(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
なお、本明細書の説明においては、磁界に関する用語を以下のような意味で用いる。
「磁界」:被測定磁界(外部磁界)、環境磁界及びバイアス磁界などを含む総称。
「所定(任意)の位置における磁界」:外部磁界及び環境磁界を含む磁界。
「外部磁界(伝送線路に印加された磁界)」:初期状態にはなく外部から伝送線路に印加される磁界であって、磁石等により生成される磁界。
「環境磁界」:初期状態から伝送線路に印加されている磁界であって、地磁気又は他の電子機器などから発生する磁界。すなわち、外部磁界を測定する際に雑音となる磁界。
「バイアス磁界」:センサ出力に極性を付加したり、直線性を良くしたりするために、コイルなどを用いてセンサに予め印加する磁界。
【0024】
図1は、一実施形態に係る磁気検出装置1の概略構成を示す図である。磁気検出装置1は、伝送線路10と、演算装置20と、信号発生器30と、コネクタ40と、終端抵抗50とを備える。
【0025】
伝送線路10は、線状の伝送線路である。伝送線路10は、所定の特性インピーダンスを有する。伝送線路10は、例えば、同軸ケーブル又はFPC(Flexible Printed Circuits)等として構成してよい。同軸ケーブル又はFPCとして構成することにより、伝送線路10は、柔軟性を有することができ、容易に曲げることが可能となる。伝送線路10は、柔軟性を有することにより、測定対象の形状に合わせて自由に設置することができる。
【0026】
伝送線路10の一端はコネクタ40に接続されており、他端は終端抵抗50に接続されている。伝送線路10は、他端が終端抵抗50に接続されているため、信号発生器30からコネクタ40を介して入力される入射波に対して、ほとんど反射波を生じさせない。伝送線路10の他端は、終端抵抗50の代わりにアッテネータ(減衰器)に接続されていてもよい。
【0027】
伝送線路10が同軸ケーブルとして構成されている場合の一例を、
図2を参照して説明する。
図2に示すように、伝送線路10は、第1導体(信号線)11と、誘電体12と、第2導体(シールド線)13と、被覆14とを備える。
【0028】
第1導体11は、磁性材を含む線状の導体である。第1導体11は、少なくとも表面に磁性材を含んでいればよいが、
図2に示す例においては、第1導体11は、略均一に分布した磁性材を含んでいる。
【0029】
第1導体11は、保持力が小さく透磁率が高い軟磁性材を含んでよい。第1導体11は、例えば、アモルファス合金又はパーマロイを含んでよい。
【0030】
アモルファス合金及びパーマロイは、高透磁率の磁性材を含む。そのため、第1導体11を備える伝送線路10は、周方向透磁率及び軸方向透磁率が高くなる。周方向透磁率及び軸方向透磁率が高いため、伝送線路10は、外部磁界が印加されると、第1導体11表面における磁気インピーダンス効果及び第1導体11内部の磁化(磁壁移動)の効果のいずれか一方の効果、又は、両方の効果により、インピーダンスが変化する。
【0031】
例えば、原子が不規則に配列したアモルファス合金は、Fe基アモルファス合金であるFe-Co-Si-B合金(Feリッチ)、Fe-Si-B-C系合金、Fe-Si-B系合金、Fe-Si-B-Nb-Cu系合金、又はFe-P-B系合金などであってよい。また、アモルファス合金は、Co基アモルファス合金であるFe-Co-Si-B系合金(Coリッチ)、Co-Fe-Cr-Si-B系合金、又はCo-Fe-Mn-Cr-Si-B系合金などであってよい。また、アモルファス合金は、Ni基アモルファス合金であってよい。
【0032】
例えば、Fe及びNiを主成分とした合金であるパーマロイは、Ni含有量78.5%の78−パーマロイ(JIS規格:パーマロイA)、Ni含有量45%(40〜50%)の45−パーマロイ(JIS規格:パーマロイB)、又は78−パーマロイにMo、Cu若しくはCrなどを添加したパーマロイ(JIS規格:パーマロイC)などであってよい。
【0033】
パーマロイの体積抵抗率は、68μΩcm程度である。これは、銅の体積抵抗率1.68μΩcmの40倍以上の体積抵抗率である。
【0034】
第1導体11は、アモルファス合金及びパーマロイ以外の他の軟磁性材として、Fe-Si-Al系合金(例えばセンダスト)、Fe-Co系合金(例えばパーメンジュール)、Mn-Zn系合金若しくはNi-Zn系合金(例えばソフトフェライト)、又はFe-Si系合金(例えば珪素鋼若しくは電磁鋼)などを含んでよい。
【0035】
伝送線路10に印加される磁界が10[Oe(エルステッド)]程度の比較的大きい磁界である場合、第1導体11は、Fe、Ni又はCoなどの単金属を磁性材として含んでよい。
【0036】
第1導体11は、ナノ結晶粒をアモルファス相に分散させたナノ結晶軟磁性材を含んでよい。
【0037】
誘電体12は、円筒状の形状であり、第1導体11を覆う。誘電体12は、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)又はポリエチレンなどの絶縁物であってよい。
【0038】
第2導体13は、円筒状の形状であり、誘電体12を覆う。第2導体13は、例えば、銅線によって構成される網組線であってよい。
【0039】
被覆14は、円筒状の形状であり、第2導体13を覆う。被覆14は、内部に収容されている第1導体11、誘電体12及び第2導体13を保護する。
【0040】
第1導体11、誘電体12、第2導体13及び被覆14は、柔軟性を有する材料で構成されてよい。これにより、伝送線路10は、柔軟性を有することができる。
【0041】
演算装置20は、信号発生器30からコネクタ40を介して入力される電圧パルス(以下、単に「パルス」とも称する)を、入射波として検出する。演算装置20は、伝送線路10からコネクタ40を介して入力されるパルスを、反射波として検出する。伝送線路10において発生する反射波の詳細については後述する。
【0042】
演算装置20は、
図1に示すように、入力回路21と、ADコンバータ(ADC)22と、制御部23と、メモリ24とを備える。
【0043】
入力回路21は、信号発生器30からコネクタ40を介して入力される入射波を検出する。入力回路21は、伝送線路10からコネクタ40を介して入力される反射波を検出する。入力回路21は、減衰回路及びプリアンプなどを含む。入力回路21は、アナログ信号として入力される入射波及び反射波の振幅がADコンバータ22の入力仕様に対し適切な範囲になるように調整して、振幅調整後のアナログ信号をADコンバータ22に出力する。
