(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6881925
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】合成PCa版の製造方法、合成PCa版の製造装置および合成PCa版
(51)【国際特許分類】
B28B 23/02 20060101AFI20210524BHJP
E04C 2/06 20060101ALI20210524BHJP
E04B 5/38 20060101ALI20210524BHJP
【FI】
B28B23/02 A
E04C2/06
E04B5/38 A
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-181587(P2016-181587)
(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公開番号】特開2018-43474(P2018-43474A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】313017001
【氏名又は名称】日本カイザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【弁理士】
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】山本 義徳
(72)【発明者】
【氏名】中川 学
(72)【発明者】
【氏名】片山 博之
(72)【発明者】
【氏名】結城 俊二
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−049514(JP,A)
【文献】
特開昭61−019307(JP,A)
【文献】
実開昭54−116554(JP,U)
【文献】
実公昭40−029819(JP,Y1)
【文献】
実開平05−063804(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 5/04,23/00−23/04
E04C 2/06
E04B 5/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラス筋の一部をPCa版から突出させた合成PCa版を製造する合成PCa版の製造装置において、
上記PCa版の底面を形成する定盤と、
上記定盤に取り付けられ、上記PCa版の側面を形成する側枠と、
上記トラス筋の上方側に位置し、上記側枠から反力を得て上記トラス筋を下方へ押圧する押圧部材と、
上記押圧部材に押圧動作を行わせる押圧動作具と、
を備えており、
上記定盤に着脱可能に取り付けられる上記側枠によって上記押圧部材が支持されることを特徴とする合成PCa版の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の合成PCa版の製造装置において、上記定盤は鋼鈑からなり、上記側枠には、当該側枠を上記定盤に固定させる磁石が設けられていることを特徴とする合成PCa版の製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の合成PCa版の製造装置において、上記押圧動作具は、回転により移動して上記押圧部材に押圧動作を行わせる螺子部材を備え、上記螺子部材が上記側枠に螺合されることを特徴とする合成PCa版の製造装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の合成PCa版の製造装置において、上記押圧動作具は、上記押圧部材に押圧動作を行わせる操作レバーを有することを特徴とする合成PCa版の製造装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の合成PCa版の製造装置において、上記押圧動作具は、液体圧または気体圧により上記押圧部材に押圧動作を行わせることを特徴とする合成PCa版の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、PCa(プレキャストコンクリート)版にトラス筋が設けられた合成PCa版を製造する合成PCa版の製造方法、合成PCa版の製造装置および合成PCa版に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、所定の大きさのPCa版にトラス筋が適宜の間隔で配筋され、上記トラス筋の一部が上記PCa版の一面から突出した合成PCa版(いわゆるハーフPCa版)が開示されている。
【0003】
また、このような合成PCa版を製造する方法として、以下の製造方法が考えられる。まず、
