体のものとしてもよい。尚、
図10等に示したようにしてヒンジ部を用いて複数のヨーク部を回動可能に連結する場合、ヒンジ部の数を多くすれば、磁極面の調整範囲を広げることができる。また、ヨーク部の数が3つであると、2つの磁極面のなす角度を変えずに、当該2つの磁極面の距離を変えることができない。従って、ヨーク部の数は4つ以上であるのが好ましい。
【0059】
また、本実施形態では、巻線枠200が蛇腹状の領域を有する場合を例に挙げて説明した。前述したように、励磁コイル300および磁束密度検出コイル400のコイル軸に垂直な方向に切った場合の巻線枠200(巻線枠本体部210)の中空領域の形状を、短辺に比べて長辺の長さが極端に長い長方形とするのが好ましい。磁束密度検出コイル400と試験片Sとの間の領域を狭くすることができるからである。そこで、巻線枠本体部210を蛇腹状にすれば、巻線枠本体部210が曲げられることにより当該長方形が変形することを、当該変形を抑制するための特別な構成を付加することなく抑制することができるので好ましい。しかしながら、巻線枠200は、試験片Sの曲げ形状に合わせて曲がるように可撓性を有し、その曲がった状態が保持されるようにしていれば、必ずしも、蛇腹状の部分を有していなくてもよい。例えば、巻線枠本体部の形状を、その長手方向の一端および他端を貫くように形成された中空領域を有する直方体形状としてもよい。この場合、例えば、当該直方体を、試験片Sの板面と平行な2つの第1部分と、試験片Sの板面と垂直な2つの第2部分とに分離し、当該直方体が曲げられることに応じて第1部分が第2部分に対して摺動するようにすることで、中空領域の形状の変形を抑制することができる。
【0060】
尚、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。