(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.実施形態
1−1.沿岸構造物の構成
図1は、本発明の一実施形態に係る沿岸構造物9の概要を示す図である。以下、図において、沿岸構造物9の各構成が配置される空間をxyz右手系座標空間として表す。また、図に示す座標記号のうち、円の中に点を描いた記号は、紙面奥側から手前側に向かう矢印を表す。空間においてx軸に沿う方向をx軸方向という。また、x軸方向のうち、x成分が増加する方向を+x方向といい、x成分が減少する方向を−x方向という。y、z成分についても、上記の定義に沿ってy軸方向、+y方向、−y方向、z軸方向、+z方向、−z方向を定義する。
【0010】
図1に示す通り沿岸構造物9は、海底面8の上に造成され、陸側と沖側とを隔てる透水性基礎マウンド2と、この透水性基礎マウンド2内の、陸側よりも沖側に埋設された板状の止水部材1と、この止水部材1が埋設された透水性基礎マウンド2の上に設置された構造物3とを有する。
図1において、陸側は+y方向であり、沖側は−y方向である。構造物3は、例えばケーソン等である。
【0011】
透水性とは水を透す性質である。
図1に示す透水性基礎マウンド2は、海底面8にいわゆる捨石を積み上げて設けられるマウンドである。これらの捨石同士は互いに支え合いながらも間に空隙を持つため、この透水性基礎マウンド2は透水性を有する。
【0012】
図1に示す止水部材1は、透水性基礎マウンド2の法線に沿って、沖側から陸側に向かう水流の一部を止めるように透水性基礎マウンド2に埋設された部材であれば板状でなくてもよく、例えばシート状であってもよい。ここで「透水性基礎マウンド2の法線」とは、透水性基礎マウンド2の長手方向に沿った線であって、陸と沖とを区画する線である。例えば透水性基礎マウンド2が海岸線に沿って設けられるのであれば、透水性基礎マウンド2の法線とは、その海岸線をいう。
図1で透水性基礎マウンド2の法線は、x軸に沿っている線である。
【0013】
図1のH.W.L(High Water Level)は、朔望平均満潮位であり、海底面8から朔望平均満潮位までの深さはDである。止水部材1の高さはH1であり、透水性基礎マウンド2の高さはH2である。H1はH2以下である。すなわち、H1とH2とは、H1≦H2の関係がある。
【0014】
構造物3の高さはH3であり、y軸方向の幅はWである。透水性基礎マウンド2の高さは朔望平均満潮位を超えない。つまり、H2とDとは、H2<Dの関係がある。構造物3の最も高い部分は朔望平均満潮位を超える。つまり、H2,H3とDとは、(H2+H3)>Dの関係がある。
【0015】
1−2.沿岸構造物の製造工程
図2は、沿岸構造物9の製造工程を説明するための図である。
図2(a)に示す通り、沿岸構造物9の製造工程では、まず海底面8に捨石を積むことで土台20が形成され、この土台20の上の陸側よりも沖側に止水部材1が立てられる。
【0016】
次に
図2(b)に示す通り、土台20の上であって止水部材1の沖側および陸側にそれぞれ捨石を更に積むことで、土台20を含む透水性基礎マウンド2が形成されるとともに、上述した通り土台20の上に立てられた止水部材1はこの透水性基礎マウンド2に埋設される。
【0017】
すなわち、
図2に示す製造工程において、海底面8の上に陸側と沖側とを隔てる透水性基礎マウンド2を造成する第1工程と、造成された透水性基礎マウンド2内の、陸側よりも沖側に、この透水性基礎マウンド2の法線に沿って、沖側から陸側に向かう水流の一部を止めるように板状またはシート状の止水部材1を埋設する第2工程と、は交互にまたは並行して行なわれる。
【0018】
なお、上述した第2工程は第1工程の後に行ってもよい。この場合、第1工程で造成された透水性基礎マウンド2に溝を形成し、この溝に止水部材1を埋設してもよい。また、第1工程において予め木枠等を透水性基礎マウンド2に埋設しておき、この木枠等を除去して形成される溝に止水部材1を埋設してもよい。
【0019】
そして
図2(c)に示す通り、この止水部材1が埋設された透水性基礎マウンド2の上部に構造物3が設置されることで沿岸構造物9が完成する。構造物3を設置する第3工程は、第1工程および第2工程のいずれもが完了した後で行なわれる。
【0020】
1−3.揚圧力の抑制能力
