特許第6882199号(P6882199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6882199USP4阻害剤を用いたスクリーニングおよび処置の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6882199
(24)【登録日】2021年5月10日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】USP4阻害剤を用いたスクリーニングおよび処置の方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7105 20060101AFI20210524BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20210524BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20210524BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20210524BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20210524BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20210524BHJP
   A61K 31/502 20060101ALI20210524BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20210524BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20210524BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210524BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20210524BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20210524BHJP
   C12N 15/00 20060101ALI20210524BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20210524BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20210524BHJP
   C07K 2/00 20060101ALI20210524BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20210524BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20210524BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20210524BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20210524BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20210524BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20210524BHJP
   C12N 9/64 20060101ALN20210524BHJP
【FI】
   A61K31/7105
   A61K48/00
   A61K45/00ZNA
   A61K31/7048
   A61K31/282
   A61K31/4745
   A61K31/502
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61P43/00 121
   A61P43/00 111
   C12N9/99
   C12N15/115
   C12N15/00
   C12N15/113
   C07K16/40
   C07K2/00
   C12Q1/04
   C12Q1/68
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
   G01N33/68
   G01N33/48 M
   !C12N9/64 Z
【請求項の数】14
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-563390(P2017-563390)
(86)(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公表番号】特表2018-512444(P2018-512444A)
(43)【公表日】2018年5月17日
(86)【国際出願番号】GB2016050517
