特許第6881873号(P6881873)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881873
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】狭小部のスリップフォーム工法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20210524BHJP
【FI】
   E21D11/10 Z
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-31088(P2020-31088)
(22)【出願日】2020年2月26日
(65)【公開番号】特開2021-14777(P2021-14777A)
(43)【公開日】2021年2月12日
【審査請求日】2020年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208204
【氏名又は名称】大林道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197848
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 良一
(72)【発明者】
【氏名】細見 耕平
(72)【発明者】
【氏名】井上 和哉
【審査官】 柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−049119(JP,A)
【文献】 特開2005−076338(JP,A)
【文献】 特開2005−090077(JP,A)
【文献】 特開平01−187293(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0002736(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
E01C 19/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリップフォームペーバを使用する狭小部のスリップフォーム工法であって、
横断方向に傾斜する前記スリップフォームペーバの走行位置に、走行架台を設置する走行架台設置工程と、
前記スリップフォームペーバの走行装置を前記走行架台の上面に配置する走行装置配置工程と、
前記スリップフォームペーバによってコンクリート版を形成するコンクリート版形成工程と、を少なくとも有する
ことを特徴とする狭小部のスリップフォーム工法。
【請求項2】
前記横断方向に傾斜する前記スリップフォームペーバの走行位置は、トンネル内のインバートであり、前記コンクリート版は、トンネル内の前記インバートの上部に形成される
請求項1に記載の狭小部のスリップフォーム工法。
【請求項3】
前記走行架台は、少なくとも前記インバートにアンカー固定されるとともに上部に水平面を形成する水平台座と、該水平台座に載置されて前記スリップフォームペーバの走行装置が走行する走路形成部材とから成る
請求項2に記載の狭小部のスリップフォーム工法。
【請求項4】
前記水平台座は、前記インバートの横断勾配に応じて角度調整が可能な角度調整支持部材と、該水平台座に載置され前記走路形成部材のずれを防止するズレ止め部材と、を有している
請求項3に記載の狭小部のスリップフォーム工法。
【請求項5】
前記スリップフォームペーバの走行装置は、前記走路形成部材の幅寸法以下の幅狭走行装置に交換可能である
請求項3又は請求項4に記載の狭小部のスリップフォーム工法。
【請求項6】
前記スリップフォームペーバは、モールドを備え、
前記モールドは、前記コンクリート版の角部に対応する位置に面取り部材が設けられている
請求項1乃至請求項5に記載の狭小部のスリップフォーム工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭小部においてスリップフォームペーバによる機械施工が可能な狭小部のスリップフォーム工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トンネル内におけるコンクリート版の施工に際して、スリップフォームペーバによって施工が行われている。しかし、特に鉄道(新幹線)用のトンネルは路側部のスペースが非常に少なく、スリップフォームペーバのクローラの走路を確保することが困難であった。
【0003】
したがって、図7に示される非特許文献1に記載の従来工法では、クローラの走行箇所にあたる部分のコンクリート版を先に人力施工によって施工し、その後、残りのコンクリート版部分をスリップフォームペーバによって機械施工していた。
【0004】
また、非特許文献2に開示された方法は、1回の機械施工によってコンクリート版を構築したものであるが、コンクリート版の施工範囲に多くのコンクリートブロックを設置し、スリップフォームペーバの走行輪を走行さるようにしたものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ケイコン株式会社 森達也、“通過 43 秒の新幹線路盤鉄筋コンクリート”、[online]、日本スリップフォーム工法協会(スリップフォーム第33号第8頁)、[令和1年11月1日検索]、インターネット<URL:http://www.nsfa.jp/pdf/no33_201706.pdf>
【0006】
【非特許文献2】大成ロテック株式会社 高瀬晋一、“急勾配(横断)をSF工法によりワンパス施工”、[online]、日本スリップフォーム工法協会(スリップフォーム第22号第6頁)、[令和1年11月1日検索]、インターネット<URL:http://www.nsfa.jp/pdf/no22_200510.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に開示された従来方法では、人力による施工が発生するほか、人力施工と機械施工との2段階施工が必要となってしまう。したがって、クローラの走行箇所の人力施工による手間や、走行に耐え得る強度を確保するまでの養生期間の確保など、工期の長期化やコストの増加などの問題を抱えていた。
