(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記転舵トルク演算部は、前記第1舵角の角加速度に応じた慣性トルクを前記弾性トルク及び前記粘性トルクの少なくとも一方に加えて前記転舵トルクを演算することを特徴とする請求項3に記載の転舵制御装置。
前記舵角変位演算部は、前記第3舵角が前記第1閾値舵角よりも大きな第2閾値舵角を超えた場合に、前記第3舵角と前記第2閾値舵角との差分に応じて前記第1閾値舵角を変更することを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の転舵制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
(第1実施形態)
(構成)
本発明は、目標転舵角に基づいて転舵機構の転舵角(すなわち転舵輪の転舵角)を制御する転舵装置に適用される。
図1は、このような転舵装置の一例として操舵機構と転舵機構とが機械的に切り離されたステアバイワイヤ(SBW:Steer By Wire)機構を備える転舵装置を示す。ただし、本発明は、ステアバイワイヤ機構を備える転舵装置に限定されるものではなく、目標転舵角に基づいて転舵機構の転舵角を制御する転舵装置であれば、様々な転舵装置に広く適用可能である。
【0011】
操向ハンドル1の操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は、減速機構を構成する減速ギア(ウォームギア)3、バックアップクラッチ20、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a、6bを経て、更にハブユニット7a、7bを介して操向車輪8L、8Rに連結されている。
【0012】
ピニオンラック機構5は、ユニバーサルジョイント4bから操舵力が伝達されるピニオンシャフトに連結されたピニオン5aと、このピニオン5aに噛合するラック5bとを有し、ピニオン5aに伝達された回転運動をラック5bで車幅方向の直進運動に変換する。ラック5bには、ラック5bの移動量を検出して操向車輪8L、8Rの転舵角θsを検出する転舵角センサ26が設けられている。
【0013】
操舵軸2には、反力トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられている。また、操舵軸2には、操向ハンドル1や操舵軸2の操舵角θhを検出する操舵角センサ14が設けられている。
操向ハンドル1に反力トルクThを付与する反力モータ21は、減速ギア3を介して操舵軸2に連結されている。
なお、操舵角センサ14や転舵角センサ26は必須のものではなく、反力モータ21や転舵モータ22に連結されたレゾルバ等の回転角センサにより検出したモータ回転角度に基づいて、操舵角θhや転舵角θsを取得してもよい。
【0014】
操向車輪8L、8Rを転舵する転舵モータ22は、減速ギア23を介してピニオン24に連結され、ピニオン24はラック5bに噛合する。これにより、転舵モータ22の回転運動はラック5bの車幅方向の直進運動に変換される。
なお、操向ハンドル1に反力トルクThを付与する手段、及び操向車輪8L、8Rを転舵する手段は、電動モータに限られず様々な種類のアクチュエータを利用可能である。
【0015】
バックアップクラッチ20は、解放状態になると操向ハンドル1と操向車輪8L、8Rとを機械的に切り離し、締結状態になると操向ハンドル1と操向車輪8L、8Rとを機械的に接続する。すなわちバックアップクラッチ20は、解放状態になると操舵機構と転舵機構を機械的に切り離し、締結状態になると操舵機構と転舵機構を機械的に連結する。
以下の説明において、転舵機構の転舵角θs(すなわち、操向車輪8L、8Rの転舵角θs)を第1舵角θsと表記し、操舵機構の操舵角θh(すなわち操向ハンドル1や操舵軸2の操舵角θh)を第2舵角θhと表記することがある。
【0016】
ステアバイワイヤ機構を制御するコントローラであるSBW−ECU(Steer By Wire - Electronic Control Unit)25には、バッテリ13から電力が供給されるとともに、イグニション(IGN)キー11を経てイグニションキー信号が入力される。
SBW−ECU25は、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された第2舵角θhと、転舵角センサ26で検出された第1舵角θsに基づいて、転舵制御指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値によって転舵モータ22に供給する電流を制御する。
【0017】
また、SBW−ECU25は、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された第2舵角θhとに基づいて目標反力トルクThrを算出し、トルクセンサ10で検出される反力トルクThを目標反力トルクThrに近付けるフィードバック制御を行う。
SBW−ECU25は、例えば、少なくとも一つのプロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを備えてよい。プロセッサは、例えばCPU、やMPUであってよい。
【0018】
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM及びRAM等のメモリを含んでよい。
以下に説明するSBW−ECU25の機能は、例えばSBW−ECU25のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0019】
なお、SBW−ECU25を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、SBW−ECU25は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばSBW−ECU25はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ等のプログラマブル・ロジック・デバイス等を有していてもよい。
【0020】
図2を参照して、第1実施形態のSBW−ECU25の機能構成の一例を説明する。SBW−ECU25は、転舵角指令値演算部30と、制御角演算部31と、端当て衝撃緩和制御部32と、減算器33及び38と、転舵角制御部34と、電流制御部35及び40と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部36及び41と、インバータ等である駆動回路37及び42と、反力制御部39を備える。
【0021】
転舵角指令値演算部30は、少なくとも第2舵角θhに基づいて転舵機構の第1舵角θsの目標舵角θsr0を演算する。本例では、転舵角指令値演算部30は、第2舵角θh及び車速Vhに基づいて目標舵角θsr0を演算する。また、転舵角指令値演算部30は、少なくとも第2舵角θhに基づいて操舵機構に付与する目標反力トルクThrを演算する。転舵角指令値演算部30の詳細は後述する。
【0022】
制御角演算部31と端当て衝撃緩和制御部32は、端当ての際の衝撃を緩和する端当て衝撃緩和制御を行う。
端当て衝撃緩和制御では、第1舵角θsが所定の第1閾値舵角から最大舵角までの角度範囲内にあるとき、目標舵角θsr0が減少するように補正して端当ての際の衝撃を緩和する。
【0023】
制御角演算部31は、端当て衝撃緩和制御に用いられる制御角θrを演算する。
図3を参照する。いま、操向車輪8L、8Rが右に転舵されているときの第1舵角θsが正の値となり、操向車輪8L、8Rが左に転舵されているときの第1舵角θsが負の値となるように符号を設定する。
端当て衝撃緩和制御は、第1舵角θsが正値の第1閾値舵角θtR1から正の最大舵角までの範囲にある場合と、負値の第1閾値舵角θtL1から負の最大舵角までの範囲にある場合に実施される。
【0024】
