(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した一実施形態である多層フィルム及び包装体について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0016】
<多層フィルム>
先ず、本発明を適用した一実施形態である多層フィルム1の構成について説明する。
図1は、本発明を適用した一実施形態である多層フィルム1の断面模式図である。
図1に示すように、本実施形態の多層フィルム1は、第1のフィルム2と、第2のフィルム3と、を備え、第1のフィルム2と第2のフィルム3とが交互に繰り返し積層されて概略構成されている。本実施形態の多層フィルム1は、食品や医薬品等を包装するために用いられる包装袋、包装容器のような包装体の材料として用いることができる。
【0017】
(第1のフィルム)
第1のフィルム2は、後述する第2のフィルム3と交互に積層されており、多層フィルム1に優れたガスバリア性を付与する。
第1のフィルム2は、結晶性樹脂を有する樹脂膜である。結晶性樹脂としては、結晶性を有する熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリメチルペンテン樹脂のようなポリオレフィン系樹脂、ナイロン6樹脂、ナイロン66樹脂のようなポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリエチレン‐2,6‐ナフタレート樹脂のようなポリエステル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリグリコール酸樹脂ポリカプロラクトン樹脂、及び上記樹脂を形成するモノマーを含む共重合体樹脂等が挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上を組み合せて用いることができる。
【0018】
これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエチレン樹脂がより好ましく、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE樹脂)がさらに好ましい。これにより、結晶性樹脂の結晶成分をより確実に配向制御することができる。
【0019】
なお、ポリエチレン樹脂を用いる場合、ポリエチレン樹脂の結晶成分に由来する示唆熱分析法で求めた融解熱量(ΔH)は20J/g以上であることが好ましく、30J/g以上であることがより好ましい。ΔHが上記数値範囲にあることにより、ポリエチレン樹脂の結晶成長を十分に行うことができ、優れたガスバリア性を発揮することができる。
【0020】
融解熱量は、市販の示差走査熱量計(Differential scanning calorimetry;DSC、例えば、セイコーインスツル社製、「DSC−6200」等)を用いて求めることができる。具体的には、示差走査熱量計による測定で得られたDSC曲線のピーク面積から求めることができる。
なお、以下において、第1のフィルム2が有する結晶性樹脂を、「結晶性樹脂A」と記す。
【0021】
結晶性樹脂Aの重量平均分子量の上限値としては、具体的には、例えば、120,000が好ましく、100,000がより好ましく、70,000がさらに好ましい。重量平均分子量が上限値以下であることにより、第1のフィルム2がナノメートル領域の厚みに成形される際に、第1のフィルム2中の樹脂を構成するポリマーの分子鎖が容易に運動することができる。これにより、第1のフィルム2中の結晶の配向度を向上させることができる。
【0022】
一方、結晶性樹脂Aの重量平均分子量の下限値としては、具体的には、例えば、50,000が好ましく、60,000がより好ましく、65,000がさらに好ましい。重量平均分子量が下限値以上であることにより、第1のフィルム2がナノメートル領域の厚みに成形される際に、結晶性樹脂Aに含まれる結晶の分子鎖軸が、フィルム平面に対して傾斜方向に配向した状態又は水平方向に配向した状態で、結晶性樹脂Aを結晶化することができる。
【0023】
重量平均分子量は、市販のゲル浸透クロマトグラム(Gel Permeation Chromatography;GPC、例えば、東ソー社製、「HLC−8320」等)により測定することができる。以下同様にして重量平均分子量を測定することができる。
【0024】