【0008】
また、非特許文献2に開示された従来技術は、コンクリート版を1回の機械施工によって行うものであるが、3脚タイプのスリップフォームペーバを走行させるために、全施工延長分の専用コンクリートブロックを製造する必要があり、さらにそれを人力で設置する大きな手間が発生する。加えて、3脚タイプのスリップフォームペーバは、4脚タイプのスリップフォームペーバに比べて安定性の面で劣るなど、施工性に問題があった。
【0009】
そこで、本願発明は、狭小部においてスリップフォームペーバによる機械施工が可能な狭小部のスリップフォーム工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)スリップフォームペーバを使用する狭小部のスリップフォーム工法であって、横断方向に傾斜する前記スリップフォームペーバの走行位置に、走行架台を設置する走行架台設置工程と、前記スリップフォームペーバの走行装置を前記走行架台の上面に配置する走行装置配置工程と、前記スリップフォームペーバによってコンクリート版を形成するコンクリート版形成工程と、を少なくとも有することを特徴とする狭小部のスリップフォーム工法である。
【0011】
上記(1)の構成によれば、横断方向に傾斜するスリップフォームペーバの走行位置に、走行架台を設置することにより、人力施工することなくコンクリート版の全幅を機械施工することが可能となる。したがって、従来のような分割した施工を行う必要がなく、大幅な工期の短縮とコストの削減を図ることが可能となる。また、縦断方向の打ち継ぎ目が無くなるため、品質の向上も図ることが可能である。
【0012】
(2)前記横断方向に傾斜する前記スリップフォームペーバの走行位置は、トンネル内のインバートであり、前記コンクリート版は、トンネル内の前記インバートの上部に形成される上記(1)に記載の狭小部のスリップフォーム工法である。
【0013】
上記(2)の構成によれば、上記(1)によって得られる効果に加えて、狭小部のスリップフォーム工法をトンネル内のインバート上部に形成するコンクリート版の施工に適用することで、従来成し得なかった大幅な工期の短縮と、コストの低減が可能となる。
【0014】
(3)前記走行架台は、少なくとも前記インバートにアンカー固定されるとともに上部に水平面を形成する水平台座と、該水平台座に載置されて前記スリップフォームペーバの走行装置が走行する走路形成部材とから成る上記(2)に記載の狭小部のスリップフォーム工法である。
【0015】
上記(3)の構成によれば、走行架台を、インバートにアンカー固定される水平台座と、該水平台座に載置される走路形成部材とから構成したので、走行位置に横断方向の傾斜があっても、スリップフォームペーバによる機械施工が可能となる。また、走行架台を水平台座と走路形成部材とに分けているため、それぞれの部材の運搬、取付けが非常に容易となる。
【0016】
(4)前記水平台座は、前記インバートの横断勾配に応じて角度調整が可能な角度調整支持部材と、該水平台座に載置され前記走路形成部材のずれを防止するズレ止め部材と、を有している上記(3)に記載の狭小部のスリップフォーム工法である。
【0017】
上記(4)の構成によれば、水平台座に、インバートの横断勾配に応じた角度調整支持部材と、載置される走路形成部材のズレ止め部材を設けたので、施工現場に応じた安定したスリップフォームペーバによる機械施工が可能となる。
【0018】
(5)前記スリップフォームペーバの走行装置は、前記走路形成部材の幅寸法以下の幅狭走行装置に交換可能である上記(3)又は(4)に記載の狭小部のスリップフォーム工法である。
【0019】
上記(5)の構成によれば、スリップフォームペーバの走行位置に十分なスペースが確保できない場合は幅の狭い走路形成部材を設置せざるをえないが、これに対応してスリップフォームペーバの走行装置を、上記走路形成部材の幅寸法以下の幅の狭い走行装置に交換することにより、コンクリート版の全幅を機械施工することが可能となる。
【0020】
(6)前記スリップフォームペーバは、モールドを備え、前記モールドは、前記コンクリート版の角部に対応する位置に面取り部材が設けられている上記(1)乃至(5)に記載の狭小部のスリップフォーム工法である。
【0021】
上記(6)の構成によれば、覆工コンクリート1側が非常に狭く、従来のような作業員による金ごてを使用した面取り作業を行うスペースの確保が難い場合であっても、本発明のスリップフォーム工法を適用することにより、上記作業員を配置することなく、コンクリート版20の面取りを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の狭小部スリップフォーム工法の概要を示した全体断面図である。
図2】本発明の実施形態における走行架台の設置状態の一例であって、図1のA部の拡大断面図である。
図3】本発明の実施形態における走行架台の設置状態の一例を示した斜視図である。
図4】本発明の実施形態における水平台座の斜視図である。
図5】本発明の実施形態における水平台座の上面図(a)、側面図(b)、後面図(c)である。
図6】本発明の実施形態におけるスリップフォームペーバのモールドの斜視図である。
図7】従来型の狭小部における施工態様を示した全体断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の狭小部のスリップフォーム工法について、実施例に基づいて説明する。
【0024】
図1には、本発明の実施例として、トンネル内の狭小部においてスリップフォームペーバ10を使用したコンクリート版20の施工態様が全体断面図として示されている。図示されるように、コンクリート版20の側方端部周辺には、スリップフォームペーバ10の走行装置11が走行できるようなフラットなスペースが無い。そこで、本実施形態では走行架台30を設置している。
