(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係る電線保護装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
[実施形態]
図1から
図5を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、電線保護装置に関する。
図1は、実施形態に係る電線保護装置を示す図、
図2は、実施形態に係る遮断判定の説明図、
図3は、実施形態に係る電線保護装置の動作を示すタイムチャート、
図4は、実施形態に係る電線保護装置の動作を示す他のタイムチャート、
図5は、比較例の動作を示すタイムチャートである。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る電線保護装置1は、電圧調節部3と、制御部2と、フェールセーフ回路6と、OR回路7とを有する。電線保護装置1は、車両に搭載され、車両の電気負荷(以下、単に「負荷」と称する。)12に対する電力供給を行う。電線保護装置1によって電力が供給される負荷12は、例えば、車両のヘッドランプ等のランプである。電線保護装置1は、電圧調節部3によって負荷12に対する供給電圧を制御すると共に、負荷12に対する電力供給をソフトウエア的に遮断する。電線保護装置1は、電圧調節部3を流れる電流値に基づいて電線の発熱量および放熱量を推定し、その推定結果に基づいて負荷12に対する電力供給を遮断する。以下に本実施形態の電線保護装置1について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態の電圧調節部3は、信号入力ポート30a、入力部30b、出力部30c、信号出力ポート30d、半導体スイッチング素子31、および電流センサ回路32を有する半導体リレーである。信号入力ポート30aは、OR回路7を介して制御部2の制御信号出力ポート20bと電気的に接続されている。入力部30bは、車両の電源11と電気的に接続されている。電源11は、例えば、バッテリ等の二次電池である。出力部30cは、負荷12と電気的に接続されている。
【0013】
半導体スイッチング素子31は、入力部30bと出力部30cとの間に介在している。半導体スイッチング素子31は、制御信号のON/OFFに応じて負荷12に対する電力供給を実行または停止する。半導体スイッチング素子31は、例えば、MOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)である。電圧調節部3は、図示しない制御回路によって、半導体スイッチング素子31をデューティ制御する。半導体スイッチング素子31に対するデューティ制御は、例えば、PWM制御である。制御回路は、電源11からの入力電圧と、負荷12に対する供給電圧の目標値とに基づいてデューティ制御のデューティ比を決定する。このデューティ比は、負荷12に対する実効電圧を供給電圧の目標値とするように決定される。
【0014】
電流センサ回路32は、半導体スイッチング素子31を介して流れる電流値を検出する。言い換えると、電流センサ回路32は、電圧調節部3を介して電源11から負荷12に流れる電流値を検出する。電流センサ回路32の検出結果を示す信号は、信号出力ポート30dから出力される。信号出力ポート30dは、制御部2の電流信号入力ポート20cと電気的に接続されている。
【0015】
制御部2は、電圧調節部3の作動/停止を制御する。制御部2は、例えば、マイクロコンピュータ等の制御装置や制御回路である。制御部2は、演算部、記憶部、通信部等を有し、本実施形態の動作を実行するためのプログラムや回路構成を有している。制御部2は、指令信号入力ポート20a、制御信号出力ポート20b、電流信号入力ポート20c、ウォッチドッグ信号出力ポート20d、入力判定部21、ウェークアップ判定部22、スリープ判定部23、初期値記憶部24、温度計算部25、遮断判定部26、および論理回路27を有する。
【0016】
指令信号入力ポート20aは、負荷12を作動させる指令信号が入力されるポートである。制御信号出力ポート20bは、電圧調節部3に対する制御信号を出力するポートである。電流信号入力ポート20cは、電流センサ回路32によって検出された電流値についての信号が入力されるポートである。ウォッチドッグ信号出力ポート20dは、ウォッチドッグ信号を出力するポートである。制御部2は、定期的にウォッチドッグ信号をウォッチドッグ信号出力ポート20dから出力する。