制御角演算部31は、第1舵角θsが第1閾値舵角θtR1から正の最大舵角までの範囲にある場合に、第1閾値舵角θtR1を基準とする第1舵角θsの舵角変位を制御角θrとして演算する。例えば制御角演算部31は、第1舵角θsと第1閾値舵角θtR1の差分(θs−θtR1)を制御角θrとして演算する。
制御角演算部31は、第1舵角θsが第1閾値舵角θtL1から負の最大舵角までの範囲にある場合に、第1閾値舵角θtL1を基準とする第1舵角θsの舵角変位を制御角θrとして演算する。例えば制御角演算部31は、第1舵角θsと第1閾値舵角θtL1の差分(θs−θtL1)を制御角θrとして演算する。
制御角演算部31は、第1舵角θsが負の第1閾値舵角θtL1以上正の第1閾値舵角θtR1以下の範囲にある場合に制御角θrを0に設定する。
【0025】
図2を参照する。端当て衝撃緩和制御部32は、制御角θrと、第1舵角θsの角速度ωとに基づいて、端当て衝撃緩和において目標舵角θsr0を補正するための舵角補正値Δθを演算する。端当て衝撃緩和制御部32の詳細は後述する。
また、転舵角指令値演算部30は舵角補正値Δθに応じて目標反力トルクThrを補正する。
減算器33は、転舵角指令値演算部30が演算した目標舵角θsr0から舵角補正値Δθを減じることにより目標舵角θsr0を補正して、補正目標舵角θsr1を得る。
【0026】
転舵角制御部34は、補正目標舵角θsr1と実際の第1舵角θsとの偏差に基づいて電流指令値Isrを生成する。
電流制御部35は、電流指令値Isrとフィードバックされた転舵モータ22のモータ電流値との偏差に基づいて電圧制御指令値を生成する。PWM制御部36は、電流制御部35が生成した電圧制御指令値に基づいて駆動回路37を制御して転舵モータ22をPWM駆動する。
【0027】
一方で、転舵角指令値演算部30により演算された目標反力トルクThrは減算器38に入力され、減算器38は、トルクセンサ10で検出される反力トルクThを目標反力トルクThrから減じたトルク偏差を演算する。反力制御部39は、減算器38が演算したトルク偏差に基づいて電流指令値を生成する。
電流制御部40は、反力制御部39が演算した電流指令値とフィードバックされた反力モータ21のモータ電流値との偏差に基づいて電圧制御指令値を生成する。PWM制御部41は、電流制御部40が生成した電圧制御指令値に基づいて駆動回路42を制御して反力モータ21をPWM駆動する。
【0028】
次に、転舵角指令値演算部30について説明する。
図4を参照する。転舵角指令値演算部30は、基本反力トルク演算部50と、微分器51と、ダンピング係数テーブル52と、乗算器53、55及び58と、反力補正係数テーブル54と、加算器56と、転舵比テーブル57を備える。
基本反力トルク演算部50は、第2舵角θhと車速Vhに基づいて基本反力トルクを演算する。基本反力トルクは加算器56に入力される。
【0029】
微分器51は、第2舵角θhを微分して操舵速度dθh/dtを算出する。ダンピング係数テーブル52は、車速Vhに応じたダンピング係数(粘性係数)Dを乗算器53に出力する。乗算器53は、ダンピング係数Dを操舵速度dθh/dtに乗じて粘性トルク成分を演算する。
【0030】
転舵比テーブル57は、車速Vhに応じた転舵比1/Rを乗算器58に出力する。乗算器58は、転舵比1/Rに第2舵角θhを乗じて目標舵角θsr0を演算する。したがって第2舵角θhの増加に応じて目標舵角θsr0は増加する。
反力補正係数テーブル54は、車速Vhに応じた反力補正係数Lを乗算器55に出力する。
【0031】
乗算器55は、反力補正係数Lを舵角補正値Δθに乗じて補正トルク成分を演算する。加算器56は、基本反力トルクに粘性トルク成分と補正トルク成分を加えて目標反力トルクThrを算出する。これにより、目標反力トルクThrは舵角補正値Δθに応じて補正される。
上記のとおり、端当て衝撃緩和制御の際には舵角補正値Δθが非零となる。このため、端当て衝撃緩和制御の際には反力トルクが増加して、第2舵角θhが大きくなることが抑制される。また、ラック5bがストローク端に近づいていることを運転者に知らせることにより、第2舵角θhの増加を抑制できる。
【0032】
この結果、目標舵角θsr0が最大舵角方向に増加するのを抑制でき、効果的にラック5bの仮想的なストローク端を生成できる。
これにより、反力補正係数Lを適切に設定することで仮想的なストローク端を生成しながら、過度な操舵反力を運転者に与えるのを防止できる。
なお、舵角補正値Δθに換えて、目標舵角θsr0と第1舵角θsとの差分(θsr0−θs)に反力補正係数Lを乗じて補正トルク成分を演算してもよい。
【0033】
次に、端当て衝撃緩和制御部32について説明する。端当て衝撃緩和制御部32は、端当て衝撃緩和制御の際に、転舵機構を中立位置へ戻す方向に作用させる転舵トルクTmを演算し、転舵トルクTmが転舵機構に作用したときの第1舵角θsの変化量Δθを、目標舵角θsr0を補正するための舵角補正値Δθとして演算する。
以下、端当て衝撃緩和制御部32にて行う転舵トルクTmから舵角補正値Δθへの変換処理について説明する。
【0034】
端当て衝撃緩和制御部32の出力である舵角補正値Δθは、目標舵角θsr0を補正することで、転舵トルクTmとして転舵機構に作用する。ここで転舵機構とタイヤと路面反力の特性を1/(Js
2+Dms+Kb)とすると、転舵機構の第1舵角θsは次式(1)で与えられる。
【0036】
式(1)において、Jは転舵モータ22と転舵機構とタイヤの慣性を、操舵軸2に働く慣性に換算したコラム軸慣性であり、Dmは転舵モータ22と転舵機構とタイヤの粘性係数を、操舵軸2に働く粘性抵抗の粘性係数に換算した換算値であり、Kbは路面からの反力と持ち上げトルクの合計のばね定数であり、sはラプラス演算子である。
転舵トルクTmが転舵機構に作用したときの第1舵角θsの変化Δθは、ラプラス変換の最終値定理(定常値)を用いて次式(2)のように得られる。
【0038】
このΔθで目標舵角θsr0を補正することで(すなわち目標舵角θsr0をΔθで減じることで)、転舵機構を中立位置に戻す方向に転舵トルクTmが作用するように目標舵角θsr0を補正することができる。
次式(3)の転舵トルクTmを転舵機構に作用させる場合、舵角補正値Δθは次式(4)により算出できる。端当て衝撃緩和制御部32は、次式(4)にしたがって舵角補正値Δθを演算する。
【0040】
式(4)において、K0は弾性トルク成分のばね定数であり、μは粘性トルク成分の粘性係数であり、ωは第1舵角θsの角速度であり、ΔJは慣性トルク成分の慣性係数であり、αは第1舵角θsの角加速度である。
以下、
図5を参照して端当て衝撃緩和制御部32の構成を説明する。端当て衝撃緩和制御部32は、ばね定数テーブル60と、乗算器61、64、68及び71と、微分器62及び66と、粘性係数テーブル63と、符号判定部65と、慣性係数テーブル67と、加算器69と変換係数テーブル70を備える。
【0041】
ばね定数テーブル60は、転舵トルクTmの弾性トルク成分のばね定数として、制御角θrに応じたばね定数K0を乗算器61に出力する。乗算器61は、ばね定数K0を制御角θrに乗じることにより、転舵トルクTmの弾性トルク成分(K0・θr)を演算して加算器69に出力する。
微分器62は、第1舵角θsを微分して第1舵角θsの角速度ωを演算する。粘性係数テーブル63は、転舵トルクTmの粘性トルク成分の粘性係数として、制御角θrに応じた粘性係数μを乗算器64に出力する。乗算器64は、粘性係数μを角速度ωに乗じることにより、転舵トルクTmの粘性トルク成分(μ・ω)を演算して加算器69に出力する。
図6の(a)及び
図6の(b)は、ばね定数K0及び粘性係数μの特性の一例の特性図である。
【0042】
符号判定部65は、第1舵角θsの正負符号を判定して、第1舵角θsの符号sgn(θs)を出力する。微分器66は、角速度ωを微分して第1舵角θsの角加速度αを演算する。慣性係数テーブル67は、転舵トルクTmの慣性トルク成分の慣性係数として、角加速度αと符号sgn(θs)に応じた慣性係数ΔJを乗算器68に出力する。乗算器68は、慣性係数ΔJを角加速度αに乗じることにより、転舵トルクTmの慣性トルク成分(ΔJ・α)を演算して加算器69に出力する。
