(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881435
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】水処理方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20060101AFI20210524BHJP
C02F 5/00 20060101ALI20210524BHJP
C02F 5/08 20060101ALI20210524BHJP
C02F 5/10 20060101ALI20210524BHJP
C02F 5/14 20060101ALI20210524BHJP
C02F 1/70 20060101ALI20210524BHJP
C02F 1/72 20060101ALI20210524BHJP
C02F 3/02 20060101ALI20210524BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20210524BHJP
C02F 9/02 20060101ALI20210524BHJP
C02F 9/04 20060101ALI20210524BHJP
C02F 9/14 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
C02F1/44 C
C02F5/00 620D
C02F5/08 F
C02F5/10 610Z
C02F5/10 620B
C02F5/14 B
C02F5/14 C
C02F5/14 D
C02F5/14 E
C02F1/70 Z
C02F1/72 Z
C02F3/02 Z
B01D71/56
C02F9/02
C02F9/04
C02F9/14
【請求項の数】20
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-510565(P2018-510565)
(86)(22)【出願日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2017013212
(87)【国際公開番号】WO2017175657
(87)【国際公開日】20171012
【審査請求日】2020年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-77855(P2016-77855)
(32)【優先日】2016年4月8日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-166695(P2016-166695)
(32)【優先日】2016年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 智宏
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雅英
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 賢司
【審査官】
富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−300966(JP,A)
【文献】
特開2013−052333(JP,A)
【文献】
特開2001−149950(JP,A)
【文献】
特開2013−180277(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/093573(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
C02F 5/00− 5/14
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水もしくは前記原水を前処理工程により前処理した前処理水に酸化剤を添加し、供給水として昇圧ポンプによって半透膜モジュールに加圧供給し、該供給水を濃縮水と透過水とに分離する水処理方法において、該供給水に還元剤を添加する前0〜10秒以内に該供給水に還元機能を有するスケール抑制剤を添加し、
該供給水が、遷移金属を0.001mg/L以上含有する供給水であり、
該遷移金属が、Fe(II/III)、Mn(II)、Mn(III)、Mn(IV)、Cu(I/II)、Co(II/III)、Ni(II)、Cr(II/III/IV/VI)の少なくとも一つからなる遷移金属であることを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記スケール抑制剤が、リン酸系の有機化合物を含むスケール抑制剤であることを特徴とする請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
前記スケール抑制剤が、少なくとも、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ヘキサエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチレン−1,1,−ジホスホン酸、テトラメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)のうち一つ以上を含む有機酸もしくは有機酸の塩であるとともに、分子量が200g/モル以上10000g/モル以下である成分を含むスケール抑制剤であることを特徴とする請求項2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記スケール抑制剤が、少なくとも、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、水素化リン、ホスフィンオキシド、アスコルビン酸、カテキン、ポリフェノール、没食子酸のうち一つ以上を副成分として含むスケール抑制剤であることを特徴とする請求項2または3に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記供給水に前記還元剤と前記スケール抑制剤とを同時添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項6】
前記還元剤が亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムのいずれかを含む還元剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項7】
前記前処理工程として生物処理機能を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項8】
原水を前処理工程により前処理した前処理水を、供給水として昇圧ポンプによって半透膜モジュールに加圧供給し、該供給水を濃縮水と透過水とに分離する水処理方法において、前記前処理工程の上流で、前記原水に追加の還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内に、さらに追加のスケール抑制剤としてリン酸系のスケール抑制剤を添加し、前記原水を前記前処理工程で処理した後0〜60秒以内に、前記スケール抑制剤を添加することを特徴とする水処理方法。
【請求項9】
前記供給水に前記追加の還元剤と前記追加のスケール抑制剤とを同時に添加することを特徴とする請求項8に記載の水処理方法。
【請求項10】
前記前処理工程の下流で前記供給水に前記還元剤を添加し、前記還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内に前記スケール抑制剤を添加することを特徴とする請求項8または9に記載の水処理方法。
【請求項11】
前記供給水に前記還元剤と前記スケール抑制剤とを同時に添加することを特徴とする請求項10に記載の水処理方法。
【請求項12】
前記スケール抑制剤と前記追加のスケール抑制剤とが同種のスケール抑制剤であることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項13】
前記スケール抑制剤が非リン酸系の有機化合物を含むスケール抑制剤であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項14】
前記半透膜モジュールが、ポリアミドを主成分とする半透膜を含むことを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項15】
前記半透膜が、製造時に塩素処理されている半透膜であることを特徴とする請求項14に記載の水処理方法。
【請求項16】