【0044】
ADコンバータ22は、入力回路21から受け取ったアナログ信号をデジタルデータに変換して、制御部23に出力する。
【0045】
制御部23は、演算装置20の各構成部を制御する。制御部23は、例えばCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサとして構成されてよい。制御部23の機能の詳細については後述する。
【0046】
メモリ24は、制御部23に接続されている。メモリ24は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、ROM(Read-Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)等の任意の記憶装置を有する。メモリ24は、例えば主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。メモリ24は、演算装置20に内蔵されるものに限定されず、USB(Universal Serial Bus)等のデジタル入出力ポート等によって接続された外付け型の記憶装置であってもよい。
【0047】
信号発生器30は、電圧パルスを生成する。信号発生器30は、コネクタ40に接続されている。信号発生器30が生成したパルスは、コネクタ40を介して、入射波として伝送線路10に入力される。また、信号発生器30が生成したパルスは、コネクタ40において分岐され、演算装置20に入力される。
【0048】
信号発生器30は、パルスとして、短パルス又は立ち上がり時間が高速なパルスを生成してよい。このようなパルスとすることで、演算装置20が複数の反射波を検出する場合、複数の反射波を分離することが容易となる。また、このようなパルスとすることで、信号発生器30の消費電力を低減することができる。
【0049】
信号発生器30が生成するパルスは、特に限定しないが、例えば、立ち上がり時間が200[ps]、パルス幅が500[ps]、パルス高さが1[V]などであってよい。
【0050】
信号発生器30が生成するパルスは、任意の形状であってよい。信号発生器30が生成するパルスは、例えば、矩形波状、正弦波状、三角波状、又は鋸波状などであってよい。
【0051】
コネクタ40は、伝送線路10と、演算装置20と、信号発生器30とを相互に接続する。コネクタ40は、例えば、T型コネクタであってよい。
【0052】
図3を参照して、伝送線路10に磁界が印加された場合に、磁気検出装置1が、伝送線路10上の磁界印加位置を検出する様子を説明する。
図3に示す例においては、伝送線路10の近傍に磁石60が配置され、磁石60が生成する磁界強度H
exの外部磁界が、伝送線路10に印加されている。
【0053】
伝送線路10は、磁界強度H
exの外部磁界が印加されると、磁界が印加されている磁界印加位置において、磁気インピーダンス効果によりインピーダンスが変化する。以下、磁気インピーダンス効果について説明する。
【0054】
伝送線路10は、
図4に示すように、等価な分布定数回路として表すことができる。
図4において、Lは、第1導体11の単位長さ辺りのインダクタンス成分である。Rは、第1導体11の単位長さ辺りの抵抗成分である。Cは、第1導体11と第2導体13との間の単位長さ辺りの容量成分である。
【0055】
伝送線路10は、磁界強度H
exの外部磁界が印加されると、磁界が印加されている磁界印加位置において、第1導体11の抵抗成分Rとインダクタンス成分Lとが変化する。
【0056】
伝送線路10の第1導体11は、信号発生器30からパルスが入力されると、周方向において一方向に磁化される。ここで、周方向とは、伝送線路10が延びている方向を軸方向とすると、当該軸方向を中心として回転する方向である。この状態において、
図3に示すように、伝送線路10の軸方向に磁界強度H
exの外部磁界が印加されると、周方向に誘起された磁気モーメントが磁界強度H
exの外部磁界の印加された方向に沿って回転する。
【0057】
この磁気モーメントの回転により、第1導体11の周方向の透磁率が変化する。伝送線路10のインピーダンスは第1導体11の周方向の透磁率に依存するため、磁界印加位置における第1導体11の周方向の透磁率が変化すると、磁界印加位置における伝送線路10のインピーダンスが変化する。
【0058】
磁気インピーダンス効果は、表皮効果が顕著な場合(表皮の深さδ<<第1導体11の半径a)に、以下の数式(1)で表される。
【0059】
【数1】
ここで、Zは伝送線路10のインピーダンス、ωはパルスを正弦波として近似したときの角周波数、aは第1導体11の半径、ρは第1導体11の電気抵抗率、R
DCは直流抵抗、μは第1導体11の周方向の透磁率、H
exは伝送線路10に印加されている外部磁界の磁界強度である。ωについてより詳細に説明すると、パルス波形は正弦波の−T/2〜T/2(Tは正弦波の周期)の時間幅の波形で近似できる。この際、ピークの電圧の高さがVのパルスは、振幅がV/2の正弦波にV/2のオフセットが加わった波形となる。そのため、パルスの立ち上がり時間t
r≒T/2=1/(2f)となり、角周波数ω=2πfとなる。なお、パルスを正弦波として近似するのは一例であり、他の波形で近似してもよい。
【0060】
数式(1)を参照すると、第1導体11の周方向の透磁率μが変化すると、インダクタンス成分Lだけでなく、抵抗成分Rも変化することがわかる。
【0061】
図3に示すように伝送線路10に磁石60によって磁界強度H
exの外部磁界が印加されていると、磁界印加位置において、伝送線路10のインピーダンスが変化する。そのため、この状態で、信号発生器30から伝送線路10に入射波としてパルスが入力されると、磁界印加位置におけるインピーダンス不整合により、磁界印加位置において反射波が発生する。
【0062】
磁界印加位置において発生した反射波は、伝送線路10内を入射波と逆方向に進行し、コネクタ40を介して演算装置20に入力される。
【0063】
従って、演算装置20が入射波を検出する時間と、反射波を検出する時間との時間差Δtは、反射波がコネクタ40と磁界印加位置との間を往復する時間である。よって、コネクタ40から磁界印加位置までの距離Dは、以下の数式(2)で表される。