【0017】
指令信号入力ポート20aには、車両に搭載されたスイッチ4が電気的に接続されている。スイッチ4は、例えば、車両の運転者によって操作される。スイッチ4に対して負荷12を作動させるための操作入力がなされると、スイッチ4が停止指令状態から作動指令状態に切り替わる。スイッチ4における停止指令状態および作動指令状態の切り替えは、例えば、接地/非接地の切り替えである。作動指令の操作入力がなされたスイッチ4は、作動停止のための操作入力がなされるまで作動指令状態を維持する。
【0018】
入力判定部21は、指令信号入力ポート20aと電気的に接続されている。入力判定部21は、スイッチ4の状態に応じた信号を出力する。より具体的には、入力判定部21は、スイッチ4が作動指令状態である場合にON信号を出力し、スイッチ4が停止指令状態である場合にOFF信号を出力する。
【0019】
ウェークアップ判定部22は、制御部2が停止状態から通常動作に移ったことを検知する。制御部2の停止状態には、スリープ状態や電源電圧の低下による作動停止の状態が含まれる。ウェークアップ判定部22は、例えば、スリープ判定部23の出力信号やウォッチドッグ信号に基づいて制御部2が通常動作に移行したか否かを判定する。ウェークアップ判定部22は、制御部2の通常動作への移行を検知した場合、ウェークアップON信号を出力する。一方、ウェークアップ判定部22は、制御部2の停止状態を検知した場合、ウェークアップOFF信号を出力する。ウェークアップ判定部22の出力信号は、温度計算部25に送られる。
【0020】
スリープ判定部23は、スリープ条件が成立しているか否かを判定する。本実施形態のスリープ条件は、入力判定部21の出力信号がOFFであり、かつ後述する電線5の推定温度Twがスリープ閾値Tslpよりも低温側の値であることである。なお、温度に関する条件は、「推定温度Tw≦スリープ閾値Tslp」とされてもよい。スリープ閾値Tslpは、例えば、後述する初期値Tiniである。スリープ判定部23は、スリープ条件が成立している場合、スリープON信号を出力する。一方、スリープ判定部23は、スリープ条件が成立していない場合、スリープOFF信号を出力する。スリープ判定部23の出力信号は、ウェークアップ判定部22に送られる。制御部2は、スリープ判定部23からスリープON信号が出力されるとスリープ状態に移行する。スリープ状態では、入力判定部21およびウェークアップ判定部22が作動する。また、スリープ状態では、少なくとも温度計算部25および遮断判定部26が動作を停止する。
【0021】
初期値記憶部24は、電線5の温度情報についての初期値Tiniを記憶している。初期値記憶部24に記憶されている初期値Tiniは、スリープ判定部23および温度計算部25に送られる。
【0022】
温度計算部25は、電線5の温度を算出する回路または演算装置である。温度計算部25による温度算出対象の電線5は、例えば、電源11と電圧調節部3とを接続する電線5や、電圧調節部3と負荷12とを接続する電線5である。温度計算部25は、電流信号入力ポート20cと電気的に接続されている。温度計算部25は、電流センサ回路32によって検出された電流値を示す信号を取得する。温度計算部25は、初期値記憶部24から温度計算に用いる初期値Tiniを取得する。
【0023】
本実施形態の温度計算部25による温度算出の考え方について、以下に式(1)から式(4)を参照して説明する。なお、式(1)から式(4)において、Pcinは電線5の単位時間の発熱エネルギー[J/s]、Pcoutは電線5の単位時間の放熱エネルギー[J/s]、rcは電線5の導体抵抗[Ω]、Iは通電電流[A]、Cthは電線5の熱容量[J/℃]、Rthは電線5の熱抵抗[℃/W]、Qc(n)はn回目に電流値がサンプリングされたときの電線5の熱量(累積値)、Δtはサンプリング時間(サンプリング間隔)[s]、ΔTは、電線5における温度変化量(累積値)[℃]である。
Pcin = rc×I
2 …(1)
Pcout = Qc(n−1)/(Cth×Rth) …(2)
Qc(n) = Qc(n−1)+(Pcin−Pcout)×Δt …(3)
ΔT = Qc(n)/Cth …(4)