別のスケール抑制剤が添加された、他の半透膜モジュールの濃縮水を混合することによって、前記供給水に前記スケール抑制剤を添加することを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項17】
原水もしくはその前処理水を供給水として加圧する昇圧ポンプと、昇圧された該供給水を濃縮水と透過水とに分離する半透膜モジュールと、該供給水に還元剤を添加する還元剤添加ユニットと、該供給水に還元機能を有するスケール抑制剤を添加するスケール抑制剤添加ユニットを備え、
さらに該還元剤添加ユニットの上流に、酸化剤を添加する酸化剤添加ユニットを備え、
該供給水に還元剤を添加する前0〜10秒以内に該供給水にスケール抑制剤を添加可能なことを特徴とする水処理装置。
【請求項18】
還元剤添加ユニットの上流または下流に、生物処理機能を有する前処理ユニットを備えることを特徴とする請求項17に記載の水処理装置。
【請求項19】
原水を前処理ユニットにより前処理した前処理水を、供給水として昇圧ポンプによって半透膜モジュールに加圧供給し、該供給水を濃縮水と透過水とに分離する水処理装置において、前記原水に追加の還元剤を添加する追加の還元剤添加ユニットと、該原水に前記追加の還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内に前記前処理ユニットの上流で、該原水に追加のスケール抑制剤としてリン酸系のスケール抑制剤を添加する追加のスケール抑制剤添加ユニットと、前記前処理ユニットの下流で、該供給水にスケール抑制剤を添加するスケール抑制剤添加ユニットとを備え、該供給水に前記前処理ユニットで処理した後0〜60秒以内に該供給水に前記スケール抑制剤を添加可能なことを特徴とする水処理装置。
【請求項20】
前記前処理ユニットの下流で、前記供給水に還元剤を添加する還元剤添加ユニットを備え、該還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内に前記スケール抑制剤を添加可能なことを特徴とする請求項19に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水や、塩分などの溶質を含む河川水、地下水、湖水、廃水処理水などの原水から、半透膜モジュールで低濃度溶質の透過水を得るための水処理方法および水処理装置およびその運転方法に関するものであり、さらに詳しくは、半透膜モジュールの酸化劣化を防止しつつ、安定的かつ安価に淡水を得るための水処理方法および水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水資源の枯渇が深刻になりつつあり、これまで利用されてこなかった水資源の活用が検討され、特に最も身近でそのままでは利用できなかった海水から飲料水を製造する技術、いわゆる“海水淡水化”、更には下廃水を浄化し、処理水を淡水化する再利用技術が注目されてきている。海水淡水化は、従来、水資源が極端に少なく、かつ、石油による熱資源が非常に豊富である中東地域で蒸発法を中心に実用化されてきているが、熱源が豊富でない中東以外の地域ではエネルギー効率の高い逆浸透法が採用されている。
【0003】
しかしながら、最近では、逆浸透法の技術進歩による信頼性の向上やコストダウンが進み、中東地域において、逆浸透法海水淡水化プラントが建設され、世界的な展開を見せつつある。
【0004】
下廃水再利用は、内陸や海岸沿いの都市部や工業地域で、水源がないような地域や排水規制のために放流量が制約されているような地域で適用され始めている。特に、水源が乏しい島国のシンガポールでは、国内で発生する下水を処理後、海に放流せずに貯留し、逆浸透膜で飲料できるレベルの水にまで再生し、水不足に対応している。
【0005】
海水淡水化や下廃水再利用に適用される逆浸透法は、塩分などの溶質を含んだ水に浸透圧以上の圧力を加えて半透膜を透過させることで、溶質が除去された水を得ることができる。この技術は例えば海水、かん水、有害物を含んだ水から飲料水を得ることも可能であるし、また、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などにも用いられてきた。
【0006】
逆浸透膜を適用した水処理装置を安定運転させるためには、取水する原水水質に応じた前処理が必要であり、前処理が不十分だと、逆浸透膜が劣化したりファウリング(膜面汚れ)したりと、安定運転が困難になり易い。特に、逆浸透膜を劣化させる化学物質に逆浸透膜が晒された場合、洗浄によっても回復不能な致命的な状況に陥る可能性がある。即ち、逆浸透膜の機能層(逆浸透機能を発現する部分)が分解し、水と溶質との分離性能が低下する。
【0007】
一方、前処理を十分に行っても、長期間運転継続すると、取水配管から逆浸透モジュールまでバイオフィルムが形成され、その結果として逆浸透膜のバイオファウリングが発生し、安定運転が困難になる。そのため、常時もしくは間欠的に、安価な次亜塩素酸などの酸化剤を添加し、バイオフィルム発生を防止することが一般的である(非特許文献1)。しかし、酸化剤は、逆浸透膜の機能層にダメージを与え易く、特に逆浸透膜の主流であるポリアミドは、酸化劣化を生じやすい(非特許文献2)。そのため、酸化剤によるバイオフィルムの発生防止は、逆浸透膜の前までにとどめ、還元剤によって酸化剤を中和し、逆浸透膜を保護することが一般的である。なお、逆浸透膜は、逆浸透膜に悪影響を及ぼさない殺菌剤添加や洗浄剤で洗浄し、バイオファウリングの発生を防止する。
【0008】
ところが、逆浸透膜の前で亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤による中和を十分に行っても、逆浸透膜への供給水(前処理水)中に銅などの遷移金属が含まれていると、亜硫酸イオンが亜硫酸ラジカルとなり、さらに酸化性の過硫酸ラジカル、硫酸ラジカルなどの酸化性物質が生成される触媒反応が生じ易くなるので、逆浸透膜を酸化劣化させることが報告されている(非特許文献3)。
【0009】
触媒反応によって発生した酸化性物質による酸化劣化を防止する方法として、過剰な還元剤を添加することが一般的であるが、過剰な還元剤の添加は還元剤を餌とするバイオファウリングが生成しやすいことが報告されている(非特許文献4)。その結果として、安定運転のために必要な殺菌剤や洗浄剤が多く必要となり、安定運転が困難となったり、運転コストが高くなったりする。
【0010】
対応策として、逆浸透膜の濃縮水の酸化還元電位を監視し、還元剤の添加量を抑えつつ、触媒作用による酸化性物質生成を抑制することが提案されている(特許文献1)。しかし、酸化還元電位はそれほど高感度ではないため、濃縮水の酸化還元電位を監視するのみで、逆浸透膜を完全に保護することは容易でなく、何よりも、濃縮水の監視のみでは、逆浸透膜近傍が酸化状態になってから初めて異常を検知できるようになるため、短時間ではあるが、逆浸透膜が酸化性物質に晒されてしまうことになる。
【0011】
また、ホスホン酸系のスケール抑制剤を添加し、銅などの遷移金属をスケ−ル抑制剤で捕捉することによって、銅などの遷移金属と亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤との反応を阻害し、触媒作用による酸化性物質生成を抑制することが提案されている(特許文献2)。しかし、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤とスケール抑制剤との添加順序やタイミングによっては、銅などの遷移金属がスケール抑制剤に捕捉される前に還元剤と反応が進んでしまい、効果的に抑制できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】日本国特開平09−057076号公報
【特許文献2】日本国特開2013−52333号公報
【特許文献3】日本国特開平02−115027号公報
【特許文献4】日本国特開2013−111559号公報
【特許文献5】日本国特許5804228号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】M. Furuichiら,Over-Eight-year Operation and Maintenance of 40,000 m3/day Seawater RO Plant in Japan,Proc. of IDA World Congress,SP05-209(2005)
【非特許文献2】植村忠廣ら、複合逆浸透膜の耐塩素性と塩素劣化による膜構造、膜分離特性の変化、日本海水学会誌、第57巻、第3号(2003)
【非特許文献3】Yosef Ayyashら,Performance of reverse osmosis membrane in Jeddah Phase I plant,Desalination,96,215-224(1994)