結晶性樹脂Aのメルトフローレート(MFR)の上限値としては、具体的には、例えば、15.0g/10minが好ましく、12.0g/10minがより好ましく、10.0g/10minがさらに好ましい。MFRが上限値以下であることにより、樹脂を構成するポリマーの分子鎖が容易に運動することができる。これにより、第1のフィルム2中の結晶の配向度を向上させることができる。
【0025】
一方、結晶性樹脂AのMFRの下限値としては、具体的には、例えば、1.2g/10minが好ましく、3.0g/10minがより好ましく、5.0g/10minがさらに好ましい。MFRが下限値以上であることにより、樹脂を構成するポリマーの分子鎖が容易に運動することができる。これにより、第1のフィルム2中の結晶の配向度を向上させることができる。
【0026】
なお、MFRは、市販のキャピログラフ(例えば、東洋精機製作所社製、「キャピログラフ1C」等)を用いて、JIS K7210:1999に記載の方法に準拠して評価することができる。以下同様にしてMFRを測定することができる。
【0027】
第1のフィルム2は、上述した結晶性樹脂の他に、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、具体的には、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無期粒子、有機粒子、減粘剤、増粘剤、熱安定化剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0028】
第1のフィルム2の平均層厚みの上限値としては、具体的には、例えば、1000nmが好ましく、300nmがより好ましい。平均層厚みが上限値以下であることにより、第1のフィルム2において、結晶性樹脂Aに含まれる結晶を、その分子鎖軸が、フィルム平面に対して傾斜方向に配向した異方性結晶、あるいは水平方向に配向した異方性結晶とすることができる。
【0029】
一方、第1のフィルム2の平均層厚みの下限値としては、具体的には、例えば、10nmが好ましく、70nmがより好ましい。平均層厚みが下限値以上であることにより、層切れを発生させることなく成膜することが可能であり、第1のフィルム2において、傾斜方向に配向した異方性結晶、あるいは水平方向に配向した異方性結晶を確実に形成することができる。さらに、多層フィルム1を折り曲げた際に第1のフィルム2が破断するのを防止することができる。
【0030】
なお、「第1のフィルム2の平均層厚み」とは、多層フィルム1が備える全ての第1のフィルム2の厚みの和を、多層フィルム1が備える第1のフィルム2の積層数で除したものをいう。
【0031】
フィルムの積層数は、例えば、ミクロトームを用いて多層フィルムの断面を切り出した後、多層フィルムの断面を市販の電子顕微鏡(例えば、日本電子社製、「JSM‐7500FA」等)を用いて観察することにより求めることができる。以下同様にしてフィルムの積層数を求めることができる。
【0032】
また、第1のフィルム2の平均層厚みの標準偏差の上限値としては、具体的には、例えば、100nmが好ましく、50nmがより好ましい。平均層厚みの標準偏差が上限値以下であることにより、多層フィルム1を折り曲げた際に第1のフィルム2が破断するのを防止することができる。さらに、第1のフィルム2において、傾斜方向に配向した異方性結晶、あるいは水平方向に配向した異方性結晶を確実に形成することができる。
【0033】
このように、多層フィルム1において、第1のフィルム2は、結晶性樹脂Aを含有し、結晶性樹脂Aの結晶成分の分子鎖軸が、フィルム平面に対して傾斜方向に配向した異方性結晶、あるいは水平方向に配向した異方性結晶を有するものである。そのため、第1のフィルム2を水蒸気が透過すると仮定した場合、水蒸気が透過するのに通過する経路が長くなることから、かかる構成の第1のフィルム2を備える多層フィルム1は、延伸工程を伴うことなく、優れたガスバリア性を発揮する。多層フィルム1が優れたガスバリア性を発揮することにより、これを用いた包装体は、例えば、水蒸気の侵入を防ぐことができる。 なお、結晶成分の分子鎖軸の傾斜方向の測定については後述する。
【0034】
(第2のフィルム)
第2のフィルム3は、上述した第1のフィルム2と交互に積層されている。第2のフィルム3で第1のフィルム2をはさむことにより、第1のフィルム2の厚みを維持し、第1のフィルム2中において、結晶性樹脂Aの結晶成分の分子鎖軸が、フィルム平面に対して傾斜方向に配向した状態又は水平方向に配向した状態で、結晶性樹脂Aを結晶化することができる。すなわち、第2のフィルム3により、第1のフィルム2を延伸させることなく結晶化することができるため、第1のフィルム2の優れたガスバリア性を発揮させることができる。さらに、第1のフィルム2を延伸させる必要がないため、多層フィルム1に優れた成形加工性を付与することができる。