図7に示すように、トラス筋100に、その長辺方向の略中央側が反り上がるムクリをつけておき、このムクリがつけられたトラス筋100を型枠101内にセットする。そして、上記トラス筋100の上に重し102を配置してムクリを矯正した状態で、上記型枠101内にPCa版をなすコンクリート103を打設して固化させる。このような製造方法によれば、上記重し102を外されたトラス筋100が縮もうとする力により、固化後のコンクリート(PCa版)に圧縮応力がかかる状態(プレストレス)を生じさせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−57268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記方法では、上記重し102の保管場所の確保および上記重し102を吊り上げるクレーンの設置など、製造上のコストが高くなるといった問題がある。
【0006】
この発明は、上記の事情に鑑み、トラス筋の上に重しを載せることを必要としない合成PCa版の製造方法、合成PCa版の製造装置および合成PCa版を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の合成PCa版の製造方法は、上記の課題を解決するために、トラス筋の一部をPCa版から突出させた合成PCa版を製造する合成PCa版の製造方法において、長辺方向の略中央側が反り上がるムクリがつけられたトラス筋の上側に押圧部材を配置し、上記PCa版の底面を形成する定盤に固定される側枠または上記定盤から反力を得て上記押圧部材により上記トラス筋の反り上がる部位を下方に押圧した状態で上記PCa版となるコンクリートを固化させることを特徴とする。
【0008】
上記の方法であれば、上記側枠または上記定盤から反力を得る上記押圧部材によって上記トラス筋の反り上がる部位を下方に押圧した状態で上記PCa版となるコンクリートを固化させるので、重しを不要にすることができる。このように重しを不要にできると、その保管場所や吊り上げクレーンを不要にして製造上のコストを低く抑えることが容易になる。
【0009】
複数のトラス筋をその短辺方向に間隔をあけて配置し、上記複数のトラス筋を跨ぐように上記押圧部材を設けてもよい。
【0010】
上記定盤を移動可能に設置するとともに上記PCa版となるコンクリートを固化させる養生地点を設定し、この養生地点において上記押圧部材により上記トラス筋を下方に押圧するようにしてもよい。これによれば、複数の定盤を移動させて上記合成PCa版を順次的に製造していくことが可能になる。
【0011】
この発明の合成PCa版の製造装置は、トラス筋の一部をPCa版から突出させた合成PCa版を製造する合成PCa版の製造装置において、上記PCa版の底面を形成する定盤と、上記定盤に取り付けられ、上記PCa版の側面を形成する側枠と、上記トラス筋の上側に位置し、上記側枠または上記定盤から反力を得て上記トラス筋に対して下方へ押圧する押圧部材と、上記押圧部材に押圧動作を行わせる押圧動作具と、を備えることを特徴とする。
【0012】
上記の構成であれば、上記側枠または上記定盤から反力を得る上記押圧部材によって上記トラス筋を下方に押圧することができ、また、上記押圧部材による押圧動作を上記押圧動作具により実行させることができる。
【0013】
上記側枠が上記定盤に着脱可能に取り付けられていてもよい。これによれば、合成PCa版のサイズ変更等に迅速に対応することができる。
【0014】
上記定盤は鋼鈑からなり、上記側枠には、当該側枠を上記定盤に固定させる磁石が設けられていてもよい。これによれば、上記側枠を上記定盤に固定するためのボルトを用いる場合に必要となる螺子穴を上記定盤に形成することが不要になり、定盤へのダメージの軽減が図れる。また、側枠の設置作業や配置変更の作業の迅速化も図れるようになる。
【0015】
上記押圧動作具は、回転により移動して上記押圧部材に押圧動作を行わせる螺子部材を備えてもよい。或いは、上記押圧動作具は、上記押圧部材に押圧動作を行わせる操作レバーを有していてもよい。或いは、上記押圧動作具は、液体圧または気体圧により上記押圧部材に押圧動作を行わせてもよい。
【0016】
また、この発明の合成PCa版は、上記いずれかの合成PCa版の製造方法により製造されたことを特徴とする。このような方法で製造された合成PCa版は、固化後のコンクリートに圧縮応力がかかるプレストレス状態を生じさせることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明であれば、ムクリがつけられたトラス筋の上に重しを載せることなしに、固化後のコンクリート(PCa版)に圧縮応力がかかる状態(プレストレス)を生じさせることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る合成PCa版の製造方法を示した概略の説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る合成PCa版の製造装置を示した概略の斜視図である。