(87)【国際公開番号】WO2016135513
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2019年2月28日
(31)【優先権主張番号】1503371.5
(32)【優先日】2015年2月27日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517299582
【氏名又は名称】ミッション セラピューティクス リミティド
(73)【特許権者】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】グザビエ ジャック
(72)【発明者】
【氏名】ヘレン ロビンソン
(72)【発明者】
【氏名】ヤアラ オフィール−ローゼンフェルド
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ジャクソン
(72)【発明者】
【氏名】ポール バインホーフェン
(72)【発明者】
【氏名】西 良太郎
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2013年,Vol.23,Issue 15,Pages 4328-4331
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7105
A61K 31/282
A61K 31/4745
A61K 31/502
A61K 31/7048
A61K 45/00
A61K 48/00
A61P 35/00
A61P 35/02
A61P 43/00
C07K 2/00
C07K 16/40
C12N 9/99
C12N 15/00
C12N 15/113
C12N 15/115
C12Q 1/04
C12Q 1/68
G01N 33/15
G01N 33/48
G01N 33/50
G01N 33/68
C12N 9/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の処置において使用するための医薬組成物であって、当該医薬組成物が、USP4阻害剤を含有し、ここで、前記癌が、以下:
(i)相同的組み換え修復、非相同的末端結合修復、および二本鎖切断修復から選択される1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞;および/または
(ii)白金系化学療法に対して耐性を有する細胞;
から選択される、USP4に高度に依存している細胞を含み、ここで当該USP4阻害剤が、USP4に対する低分子干渉RNA(siRNA)である、医薬組成物。
【請求項2】
前記1若しくは複数のDDR経路の欠損が、BRCA2、リガーゼIV、XRCC4、およびATRのうちの1つ以上から選択されるタンパク質をコードする遺伝子の突然変異、不存在、または欠陥性発現に起因する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記癌が、白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含み、前記耐性が、カルボプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン、ネダプラチン、トリプラチンまたはサトラプラチンに対する、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記USP4阻害剤が、USP4の機能的活性の低減を引き起こす、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記USP4阻害剤が、USP4に対して選択的である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記癌が、乳房、卵巣、前立腺、肺、腎臓、胃、結腸直腸、精巣、頭頚部、膵臓、脳、黒色腫、骨、食道、膀胱、子宮頚部、子宮内膜または他の組織臓器の癌、および血球細胞の癌、例えばリンパ腫および白血病から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記医薬組成物が、抗腫瘍性治療剤と組み合わせられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記抗腫瘍性治療剤が、白金系製剤、PARP阻害剤、架橋剤、トポイソメラーゼI活性抑制剤、トポイソメラーゼII活性抑制剤、アルキル化剤および放射線類似作用薬のうちの1つ以上から選択される化学製剤、またはイオン化照射製剤である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記化学製剤が、ブレオマイシン、エトポシド、カルボプラチン、カンプトテシンおよび/またはオラパリブのうちの1つ以上から選択される、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