【0035】
第2のフィルム3は、上述した結晶性樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂を有する樹脂膜である。熱可塑性樹脂としては、上述した結晶性樹脂Aとは異なる熱可塑性樹脂であれば、特に限定されないが、例えば、上述した第1のフィルム2に用いることができる結晶性樹脂として挙げたものの他、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリル樹脂、及びエチレン‐環状オレフィン共重合体樹脂のような上記樹脂を形成するモノマーを含む共重合体樹脂等が挙げられる。これらのうちの1種又は2種以上を組み合せて用いることができる。
【0036】
これらの中でも、ポリプロピレン樹脂、エチレン‐環状オレフィン共重合体樹脂のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。これにより、上述した第2のフィルム3の機能をより顕著に発揮することができる。
なお、以下において、第2のフィルム3が有する熱可塑性樹脂を、「熱可塑性樹脂B」と記す。
【0037】
熱可塑性樹脂Bは、第1のフィルム2における結晶性樹脂Aと同様に、結晶性を示すことが好ましく、熱可塑性樹脂Bの結晶成分の分子鎖軸が、フィルム平面に対して傾斜方向に配向した状態、又は水平方向に配向した状態で存在していることがより好ましい。このように、第2のフィルム3において熱可塑性樹脂Bが結晶性を示し、さらに、第2のフィルム3における熱可塑性樹脂Bの結晶成長が制御されることで、第2のフィルム3におけるガスバリア性を向上させることができる。
【0038】
熱可塑性樹脂Bの重量平均分子量の上限値としては特に限定されないが、第2のフィルム中の結晶の配向度を向上させるために、上述の結晶性樹脂Aの重量平均分子量と同程度であってもよい。具体的には、例えば、350,000が好ましく、300,000がより好ましい。重量平均分子量が上限値以下であることにより、第2のフィルム3がナノメートル領域の厚みに成形される際に、第2のフィルム3中の樹脂を構成するポリマーの分子鎖が容易に運動することができる。これにより、第2のフィルム3中の結晶の配向度を向上させることができる。
【0039】
一方、熱可塑性樹脂Bの重量平均分子量の下限値としては、具体的には、例えば、200,000が好ましく、250,000がより好ましく、280,000がさらに好ましい。重量平均分子量が下限値以上であることにより、第2のフィルム3がナノメートル領域の厚みに成形される際に、熱可塑性樹脂Bに含まれる結晶の分子鎖軸が、フィルム平面に対して傾斜方向に配向した状態又は水平方向に配向した状態で、熱可塑性樹脂Bを結晶化することができる。
【0040】
熱可塑性樹脂BのMFRの上限値としては、具体的には、例えば、20g/10minが好ましく、18g/10minがより好ましく、15g/10minがさらに好ましい。MFRが上限値以下であることにより、熱可塑性樹脂Bと結晶性樹脂Aの溶融粘度が近くなるため、結晶性樹脂Aを構成するポリマーがフィルム端部まで広がることが可能となる。また同時に、溶融粘度が近くなることで、熱可塑性樹脂Bと結晶性樹脂Aとの層界面で生じる流れムラを抑えることができ、より良好な外観を得ることができる。
【0041】
一方、熱可塑性樹脂BのMFRの下限値としては、具体的には、例えば、2.0g/10minが好ましく、5.0g/10minがより好ましく、7.0g/10minがさらに好ましい。MFRが下限値以上であることにより、熱可塑性樹脂Bと結晶性樹脂Aの溶融粘度が近くなるため、結晶性樹脂Aを構成するポリマーがフィルム端部まで広がることが可能となる。また同時に、溶融粘度が近くなることで、熱可塑性樹脂Bと結晶性樹脂Aとの層界面で生じる流れムラを抑えることができ、より良好な外観を得ることができる。
【0042】
第2のフィルム3は、上述した熱可塑性樹脂Bの他に、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、具体的には、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無期粒子、有機粒子、減粘剤、増粘剤、熱安定化剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0043】