慣性トルク成分(ΔJ・α)により転舵機構の慣性に対する補正を行うことで、第1舵角θsの加減速における慣性トルクを調整できる。
【0043】
図7の(a)は、慣性係数ΔJの特性の一例を示す。
図7の(a)において実線は第1舵角θsの符号sgn(θs)が正(+)である場合の特性を示し、破線は符号sgn(θs)が負(−)である場合の特性を示す。
図7の(b)及び
図7の(c)においても同様である。
慣性係数ΔJの特性は、例えば参照符号72で示すように符号sgn(θs)が正で角加速度αが正である場合、切り増し操舵(第1舵角θsと角速度ωが同符号の場合)において第1舵角θsを減速させる反力を生成するために比較的大きな値となるように設定されている。
【0044】
また、例えば参照符号73で示すように符号sgn(θs)が正で角加速度αが負である場合、切り増し操舵の場合には適度な減速なので反力を緩和するために比較的小さな値となるように設定されている。
また、また切り戻し操舵の場合(第1舵角θsと角速度ωが異符号の場合)には過度な加速なので反力を緩和するために比較的小さな値となるように設定されている。なお、切り増し操舵と切り戻し操舵で、慣性係数ΔJの特性を異ならせてもよい。
【0045】
符号sgn(θs)が負の場合の慣性係数ΔJ(破線)は、角加速度α=0の軸を対称軸として、符号sgn(θs)が正の場合の慣性係数ΔJ(実線)の特性と線対称の特性を有する。
慣性係数ΔJは、角加速度αに対してデッドゾーンRdp及びRdmを有していてもよい。デッドゾーンRdp及びRdmの正の範囲の幅と負の範囲の幅は、異なっていてもよい。
【0046】
図7の(b)及び
図7の(c)に示すように、角加速度α=0における慣性係数ΔJの値が0でない正値又は負値となるように、慣性係数ΔJの特性をオフセットしてもよい。
小型車のような低慣性システムにおいては、
図7の(b)に示すように慣性係数ΔJを大きくすることで安定性を増すことができる。一方で、大型車のような高慣性システムにおいては、
図7の(c)に示すように慣性係数ΔJを小さくすることで応答性を増すことができる。
【0047】
図5を参照する。加算器69は、弾性トルク成分(K0・θr)と粘性トルク成分(μ・ω)と慣性トルク成分(ΔJ・α)を合計して、上式(3)の転舵トルクTmを演算する。
変換係数テーブル70は、転舵トルクTmを舵角補正値Δθへ変換する変換係数(1/Kb)を出力する。定数Kbは、路面からの反力と持ち上げトルクの合計である。路面からの反力は車速Vhにより変化するので、変換係数テーブル70は、車速Vhに応じて異なる変換係数1/Kbを出力してよい。
乗算器71は、上式(4)に従って転舵トルクTmに変換係数(1/Kb)を乗じることにより、転舵トルクTmを舵角補正値Δθへ変換する。
【0048】
なお、慣性トルク成分(ΔJ・α)は必ずしも必須ではなく、符号判定部65、微分器66、慣性係数テーブル67及び乗算器68を省略してもよい。
また、弾性トルク成分(K0・θr)及び粘性トルク成分(μ・ω)の両方を生成する必要はなく、いずれか一方を省略してよい。この場合、ばね定数テーブル60及び乗算器61の組み合わせか、微分器62、粘性係数テーブル63及び乗算器64の組み合わせのいずれかを省略してもよい。
【0049】
転舵角センサ26、操舵角センサ14、転舵モータ22、反力モータ21及びトルクセンサ10は、それぞれ特許請求の範囲に記載の第1舵角検出部、第2舵角検出部、第1アクチュエータ、第2アクチュエータ及び反力トルク検出部の一例である。
転舵角指令値演算部30は、特許請求の範囲に記載の目標舵角演算部及び目標反力演算部の一例である。
【0050】
制御角θr及び制御角演算部31は、それぞれ特許請求の範囲に記載の舵角変位及び舵角変位演算部の一例である。
端当て衝撃緩和制御部32及び減算器33は、それぞれ特許請求の範囲に記載の舵角補正値演算部及び補正目標舵角演算部の一例である。
転舵角制御部34は、特許請求の範囲に記載の舵角制御部の一例である。
【0051】
ばね定数テーブル60、乗算器61、64及び68、微分器62及び66、粘性係数テーブル63、符号判定部65、慣性係数テーブル67並びに加算器69は、特許請求の範囲に記載の転舵トルク演算部の一例である。
変換係数テーブル70及び乗算器71は、特許請求の範囲に記載の第1変換部の一例である。
反力補正係数テーブル54、乗算器55及び加算器56は、特許請求の範囲に記載の目標反力補正部の一例である。
【0052】
(動作)
次に、
図8を参照して第1実施形態の転舵制御方法を説明する。
ステップS1において操舵角センサ14は、操舵機構の第2舵角θhを検出する。
ステップS2において転舵角指令値演算部30は、少なくとも第2舵角θhに基づいて目標舵角θsr0を演算する。
【0053】
ステップS3において転舵角センサ26は、転舵機構の第1舵角θsを検出する。
ステップS4において制御角演算部31は、第1舵角θsが正の第1閾値舵角から正の最大舵角までの範囲にある場合に、又は第1舵角θsが負の第1閾値舵角から負の最大舵角までの範囲にある場合に、第1閾値舵角を基準とする第1舵角θsの舵角変位を制御角θrとして演算する。
ステップS5において端当て衝撃緩和制御部32は、制御角θrと、第1舵角θsの角速度ωとに基づいて舵角補正値Δθを演算する。
【0054】
ステップS6において減算器33は、舵角補正値Δθで目標舵角θsr0を補正して、補正目標舵角θsr1を演算する。
ステップS7において転舵角制御部34は、第1舵角θsが補正目標舵角θsr1となるように転舵モータ22を制御する。その後に処理は終了する。
【0055】
(第1実施形態の効果)
(1)転舵制御装置は、転舵機構の第1舵角θsを検出する転舵角センサ26と、転舵機構を駆動する転舵モータ22と、操舵機構の第2舵角θhを検出する操舵角センサ14と、少なくとも第2舵角θhに基づいて転舵機構の目標舵角θsr0を演算する転舵角指令値演算部30と、第1舵角θsの取り得る最大舵角から第1閾値舵角までの角度範囲内に第1舵角θsがある場合に、第1閾値舵角を基準とする第1舵角θsの舵角変位である制御角θrを演算する制御角演算部31と、少なくとも制御角θrに応じて舵角補正値Δθを演算する端当て衝撃緩和制御部32と、舵角補正値Δθで目標舵角θsr0を補正して補正目標舵角θsr1を演算する減算器33と、第1舵角θsが補正目標舵角θsr1となるように転舵モータ22を制御する転舵角制御部34を備える。
これにより、目標舵角θsr0に基づいて転舵機構の第1舵角θsを制御する転舵装置において、ラック5bがストローク端に近づいた場合に第1舵角θsの増加を抑制して、端当てによる衝撃や打音(異音)を抑制できる。
【0056】
(2)端当て衝撃緩和制御部32は、転舵機構に作用させる転舵トルクTmとして、制御角θrに応じた弾性トルク(K0・θr)を含んだトルクを演算するばね定数テーブル60及び乗算器61と、転舵トルクTmを舵角補正値Δθに変換する変換係数テーブル70及び乗算器71を備える。
これにより、弾性トルク(K0・θr)を含んだ反力トルクが転舵機構に作用した場合の第1舵角θsの変化を目標舵角θsr0に反映させることができる。この結果、第1舵角θsの増加を抑制して、端当てによる衝撃や打音(異音)を抑制できる。
【0057】
(3)端当て衝撃緩和制御部32は、転舵トルクTmとして、制御角θrに応じた弾性トルク(K0・θr)、及び第1舵角θsの角速度ωと制御角θrとに応じた粘性トルク(μ・ω)の少なくとも一方を含んだトルクを演算する、ばね定数テーブル60及び乗算器61、並びに微分器62、粘性係数テーブル63及び乗算器64と、転舵トルクTmを舵角補正値Δθに変換する変換係数テーブル70及び乗算器71を備える。
これにより、弾性トルク(K0・θr)及び粘性トルク(μ・ω)の少なくとも一方を含んだ反力トルクが転舵機構に作用した場合の第1舵角θsの変化を目標舵角θsr0に反映させることができる。この結果、第1舵角θsの増加を抑制して、端当てによる衝撃や打音(異音)を抑制できる。