癌の処置において使用するために好適なUSP4製剤のスクリーニング方法であって、ここで、前記癌は、(i)相同的組み換え修復、非相同的末端結合修復、および二本鎖切断修復から選択される1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞;および/または(ii)白金系化学療法に対して耐性を有する細胞;から選択される、USP4に高度に依存している細胞を含み、以下のステップ:
a)精製されたまたは遺伝子組み換えのUSP4を得、
b)単離したUSP4を、1若しくは複数の試験製剤と接触させ、そして、
c)USP4活性の低減を実証する製剤を選択すること、
を含み、ここで当該選択される製剤がUSP4に対する低分子干渉RNA(siRNA)である、方法。
【請求項11】
USP4阻害剤に対する癌に罹患している対象の応答性を決定するために癌試料を分析するインビトロの方法であって、当該方法が、当該対象から採取された癌試料が、
(i)相同的組み換え修復、非相同的末端結合修復、および二本鎖切断修復から選択される1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞;および/または
(ii)白金系化学療法に対して耐性を有する細胞;
から選択される、USP4に高度に依存している細胞を含むか否かを決定すること
を含み、
ここで、前記欠損または耐性の存在は、癌試料が由来する対象がUSP4阻害剤に対して感受性であることを示し;ここで当該USP4阻害剤が、USP4に対する低分子干渉RNA(siRNA)である、
方法。
【請求項12】
USP4阻害剤に対する対象の応答性が、
BRCA2、リガーゼIV、XRCC4またはATRタンパク質またはmRNAから選択される1若しくは複数のバイオマーカーの不存在または低減によって、あるいは、
BRCA2、リガーゼIV、XRCC4およびATRの配列の1若しくは複数のアミノ酸もしくは核酸の突然変異の存在によって、あるいは
白金系化学療法に対して耐性を有する細胞の存在によって
決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
USP4阻害剤を用いた治療に感受性である癌に罹患している対象を選択するために癌試料を分析するインビトロの方法であって、当該方法が、
当該対象から採取された癌試料が:(i)欠陥性BRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRを有する細胞、あるいは(ii)白金系化学療法に対して耐性を有する細胞、から選択される、USP4に高度に依存している細胞を含むか否かを決定すること
を含み、ここで、欠陥性BRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRを示すか、あるいは1若しくは複数の白金系化学療法に対する耐性を示す細胞を含む癌試料が由来する対象は、USP4阻害剤を用いた治療に感受性であると判定され;ここで、当該USP4阻害剤が、USP4に対する低分子干渉RNA(siRNA)である、方法。
【請求項14】
USP4阻害剤を用いた処置に対する癌の感受性を決定するために癌試料をインビトロで分析するためのバイオマーカーとしての、癌細胞のサンプル中の突然変異BRCA2遺伝子、突然変異BRCA2タンパク質、突然変異XRCC4遺伝子、突然変異XRCC4タンパク質、突然変異LIG4遺伝子、突然変異リガーゼIVタンパク質、突然変異ATR遺伝子または突然変異ATRタンパク質の存在の使用であって、当該USP4阻害剤が、USP4に対する低分子干渉RNA(siRNA)である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、DNA損傷応答(DDR)経路における合成致死性および/または化学増感を利用するための材料および方法に関する。特に、当該出願は、ユビキチン加水分解酵素タンパク質であるユビキチン特異的プロテアーゼ4(USP4)およびそれとDDR経路との関連に関する。さらに、癌の治療およびスクリーニングの方法におけるUSP4阻害剤の使用、特に、二本鎖切断修復(DSBR)に欠陥を有する腫瘍、および/または白金系化学療法(platinum-based chemotherapy)に対して耐性を有する腫瘍の処置における、あるいは、他の治療剤に対する腫瘍を増感する、すなわち、化学増感または放射線増感するためのUSP4の阻害剤の使用を記載する。彼らのDDR経路状態、特に彼らのBRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATR状態に基づいた患者のスクリーニングまたは選択もまた記載する。
【背景技術】
【0002】