【0024】
温度計算部25は、電流センサ回路32から取得した電流値の情報から一定時間毎に温度情報を計算する。温度計算部25は、算出した温度情報を遮断判定部26に出力する。本実施形態の温度情報は、電線5の現在の温度や温度変化量、熱収支等に関する情報である。制御部2は、温度情報に基づいて電圧調節部3を遮断状態とし、電源11と負荷12とを遮断させる。ここで、遮断状態とは、電圧調節部3において負荷12に対する電力供給が継続的に停止され、デューティ制御がなされない状態である。
【0025】
本実施形態の温度情報は、電線5の現在の温度の推定値である。以下の説明では、温度計算部25によって算出された電線5の現在の温度を単に「推定温度Tw」と称する。推定温度Twは、温度計算部25によって推定された電線5の現在の温度である。本実施形態では、電線5の推定温度Twは初期値記憶部24に記憶されている初期値Tiniと温度変化量ΔTとの和として算出される。
【0026】
遮断判定部26は、入力判定部21の信号と温度計算部25から取得した推定温度Tw(温度情報)とに基づいて遮断判定を行う。遮断判定部26は、判定結果を示す信号を論理回路27に出力する。遮断判定部26は、例えば、
図2に示すように遮断判定を行う。
図2には、入力判定部21の信号(SW)、推定温度Tw、および遮断判定部26によってなされる遮断判定の内容が示されている。遮断判定部26は、入力判定部21がON信号を出力しており、かつ推定温度Twが予め定められた遮断温度Tsh以上(HI)であればON信号を出力する。このON信号は、電圧調節部3を遮断状態とする遮断指令である。一方、遮断判定部26は、入力判定部21がON信号を出力しており、かつ推定温度Twが遮断温度Tsh未満(LOW)であればOFF信号を出力する。このOFF信号は、電圧調節部3による負荷12に対する給電を許容する通常指令である。
【0027】
遮断判定部26は、入力判定部21の信号がリセットされるまで遮断判定の内容を維持する。言い換えると、遮断判定部26は、電圧調節部3を遮断状態にすると判断した後は、入力判定部21の信号が一旦OFFとされ、再度ONとされるまでの間はON信号を出力し続ける。また、遮断判定部26がOFF信号を出力している状態で入力判定部21の信号がONからOFFに切り替わった場合、入力判定部21の信号が再度ONとなるまでの間OFF信号を出力し続ける。
【0028】
論理回路27は、入力判定部21の信号と遮断判定部26の信号とに応じて制御信号を出力する。遮断判定部26の出力信号は、ON/OFFが反転されて論理回路27に入力される。すなわち、遮断判定部26のON信号はOFF信号に反転されて論理回路27に入力され、遮断判定部26のOFF信号はON信号に反転されて論理回路27に入力される。論理回路27は、AND回路である。論理回路27は、入力判定部21の出力信号がONであり、かつ遮断判定部26がOFF信号を出力している場合、制御信号出力ポート20bからON信号を出力する。論理回路27が出力するON信号は、負荷12に対する電力供給の実行を指令する供給指令信号である。
【0029】
一方、論理回路27は、入力判定部21の出力信号がOFFである場合や、遮断判定部26がON信号を出力している場合、制御信号出力ポート20bからOFF信号を出力する。論理回路27が出力するOFF信号は、負荷12に対する電力供給の停止を指令する停止指令信号である。遮断判定部26がON信号を出力している場合に論理回路27から出力される停止指令信号は、電圧調節部3を遮断状態として電線5を保護する遮断指令信号として機能する。停止指令信号に応じて電圧調節部3が電源11と負荷12とを継続的に遮断することで、電線5に対する通電が停止され、電線5における発熱が停止される。その結果、電線5の更なる温度上昇が抑制される。
【0030】
フェールセーフ回路6は、制御部2が正常に動作しない場合に、制御部2に代わって電圧調節部3を制御する。フェールセーフ回路6は、停止判定回路61および論理回路62を有する。停止判定回路61は、ウォッチドッグ信号出力ポート20dから出力されるウォッチドッグ信号に基づいて制御部2の停止判定を行う。停止判定回路61は、タイマーによって予め定められた一定周期をカウントしている。停止判定回路61は、一定周期をカウントアップするまでの間に制御部2からウォッチドッグ信号を受信すると、タイマーをリセットする。停止判定回路61は、一定周期をカウントアップしない限りON信号を出力する。一方、停止判定回路61は、タイマーが一定周期をカウントアップすると、OFF信号を出力する。