【非特許文献4】M.Nagaiら,SWRO Desalination for High Salinity,Proc. of IDA World Congress,DB09-173(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、海水や、塩分などの溶質を含む河川水、地下水、湖水、廃水処理水などの原水を用いて、半透膜モジュールで低濃度の透過水を得るための水処理方法および水処理装置に関するものであり、さらに詳しくは、半透膜モジュールの酸化劣化を防止しつつ、安定的かつ安価に淡水を得るための水処理方法および水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、本発明は次の構成をとる。
(1)原水もしくは前記原水を前処理工程により前処理した前処理水を、供給水として昇圧ポンプによって半透膜モジュールに加圧供給し、該供給水を濃縮水と透過水とに分離する水処理方法において、該供給水に還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内に該供給水にスケール抑制剤を添加することを特徴とする水処理方法。
(2)前記供給水に還元剤を添加する前または添加した後0〜10秒以内に該供給水に前記スケール抑制剤を添加することを特徴とする(1)に記載の水処理方法。
(3)前記供給水が、遷移金属を0.001mg/L以上含有する供給水であることを特徴とする(1)または(2)に記載の水処理方法。
(4)前記遷移金属が、Fe(II/III)、Mn(II)、Mn(III)、Mn(IV)、Cu(I/II)、Co(II/III)、Ni(II)、Cr(II/III/IV/VI)の少なくとも一つからなる遷移金属であることを特徴とする(3)に記載の水処理方法。
(5)前記スケール抑制剤が、還元機能を有するスケール抑制剤であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の水処理方法。
(6)前記スケール抑制剤が、リン酸系の有機化合物を含むスケール抑制剤であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の水処理方法。
(7)前記スケール抑制剤が、少なくとも、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、ヘキサエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエチレン−1,1,−ジホスホン酸、テトラメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)のうち一つ以上を含む有機酸もしくは有機酸の塩であるとともに、分子量が200g/モル以上10000g/モル以下である成分を含むスケール抑制剤であることを特徴とする(6)に記載の水処理方法。
(8)前記スケール抑制剤が、少なくとも、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、水素化リン、ホスフィンオキシド、アスコルビン酸、カテキン、ポリフェノール、没食子酸のうち一つ以上を副成分として含むスケール抑制剤であることを特徴とする(6)または(7)に記載の水処理方法。
(9)前記供給水が、酸化剤を添加した後に、前記還元剤を添加する供給水であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の水処理方法。
(10)前記供給水に前記還元剤を添加する0〜60秒前に該供給水に前記スケール抑制剤を添加することを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の水処理方法。
(11)前記供給水に前記還元剤を添加する0〜10秒前に該供給水に前記スケール抑制剤を添加することを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の水処理方法。
(12)前記供給水に前記還元剤と前記スケール抑制剤とを同時添加することを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の水処理方法。
(13)前記還元剤が亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムのいずれかを含む還元剤であることを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載の水処理方法。
(14)前記前処理工程として生物処理機能を有することを特徴とする(1)〜(13)のいずれかに記載の水処理方法。
(15)原水を前処理工程により前処理した前処理水を、供給水として昇圧ポンプによって半透膜モジュールに加圧供給し、該供給水を濃縮水と透過水とに分離する水処理方法において、前記前処理工程の上流で、前記原水に追加の還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内に、さらに追加のスケール抑制剤としてリン酸系のスケール抑制剤を添加し、前記原水を前記前処理工程で処理した後0〜60秒以内に、前記スケール抑制剤を添加することを特徴とする水処理方法。
(16)前記供給水に前記追加の還元剤と前記追加のスケール抑制剤とを同時に添加することを特徴とする(15)に記載の水処理方法。
(17)前記前処理工程の下流で前記供給水に前記還元剤を添加し、前記還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内に前記スケール抑制剤を添加することを特徴とする(15)または(16)に記載の水処理方法。
(18)前記供給水に前記還元剤と前記スケール抑制剤とを同時に添加することを特徴とする(17)に記載の水処理方法。
(19)前記スケール抑制剤と前記追加のスケール抑制剤とが同種のスケール抑制剤であることを特徴とする(15)〜(18)のいずれかに記載の水処理方法。
(20)前記スケール抑制剤が非リン酸系の有機化合物を含むスケール抑制剤であることを特徴とする(1)〜(19)のいずれかに記載の水処理方法。
(21)前記半透膜モジュールが、ポリアミドを主成分とする半透膜を含むことを特徴とする(1)〜(20)のいずれかに記載の水処理方法。
(22)前記半透膜が、製造時に塩素処理されている半透膜であることを特徴とする(21)に記載の水処理方法。
(23)別のスケール抑制剤が添加された、他の半透膜モジュールの濃縮水を混合することによって、前記供給水に前記スケール抑制剤を添加することを特徴とする(1)〜(22)のいずれかに記載の水処理方法。
(24)原水もしくはその前処理水を供給水として加圧する昇圧ポンプと、昇圧された該供給水を濃縮水と透過水とに分離する半透膜モジュールと、該供給水に還元剤を添加する還元剤添加ユニットと、該供給水にスケール抑制剤を添加するスケール抑制剤添加ユニットを備え、該供給水に還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内に該供給水にスケール抑制剤を添加可能なことを特徴とする水処理装置。
(25)還元剤添加ユニットの上流に、酸化剤を添加する酸化剤添加ユニットを備えることを特徴とする(24)に記載の水処理装置。
(26)還元剤添加ユニットの上流または下流に、生物処理機能を有する前処理ユニットを備えることを特徴とする(24)または(25)に記載の水処理装置。
(27)原水を前処理ユニットにより前処理した前処理水を、供給水として昇圧ポンプによって半透膜モジュールに加圧供給し、該供給水を濃縮水と透過水とに分離する水処理装置において、前記原水に追加の還元剤を添加する追加の還元剤添加ユニットと、該原水に前記追加の還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内に前記前処理ユニットの上流で、該原水に追加のスケール抑制剤としてリン酸系のスケール抑制剤を添加する追加のスケール抑制剤添加ユニットと、前記前処理ユニットの下流で、該供給水にスケール抑制剤を添加するスケール抑制剤添加ユニットとを備え、該供給水に前記前処理ユニットで処理した後0〜60秒以内に該供給水に前記スケール抑制剤を添加可能なことを特徴とする水処理装置。
(28)前記前処理ユニットの下流で、前記供給水に還元剤を添加する還元剤添加ユニットを備え、該還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内に前記スケール抑制剤を添加可能なことを特徴とする(27)に記載の水処理装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、海水淡水化、特に中東のような高濃度の海水において、半透膜の劣化とファウリングを防止しつつ、安定的に淡水を得ることが可能となる。また、塩分を含む河川水、地下水、湖水、廃水処理水などの原水においても、半透膜装置の汚染、半透膜モジュールの劣化とファウリングを防止しつつ、安定的かつ安価に淡水を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の水処理方法を適用可能な半透膜分離装置のプロセスフローの一例である。