DDRとは、それによって細胞が遺伝子材料に対する損傷を感知し、シグナル伝達し、そして、修正するさまざまなプロセスを指す。DNA損傷には、化学療法や、放射線治療法や、UV光や、複製エラーやアルキル化剤などの多数の原因があり、そして、毎日ヒトゲノムに対して何百万もの病巣をもたらしている。DNA修復プロセスは、有害な因果関係を有する可能性がある病巣の遺伝の影響に対して絶えずゲノムを保護し続けている。腫瘍形成中には、遺伝的不安定性が、DDR/DNA修復に関与するものを含めた主要な調節タンパク質における変異に通じ、そして、細胞がDNA修復経路を維持することに依存するようになる原因となる。この依存は、腫瘍型の間で変動することが知られている。
【0003】
合成致死性 (synthetic lethality)の概念は、特定の遺伝子の突然変異が、別の遺伝子の突然変異または欠損によってのみ致死がもたらされるモデル生物における遺伝研究から最初に導き出された。癌生物学への合成致死性の適用は、癌を治療するための新しい治療学的手段の発見につながった。例えば、腫瘍が依存するようになったDDR経路を標的化することは、正常細胞に対して少ない毒性で癌細胞を選択的に殺滅するための新しいアプローチにつながった。近年、正常細胞に対して癌において示差的な不良である経路のタイプに関する高められた理解によって支持されるより合理的なアプローチが保証された(Nijman SMB and Friends SH, Science, 809-811)。
【0004】
癌治療への合成致死性アプローチは、細胞が生存のために排他的に依存する標的経路によって癌細胞を選択的に殺滅する可能性を提供する。このアプローチは、細胞毒性化学療法および放射線療法を越える有意な利点を提供し、そして、より安全で、かつ、より標的化された処置を潜在的に提示する。このアプローチに基づく特異的な依存関係の特徴づけを、標的化癌療法において有用な有効薬の開発を可能にするようにさらに理解することが求められた。
【0005】
マウスUSP4相同分子種は、以前、Unp遺伝子と呼ばれた。USP4遺伝子は、ヒト染色体3p21.31にマッピングされる。ユビキチン化は、タンパク質恒常性、転写、DNA修復を含めた細胞プロセスの調整に関連しているので、発明者らは、細胞スクリーンを行って、USP4とDDRタンパク質を欠損する細胞株との間の合成致死性を探した。彼らは、DDR経路タンパク質、特にATR、BRCA2、XRCC4、およびリガーゼIVが減損した細胞株において、USP4のノックダウンが合成致死性をもたらしたことを同定した。加えて、彼らは、親対照と比較して、シスプラチン耐性などの処置に対する耐性を有する腫瘍細胞において、USP4の減少が合成致死性であることがわかった。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第一の態様によれば、癌の処置において使用するためのUSP4阻害剤が提供され、ここで、該癌は、1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞、および/または白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含む。
【0007】
これにより、USP4阻害剤の使用は、さらなるまたは追加の抗癌剤を必要とすることなく関連癌細胞の処置を可能にする可能性がある。USP4阻害剤は、DDR経路の欠損または白金系化学療法に対する耐性に関する合成致死性の組み合わせのため、癌細胞を選択的に殺滅する。かかる合成致死性の組み合わせでは、正常(非癌性)細胞は、USP4阻害剤の効果を受けない。
【0008】
本発明のさらなる態様によれば、癌の処置において使用するために好適なUSP4製剤のスクリーニング方法を提供し、ここで、該癌は、1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞、および/または白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含む。
【0009】
一実施形態において、細胞は、BRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRを欠損する。
【0010】
さらなる実施形態において、細胞は、推定される阻害剤に曝され、そして、細胞生存率が計測される。
【0011】
本発明のさらなる態様によれば、USP4阻害剤としての製剤のスクリーニングにおける、欠陥性BRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRを有する細胞、および/または白金系化学療法に対して耐性を有する細胞の使用を提供する。
【0012】
本発明のさらなる態様によれば、USP4阻害剤に対する癌に罹患している対象の応答性を決定する方法であって、該方法が、癌が1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞、および/または白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含むか否かを判定することを含み、ここで、前記細胞における前記欠損または耐性の存在が、対象がUSP4阻害剤に感受性であることを示す、方法を提供する。
【0013】