【
図3】
図2の製造装置の一部を拡大して示した斜視図である。
【
図4】
図2の製造装置の動作を説明する説明図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る合成PCa版の製造装置を示した概略の斜視図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係る合成PCa版の製造装置を示した概略の説明図である。
【
図7】従来の合成PCa版の製造方法を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示しているように、この実施形態の合成PCa版の製造方法においては、トラス筋1の製作を行っておく。上記トラス筋1は、例えば、下側に位置する2本ボトム筋11(
図3参照)と、上側に位置する1本のトップ筋12と、各ボトム筋11とトップ筋12にそれぞれ溶接等により接合される2本のラチス筋13とからなる。そして、上記トラス筋1には、長辺方向の略中央側が反り上がるムクリをつけておく。この方法で製造される合成PCa版は、上記トラス筋1の一部がPCa版2から突出する構造を有し、合成PCa版として完成した状態では、上記トラス筋1において上記ムクリが解消されたものとなる。
【0020】
この実施形態の合成PCa版の製造装置3は、
図2に示しているように、定盤31と、側枠32と、押圧部材33と、押圧動作具34とを備えている。
【0021】
上記定盤31は、上記PCa版2の底面を形成するものであり、例えば、厚さ9mmの四辺形の鋼鈑からなる。
【0022】
上記側枠32は、上記PCa版2の側面を形成するものであり、例えば、4個の角材を用いて長方形枠形状に形成されている。各角材は、例えば、アルミニウム合金材からなる。そして、各角材の底面には、磁石32aが埋め込まれており、この磁石32aによって、上記側枠32は、上記定盤31上に着脱可能に取り付けられる。各角材の上端側に、その長辺方向と直交する水平方向に力を加えると、各角材は上記磁石32aの磁気吸引力に勝って傾倒するので、各角材の配置変更等が容易に行える。なお、上記PCa版2となるコンクリートは、上記側枠32の高さ以下で打設される。また、長方形枠形状における長辺側枠部をなす角材の長辺方向中央部には、上方に開口する螺子穴部32bが設けられている。
【0023】
上記押圧部材33は、上記トラス筋1の上方側に配置されるものであり、押さえ本体部となる横材部33aの両端に、それぞれ高さ調整部33bを有している。上記高さ調整部33bは、上記PCa版2の上面から突出する上記トラス筋1の高さに応じて設定される。また、上記横材部33aの両端および高さ調整部33bには鉛直方向にボルト挿通孔が形成されている。
【0024】
上記押圧動作具34は、上記押圧部材33を下方に押さえるように上記側枠32に締結される締結部材からなる。この締結部材は、例えば、長ボルトである。この長ボルトは、上記ボルト挿通孔に上から挿通され、先端の螺子部が上記螺子穴部32bに螺合されることで移動し、上記側枠32から反力を得て、上記トラス筋1のムクリを下方に押圧して矯正することができる。
【0025】
上記側枠32内には、
図3にも示すように、複数のトラス筋1がその短辺方向に間隔をあけて配置される。上記複数のトラス筋1は連結部材(連結筋)14によって相互に連結される。そして、上記押圧部材33を、上記トラス筋1の長辺方向に交差させ、上記複数のトラス筋1を跨ぐように設ける。また、上記側枠32内には、上記PCa版2となるコンクリート21を打設する。
【0026】
そして、
図4にも示すように、上記押圧動作具34である長ボルト(締結部材)を螺子穴部32bに螺合させ、例えば、インパクトドライバーでねじ込み、上記押圧部材33を下方に押し下げる。上記押圧部材33が下方に移動することで、上記トラス筋1はムクリを押圧されて平らに矯正される。このように、上記トラス筋1が平らに矯正された状態で、上記コンクリート21を固化させる。このように上記コンクリート21が固化された後における上記トラス筋1が縮もうとする力により、固化後のコンクリート(PCa版)2に圧縮応力がかかる状態(プレストレス)が生じる。
【0027】
このように、上記合成PCa版の製造方法であれば、上記側枠32から反力を得る上記押圧部材33によって上記トラス筋1の反り上がる部位を下方に押圧した状態で上記PCa版2となるコンクリート21を固化させるので、重しを不要にすることができる。このように重しを不要にできると、その保管場所や吊り上げクレーンの削減を図ることができる。
【0028】