【0031】
論理回路62は、スイッチ4の出力信号と停止判定回路61の出力信号とに応じた信号を出力する。停止判定回路61の出力信号は、ON/OFFが反転されて論理回路62に入力される。すなわち、停止判定回路61のON信号はOFF信号に反転されて論理回路62に入力され、停止判定回路61のOFF信号はON信号に反転されて論理回路62に入力される。論理回路62は、AND回路である。論理回路62は、スイッチ4の出力信号がONであり、かつ停止判定回路61がOFF信号を出力している場合、フェールセーフON信号を出力する。フェールセーフON信号は、負荷12に対する電力供給を電圧調節部3に命じる供給指令信号である。
【0032】
一方、論理回路62は、スイッチ4の出力信号がOFFである場合や、停止判定回路61がON信号を出力している場合、フェールセーフOFF信号を出力する。論理回路62の出力および論理回路27の出力は、OR回路7に入力される。OR回路7は、論理回路27の出力および論理回路62の出力の少なくとも一方がONである場合にON信号を出力する。従って、スイッチ4がON信号を出力しているにもかかわらず制御部2の異常によって論理回路27からON信号が出力されない場合、フェールセーフ回路6が電圧調節部3に対して供給指令信号を出力する。
【0033】
本実施形態において温度計算部25が推定温度Twの計算に用いる初期値Tiniは、以下に説明するように、電線5を適切に保護できるように定められている。具体的には、本実施形態の初期値Tiniは、定常電流の最大値Imaxで通電が行われる場合の電線5の収束温度である。定常電流の最大値Imaxは、負荷12において定常的に通電することが許容される電流範囲の最大値である。定常電流の最大値Imaxは、例えば、以下のように定められる。
【0034】
定常電流の最大値Imaxは、例えば、負荷12の仕様や、国際基準、技術基準等に基づく値である。例えば、負荷12の動作電圧の最大値が18[V]で、負荷定格のばらつきが±20%であるとする。負荷12が負荷定格60[W]のランプであれば、定常電流の最大値Imaxは、供給電圧18Vで60Wのランプに流れる電流値の1.2倍の電流値である。国際基準や技術基準によって負荷12に通電する電流の最大値が決められている場合、この最大値が定常電流の最大値Imaxとされてもよい。定常電流の最大値Imaxは、上記の基準によって決まる動作電圧範囲の電圧による最大電流値であってもよい。
【0035】
初期値Tiniは、定常電流の最大値Imaxで負荷12に給電がなされるときに電線5の温度が収束するときの電線5の温度(以下、単に「収束温度Tv」と称する。)である。言い換えると、初期値Tiniは、定常電流の最大値Imaxが電線5に通電されるときに電線5において放熱量と発熱量とが均衡するときの電線5の温度である。なお、収束温度Tvの算出における環境温度は、電線5が配索される箇所の環境に応じて適宜定められる。
【0036】
温度計算部25は、電線5の推定温度Twの計算を開始あるいは再開するときに、推定温度Twとして初期値Tiniを設定する。言い換えると、初期値Tiniを出発点として推定温度Twの算出が開始される。本実施形態の電線保護装置1は、初期値Tiniを用いることで、以下に説明するように、電線5を適切に保護することができる。
【0037】
図3のタイムチャートには、(a)電流値、(b)温度、(c)スイッチ4からの入力、(d)フェールセーフ信号、(e)制御部2の出力信号、(f)制御部2の状態、および(g)遮断判定の結果、が示されている。(a)電流値の欄に示される電流値Iは、電線5を介して負荷12に供給される電流値である。(b)温度の欄には、温度計算部25による推定温度Twおよび電線5の実際温度Trが示されている。(d)フェールセーフ信号は、論理回路62の出力信号である。(e)制御部2の出力信号は、制御部2の制御信号出力ポート20bの出力信号である。
【0038】