【0058】
(4)微分器62及び66、慣性係数テーブル67並びに乗算器68は、第1舵角θsの角加速度αに応じた慣性トルク(ΔJ・α)を演算する。加算器69は、慣性トルク(ΔJ・α)を弾性トルク(K0・θr)及び粘性トルク(μ・ω)の少なくとも一方に加えて転舵トルクTmを演算する。
これにより、第1舵角θsの加減速における慣性トルクを調整できる。
【0059】
(5)変換係数テーブル70は、車速Vhに応じた変換係数(1/Kb)を出力する。乗算器71は、転舵トルクTmを変換係数(1/Kb)で変換して舵角補正値Δθを演算する。
これにより、車速Vhに応じて変化する路面反力を舵角補正値Δθに反映できる。
【0060】
(6)転舵角指令値演算部30は、少なくとも第2舵角θhに基づいて操舵機構に付与する目標反力Thrを演算し、舵角補正値Δθに応じて目標反力Thrを補正する。反力モータ21は、舵角補正値Δθに応じて補正された目標反力Thrに応じて、操舵機構に反力トルクを付与する。
これにより、端当て衝撃緩和制御の際に反力トルクが増加させて、第2舵角θhの増加を抑制できる。また、ラック5bがストローク端に近づいていることを運転者に知らせることにより、第2舵角θhの増加を抑制できる。この結果、目標舵角θsr0が最大舵角方向に増加するのを抑制し、ラック5bの仮想的なストローク端を効果的に生成できる。
【0061】
(第1変形例)
制御角演算部31は、操舵機構の第2舵角θhに基づいて制御角θrを演算してもよい。以下に説明する第2実施形態及び第3実施形態でも同様である。この場合に制御角演算部31は、第1舵角θsの最大舵角に対応する操舵機構の第2舵角θhを、第2舵角θhが取り得る最大舵角として設定する。この最大舵角から第1閾値舵角までの角度範囲内に第2舵角θhがある場合に、制御角演算部31は、第1閾値舵角を基準とする第2舵角θhの舵角変位を制御角θrとして演算してもよい。
【0062】
(第2変形例)
制御角演算部31は、第1舵角θsが所定の第2閾値舵角を超えた場合に、第1閾値舵角θtR1又はθtL1を変更してもよい。これにより、端当て衝撃緩和制御を開始する第1閾値舵角θtR1又はθtL1を最適化できる。物理的ラックエンドまでの舵角値には製造バラツキや車両搭載時のバラツキが含まれる。「ラックエンド」とは、ラック5bがストローク端に至った状態を意味する。第1閾値舵角θtR1又はθtL1が物理的ラックエンドから中立方向へ過度に設定されていると、過度な反力を生成しドライバの操作を阻害することになる。これにより最小旋回半径が小さくなる恐れがある。第1舵角θsが所定の第2閾値舵角を超えた場合に、第1閾値舵角θtR1又はθtL1を変更することにより、過度な反力発生を防止し、最小旋回半径への影響を低減することが可能となる。以下に説明する第2実施形態及び第3実施形態でも同様である。
図9を参照する。正値の第2閾値舵角θtR2は正値の第1閾値舵角θtR1よりも大きな値に設定し、負値の第2閾値舵角θtL2は負値の第1閾値舵角θtL1よりも小さな値に設定する。すなわち第2閾値舵角の絶対値|θtR2|及び|θtL2|は、第1閾値舵角の絶対値|θtR1|及び|θtL1|よりもそれぞれ大きい。
【0063】
制御角演算部31は、第1舵角θsが正値の第2閾値舵角θtR2よりも大きくなった場合(すなわち絶対値|θs|が絶対値|θtR2|より大きくなった場合)に、例えば第1舵角θsと第2閾値舵角θtR2の差分(θs−θtR2)に応じて正値の第1閾値舵角θtR1を変更する。例えば制御角演算部31は、差分(θs−θtR2)と第1閾値舵角θtR1との和を新たな第1閾値舵角θtR1として設定してもよい。また例えば制御角演算部31は、差分(θs−θtR2)が所定値を超えた場合に第1閾値舵角θtR1を変更してよい。
【0064】
制御角演算部31は、第1舵角θsが負値の第2閾値舵角θtL2よりも小さくなった場合(すなわち絶対値|θs|が絶対値|θtL2|より大きくなった場合)に、例えば第1舵角θsと第2閾値舵角θtL2の差分(θs−θtL2)に応じて負値の第1閾値舵角θtL1を変更する。例えば制御角演算部31は、差分(θs−θtL2)と第1閾値舵角θtL1との和を新たな第1閾値舵角θtL1として設定してもよい。また例えば制御角演算部31は、差分(θtR2−θs)が所定値を超えた場合に第1閾値舵角θtL1を変更してよい。
【0065】
(第3変形例)
図5を参照して説明した端当て衝撃緩和制御部32は、第1舵角θsの角速度ωと粘性係数μの積である粘性トルク成分(μ・ω)を、転舵機構を中立位置に戻す方向に作用させている。
このような粘性トルク成分と角速度ωとの間には、粘性トルク成分が大きくなると角速度ωが低下し、角速度ωが低下すると粘性トルク成分が小さくなり、粘性トルク成分が小さくなると角速度ωが増加して、再び粘性トルク成分が増加するという相互作用がある。この相互作用によって角速度ωが増減を繰り返し、これに伴う粘性トルク成分の増減の反復により振動が発生する虞がある。
【0066】
そこで第3変形例の端当て衝撃緩和制御部32は、角速度ωに比例する粘性トルク成分(μ・ω)に代えて、角速度ωの増加に対して非線形に増加する粘性トルク成分Tvを設定する。以下に説明する第2実施形態及び第3実施形態でも同様である。
このような粘性トルク成分Tvは、角速度ωに対して非線形に変化するため、角速度ωの任意の速度範囲において角速度ωに対する粘性トルク成分Tvの変化率(dTv/dω)を低減できる。
【0067】
角速度ωに対する粘性トルク成分Tvの変化率を低減すると、角速度ωが増減しても粘性トルク成分Tvが増減しにくくなるため、粘性トルク成分Tvと角速度ωとの間の相互作用が小さくなる。この結果、角速度ωと粘性トルク成分Tvの増減の反復により生じる上記の振動が低減される。
上記の振動の大きさが問題となる角速度ωの速度範囲において、角速度ωに対する粘性トルク成分Tvの変化率を低減することにより、この速度範囲における上記振動を低減することができる。
以下、粘性トルク成分の増減の反復により操舵系に生じる上記振動を、単に「抑制対象振動」と表記する。
【0068】
図10は、第3変形例の端当て衝撃緩和制御部32の機能構成の一例を示すブロック図である。第3変形例の端当て衝撃緩和制御部32は、弾性トルク成分設定部200と、粘性トルク成分設定部201と、舵角ゲイン設定部202と、乗算器203を備える。
弾性トルク成分設定部200は、制御角θrに基づいて転舵トルクTmの弾性トルク成分Teを設定して、加算器69に出力する。
【0069】
図10に示すように制御角θrが「0」の場合に弾性トルク成分Teの値は「0」に設定される。制御角θrが「0」よりも大きな範囲では、制御角θrの増加に対して弾性トルク成分Teは単調増加する。
制御角θrが負値となる範囲では、制御角θrが正値となる範囲の特性と原点対称となる特性を有する。すなわち、制御角θrが「0」よりも小さな範囲では、制御角θrの減少に対して弾性トルク成分Teは単調減少する。すなわち弾性トルク成分Teの絶対値は単調増加する。
制御角θrと弾性トルク成分Teとの関係は、例えばマップデータや演算式として予め弾性トルク成分設定部200に設定しておくことができる。
また、制御角θrが「0」近傍において弾性トルク成分Teが「0」となるように設定してもよい。
【0070】
粘性トルク成分設定部201は、角速度ωに基づいて、角速度ωの増加に対して非線形に増加する粘性トルク成分Tvを設定する。
図11は、角速度ωに対する粘性トルク成分Tvの特性の一例の説明図である。
速度範囲(−ωa)〜ωaでは、角速度ωが低いために端当て時の衝撃に問題がない(例えば、異音が小さい、転舵機構へのダメージがない)。このような速度範囲(−ωa)〜ωaでは、粘性トルク成分Tvの値は「0」に設定される。これにより、端当て時の衝撃に問題がない速度範囲では粘性トルク成分Tvを発生させず、操舵フィーリングへの影響を抑制できる。