また、上記合成PCa版の製造装置3であれば、上記側枠32から反力を得る上記押圧部材33によって上記トラス筋1を下方に押圧することができ、また、上記押圧部材33による押圧を上記押圧動作具34により実行することができる。また、上記側枠32に当該側枠32を上記定盤31に固定させる磁石32aが設けられていると、上記側枠32を上記定盤31に固定するためのボルトを螺合させる螺子穴を上記定盤31に形成することを不要にでき、定盤31へのダメージの軽減が図れる。また、側枠32の設置作業や配置変更の作業の迅速化も図れるようになる。なお、上記製造装置3において、上記押圧動作具34は、回転により移動して上記押圧部材33に押圧動作を行わせる螺子部材(長ボルト)であったが、これに限らず、上記押圧部材33に押圧動作を行わせるために、送りねじ(スクリュー)を電動モーターで回転させ機構を採用してもよい。
【0029】
次に、他の実施形態について説明していく。
図5に示すように、この実施形態の合成PCa版の製造装置3における押圧動作具35は、操作レバー35aの操作によって上記押圧部材33を下方に押さえる。例えば、この押圧動作具35は、梃の原理を用いたものであり、上記操作レバー35aと押圧体35bとの間の箇所に設けた水平軸35cを支点にして回動可能に設けられており、上記操作レバー35aを鉛直方向に立ち上げるほど上記押圧体35bと上記押圧部材33との間の距離が縮まる構造になっている。上記水平軸35cは上記側枠32に固定された支持部材35dにより支持されている。
【0030】
上記
図5に示した製造装置3においては、上記操作レバー35aの上記水平軸35cの軸方向が上記押圧部材33の横材部33aに直交する方向であったが、これに限らず、上記横材部33aと平行な方向とすることもできる。
【0031】
次に、他の実施形態について説明していく。
図6に示す構造においては、上記押圧部材33における上記横材部33a自体が例えば断面円形をなしており(円形に限るものではない)、偏心位置において上記高さ調整部33bに回動可能に水平軸回りに支持されている。そして、押圧動作具36は、操作レバー36aで構成されており、例えば、上記横材部33aに設けられた図示しない穴に上記操作レバー36aを嵌め込み、当該操作レバー36aを回動操作することで上記横材部33a自体を回動させることができる。そして、上記操作レバー36aを鉛直方向に立ち上げるほど上記横材部33aと上記トラス筋1との間の距離が縮まる構造にしている。上記操作レバー36aは1本で足りる。
【0032】
上記
図5および
図6に示した構造、すなわち、操作レバー35a,36aの操作で上記トラス筋1を下方に押さえる構造を用いると、ねじ締め作業が不要になり、上記トラス筋1の押圧を迅速に行うことができる。
【0033】
なお、上記操作レバー35a、36aの操作で上記トラス筋1を下方に押さえる構造としては、上記
図5および
図6に示した構造に限らず、例えば、操作レバーを備えるトグルクランプを用いた構造とすることもできる。
【0034】
また、押圧動作具は、液体圧または気体圧によってシリンダー内のピストンを操作し、上記ピストンに連動するプランジャの動作で上記トラス筋1を下方に押さえる構造を有するものでもよい。
【0035】
また、以上の例では、上記トラス筋1の長辺方向の略中央1か所において上記押圧部材33を設けたが、上記押圧部材33を複数本設けるようにしてもよい。また、以上の例では、上記側枠32から反力を得て、上記トラス筋1のムクリを下方に押圧したが、例えば、上記押圧動作具35の支持部材35dを定盤に31に磁石等により固定し、上記定盤に31から反力を得て、上記トラス筋1のムクリを下方に押圧するようにしてもよい。
【0036】
また、いわゆるフローラインによって上記合成PCa版を製造することができる。すなわち、上記定盤31を移動可能に設置し、上記側枠32や上記トラス筋1の配置図を上記定盤31に描く描き地点、上記側枠32や上記トラス筋1を配置する配置地点、上記PCa版となるコンクリートを固化させる養生地点等を例えば環状に設定する。そして、上記養生地点において上記押圧部材33により上記トラス筋1を下方に押圧する。これによれば、複数の定盤31を移動させて合成PCa版を順次的に製造していくことができる。特に、このようなフローラインにおいて上記側枠32を磁石32aによって着脱可能にすると、生産効率を格段に向上できる。
【0037】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 :トラス筋
2 :PCa版
3 :製造装置
11 :ボトム筋
12 :トップ筋
13 :ラチス筋
14 :連結部材
21 :コンクリート
31 :定盤
32 :側枠
32a :磁石
32b :螺子穴部
33 :押圧部材
33a :横材部
33b :高さ調整部
34 :押圧動作具(螺子部材)
35 :押圧動作具
35a :操作レバー
35b :押圧体
35c :水平軸
35d :支持部材
36 :押圧動作具
36a :操作レバー