【0064】
【数2】
ここで、V
pは伝送線路10内における電磁波の伝搬速度、αは伝送線路10内における波長短縮率、cは真空中の電磁波の伝搬速度である。
【0065】
図5に、演算装置20が、時間差Δtで、入射波と反射波を検出する様子の一例を示す。
【0066】
数式(2)において、真空中の電磁波の伝搬速度cは、真空中の光速3.0×10
8[m/s]であり既知である。また、伝送線路10内における波長短縮率αは、誘電体12などの伝送線路10を構成する部材に依存する値であり既知である。従って、演算装置20の制御部23は、入射波を検出する時間と、反射波を検出する時間との時間差Δtに基づいて、コネクタ40から磁界印加位置までの距離Dを算出することができる。すなわち、演算装置20の制御部23は、伝送線路10に印加された磁界の位置を算出することができる。
【0067】
続いて、磁気検出装置1による、伝送線路10に印加された磁界の強度の算出について説明する。
【0068】
上述のように、伝送線路10に磁界強度H
exの外部磁界が印加されると、磁界が印加されている磁界印加位置において、磁気インピーダンス効果によりインピーダンスが変化する。伝送線路10において、インピーダンスが整合している位置から、インピーダンスが不整合となっている磁界印加位置に入射波が進行すると、反射波が発生する。このときの入射波に対する反射波の反射率rは、以下の数式(3)で表される。
【0069】
【数3】
ここで、Z
mは伝送線路10の磁界印加位置におけるインピーダンス、Z
0は伝送線路10のインピーダンスが整合している位置における特性インピーダンス、ΔZは伝送線路10の磁界印加位置におけるインピーダンスの変化量である。
【0070】
また、伝送線路10において、インピーダンスが整合している位置から、インピーダンスが不整合となっている磁界印加位置に入射波が進行したことにより発生する反射波の電圧V
Rは、以下の数式(4)で表される。
【0071】
【数4】
ここで、V
iは入射波の電圧である。
【0072】
数式(4)において、伝送線路10のインピーダンスが整合している位置における特性インピーダンスZ
0は、既知である。また、入射波の電圧V
iは、信号発生器30が生成するパルスの振幅であり既知である。従って、演算装置20の制御部23は、反射波の電圧V
Rに基づいて、伝送線路10の磁界印加位置におけるインピーダンスの変化量ΔZを算出することができる。
【0073】
図6に、伝送線路10に印加された磁界と、反射波の電圧V
Rとの関係を示す。
図6に示すように、伝送線路10に印加された磁界がゼロであるときは、反射波の電圧V
Rはゼロである。伝送線路10に印加された磁界の強度が増えるに従って、反射波の電圧V
Rが増加していく。
【0074】
インピーダンスの変化量ΔZは、伝送線路10に印加されている外部磁界の磁界強度H
exに依存しているため、演算装置20の制御部23は、インピーダンスの変化量ΔZに基づいて、伝送線路10に印加された磁界の強度を算出することができる。より具体的には、磁気検出装置1は、検出した反射波の電圧V
Rを数式(4)に代入することによりインピーダンスの変化量ΔZを算出することができる。磁気検出装置1は、数式(1)のZにZ
0+ΔZを代入することにより伝送線路10に印加されている磁界強度H
exを算出することができる。なお、磁気検出装置1は、磁界強度H
exを算出する際、数式(1)を用いるのではなく、数式(1)を近似した式(例えば、直線近似式)を用いて磁界強度H
exを算出してもよい。
【0075】
このように、磁気検出装置1は、入射波を検出する時間と、反射波を検出する時間との時間差Δtを測定することにより、コネクタ40から磁界印加位置までの距離Dを算出することができる。また、磁気検出装置1は、反射波の電圧V
Rの振幅を測定することにより、伝送線路10に印加された磁界の強度を算出することができる。従って、磁気検出装置1は、伝送線路10における磁界印加位置と、伝送線路10に印加された磁界の強度とを、同時に算出することができる。
【0076】
演算装置20は、伝送線路10における磁界印加位置と、伝送線路10に印加された磁界の強度とを算出する際、反射波の電圧V
Rからオフセットデータを引いた差分のデータを、磁界印加位置及び磁界の強度を算出する際に用いる反射波のデータとして用いてよい。演算装置20は、伝送線路10に磁界が印加されていない状態に検出したデータをオフセットデータとして、メモリ24に保存しておいてよい。演算装置20は、このように、反射波の電圧V
Rからオフセットデータを引いた差分のデータを用いることにより、伝送線路10の構成要素の機械的な公差、伝送線路10の曲げ等により生じる歪み、及び初期状態から印加されている環境磁界(例えば地磁気又は電子機器などから発生する磁界)などにより生じた反射波の影響を低減することができる。
【0077】
なお、
図3においては、磁石60が伝送線路10に外部磁界を印加する場合を例示しているが、伝送線路10に外部磁界を印加するものは磁石60に限定されない。例えば、ヘルムホルツコイルによる外部磁界、磁性材料からの漏れによる外部磁界、又は渦電流により生じた外部磁界などが伝送線路10に印加された場合であっても、磁気検出装置1は、伝送線路10における磁界印加位置と、伝送線路10に印加された磁界の強度とを、同時に算出することができる。また、磁気検出装置1は、磁石60などによって印加された外部磁界だけでなく、地磁気などによる環境磁界を測定対象とすることも可能である。
【0078】
続いて、
図7を参照して、伝送線路10の磁界印加位置において発生する反射波について、詳細に説明する。
【0079】
図7(a)は、伝送線路10の磁界印加位置に入射波P1が到達する前の様子を示す。
図7(b)は、伝送線路10の磁界印加位置に入射波P1が進入したときの様子を示す。
図7(c)は、伝送線路10の磁界印加位置を入射波P1が通過したときの様子を示す。
【0080】
図4に示したように、伝送線路10は、等価な分布定数回路として表すことができる。伝送線路10における磁界印加位置をパルスが通過する際は、磁気インピーダンス効果により、磁界印加位置における第1導体11の抵抗成分Rとインダクタンス成分Lとが変化する。そのため、伝送線路10のインピーダンスは、磁界印加位置において変化する。一般的に、分布定数回路のインピーダンスZは、以下の数式(5)で表される。
