(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入力された電気エネルギーを変換して出力する機能を有する電力変換装置と通信し、前記電力変換装置のメモリに記憶された、前記機能を制御するための機能制御データを調整する電力変換装置用パラメータ調整装置であって、
前記電力変換装置のメモリ上の機能制御データの調整を開始する前に、前記電力変換装置のメモリに記憶されている変更前の機能制御データを収集し保存する変更前データ保存部と、
前記電力変換装置のメモリ上の機能制御データの調整開始から調整完了までの間に、前記電力変換装置との通信が不可状態から可能状態に切り替わった場合に、前記電力変換装置のメモリに記憶されている現在の機能制御データを収集する現在データ収集部と、
前記変更前の機能制御データと前記現在の機能制御データとを比較し、差異データを検出する比較検出部と、
前記差異データが検出された場合に、前記変更前の機能制御データを用いて、前記電力変換装置のメモリ上の機能制御データを調整開始前の状態に戻すパラメータリストア部と、
を備えることを特徴とする電力変換装置用パラメータ調整装置。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置(インバータ装置)は、電動機制御装置、太陽光発電用パワーコンディショニングシステム、無停電電源装置(UPS)、蓄電池用変換器としてプラントシステムに広く利用されている。
【0003】
電力変換装置は、様々な用途の機器に組み込まれて用いられるため、多数のパラメータ(電力変換装置の動作や機能を決定するためのソフトウェア設定項目)を有し、多様な運転が可能となっている。多数のパラメータは、パーソナルコンピュータなどにインストールされたソフトウェアを用いて設定される(例えば、特許文献1)。
【0004】
一例として電動機制御装置では、電動機制御装置のメモリに設定されている電動機定数等のパラメータを調整する作業が必要である。パラメータの調整中には、当該調整対象のパラメータとは別に、このパラメータを調整するための調整用の設定データ(以下、仮処置と記す)が存在し、この仮処置も電動機制御装置のメモリ上に記憶される。以下、電力変換装置の機能を制御するためのパラメータや仮処置を含めて機能制御データと記す。
【0005】
電力変換装置のパラメータ調整は、電力変換装置と通信可能な、電力変換装置に接続されたパーソナルコンピュータが、電力変換装置のメモリに記憶されている機能制御データを書き換えつつ、パラメータを自動的、または手動で調整することで実現できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電力変換装置の自動調整中に、何らかの要因で通信不可能な状態に陥り、その後、通信可能な状態に復旧した場合、電力変換装置のメモリに記憶されている機能制御データがプラントシステム運用に適しない値に書き換わっている可能性や、上述の仮処置が残っている可能性がある。
【0008】
そのため、通信不可能な状態から復旧した場合には、電力変換装置のメモリに記憶されている機能制御データを、適切なデータへ復旧する対策が必要である。ここで、通信不可能な状態とは、一時的又はハードウェアの要因により通信が切断された状態や、パーソナルコンピュータ上で実行されているパラメータ自動調整用のソフトウェアがクラッシュした状態を含む。
【0009】
一般に、ネットワーキングではトランザクションの最中に何らかの要因で、その作業を完了できなかった際のデータの取扱いについて、ロールバック手法が用いられる。これは、問題が発生したトランザクションの結果を全て削除し、問題の起きる前のステップまでさかのぼることで、フローを継続させる手法である。この手法は、サーバにて管理しているデータが常にマスターであるとの認識により成立する。
【0010】
しかしながら、電力変換装置は、内部に電力変換装置の機能を制御するデータを記憶するメモリが存在するのみで、サーバ機能を有していない。そのため、パラメータ調整の途中で不具合が生じても、電動機制御装置のメモリ上の調整中パラメータおよびその調整のための仮処置を、調整開始前の状態に戻すこと(ロールバック)ができない。
【0011】
そのため、従来は、電力変換装置のパラメータ調整中に通信が不可能な状態が生じた場合に、電力変換装置のメモリに記憶されている機能制御データがプラントシステム運用に合致した設定値になっていない可能性や、上記仮処置が適切なデータへと戻されていない可能性があるにもかかわらず、このような不適切なデータを検出できないまま、プラントシステムが運用される可能性が高かった。電力変換装置の機能を制御するデータが、プラントシステムに合致していない状態で、電力変換装置が運転された場合、電力変換装置がプラントシステムの望む動作を行えず、プラントシステム運用に弊害を与える恐れがある。
【0012】
