(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。本実施形態の車載用電動圧縮機は、流体としての冷媒を圧縮する圧縮部を備えており、車載用空調装置に用いられる。即ち、本実施形態における車載用電動圧縮機の圧縮対象の流体は冷媒である。
【0012】
図1に示すように、車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11と、車載用電動圧縮機11に対して流体としての冷媒を供給する外部冷媒回路12とを備えている。外部冷媒回路12は、例えば熱交換器及び膨張弁等を有している。車載用空調装置10は、車載用電動圧縮機11によって冷媒が圧縮され、且つ、外部冷媒回路12によって冷媒の熱交換及び膨張が行われることによって、車内の冷暖房を行う。
【0013】
車載用空調装置10は、当該車載用空調装置10の全体を制御する空調ECU13を備えている。空調ECU13は、車内温度やカーエアコンの設定温度等を把握可能に構成されており、これらのパラメータに基づいて、車載用電動圧縮機11に対してON/OFF指令等といった各種指令を送信する。
【0014】
車載用電動圧縮機11は、外部冷媒回路12から冷媒が吸入される吸入口14aが形成されたハウジング14を備えている。
ハウジング14は、伝熱性を有する材料(例えばアルミニウム等の金属)で形成されている。ハウジング14は、車両のボディに接地されている。
【0015】
ハウジング14は、互いに組み付けられた吸入ハウジング15と吐出ハウジング16とを有している。吸入ハウジング15は、一方向に開口した有底筒状であり、板状の底壁部15aと、底壁部15aの周縁部から吐出ハウジング16に向けて起立した側壁部15bとを有している。底壁部15aは例えば略板状であり、側壁部15bは例えば略筒状である。吐出ハウジング16は、吸入ハウジング15の開口を塞いだ状態で吸入ハウジング15に組み付けられている。これにより、ハウジング14内には内部空間が形成されている。
【0016】
吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bに形成されている。詳細には、吸入口14aは、吸入ハウジング15の側壁部15bのうち吐出ハウジング16よりも底壁部15a側に配置されている。
【0017】
ハウジング14には、冷媒が吐出される吐出口14bが形成されている。吐出口14bは、吐出ハウジング16、詳細には吐出ハウジング16における底壁部15aと対向する部位に形成されている。
【0018】
車載用電動圧縮機11は、ハウジング14内に収容された回転軸17、圧縮部18及び電動モータ19を備えている。
回転軸17は、ハウジング14に対して回転可能な状態で支持されている。回転軸17は、その軸線方向が板状の底壁部15aの厚さ方向(換言すれば筒状の側壁部15bの軸線方向)と一致する状態で配置されている。回転軸17と圧縮部18とは連結されている。
【0019】
圧縮部18は、ハウジング14内における吸入口14a(換言すれば底壁部15a)よりも吐出口14b側に配置されている。圧縮部18は、回転軸17が回転することによって、吸入口14aからハウジング14内に吸入された冷媒を圧縮し、その圧縮された冷媒を吐出口14bから吐出させるものである。なお、圧縮部18の具体的な構成は、スクロールタイプ、ピストンタイプ、ベーンタイプ等任意である。
【0020】
電動モータ19は、ハウジング14内における圧縮部18と底壁部15aとの間に配置されている。電動モータ19は、ハウジング14内にある回転軸17を回転させることにより、圧縮部18を駆動させるものである。電動モータ19は、例えば回転軸17に対して固定された円筒形状のロータ20と、ハウジング14に固定されたステータ21とを有する。ステータ21は、円筒形状のステータコア22と、ステータコア22に形成されたティースに捲回されたコイル23とを有している。ロータ20及びステータ21は、回転軸17の径方向に対向している。コイル23が通電されることによりロータ20及び回転軸17が回転し、圧縮部18による冷媒の圧縮が行われる。
【0021】
図1に示すように、車載用電動圧縮機11は、電動モータ19を駆動させるものであって直流電力が入力される駆動装置24と、駆動装置24を収容する収容室S0を区画するカバー部材25とを備えている。
【0022】
カバー部材25は、伝熱性を有する非磁性体の導電性材料(例えばアルミニウム等の金属)で構成されている。