【0081】
【数5】
ここで、Gは第1導体11と第2導体13との間の単位長さ辺りの漏洩抵抗に相当するコンダクタンス成分であるが、コンダクタンス成分Gは微少であるため省略している。
【0082】
表皮効果が顕著な場合(表皮の深さδ<<第1導体11の半径a)、磁気インピーダンス効果を考慮すると、伝送線路10のインピーダンスZは、以下の数式(6)で表される。
【0084】
図7(a)は、伝送線路10の磁界印加位置に入射波P1が到達する前であるため、入射波P1は、伝送線路10のインピーダンスが一定のところを進行している。そのため、反射波は発生しない。
【0085】
図7(b)は、伝送線路10の磁界印加位置に入射波P1が進入したときの様子を示している。
図7(b)に示すように、伝送線路10の磁界印加位置において、伝送線路10のインピーダンスは、磁気インピーダンス効果によりΔZだけ増加し、Z
0+ΔZとなっている。この場合、伝送線路10において、入射波P1は、特性インピーダンスZ
0の線路から、インピーダンスZ
0+ΔZの線路に入射するため、正の反射波P2が発生する。
【0086】
図7(c)は、伝送線路10の磁界印加位置を入射波P1が通過したときの様子を示している。
図7(c)においては、
図7(b)に示す状態とは逆に、入射波P1は、インピーダンスZ
0+ΔZの線路から、特性インピーダンスZ
0の線路に入射するため、負の反射波P3が発生する。
【0087】
このように、伝送線路10に磁界が印加されると、磁界印加位置において正負の反射波が発生する。
図7(a)〜
図7(c)に示す例においては、入射波P1のパルス幅に対して、
図7(a)に示す磁界印加位置の長さL1が長いため、正負の反射波が離れて存在している。
【0088】
演算装置20は、時間差Δtを算出する際、正の反射波P2のピークの時間を用いてよいがこれに限定されない。演算装置20は、正の反射波P2の立ち上がり又は立ち下がりの時間を用いてもよい。また、演算装置20は、負の反射波P3のピーク、立ち上がり又は立ち下がりの時間を用いてもよい。また、演算装置20は、正の反射波P2を用いて算出した時間差と、負の反射波P3を用いて算出した時間差とを用いて、磁界印加位置の長さL1を算出してもよい。
【0089】
入射波のパルス幅と、磁界印加位置の長さとの関係によっては、正負の反射波が一部重なり合う状態も存在しうる。そのような状態を
図8に示す。
【0090】
図8(a)は、伝送線路10の磁界印加位置に入射波Q1が到達する前の様子を示す。
図8(b)は、伝送線路10の磁界印加位置に入射波Q1が進入したときの様子を示す。
図8(c)は、伝送線路10の磁界印加位置を入射波Q1が通過したときの様子を示す。
【0091】
図8(a)〜
図8(c)に示す例においては、入射波Q1のパルス幅と、
図8(a)に示す磁界印加位置の長さL2とが同等程度である。そのため、
図8(c)に示すように、正の反射波Q2と、負の反射波Q3とが一部重なり合う状態となっている。
【0092】
信号発生器30が生成するパルスの形状は任意であるが、立ち上がり時間を短くすると、演算装置20が磁界印加位置を検出する際の位置分解能を高くすることができる。そのため、後述する磁界印加位置が複数の場合において、演算装置20は、複数の磁界印加位置を明確に分離することができる。一方、パルスの立ち上がり時間を長くすると、パルスの伝送距離が長くなっても入射波及び反射波の減衰が小さくなるため、演算装置20は、長距離の測定をすることが可能となる。
【0093】
(磁界印加位置が複数の場合)
伝送線路10において、複数の位置で磁界が印加されている場合、演算装置20は、複数の磁界印加位置のそれぞれで生成された反射波について、時間差Δt及び反射波の電圧V
Rを検出する。これにより、磁気検出装置1は、伝送線路10における複数の磁界印加位置のそれぞれについて、磁界印加位置及び磁界の強度を同時に算出することができる。
【0094】
(同軸ケーブルの他の例)
図9に、伝送線路10が同軸ケーブルとして構成されている場合の他の例を示す。
図9(a)に示す伝送線路10aは、第1導体(信号線)11aと、誘電体12aと、第2導体(シールド線)13aと、被覆14aとを備える。誘電体12a、第2導体13a及び被覆14aは、それぞれ、
図2に示した誘電体12、第2導体13及び被覆14と同様の構成である。
【0095】
第1導体11aは、導体15aと、磁性膜16aとを備える。導体15aは、非磁性の導体である。磁性膜16aは、磁性材を含む膜であり、導体15aの表面に形成されている。磁性膜16aが含む磁性材は、
図2に示した第1導体11が含む磁性材と同様の磁性材であってよい。
【0096】
磁性膜16aは、例えば、めっき、蒸着、スパッタリング又はCVD(Chemical Vapor Deposition)などにより、導体15aの表面に形成することができる。
【0097】
第1導体11aは、導体15aが非磁性の導体であるため、第1導体11aの内部において、磁化(磁壁移動)によるインピーダンス変化が起こらない。そのため、第1導体11aにおいては、ヒステリシスが生じにくく、高感度で磁界を検出することができる。
【0098】
図9(b)に示す伝送線路10bは、複数の第1導体(信号線)11bと、誘電体12bと、第2導体(シールド線)13bと、被覆14bとを備える。誘電体12b、第2導体13b及び被覆14bは、それぞれ、
図2に示した誘電体12、第2導体13及び被覆14と同様の構成である。
【0099】
複数の第1導体11bの各々の第1導体11bの構成は、
図1に示した第1導体11と同様の構成であってよい。
【0100】
このように、複数の第1導体11bを束ねた構成とすることで、複数の第1導体11b全体としての抵抗損失を小さくすることができる。そのため、伝送線路10bが長い場合であっても、入射波及び反射波の減衰を小さくすることができる。したがって、磁気検出装置1は、長い伝送線路10bを備えて、印加された磁界の位置及び強度を測定することが可能となる。
【0101】
(伝送線路の他の例)
伝送線路10は、特性インピーダンスを有する線路であれば、同軸ケーブルとして構成されていなくてもよい。例えば、伝送線路10は、平行二線路、ストリップ線路、マイクロストリップ線路、コプレーナ線路又は導波管として構成されていてもよい。