【
図2】
図2は、本発明の水処理方法を適用可能な半透膜分離装置のプロセスフローの別の一例である。
【
図3】
図3は、本発明の水処理方法を前処理ユニットが生物処理機能を有する半透膜分離装置のプロセスフローの一例である。
【
図4】
図4は、本発明の水処理方法を前処理ユニットが生物処理機能を有し、前処理ユニットの上流にリン酸系のスケール抑制剤を添加する半透膜分離装置のプロセスフローの一例である。
【
図5】
図5は、本発明の水処理方法を前処理ユニットが生物処理機能を有し、前処理ユニットの上下流にリン酸系のスケール抑制剤を添加する半透膜分離装置のプロセスフローの一例である。
【
図6】
図6は、本発明の水処理方法で得た濃縮水を原水に還流する半透膜分離装置のプロセスフローの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の望ましい実施の形態を、図面を用いて説明する。ただし、本発明の範囲がこれらに限られるものではない。
【0019】
本発明の水処理方法を適用可能な半透膜分離装置の一例を
図1に示す。
図1に示す半透膜分離装置は、原水が原水ライン1から原水槽2に一旦貯留された後、原水供給ポンプ3で前処理ユニット4に送液され、前処理される。前処理水は、中間水槽5、前処理水供給ポンプ6、保安フィルター7を経て、昇圧ポンプ8で昇圧された後、半透膜モジュールから構成される半透膜モジュール9で透過水10と濃縮水11とに分離させる。
【0020】
本発明では、還元剤を添加した後にスケール抑制剤を添加する場合、銅などの遷移金属と亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤とから触媒作用によって逐次的に酸化性物質が生成され、半透膜モジュール9を劣化させてしまうことに鑑み、銅などの遷移金属と亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤とが混合開始してから0〜60秒以内にスケール抑制剤を添加することで、触媒作用による酸化性物質生成を抑制できる知見を得た。
【0021】
そこで、薬注タンク(スケール抑制剤用)12aから薬注ポンプ(スケール抑制剤用)13aを用いて、薬注タンク(還元剤用)14aから薬注ポンプ(還元剤用)15aを用いて、還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内に半透膜モジュール9の供給水にスケール抑制剤を添加する。さらに、半透膜モジュール9の供給水中の銅などの遷移金属濃度、有機物などの夾雑物濃度、還元剤濃度、塩分濃度、水温によっては、銅などの遷移金属と亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤とから触媒作用によって酸化性物質が生成し易くなるため、好ましくは0〜10秒以内に、さらに好ましくは同時にスケール抑制剤を添加することで、より確実に触媒作用による酸化性物質生成を抑制できる。
【0022】
また、還元剤を添加する前にスケール抑制剤を添加する場合、還元剤添加ポイントの上流でスケール抑制剤を添加し、銅などの遷移金属をスケ−ル抑制剤で捕捉することで、銅などの遷移金属と亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤との反応を阻害し、触媒作用による酸化性物質生成を抑制することができる。
【0023】
一方、半透膜モジュール9の供給水中に次亜塩素酸などの酸化剤が含有されている場合、スケール抑制剤が次亜塩素酸などの酸化剤と逐次的に反応が進行してしまい、銅などの遷移金属を捕捉するためスケール抑制剤が失括してしまう。したがって、半透膜モジュール9の供給水に還元剤を添加する0〜60秒前にスケール抑制剤を添加すると酸化剤によるスケール抑制剤の失括を低減できる。また、半透膜モジュール9の供給水中の有機物などの夾雑物濃度、次亜塩素酸などの酸化剤濃度、水温によっては、酸化剤によるスケール抑制剤の失括が進行し易くなるため、好ましくは0〜10秒以内に、さらに好ましくは同時にスケール抑制剤を添加することで、酸化剤によるスケール抑制剤の失括を低減できる。
【0024】
半透膜モジュール9の供給水にスケール抑制剤と還元剤とを同時に添加するために、スケール抑制剤と還元剤との添加ポイントを可能な限り近くすることが好ましく、半透膜モジュール9の供給水に添加する前に薬注ライン中で混合しても構わないし、薬注タンク内でスケール抑制剤と還元剤とを混合しても構わない。
【0025】
スケール抑制剤添加ポイントについては、半透膜モジュール9の供給水配管径(D
F)と供給水流量(Q
F)とを考慮して決める。例えば、還元剤を添加した後t秒以内にスケール抑制剤を添加する場合、半透膜モジュール9の供給水配管内径(D
F)[m]、供給水流量(Q
F)[m
3/秒]を考慮し、還元剤添加ポイントの下流 L=Q
F×t×4/(πD
F2)[m]以内にスケール抑制剤を添加し、還元剤添加ポイントから添加した還元剤とスケール抑制剤とを混合させる。また、スケール抑制剤添加ポイントと還元剤添加ポイントとの間で、異なる配管内径の配管が接続されている場合、各配管の内径と供給水流量とから算出されるLを積分し、スケール抑制剤添加ポイントと還元剤との添加ポイントを決める。
【0026】
還元剤は間欠もしくは常時添加されるが、半透膜モジュール9の供給水や濃縮水の塩素濃度や酸化還元電位(ORP)に応じて添加制御しても構わなく、半透膜モジュール9の供給水中の塩素濃度や酸化還元電位を塩素濃度計16aや酸化還元電位(ORP)計17aで計測し、運転管理のために設定した塩素濃度以下や酸化還元電位(ORP)以下を維持するように、薬注タンク(還元剤)14a中の還元剤を添加しても構わない。
【0027】
酸化還元電位計(もしくは、塩素濃度計)の設置位置や個数は、特に制約されるものではないが、複数個所に設置することが一般的である。好ましい例としては、酸化還元電位計17aを、薬注ポンプ15aによる還元剤添加要否を決定するために設置・計測し、その後の酸化還元電位計17b、17c、17dの少なくとも1つによって計測された酸化還元電位で還元剤添加量を調整するという方法が挙げられる。ここで、半透膜モジュール9中の半透膜がポリアミド系逆浸透膜の場合、酸化還元電位を350mV以下に維持することが好ましく、200mV以下になるように還元剤添加量を調整する方がより好ましいが、逆浸透の種類によって酸化劣化し易くなるため、運転管理に適用する酸化還元電位は逆浸透膜の種類に応じて適宜設定することが好ましい。
【0028】
また、保安フィルター7の上流に還元剤とスケール抑制剤とを添加しても構わないが、常時もしくは間欠的に系内を殺菌洗浄するために添加された酸化剤で保安フィルター7まで洗浄ができるため、
図2に示すように、保安フィルター7の下流に還元剤とスケール抑制剤とを添加することが好ましい。
【0029】
スケール抑制剤は間欠もしくは常時添加されるが、スケール抑制剤添加の目的からして、水温やスケール成分濃度、イオン強度、pHなどによって、予めスケール発生リスクが高い条件では、原則として常時添加するが、スケール発生のリスクが低い条件では、スケール抑制剤を添加する必要がない。そのためには、水温、スケール成分濃度、イオン強度、pHをリアルタイムに遅滞なく計測し、また、瞬間的な酸化剤や酸化を促進する遷移金属の流入に対応し、スケール抑制剤添加の要否を決定しなければならなく、高度な運転管理技術を必要とする。そのような場合は、スケール抑制剤を常時添加する方法をとるのが、スケール抑制剤の費用はかかるものの、簡便かつ、酸化劣化およびスケール発生を確実に抑制でき好ましい。
【0030】
半透膜モジュール9の供給水に遷移金属が含有されるリスクがある場合に、本発明が特に効果的である。即ち、原水もしくは前処理水が遷移金属を0.01mg/L以上含有するような場合に本発明を適用すると効果が大きい。なお、ここで、本発明に適した、すなわち、逆浸透膜の酸化劣化に寄与しやすい遷移金属としては、Fe(II/III)、Mn(II)、Mn(III)、Mn(IV)、Cu(I/II)、Co(II/III)、Ni(II)、Cr(II/III/IV/VI)を挙げることができる。
【0031】