【0025】
より詳細に説明するために、図2には図1のA部の拡大断面図が示されている。本実施形態では、スリップフォームペーバ10の走行位置におけるインバート2の上部に、走行架台30を設置している。
【0026】
上記走行架台30は、水平台座32と、当該水平台座32の上面に載置される走路形成部材31とから構成されている。水平台座32はインバート2の傾斜面に設置されており、インバート2を削孔して設置したインサート326に対して、固定ボルト327によってボルト固定(アンカー固定)されている。
【0027】
そして、上記したようにして設置された水平台座32の上面に、スリップフォームペーバ10の走行装置11が走行することとなる走路形成部材31が載置されている。本実施形態では、走路形成部材31としてフランジ幅200mm、長さ4〜4.5mの汎用のH型鋼を使用しており、フランジ部を走行装置11の走行面としている。
【0028】
また、図2に示されるように、本実施形態のスリップフォームペーバ10のモールド12には、コンクリート版20の角部に対応する位置に面取り部材121が取り付けられており、コンクリート版20の打設と同時に角部の面取りを行うことができる。これにより、覆工コンクリート1側が非常に狭く、従来のような作業員による金ごてを使用した面取り作業を行うスペースの確保が難い場合であっても、本発明のスリップフォーム工法を適用することにより、上記作業員を配置することなく、コンクリート版20の面取りを行うことが可能となる。なお、図6には本実施形態のモールド12の斜視図が示されており、モールド12の両角部に面取り部材121が取り付けられている。
【0029】
続いて、図3には、走行架台30の設置態様が斜視図で示されている。図示されるように、水平台座32はインバート2の傾斜面に所定間隔で設置されている。本実施形態では、長さ4〜4.5mの走路形成部材31の中間位置と、走路形成部材31の両端部の継ぎ目を中心にして水平台座32を設置している。なお、水平台座32の設置間隔は適宜設定することが可能であり、走行するスリップフォームペーバ10の機体重量や、使用する走路形成部材31の長さ寸法に応じて適切な間隔とすることが望ましい。
【0030】
また、図4には水平台座32の斜視図が示され、図5には水平台座32の上面図(a)、側面図(b)及び後面図(c)が示されている。水平台座32は、主に底板321と載置板322とから構成され、底板321にはインバート2にボルト固定するためのボルト固定穴325が設けられている。
【0031】
また、載置板322には、走路形成部材31を載置した後、当該走路形成部材31が載置板322の上面でずれたり、落下したりすることがないように、ズレ止め部材323が設けられている。さらに、底板321と載置板322との間には、水平台座32をインバート2に設置した後、載置板322の上面が略水平となるように、角度調整支持部材324が溶接して設けられている。
【0032】
なお、図5には本実施形態における水平台座32の寸法が記載されているが、これはあくまでも一実施形態を示すものであり、走路形成部材31の形状・寸法や、インバート2の傾斜面の角度(勾配)に応じて適宜変更することが可能である。
【0033】
また、本実施形態の施工手順であるが、事前にスリップフォームペーバ10の走行位置における、インバート2の横断勾配に応じた水平台座32を製作する。同時に、当該水平台座32の設置箇所において、インバート2を削孔してインサート326を設置しておく。
【0034】
続いて、製作した水平台座32を、上記インサート326に固定ボルト327を使用してしっかりと固定する。なお、少なくとも、1日あたりのコンクリート版20の施工延長に対応して、必要な数の水平台座32を設置しておくことが必要である。水平台座32の設置が完了したら、走路形成部材31を水平台座32の載置板322の上面に順次載置する。
【0035】
走路形成部材31の載置が完了したら、その上面にスリップフォームペーバ10の走行装置11を配置して、スリップフォームペーバ10の設置を行う。この後は、公知の方法によってコンクリート版の形成が行われる。
【0036】
(変形例)
本実施形態については上記したとおりであるが、必ずしも上記したような構成に限定されるものではなく、以下のような種々の変更が可能となっている。
【0037】
例えば、上記実施形態ではトンネル内における施工方法を記載したが、必ずしもこのような施工場所に限定されるものではなく、道路や港湾施設など、スリップフォームペーバ10の走行装置11の走行位置に、フラットで、走行に十分なスペースが無い場合は、本発明を有効に適用することが可能であり、機械施工による工期短縮や品質の向上などを図ることが出来る。
【0038】
また、走行架台30を設置するスペースが狭く、走路形成部材31の幅寸法をやむを得ず小さくする場合は、スリップフォームペーバ10の走行装置11を、走路形成部材31の幅寸法以下の幅狭走行装置に交換して走行させることも可能である。
【0039】
以上、本発明の実施形態について図面にもとづいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。また、上記実施例に記載された具体的な材質、寸法形状等は本発明の課題を解決する範囲において、変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 覆工コンクリート
2 インバート
10 スリップフォームペーバ
11 走行装置
12 モールド
20 コンクリート版
30 走行架台
31 走路形成部材
32 水平台座
121 面取り部材
321 底板
322 載置板
323 ズレ止め部材
324 角度調整支持部材
325 ボルト固定穴
326 インサート
327 固定ボルト
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7