したがって、対象は、USP4阻害剤を用いた治療法が有効であるか否か、および/または適切であるか否か判定するためにスクリーニングされ得る。
【0014】
本発明のさらなる態様によれば、USP4阻害剤による処置のために癌に罹患している対象を選択する方法であって、該方法が、癌が欠陥性のBRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRを有する細胞を含むか否か、あるいは癌が白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含むか否かを判定し、そして、前記細胞において欠陥性のBRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRを示すか、または処置のための1若しくは複数の白金系化学療法に対する耐性を示す対象を選択することを含む、方法を提供する。
【0015】
本発明のさらなる態様によれば、1若しくは複数の白金系化学療法に対する耐性を前記化学療法で処置された対象において克服する方法であって、前記対象における1若しくは複数の腫瘍の増殖または血液学的癌の再発を測定し、そして、USP4の阻害剤で対象をさらに処置することを含む方法を提供する。
【0016】
本発明のさらなる態様によれば、欠陥性のBRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRを有する細胞を含む癌、および/または1若しくは複数の白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含む前記癌に罹患している対象を処置する方法であって、前記方法が、治療上有効な量のUSP4阻害剤を対象に投与することを含む方法、を提供する。
【0017】
さらなる態様によれば、USP4阻害剤を用いた処置に対する癌の感受性を決定するためのバイオマーカーとして癌細胞のサンプル中の突然変異BRCA2遺伝子、突然変異BRCA2タンパク質、突然変異XRCC4遺伝子、突然変異XRCC4タンパク質、突然変異LIG4遺伝子、突然変異リガーゼIVタンパク質、突然変異ATR遺伝子または突然変異ATRタンパク質の存在の使用を提供する。
【0018】
任意選択で、バイオマーカーは、USP4阻害剤を用いた処置に対する前記癌の感受性を決定できる。
【0019】
本発明のさらなる態様によれば、1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞、および/または白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含む癌に罹患している対象を処置する方法であって、前記方法が、治療上有効な量のUSP4阻害剤を対象に投与することを含む方法、を提供する。
【0020】
本発明のさらなる態様によれば、癌に罹患している対象を処置する方法であって、前記方法は、1若しくは複数の他の抗腫瘍性治療剤と組み合わせて、治療上有効な量のUSP4阻害剤を対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0021】
したがって、USP4阻害剤の使用は、別の抗腫瘍治療剤を用いた処置に対する腫瘍細胞を増感し得る。これは、化学的抗腫瘍性治療剤に関しても増感し得るし、または放射線系抗腫瘍性治療剤に関しても増感し得る。
【0022】
本発明のさらなる態様によれば、癌の処置に使用するための製剤を含む医薬組成物を提供し、ここで、癌は、1若しくは複数のDNA損傷(DDR)経路を欠損する細胞、および/または白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含み、ここで、前記製剤は、USP4阻害剤である。
【0023】
本発明のさらなる態様によれば、癌の処置に使用するための製剤およびUSP4阻害剤を含む医薬組成物を提供する。癌の処置に使用するための前記製剤は、任意の抗腫瘍性治療剤であってもよい。
【0024】
付加の特性は、従属クレームで指定される。さらなる利点を以下に記載する。
【0025】
本発明の特定の実施形態を、単なる例として、図面を参照してここに記載する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】コロニー形成アッセイによって、同質遺伝子型DDR野生型細胞と比較して、DDR欠損細胞の選択的殺滅を示すグラフである。対照またはDDR欠損HeLa子宮頚部癌細胞に、対照(siLuc)またはUSP4特異的siRNA(siUSP4−4)を用いて24時間トランスフェクションし、その後、マルチウェルプレートに再播種した。細胞を12日間インキュベートし、その後、コロニーをギムザ染色で固定し、そして、カウントした。3つの実験の平均を示し、エラーバーはSEMを表す。このデータは、siUSP4がDDR欠損細胞にとって合成致死性であるという主張を支持する。