本発明に適用可能なスケール抑制剤としては、リン酸系の有機化合物を含むスケール抑制剤が好ましく、より好ましくは亜リン酸もしくはホスホン酸系の有機化合物が適している。特に、少なくとも、アミノトリス(メチレンホスホン酸)[英名:aminotris(methylenephosphonic acid)]、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)[英名:diethylenetriamine penta(methylene phosphonic acid)]、ヘキサエチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)[英名:Hexamethylenediamine tetra(methylene phosphonic acid)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)[英名:Ethylenediamine tetra(methylene phosphonic acid)]、1−ヒドロキシエチレン−1,1,−ジホスホン酸[英名: 1-Hydroxyethylidene-1,1-diphosphonic acid]、テトラメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)[英名: Tetramethylenediamine tetra(methylene phosphoric acid)]のうち一つ以上を含む有機酸もしくは有機酸の塩からなるとともに、その分子量が200g/モル以上10,000g/モル以下であることが好ましい。さらに好ましくは、200g/モル以上1,000g/モル以下であるとよい。あまり分子量が小さいと、半透膜を通り抜けて透過側にリークする危険性が有り、逆に大きすぎると添加量が多くなり、また、スケール抑制剤そのものがファウリングの原因になるリスクを生じるため好ましくない。
【0032】
更に、本発明に適用するスケール抑制剤には、副成分として、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、水素化リン、ホスフィンオキシド、アスコルビン酸、カテキン、ポリフェノール、没食子酸のうち一つ以上を含むことが好ましい。
【0033】
また、スケール抑制剤が、還元機能を有するスケール抑制剤であれば、亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤の添加量を低減でき、触媒作用によって発生する過硫酸ラジカルや硫酸ラジカルなどの酸化性物質生成量が低減できるため好ましい。
【0034】
本水処理装置において、必要に応じて、常時もしくは間欠的に系内を殺菌洗浄するための酸化剤が薬注タンク(酸化剤用)18aから薬注ポンプ(酸化剤用)19aを用いて、原水や前処理水に添加供給した後に、還元剤を添加することも可能である。ここでいう酸化剤とは、特に制限されるものではないが、次亜塩素酸や過マンガン酸のアルカリ塩が最も代表的である。他に、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、ハロゲン、クロム酸やそのアルカリ塩、二酸化塩素、過酸化水素、などを例示することができる。また、ここで用いる還元剤とは、特に制限されるものではないが、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムのいずれかを含むことが好ましい。
【0035】
また、同様に、必要に応じて、前処理に必要なpH調整剤や凝集剤などを添加することが可能である。
【0036】
pH調整剤は、硫酸もしくは水酸化ナトリウムが一般的であるが、特に制約はない。凝集剤に関しても、特に制約はなく、カチオン凝集剤、アニオン凝集剤、さらに複数種類を適宜使用することができる。ただし、万一、未凝集物が半透膜モジュールへリークした場合を考慮すると、半透膜が一般的に有する荷電と反発が大きなアニオン凝集剤が好ましい。
【0037】
カチオン系凝集剤を適用する場合は、半透膜に吸着する恐れがあるため、あらかじめ試験をして問題ないことを確認してから適用することが好ましい。カチオン系凝集剤は、正荷電を有し、負荷電物質を選択的に凝集しやすい凝集剤であれば、特に制約されるものではなく、安価かつ微粒子の凝集力に優れた無機系の凝集剤や、コストは高くなるが官能基が非常に多いために凝集力が大きい有機系高分子凝集剤などを用いることができる。無機系凝集剤の具体例としては、塩化第二鉄、(ポリ)硫酸第二鉄、硫酸バンド、(ポリ)塩化アルミニウムなどが好ましい。特に、飲料水用途に使用する場合はアルミニウムの濃度が問題になる可能性があることから、鉄系、とくに安価な塩化第二鉄の適用が好ましい。また代表的な高分子系凝集剤としては、アニリン誘導体、ポリエチレンイミン、ポリアミン、ポリアミド、カチオン変性ポリアクリルアミド等を挙げることができる。
【0038】
一方、アニオン系凝集剤は、反対に負荷電を有し、正荷電物質を選択的に凝集し易い凝集剤であれば、特に制約されるものではないが、一般には、高分子凝集剤などの有機系凝集剤が挙げられる。具体的には、天然有機系高分子であるアルギン酸、有機高分子系凝集剤としては、ポリアクリルアミドが代表的であり、効果の面からも非常に好ましいアニオン系凝集剤である。
【0039】
なお、前述した薬注は、ライン注入でも、槽(タンク)内注入でも特に制約はなく、必要に応じて攪拌機やスタティックミキサーなどを備えることが好ましい。
【0040】
本発明を適用可能な、半透膜の素材には酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子素材を使用することができる。また、その膜構造は、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜や、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い分離機能層を有する複合膜のどちらでもよい。
【0041】
しかしながら、中でも高耐圧性と高透水性、高溶質除去性能を兼ね備え、優れたポテンシャルを有する、ポリアミドを機能層とした複合膜が好ましい。特に、海水をはじめとする高濃度水溶液から淡水を得るためには浸透圧以上の圧力をかける必要があり、実質的には少なくとも5MPaの操作圧力が必要となることが多い。この圧力に対して、高い透水性と阻止性能とを維持できるためにはポリアミドを分離機能層とし、それを多孔質膜や不織布からなる支持体で保持する構造のものが適している。
【0042】
また、ポリアミド半透膜としては、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応により得られる架橋ポリアミドの機能層を支持体に有してなる複合半透膜が適している。このような架橋ポリアミドは、酸やアルカリに対して化学的安定性が高い。架橋ポリアミドは、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成され、多官能アミンまたは多官能酸ハロゲン化物成分の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
【0043】
ここで、多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個の一級および/または二級アミノ基を有するアミンをいい、例えば、2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼンに結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5ートリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸などの芳香族多官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン、4−アミノメチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。中でも、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると芳香族多官能アミンであることが好ましく、このような多官能芳香族アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。更には、入手の容易性や取り扱いのし易さから、m−フェニレンジアミン(以下、m−PDAと記す)を用いることがより好ましい。これらの多官能アミンは、単独で用いたり、混合して用いたりしてもよい。