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、電力変換装置のパラメータ調整中に不具合が生じた場合であっても、電力変換装置のデータを調整前の状態に復旧できる電力変換装置用パラメータ調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明に係る電力変換装置用パラメータ調整装置は、以下のように構成される。
【0014】
電力変換装置用パラメータ調整装置は、入力された電気エネルギーを変換して出力する機能を有する電力変換装置と通信し、電力変換装置のメモリに記憶された、前記機能を制御するための機能制御データを調整する。電力変換装置用パラメータ調整装置は、変更前データ保存部と、現在データ収集部と、比較検出部と、パラメータリストア部とを備える。
【0015】
変更前データ保存部は、電力変換装置のメモリ上の機能制御データの調整を開始する前に、電力変換装置のメモリに記憶されている変更前の機能制御データを収集し保存する。
【0016】
現在データ収集部は、電力変換装置のメモリ上の機能制御データの調整開始から調整完了までの間に、電力変換装置との通信が不可状態から可能状態に切り替わった場合に、電力変換装置のメモリに記憶されている現在の機能制御データを収集する。ここで通信不可状態とは、通信経路の障害やソフトウェアのクラッシュ等により、電力変換装置のメモリ上の機能制御データを変更できない状態を含む。
【0017】
比較検出部は、変更前データ保存部に保存されている変更前の機能制御データと、現在データ収集部により収集された現在の機能制御データとを比較し、差異データを検出する。
【0018】
パラメータリストア部は、比較検出部により差異データが検出された場合に、変更前データ保存部に保存されている変更前の機能制御データを用いて、電力変換装置のメモリ上の機能制御データを調整開始前の状態に戻す。
【0019】
好ましくは、比較検出部により検出された差異データを外部に通知するユーザ通知部をさらに備える。パラメータリストア部は、外部からのリストア指令に応じて、変更前データ保存部に保存されている変更前の機能制御データを用いて、電力変換装置のメモリ上の機能制御データを調整開始前の状態に戻す。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る電力変換装置用パラメータ調整装置によれば、電力変換装置のパラメータ調整中に不具合が生じた場合であっても、電力変換装置のデータを調整前の状態に復旧できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0023】
実施の形態1.
(システム構成)
図1は、本発明の実施の形態1に係るシステム構成を説明するための図である。
図1に示すシステムは、電力変換装置1と電力変換装置用パラメータ調整装置(以下、単にパラメータ調整装置と記す)10を備える。パラメータ調整装置10は、電力変換装置1と通信可能に接続され、有線接続であるか無線接続であるかは問わない。
【0024】
電力変換装置1は、交流から直流、直流から交流、あるいは交流の周波数変換、直流の電力変換など、電気エネルギーを変換する装置である。電力変換装置1は、例えば電動機制御装置、太陽光発電用パワーコンディショニングシステム、無停電電源装置(UPS)、蓄電池用変換器等である。
【0025】
電力変換装置1は、インバータ回路の他、メモリ、ネットワークI/F(インタフェース)等を備える。メモリには、入力された電力を変換して出力する機能に必要な各種パラメータと、これらのパラメータを自動調整するための調整用の設定データ(以下、仮処置と記す)を含む機能制御データ2が記憶される。ネットワークI/Fは、外部のパラメータ調整装置10とのデータ送受信に用いられる。
【0026】
パラメータ調整装置10は、パラメータ調整部11と、リストア制御部12とを備える。パラメータ調整部11は、電力変換装置1のパラメータ自動調整を実施する。パラメータ自動調整の際には、電力変換装置1のメモリ内の機能制御データ2(調整対象のパラメータおよびその仮処置)が書き換えられる。機能制御データ2は、電力変換装置1の操業に用いられるメモリ領域に記憶されるため、自動調整後は仮処置を元の値に戻す必要がある。また、自動調整中に何らかの不具合が起こり、電力変換装置1のメモリに仮処置が残ってしまうとその後の操業に悪影響を及ぼしてしまう。そこで、本実施形態に係るパラメータ調整装置10は、調整前の状態まで機能制御データ2を復旧可能なリストア制御部12を備える。
【0027】
パラメータ調整部11は、電力変換装置1とコンピュータネットワークを介して相互に通信可能な構成となっている。また、複数の電力変換装置1に対して、1つのパラメータ調整部11でマルチに通信が可能な構成となっている。
【0028】
パラメータ調整部11は、機能制御データ受信部11a、機能制御データ書換部11bの他、電力変換装置1のパラメータ自動調整に必要な演算を担う演算部(図示省略)等を備える。パラメータ自動調整では、電力変換装置1のメモリ内の機能制御データ2(調整対象のパラメータおよびその仮処置)を更新する。
【0029】