図2】Cell Titer Gloアッセイによって、白金感受性癌細胞(A2780)と比較して、特異的なsiRNAを用いたUSP4のノックダウンが、インビトロ由来の白金耐性癌細胞(CIS)を優先的に殺滅したことを示すグラフである。細胞を、対照(siLuc)または異なったUSP4領域を標的とするUSP4特異的siRNA(USP4−1、USP4−3、およびUSP4−4)を用いて16時間トランスフェクションし、その後、マルチウェルプレートに再播種した。細胞を、さらに96時間インキュベートし、そのご、Cell Titer Gloを添加した。Clariostarプレートリーダーにより発光を計測することによって、細胞生存率を決定した。このデータは、USP4ノックダウンが、白金耐性癌細胞を優先的に殺滅することを示す。
図3】USP4のsiRNAノックダウンが、放射線類似作用薬ブレオマイシンに対してU2OS骨肉腫細胞を増感することを示すグラフである。細胞を、対照(siLuc)または異なったUSP4領域を標的とするUSP4特異的siRNA(siUSP4−4またはsiUSP4(UTR))を用いて24時間トランスフェクションし、その後、マルチウェルプレートに再播種した。一晩のインキュベーションに続いて、細胞をブレオマイシンで処置した。細胞を9日間インキュベートし、次に、コロニーをギムザ染色により固定し、そして、カウントした。エラーバーはSEMを表す。
図4】USP4のsiRNAノックダウンが、トポイソメラーゼII化学療法薬(阻害剤)エトポシドに対してU2OS骨肉腫細胞を増感することを示すグラフである。細胞を、対照(siLuc)または異なったUSP4領域を標的とするUSP4特異的siRNA(siUSP4−4またはsiUSP4(UTR))を用いて24時間トランスフェクションし、その後、マルチウェルプレートに再播種した。一晩のインキュベーションに続いて、細胞をエトポシドで処置した。細胞を9日間インキュベートし、次に、コロニーをギムザ染色により固定し、カウントした。エラーバーはSEMを表す。
図5】USP4のsiRNAノックダウンが、白金製剤カルボプラチンに対してU2OS骨肉腫細胞を増感することを示すグラフである。細胞を、対照(siLuc)または異なったUSP4領域を標的とするUSP4特異的siRNA(siUSP4−4またはsiUSP4(UTR))を用いて24時間トランスフェクションし、その後、マルチウェルプレートに再播種した。一晩のインキュベーションに続いて、細胞をカルボプラチンで処置した。細胞を9日間インキュベートし、次に、コロニーを、ギムザ染色により固定し、カウントした。エラーバーはSEMを表す。
図6図6aは、USP4のsiRNAノックダウンが、トポイソメラーゼI阻害剤カンプトテシン(CPT)に対して癌細胞を増感することを示すグラフである。急性CPT曝露による対照(LucまたはCtlP)またはUSP4減損(4−4または4UTR)U2OS細胞のクローン形成生存率を示す(平均±s.e.m.、n=3)。エラーバーはSEMを表す。図6bは、USP4のsiRNAノックダウンが、トポイソメラーゼI阻害剤カンプトテシン(CPT)に対して癌細胞を増感することを示すグラフである。U2OS骨肉腫細胞を、対照(siLuc)または異なったUSP4領域を標的とするUSP4特異的siRNA(siUSP4(UTR)またはsiUSP4−4)を用いて24時間トランスフェクションし、その後、マルチウェルプレートに再播種した。一晩のインキュベーションに続いて、細胞をCPTで処置した。細胞を9日間インキュベートし、次に、コロニーを、ギムザ染色により固定し、カウントした。エラーバーはSEMを表す。
図7図7aは、USP4がイオン化照射(IR)に対して細胞を増感することを示すグラフである。急性IR処置によるUSP4減損(4−4または4UTR)U2OS細胞のクローン形成生存率。siRNA標的化LucまたはXRCC4が、それぞれ陰性または陽性の対照であった(平均±s.e.m.、n=3)。図7bは、イオン化照射(IR)に対する触媒的不活性なUSP4増感細胞の過剰発現を示すグラフである。急性IR処置によりGFPまたはGFP−USP4(WT−野性型またはCD−触媒的に死滅)を安定して発現するU2OS細胞のクローン形成生存率(平均±s.e.m.、n=3)。
図8】USP4のsiRNAノックダウンが、PARP阻害剤オラパリブに対してU2OS骨肉腫細胞を増感すること示すグラフである。細胞を、対照(siLuc)またはが異なったUSP4領域を標的するUSP4特異的siRNA(siUSP4−4またはsiUSP4(UTR))を用いて24時間トランスフェクションし、その後、マルチウェルプレートに再播種した。一晩のインキュベーションに続いて、細胞をオラパリブで処置した。細胞を9日間インキュベートし、次に、コロニーを、ギムザ染色により固定し、カウントした。エラーバーはSEMを表す。
