(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0008】
図1は、第1実施形態に係るヘッドフォン1を示す図である。この図に示されるように、ヘッドフォン1は、右耳用のライトユニット10Rと、左耳用のレフトユニット10Lと、当該ライトユニット10Rおよび当該レフトユニット10L同士を連結するバンド20とを含む。
【0009】
ライトユニット10Rは、ベースユニット3とイヤーピース5とを含む。このうち、ベースユニット3は、例えばプラスチックのような硬質の素材により円柱状に形成されて、バンド20の一端に固定される。また、イヤーピース5は、例えばウレタンおよびスポンジなどのような弾力性を有する素材で形成されて、ベースユニット3に取り付けられる。
なお、レフトユニット10Lは、ライトユニット10Rと同様にベースユニットとイヤーピースとを含む。
【0010】
図2は、当該ヘッドフォン1の使用状態を示す図である。なお、ここでは、ユーザーWは、スマートフォンのような外部機器200を携帯し、当該外部機器200で再生される音楽等をヘッドフォン1で聴く場合を想定する。
この場合において、ユーザーWは、ヘッドフォン1を次のように装着する。すなわち、ユーザーWは、ライトユニット10Rおよびレフトユニット10Lをバンド20に対してそれぞれ前方にして、バンド20を耳に掛ける。そして、ユーザーWは、ライトユニット10Rのイヤーピース5を右の外耳道に、レフトユニット10Lのイヤーピース5を左の外耳道に、それぞれ挿入して、ヘッドフォン1を装着する。
【0011】
図3は、当該ヘッドフォン1に対してコマンドを入力する場合の操作例を示す図である。本実施形態において、ヘッドフォン1を装着したユーザーWは、コマンドを次のようにして入力する。詳細には、ユーザーWは、当該ユーザーW自身の身体のうち、ヘッドフォン1を装着した部位の周辺を、図の例では右頬を、指などで叩打することによって入力する。なお、第1実施形態においては、コマンドとして、ミュートの指示のようにヘッドフォン1に対する制御または処理の指示を想定する。
【0012】
図4は、ヘッドフォンの構造について使用状態との関係で示す図であり、特に、ライトユニット10Rについて右耳への装着状態を示す図である。
この図に示されるように、ベースユニット3において、円柱底面の一方側には、すなわち、イヤーピース5が取り付けられる面側には、マイク12とスピーカー15とが設けられている。さらに、マイク12とスピーカー15とを覆うように、開口部4aを有する円筒状のポート4が、例えばベースユニット3と一体に形成されている。
【0013】
イヤーピース5の外形は、上記弾力性を有する素材により例えばドーム状または砲弾状に形成される一方、内部には底部から開口する孔5aが設けられる。イヤーピース5は、孔5aの内周面によってポート4を被覆するようにベースユニット3に取り付けられる。そして、使用時には、図に示されるように、イヤーピース5の先端側がユーザーの外耳道314に挿入される。
【0014】
より詳細には、ライトユニット10Rについていえば、ベースユニット3の一端側が外耳道314から露出した状態で、イヤーピース5が鼓膜312に到達しない程度で外耳道314に挿入される。この状態において、マイク12は、スピーカー15から発せられた音を、外耳道314をイヤーピース5で閉塞した空間において収音するほか、ベースユニット3並びにイヤーピース5などを伝搬した周辺音を収音する。
なお、
図4では、便宜的にバンド20は省略されている。
【0015】
次に、ヘッドフォン1の電気的な構成について説明する。
【0016】
図5は、ヘッドフォン1の電気的な構成を示すブロック図である。
この図において、受信器152は、例えばバンド20に内蔵される。受信器152は、外部機器200で再生されたステレオ信号を、例えばワイヤレスで受信し、当該ステレオ信号のうちの信号Rinをライトユニット10Rに、信号Linをレフトユニット10Lに、それぞれ供給する。
なお、受信器152は、バンド20ではなく、ライトユニット10Rまたはレフトユニット10Lの一方に組み込んでも良い。また、受信器152は、外部機器200からの信号LinおよびRinを、ワイヤレスではなく、有線により受信しても良い。
【0017】
さて、
図5に示されるように、ヘッドフォン1におけるライトユニット10Rには、上述したマイク12およびスピーカー15のほか、信号処理器102、DAC(Digital to Analog Converter)104、特性付与フィルター106、ADC(Analog to Digital Converter)110、減算器112、およびコマンド出力器120が設けられる。なお、これらの要素は、ライトユニット10Rの、例えばベースユニット3に設けられる。