図10に、伝送線路10が同軸ケーブルとして構成されていない場合の例を示す。
【0102】
図10(a)は、伝送線路10cが平行二線路として構成された場合の断面を示す図である。伝送線路10cは、第1導体(信号線)11cと、誘電体12cと、第2導体(シールド線)13cとを備える。第1導体11cは、
図2に示した第1導体11と同様に磁性材を含む。第1導体11cは、誘電体12c上に薄膜として形成されている。
【0103】
図10(b)は、伝送線路10dがストリップ線路として構成された場合の断面を示す図である。伝送線路10dは、第1導体(信号線)11dと、誘電体12dと、第2導体(シールド線)13dとを備える。第1導体11dは、
図2に示した第1導体11と同様に磁性材を含む。第1導体11dは、誘電体12dの内部において薄膜として形成されている。
【0104】
図10(c)は、伝送線路10eがマイクロストリップ線路として構成された場合の断面を示す図である。伝送線路10eは、第1導体(信号線)11eと、誘電体12eと、第2導体(シールド線)13eとを備える。第1導体11eは、
図2に示した第1導体11と同様に磁性材を含む。第1導体11eは、誘電体12e上に薄膜として形成されている。
【0105】
図10(d)は、伝送線路10fがコプレーナ線路として構成された場合の断面を示す図である。伝送線路10fは、第1導体(信号線)11fと、誘電体12fと、第2導体(シールド線)13fとを備える。第1導体11fは、
図2に示した第1導体11と同様に磁性材を含む。第1導体11fは、誘電体12f上に薄膜として形成されている。
【0106】
図10に示す誘電体12c〜12fは、
図2に示した誘電体12と同様に、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)又はポリエチレンなどの絶縁物であってよい。
【0107】
図10に示す第2導体13c〜13fは、
図2に示した第2導体13と同様に、例えば銅を材料として構成されてよい。
【0108】
以下、
図10に示したような、薄膜形状の第1導体11c〜11fを備える伝送線路10c〜10fにおける磁気インピーダンス効果について説明する。第1導体11c〜11fの厚さをdとすると、表皮効果が顕著な場合(表皮の深さδ<<d/2)、磁気インピーダンス効果は、以下の数式(7)及び数式(8)で表される。
【0109】
【数7】
【数8】
ここで、wは第1導体11c〜11fの幅、lは第1導体11c〜11fの長さである。
【0110】
図2に示した同軸ケーブルとして構成されている伝送線路10と同様に、
図10に示す伝送線路10c〜10fにおいても、磁気モーメントの回転により、第1導体11c〜11fの周方向の透磁率が変化する。伝送線路10c〜10fのインピーダンスは第1導体11c〜11fの周方向の透磁率に依存するため、磁界印加位置における第1導体11c〜11fの周方向の透磁率が変化すると、磁界印加位置における伝送線路10c〜10fのインピーダンスが変化する。
【0111】
図10に示す伝送線路10c〜10fは、例えば、フレキシブル基板により伝送線路10c〜10fを構成することにより、同軸ケーブルで構成した場合と同様に柔軟性を持たせることができる。
【0112】
図10に示す第1導体11c〜11fは、
図9(a)に示した第1導体11aと同様に、非磁性の導体の表面に磁性膜が形成された構成であってもよい。
【0113】
図10に示す伝送線路10c〜10fは、
図9(b)に示した伝送線路10bと同様に、それぞれ、複数の第1導体11c〜11fを含む構成であってもよい。
【0114】
(バイアス磁界の印加)
磁気検出装置1は、
図11に示すように、伝送線路10の周囲にコイル70を備えていてもよい。コイル70は、
図11に示すようにバイアス電流を流すことで、伝送線路10の軸方向(長手方向)にバイアス磁界を印加する。
【0115】
このように、コイル70によって伝送線路10にバイアス磁界が正の方向に均一に印加されると、伝送線路10の特性インピーダンスはZ
0からZ
1(Z
0<Z
1)になり、伝送線路10に印加された磁界と反射波の電圧V
Rとの関係は、
図6に示すグラフV
R0(H
ex)から
図12に示すグラフV
R1(H
ex)へオフセットされることとなる。伝送線路10に外部磁界が加えられていない状態では、特性インピーダンスがZ
1で均一となるため、反射波は生じない。外部磁界として正の磁界が印加されると、バイアス磁界に加えて外部磁界が印加されるため、磁界印加部の特性インピーダンスはZ
1+ΔZとなり、
図7で示すような反射波が生じる。外部磁界として負の磁界が印加されると、バイアス磁界と逆向きに外部磁界が印加されるため、磁界印加部の特性インピーダンスはZ
1−ΔZとなり、
図7の逆相の反射波が生じる。これにより、磁気検出装置1は、伝送線路10に印加された磁界の強度だけでなく、正の磁界が印加されたか、負の磁界が印加されたかを判定することができる。またバイアス磁界の強度は任意であるが、飽和磁界(
図12のH
sで示す範囲の磁界)より小さく、センサとして直線性が良くなるような(
図12のH
sLで示す範囲が略直線的になるように)バイアス磁界を印加する。
【0116】
以上のような一実施形態に係る磁気検出装置1によれば、分布定数回路の任意の位置において磁界の検出を行うことが可能である。より具体的には、磁気検出装置1では、信号発生器30は、伝送線路10に入射波としてパルスを入力し、演算装置20は、伝送線路10の磁界印加位置においてインピーダンス不整合により生じた反射波と、入射波とを検出する。そして、演算装置20は、入射波と反射波とに基づいて、伝送線路10に印加された磁界の位置及び強度を算出する。従って、一実施形態に係る磁気検出装置1は、分布定数回路として表すことができる伝送線路10の任意の位置において磁界の検出を行うことが可能である。
【0117】
また、一実施形態に係る磁気検出装置1によれば、伝送線路10における磁界印加位置と、伝送線路10に印加された磁界の強度とを、同時に検出することができるため、伝送線路10において測定対象から発生した不均一な外部磁界を検出することができる。従って、磁気検出装置1は、測定対象である磁性材の磁化分布により発生した外部磁界、及び測定対象である金属表面の欠陥による磁界分布により発生した外部磁界などを測定することが可能となる。また、磁気検出装置1は、地磁気検出、渦電流探傷、磁気顕微鏡、電流センサ及び脳磁計など、多種多様な計測機器に対して適用可能である。