図9図9aは、4種類のsiRNA(4種類のプール:siUSP4−1、4−2、4−3、および4−4)のプールによるU2OS細胞におけるUSP4のノックダウン効率を実証するタンパク質免疫ブロットの画像を示す。コード配列(4−3または4−4)を標的とする2種類の個々のsiRNAまたは3’非翻訳領域標的化siRNA(4UTR)を、指示した抗体を用いた免疫ブロッティング分析で評価した。siRNA標的化ルシフェラーゼ(Luc)は陰性対照である。α−チューブリンを添加対照として使用した。図9bは、フレオマイシン処置によるUSP4減損U2OS細胞(4種類のプール、4−3、4−4、または4UTR)の中性単独細胞電気泳動(NSCE)アッセイを示すグラフである。Luc、CtlPまたはリガーゼIV(Lig IV)を標的とするsiRNAが対照であり、後者の2種類が陽性対照である(CtlPとLig IVは、二重鎖切断修復に関与するタンパク質である)、(平均±s.e.m.、n=3)。図9cは、タンパク質免疫ブロットの画像を示す。GFPまたはGFP−USP4 WT発現U2OS細胞を、指示したsiRNAでトランスフェクションし、そして、指示した抗体を用いた免疫ブロッティング分析にかけた。棒線および角括弧は、それぞれ、外因的(exo.)または内因性(endo.)USP4を示す。α−チューブリンを添加対照として使用した。図9dは、指示したsiRNAでトランスフェクションされたGFPまたはGFP−USP4発現細胞株を用いて、図9bのように実施したNSCE相補性アッセイを示すグラフである(平均±s.e.m.、n=2)。図9eは、タンパク質免疫ブロットの画像を示す。安定な細胞株の樹立:GFPまたはGFP−USP4(WTまたはCD)を発現するU2OS細胞。細胞抽出物を、指示した抗体を用いた免疫ブロッティングによって分析した。α−チューブリンを添加対照として使用した。図9fは、図9eに記載の細胞株を用いて実施したNSCEアッセイを示すグラフである(平均±s.e.m.、n=3)。(**P<0.01)。
図10】GFP−USP4 WTまたはCDプラスミドによって一時的にトランスフェクションされ、そして、レーザーマイクロ波照射にかけた、RFP−53BP1を安定して発現するU2OS細胞の画像を示す。照射前および照射10分後に、写真を撮影した。RFP−53BP1を、DNA損傷部位を可視化するために使用した。USP4は、その触媒能の如何にかかわらずレーザーマイクロ波放射部分に動員される。
図11図11aは、定量的ssDNA形成アッセイを示すグラフである。CPT(1μm)で処置した後の一本鎖DNAの形成を、対照(LucまたはCtlP)またはUSP4(4−4または4UTR)siRNAでトランスフェクションしたU2OS細胞において評価した。BrdUシグナル強度を、対照(siLuc)に対して正規化した(平均±s.e.m.、n=3)。図11bは、対照(Luc)またはUSP4標的化(4−4または4UTR)siRNAでトランスフェクションしてGFPまたはGFP−USP4 WTを安定して発現するU2OS細胞における定量的ssDNA形成アッセイを示すグラフである。相対シグナルBrdU強度を、100%に設定されたそれらのそれぞれのCPTおよび対照(siLUC)GFP細胞に対する正規化によって評価した(平均±s.e.m.、n=3)。(**P<0.01)。図11cは、EdUでパルスラベルした、対照(Luc)またはUSP4減損(4−4または4UTR)U2OS細胞を示すグラフである。相対EdUシグナル強度を、計算し、そして、(100%に設定した)Lucに対して正規化した(平均±s.e.m.、n=2)。これは、図11bに見られる効果が一般的な細胞周期の影響によるものでないことを実証している。図11dは、GFP−USP4 WTまたはCD発現U2OS細胞における定量的DNA末端切断アッセイを示すグラフである(平均±s.e.m.、n=5)。
図12図12aは、USP4がRAD51添加および相同的組み換えを促進することを示すグラフである。対照(LucまたはBRCA1)またはUSP4(4UTR)減損細胞を、5GyのIRに晒し、8時間回復させ、続いて、RAD51およびγΗ2ΑΧに対する抗体を用いて免疫蛍光染色した。3つより多くのRAD51焦点を含むγΗ2ΑΧ陽性細胞を、プラスにスコア化した(平均±s.e.m.、n=3)。(**P<0.01)。図12bは、USP4がRAD51添加および相同的組み換えを促進することを示すグラフである。対照(LucまたはCtlP)またはUSP4(4−4、4UTR)siRNAで処置したDR−GFP U2OS細胞におけるl−Scel誘発ゲノムDSB修復アッセイ。相対HR修復効率を、Luc対照に対して正規化した(平均±s.e.m.、n=4)。(*P<0.05、**P<0.01)。
図13】USP4が非相同的末端結合を促進することを示すグラフである。NHEJ修復効率を算定するための、対照(LucまたはLig IV)またはUSP4(4−4または4UTR)減損U2OS細胞におけるランダムプラスミド組み込みアッセイ。相対NHEJ修復効率を、100%に設定した対照(Luc)に対して正規化した(平均±s.e.m.、n=3)。(*P<0.05、**P<0.01)。
図14】HEK−293細胞で発現された精製FLAG−USP4の画像を提供する。FLAG精製タンパク質(5μl)を、SDS−PAGEによって分離し、そして、Imperialブルーで染色した(Pierce Biotechnology)。
