(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881656
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】アンギュラ玉軸受、及び工作機械用主軸装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/66 20060101AFI20210524BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20210524BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20210524BHJP
F16N 7/32 20060101ALI20210524BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20210524BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20210524BHJP
B23Q 11/12 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
F16C33/66 Z
F16C33/58
F16C19/16
F16N7/32 B
F16C33/78 Z
B23B19/02 B
B23Q11/12 E
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-98463(P2020-98463)
(22)【出願日】2020年6月5日
(62)【分割の表示】特願2016-153246(P2016-153246)の分割
【原出願日】2016年8月3日
(65)【公開番号】特開2020-148343(P2020-148343A)
(43)【公開日】2020年9月17日
【審査請求日】2020年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 良佑
(72)【発明者】
【氏名】勝野 美昭
(72)【発明者】
【氏名】松永 恭平
【審査官】
中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−079711(JP,A)
【文献】
特開2013−015152(JP,A)
【文献】
特開2011−163465(JP,A)
【文献】
実開平01−121713(JP,U)
【文献】
特開平11−062991(JP,A)
【文献】
特開平11−264420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/66
B23B 19/02
B23Q 11/12
F16N 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、所定の接触角を持って前記内輪軌道溝と前記外輪軌道溝との間に転動自在に配置される複数の玉と、前記複数の玉をそれぞれ保持する複数のポケットを有する保持器と、を備え、前記外輪は、その外周面から内周面まで径方向に亘って貫通し、潤滑油を供給する複数の径方向孔を有し、オイルエア潤滑によって供給された前記潤滑油によって潤滑されるアンギュラ玉軸受であって、
前記複数の径方向孔の内径側開口部を前記径方向孔の中心線の延長線に沿って前記保持器の外周面上に投影した時に、投影された前記内径側開口部の少なくとも一部は、前記玉軸受の回転軸方向において、前記保持器の各ポケットの軸方向端部をそれぞれ結んだ二円の領域内に位置し、
前記複数の径方向孔のうち、いずれか1つの径方向孔の中心線が、前記玉の中心の円周方向位相と一致しているとき、いずれか他方の径方向孔は、前記玉軸受の径方向から見て、その内径側開口部を前記径方向孔の中心線の延長線に沿って前記保持器の外周面上に投影した時に、投影された前記内径側開口部が、前記玉、及び前記ポケットの内周面から離間している、アンギュラ玉軸受。
【請求項2】
前記外輪の外周面には、前記径方向孔と連通する凹状溝が周方向に沿って形成されている、請求項1に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項3】
前記外輪の外周面には、上記凹状溝を挟む軸方向両側に環状溝が周方向に沿って形成され、前記各環状溝には、それぞれ環状のシール部材が配置される、請求項2に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項4】