【0118】
また、一実施形態に係る磁気検出装置1によれば、伝送線路10における複数の磁界印加位置を検出することができる。例えば、従来の磁気センサであるホール素子、MR(Magneto−Resistance)センサ、MI(Magneto−Impedance)センサ、フラックスゲート、ピックアップコイル、SQUID(Superconducting QUantum Interference Device)及びOPAM(Optically−Pumped Atomic Magnetometer)は、点計測、又は小範囲の面計測であった。そのため、磁界の分布を測定するためには、磁気センサを複数設置する必要があったが、信号処理回路を一つにまとめるためのスイッチング回路を別途容易することが必要となるなど拡張性が低かった。これに対し、一実施形態に係る磁気検出装置1は、複数の磁界印加位置を検出することができるため、一つの装置で磁界の分布を測定することができる。
【0119】
また、一実施形態に係る磁気検出装置1によれば、伝送線路10内の第1導体11が、アモルファス合金又はパーマロイのような高透磁率の磁性材を含むことにより、10m[Oe]程度の微小な磁界を検出することができる。
【0120】
(周波数掃引)
図13は、他の実施形態に係る磁気検出装置2の概略構成を示す図である。他の実施形態に係る磁気検出装置2については、
図1に示した磁気検出装置1との相違点について主に説明し、
図1に示した磁気検出装置1と同様の内容については適宜説明を省略する。
【0121】
磁気検出装置2は、入射波及び反射波に基づくデータについて、先に周波数領域データとして処理をした後に、周波数領域データを時間領域データに変換して処理するという点で、
図1に示した磁気検出装置1と相違する。入射波及び反射波について、周波数領域データを時間領域データに変換した後の磁気検出装置2の処理は、
図1に示した磁気検出装置1の処理と同様の処理である。
【0122】
磁気検出装置2は、測定装置100と、伝送線路10と、終端抵抗50とを備える。伝送線路10及び終端抵抗50は、
図1に示した伝送線路10及び終端抵抗50と同様の構成であってよい。
【0123】
図14に、伝送線路10に磁界が印加された場合に、磁気検出装置2が、伝送線路10上の磁界印加位置を検出する様子を示す。
図3に示した場合と同様に、伝送線路10の近傍に磁石60が配置されると、磁石60が生成する磁界強度H
exの外部磁界が、伝送線路10に印加される。伝送線路10は、磁界強度H
exの外部磁界が印加されると、磁界が印加されている磁界印加位置において、磁気インピーダンス効果によりインピーダンスが変化する。この状態で、信号発生器130から伝送線路10に入射波が入力されると、磁界印加位置におけるインピーダンス不整合により、磁界印加位置において反射波が発生する。
【0124】
図13に戻って、磁気検出装置2の説明を続ける。
【0125】
測定装置100は、演算装置120と、信号発生器130と、方向性結合器140とを備える。測定装置100は、例えば、ベクトルネットワークアナライザとして機能する測定装置であってよい。
【0126】
演算装置120は、信号発生器130から入力される正弦波状のパルスを入射波として検出する。演算装置120は、信号発生器130から直接入射波を入力されてもよいし、方向性結合器140を介して入射波を入力されてもよい。
【0127】
演算装置120が検出する入射波は、信号発生器130が掃引して出力する正弦波状のパルスである。
図15に、演算装置120が検出する入射波の一例を示す。
図15に示す例においては、正弦波状のパルスが低い周波数から高い周波数へ連続的に掃引されている。ここで、「正弦波状のパルス」との用語は、正弦波状の波形の1周期分を示すものとして用いている。すなわち、「正弦波状のパルス」は、正弦波状の波形の正側の部分と負側の部分の両方を有する。
図15に示す例においては、正弦波状のパルスは低い周波数から高い周波数に滑らかに変化するように掃引されているが、入射波の波形はこれに限定されない。入射波の波形は、例えば、1周期又はN周期毎に正弦波状のパルスの周波数が切り替えられるような波形であってもよい。
【0128】
演算装置120は、伝送線路10から方向性結合器140を介して入力されるパルスを、反射波として検出する。
【0129】
信号発生器130は、正弦波状のパルスを生成する。信号発生器130は、正弦波状のパルスを掃引して出力する。信号発生器130が掃引して出力する正弦波状のパルスは、例えば
図15に示すような波形である。ここで、「掃引して出力する」とは、正弦波状のパルスの周波数を変えながら出力することを意味する。信号発生器130は、例えば、10MHzから50GHzまで周波数を変化させながら、正弦波状のパルスを出力してよい。
【0130】
信号発生器130は、演算装置120の信号検波器121、及び方向性結合器140に接続されている。信号発生器130が掃引して出力する正弦波状のパルスは、方向性結合器140を介して、入射波として伝送線路10に入力される。また、信号発生器130が掃引して出力する正弦波状のパルスは、演算装置120の信号検波器121に入力される。
【0131】
方向性結合器140は、伝送線路10と、演算装置120と、信号発生器130とを相互に接続する。信号発生器130からの入射波は、方向性結合器140を介して伝送線路10に入力される。伝送線路10からの反射波は、方向性結合器140を介して演算装置20の信号検波器121に入力される。伝送線路10からの反射波は、伝送線路10の磁界印加位置におけるインピーダンス不整合により、入射波に対して発生する反射波である。
【0132】
続いて、演算装置120の各機能ブロックについて説明する。演算装置120は、信号検波器121と、制御部122と、メモリ123とを備える。
【0133】
信号検波器121は、信号発生器130から入力される入射波、及び、方向性結合器140から入力される反射波を検波する。信号検波器121は、信号発生器130が掃引して出力する正弦波状のパルスの周波数毎に、入射波に対する反射波のベクトル比を検出する。ここでいうベクトル比とは、入射波に対する反射波の反射率及び位相差によって規定されるベクトルである。ここで、入射波に対する反射波の反射率とは、反射波の振幅を入射波の振幅で割ったものである。また、入射波に対する反射波の位相差とは、反射波の位相から入射波の位相を引いたものである。