第2のフィルム3の平均層厚みの上限値としては、具体的には、例えば、1000nmが好ましく、200nmがより好ましい。平均層厚みが上限値以下であることにより、第2のフィルム3において、熱可塑性樹脂Bに含まれる結晶を、その分子鎖軸が、フィルム平面に対して傾斜方向に配向した異方性結晶、あるいは水平方向に配向した異方性結晶とすることができる。
【0044】
一方、第2のフィルム3の平均層厚みの下限値としては、具体的には、例えば、10nmが好ましく、50nmがより好ましい。平均層厚みが下限値以上であることにより、層切れを発生させることなく成膜することが可能であり、第2のフィルム3において、傾斜方向に配向した異方性結晶、あるいは水平方向に配向した異方性結晶を確実に形成することができる。さらに、多層フィルム1を折り曲げた際に第2のフィルム3が破断するのを防止することができる。
【0045】
なお、「第2のフィルム3の平均層厚み」とは、多層フィルム1が備える全ての第2のフィルム3の厚みの和を、多層フィルム1が備える第2のフィルム3の積層数で除したものをいう。
【0046】
また、第2のフィルム3の平均層厚みの標準偏差の上限値としては、具体的には、例えば、100nmが好ましく、50nmがより好ましい。平均層厚みの標準偏差が上限値以下であることにより、多層フィルム1を折り曲げた際に第2のフィルム3が破断するのを防止することができる。さらに、第2のフィルム3において、傾斜方向に配向した異方性結晶、あるいは水平方向に配向した異方性結晶を確実に形成することができる。
【0047】
(多層フィルム)
本実施形態の多層フィルム1は、上述の第1のフィルム2と第2のフィルム3とを交互に繰り返し積層した繰り返し部4を備える。繰り返し部4内に積層される第1のフィルム2及び第2のフィルム3の積層数の上限値は、特に限定されないが、20000が好ましく、10000がより好ましい。積層数が上限値以下であることにより、優れたガスバリア性を維持しつつ、多層フィルム1を薄型化することができる。
【0048】
一方、繰り返し部4内に積層される第1のフィルム2及び第2のフィルム3の積層数の下限値は、特に限定されないが、20が好ましく、200がより好ましい。積層数が下限値以上であることにより、優れたガスバリア性を発揮することができる。
【0049】
さらに具体的には、本実施形態の多層フィルム1は、厚みが100nm以下の第1のフィルム2を100層以上積層することにより形成されるのが好ましく、厚みが100nm以下の第1のフィルム2を1000層以上積層することにより形成されるのがより好ましい。このような多層フィルム1を選択することにより、多層フィルム1のガスバリア性を特に向上させることができる。
【0050】
また、多層フィルム1の総厚の上限値は、特に限定されないが、具体的には、例えば、1000μmが好ましく、500μmがより好ましく、250μmがさらに好ましい。総厚が上限値以下であることにより、結晶性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bの種類によっては、成膜が困難であったり、層の数が多くなりすぎるため生産効率が悪くなったり、厚すぎるため加工時等に取り扱い性が悪くなるのを防止することができる。
【0051】
一方、多層フィルム1の総厚の下限値は、特に限定されないが、具体的には、例えば、1μmが好ましく、50μmがより好ましく、100μmがさらに好ましい。総厚が下限値以上であることにより、結晶性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bの種類によっては、皺が入りやすい等取り扱い性が悪くなるのを防止することができる。
【0052】
(結晶構造)
本実施形態の多層フィルム1では、第1のフィルム2及び第2のフィルム3において、それぞれ、結晶性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bが結晶化することが好ましいが、これら結晶性樹脂A及び熱可塑性樹脂Bの結晶成分の配向状態は、X線回折により評価する。また、配向結晶の傾きは広角散乱測定(wide angle X−ray scattering;WAXS)や小角散乱測定(small angle X−ray scattering;SAXS)により評価する。