図3では、時刻t0にスイッチ4がOFFからONに切り替わる。制御部2の異常や不調により制御部2が停止したままであると、一定周期が経過した時刻t1にフェールセーフ信号がONとなる。フェールセーフON信号が出力されて時刻t1に通電が開始され、電線5の実際温度Trが周囲温度Tambから上昇し始める。時刻t2に制御部2が起動して制御部2が推定温度Twの計算を開始する。このときに、制御部2は、推定温度Twとして初期値Tiniを設定する。初期値Tiniは、上記のように定常電流の最大値Imaxが通電されたときの電線5の収束温度Tvである。従って、初期値Tiniは、電線5の実際温度Tr以上の温度である。その結果、時刻t2以降の推定温度Twは、実際温度Trと同等または実際温度Trよりも高い値で推移する。
【0039】
時刻t3に回路においてショートが発生し、電線5にショート電流が流れ始める。時刻t4に推定温度Twが遮断温度Tshに到達する。推定温度Twが遮断温度Tsh以上となったことに対応して、遮断判定部26による遮断判定の結果が「通常」から「遮断」に切り替わる。その結果、電圧調節部3が遮断状態となり、通電が停止される。このときに、実際温度Trは、推定温度Twよりも低温である。従って、電線5が適切に保護される。なお、推定温度Twおよび実際温度Trにおける時刻t4以降の破線は、通電が遮断されなかった場合の温度の推移を示している。
【0040】
本実施形態の電線保護装置1による効果について、
図5に示す比較例を参照して説明する。
図5には、本実施形態の推定温度Twに代えて、比較例の推定温度Tcが示されている。比較例の推定温度Tcの計算が開始されるときに、比較例の推定温度Tcとして周囲温度Tambが設定される。時刻t2に制御部2が起動して比較例の推定温度Tcの計算を開始する。このときに、制御部2は、比較例の推定温度Tcとして周囲温度Tambを設定する。周囲温度Tambは、例えば、実測された値である。制御部2が停止している間に実際温度Trが上昇しているため、時刻t2における実際温度Trは、周囲温度Tambよりも高い値である。
【0041】
時刻t3にショート電流が流れ始め、時刻t5に実際温度Trが遮断温度Tshに到達する。しかしながら、この時点で比較例の推定温度Tcは遮断温度Tshよりも低い温度であるため、遮断判定部26による判定結果は「通常」となる。時刻t6に比較例の推定温度Tcが遮断温度Tshに到達して、遮断判定部26による判定結果が「遮断」に切り替わる。このときの実際温度Trは、既に遮断温度Tshよりも高温となってしまっている。このように、比較例では、通電を遮断するタイミングが遅れてしまう可能性がある。
【0042】
これに対して、本実施形態の電線保護装置1は、実際温度Trが遮断温度Tshに到達する前に推定温度Twが遮断温度Tshに到達する。よって、本実施形態の電線保護装置1は、電線5および負荷12を適切に保護することができる。
【0043】
次に、
図4を参照して、制御部2がスリープ状態から復帰するときの動作について説明する。
図4では、時刻t0にスイッチ4がOFFからONに切り替わる。制御部2が停止したままであるため、時刻t11にフェールセーフ信号がONとなり、負荷12に対する給電が開始される。時刻t12に制御部2が起動して制御部2の出力信号がONとなり、フェールセーフ信号はOFFに切り替わる。時刻t12に推定温度Twの計算が開始され、推定温度Twとして初期値Tiniが設定される。推定温度Twは、初期値Tiniから低下していく。時刻t13にスイッチ4がONからOFFに切り替わり、負荷12に対する電力供給が停止される。電線5の通電が停止されることで、推定温度Twおよび実際温度Trはそれぞれ低下していく。時刻t14にスリープ条件の成立により制御部2がスリープ状態へ移行する。
【0044】
時刻t15にスイッチ4がONにされ、制御部2がスリープ状態から通常の動作状態に復帰する。温度計算部25は、時刻t15にスリープ状態から復帰して推定温度Twの計算を再開するときに、推定温度Twとして初期値Tiniを設定する。従って、本実施形態の電線保護装置1は、スリープ状態から復帰したときの推定温度Twを実際温度Tr以上の値として推定温度Twの計算を再開することができる。本実施形態では、スリープ条件として、算出された温度情報(典型的には推定温度Tw)が初期値Tiniよりも低温側の値である条件を含んでいる。従って、スリープ状態において、電線5の実際温度Trは、初期値Tiniよりも低温側の温度となる。