機能制御データ受信部11aは、パラメータ調整部11の演算部またはリストア制御部12からの受信指令に応じて、電力変換装置1のメモリに記憶された機能制御データ2を受信する。
【0030】
機能制御データ書換部11bは、パラメータ調整部11の演算部またはリストア制御部12からの書換指令に応じて、電力変換装置1のメモリに記憶された機能制御データ2を書き換える。
【0031】
リストア制御部12は、変更前データ保存部12a、現在データ収集部12b、比較検出部12c、ユーザ通知部12d、パラメータリストア部12eを備える。
【0032】
変更前データ保存部12aは、電力変換装置1のメモリ上の機能制御データ2の調整を開始する前に、電力変換装置1のメモリに記憶されている変更前の機能制御データを収集し保存する。変更前の機能制御データは、機能制御データ受信部11aを介して受信され、後述する
図3のストレージ108へ保存される。
【0033】
現在データ収集部12bは、電力変換装置1のメモリ上の機能制御データ2の調整開始から調整完了までの間に、電力変換装置1との通信が不可状態から可能状態に切り替わった場合に、機能制御データ受信部11aを介して、電力変換装置1のメモリに記憶されている現在の機能制御データを収集する。ここで通信不可状態とは、通信経路の障害やソフトウェアのクラッシュ等により、電力変換装置のメモリ上の機能制御データを変更できない状態を含む。
【0034】
比較検出部12cは、変更前データ保存部12aに保存されている変更前の機能制御データと現在データ収集部12bにより受信された現在の機能制御データとを比較し、差異データを検出する。検出された差異データの一覧は、ユーザ通知部12dへ出力される。
【0035】
ユーザ通知部12dは、比較検出部12cにより検出された差異データを外部(ユーザ)に通知する。具体的には、後述する
図3のモニタ107に差異データの一覧が表示される。ユーザは、入力装置106を用いて、調整開始前の状態へ戻すデータの選択およびパラメータリストアを実行するリストア指令を出すことができる。外部(ユーザ)からのリストア指令は、パラメータリストア部12eへ出力される。
【0036】
パラメータリストア部12eは、差異データが検出された場合に、外部からのリストア指令に応じて、変更前の機能制御データを用いて、電力変換装置1のメモリ上の機能制御データを調整開始前の状態に戻す。具体的には、ユーザ通知部12dで選択された調整開始前の状態へ戻すデータについて、変更前データ保存部12aに保存されている変更前の機能制御データに基づいて、機能制御データ書換部11bへ書換指令を出力する。
【0037】
(フローチャート)
図2は、パラメータ調整装置10が実行する制御ルーチンのフローチャートである。本ルーチンは、電力変換装置1とパラメータ調整装置10とが通信不可状態から通信可能状態に切り替わった時に実行される。例えば、パラメータ調整装置10の正常起動完了後の他、通信が切断された状態から復旧した時、パラメータ調整装置10のソフトウェアがクラッシュしその後再起動した場合等に実行される。
【0038】
まずステップS20において、パラメータ調整装置10は、調整中フラグを読み込む。調整中フラグはストレージ108等に記憶されており、パラメータ調整装置10が再起動しても初期化されない。さらに、パラメータ調整装置10は、調整中フラグがONであるか否かを判定する。調整中フラグがOFFである場合には、通常のパラメータ調整フローであるステップS21〜ステップS24の処理が実行される。
【0039】
ステップS21において、パラメータの調整に仮処置を要するケースではパラメータ自動調整に先立って、電力変換装置1のメモリに記憶されている変更前の機能制御データ2を変更前データ保存部12aに保存する。
【0040】
次にステップS22において、調整中フラグをONに書き換えた後、パラメータ調整部11の演算部は、パラメータ自動調整を開始する。演算部からの書換指令に応じて、機能制御データ書換部11bは、電力変換装置1のメモリ上の機能制御データ2を逐次書き換える。
【0041】
次にステップS23において、一連の仮処置が必要な自動調整が完了した後、電力変換装置1のメモリに記憶された機能制御データ2の仮処置は元の値へ書き戻される。
【0042】
次にステップS24において、パラメータ自動調整が正常終了したため調整中フラグがOFFに設定される。また、変更前データ保存部12aに保存されている変更前の機能制御データも削除される。ステップS21〜ステップS24の処理は、自動調整中に仮処置が発生する度に実施される。
【0043】
上述したステップS20において、調整中フラグがONである場合とは、パラメータ自動調整が正常に終了せずに、調整開始から調整完了までの間(ステップS21〜ステップS24)に何らかの不具合によりパラメータ自動調整が異常終了した場合を意味する。この場合、変更前データ保存部12aに変更前の機能制御データが残っており、本ルーチンがステップS20から再実行されると、ステップS25〜ステップS31の処理に進む。