【0018】
信号処理器102は、信号RinにコマンドRcomに対応した処理を施し、当該処理を施した信号RaをDAC104および特性付与フィルター106にそれぞれ供給する。なお、コマンドRcomに対応した処理として、例えば無音状態とさせるミュート処理を想定するが、この処理に限定する趣旨ではない。
DAC104は、信号Raをアナログに変換して、スピーカー15に供給する。スピーカー15は、DAC104により変換されたアナログ信号を空気の振動、すなわち音に変換して出力する。
【0019】
一方、マイク12は、設置地点(
図4参照)での音を収音し、当該収音信号をADC110に供給する。
ADC110は、マイク12による収音信号をデジタル信号に変換して、減算器112における加算入力端(+)に供給する。
【0020】
減算器112の減算入力端(−)には、特性付与フィルター106の出力信号が供給される。このため、減算器112は、ADC110の出力信号から、特性付与フィルター106の出力信号を減算して出力することになる。減算器112による減算信号は、コマンド出力器120に供給される。
ここでは、減算器112によって、ADC110の出力信号から特性付与フィルター106の出力信号を減算したが、特性付与フィルター106の出力信号に係数「−1」を乗算し、当該乗算結果をADC110の出力信号に加算する構成であっても良い。
【0021】
特性付与フィルター106は、イヤーピース5が挿入された外耳道314において、スピーカー15からマイク12までの空間経路をシミュレートした伝達特性を有する。詳細には、特性付与フィルター106は、スピーカー15により発せられる音に、スピーカー15からマイク12までに至る空間経路を伝搬したときの変化(反射および減衰など)を付与する。
減算器112では、ADC110の出力信号(すなわちマイク12で実際に収音された信号)から、音に変換される前の信号Raに上記空間経路を伝搬したときの変化を付与した信号が減算される。このため、減算器112による減算信号は、マイク12で収音された信号のうち、スピーカー15から発せられた音の成分がキャンセルされたものになる。
【0022】
マイク12で収音される音には、スピーカー15から発せられる音のほか、ベースユニット3、イヤーピース5およびユーザーW自身の身体などを伝搬した周辺音が含まれる。マイク12による収音信号から、スピーカー15から発せられた音の成分がキャンセルされると、残余の信号は、当該周辺音を示すことになる。当該周辺音には、ユーザーWを取り巻く騒音(環境音)およびユーザーWへの叩打音などがある。
コマンド出力器120は、当該周辺音のうち、叩打音を検出するとともに、当該検出に対応してコマンドRcomを出力するものである。
【0023】
頬の叩打音には、次のような特徴がある。詳細には、第1に、叩打音は突発的な音である。すなわち、特に図示しないが、叩打音を収音した信号波形について時間軸を横軸にとり、振幅を縦軸にとった場合に、叩打が発生したタイミングにおいてスパイク状のノイズとなる。
第2に、叩打音を周波数解析すると、叩打が発生した以降、100Hz以下の周波数成分のレベル(パワー)が100ミリ秒程度時間にわたってほぼ一定の状態で継続する。
このような叩打音を検出するため、コマンド出力器120は、LPF(Low Pass Filter)121、算出器122、123、減算器124、比較器125、レベル解析器126、および判定器127を有する構成となっている。
【0024】
LPF121は、減算器112による減算信号のうち、周波数100Hz以下の成分を通過させ、100Hzを超える成分を抑圧して出力する。
算出器122は、LPF121による出力信号の振幅を短時間にわたって平均化した短時間平均値を算出する。算出器123は、LPF121による出力信号の振幅を、上記短時間よりも長い時間にわたって平均化した長時間平均値を算出する。
減算器124は、短時間平均値から長時間平均値を減算する。比較器125は、減算器124による減算結果と振幅しきい値thaとを比較して、当該減算結果が振幅しきい値tha以上であるときに、その旨の比較結果を判定器127に供給する。
ここで、マイク12において突発的な音が収音されなければ、短時間平均値と長時間平均値とは互いにほぼ等しい。一方、マイク12において突発的な音が収音されると、スパイク状のノイズの分だけ、短時間平均値が長時間平均値より大きくなる。したがって、減算器124による減算結果が振幅しきい値tha以上である旨の比較結果により、ユーザーWの周辺において突発的な音の発生を検出することができる。