【0134】
ここで、例えば、信号発生器130が入射波として掃引して出力する正弦波状のパルスは、周波数に対して振幅が一定であってもよい。
図16に、周波数に対して、振幅がV
0で一定である様子を示す。
【0135】
信号検波器121は、例えば、
図16に示すような周波数特性を有する入射波に対する反射波を、周波数毎に検波し、入射波に対する反射波の反射率及び入射波に対する反射波の位相差を検出する。このように、信号検波器121は、入射波に対する反射波の反射率及び位相差を相対値として検出する。そのため、信号検波器121は、入射波に揺らぎがあっても、揺らぎをキャンセルして入射波に対する反射波の反射率及び位相差を検出することができる。すなわち、信号検波器121は、入射波のジッターを除去することができ、時間的な信号の揺らぎの無い、同期の取れた測定を行うことができる。
【0136】
信号検波器121は、通過帯域が可変なフィルタ(例えば、バンドパスフィルタ又はIF(Intermediate Frequency)フィルタ)を含む。フィルタがバンドパスフィルタである場合、バンドパスフィルタの通過帯域は、制御部122からの指令に応じて制御される。制御部122は、信号発生器130が出力している正弦波状のパルスを通過させ、その他の周波数の信号を減衰させるように、バンドパスフィルタの通過帯域を制御する。これにより、信号検波器121が含むバンドパスフィルタは、反射波に含まれるノイズのうち、信号発生器130が出力している正弦波状のパルス以外の周波数帯のノイズを減衰させることができる。したがって、信号検波器121は、演算装置120が受信する反射波のSN比を改善させることができる。
【0137】
なお、信号検波器121がバンドパスフィルタを含むことは必須ではない。信号検波器121は、バンドパスフィルタを含んでいなくてもよい。
【0138】
信号検波器121は、
図1に示した入力回路21と同様の機能を有していてよい。信号検波器121は、
図1に示したADコンバータ22と同様の機能を有していてよい。
【0139】
信号検波器121は、アナログ信号の状態で入射波及び反射波を検波してもよいし、デジタル信号の状態で入射波及び反射波を検波してもよい。
【0140】
制御部122は、演算装置120の各構成部を制御する。制御部122は、例えばCPUなどのプロセッサとして構成されてよい。制御部122の機能の詳細については後述する。
【0141】
メモリ123は、制御部122に接続されている。メモリ123は、例えば、HDD、SSD、EEPROM、ROM及びRAM等の任意の記憶装置を有する。メモリ123は、例えば主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能してもよい。メモリ123は、演算装置120に内蔵されるものに限定されず、USB等のデジタル入出力ポート等によって接続された外付け型の記憶装置であってもよい。
【0142】
制御部122は、信号検波器121から、入射波の周波数毎に、入射波に対する反射波の振幅及び位相差を取得する。制御部122は、入射波に対する反射波の振幅に基づいて反射率の周波数領域データを生成する。制御部122は、入射波に対する反射波の位相差に基づいて位相差の周波数領域データを生成する。制御部122は、反射率の周波数領域データ及び位相差の周波数領域データを逆フーリエ変換して、反射波の時間領域データを生成する。
【0143】
制御部122は、反射波の時間領域データに対し、
図1に示した磁気検出装置1が入射波及び反射波に対して行った処理と同様の処理を行い、伝送線路10に印加された磁界の位置及び強度を算出する。
【0144】
演算装置120は、伝送線路10における磁界印加位置と、伝送線路10に印加された磁界の強度とを算出する際、磁界印加時に検波した反射波のデータからオフセットデータを引いた差分のデータを、磁界印加位置及び磁界の強度を算出する際に用いる反射波のデータとして用いてよい。演算装置120は、伝送線路10に磁界が印加されていない状態において検出した反射波のデータをオフセットデータとして、メモリ123に保存しておいてよい。この際、演算装置120は、伝送線路10に磁界が印加されていない状態において検出した反射率及び位相差のデータを、反射率の周波数領域データ及び位相差の周波数領域データのオフセットデータとしてメモリ123に保存しておいてもよいし、反射波の時間領域データのオフセットデータとしてメモリ123に保存しておいてもよい。
【0145】
演算装置120は、このように、磁界印加時に検波した反射率及び位相差のデータからオフセットデータを引いた差分のデータを用いることにより、伝送線路10の構成要素の機械的な公差、伝送線路10の曲げ等により生じる歪み、初期状態から印加されている環境磁界(例えば地磁気又は電子機器などから発生する磁界)、及び伝送線路間(例えば、50Ω同軸ケーブルと伝送線路10)のインピーダンス不整合などにより生じた反射波の影響を低減することができる。
【0146】
以下、演算装置120が、磁界印加時に検波した反射率及び位相差のデータからオフセットデータを引いた差分のデータを用いる場合を例に挙げて、演算装置120の処理について説明する。
【0147】
制御部122は、伝送線路10に磁界が印加されていない状態で、信号発生器130を制御して、入射波として正弦波状のパルスを掃引して出力させる。信号発生器130が掃引して出力する正弦波状のパルスの周波数特性は、
図16に示す振幅特性を有してよい。
【0148】
制御部122は、伝送線路10に磁界が印加されていない状態で、信号発生器130が正弦波状のパルスを掃引して出力しているときの反射率の周波数領域データ及び位相差の周波数領域データを、信号検波器121を介して入力される入射波と、方向性結合器140及び信号検波器121を介して入力される反射波とから生成する。
【0149】
制御部122は、反射率の周波数領域データ及び位相差の周波数領域データを逆フーリエ変換して、反射波の時間領域データに変換する。入射波に対する反射波の反射率及び位相差が、それぞれ、
図17(a)及び