カバー部材25は、ハウジング14、詳細には吸入ハウジング15の底壁部15aに向けて開口した有底筒状である。カバー部材25は、開口端が底壁部15aに突き合せられた状態で、ボルト26によってハウジング14の底壁部15aに取り付けられている。カバー部材25の開口は、底壁部15aによって塞がれている。収容室S0は、カバー部材25と底壁部15aとによって形成されている。
【0023】
収容室S0は、ハウジング14外に配置されており、底壁部15aに対して電動モータ19とは反対側に配置されている。圧縮部18、電動モータ19及び駆動装置24は、回転軸17の軸線方向に配列されている。
【0024】
カバー部材25にはコネクタ27が設けられており、駆動装置24はコネクタ27と電気的に接続されている。コネクタ27を介して、車両に搭載された車載用蓄電装置28から駆動装置24に直流電力が入力されるとともに、空調ECU13と駆動装置24とが電気的に接続されている。車載用蓄電装置28は、車両に搭載された直流電源であり、例えば二次電池やキャパシタ等である。
【0025】
図1に示すように、駆動装置24は、回路基板29と、回路基板29に設けられたインバータ装置30と、コネクタ27とインバータ装置30とを電気的に接続するのに用いられる2本の接続ラインEL1,EL2と、を備えている。
【0026】
回路基板29は板状である。回路基板29は、底壁部15aに対して回転軸17の軸線方向に所定の間隔を隔てて対向配置されている。
インバータ装置30は、電動モータ19を駆動するためのものである。インバータ装置30は、インバータ回路31(
図2参照)と、ノイズ低減部32(
図2参照)を備えている。インバータ回路31は、直流電力を交流電力に変換するためのものである。ノイズ低減部32は、インバータ回路31の入力側に設けられるとともにインバータ回路31に入力される前の直流電力に含まれるコモンモードノイズ及びノーマルモードノイズを低減させるためのものである。
【0027】
次に電動モータ19及び駆動装置24の電気的構成について説明する。
図2に示すように、電動モータ19のコイル23は、例えばu相コイル23u、v相コイル23v及びw相コイル23wを有する三相構造となっている。各コイル23u〜23wは例えばY結線されている。
【0028】
インバータ回路31は、u相コイル23uに対応するu相スイッチング素子Qu1,Qu2と、v相コイル23vに対応するv相スイッチング素子Qv1,Qv2と、w相コイル23wに対応するw相スイッチング素子Qw1,Qw2と、を備えている。各スイッチング素子Qu1〜Qw2は例えばIGBT等のパワースイッチング素子である。なお、スイッチング素子Qu1〜Qw2は、還流ダイオード(ボディダイオード)Du1〜Dw2を有している。
【0029】
各u相スイッチング素子Qu1,Qu2は接続線を介して互いに直列に接続されており、その接続線はu相コイル23uに接続されている。そして、各u相スイッチング素子Qu1,Qu2の直列接続体は、両接続ラインEL1,EL2に電気的に接続されており、上記直列接続体には、車載用蓄電装置28からの直流電力が入力されている。
【0030】
なお、他のスイッチング素子Qv1,Qv2,Qw1,Qw2については、対応するコイルが異なる点を除いて、u相スイッチング素子Qu1,Qu2と同様の接続態様である。
【0031】
駆動装置24は、各スイッチング素子Qu1〜Qw2のスイッチング動作を制御する制御部33を備えている。制御部33は、例えば、1つ以上の専用のハードウェア回路、及び/又は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ(制御回路)によって実現することができる。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、例えば各種処理をプロセッサに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ即ちコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0032】