図3は、止水部材1の高さと透水性基礎マウンド2上の構造物3が受ける揚圧力との関係を示すグラフである。
図3に示すグラフは、波高2メートル、周期7秒の波が沖側から陸側に向かって、つまり+y方向に伝播した場合に、透水性基礎マウンド2が受ける上方向、つまり+z方向の揚圧力の時間経過に伴う変化を計算機によってシミュレートした結果を示している。この場合、
図1に示すWは2.4メートル、H3は1.7メートルであり、Dは3.5メートルである。
【0021】
図3の横軸は上述した波が沿岸構造物9に到達してからの経過時間を示しており、単位は「秒(s)」である。
図3の縦軸は、それぞれの瞬間において透水性基礎マウンド2上の構造物3が波から受ける上方向の揚圧力を示しており、単位は「ニュートン(N)」である。
【0022】
止水部材1を全く埋設しない場合、すなわち、止水部材1の高さが0メートルである場合、波の到達時より59秒経過した後、60秒経過する前に揚圧力は1500ニュートンに達する。一方、止水部材1の高さが1.0メートルであると、揚圧力は1000ニュートンを超えない。さらに止水部材1の高さが2.0メートルであると、この高さが1.0メートルである場合に比べて、大部分の揚圧力が下回っている。また止水部材1の高さを2.0メートルとすると、止水部材1を埋設しないときに1500ニュートンの揚圧力を記録した59秒から60秒までの時点で、揚圧力は500ニュートン程度に抑えられる。
【0023】
図4は、
図1に示した止水部材1の透水性基礎マウンド2に対する貫入の長さと揚圧力の低減比率(揚圧力低減比率、という)との関係を計算機によってシミュレートしたグラフである。
図4に示す横軸は止水部材1の透水性基礎マウンド2に対する貫入の長さ(貫入長さ、という)を示し、単位は「メートル」である。
図1の止水部材1は、全体が透水性基礎マウンド2の高さ方向、つまりz軸方向に垂直に埋設されるため、止水部材1の高さは、上述した貫入長さである。
【0024】
図4に示す通り、揚圧力低減比率は、止水部材1を全く埋設しない場合、つまり貫入長さが0メートルの場合を基準とするから、貫入長さが0メートルのときにこの値は1.0となる。
【0025】
止水部材1を海底面8まで貫入させた場合、止水部材1の高さH1および貫入長さは、いずれもDと同じ3.5メートルとなる。この場合、沖側から陸側に向かって流れる水は止水部材1によって全て遮蔽されるから、揚圧力低減比率は0になる。
【0026】
貫入長さが0.5メートルになると揚圧力低減比率は0.8未満になり、貫入長さが1.0メートルになると揚圧力低減比率は0.6未満になる。そして、貫入長さが2.0メートルになると揚圧力低減比率は0.4未満になる。したがって、例えば揚圧力の4割が削減されると構造物3が安定するのであれば、止水部材1の高さH1は1.0メートルあればよい。
【0027】
以上、説明した通り、透水性基礎マウンド2内の、陸側よりも沖側に、透水性基礎マウンド2の法線に沿って止水部材1を埋設することで、透水性基礎マウンド2の内部で沖側から陸側に向かう水流の一部が止められるので、透水性基礎マウンド2の上に設置される構造物3に対して作用する揚圧力は低減される。止水部材1は海底面8に至っていてもよいが、海底面8に至っていなくてもよく、少なくとも海底面8を掘削する必要がないため、海底面を掘削して形成した溝に止水用グラウント材等を打設する場合に比べて簡易に、安定した構造物を設置することができる。
【0028】
2.変形例
以上が実施形態の説明であるが、この実施形態の内容は以下のように変形し得る。また、以下の変形例を組み合わせてもよい。
【0029】
2−1.変形例1
上述した実施形態において、止水部材1と構造物3とは別体であったが、止水部材1が構造物3の一部を構成してもよい。
【0030】
図5は、変形例1における沿岸構造物9の一例を示す図である。この沿岸構造物9は、まず、海底面8の上に捨石を積み、陸側と沖側とを隔てる透水性基礎マウンド2を造成する。このとき、陸側よりも沖側に近い位置に木枠等の型枠部材を配置してこの型枠部材を包むように捨石を積むことで、造成された透水性基礎マウンド2には沖側に型枠部材が埋設される。そして、この透水性基礎マウンド2の造成後にコンクリートを打設し、透水性基礎マウンド2の沖側の斜面と陸側の斜面とをそれぞれ被覆する被覆石4を積み、沖側および陸側のそれぞれ被覆石4の上に異形ブロック5を設置する。