【0044】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、ビフェニレンカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのし易さの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとより好ましい。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いたり、混合して用いたりしてもよい。
【0045】
多官能酸ハロゲン化物を分離機能層に存在させる方法は特に限定されるものではなく、たとえば、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成された分離機能層の表面に脂肪族酸ハロゲン化物溶液を接触させたり、多官能アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重縮合の際に脂肪族酸ハロゲン化物を共存させたりすることで、分離機能層中に共有結合によって存在せしめればよい。
【0046】
すなわち、微多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を形成するにあたり、そのポリアミド分離機能層を、多官能アミン水溶液と、多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液と、これとは異なる炭素数が1〜4の範囲内の脂肪族酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液とを微多孔性支持膜上で接触させ界面重縮合させればよい。その場合、本発明において用いられる脂肪族酸ハロゲン化物は、通常炭素数1〜4を有するが、好ましくは炭素数2〜4である。炭素数が多くなるに従って、立体障害によって脂肪族酸ハロゲン化物の反応性が低下したり、多官能酸ハロゲン化物の反応点への接近が困難になり円滑な膜形成が妨げられたりするため、膜の性能が低下する。かかる脂肪族酸ハロゲン化物としては、メタンスルホニルクロリド、アセチルクロリド、プロピオニルクロリド、ブチリルクロリド、オキサリルクロリド、マロン酸ジクロリド、コハク酸ジクロリド、マレイン酸ジクロリド、フマル酸ジクロリド、クロロスルホニルアセチルクロリド、N,N−ジメチルアミノカルボニルクロリドなどが挙げられる。これらは単独でも2種以上を同時に使用してもよいが、膜を緻密構造にでき、かつ、透水性をあまり低下させないバランスのとれたものとしてオキサリルクロリドを主成分とすることが好ましい。ただし、ポリアミドは、酸化劣化を起こし易く、次亜塩素酸をはじめとする酸化剤に対して脆弱である。そのため、本発明の適用によって酸化剤から効率的に半透膜を保護することができ、非常に効果が大きい。
【0047】
また、ポリアミド半透膜のイオン除去性能を向上させる後処理として、短時間の塩素接触処理が挙げられる。この方法は、特に海水淡水化においては、脱塩率を向上させる方法として適用されることがある。このような膜は、あらかじめ酸化剤に接触させることになるので、酸化剤に対する耐久性は、塩素接触処理を施していない膜に比べて劣るため、酸化剤接触に対してより厳密に管理することが好ましく、本発明の適用が大きな効果を発現する。
【0048】
そして、微多孔性支持膜を含む支持体は、実質的には分離性能を有さない層であり、実質的に分離性能を有する架橋ポリアミドの分離機能層に機械的強度を与えるために設けられるもので、布帛や不織布などの基材上に微多孔性支持膜を形成したものなどが用いられる。
【0049】
微多孔性支持膜の素材としては、特に限定されず、例えば、ポリスルホン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン等のホモポリマーまたはコポリマーを単独あるいはブレンドして使用することができる。これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることから、ポリスルホンが好ましく使用される。また、微多孔性支持膜の構造としては特に限定されず、膜の表面から裏面にわたって孔径が均一な微細な孔を有する構造であっても、片面に緻密で微細な孔を有し、その面からもう一方の面まで徐々に孔径が大きくなるような孔を有する非対称構造であってもよい。緻密な微細孔の大きさは100nm以下であることが好ましい。
【0050】
ここで、複合半透膜の性能を十分に発揮させるためには、基材の通気度は、0.1〜2.0cm
3/cm
2・s、好ましくは、0.4〜1.5cm
3/cm
2・sであることが好ましい。なお、通気度は、JIS L1096のフラジール法に基づいて測定される。また、使用する不織布としても特に限定されるものではないが、単糸繊維度が0.3〜2.0デシテックス、特に0.1〜0.6デシテックスの範囲にある少なくとも2種類のポリエステル繊維を混繊して形成された不織布を用いることが好ましい。この場合、基材を構成している繊維間に直径10μm以下の孔を形成することができ、微多孔性支持膜と不織布の接合強度を高くすることができる。さらに、10μm以下の孔が90%以上の割合で存在することが好ましい。ここでいう孔径は、JIS K3832のバブルポイント法に基づいて測定される。
【0051】
本発明を適用可能な半透膜モジュールに使用されるエレメントは、半透膜の膜形態に合わして適切な形態のエレメントとすればよい。本発明の半透膜としては、中空糸膜,管状膜,平膜のいずれでもよく、エレメントとしては、半透膜の両側に実質的な液室を有し、半透膜の一方の表面から他方の表面に液体を加圧透過させることができるものであれば、特に制限されるものではない。平膜の場合は、枠体で支持した複合半透膜を複数枚積層する構造のプレート&フレーム型や、スパイラル型と呼ばれるタイプが一般的であり、これらのエレメントを矩形や円筒状の筐体に納めて用いる。また、中空糸膜、管状膜の場合は、複数本の半透膜を筐体内に配置するとともにその端部をポッティングして液室を形成し、エレメントを構成する。そして、液体分離装置としてこのようなエレメントを単体でまたは複数個を直列あるいは並列に接続して使用する。
【0052】
これらのエレメント形状の中では、スパイラル型が最も代表的である。これは、平膜状の分離膜を供給側流路部材や透過側流路部材、さらに必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に集水管の周囲に巻囲したものである。供給側流路部材には、ネット状材料、メッシュ状材料、溝付シート、波形シート等が使用できる。透過側流路部材には、ネット状材料、メッシュ状材料、溝付シート、波形シート等が使用できる。いずれも、分離膜と独立したネットやシートでも構わないし、接着や融着するなどして一体化したものでも差し支えない。
【0053】
集水管は、管の側面に複数の孔を有するものであり、材質は、樹脂、金属など何れでもよいが、コスト、耐久性を鑑みて、ノリル樹脂、ABS樹脂等の樹脂が通常使用される。分離膜端部を封止するための手段としては、接着法が好適に用いられる。接着剤としては、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ホットメルト接着剤等、公知の何れの接着剤も使用することができる。
【0054】
本発明における原水を半透膜モジュールに供給する前処理としては、濁質成分,有機物の除去や殺菌などを挙げることができる。これらの処理により半透膜の目詰まりや劣化による性能低下を防ぐことができる。具体的な前処理は、原水の性状により適宜選択すればよいが、例えば、濁質成分が多く含まれる原水を処理する場合は、ポリ塩化アルミニウムなどの凝集剤を加えた後に砂ろ過を行い、さらに例えば複数本の中空糸膜を束ねた精密ろ過膜や限外ろ過膜によるろ過を行うことが好ましい。
【0055】
また、粒子状ろ材表面に形成させた生物膜によってBOD成分を除去してバイオファウリングの発生を抑制する生物処理機能を有する前処理工程(例えば、生物砂ろ過)の場合、生物膜が塩素などの酸化剤でダメージを受けないように、生物処理機能を有する前処理工程の上流に還元剤を添加し、酸化剤を失活させることが好ましい。
【0056】
本発明では、
図3に示すように、薬注タンク(還元剤)14bから薬注ポンプ(還元剤)15bを用いて生物処理機能を有する前処理ユニット4の上流に還元剤を添加し、薬注タンク(スケール抑制剤)12bから薬注ポンプ(スケール抑制剤)13bを用いて還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内にスケール抑制剤を添加することで、生物処理機能を有する前処理工程を安定化しつつ触媒作用による酸化性物質生成を抑制することができる。
【0057】