なお、X線回折は、市販のX線回折装置(例えば、リガク社製、「NANO Viewer」等)を用いて測定することができる。
【0053】
例えば、多層フィルム1における、結晶性樹脂Aと熱可塑性樹脂Bの少なくともいずれかの結晶成分に由来するX線回折像が、円周方向(Φ)に強度分布のある点状、円弧上のいずれか1種類以上の形状に出現することにより、結晶の分子鎖軸が、フィルム平面に対して傾斜方向に配向した異方性結晶、あるいは水平方向に配向した異方性結晶が形成されており、結晶成分が高い配向性を示していると言える。
したがって、主に、円周方向(Φ)に強度分布のある点状、円弧上のいずれか1種類以上の形状に出現することがより好ましい。これにより、多層フィルム1が、球晶を多く有する従来の高分子材料よりも優れたバリア性を発揮することができる。
【0054】
また、上記結晶の分子鎖軸が、フィルム平面に対して傾斜している場合には、分子鎖軸とフィルム平面の成す最少角度が10°以上、80°以下であることが好ましい。分子鎖軸とフィルム平面の成す最少角度が上記範囲内にあることで、分子鎖がフィルム平面に垂直である場合と同様に結晶ラメラ中の結晶面を、フィルム平面に対して広範囲に分布することができる。このように、結晶面を、広範囲に分布させることができるため、多層フィルム1のガスバリア性を向上させることができる。
【0055】
なお、配向結晶の傾きは、例えば、WAXSやSAXS測定から得られた結晶性樹脂の結晶ラメラ由来の1次元データから角度を読み取ることで確認できる。
【0056】
また、第1のフィルム2及び第2のフィルム3において、傾斜方向及び平行方向に結晶性樹脂A又は熱可塑性樹脂Bが配向した異方性結晶の配向度は、0.80以上、1.00未満であることが好ましく、0.90以上、1.00未満であることがより好ましい。配向度が上記範囲内となることで、多層フィルム1は、より優れたガスバリア性を発揮する。
【0057】
なお、この配向度(Π)は、結晶性樹脂A又は熱可塑性樹脂Bのうち、結晶の分子鎖軸が、多層フィルム1の平面に対して傾斜方向又は水平方向に配向したものについて、X線回折像を一次元化して得られる回折ピークの半値幅(H)を用いて下記式(1)で求めた値を言う。
Π=(180−H)/180 ・・・(1)
【0058】
また、本実施形態の多層フィルム1の水蒸気透過度としては、1.0g(m
2−day)
−1(100μm換算)以下であることが好ましく、0.4g(m
2−day)
−1(100μm換算)以下であることがより好ましく、0.3g(m
2−day)
−1(100μm換算)以下であることがさらに好ましい。
【0059】
なお、多層フィルム1の水蒸気透過度は、市販の水蒸気透過率測定装置(例えば、MOCON社製、「PERMATRAN‐W(登録商標)3/33」等)を用いて、JIS K7126(B法、等圧法)に記載の方法に準拠して評価することができる。
【0060】
<多層フィルムの製造方法>
次に、上述した多層フィルム1の製造方法について説明する。
多層フィルム1の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、数台の押出機により、原料となる樹脂等を溶融押出するフィードブロック法や、マルチマニホールド法等の共押出Tダイ法、空冷式又は水冷式共押出インフレーション法が挙げられ、なかでも、共押出Tダイ法で製膜する方法が各層の厚み制御に優れる点で特に好ましい。
【0061】
具体的には、先ず、数台の押出機により、溶融状態の樹脂をフィードブロックに溶融押出する。その後、フィードブロックにより、樹脂を積層してフィルムを成形する。
次に、マルチプライヤーにより、フィルムの切断と積層を繰り返して、樹脂を交互に積層し、多層フィルムを成形する。
【0062】
次に、冷却ロールにより多層フィルムを冷却固化することで、多層フィルムの結晶配向を制御する。
以上により、多層フィルム1を作製することができる。本実施形態により作製した多層フィルム1は、フィルムを延伸していないため、成形加工性に優れる。
【0063】
<包装体>
次に、本発明を適用した一実施形態である包装体11の構成について、
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は、本発明を適用した実施形態である包装体11の斜視図である。また、
図3は、
図2の包装体11のA−A線における模式断面図である。