制御部33は、コネクタ27を介して空調ECU13と電気的に接続されており、空調ECU13からの指令に基づいて、各スイッチング素子Qu1〜Qw2を周期的にON/OFFさせる。詳細には、制御部33は、空調ECU13からの指令に基づいて、各スイッチング素子Qu1〜Qw2をパルス幅変調制御(PWM制御)する。より具体的には、制御部33は、キャリア信号(搬送波信号)と指令電圧値信号(比較対象信号)とを用いて、制御信号を生成する。そして、制御部33は、生成された制御信号を用いて各スイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFF制御を行うことにより直流電力を交流電力に変換する。
【0033】
ノイズ低減部32は、コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35を備えている。平滑コンデンサとしてのXコンデンサ35は、コモンモードチョークコイル34と共にローパスフィルタ回路36を構成する。ローパスフィルタ回路36は、接続ラインEL1,EL2上に設けられている。ローパスフィルタ回路36は、回路的にはコネクタ27とインバータ回路31との間に設けられている。
【0034】
コモンモードチョークコイル34は、両接続ラインEL1,EL2上に設けられている。
Xコンデンサ35は、コモンモードチョークコイル34に対して後段(インバータ回路31側)に設けられており、両接続ラインEL1,EL2に電気的に接続されている。コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35とによってLC共振回路が構成されている。即ち、本実施形態のローパスフィルタ回路36は、コモンモードチョークコイル34を含むLC共振回路である。
【0035】
両Yコンデンサ37,38は、互いに直列に接続されている。詳細には、駆動装置24は、第1Yコンデンサ37の一端と第2Yコンデンサ38の一端とを接続するバイパスラインEL3を備えている。当該バイパスラインEL3は車両のボディに接地されている。
【0036】
また、両Yコンデンサ37,38の直列接続体が、コモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35との間に設けられており、コモンモードチョークコイル34に電気的に接続されている。第1Yコンデンサ37の上記一端とは反対側の他端は、第1接続ラインEL1、詳細には第1接続ラインEL1のうちコモンモードチョークコイル34の第1の巻線とインバータ回路31とを接続する部分に接続されている。第2Yコンデンサ38における上記一端とは反対側の他端は、第2接続ラインEL2、詳細には第2接続ラインEL2のうちコモンモードチョークコイル34の第2の巻線とインバータ回路31とを接続する部分に接続されている。
【0037】
車両には、車載用機器として例えばPCU(パワーコントロールユニット)39が、駆動装置24とは別に搭載されている。PCU39は、車載用蓄電装置28から供給される直流電力を用いて、車両に搭載されている走行用モータ等を駆動させる。即ち、本実施形態では、PCU39と駆動装置24とは、車載用蓄電装置28に対して並列に接続されており、車載用蓄電装置28は、PCU39と駆動装置24とで共用されている。
【0038】
PCU39は、例えば、昇圧スイッチング素子を有し且つ当該昇圧スイッチング素子を周期的にON/OFFさせることにより車載用蓄電装置28の直流電力を昇圧させる昇圧コンバータ40と、車載用蓄電装置28に並列に接続された電源用コンデンサ41とを備えている。また、図示は省略するが、PCU39は、昇圧コンバータ40によって昇圧された直流電力を、走行用モータが駆動可能な駆動電力に変換する走行用インバータを備えている。
【0039】
かかる構成においては、昇圧スイッチング素子のスイッチングに起因して発生するノイズが、ノーマルモードノイズとして、駆動装置24に流入する。換言すれば、ノーマルモードノイズには、昇圧スイッチング素子のスイッチング周波数に対応したノイズ成分が含まれている。
【0040】
次に、コモンモードチョークコイル34の構成について
図3(a)、
図3(b)、
図3(c)、
図4(a)、
図5、
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)、
図6(d)を用いて説明する。
【0041】