【0071】
角速度ωaより高い速度範囲(角速度ωの値がωaより大きい範囲)では、粘性トルク成分Tvは、角速度ωの増加に対して非線形に単調増加する。
また、角速度(−ωa)より高い速度範囲(角速度ωの値が負値の(−ωa)より小さい範囲、すなわち絶対値|ω|が絶対値|−ωa|より大きい範囲)では、粘性トルク成分Tvは、角速度ωの減少に対して非線形に単調減少する。すなわち、角速度(−ωa)より高い速度範囲でも、角速度ωの減少に対して粘性トルク成分Tvの絶対値は増加する。
速度範囲ωa〜ωbでは、角速度ωが高いほどより大きな正値の粘性トルク成分Tvが設定される。また、負の範囲の速度範囲(−ωa)〜(−ωb)では、角速度ωが高いほどより小さな負値の粘性トルク成分Tvが設定される。すなわち、角速度ωが高いほど絶対値の大きな粘性トルク成分Tvが発生するので、高い角速度ωで端当てが起きるのを抑制できる。
【0072】
角速度ωb、(−ωb)よりも高い速度範囲ωb〜ωcと(−ωb)〜(−ωc)では、抑制対象振動が大きくなってその大きさが問題となる。
このため、これらの速度範囲ωb〜ωc及び(−ωb)〜(−ωc)では、それ以外の速度範囲(すなわち、速度範囲ωa〜ωb及び速度範囲(−ωa)〜(−ωb)と、角速度ωcより高い範囲と、角速度(−ωc)より高い範囲)に比べて、角速度ωに対する粘性トルク成分Tv(dTv/dω)を低減する。
これにより、角速度ωが増減しても粘性トルク成分Tvが増減しにくくなるため、粘性トルク成分Tvと角速度ωとの間の相互作用が小さくなる。この結果、これらの速度範囲ωb〜ωc及び速度範囲(−ωb)〜(−ωc)における抑制対象振動を低減できる。
【0073】
角速度ωc、(−ωc)より高い速度範囲では、ラック5bが物理的ラックエンドに早く到達するので、抑制対象振動が発生する時間を無視できる。また、角速度ωが高い場合には、粘性トルク成分Tvをより大きくして端当て時の衝撃を抑制することが好ましい。
したがって、角速度ωcより高い速度範囲では、角速度ωが高いほどより大きな正値の粘性トルク成分Tvが設定される。
また、速度(−ωc)より高い速度範囲では、角速度ωが高いほどより小さな負値の粘性トルク成分Tvが設定される。すなわち、角速度ωが高いほど絶対値の大きな粘性トルク成分Tvが発生するので高い角速度ωでの端当てを防止できる。
角速度ωと粘性トルク成分Tvとの関係は、例えばマップデータや演算式として予め粘性トルク成分設定部201に設定しておくことができる。
【0074】
舵角ゲイン設定部202は、制御角θrに応じた舵角ゲインGsを設定する。
図10に示すように制御角θrが「0」の場合に舵角ゲインGsの値は「0」に設定される。制御角θrが正値の範囲では、制御角θrの増加に対して舵角ゲインGsは単調増加し、制御角θrが負値の範囲では、制御角θrの減少に対して舵角ゲインGsは単調増加する。
制御角θrと舵角ゲインGsとの関係は、例えばマップデータや演算式として予め舵角ゲイン設定部202に設定しておくことができる。
【0075】
乗算器203は、舵角ゲインGsと粘性トルク成分Tvの積(Gs・Tv)を演算して加算器69に出力する。
加算器69は、弾性トルク成分Teと、積(Gs・Tv)と、慣性トルク成分(ΔJ・α)を合計して、上式(3)の転舵トルクTmを演算する。
積(Gs・Tv)は、特許請求の範囲に記載の「前記第1舵角の角速度と前記舵角変位とに応じた粘性トルク」の一例である。
【0076】
(第4変形例)
弾性トルク成分設定部200と舵角ゲイン設定部202は、制御角θrに代えて、第1舵角θsに基づいて弾性トルク成分Teと舵角ゲインGsを設定してもよい。この場合には、制御角演算部31を省略してよい。以下に説明する第2実施形態及び第3実施形態でも同様である。
このため、第4変形例の弾性トルク成分設定部200は、制御角θrと弾性トルク成分Teとの関係に代えて、第1舵角θsと弾性トルク成分Teとの関係を、例えばマップデータや演算式として記憶する。
【0077】
図12に示すように第1舵角θsが第1閾値舵角θtR1以下である場合に弾性トルク成分Teの値は「0」に設定される。
第1舵角θsが第1閾値舵角θtR1から正の最大舵角までの範囲にある場合に、第1舵角θsの増加に対して正値の弾性トルク成分Teは単調増加する。
また、第1舵角θsが第1閾値舵角θtL1以上である場合に弾性トルク成分Teの値は「0」に設定される。第1舵角θsが第1閾値舵角θtL1から負の最大舵角までの範囲にある場合に、負値の第1舵角θsが減少するのに対して負値の弾性トルク成分Teは単調減少する(すなわち弾性トルク成分Teの絶対値は増大する)。
第1舵角θsが第1閾値舵角θtL1から第1閾値舵角θtR1までの範囲にある場合には、弾性トルク成分Teの値は「0」に設定される。
また、第1閾値舵角θtL1から正の最大舵角との間に別の第3の閾値舵角及び第1閾値舵角θtR1から負の最大舵角との間に第4の閾値舵角を設け、第1舵角θsが第3閾値舵角から第4閾値舵角までの範囲にある場合には、弾性トルク成分Teの値を「0」に設定するようにしてもよい。第1舵角θsがそれ以外の領域にある場合には、第1舵角θsの大きさに対して単調増加あるいは単調減少するようにしてもよい。
【0078】
また、第4変形例の舵角ゲイン設定部202は、制御角θrと舵角ゲインGsとの関係に代えて、第1舵角θsと舵角ゲインGsとの関係を、例えばマップデータや演算式として記憶する。
図12に示すように第1舵角θsが第1閾値舵角θtR1以下である場合に舵角ゲインGsの値は「0」に設定される。
第1舵角θsが第1閾値舵角θtR1から正の最大舵角までの範囲にある場合に、第1舵角θsの増加に対して正値の舵角ゲインGsは単調増加する。
【0079】
また、第1舵角θsが第1閾値舵角θtL1以上である場合に舵角ゲインGsの値は「0」に設定される。第1舵角θsが第1閾値舵角θtL1から負の最大舵角までの範囲にある場合に、負値の第1舵角θsが減少するのに対して正値の舵角ゲインGsは単調増加する)。
第1舵角θsが第1閾値舵角θtL1から第1閾値舵角θtR1までの範囲にある場合には、舵角ゲインGsの値は「0」に設定される。
【0080】
(第2実施形態)
第2実施形態の転舵制御装置は、第1舵角θsの角速度ωの目標角速度ωr0を設定して、角速度ωが目標角速度ωr0に近づくように角速度制御を行うとともに、上記と同様の端当て衝撃緩和制御を行う。
端当て衝撃緩和制御において転舵機構を中立位置へ戻す方向に作用させる転舵トルクTmは、上式(3)のように弾性トルク成分(K0・θr)と粘性トルク成分(μ・ω)とを含んでいる。
【0081】
弾性トルク(K0・θr)は、制御角θrに定数K0を乗じて得られる成分であり角度と同じ単位の物理量であると解釈することもできる。
一方で、粘性トルク(μ・ω)は、角速度ωに係数μを乗じて得られる成分であり角速度と同じ単位の物理量であると解釈することもできる。
【0082】
そこで、弾性トルク(K0・θr)を応じた舵角補正値Δθで第1舵角θsの目標舵角θsr0を補正し、粘性トルク(μ・ω)に応じた角速度補正値Δωで目標角速度ωr0を補正する。
このように、補正対象(すなわち目標舵角と目標角速度)と補正量(すなわち弾性トルクと粘性トルク)の単位を揃えることで、補正に用いる弾性トルクと粘性トルクの取り扱いが容易になる。
【0083】
以下、第2実施形態について詳しく説明する。第2実施形態の転舵装置は第1実施形態の転舵装置と類似する構成を有しており、同一の構成要素には同じ参照符号を付して重複説明を省略する。
図13は、第2実施形態の制御系の一例を示すブロック線図である。
図13において参照符号Gは減速ギア23のギア比を示し、参照符号Ktは転舵モータ22のトルク定数を示す。
【0084】
第2実施形態の端当て衝撃緩和制御部32は、端当て衝撃緩和において目標舵角θsr0を補正するための舵角補正値Δθと、目標角速度ωr0を補正するための角速度補正値Δωを演算する。第2実施形態の端当て衝撃緩和制御部32の詳細は後述する。