前記径方向孔の直径が0.5〜1.5mmである、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項5】
前記径方向孔は、前記内径側開口部の開口面積が、外径側開口部の開口面積よりも広い、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項6】
前記外輪の内周面には、前記外輪軌道溝に対して軸方向一方側に、カウンターボアが設けられ、
前記径方向孔の内径側開口部は、前記外輪軌道溝の溝底に対してカウンターボア側に形成されている、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受を備える、工作機械用主軸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンギュラ玉軸受、及び工作機械用主軸装置に関し、より詳細には、外輪給油型のアンギュラ玉軸受、及び工作機械用主軸装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、工作機械用主軸は切削効率の向上を目指して、高速化の要求が高まっている。また、該主軸には、最近、生産の高効率化のため複雑形状の被加工物を複数の工作機械を使用せず、かつ、段替えなしで加工することが可能な5軸加工機への対応ニーズも出てきている。5軸加工機では、主軸やテーブルが旋回するため、旋回半径の短縮化による省スペース化、あるいは、旋回時のイナーシャ軽減や軽量化による省電力志向等の要求から、スピンドルの軸方向長さの短縮が求められている。
【0003】
工作機械主軸用として多く採用されている転がり軸受の潤滑方法としては、グリース潤滑、オイルエア潤滑、オイルミスト潤滑などが挙げられる。一般的に、高速回転(dmn80万以上)の領域ではオイルエア潤滑が採用される。従来のオイルエア潤滑としては、
図9(a)に示す軸受100の側方に配置された給油用ノズルこま101、又は、
図9(b)に示す軸受100の側方に配置された外輪間座102の径方向貫通孔102aに挿入された給油用ノズルこま101を用いて、軸受側面から軸受内部に高圧エア及び微細な油粒を供給する方式が知られている。
【0004】
この方式では、ノズルこま101等の給油用部品が別に必要であり、スピンドルの部品点数が多くなるため、スピンドル全体のコストアップや管理の手間が増えることにつながる。また、ノズルこま101を使用するため外輪間座の形状やハウジングの構造が複雑になり、スピンドルの設計・加工の手間が増える。さらに、軸受の回転軸方向側面側にノズルこま101を設置するため、ある程度の間座長さが必要になり、スピンドルの軸方向長さが長くなる。これによって、工作機械自体の大きさが大きくなったり、軸方向長さが増えた分スピンドル重量が重くなり、スピンドルの危険速度(危険速度とは、スピンドルが有する固有振動数から算出した回転速度であり、この危険速度域でスピンドルを回転させると、振動大となってしまう。)が低くなったりする。また、高速回転化に伴い発生するエアカーテン(エアカーテンとは、空気と高速回転する内輪外径表面との摩擦によって発生する円周方向の高速空気流の壁のことである)によって、給油用ノズルからの油粒の供給が阻害され、その結果、軸受内部へ確実に潤滑油が供給されず焼付きに至ることがある。このように従来のオイルエア潤滑は、その構造上及び機能上の問題を抱えている。
【0005】
また、他のオイルエア潤滑方式としては、
図10に示すように、外輪111の外周面の周方向に油溝112を形成し、かつ、その油溝112と同じ軸方向位置に、径方向に向いた油孔113が複数形成された外輪給油型軸受110を用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような外輪給油型軸受では、軸受が高速回転で使用される場合でも、油粒の供給がエアカーテンによって阻害されることがない。そのため、高速回転でも安定したスピンドルの使用が可能となる。
【0006】
図11は、ノズルこま101を用いたオイルエア潤滑と外輪給油仕様のオイルエア潤滑それぞれの場合における主軸の概略図を示す。
図11の上半分が外輪給油仕様のオイルエア潤滑のスピンドル120、下半分がノズルこま101を用いたオイルエア潤滑のスピンドル120Aである。なお、