【0031】
型枠部材が除去されて形成される溝にはコンクリートが流し込まれ、さらに透水性基礎マウンド2の上部を覆うようにコンクリートが流し込まれる。このコンクリートが固まることにより、止水部材1と一体の構造物3が形成される。
【0032】
この構成であっても、透水性基礎マウンド2の沖側には止水部材1が法線方向、つまりx軸方向に沿って埋設されるため、透水性基礎マウンド2の内部を沖側から陸側に向けて流れる水流の一部が止水部材1により遮られる。これにより、透水性基礎マウンド2の上に設置される構造物3に対して作用する揚圧力は低減される。
【0033】
2−2.変形例2
上述した実施形態において、止水部材1は、z軸方向に沿って垂直に配置されていたが、透水性基礎マウンド2の内部で沖側から陸側に向けて流れる水流の一部を遮っていれば、垂直に配置されなくてもよい。
【0034】
図6は、変形例2における透水性基礎マウンド2の造成と止水部材1の埋設の工程を示す図である。
図6(a)に示す通り、まず、透水性基礎マウンド2のうち、沖側の部分が欠損した土台21が海底面8の上に造成される。次に、
図6(b)に示す通り、この土台21の沖側の斜面にシート状の止水部材1が設置される。
【0035】
そして、
図6(c)に示す通り、この止水部材1の上に捨石が積まれて上積層22が形成される。この上積層22と土台21とが止水部材1を挟む状態で透水性基礎マウンド2となるため、沖側から陸側に向けて透水性基礎マウンド2の内部を水が流れようとしても、少なくともその水流の一部は止水部材1によって遮られる。
【0036】
2−3.変形例3
上述した変形例2で示した工程において、土台21や上積層22は段階的に造成されてもよい。
図7は、変形例3における透水性基礎マウンド2の造成と止水部材1の埋設の工程を示す図である。
図7(a)に示す通り、まず、海底面8には、陸側の部分に透水性基礎マウンド2よりも低い第1土台層23が造成され、その沖側の斜面にはシート状の止水部材1が貼り付けられる。止水部材1はシート状であるため、斜面よりも長い場合には
図7(a)に示したように第1土台層23の上部まで到達して、この上部を部分的に覆う。
【0037】
次に、
図7(b)に示す通り、止水部材1のうち第1土台層23の斜面上に配置された部分を第1上積層24が覆う。これにより、止水部材1は、一部が第1土台層23と第1上積層24とで挟まれる。そして、第1土台層23の上には第2土台層25が造成される。このとき、止水部材1の下に捨石を潜りこませるように積むことで第2土台層25が造成されるため、止水部材は、第2土台層25の沖側の斜面上に配置される。
【0038】
そして
図7(c)に示す通り、止水部材1のうち第2土台層25の斜面上に配置された部分を第2上積層26が覆い、第2土台層25の上部に第3土台層27が造成される。止水部材1は、第3土台層27の沖側の斜面の上に配置され、さらにその上には第3上積層28が形成される。このようにシート状の止水部材1を沖側と陸側との両側から捨石で挟むことで透水性基礎マウンド2が造成され、この透水性基礎マウンド2には、陸側よりも沖側に止水部材1が埋設される。
【0039】
2−4.変形例4
上述した実施形態において、構造物3は、止水部材1が埋設された透水性基礎マウンド2の上部に設置されていたが、止水部材1の上縁部10は、構造物3の沖側の位置となるように、止水部材1の埋設される位置が決められていてもよい。
【0040】
図8は、変形例4における止水部材1の位置を示す図である。上縁部10は、止水部材1の最も上の面である。構造物3の「沖側」とは、構造物3を、沖側と陸側との比率が1:2になるように分割した境界点よりも沖側に近い側をいう。例えば、
図8において構造物3のy軸方向の幅はWであり、境界点30は、構造物3の底面のうち、y軸方向を陸側が沖側の2倍となるように分割する点である。したがって、境界点30から構造物3の沖側の端部までの距離は、
図8に示す通りW/3である。
【0041】
この境界点30よりも沖側、つまり
図8で境界点30の−y側を示す領域Rに、止水部材1の上縁部10が位置していればよい。この構成によれば、止水部材1により透水性基礎マウンド2の内部を流れる水流の一部を止めたことによる揚圧力の低下が、構造物3の底面の三分の二以上に影響する。