転舵角制御部34は、減算器80及び82と、目標角速度演算部81と、微分器83と、角速度制御部85を備える。
【0085】
目標角速度演算部81は、減算器80から出力される補正目標舵角θsr1と実際の第1舵角θsとの偏差に定数Kpを乗じて目標角速度ωr0を演算する。
減算器82は、目標角速度演算部81が演算した目標角速度ωr0から角速度補正値Δωを減じることにより目標角速度ωr0を補正して、補正目標角速度ωr1を得る。
微分器83は、第1舵角θsを微分して角速度ωを算出する。微分器83を、端当て衝撃緩和制御部32の微分器62として兼用してもよい。
【0086】
角速度制御部85は、角速度ωが補正目標角速度ωr1に近づくように、転舵モータ22の電流指令値Isrを生成する。角速度制御部85は、減算器86及び90と、ゲイン乗算部87及び89と、積分器88を備える。
ゲイン乗算部87は、減算器86から出力される角速度ωと補正目標角速度ωr1との偏差(ωr1−ω)に定数Kiを乗算する。積分器88はゲイン乗算部87の出力を積分する。
【0087】
ゲイン乗算部89は、角速度ωに定数Kvを乗算する。減算器90は、積分器88の出力からゲイン乗算部89の出力を減算した差を電流指令値Isrとして算出する。
角速度制御部85の他の構成例を
図14に示す。この構成例では、ゲイン乗算部89は、角速度ωと補正目標角速度ωr1との偏差(ωr1−ω)に定数Kvを乗算する。加算器91は、積分器88の出力とゲイン乗算部89の出力との和を電流指令値Isrとして算出する。
【0088】
次に、粘性トルク(μ・ω)を角速度補正値Δωへ変換する変換係数の算出方法について説明する。
図13を参照する。いま、転舵機構とタイヤと路面反力の特性を1/(Js
2+Dms+Kb)とする。ここで、路面反力の特性を除いた場合、転舵機構への入力uから第1舵角θsの角速度ωまでの特性は次式(5)で与えられる。
【0090】
入力uをステップ入力として考えると、角速度ωの最終値ω1は次式(6)のように得られる。
【0092】
一方、
図13の角速度制御部85への入力xから角速度ωまでの特性は次式(7)で与えられる。
【0094】
入力xをステップ入力として考えると、角速度ωの最終値ω2は次式(8)のように得られる。
【0096】
図14の角速度制御部85の場合には、入力xから角速度ωまでの特性は次式(9)で与えられる。
【0098】
入力xをステップ入力として考えると、角速度ωの最終値ω2は次式(10)のように得られ、上式(8)と同じ結果となる。
【0100】
ここで、ω1=ω2とすると、角速度制御部85への入力xと転舵機構への入力uの関係は次式(11)により与えられる。
【0102】
したがって、端当て衝撃緩和制御において粘性トルク成分(μ・ω)を転舵機構へ入力するには、変換係数(Kb+Ki・G・Kt)/(Dm・Ki・G・Kt)を粘性トルク成分(μ・ω)に乗じた積を角速度補正値Δωとして算出し、角速度補正値Δωで目標角速度ωr0を補正すればよい。
なお、ばね定数Kbに対してKi・G・Ktが十分大きい場合には、ばね定数Kbを無視して変換係数を(1/Dm)としてもよい。または(Kb+Ki・G・Kt)/(Dm・Ki・G・Kt)と(1/Dm)の平均値や中間値を変換係数としてもよい。
【0103】
また、ばね定数Kbは車速Vhに応じて変化するため、変換係数を車速に応じて変更してもよい。
さらに、切り戻し操舵の場合と切り増し操舵の場合とで、変換係数を切り替えてもよい。例えば切り戻し操舵ではばね定数Kbを考慮した変換係数(Kb+Ki・G・Kt)/(Dm・Ki・G・Kt)を用い、切り増し操舵では変換係数(1/Dm)を用いてもよい。
切り戻し操舵では、操舵力を加える向きと操舵方向とが異なるため、実ばね力Kb・θによる戻し力によって操舵しにくくなる。このため、切り戻し操舵では、操舵方向と反対の方向に目標舵角を補正してもよい。
【0104】
一方で、
図13の転舵角制御部34への入力yから第1舵角θsまでの特性は、次式(12)により与えられる。
【0106】
図14の転舵角制御部34の場合には、入力yから第1舵角θsまでの特性は、次式(13)により与えられる。式(13)ではG・KtをGKに置き換えている。
【0108】
入力yをステップ入力とすると、第1舵角θsの最終値θ1はθ1=yとなる。
一方で、転舵機構とタイヤと路面反力の物理モデルへ入力uを入力したときの第1舵角θsの最終値θ2は、次式(14)で得られる。
【0110】
ここで、θ1=θ2とすると、転舵角制御部34への入力yと転舵機構への入力uの関係はy=u/Kbとなる。
したがって、端当て衝撃緩和制御において弾性トルク成分(K0・θr)を転舵機構へ入力するには、変換係数1/Kbを弾性トルク成分(K0・θr)に乗じた積を舵角補正値Δθとして算出し、舵角補正値Δθで目標舵角θsr0を補正すればよい。第1実施形態と同様に慣性トルク成分(ΔJ・α)を弾性トルク成分(K0・θr)に加えて転舵機構へ入力してもよい。
【0111】
以下、
図15を参照して第2実施形態の端当て衝撃緩和制御部32の構成を説明する。第2実施形態の端当て衝撃緩和制御部32は、第1実施形態の端当て衝撃緩和制御部32と同様の構成を備えており、同一の構成要素には同じ参照符号を付して重複説明を省略する。
第2実施形態の端当て衝撃緩和制御部32は、変換係数テーブル72と乗算器73を更に備える。
【0112】
変換係数テーブル72は、乗算器64から出力される粘性トルク成分(μ・ω)を角速度補正値Δωへ変換する変換係数(Kb+Ki・G・Kt)/(Dm・Ki・G・Kt)を出力する。上述の通り、ばね定数Kbは車速Vhにより変化するので、変換係数テーブル72は、車速Vhに応じて変化する変換係数(Kb+Ki・G・Kt)/(Dm・Ki・G・Kt)を出力してよい。
【0113】
変換係数テーブル72は、ばね定数Kbに対してKi・G・Ktが十分大きい場合には、ばね定数Kbを無視して変換係数を(1/Dm)としてもよい。または、(Kb+Ki・G・Kt)/(Dm・Ki・G・Kt)と(1/Dm)の平均値や中間値を変換係数としてもよい。
さらに変換係数テーブル72は、切り戻し操舵の場合と切り増し操舵の場合とで、変換係数を切り替えてもよい。例えば切り戻し操舵ではばね定数Kbを考慮した変換係数(Kb+Ki・G・Kt)/(Dm・Ki・G・Kt)を出力し、切り増し操舵では変換係数(1/Dm)を出力してもよい。
【0114】
乗算器73は、変換係数テーブル72から出力される変換係数(Kb+Ki・G・Kt)/(Dm・Ki・G・Kt)を粘性トルク成分(μ・ω)に乗じることにより、粘性トルク成分(μ・ω)を角速度補正値Δωへ変換する。
一方で、加算器69は、上式(3)の転舵トルクTmから粘性トルク成分(μ・ω)を除いた、弾性トルク成分(K0・θr)と慣性トルク成分(ΔJ・α)の和を演算する。
【0115】
乗算器71は、変換係数テーブル70から出力される変換係数1/Kbを、弾性トルク成分と慣性トルク成分の和(K0・θr+ΔJ・α)に乗じて、弾性トルク成分と慣性トルク成分の和を舵角補正値Δθへ変換する。
なお、慣性トルク成分(ΔJ・α)は必ずしも必須ではなく、符号判定部65、微分器66、慣性係数テーブル67及び乗算器68を省略してもよい。
【0116】
微分器62、粘性係数テーブル63、乗算器64、変換係数テーブル72及び乗算器73は、特許請求の範囲に記載の角速度補正値演算部の一例である。減算器82は、特許請求の範囲に記載の補正目標角速度演算部の一例である。微分器62、粘性係数テーブル63及び乗算器64は、特許請求の範囲に記載の粘性トルク演算部の一例である。変換係数テーブル72及び乗算器73は、特許請求の範囲に記載の第2変換部の一例である。
【0117】
(動作)
次に、
図16を参照して第2実施形態の転舵制御方法を説明する。
ステップS11〜S16の処理は、
図8を参照して説明したステップS1〜S6の処理と同様である。
ステップS17において目標角速度演算部81は、補正目標舵角θsr1と実際の第1舵角θsとの偏差に定数Kpを乗じて目標角速度ωr0を演算する。
【0118】