図11中、符号121は、回転軸であり、符号122は、回転軸121に嵌合するモータのロータである。このように、ノズルこま101を用いたオイルエア潤滑の場合には、軸受100の側面から潤滑油を供給するために一定以上の軸方向長さの間座が必要になる。それに対して、外輪給油仕様の場合は、給油用の間座が必要ないため、ノズルこまの削減や間座の構造を簡単にすることができ、間座123の軸方向長さをノズルコマを用いる仕様に比べて、短くすることができる。これにより、外輪給油仕様では、主軸・給油用の部品の設計・加工や部品の管理が簡単になり、工作機械の設計・製造・管理において全体的なコストダウンが可能となる。加えて、軸方向長さを短くできることで、工作機械サイズの小型化やスピンドル危険速度の向上にもつながる。このように、外輪給油型軸受には、従来の側面給油型軸受と比較して多くの利点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−79711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、工作機械主軸用の玉軸受は、その主軸の仕様に合わせて様々な条件で使用される。軸受回転数や初期予圧荷重、および加工時の外部荷重の大きさ等が異なると、使用されている軸受の内部状態(接触角、内輪溝と玉あるいは外輪溝と玉間接触部の接触楕円の大きさや接触面圧など)が異なる。このため、様々な条件で使用される玉軸受において、軸受の潤滑性を向上することが望まれている。特に、高速回転時においては、玉と保持器との滑り接触部の潤滑状態を良好に保つことが望まれている。
【0009】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、外輪給油型軸受の外輪に設けられた、複数の径方向孔の軸方向位置及び円周方向位置を適切に設定することで、高速回転時の良好な潤滑性能、及び低騒音及び低振動を実現することができるアンギュラ玉軸受、及び工作機械用主軸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、所定の接触角を持って前記内輪軌道溝と前記外輪軌道溝との間に転動自在に配置される複数の玉と、前記複数の玉をそれぞれ保持する複数のポケットを有する保持器と、を備え、前記外輪は、その外周面から内周面まで径方向に亘って貫通し、潤滑油を供給する複数の径方向孔を有し、オイルエア潤滑によって供給された前記潤滑油によって潤滑されるアンギュラ玉軸受であって、
前記複数の径方向孔の内径側開口部を前記径方向孔の中心線の延長線に沿って前記保持器の外周面上に投影した時に、投影された前記内径側開口部の少なくとも一部は、前記玉軸受の回転軸方向において、前記保持器の各ポケットの軸方向端部をそれぞれ結んだ二円の領域内に位置し、
前記複数の径方向孔のうち、いずれか1つの径方向孔の中心線が、前記玉の中心の円周方向位相と一致しているとき、いずれか他方の径方向孔は、前記玉軸受の径方向から見て、その内径側開口部を前記径方向孔の中心線の延長線に沿って前記保持器の外周面上に投影した時に、投影された前記内径側開口部が、前記玉、及び前記ポケットの内周面から離間している、アンギュラ玉軸受。
(2) 前記外輪の外周面には、前記径方向孔と連通する凹状溝が周方向に沿って形成されている、(1)に記載のアンギュラ玉軸受。
(3) 前記外輪の外周面には、上記凹状溝を挟む軸方向両側に環状溝が周方向に沿って形成され、前記各環状溝には、それぞれ環状のシール部材が配置される(2)に記載のアンギュラ玉軸受。
(4) 前記径方向孔の直径が0.5〜1.5mmである、(1)〜(3)のいずれかに記載のアンギュラ玉軸受。
(5) 前記径方向孔は、前記内径側開口部の開口面積が、外径側開口部の開口面積よりも広い、(1)〜(4)のいずれかに記載のアンギュラ玉軸受。
(6) 前記外輪の内周面には、前記外輪軌道溝に対して軸方向一方側に、カウンターボアが設けられ、