生物処理機能を有する前処理ユニット4の上流に添加する還元剤は、間欠もしくは常時添加されるが、生物処理機能を有する前処理ユニット4の塩素濃度や酸化還元電位(ORP)に応じて添加制御しても構わなく、生物処理機能を有する前処理ユニット4の供給水中の塩素濃度や酸化還元電位を塩素濃度計16bや酸化還元電位(ORP)計17eで計測し、運転管理のために設定した塩素濃度以下や酸化還元電位(ORP)以下を維持するように、薬注タンク(還元剤)14b中の還元剤を添加しても構わない。
【0058】
酸化還元電位計(もしくは、塩素濃度計)の設置位置や個数は、特に制約されるものではないが、複数個所に設置することが一般的である。好ましい例としては、酸化還元電位計17eを、薬注ポンプ15bによる還元剤添加要否を決定するために設置・計測し、その後の酸化還元電位17fによる酸化還元電位によって還元剤添加量を調整するという方法が挙げられる。ここで、酸化剤が生物処理機能を有する前処理ユニット4中の微生物にダメージを与えないように、酸化還元電位を350mV以下に維持することが好ましく、200mV以下になるように還元剤添加量を調整する方がより好ましい。
【0059】
スケール抑制剤添加ポイントについては、還元剤添加ポイントとスケール抑制剤添加ポイントとの間で、生物処理機能を有する前処理ユニット4、例えば、生物砂ろ過器が含まれる場合、供給水流量と、生物砂ろ過器の入口側配管長と配管内径、出口側配管長と配管内径、生物砂ろ過の線速度と砂層厚さを考慮して決める。すなわち、生物砂ろ過器4の上流で添加した還元剤にt秒以内にスケール抑制剤を添加する場合、還元剤添加ポイントから生物砂ろ過器4の入口まで配管長(L
in)[m]と入口側配管内径(D
in)[m]、生物砂ろ過器4の線速度(Lv)[m/秒]と砂層厚み(H)[m]、生物砂ろ過器4の出口からスケール抑制剤添加ポイントまでの配管長(L
out)[m]と出口側配管内径(D
out)[m]および供給水流量(Q
F)[m
3/秒]を考慮し、t=π/4×(D
in2×L
in+D
out2×L
out)/Q
F+H/Lv[秒]が0〜60秒以内、好ましくは0〜10秒以内となるように、還元剤添加ポイントから生物砂ろ過器4の入口まで配管長(L
in)[m]と生物砂ろ過器4の出口からスケール抑制剤添加ポイントまでの配管長(L
out)[m]を決める。
【0060】
また、
図4に示すように、生物処理機能を有する前処理ユニット4の上流に、薬注タンク(スケール抑制剤用)12cから薬注ポンプ(スケール抑制剤用)13cを用いてリン酸系の有機化合物を含むスケール抑制剤を添加する場合、前処理ユニット4内の生物膜中にスケール抑制剤中のリン酸が栄養塩として取り込まれる可能性があるため、スケール抑制剤による銅などの遷移金属を捕捉する効果が低減することが懸念される。そこで、生物処理機能を有する前処理ユニット4の下流に、薬注タンク(スケール抑制剤用)12cから薬注ポンプ(スケール抑制剤用)13cを用いて、スケール抑制剤を追加添加することが効果的であり、生物処理機能を有する前処理工程で処理した後0〜60秒以内に、薬注タンク(スケール抑制剤用)12dから薬注ポンプ(スケール抑制剤用)13dを用いて、スケール抑制剤を添加制御することで、前処理工程を安定化しつつ触媒作用による酸化性物質生成を効率良く抑制することができる。
【0061】
さらに、
図5に示すように、生物処理機能を有する前処理ユニット4の上流に還元剤とスケール抑制剤を添加したが、半透膜モジュール9に達する途中で新たな酸化性物質の生成・混入があった場合、半透膜モジュール9の酸化劣化が起こることが懸念されるため、薬注タンク(還元剤用)14dから薬注ポンプ(還元剤用)15dを用いて生物処理機能を有する前処理ユニット4の下流に還元剤を添加し、薬注タンク(スケール抑制剤用)12dから薬注ポンプ(スケール抑制剤用)13dを用いて還元剤を添加する前または添加した後0〜60秒以内にスケール抑制剤を添加することで、前処理工程を安定化しつつ触媒作用による酸化性物質生成を抑制することができ、好適である。
【0062】
生物処理機能を有する前処理ユニット4の上流と下流とに添加するスケール抑制剤については、同種でも異種でも構わないが、設備面や添加制御面では同種の方が好ましい。一方、半透膜モジュール9の膜面上に栄養塩であるリンを含むリン酸塩が供給されるとバイオファウリングの発生が助長され、さらに発生したバイオファウリングによってリン酸が取り込まれるため、スケール抑制剤で銅などの遷移金属を捕捉できなくなり触媒作用によって酸化性物質生成が起こることが懸念される。したがって、薬注タンク(スケール抑制剤用)12dから薬注ポンプ(スケール抑制剤用)13dを用いて非リン酸系の有機物を含むスケール抑制剤を半透膜モジュール9の上流に添加することが好ましい。
【0063】
本発明に適用可能な非リン酸系のスケール抑制剤としては、ポリアクリル酸、スルホン化ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリアリルアミンなどの合成ポリマーやカルボキシメチルセルロース、キトサン、アルギン酸などの天然高分子が、モノマーとしてはエチレンジアミン四酢酸などが使用でき、溶解性など操作のし易さ、コストの点から特にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が好適に用いられる。
【0064】
また、
図6に示すように、透過水二段法では、二段目の半透膜モジュール9bの濃縮水の濃度が原水よりも低濃度であることが多いため、原水に還流混合して、原水濃度を下げるという方法がとられることが少なくない。ここで二段目では、回収率を高めたり、ホウ素の除去率を向上させる目的でpHを上げたりすることがあり、そのためにスケールが生成し易い場合があるので、スケール抑制剤を併用することが少なくない。この場合、薬注タンク(スケール抑制剤用)12eから薬注ポンプ(スケール抑制剤用)13eを用いて添加されたスケール抑制剤は、二段目の半透膜モジュール9bの供給水に混合され、スケール抑制剤を含有した該二段目の半透膜モジュール9bの濃縮水が、一段目の半透膜モジュール9aへ送られるため好適である。
【実施例】
【0065】
下記構成の水処理装置を用いて本発明の効果を確認した。
【0066】
まず、次亜塩素酸ナトリウムを1mg/L−Cl
2、硫酸銅を0.1mg/L−Cu常時添加しながら3.5%海水を水槽に貯留した。続いて、前処理ユニットとして、東レ(株)製の分画分子量15万Daのポリフッ化ビニリデン製中空糸UF膜で膜面積が11.5m
2の加圧型中空糸膜モジュール(HFU−2008)1本を用い、加圧ポンプによって貯留した海水をろ過流束3m/dで全量ろ過し、中間水槽に貯留した。前処理ユニットには、ろ過水を膜の2次側から1次側に供給する逆洗ポンプと、前処理ユニットの下部から膜の1次側に空気を供給するコンプレッサーとが備えられており、30分間連続ろ過した後、ろ過を一旦中断し、中間水槽のろ過水を供給水として逆洗流束3.3m/dの逆圧洗浄と前処理ユニットの下部から14NL/minで空気を供給する空気洗浄を同時に行う洗浄を1分間実施して、その後、前処理ユニット内の汚れを排水した後、通常のろ過に戻るサイクルを繰り返し行った。中間水槽に貯留されたろ過水は、スケール抑制剤を添加した後に還元剤を添加し、供給ポンプで保安フィルターを経由した後、昇圧ポンプで、半透膜モジュールに供給し、淡水を製造した。半透膜モジュールは、東レ(株)製逆浸透膜エレメント(TM810C)1本を用い、RO供給流量1.0m
3/h、透過流量0.12m
3/h(回収率12%)で運転した。
【0067】
<実施例1>
スケール抑制剤として、ホスホン酸系の市販スケール抑制剤1mg/Lを添加した後、10秒以内に亜硫酸水素ナトリウム2mg/Lを半透膜モジュールの上流に連続添加しながら、3ヶ月間運転継続した。この間、前処理水の酸化還元電位は、350mV以下であった。また、逆浸透膜濃縮水の酸化還元電位が350mV以下であった。
【0068】
運転後、使用した逆浸透膜エレメントの造水量が10%低下、差圧が15%増加、透過水の塩濃度は初期の1.1倍悪化した。この逆浸透膜エレメントを解体し、酸とアルカリとで洗浄した結果、造水量、透過水質共に初期性能と同等まで回復した。さらに、膜表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis;X線光電子分析)を用いて分析したところ、C−Cl結合は検出されず、ハロゲン接触による膜面の酸化劣化はなかったと推察された。
【0069】
<実施例2>
スケール抑制剤として、ホスホン酸系の市販スケール抑制剤1mg/Lを添加した後、60秒以内に亜硫酸水素ナトリウム2mg/Lを連続添加した以外は、実施例1と同じ条件で運転を実施した。この間、前処理水の酸化還元電位は、350mV以下であった。また、逆浸透膜濃縮水の酸化還元電位が350mV以下であった。
【0070】