よって、スリープ状態から復帰するときの推定温度Twが実際温度Trよりも低温側となってしまうことが抑制される。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の電線保護装置1は、電圧調節部3と、制御部2と、を有する。電圧調節部3は、電源11側の電圧を調圧して負荷12に供給する。制御部2は、温度計算部25を有し、温度情報に基づいて電圧調節部3を遮断状態にさせる。温度計算部25は、電圧調節部3を流れる電流値から電源11と負荷12とを接続する電線5の温度情報を計算する。温度情報は、電流値に基づく温度変化量ΔTおよび予め定められた温度情報の初期値Tiniから計算される。制御部2は、温度情報が初期値Tiniよりも低温側の値である条件を含むスリープ条件が成立するとスリープ状態へ移行する。
【0046】
制御部2がスリープ状態から復帰するときの初期値Tiniは、電線5に対して定常電流の最大値Imaxで通電が行われる場合の電線5の温度の収束値に基づく値である。本実施形態の電線保護装置1は、制御部2がスリープ状態から復帰するときに初期値Tiniから推定温度Twの計算を開始することで、推定温度Twが実際温度Trよりも低い値となってしまうことを抑制する。よって、電線保護装置1は、電線5を過度の温度上昇から適切に保護することができる。また、本実施形態の電線保護装置1は、スリープ状態において温度情報の算出を行わなくとも適切に電線5を保護することができる。従って、スリープ状態において温度計算部25による温度情報の計算を停止させておくことができ、消費電力の低減を実現できる。
【0047】
本実施形態に係る電線保護装置1において、制御部2は、温度情報が予め定められた閾値である遮断温度Tshよりも高温側の値となる場合に電圧調節部3を遮断状態にさせる。制御部2がスリープ状態から復帰するときの初期値Tiniは、遮断温度Tshよりも低温側の値である。スリープ状態から復帰するときの初期値Tiniが遮断温度Tshよりも低温側の値とされていることで、通電開始時の突入電流によって推定温度Twが遮断温度Tshに到達してしまうことが抑制される。初期値Tiniと遮断温度Tshとの間に設けるマージンは、例えば、突入電流による推定温度Twの上昇量に応じて定められる。
【0048】
[実施形態の変形例]
実施形態の変形例について説明する。初期値Tiniは、収束温度Tvと同じ値には限定されない。初期値Tiniは、収束温度Tvに対して所定の割合のマージンや所定の幅のマージンが設けられた値とされてもよい。例えば、初期値Tiniは、収束温度Tvに対してM[%]高温側の値やM[%]低温側の値であってもよい。上記M[%]は、例えば、20%、10%、5%等の値であってもよい。
【0049】
制御部2がスリープ状態から復帰するときの初期値Tiniと、これ以外の場合の初期値Tiniとが異なっていてもよい。スリープ状態から復帰するときの初期値Tiniを「TiniA」と称し、スリープ状態から復帰するとき以外の初期値Tiniを「TiniB」と称する。初期値TiniBは、初期値TiniAよりも低温側の値であってもよい。
【0050】
スリープ条件は、実施形態で例示したものには限定されない。スリープ条件は、例えば、推定温度Twがスリープ閾値Tslp未満である状態が所定時間継続するという条件を含んでもよい。スリープ条件は、スイッチ4がOFFに切り替わってから一定の時間が経過したという条件を含んでもよい。また、スリープ条件は、その他の条件を含んでもよい。
【0051】
電線保護装置1において、電源11側の電圧を調圧して負荷に供給する手段は、半導体スイッチング素子には限定されない。また、半導体スイッチング素子31は、MOSFETには限定されない。半導体スイッチング素子35として、他のスイッチング素子が用いられてもよい。負荷12は、ランプには限定されない。負荷12は、ランプ以外の電気負荷であってもよい。
【0052】
温度計算部25によって計算される温度情報は、電線5の推定温度Twには限定されない。温度情報は、電線5の温度についての情報や電線5の温度に関連する物理量についての情報である。制御部2が遮断判定において参照する温度情報は、例えば、温度変化量ΔTであってもよく、熱量Qc等であってもよい。
【0053】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。