前記径方向孔の内径側開口部は、前記外輪軌道溝の溝底に対してカウンターボア側に形成されている、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載のアンギュラ玉軸受を備える、工作機械用主軸装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアンギュラ玉軸受によれば、外輪は、その外周面から内周面まで径方向に亘って貫通し、潤滑油を供給する複数の径方向孔を有する。そして、複数の径方向孔の内径側開口部を径方向孔の中心線の延長線に沿って保持器の外周面上に投影した時に、投影された内径側開口部の少なくとも一部は、玉軸受の回転軸方向において、保持器の各ポケットの軸方向端部をそれぞれ結んだ二円の領域内に位置する。また、複数の径方向孔のうち、いずれか1つの径方向孔の中心線が、玉の中心の円周方向位相と一致しているとき、いずれか他方の径方向孔は、玉軸受の径方向から見て、その内径側開口部を径方向孔の中心線の延長線に沿って保持器の外周面上に投影した時に、投影された内径側開口部が、玉、及びポケットの内周面から離間している。これにより、いずれか1つの径方向孔から玉と保持器との滑り接触部に潤滑油が供給されるとともに、いずれか他方の径方向孔からも、保持器の外周面を介して、玉と保持器との滑り接触部に十分な潤滑油が供給される。したがって、良好な潤滑状態が保たれ、軸受の焼付きを防止することができ、また、圧縮空気の流れが完全に遮られることがなく、騒音及び振動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る玉軸受の断面図である。
【
図2】
図1のII−II線に沿った玉軸受の断面図である。
【
図3】玉及び保持器を外径側から見た図であり、(a)は、他の径方向孔の内径側開口部が配置可能な領域条件を示し、(b)は、他の径方向孔の中心線が配置可能な領域条件を示し、(c)は、(a)及び(b)の両方の条件を考慮した、他の径方向孔の内径側開口部が配置可能な領域を示す。
【
図4】(a)は、径方向孔のカウンターボア側の軸方向最外位置を示す玉軸受の断面図であり、(b)は、径方向孔の反カウンターボア側の軸方向最外位置を示す玉軸受の断面図である。
【
図5】本実施形態の第1変形例に係る玉軸受の断面図である。
【
図6】本実施形態の第2変形例に係る玉軸受の断面図である。
【
図7】本実施形態の第3変形例に係る玉軸受の断面図である。
【
図8】(a)は、本実施形態の第4変形例に係る玉軸受の断面図であり、(b)は、本実施形態の第5変形例に係る玉軸受の断面図である。
【
図9】(a)及び(b)は、ノズルこまを用いた従来のオイルエア潤滑を示す断面図である。
【
図10】外輪給油仕様のオイルエア潤滑の玉軸受の断面図である。
【
図11】上半分が外輪給油仕様のオイルエア潤滑のスピンドル、及び下半分がノズルこまを用いたオイルエア潤滑のスピンドルの各断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る玉軸受、及び工作機械用主軸装置について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1に示すように、第1実施形態に係るアンギュラ玉軸受10は、工作機械用主軸装置に適用可能で、外周面に円弧状の内輪軌道溝11aを有する内輪11と、内周面に円弧状の外輪軌道溝12aを有する外輪12と、所定の接触角αをもって内輪軌道溝11aと外輪軌道溝12aとの間に転動自在に配置された複数の玉13と、複数の玉13を保持する円筒形状のポケットPを有する外輪案内方式の保持器14と、を備える。外輪12の軸方向一方側の内周面には、軸方向端面から外輪軌道溝12aまで徐々に縮径する傾斜部を備えたカウンターボア12bが設けられている一方、軸方向他方側の内周面には、一様内径の溝肩12cが形成されている。また、本実施形態では、保持器14の外周面14aは、軸方向に亘って一様外径に形成されている。
【0015】
このアンギュラ玉軸受10は、外輪給油型軸受であり、外輪12は、その外周面から内周面まで径方向に亘って貫通し、潤滑油を供給する複数の径方向孔15(15a、15b)を有する。また、外輪12の外周面には、複数の径方向孔15と連通する凹状溝16が周方向に沿って形成される。これにより、アンギュラ玉軸受10では、図示しないハウジングの給油路から供給された油粒及び潤滑エアが、外輪12の凹状溝16及び径方向孔15を介して、直接、玉13に供給され、オイルエア潤滑が行われる。
なお、周状の凹状溝は、外輪12に設ける代わりに、ハウジングの内周面において、径方向孔15と連通する給油路開口の位置に形成されてもよい。
【0016】
このように、複数の径方向孔15を備えることで、潤滑油をムラ無く均一に軌道面全体に行き渡らせることができ、高速回転時の潤滑の信頼性を向上することができる。
また、外輪12は、径方向孔15に近い位相では良く冷却される一方、径方向孔15から遠い位相では冷却が弱いことから、外輪12の位相により温度差が生じ、軸受の寸法精度に影響を及ぼす。このため、複数の径方向孔15を備えることで、軸受の外輪12の温度変動を防止することができる。