運転後、使用した逆浸透膜エレメントの造水量が10%低下、差圧が15%増加、透過水の塩濃度は初期の1.2倍悪化した。この逆浸透膜エレメントを解体し、酸とアルカリとで洗浄した結果、造水量、透過水質共に初期性能と同等まで回復した。さらに、膜表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis;X線光電子分析)を用いて分析したところ、C−Cl結合は検出されず、ハロゲン接触による膜面の酸化劣化はなかったと推察された。
【0071】
<実施例3>
亜硫酸水素ナトリウム2mg/Lを添加した後、60秒以内にホスホン酸系の市販スケール抑制剤1mg/Lを連続添加した以外は、実施例1と同じ条件で運転を実施した。この間、前処理水の酸化還元電位は、350mV以下であった。また、逆浸透膜濃縮水の酸化還元電位も350mV以下であった。
【0072】
運転後、使用した逆浸透膜エレメントの造水量が10%低下、差圧が15%増加、透過水の塩濃度は初期の1.2倍悪化した。この逆浸透膜エレメントを解体し、酸とアルカリとで洗浄した結果、造水量、透過水質共に初期性能と同等まで回復した。さらに、膜表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis;X線光電子分析)を用いて分析したところ、C−Cl結合は検出されず、ハロゲン接触による膜面の酸化劣化はなかったと推察された。
【0073】
<実施例4>
亜硫酸水素ナトリウム2mg/Lを添加した後、10秒以内にホスホン酸系の市販スケール抑制剤1mg/Lを連続添加した以外は、実施例1と同じ条件で運転を実施した。この間、前処理水の酸化還元電位は、350mV以下であった。また、逆浸透膜濃縮水の酸化還元電位も350mV以下であった。
【0074】
運転後、使用した逆浸透膜エレメントの造水量が10%低下、差圧が15%増加、透過水の塩濃度は初期の1.1倍悪化した。この逆浸透膜エレメントを解体し、酸とアルカリとで洗浄した結果、造水量、透過水質共に初期性能と同等まで回復した。さらに、膜表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis;X線光電子分析)を用いて分析したところ、C−Cl結合は検出されず、ハロゲン接触による膜面の酸化劣化はなかったと推察された。
【0075】
<実施例5>
ろ過膜の表面に堆積したバイオフィルムおよびろ過膜の1次側(供給水側)に保持された懸濁態からなるバイオマスの生物処理機能が発現するように、ろ過流束0.5m/dで全量ろ過し、1日連続ろ過した後、ろ過を一旦中断し、前処理ユニット内の汚れを排水した後、通常のろ過に戻るサイクルを繰り返し行い、前処理ユニットの上流に、亜硫酸水素ナトリウム2mg/Lを添加した後、10秒以内にホスホン酸系の市販スケール抑制剤1mg/Lを連続添加し、さらに前処理ユニットの下流に非リン酸系のスケール抑制剤であるポリアクリル酸1mg/Lを連続添加した以外は、実施例1と同じ条件で運転実施した。この間、前処理水の酸化還元電位は、350mV以下であった。また、逆浸透膜濃縮水の酸化還元電位も350mV以下であった。
【0076】
運転後、使用した逆浸透膜エレメントの造水量が10%低下、差圧が5%増加、透過水の塩濃度は初期の1.1倍悪化した。この逆浸透膜エレメントを解体し、酸とアルカリとで洗浄した結果、造水量、透過水質共に初期性能と同等まで回復した。さらに、膜表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis;X線光電子分析)を用いて分析したところ、C−Cl結合は検出されず、ハロゲン接触による膜面の酸化劣化はなかったと推察された。
【0077】
<実施例6>
前処理ユニットの下流に、非リン酸系スケール抑制剤の代替としてリン酸系のスケール抑制剤であるホスホン酸系の市販スケール抑制剤1mg/Lを連続添加した以外は、実施例5と同じ条件で運転実施した。この間、前処理水の酸化還元電位は、350mV以下であった。また、逆浸透膜濃縮水の酸化還元電位も350mV以下であった。
【0078】
運転後、使用した逆浸透膜エレメントの造水量が10%低下、差圧が20%増加、透過水の塩濃度は初期の1.1倍悪化した。この逆浸透膜エレメントを解体し、酸とアルカリとで洗浄した結果、造水量、透過水質共に初期性能と同等まで回復した。さらに、膜表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis;X線光電子分析)を用いて分析したところ、C−Cl結合は検出されず、ハロゲン接触による膜面の酸化劣化はなかったと推察された。
【0079】
<比較例1>
亜硫酸水素ナトリウム2mg/Lを添加した後、30分後にホスホン酸系の市販スケール抑制剤1mg/Lを連続添加した以外は、実施例1と同じ条件で運転を実施した。この間、前処理水の酸化還元電位は、350mV以下であったが、逆浸透膜濃縮水の酸化還元電位が350mVを超えることがたびたび発生し、逆浸透膜面で酸化状態になっていることが疑われた。
【0080】
運転後、使用した逆浸透膜エレメントの造水量が10%低下、差圧が10%増加、透過水の塩濃度は初期の1.5倍悪化した。この逆浸透膜エレメントを解体し、酸とアルカリとで洗浄した結果、造水量、透過水質共に初期性能と同等まで回復した。さらに、膜表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis;X線光電子分析)を用いて分析したところ、C−Cl結合が認められ、塩素系酸化性物質による膜面の酸化劣化が疑われた。
【0081】
<比較例2>
亜硫酸水素ナトリウム2mg/Lを添加した後、2分後にホスホン酸系の市販スケール抑制剤1mg/Lを連続添加した以外は、実施例1と同じ条件で運転を実施した。この間、前処理水の酸化還元電位は、350mV以下であったが、逆浸透膜濃縮水の酸化還元電位が350mVを超えることが数回発生、採水した逆浸透膜濃縮水の酸化還元電位が緩やかに上昇して350mVを超えたことから、酸化還元電位逆浸透膜面で酸化状態になっていることが疑われた。
【0082】
運転後、使用した逆浸透膜エレメントの造水量が10%低下、差圧が12%増加、透過水の塩濃度は初期の1.3倍悪化した。この逆浸透膜エレメントを解体し、酸とアルカリとで洗浄した結果、造水量、透過水質共に初期性能と同等まで回復した。さらに、膜表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis;X線光電子分析)を用いて分析したところ、C−Cl結合が認められ、塩素系酸化性物質による膜面の酸化劣化が疑われた。
【0083】
<比較例3>
スケール抑制剤として、ホスホン酸系の市販スケール抑制剤1mg/Lを添加した後、30分後に亜硫酸水素ナトリウム2mg/Lを連続添加した以外は、実施例1と同じ条件で運転を実施した。この間、前処理水の酸化還元電位は、350mV以下であったが、逆浸透膜濃縮水の酸化還元電位が350mVを超えることが数回発生、採水した逆浸透膜濃縮水の酸化還元電位が緩やかに上昇して350mVを超えたことから、酸化還元電位逆浸透膜面で酸化状態になっていることが疑われた。
【0084】
運転後、使用した逆浸透膜エレメントの造水量が10%低下、差圧が12%増加、透過水の塩濃度は初期の1.3倍悪化した。この逆浸透膜エレメントを解体し、酸とアルカリとで洗浄した結果、造水量、透過水質共に初期性能と同等まで回復した。さらに、膜表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis;X線光電子分析)を用いて分析したところ、C−Cl結合が認められ、塩素系酸化性物質による膜面の酸化劣化が疑われた。
【0085】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2016年4月8日出願の日本特許出願(特願2016−077855)および2016年8月29日出願の日本特許出願(特願2016−166695)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0086】
1:原水ライン
2:原水槽
3:原水供給ポンプ
4:前処理ユニット
5:中間水槽
6:前処理水供給ポンプ
7:保安フィルター
8:昇圧ポンプ
9、9a、9b:半透膜モジュール
10:透過水
11:濃縮水
12a、12b、12c、12d、12e:薬注タンク(スケール抑制剤用)
13a、13b、13c、13d、13e:薬注ポンプ(スケール抑制剤用)
14a、14b、14c、14d、14e:薬注タンク(還元剤用)
15a、15b、15c、15d、15e:薬注ポンプ(還元剤用)
16a、16b:塩素計
17a、17b、17c、17d、17e、17f:酸化還元電位(ORP)計
18a:薬注タンク(酸化剤用)
19a:薬注ポンプ(酸化剤用)