図3に示すように、本実施形態の包装体11は、第1のフィルム2と、第2のフィルム3と、を交互に繰り返し備え、さらにカバーフィルム12と、収納部13と、を備え概略構成されている。すなわち、本実施形態の包装体11は、上述した多層フィルム1と、カバーフィルム12と、収納部13と、を備えて概略構成されている。よって、重複する部分については説明を省略する。本実施形態の包装体11は、ブリスターパックとしてのPTPフィルム(包装容器)であり、収納部13に錠剤14を密封収納することができる。
【0064】
多層フィルム1は、カバーフィルム12に接着している。多層フィルム1には、カバーフィルム12の反対側の面を突き出すようにして複数の収納部13が形成されている。 多層フィルム1は、ガスバリア層として機能することにより、収納部13内に水蒸気等のガスが透過するのを防止することができる。
【0065】
カバーフィルム12の材質としては、具体的には、例えば、アルミニウム等が挙げられる。
【0066】
上述した多層フィルム1及びカバーフィルム12には、スリット15を入れてもよい。これにより、収納部13に収容された錠剤14を必要な数毎に切り分けることが容易となり、包装体11に優れた利便性を付与することができる。
【0067】
本実施形態の包装体11は、多層フィルム1を備えることにより、収納部13に水蒸気等のガスが透過するのを防ぐことができる。包装体11のガスバリア性(水蒸気バリア性)は、例えば、収納部13を水蒸気が透過するときの水蒸気透過度を測定することにより評価することができる。包装体11の水蒸気透過度は、内壁面が内径φ10.0mm×高さ4.5mmの大きさの収納部13を形成した場合、40℃、90%RHの雰囲気下において24時間放置する条件で、1.8mg/10pockets−day以下であることが好ましく、1.5mg/10pockets−day以下であることがより好ましく、1.2mg/10pockets−day以下であることがさらに好ましい。
【0068】
<包装体の製造方法>
次に、上述した包装体11の製造方法について説明する。
包装体11の製造方法としては、特に限定されないが、一般的に使用されるPTP包装機が用いられる。
具体的には、先ず、真空成形、圧空成形、又はプラグ成形等により、多層フィルム1に収納部13を成形する。
【0069】
次に、多層フィルム1の収納部13に内容物である錠剤14を充填した後、カバーフィルム12を重ね合せ、多層フィルム1とカバーフィルム12とを接着させる。
次に、多層フィルム1及びカバーフィルム12に、ミシン刃やハーフカット刃を用いてスリット15を入れる。
以上の工程により、包装体11が製造される。
【0070】
以上説明したように、本実施形態の多層フィルム1によれば、重量平均分子量が50,000〜120,000である結晶性樹脂を有す第1のフィルム2と、上記結晶性樹脂とは異なる熱可塑性樹脂を有す第2のフィルム3と、を交互に繰り返し積層した繰り返し部4を備えるため、第1のフィルム2中の結晶性樹脂を構成するポリマーの分子鎖が容易に運動することができ、第1のフィルム2中の結晶の配向度が高い。そのため、ガスバリア性に優れる。
【0071】
また、上述した多層フィルム1によれば、第1のフィルム2の平均層厚みが10〜1000nmであるため、第1のフィルム2中の結晶を、その分子鎖軸が、フィルム平面に対して傾斜方向に配向した異方性結晶、あるいは水平方向に配向した異方性結晶とすることができる。そのため、ガスバリア性に優れる。
【0072】
また、上述した多層フィルム1によれば、第2のフィルム3の重量平均分子量が200,000〜350,000であるため、第2のフィルム3中の結晶性樹脂を構成するポリマーの分子鎖が容易に運動することができ、第2のフィルム3中の結晶の配向度が高い。そのため、ガスバリア性に優れる。
【0073】
また、本実施形態の包装体11によれば、多層フィルム1を備えるため、ガスバリア性に優れる。
【0074】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。例えば、上述した多層フィルム1では、繰り返し部4は、第1のフィルム2と、第2のフィルム3とを交互に繰り返し積層してなるものとして説明したが、繰り返し部4は、本発明の効果を阻害しない範囲で、結晶性樹脂Aを有する第1のフィルム2、熱可塑性樹脂Bを有する第2のフィルム3以外の層として、例えば、熱可塑性樹脂Cを含有する第3のフィルムを有しても良い。
【0075】