【0017】
また、本実施形態では、複数の径方向孔15の内径側開口部30を径方向孔15の中心線X1、X2の延長線に沿って保持器14の外周面上に投影した時に、投影された内径側開口部30の少なくとも一部は、玉軸受10の回転軸方向において、保持器14の各ポケットPの軸方向端部をそれぞれ結んだ二円L(
図3参照)の領域内(
図1に示す点線S内)に位置している。
【0018】
一般に、玉13と保持器14との滑り接触部(保持器14のポケットPの内面)は潤滑状態が厳しい。特に、工作機械主軸用軸受では、軸受の温度上昇および温度変動を避けるため、軸受に供給される潤滑油はごく少量となる。このような条件下では、玉13と保持器14との滑り接触部に十分な潤滑油が供給されにくく、玉13と保持器14との滑り接触部の潤滑不良に起因する焼付きも多く発生している。
【0019】
従って、外輪給油型軸受における潤滑油の供給は、玉13と保持器14との滑り接触部の潤滑状態を良好に保つよう行われることが望ましい。このため、径方向孔15の内径側開口部30を径方向孔15の中心線X1、X2の延長線に沿って保持器14の外周面上に投影した時に、投影された内径側開口部30が、玉軸受10の回転軸方向において、保持器14の各ポケットPの軸方向端部をそれぞれ結んだ二円Lの領域内にあることで、玉13と保持器14との滑り接触部に十分な潤滑油が供給され、潤滑状態が良好に保たれ、軸受の焼付きを防止することができる。
【0020】
仮に、上述の投影された径方向孔15の内径側開口部30が、上述した二円の領域外となると、玉13と保持器14との滑り接触部の潤滑不良に加えて、振動および騒音が増大する。具体的には、圧縮空気の圧力が、保持器14の軸方向中心位置から離れた点に作用することで、保持器14の姿勢を傾けようとする偶力が生じる。回転中の軸受内の保持器14は、常に同じ姿勢で回転することが望ましいが、この偶力によって保持器14の姿勢が時間と共に変化し、保持器14の運動に起因する振動や騒音が増大する。
【0021】
なお、本実施形態では、上述の投影された複数の径方向孔15の内径側開口部30の少なくとも一部が、玉軸受10の回転軸方向において、保持器14の各ポケットPの軸方向端部をそれぞれ結んだ二円Lの領域内(
図4(a)、(b)の点線S内)にあればよい。即ち、
図4(a)に示すように、上述の投影された複数の径方向孔15の内径側開口部30の少なくとも一部が、玉軸受10の回転軸方向において、保持器14の各ポケットPの軸方向端部を結んだカウンターボア側の円Lとオーバーラップしていてもよい。或いは、
図4(b)に示すように、上述の投影された複数の径方向孔15の内径側開口部30の少なくとも一部が、玉軸受10の回転軸方向において、保持器14の各ポケットPの軸方向端部を結んだ反カウンターボア側の円Lとオーバーラップしていてもよい。
【0022】
また、径方向孔15の内径側開口部30は、その少なくとも一部が外輪軌道溝12a内にある場合、軸受に予圧荷重や外部荷重が負荷した際の外輪軌道溝12aと玉13との接触点または接触楕円Eと干渉しない位置に形成されることが好ましい。径方向孔15を上記のように形成することで、径方向孔15のエッジ部と玉13との接触に伴う応力集中が防止され、玉13や外輪軌道溝12aの剥離発生を防止することができる。なお、この接触楕円Eとは、初期予圧荷重によってのみ発生する接触楕円、より好ましくは、被加工物加工時に発生する外部荷重を含めた軸受内部荷重によって発生する接触楕円のことである。
【0023】
また、
図2及び
図3を参照して、複数の径方向孔15a、15bのうち、いずれか1つの径方向孔15aの中心線X1が、玉13の中心Oの円周方向位相と一致しているとき、2つの条件、即ち、
図3(a)に示すように、(i)いずれか他方の径方向孔15bは、玉軸受10の径方向から見て、径方向孔15bの内径側開口部30を径方向孔15bの中心線X2の延長線に沿って保持器14の外周面上に投影した時に、投影された内径側開口部30が、玉13、及びポケットPの内周面から離間しており、且つ、
図3(b)に示すように、(ii)いずれか他方の径方向孔15bの中心線X2が、玉軸受10の軸方向から見て、ポケットPとオーバーラップする点を満たす。
また、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、他の径方向孔、及び、他の径方向孔の中心線X2の位置は、それぞれ、図中、15b´、X2´の位置でもよい。