【0044】
ステップS25において、現在データ収集部12bは、機能制御データ受信部11aを介して、電力変換装置1のメモリに記憶されている現在の機能制御データを収集する。
【0045】
次にステップS26において、比較検出部12cは、変更前データ保存部12aに保存されている変更前の機能制御データと、ステップS25で収集した現在の機能制御データとを比較して差異データを検出する。
【0046】
次にステップS27において、差異データの有無が判定される。差異データがある場合には、ステップS28の処理に進み、差異データがない場合には、ステップS31の処理に進む。
【0047】
ステップS28において、ユーザ通知部12dは、後述する
図3のモニタ107に比較検出部12cによる比較結果を表示する。例えば、ポップアップでエラー表示および差異データの一覧をユーザに通知する。さらに、ユーザ通知部12dは、ユーザがエラー表示を認識しポップアップを操作した後、パラメータリストアのポップアップを表示させ、ユーザへデータ書き戻しを実行するデータの選択を促す。
【0048】
ステップS29において、ユーザがデータ書き戻しを実行するデータを選択し、実行ボタンを押すことで、パラメータリストア部12eから機能制御データ書換部11bへ、変更前データ保存部12aに保存されている変更前の機能制御データへ書き戻す書換指令が出力される。書換指令を受信した機能制御データ書換部11bは、ユーザによって選択された変更前の機能制御データを、電力変換装置1のメモリ上の機能制御データ2へ書き込む。
【0049】
ステップS30において、リストア制御部12は、再び現在の機能制御データを収集し、変更前の機能制御データと比較して差異がないことを確認する。差異があった場合は、ステップS25〜ステップS29の処理が繰り返し実行される。
【0050】
差異がなかった場合は、次にステップS31において、リストアが正常終了したため調整中フラグがOFFに設定され、変更前データ保存部12aに保存されている変更前の機能制御データも削除される。その後、ステップS21から通常フローが再開される。
【0051】
(効果)
以上説明したように、上述したパラメータ調整装置10によれば、仮処置を実施している途中で、通信が切断された場合や電力変換装置1のメモリに記憶されている機能制御データを変更するソフトウェアのクラッシュが生じた場合に、電力変換装置1の調整前のデータと、電力変換装置1の現在のデータとの差異を検出し、差異がある場合にユーザへ通知、復旧の選択を提供する。これにより、電力変換装置1の機能を制御するデータを正しい状態へ復旧する効果を生む。復旧により、電力変換装置1の機能を制御するデータが、プラントシステム運用に合致したデータとなるため、プラントシステム運用が健全に実行される効果を生む。
【0052】
(ハードウェア構成例)
パラメータ調整装置10のハードウェア構成について
図3を参照しつつ説明する。
図3は、パラメータ調整装置10が有する処理回路のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図1に示す各部は、パラメータ調整装置10が有する機能の一部を示し、各機能は処理回路により実現される。例えば、処理回路は、CPU101、ROM102、RAM103、入出力インタフェース104、システムバス105、入力装置106、モニタ107、ストレージ108、ネットワークI/F(インタフェース)109を備えたコンピュータである。
【0053】
CPU101は、ROM102やRAM103に格納されたプログラムやデータなどを用いて各種の演算処理を実行する処理装置である。ROM102は、コンピュータに各機能を実現させるための基本プログラムや環境ファイルなどを記憶する読み取り専用の記憶装置である。RAM103は、CPU101が実行するプログラムおよび各プログラムの実行に必要なデータを記憶する主記憶装置であり、高速な読み出しと書き込みが可能である。入出力インタフェース104は、各種のハードウェアとシステムバス105との接続を仲介する装置である。システムバス105は、CPU101、ROM102、RAM103および入出力インタフェース104で共有される情報伝達路である。
【0054】
また、入出力インタフェース104には、入力装置106、モニタ107、ストレージ108、ネットワークI/F109などのハードウェアが接続されている。入力装置106は、ユーザによる入力を処理する装置であり、例えばキーボードやマウスである。モニタ107は、表示装置である。ストレージ108は、プログラムやデータを蓄積する大容量の補助記憶装置であり、例えばハードディスク装置や不揮発性の半導体メモリなどである。ストレージ108には、オペレーティングシステム、コンピュータを上述のように機能させるためのプログラムおよびデータが記憶されている。ネットワークI/F109は、電力変換装置1と通信するための通信装置である。
【0055】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。