【0025】
一方、レベル解析器126は、LPF121による出力信号、すなわち、100Hz以下の周波数成分を有する信号のレベルが100ミリ秒程度の時間にわたってほぼ一定の状態で継続したことを検出し、当該検出結果を判定器127に出力する。
レベル解析器126は、具体的には次のようにして検出する。すなわち、レベル解析器126は、カウンタを内蔵し、例えば当該レベルがしきい値th1以上であって、かつ、しきい値th2未満である範囲となったときに、ほぼ一定の状態にあるとみなし、当該カウンタの計時を開始して、当該カウント結果が100ミリ秒に相当する時間を超えたか否かを判定する。このとき、しきい値th1<しきい値th2である。また、当該レベルが上記範囲から逸脱したときに、カウンタの計時結果がゼロにリセットされる構成である。
【0026】
判定器127は、比較器125により突発的な音が検出され、かつ、LPF121による出力信号のレベルが100ミリ秒程度の時間にわたってほぼ一定の状態で継続した場合、叩打音が発生したと判定して、当該叩打音に対応するコマンドRcomを信号処理器102に供給する。このコマンドRcomにより信号処理器102は、信号Rinをミュートするので、スピーカー15は無音状態となる。
【0027】
このようにヘッドフォン1によれば、ユーザーWがミュートの指示をしたい場合に、ヘッドフォン1に対して直接的な操作を加えることなく、自己の頬を
図3に示されるように叩打すれば良い。
マイク12については、特に説明しなかったが、周辺音をユーザーWに積極的に聴かせる機能、または、マイク12による収音信号の位相を反転させ(逆相にして)外部機器200の信号と加算することによって当該周辺音を低減させる機能(いわゆるノイズキャンセリング機能)に用いることができる。このため、ヘッドフォン1では、背景技術で述べた加速度センサーのように音響に無関係の要素を別途設ける必要がないので、高コスト化を抑えることができる。
また、コマンドを入力する際に、ヘッドフォン1の筐体(ベースユニット3)などを直接叩打しないので、筐体の位置ずれが発生しない。このため、ヘッドフォン1によれば、叩打によってヘッドフォン1を元の装着位置に戻す必要がないので、ユーザーにとって使い勝手の低下を防止することができる。
【0028】
第1実施形態では、ヘッドフォン1に対するコマンドとしてミュートを例示したが、このほかにも、低音強調などのエフェクターのオン/オフ切り替えなどが挙げられる。コマンドとしてエフェクターのオン/オフ切り替えを指定するのであれば、信号処理部102は、コマンドRcomが出力されたときにエフェクターをオンとし、再度、コマンドRcomが出力されたときに、エフェクターをオフとする構成とすれば良い。
【0029】
なお、ここではライトユニット10Rについて説明したが、レフトユニット10Lについても、受信器152から信号Linが供給され、コマンドLcomが出力される以外、同様な構成となる。
コマンドRcomおよびLcomが、独立して出力される場合、左頬の叩打のみが検出されれば、左チャンネルのみがミュートされ、右頬の叩打のみが検出されれば、右チャンネルのみがミュートされる構成となる。
また、コマンドRcomおよびLcomの一方が出力されたときに、ライトユニット10Rの信号処理器102およびレフトユニット10Lの信号処理器102の双方に処理を指示する構成としても良い。この構成では、上述の例でいえば、右頬または左頬のいずれかの叩打により、左右両チャンネルがミュートされる。
【0030】
次に、第2実施形態について説明する。第1実施形態において、コマンドはヘッドフォン1に対して処理を指定するものであったが、第2実施形態において、コマンドは外部機器200に対して処理を指定するものである。
なお、外部機器200に対するコマンドとしては、例えば、音楽等の再生、停止およびスキップ等が挙げられる。また、第2実施形態は、第1実施形態に対して電気的な構成が異なるのみであり、他は共通である。そこで、第2実施形態では、電気的な構成の相違点を中心に説明することにする。
【0031】
図6は、第2実施形態に係るヘッドフォンの電気的な構成を示す図である。
図6が
図5と相違する点は、第1に、信号処理部102を廃した点、および、第2に、送信器154が設けられて、コマンドRcomおよびLcomが当該送信器154に供給される点である。