コモンモードチョークコイル34は、車両側のPCU39で発生する高周波ノイズが圧縮機側のインバータ回路31に伝わるのを抑制するためのものであり、特に、漏れインダクタンスをノーマルインダクタンスとして利用することでノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)を除去するためのローパスフィルタ回路(LCフィルタ)36におけるL成分として用いられる。即ち、コモンモードノイズ及びノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)に対応可能であり、コモンモード用チョークコイルとノーマルモード(ディファレンシャルモード)用チョークコイルとを、それぞれ、用いるのではなく1つのチョークコイルで両モードノイズに対応可能である。
【0042】
なお、図面において、3軸直交座標を規定しており、
図1の回転軸17の軸線方向をZ方向とし、Z方向に直交する方向をX,Y方向としている。
図3(a),(b),(c)に示すように、コモンモードチョークコイル34は、コア50と、カバー60と、第1の巻線70と、第2の巻線71と、を備える。
【0043】
コア50は、
図3(c)に示すように断面四角形状をなし、
図6(a)に示すX−Y平面において全体として略長方形状をなしている。
図5及び
図6(a),(b),(c),(d)に示すように、カバー60は、環状をなしている。カバー60は、コア50の少なくとも一部を覆う。カバー60は、導電体よりなる。例えば、カバー60は銅の板材よりなる。カバー60は、下側部材60aと上側部材60bよりなる。なお、コア50とカバー60との間には絶縁層(図示略)が介在されている。
【0044】
図3(a),(b),(c)に示すように、第1の巻線70は、カバー60の外面に巻回される。第2の巻線71は、カバー60の外面に巻回される。両巻線70,71の巻き方向は、互いに反対方向となっている。
【0045】
図3(a),(b),(c)に示すように、カバー60は、第1領域61と、第2領域62と、2つの接続領域63,64とを有する。第1領域61において、第1の巻線70が巻回される。第2領域62において、第2の巻線71が巻回される。接続領域63は、第1領域61及び第2領域62のX方向における右側及び左側の上側部材60bで構成されている。接続領域64は、第1領域61及び第2領域62のX方向における右側及び左側の下側部材60aで構成されている。2つの接続領域63,64において、第1領域61と第2領域62とを周方向に繋げるとともに軸方向に対向する。このように、
図3(a),(b)において、2つの接続領域63,64は、第1領域61及び第2領域62に対し、X方向における右側及び左側にそれぞれ形成されている。
【0046】
図6(a),(b),(c),(d)に示すように、カバー60の内周面には周方向に全長にわたり延びるスリット(S1,S2)が形成されており、このスリットは第1スリットS1及び第2スリットS2を含むものである。即ち、カバー60は、第1スリットS1及び第2スリットS2を内周面に有する。
図3(c)に示すように、第1スリットS1は、第1領域61が第1の巻線70の周方向について不連続となるよう、カバー60の周方向に延びている。
図3(c)に示すように、第2スリットS2は、第2領域62が第2の巻線71の周方向について不連続となるよう、カバー60の周方向に延びている。
【0047】
第1領域61が直線に延びる第1直線部となり、第2領域62が直線に延びる第2直線部となっており、第1領域61と第2領域62は、全体が、互いに平行となるよう直線に延びる第1直線部と第2直線部となっている。
【0048】
図6(a),(b),(c),(d)に示すように、カバー60の外周面には周方向に延びる第3スリットS3が形成されている。つまり、カバー60の外周面において、下側部材60aと上側部材60bとが離間している。第3スリットS3におけるX方向での中央部は非連続部分となっており、カバー60における下側部材60aと上側部材60bとは、
図4(a)に示すように、端面同士を突き合わせて溶接されている。この場合、端面同士の電気接続部(溶接箇所)を通して電流を流す際に抵抗値を小さくできるとともに安定させることができる。
【0049】
次に、作用について説明する。
まず、
図7(a),(b),(c)を用いてノーマルモード(ディファレンシャルモード)について説明する。
【0050】
第1の巻線70及び第2の巻線71の通電により電流i1,i2が流れる。これに伴いコア50に磁束が発生するとともに漏れ磁束φが発生する。ここで、発生する漏れ磁束φに抗う方向に磁束を発生させるべくカバー60の内部において誘導電流i10が周方向に流れる。つまり、巻線70,71の通電に伴い、カバー60の第2領域62→一方の接続領域63→第1領域61→他方の接続領域64→第2領域62へとループ状に電流が流れる。なお、コア50内に発生する磁束(図示せず)については、第1の巻線70を通過する磁束と及び第2の巻線71を通過する磁束は互いに逆向きである。