ステップS18において微分器62、粘性係数テーブル63、乗算器64、変換係数テーブル72及び乗算器73は、制御角θrと、第1舵角θsの角速度ωとに基づいて角速度補正値Δωを演算する。
ステップS19において減算器82は、角速度補正値Δωで目標角速度ωr0を補正して、補正目標角速度ωr1を演算する。
【0119】
ステップS20において転舵角制御部34は、第1舵角θsが補正目標舵角θsr1となるように転舵モータ22を制御する。このとき転舵角制御部34の角速度制御部85は、第1舵角θsの角速度ωが補正目標角速度ωr1となるように転舵モータ22を制御する。その後に処理は終了する。
【0120】
(第2実施形態の効果)
(1)微分器62、粘性係数テーブル63、乗算器64、変換係数テーブル72及び乗算器73は、第1舵角θsの角速度ωと制御角θrとに基づいて角速度補正値Δωを演算する。
転舵角制御部34は、補正目標舵角θsr1と第1舵角θsとの差分に基づいて目標角速度ωr0を演算する目標角速度演算部81と、角速度補正値Δωで目標角速度ωr0を補正して補正目標角速度ωr1を演算する減算器82と、角速度ωが補正目標角速度ωr1となるように転舵モータ22を制御する角速度制御部85を備える。
【0121】
これにより、第1舵角θsを目標舵角に近づける転舵角制御と角速度ωを目標角速度に近づける角速度制御とを行う転舵制御装置において、第1舵角θsに応じて目標舵角を補正し、角速度ωに応じて目標角速度を補正することが可能となる。このように、補正対象(すなわち目標舵角と目標角速度)と補正量(すなわち舵角補正値Δθと角速度補正値Δω)の単位を揃えることで、補正に用いる舵角補正値Δθと角速度補正値Δωの取り扱いが容易になる。
【0122】
(2)微分器62、粘性係数テーブル63及び乗算器64は、転舵機構に作用させる粘性トルク成分(μ・ω)を制御角θrと角速度ωとに応じて演算する。変換係数テーブル72及び乗算器73は、粘性トルク成分(μ・ω)を角速度補正値Δωに変換する。
これにより、粘性トルク成分(μ・ω)に基づいて、角速度ωに応じた角速度補正値Δωを演算できる。
【0123】
(変形例)
粘性トルク成分(μ・ω)に代えて、第1実施形態の第3変形例及び第4変形例と同様に舵角ゲインGsと粘性トルク成分Tvを設定し、舵角ゲインGsと粘性トルク成分Tvの積(Gs・Tv)を、角速度補正値Δωに変換してもよい。
例えば、変形例の端当て衝撃緩和制御部32は、
図15のばね定数テーブル60、乗算器61及び64、粘性係数テーブル63に代えて、
図10又は
図12を参照して説明した弾性トルク成分設定部200と、粘性トルク成分設定部201と、舵角ゲイン設定部202と、乗算器203を備えてもよい。
【0124】
加算器69は、弾性トルク成分設定部200が設定した弾性トルク成分Teと慣性トルク成分(ΔJ・α)の和を演算する。
乗算器71は、変換係数テーブル70から出力される変換係数1/Kbを、弾性トルク成分と慣性トルク成分の和(Te+ΔJ・α)に乗じて、弾性トルク成分と慣性トルク成分の和を舵角補正値Δθへ変換する。
乗算器73は、変換係数テーブル72から出力される変換係数(Kb+Ki・G・Kt)/(Dm・Ki・G・Kt)を、舵角ゲインGsと粘性トルク成分Tvの積(Gs・Tv)に乗じることにより、積(Gs・Tv)を角速度補正値Δωへ変換する。
【0125】
(第3実施形態)
上記の端当て衝撃緩和制御では、ラック5bがストローク端に近づいて制御角θrが大きくなるほど、より大きな舵角補正値Δθが出力される。
舵角補正値Δθが大きくなり補正目標舵角θsr1が小さくなると、第1舵角θsを最大舵角まで増加させにくくなるため、車両の最小旋回半径が大きくなるおそれがある。
【0126】
一方で、ラック5bがストローク端付近に近づいても運転者が大きな操舵トルクを操舵機構に付与している場合には、運転者が最小旋回半径で車両を旋回させようとしていると推測できる。
また、転舵機構の転舵速度(すなわち第1舵角θsの角速度ω)が十分低ければ、端当てに伴う衝撃や打音(異音)により運転者が感じる不快感を軽減又は回避できる。
【0127】
第3実施形態では、運転者が加える操舵トルクを反力トルクThとして検出し、反力トルクThに応じて制御角θrを補正して舵角補正値Δθを低減する。このとき、舵角補正値Δθの低減量が過大となって転舵機構の転舵速度が速くなりすぎないように、制御角θrの補正量を制限する。
【0128】
図17を参照する。第3実施形態のSBW−ECU25の機能構成は、第1実施形態のSBW−ECU25の機能構成と類似の類似する構成を有しており、同一の構成要素には同じ参照符号を付して重複説明を省略する。
第3実施形態のSBW−ECU25は、微分器43と制御角補正部44を備える。微分器43は、第1舵角θsを微分して角速度ωを算出する。微分器43を、端当て衝撃緩和制御部32の微分器62として兼用してもよい。
【0129】
制御角補正部44は、トルクセンサ10が検出した反力トルクThと角速度ωに基づいて、制御角演算部31が演算した制御角θrを補正して補正制御角θr1を求める。制御角補正部44の詳細は後述する。
端当て衝撃緩和制御部32は、制御角θrの代わりに補正制御角θr1を使用して、補正制御角θr1と第1舵角θsの角速度ωに基づいて舵角補正値Δθを演算する。
微分器43と制御角補正部44を、第2実施形態の構成に加えてもよい。この場合に端当て衝撃緩和制御部32は、制御角θrの代わりに補正制御角θr1を使用して、補正制御角θr1と第1舵角θsの角速度ωに基づいて舵角補正値Δθと角速度補正値Δωを演算する。
【0130】
以下、制御角補正部44の詳細を述べる。運転者が付与する操舵トルクが大きくなると、トルクセンサ10が検出した反力トルクThが大きくなる。制御角補正部44は、反力トルクThが大きくなるほど増加する補正用舵角θtを演算し、制御角θrから補正用舵角θtを減じた差を補正制御角θr1として演算する。
【0131】
これにより、運転者が付与する操舵トルクが増加するほど補正制御角θr1が小さくなるので、舵角補正値Δθが低減される。その結果、端当て衝撃緩和制御による目標舵角θsr0の補正量が低減される。
一方で、端当て衝撃緩和制御による補正量が低減して第1舵角θsの角速度ωが増加すると、端当てに伴う衝撃や打音(異音)が大きくなり、運転者が不快に感じるおそれがある。そこで、制御角補正部44は、リミッタやレートリミッタにより補正用舵角θtの増加を制限する。
【0132】
図18を参照する。制御角補正部44は、符号判定部100と、第1補正用舵角演算部101と、第2補正用舵角演算部102と、加算器103と、減算器104を備える。
符号判定部100は、制御角θrの正負符号を判定して、制御角θrの符号SNを出力する。
第1補正用舵角演算部101は、符号SNと、反力トルクThと、第1舵角θsの角速度ωに基づいて、フィードバック制御による第1補正用舵角θa3を演算する。一方で、第2補正用舵角演算部102は、符号SNと、反力トルクThに基づいて、フィードフォワード制御による第2補正用舵角θb4を演算する。
【0133】
加算器103は、第1補正用舵角θa3と第2補正用舵角θb4の和(θa3+θb4)を補正用舵角θtとして算出する。
減算器104は、制御角θrから補正用舵角θtを減じた差を補正制御角θr1として演算する。
【0134】
第1補正用舵角演算部101は、乗算器110及び112と、目標角速度演算部111と、減算器113と、制御部114と、レートリミッタ115と、リミッタ116を備える。
乗算器110は、反力トルクThに符号SNを乗じて正規化反力トルク(Th×SN)を算出する。正規化反力トルク(Th×SN)の符号は、切り増し操舵の際に正となり、切り戻し操舵の際に負となる。
【0135】
目標角速度演算部111は、正規化反力トルク(Th×SN)に応じて第1舵角θsの正規化目標角速度ωra1を演算する。正規化目標角速度ωra1の特性を