第2実施形態に係るヘッドフォン1は、信号処理部102を有さないので、受信器152からの信号Rin(Lin)が特性付与フィルター106およびDAC104に供給される構成となる。
【0032】
また、送信器154は、ライトユニット10Rの判定器127から供給されるコマンドRcomおよびレフトユニット10Lから供給されるコマンドLcomを外部機器200にそれぞれ送信する。
【0033】
なお、送信器154は、受信器152と同様に、バンド20に組み込んでも良いし、ライトユニット10Rまたはレフトユニット10Lに組み込んでも良い。また、送信器154は、外部機器とは無線または赤外線を介してではなく、有線によりコマンドを送信しても良い。
【0034】
第2実施形態に係るヘッドフォン1では、ユーザーWが外部機器200にコマンドを入力する場合、当該外部機器200がカバンまたはポケットなどに収容されていても、当該ユーザーWは、自己の頬を
図3に示されるように叩打すれば良い。このため、第2実施形態では、ユーザーWが、当該外部機器200をカバン等から取り出して、当該外部機器を操作する必要がない。
【0035】
なお、外部機器200に対するコマンドを音楽等の再生、停止およびスキップ等とした場合、左右チャンネルに対して別々の処理を指定するものではないので、送信器154は、コマンドRcomおよびLcomの一方が出力されたときに、外部機器200に対するコマンドとして出力すれば良い。
一方、外部機器200に対するコマンドが、左右チャンネルに対して別々の処理を指定するものであれば、送信器154は、コマンドRcomおよびLcomを区別して出力すれば良い。
【0036】
第1実施形態および第2実施形態では、コマンドの入力を頬への叩打としたが、叩打する部位は頬に限られず、耳介、耳輪、および耳珠などのように、ライトユニット10Rおよび10Lが装着される近傍の部位であれば良い。
また、コマンドの入力をユーザーWへの叩打としたが、ユーザーWへの接触に際して音が発生すれば良く、例えば擦すりであっても良い。すなわち、コマンドの入力については、マイク12による収音信号から環境音と区別し得る音であって、ユーザーWへの接触に伴う接触音が発生する行為であれば良い。
【0037】
コマンドは1種類に限られない。すなわち、ユーザーWへの接触音を、回数、振幅、周波数特性、および時間長などにより複数種類のなかから区別できるのであれば、区別した接触音の種類に応じたコマンドを出力する構成としても良い。
【0038】
また、ヘッドフォン1においてバンド20は必須のものではない。このため、ヘッドフォン1として、バンド20を設けないイヤーフォンタイプとすることも可能である。イヤーフォンタイプとする場合、ライトユニット10Rおよびレフトユニット10L同士を無線を介して信号接続する構成とすれば良い。この構成において、例えばライトユニット10Rまたはレフトユニット10Lの一方に受信器152を設け、他方に送信器154を設けても良い。
【0039】
上述した実施形態において、ユーザーの使い勝手の悪化を招かない、という観点より、以下の発明が把握され得る。
【0040】
まず、入力信号に基づいて放音するスピーカーと、ユーザーに対する接触音を収音するマイクと、前記マイクの収音に基づく収音信号から、前記ユーザーに対する接触操作を判定し、当該接触操作に対応したコマンドを出力するコマンド出力部と、を含むヘッドフォンが把握される。上記ヘッドフォンによれば、コマンドを発生させるために、ユーザーはヘッドフォンに触れないで済むので、位置ずれが発生せず、したがって、使い勝手の悪化を招かない。
【0041】
上記ヘッドフォンにおいて、前記コマンドは、前記入力信号を供給する外部機器に対する制御を指示するもの、または、前記入力信号に対する信号処理を指示するものであることが好ましい。
また、上記ヘッドフォンにおいて、前記入力信号に所定の特性を付与する特性付与フィルターと、前記収音信号から前記特性が付与された信号を減算する減算器と、を有し、前記コマンド出力部は、前記減算器の出力信号に基づいて前記接触操作を判定しても良い。
上記ヘッドフォンにおいて、前記コマンド出力部は、前記入力信号の所定の高周波域をカットするローパスフィルターと、前記ローパスフィルターで処理された信号の振幅について、短時間平均値と長時間平均値との差を所定のしきい値と比較する比較器と、を含む構成としても良い。
上記ヘッドフォンにおいて、前記差がしきい値以上である場合であって、かつ、前記ローパスフィルターで処理された信号のパワーが所定範囲内となる状態が所定時間で継続した場合に、前記コマンドを出力する構成としても良い。