【0024】
即ち、条件(i)において、上述の投影されたいずれか他方の径方向孔15bの内径側開口部30は、
図3(a)の領域F内に配置可能であり、また、他の径方向孔15bの中心線X2が玉13の中心Oを通る線Cからも離間した位置となる。なお、
図3中、dは、径方向孔15bの孔径を示している。
【0025】
外輪給油方式では、径方向孔15が外輪軌道溝12a内に存在すると、軸受回転中に、玉13が径方向孔15上を通過すると、径方向孔15が物理的に塞がれる。これにより、振動及び騒音が発生する。本振動は、(1)玉13が径方向孔15の真上を通過するときに径方向孔15を塞ぎ、圧縮空気の流れが遮られ、さらに、(2)玉13が径方向孔15の真上を通過後、流れが再開する、という現象が周期的に繰り返されることで生じる空気振動である。
【0026】
この空気振動は、玉13が一度に径方向孔15の上を通過する個数が多いほど大きくなる傾向があり、振動が増大することで、騒音の増大やスピンドルの加工精度低下を招く。
このうち、特に、騒音は顕著な問題となることが知られている。外輪給油型軸受が主に使用される回転数が10000min
-1以上の領域では、発生する騒音の周波数が数千Hz前後となり、人の耳の感度が最も高い周波数帯域の騒音を発生するため問題となり易い。
また、玉13によって複数の径方向孔15が同時に塞がれたとき、通過する瞬間の潤滑油の供給量が著しく減少する。そして、玉13の通過後、径方向孔15内に溜められていた潤滑油が一気に供給される。潤滑油が瞬間的に供給過多となり、潤滑油の攪拌抵抗が増大することで、軸受外輪が著しく昇温する。これにより、加工精度の低下や、異常昇温による焼付きのリスクが増大する。
【0027】
このため、軸受回転中に玉13が、複数個の径方向孔15の上を同時に通過しないことが望ましい。したがって、いずれか1つの径方向孔15aの中心線X1が、玉13の中心Oの円周方向位相と一致しているとき、いずれか他方の径方向孔15bの内径側開口部30を径方向孔15の中心線X1、X2の延長線に沿って保持器14の外周面上に投影した時に、投影された内径側開口部30は、玉軸受10の径方向から見て、玉13、及びポケットPの内周面から離間しているので、他方の径方向孔15bの中心線X2が、玉13の中心Oの円周方向位相(
図3の線C)から離間している。つまり、いずれか1つの径方向孔15aが玉13によって塞がれているとき、他の径方向孔15bが開口していることで、圧縮空気の流れが完全には遮られず、騒音及び振動を低減することができる。
【0028】
なお、外輪12が3つ以上の径方向孔15を有する場合には、いずれか1つの径方向孔15aの中心線X1が、玉13の中心Oの円周方向位相と一致しているとき、上述の投影された残りの他の径方向孔15b全てが、上記領域Fに位置することがより望ましい。
【0029】
また、条件(ii)では、
図3(b)に示すように、いずれか他方の径方向孔15bの中心線X2が、玉軸受10の軸方向から見て、ポケットPとオーバーラップする領域Fa内に位置する。よって、上記2つの条件(i)、(ii)を満たすには、玉軸受10の径方向から見て、上述の投影されたいずれか他方の径方向孔15bの内径側開口部30は、図示の径方向孔の孔径を採用した場合においては、
図3(c)に示すFbの領域となる。さらに、径方向孔の孔径が変わることで、図示の領域Fbは変動する。
これにより、他方の径方向孔15bの内径側開口部30は、玉13とポケットPの内周面に近い位置に配置されるので、他の径方向孔15から供給される潤滑油は、保持器14の外周面を介して、玉13とポケットPの内周面との間の滑り接触部に供給され、安定した潤滑性能を確保することができる。
【0030】
また、本実施形態では、径方向孔15の直径は、潤滑油の供給性および、接触楕円Eとの干渉防止を考慮して、0.5〜1.5mmに設定されている。また、本実施形態では、径方向孔15は、径方向に亘って一様な直径を有している。
【0031】