図19の(a)に示す。正規化目標角速度ωra1は、正規化反力トルク(Th×SN)が大きくなるほど増加するように設定される。正規化反力トルク(Th×SN)が大きい場合には、つまりラックエンド付近での操舵の場合には、ドライバが通常操舵するときの操舵速度(角速度)に漸近するように正規化目標角速度ωra1を設定して良い。また、反力トルクThが略0の場合、すなわち操舵トルクが付与されていない場合(例えば運転者が操向ハンドル1から手を離している場合)には、路面反力により操向ハンドル1が中立方向に戻るため、正規化目標角速度ωra1は負の値になる。
【0136】
乗算器112は、正規化目標角速度ωra1に符号SNを乗じて実際の符号を有する目標角速度ωra2を算出する。減算器113は、角速度ωと目標角速度ωra2の偏差ωra3を算出する。
制御部114は、偏差ωra3に対するP(比例)制御、I(積分)制御及びD(微分)制御の少なくとも一つによって補正用舵角θa1を演算する。
レートリミッタ115は、補正用舵角θa1の時間変化率を制限する。レートリミッタ115は、補正用舵角θa1の時間変化率を制限して得られた補正用舵角θa2を出力する。
【0137】
リミッタ116は、補正用舵角θa2を制限値で制限する。リミッタ116は、補正用舵角θa2を制限して得られた第1補正用舵角θa3を出力する。
例えば、正値の補正用舵角θa2を制限する制限値を正の値とし、正値の補正用舵角θa2が大きくなるほど徐々に増加するように設定してよい。また、負値の補正用舵角θa2を制限する制限値を負の値とし、負値の補正用舵角θa2が小さくなるほど(すなわち補正用舵角θa2の絶対値が小さくなるほど)徐々に減少するように(すなわち制限値の絶対値が増加するように)設定してよい。
【0138】
第2補正用舵角演算部102は、乗算器120及び122と、補正用舵角演算部121と、レートリミッタ123と、リミッタ124を備える。
乗算器120は、反力トルクThに符号SNを乗じて正規化反力トルク(Th×SN)を算出する。
補正用舵角演算部121は、正規化反力トルク(Th×SN)に応じて正規化補正用舵角θb1を演算する。
【0139】
乗算器122は、正規化補正用舵角θb1に符号SNを乗じて実際の符号を有する補正用舵角θb2を算出する。
正規化補正用舵角θb1の特性を
図19の(b)に示す。正規化補正用舵角θb1は、正規化反力トルク(Th×SN)が大きくなるほど増加するように設定される。
また、正規化補正用舵角θb1は常に正値となるように設定される。このため、補正用舵角θb2の正負符号と制御角θrの正負符号は等しくなる。
【0140】
なお、
図19の(a)の正規化目標角速度ωra1の特性と同様に、正規化反力トルク(Th×SN)が比較的小さい領域で負値となるように正規化補正用舵角θb1の特性を設定してもよい。この場合、正規化補正用舵角θb1が負値となる領域において、後段のリミッタ124の出力を0に制限してもよい。
レートリミッタ123は、補正用舵角θb2の時間変化率を制限する。レートリミッタ123は、補正用舵角θb2の時間変化率を制限して得られた補正用舵角θb3を出力する。
【0141】
リミッタ124は、補正用舵角θb3を制限値で制限する。リミッタ124は、補正用舵角θb3を制限して得られた第2補正用舵角b4を出力する。
例えば制御角θr及び補正用舵角θb3が正値である場合、補正用舵角θb3が大きくなるほど徐々に増加する正の制限値を設定してよい。
【0142】
また、制御角θr及び補正用舵角θb3が負値である場合、補正用舵角θb3が小さくなるほど(すなわち補正用舵角θb3の絶対値が小さくなるほど)、徐々に減少する負の制限値を設定してよい(すなわち制限値の絶対値は徐々に増加する)。
制御角補正部44は、特許請求の範囲に記載の舵角変位補正部の一例である。
【0143】
(第3実施形態の効果)
制御角補正部44は、トルクセンサ10が検出した反力トルクThに基づいて、制御角演算部31が演算した制御角θrを補正する。
これにより、運転者が大きな操舵トルクを操舵機構に付与している場合(例えば運転者が最小旋回半径で車両を旋回させようとしている場合)に、端当て衝撃緩和による補正を弱めて最大舵角まで第1舵角θsを増大させることができる。つまり、最小旋回半径が大きくなる影響を抑制することができる。これにより、端当て衝撃緩和と旋回半径への影響を抑制することを高いレベルで実現することができる。
【0144】
(第1変形例)
図20を参照する。リミッタ116の後段にレートリミッタ115を設け、制御部114の後段かつレートリミッタ115の前段にリミッタ116を設けてもよい。同様にリミッタ124の後段にレートリミッタ123を設け、乗算器122の後段かつレートリミッタ123の前段にリミッタ124を設けてもよい。
(第2変形例)
図21を参照する。さらに、リミッタ116の後段かつレートリミッタ115の前段に制御部114を設け、減算器113の後段かつ制御部114の前段にリミッタ116を設けてもよい。
【0145】
(第3変形例)
図22を参照する。第1補正用舵角演算部101のリミッタ116と、第2補正用舵角演算部102のリミッタ124を省略し、加算器103の後段にリミッタ105を設けてもよい。
加算器103は、第1補正用舵角θa3と第2補正用舵角θb4の和(θa3+θb4)を補正用舵角θtaとして算出し、リミッタ105は補正用舵角θtaを制限値で制限する。減算器104は、補正用舵角θtaを制限して得られた補正用舵角θtbを制御角θrから減じた差を補正制御角θr1として演算する。
【0146】
(第4変形例)
ばね定数テーブル60(
図5参照)が、補正制御角θr1に応じたばね定数K0を出力し、粘性係数テーブル63が、第1及び第2実施形態と同様に制御角θrに応じた粘性係数μを出力してもよい。
(第5変形例)
第1補正用舵角演算部101及び第2補正用舵角演算部102のいずれか一方を省略してもよい。
【0147】
(第6変形例)
目標角速度演算部111は、車速Vhと正規化反力トルク(Th×SN)に応じて正規化目標角速度ωra1を演算してもよい。目標角速度演算部111は、例えば
図23の(a)に示すように、車速Vhが高くなるのにしたがって正規化目標角速度ωra1を減少させてよい。
また、補正用舵角演算部121は、車速Vhと正規化反力トルク(Th×SN)に応じて正規化補正用舵角θb1を演算してもよい。補正用舵角演算部121は、例えば
図23の(b)に示すように、車速Vhが高くなるのにしたがって正規化補正用舵角θb1を減少させてもよい。
また、車速Vhが高くなるのにしたがって正規化目標角速度ωra1や正規化補正用舵角θb1を増加させてもよい。
【0148】
(第7変形例)
図24を参照する。第2補正用舵角演算部102に、車速Vhに応じたゲインGを補正用舵角に乗ずるゲイン乗算部125を設けてもよい。例えば、乗算器122の後段かつレートリミッタ123の前段にゲイン乗算部125を設けてよい。また、第1補正用舵角演算部101の制御部114におけるP(比例)制御の比例ゲイン、I(積分)制御の積分ゲイン、又はD(微分)制御の微分ゲインを車速Vhに応じて変化させてもよい。
【0149】
例えば、車速Vhが高くなるのにしたがってこれらのゲインを減少させてもよい。また、車速Vhが高くなるのにしたがってこれらのゲインを増加させてもよい。
また、制御角θrに応じてこれらのゲインを変化させてもよい。例えば、制御角θrが所定閾値未満の範囲では0となり、制御角θrが所定閾値以上の範囲で0より大きくなるようにゲインを設定してもよい。
転舵制御装置は、転舵機構を駆動する第1アクチュエータ(22)と、少なくとも操舵機構の第2舵角θhに基づいて転舵機構の目標舵角θsr0を演算する目標舵角演算部(30)と、転舵機構の第1舵角θs又は第2舵角θhの何れかである第3舵角が、第3舵角の取り得る最大舵角から第1閾値舵角までの角度範囲内にある場合に、第1閾値舵角を基準とする第3舵角の舵角変位θrを演算する舵角変位演算部(31)と、少なくとも舵角変位θrに応じて舵角補正値Δθを演算する舵角補正値演算部(32)と、舵角補正値Δθで目標舵角θsr0を補正する補正目標舵角演算部(33)を備える。