例えば、結晶性樹脂Aを含有する第1のフィルム2(A)、熱可塑性樹脂Bを含有する第2のフィルム3(B)、熱可塑性樹脂Cを含有する第3のフィルム(C)の3種類の層を有する場合、繰り返し部4は、(A)、(B)及び(C)がそれぞれ少なくとも1つ含まれるものであればよい。例えば、繰り返し部4は、(BAC)n及びB(ACAB)n等の様に規則的順列で積層されているものであってもよい。ここで、nは繰り返しの単位数である。
【0076】
また、上述した包装体11は、収納部13の全体形状が円錐台状、平面視形状が円形状の例について説明したが、収納部13の形状はこれに限定されず、収納すべき錠剤14のワークの形状に対応して、例えば、その平面視形状が、三角形、四角形、五角形、六角形のような多角形状や、長円形状等をなしていてもよい。
【0077】
また、上述した包装体11は、収納部13を8つ備える例について説明したが、収納部13の数はこれに限定されず、1つ以上であればよい。
【0078】
また、上述した包装体11は、収納部13を備える多層フィルム1にカバーフィルム12を重ね合わせることで包装体11とした例について説明したが、これに限定されず、包装体11は、例えば、2つの多層フィルム1を重ね合わせた状態で縁部を熱圧着することで袋体とし、この袋体の内部に、ワークとして食肉、加工肉及び青果物等の食材、又は、注射針、シリンジ、検査キット及びカテーテル等の医療器具を収納する包装袋等であってもよい。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の効果を実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0080】
<多層フィルムの作製>
(実施例1)
結晶性樹脂Aとして高密度ポリエチレン樹脂(HDPE樹脂)(プライムポリマー社製、「SP60101」、密度:955kg/m
3、重量平均分子量:50,000、MFR:9.0g/10min)を用意した。
また、熱可塑性樹脂Bとしてポリプロピレン樹脂(PP樹脂)(プライムポリマー社製、「J106G」、密度:910kg/m
3、重量平均分子量:214,000、MFR:15.0g/10min)を用意した。
【0081】
上記HDPE樹脂及びPP樹脂を、それぞれ押出機(株式会社サン・エヌ・ティー製、「SNT40−28型番」)で、240℃の溶融状態とした後に、フィードブロック及びダイを用いて共押出しして、2053層の多層フィルムを作製した。ここで、積層厚み比が結晶性樹脂A:熱可塑性樹脂B=3:2になるように吐出量を調整した。
なお、多層フィルムの厚みは300μmであった。
【0082】
(実施例2)
結晶性樹脂Aとして高密度ポリエチレン樹脂(HDPE樹脂)(プライムポリマー社製、「2100J」、密度:953kg/m
3、重量平均分子量:6,3000、MFR:5.8g/10min)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。
なお、多層フィルムの厚みは300μmであった。
【0083】
(実施例3)
結晶性樹脂Aとして高密度ポリエチレン樹脂(HDPE樹脂)(旭化成ケミカルズ社製、「B161」、密度:963kg/m
3、重量平均分子量:112,900、MFR:1.35g/10min)を用意した。
また、熱可塑性樹脂Bとしてポリプロピレン樹脂(PP樹脂)(プライムポリマー社製、「E122V」、密度:910kg/m
3、重量平均分子量:400,000、MFR:1.8g/10min)を用意したこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。
なお、多層フィルムの厚みは300μmであった。
【0084】
(実施例4)
積層厚み比が結晶性樹脂A:熱可塑性樹脂B=1:4になるように吐出量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。
なお、多層フィルムの厚みは300μmであった。
【0085】
(比較例1)
結晶性樹脂Aとして高密度ポリエチレン樹脂(HDPE樹脂)(プライムポリマー社製、「3300F」、密度:950kg/m
3、重量平均分子量:150,000、MFR:1.1g/10min)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして多層フィルムを作製した。
なお、多層フィルムの厚みは300μmであった。
【0086】
(比較例2)
結晶性樹脂として高密度ポリエチレン樹脂(HDPE樹脂)(プライムポリマー社製、「SP60101」、密度:955kg/m
3、重量平均分子量:50,000、MFR:9.0g/10min)を用意した。
【0087】