このように構成された軸受装置1によれば、外輪12は、その外周面から内周面まで径方向に亘って貫通し、潤滑油を供給する複数の径方向孔15を有する。そして、複数の径方向孔15の内径側開口部30を径方向孔15の中心線X1、X2の延長線に沿って保持器14の外周面上に投影した時に、投影された内径側開口部30の少なくとも一部は、玉軸受10の回転軸方向において、保持器14の各ポケットPの軸方向端部をそれぞれ結んだ二円Lの領域内に位置する。また、複数の径方向孔15のうち、いずれか1つの径方向孔15aの中心線X1が、玉13の中心Oの円周方向位相と一致しているとき、いずれか他方の径方向孔15bは、玉軸受10の径方向から見て、その内径側開口部30を径方向孔15bの中心線X2の延長線に沿って保持器14の外周面上に投影した時に、投影された内径側開口部30が、玉13、及びポケットPの内周面から離間しており、且つ、いずれか他方の径方向孔15bの中心線X2が、玉軸受10の軸方向から見て、ポケットPとオーバーラップする。これにより、いずれか1つの径方向孔15aから玉13と保持器14との滑り接触部に潤滑油が供給されるとともに、いずれか他方の径方向孔15bからも、保持器14の外周面を介して、玉13と保持器14との滑り接触部に十分な潤滑油が供給される。したがって、良好な潤滑状態が保たれ、軸受の焼付きを防止することができ、また、圧縮空気の流れが完全に遮られることがなく、騒音及び振動を低減することができる。
【0032】
なお、本実施形態は、
図5に示す第1変形例のように、外輪12の外周面において、凹状溝16を挟む軸方向両側に、環状溝19を周方向に沿って形成し、各環状溝19に、例えばO−リングなどの環状の弾性部材である、シール部材20を配置することで、この油漏れを防止するようにしてもよい。
【0033】
また、本実施形態では、上述の投影された径方向孔15の内径側開口部30は、
図1の領域Sで示した範囲内であればよく、
図1では、外輪軌道溝12aの溝底Aに対してカウンターボア側に形成されているが、
図6に示す第2変形例のように、外輪軌道溝12aの溝底Aに対して反カウンターボア側に形成されてもよい。
【0034】
さらに、径方向孔15は、外輪の外周面から内周面まで径方向に亘って貫通するものであればよく、本実施形態の半径方向(径方向断平面と平行)に沿って形成されるもの以外に、軸受の回転軸方向又は周方向に傾斜させても構わない。例えば、
図7に示す第3変形例のように、径方向孔15は、軸受の半径方向の途中で、軸方向に屈曲するように形成されてもよい。
【0035】
また、
図8(a)及び(b)に示す第4及び第5変形例のように、径方向孔15は、内径側開口部30の開口面積が、外径側開口部31の開口面積よりも広くなるように形成されてもよい。第4変形例では、径方向孔15は、外径側開口部31から内径側開口部30に亘り、徐々に面積が広くなるように拡径する。また、第5変形例では、径方向孔15は、内径側開口部30の開口面積が、外径側開口部31の開口面積よりも広くなるように、段付き形状とされている。即ち、外輪給油型の転がり軸受では、径方向孔15を通じて玉13に直接潤滑油を供給するので、内径側開口部30付近で供給エア圧を下げても、潤滑油を玉13に供給することができる。このため、内径側開口部30のエア圧を低下させて、高圧エアが玉13にぶつかることを抑制し、軸受回転中の騒音を低減することができる。
【0036】
なお、
図6〜
図8に示す第2〜第5変形例では、外輪12の外周面にシール部材20を配置する構成としたが、
図1と同様に、シール部材を有しない構成であってもよい。
【0037】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0038】
なお、外輪の径方向孔への潤滑油の補給方法は、オイルエア潤滑以外にオイルミスト潤滑を採用してもよい。場合によってはオイルジェット潤滑も可能である。しかしながら、グリースを軸受の周辺部や主軸外部の潤滑剤補給装置を用いて外輪12の径方向孔15から給脂するグリース補給法の場合、径方向孔15が外輪軌道溝12a内に開口するように形成されると、増ちょう剤が含まれる半固体であるグリースが外輪軌道溝12a内に供給されてしまう。
この場合、グリースが外輪軌道溝12a内に噛み込まれるので、攪拌抵抗により、トルクの増大や異常発熱等の問題が生じる。特に、これらの問題は、本実施形態のような高速回転において生じ易い。従って、増ちょう剤を含まない潤滑油を供給する油潤滑方法が本発明において望ましい。
【0039】
更に、本発明の玉軸受は、工作機械用主軸装置に適用されるものに限定されるものでなく、一般産業機械や、モータなどの高速回転する装置の玉軸受としても適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 アンギュラ玉軸受(玉軸受)
11 内輪
11a 内輪軌道溝
12 外輪
12a 外輪軌道溝
12b カウンターボア
12c 溝肩
13 玉
14 保持器
15、15a、15b 径方向孔
16 凹状溝
E 接触楕円