【0051】
詳しくは、
図7(a)において実線で示す電流i10がカバー60の第1領域61から接続領域63を経て第2領域62に流れ、さらに、接続領域64においては紙面反対面において
図7(a)に実線で示す電流i10と同じ経路かつ反対方向に電流が流れる。つまり、
図7(b)において電流i11で示すごとくカバー60の表面(
図7(b)の上面側)から裏面(
図7(b)の下面側)に電流が流れる。
【0052】
このようにして、カバー60において、第1の巻線70及び第2の巻線71の通電に伴い発生する漏れ磁束φに抗う方向に磁束を発生させるべく誘導電流(渦電流)i10が内部において周方向に流れる。誘導電流が周方向に流れるとは、コア50を周回するように流れることである。
【0053】
コモンモードにおいては、第1の巻線70及び第2の巻線71の通電により同じ方向に電流が流れる。これに伴いコア50に互いに同じ向きの磁束が発生する。このようにして、コモンモード電流通電時は、コア50内部に磁束が発生し漏れ磁束はほとんど発生しないため、コモンインピーダンスは保持できる。
【0054】
次に、ローパスフィルタ回路36の周波数特性について
図13を用いて説明する。
図13は、流入するノーマルモードノイズに対するローパスフィルタ回路36のゲイン(減衰量)の周波数特性を示すグラフである。
図13の実線は、後記する
図8(a),(b),(c)のごとくカバー60の外周面が全周にわたり溶接されている場合を示し、
図13の一点鎖線は、単にコア50に巻線70,71を巻回した構成とした場合を示す。また、
図13において、横軸の周波数は対数で示す。ゲインは、ノーマルモードノイズを低減できる量を示すパラメータの一種である。
【0055】
図13の一点鎖線に示すように、単にコア50に巻線70,71を巻回した構成とした場合には、ローパスフィルタ回路36(詳細にはコモンモードチョークコイル34とXコンデンサ35とを含むLC共振回路)のQ値が比較的高くなっている。このため、ローパスフィルタ回路36の共振周波数に近い周波数のノーマルモードノイズは低減されにくくなっている。
【0056】
一方、本件(
図13の実線)では、コモンモードチョークコイル34にて発生する磁力線(漏れ磁束φ)によって渦電流が発生する位置に導電体よりなるカバー60が設けられている。カバー60は、漏れ磁束φが貫く位置に設けられており、漏れ磁束φが貫くことによって当該漏れ磁束φを打ち消す方向の磁束が生じるような誘導電流(渦電流)を発生させるように構成されている。これにより、カバー60がローパスフィルタ回路36のQ値を下げるものとして機能する。従って、
図13の実線に示すように、ローパスフィルタ回路36のQ値が低くなっている。よって、ローパスフィルタ回路36の共振周波数付近の周波数を有するノーマルモードノイズも、ローパスフィルタ回路36によって低減される。
【0057】
以上のごとく、コモンモードチョークコイルにおいてカバー60による金属シールド構造を採用することにより、コモンモードチョークコイルとしてローパスフィルタ回路に利用し、コモンモードノイズを低減する。また、ノーマルモード電流(ディファレンシャルモード電流)に対して発生する漏れ磁束を積極的に活用し、ノーマルモードノイズ(ディファレンシャルモードノイズ)の低減を兼ね備えた適切なフィルタ特性を得ることができる。つまり、カバー60を用いることで、ノーマルモード電流(ディファレンシャルモード電流)通電時に発生した漏れ磁束に抗う磁束が発生し、電磁誘導によってカバー60に電流が流れ熱として消費される。カバー60は磁気抵抗として働くためダンピング効果を得ることができ、ローパスフィルタ回路によって発生した共振ピークを抑制できる(
図13参照)。また、コモンモード電流通電時は、コア内部に磁束が発生し漏れ磁束はほとんど発生しないため、コモンインピーダンスは保持できる。