上記HDPE樹脂を、押出機(株式会社サン・エヌ・ティー製、「SNT40−28型番」)で、240℃の溶融状態とした後に、押出して、単層フィルムを作製した。
なお、単層フィルムの厚みは300μmであった。
【0088】
(比較例3)
結晶性樹脂Aとして高密度ポリエチレン樹脂(HDPE樹脂)(プライムポリマー社製、「3300F」、密度:950kg/m
3、重量平均分子量:150,000、MFR:1.1g/10min)を用いたこと以外は、比較例2と同様にして単層フィルムを作製した。
なお、単層フィルムの厚みは300μmであった。
【0089】
<積層数の評価及び結晶構造の観察>
各実施例及び各比較例で作製した多層フィルム又は単層フィルムの積層数は、ミクロトームを用いて断面を切り出したサンプルについて、電子顕微鏡(日本電子社製、「JSM‐7500FA」)を用いて観察することにより求めた。また、各層の結晶構造について、上記電子顕微鏡を用いて観察することで、第1のフィルム、第2のフィルムにおける傾斜方向に及び水平方向に配向した異方性結晶の有無を観察した。具体的には、フィルム断面を1000〜100000倍に拡大観察した。
【0090】
<配向度の評価>
各実施例及び各比較例で作製した多層フィルム又は単層フィルムの第1のフィルム及び第2のフィルムにおける配向度(Π)を、X線回折像を一次元化して得られる回折ピークの半値幅(H)を用いて下記式(1)により求めた。
Π=(180−H)/180 ・・・(1)
【0091】
<水蒸気バリア性の評価(多層フィルム)>
各実施例及び各比較例で作製した多層フィルム又は単層フィルムの水蒸気バリア性は、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、「PERMATRAN‐W(登録商標)3/33」)を用いて、JIS K7126(B法、等圧法)に記載の方法に準拠して評価した。
【0092】
<水蒸気バリア性の評価(包装体)>
各実施例及び各比較例で作製した多層フィルム又は単層フィルムを備えた包装体の水蒸気バリア性を評価した。具体的には、先ず、各フィルムについて、それぞれ、ブリスタ包装機(CKD社製、「FBP−300E」)を用いて、長手方向に沿って5つ、短手方向に沿って2つずつ並ぶように計10つの収納部(φ10.0mm×4.5mm)を形成した。次に、10つの収納部にそれぞれゼオライト(φ7.0mm×7.0mm)を充填した状態で、アルミ製のカバーフィルムを用いて収納部の開口を密封することで包装体を作製した。
【0093】
この状態で40℃、90%RHの雰囲気下に24時間放置した後のゼオライトの重量変化を測定した。そして、この測定結果に基づいて収納部を透過した水蒸気量を求めることで評価した。
以上の各実施例及び各比較例の評価結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示されるように、実施例1〜4、及び比較例1の多層フィルムの配向度について、結晶性樹脂Aとして重量平均分子量が120,000以下の樹脂を用いた実施例1〜4の多層フィルムでは、比較例1に比べて第1のフィルムの配向度が向上した。また、熱可塑性樹脂Bとして重量平均分子量が350,000以下の樹脂を用いた実施例1,2,4の多層フィルムでは、実施例4及び比較例1に比べて第2のフィルムの配向度が向上した。
【0096】
また、各多層フィルム又は単層フィルムの水蒸気バリア性について、実施例1〜4の多層フィルムの水蒸気透過度は、0.4g(m
2−day)
−1(100μm換算)以下であり、優れた水蒸気バリア性を有することを確認した。
【0097】
また、各包装体の水蒸気バリア性について、実施例1〜4の多層フィルムを用いた包装体の水蒸気透過度は、1.2mg(10pockets−day)
−1以下であり、優れた水蒸気バリア性を有することを確認した。
【0098】
以上の結果より、実施例1〜4の多層フィルム及びこれを用いた包装体は、優れた水蒸気バリア性を有することを確認した。
【0099】
<X線散乱測定による結晶構造>
各実施例及び各比較例で作製した多層フィルムを、X線回折装置(リガク社製、「NANO Viewer」)を用いて評価した。
【0100】
図4(a)、(b)に、それぞれ、実施例1及び比較例1の多層フィルムのX線回折像を示す。実施例1及び比較例1のX線回折像の両方に、ポリエチレン樹脂の結晶面(200)に由来するX線回折像が円弧を示した。この結果から、結晶の分子鎖軸が、フィルム平面に対して傾斜又は水平方向に配向していることを確認することができた。