図17(b)に示すような周波数特性を有する場合、反射波の時間領域データは、インパルス信号としての入射波に対するインパルス応答となる。また、制御部122は、インパルス信号を時間に対して積分してステップ信号に変換してもよい。この場合、反射波の時間領域データは、ステップ信号としての入射波に対するステップ応答となる。
【0150】
伝送線路10に磁界が印加されていない状態で制御部122が取得する入射波に対する反射波の反射率の一例は、例えば
図17(a)に破線202で示すようなデータである。伝送線路10に磁界が印加されていない状態で制御部122が取得する入射波に対する反射波の位相差の一例は、例えば
図17(b)に破線204で示すようなデータである。
【0151】
続いて、制御部122は、伝送線路10に磁界が印加された状態で、信号発生器130を制御して、入射波として正弦波状のパルスを掃引して出力させる。このときに信号発生器130が出力する入射波の波形は、伝送線路10に磁界が印加されていない状態で信号発生器130が出力する入射波の波形と同じ波形である。
【0152】
制御部122は、伝送線路10に磁界が印加された状態で、信号発生器130が正弦波状のパルスを掃引して出力しているときの反射率の周波数領域データ及び位相差の周波数領域データを、信号検波器121を介して入力される入射波と、方向性結合器140及び信号検波器121を介して入力される反射波とから取得する。
【0153】
伝送線路10に磁界が印加された状態で制御部122が取得する入射波に対する反射波の反射率の一例は、例えば
図17(a)に実線201で示すようなデータである。伝送線路10に磁界が印加された状態で制御部122が取得する入射波に対する反射波の位相差の一例は、例えば
図17(b)に実線203で示すようなデータである。
【0154】
制御部122は、伝送線路10に磁界が印加されていない状態で取得した反射率の周波数領域データ及び位相差の周波数領域データを逆フーリエ変換して、反射波の時間領域データに変換する。伝送線路10に磁界が印加されていない状態における反射波の時間領域データの一例は、例えば
図18(a)に破線206で示すようなデータである。
図18(a)において反射波として観測されている縦軸上のインパルス信号は、例えば伝送線路間(例えば、50Ω同軸ケーブルと伝送線路10)のインピーダンス不整合によるものである。
【0155】
制御部122は、伝送線路10に磁界が印加された状態で取得した反射率の周波数領域データ及び位相差の周波数領域データを逆フーリエ変換して、反射波の時間領域データに変換する。伝送線路10に磁界が印加された状態における反射波の時間領域データの一例は、例えば
図18(a)に実線205で示すようなデータである。
【0156】
制御部122は、
図18(a)に示すような反射波の時間領域データを積分してよい。磁界が印加されていない状態における反射波の時間領域データ、すなわち、
図18(a)の破線206で示すデータを積分したデータの一例は、例えば
図18(b)に破線208で示すようなデータである。磁界が印加された状態における反射波の時間領域データ、すなわち、
図18(a)の実線205で示すデータを積分したデータの一例は、例えば
図18(b)に実線207で示すようなデータである。
図18(b)において反射波として観測されているステップ信号は、例えば伝送線路間(例えば、50Ω同軸ケーブルと伝送線路10)のインピーダンス不整合によるものであり、
図18(a)において反射波として観測されている縦軸上のインパルス信号を積分したデータである。
【0157】
ここで、
図18(b)に示すデータ208はオフセットデータである。制御部122は、磁界が印加された状態における反射波の時間領域データを積分したデータ、すなわち、
図18(b)に示すデータ207から、オフセットデータ、すなわち、
図18(b)に示すデータ208を引いた差分のデータを算出する。このようにして算出された、オフセットデータを引いた差分のデータを、
図18(c)に実線209として示す。
図18(c)に示すように、オフセットデータを差し引くことにより、例えば伝送線路間(例えば、50Ω同軸ケーブルと伝送線路10)のインピーダンス不整合による影響を低減することができる。
【0158】
制御部122は、反射波の時間領域データとして
図18(c)に示すようなデータを用いて、
図1に示す磁気検出装置1と同様の処理により、磁界の位置及び強度を算出することができる。
【0159】
制御部122は、反射率の周波数領域データ及び位相差の周波数領域データについて、逆フーリエ変換をしてから積分処理をする代わりに、周波数領域で畳み込み積分処理を行ってから逆フーリエ変換をしてもよい。これにより、制御部122は、逆フーリエ変換をしてから積分処理をする場合に比べて、計算にかかる時間を低減することができる。
【0160】
なお、
図18(b)に示したような反射波の時間領域データを積分する処理は必須ではなく、制御部122は、
図18(a)に示すデータ205からデータ206を引いた差分のデータを、反射波の時間領域データとして用いて、磁界の位置及び強度を算出してもよい。
【0161】
また、制御部122は、オフセットデータを引いて差分のデータを算出する処理をしなくてもよい。この場合、制御部122は、磁界が印加された状態における反射波の時間領域データをそのまま用いて、磁界の位置及び強度を算出してもよい。
【0162】
なお、2端子対回路(4端子回路網)におけるSパラメータ(Scattering parameter)として、順方向の反射率であるS11を用いているが、逆方向の反射率であるS22を用いてもよい。ここで、S11は、一方の端子から信号を入力したときに一方の端子に反射する信号を意味し、S22は、他方の端子から信号を入力したときに他方の端子に反射する信号を意味する。
【0163】
本開示は、その精神又はその本質的な特徴から離れることなく、上述した実施形態以外の他の所定の形態で実現できることは当業者にとって明白である。従って、先の記述は例示的であり、これに限定されない。開示の範囲は、先の記述によってではなく、付加した請求項によって定義される。あらゆる変更のうちその均等の範囲内にあるいくつかの変更は、その中に包含される。
【0164】
例えば、上述した各構成部の配置及び個数等は、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の配置及び個数等は、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。