【0058】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)車載用電動圧縮機11の構成として、電動モータ19を駆動するインバータ装置30を備え、インバータ装置30は、インバータ回路31とノイズ低減部32とを備え、ノイズ低減部32は、コモンモードチョークコイル34と、コモンモードチョークコイル34と共にローパスフィルタ回路36を構成する平滑コンデンサとしてのXコンデンサ35と、を備える。コモンモードチョークコイル34は、環状のコア50と、コア50の少なくとも一部を覆う導電体よりなる環状のカバー60と、カバー60の外面に巻回された第1の巻線70と、カバー60の外面に巻回された第2の巻線71と、を備える。カバー60は、第1の巻線70が巻回される第1領域61と、第2の巻線71が巻回される第2領域62と、第1領域61と第2領域62とを周方向に繋げるとともに軸方向に対向する2つの接続領域63,64とを有する。カバー60は、第1領域61が第1の巻線70の周方向について不連続となるよう、カバー60の周方向に延びる第1スリットS1を、内周面に有する。カバー60は、第2領域62が第2の巻線71の周方向について不連続となるよう、カバー60の周方向に延びる第2スリットS2を、内周面に有する。
【0059】
よって、第1の巻線70及び第2の巻線71の通電に伴い発生する漏れ磁束φに抗う方向に磁束を発生させるべく誘導電流i10が流れることができる。よって、発熱に伴うダンピング効果を得ることができる。その結果、ダンピング効果に優れたフィルタ回路を有する車載用電動圧縮機を提供することができる。
【0060】
(2)第1領域61が直線に延びる第1直線部となり、第2領域62が直線に延びる第2直線部となっており、第1領域61と第2領域62は、互いに平行となるよう直線に延びる第1直線部と第2直線部を備える。よって、カバー60を容易に配置することができ、実用的である。
【0061】
(3)カバー60は、外周面において全周でなく一部のみの溶接であり、製造が容易である。また、カバー60は、外周面において全周でなく一部のみ誘導電流が流れるので発熱しにくくすることができる。
【0062】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○カバー60は、銅の他にも、アルミ、真鍮、ステンレス鋼材等で構成されていてもよい。また、銅などの非磁性金属に限らず磁性金属でもよい。ここで、カバー60は鉄のような磁性金属を用いた場合には誘導電流が流れることに伴いさらに磁束が生じるので悪影響を及ぼす可能性があるので、非磁性金属が好ましい。
【0063】
○ カバー60における下側部材60aと上側部材60bとは、
図4(a)に示すように、端面同士を突き合わせて溶接したが、これに代わり、
図4(b)に示すように、カバー60における下側部材60aの先端側と上側部材60bの先端側との一部を重ね合わせて嵌合(接触)させてもよい。この場合においては、溶接しないので製造しやすくなる。なお、カバーにおける下側部材60aの先端側と上側部材60bの先端側との一部を重ね合わせて溶接するようにしてもよい。
【0064】
○ カバーの構成として
図6(a),(b),(c),(d)に代わり、
図8(a)、
図8(b)、
図8(c)、
図8(d)に示すようにしてもよい。
図8(a),(b),(c),(d)において、下側部材60aと上側部材60bとを外周面における全周にわたり接触させてもよい。
【0065】
○ カバーの構成として
図6(a),(b),(c),(d)に代わり、
図9(a)、
図9(b)、
図9(c)、
図9(d)に示すようにしてもよい。
図9(a),(b),(c),(d)において、カバー構成部品として一対のU字型カバー60c,60dを作製し、コア50の両側(X方向における両側)からU字型カバー60c,60dを嵌め込む(挿入する)構成としてもよい。
【0066】
○ さらにその変形として、
図10(a)、
図10(b)、
図10(c)、
図10(d)に示すようにしてもよい。
図10(a),(b),(c),(d)において、カバー構成部品として1つのU字型カバー60e、即ち、半環状のカバー60eを作製し、コア50の片側からU字型カバー60eを嵌め込む(挿入する)構成としてもよい。
【0067】
○
図9(a),(b),(c),(d)の変形例として、
図11に示すように、内周面でのスリットの形状として、短辺における一部分において一部を接近させてもよい。即ち、U字型カバー60c,60dで実装した後に内周面の突部80,81を軸方向において互いに接近する方向に折り曲げた構成としてもよい。
【0068】
他にも、
図12に示すように、内周面でのスリットの形状として、長辺における一部分において一部を接近させてもよい。即ち、U字型カバー60c,60dで実装した後に内周面の突部82,83を軸方向において互いに接近する方向に折り曲げた構成としてもよい。