図15】USP4の生物化学的アッセイ、特に蛍光分極アッセイを使用した、精製FLAG−USP4のタンパク分解活性の結果を示すグラフである。様々な濃度の指示したUSP4を、イソペプチド結合を介してユビキチンに連結されたTAMRA標識ペプチドと共にインキュベートし、そして、蛍光分極を使用してシグナルを検出した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
特定の実施形態の詳細な説明
実施例では、これまでUSP4機能に関連していなかったDDR経路が確定されることを示し、そして、結果は、USP4の阻害が、DDR経路を欠損する腫瘍の処置に効果的な戦略であることを示す。特に、実施例に示されているように、USP4が、BRCA2、リガーゼIV、XRCC4、およびATRタンパク質の欠損 (deficiencies)または欠陥 (defects)を補うことが実証された。したがって、USP4は、これらのタンパク質及び関連するDDR経路の1以上の欠損を有する癌における細胞生存に不可欠である。これは、これらの経路の1以上における欠損を特徴とする腫瘍の処置において使用するUSP4阻害剤の開発において意義があり、かつ、USP4阻害剤処置の利益を得る患者を同定するための、患者のプレスクリーニングを提供する。
【0028】
実施例は、USP4の阻害が、白金系化学療法処置に対して耐性である癌細胞を選択的に殺滅するのに有効であることを実証する。特に、結果は、USP4阻害が、白金系処置に耐性である癌細胞を優先的に殺滅することを実証する。これらの知見は、白金系化学療法に対する耐性を発症した患者のための新薬の開発と治療計画において意義があり、かつ、可能性を有する。
【0029】
発明の態様によれば、癌の処置において使用するためのUSP4阻害剤を提供し、ここで、該癌は、1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞を含む。
【0030】
発明の態様によれば、癌の処置において使用するためのUSP4阻害剤を提供し、ここで、該癌は、白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含む。
【0031】
別の態様において、癌の治療剤の製造におけるUSP4阻害剤の使用を提供し、ここで、該癌は、1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞を含む。
【0032】
別の態様において、癌の治療剤の製造におけるUSP4阻害剤の使用を提供し、ここで、該癌は、白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含む。
【0033】
USP4は、ユビキチン特異的プロテアーゼ4ポリペプチドであり、そして、そのバリアント (variant)、突然変異体 (mutant)、および断片を含み得る。USP4は、ユビキチン特異的なプロセッシングプロテアーゼスーパーファミリーのメンバーであり、かつ、ユビキチン複合前駆体およびユビキチン化タンパク質からのユビキチン部分の除去による脱ユビキチン化酵素として機能する。USP4は、用語体系の標準化に先立ち、以前、UNPと命名された。
【0034】
USP4ポリペプチドは、天然にみられるものに相当するアミノ酸配列を有するUSP4ポリペプチドを指すその天然または野生型形態であってもよい。あるいは、USP4ポリペプチドは、天然アミノ酸配列に対して少なくとも80%、90%または95%の配列アミノ酸同一性を有するバリアントであってもよい。ヒトUSP4のタンパク質配列は、配列番号1で提供され、およびヒトUSP4のmRNA配列は、配列番号2として提供される。
【0035】
USP4は、任意の起源、例えば、真核生物起源または原核生物起源に由来し得る。ある実施形態において、USP4は、哺乳類のものであり、ラット、マウス、ウサギ、イヌ、またはヒト以外の霊長目動物由来である。ある実施形態において、USP4は、鳥類のものであり、ニワトリまたはシチメンチョウ由来である。ある実施形態において、USP4は、ヒトのものである。さらなる実施形態において、USP4は、人体組織由来であっても、または遺伝子組み換え合成法由来であってもよい。
【0036】
USP4ポリペプチドは、USP4の野性型または天然型とは異なった遺伝子型を有する突然変異ポリペプチドであってもよい。かかる突然変異体はまた、異なった表現形の相違点をもたらし得る。USP4の突然変異体は、天然USP4タンパク質の各アミノ酸が異なったアミノ酸残基に独立に変更される任意の適切な方法によって作製され得る。
【0037】
遺伝子およびcDNAをクローニングするおよび操作するため、DNAを突然変異させるため、ならびに宿主細胞でポリヌクレオチドからポリペプチドを発現させるための分子生物学的技法は、「Molecular cloning, a laboratory manual」, third edition, Sambrook, J. & Russell, D.W. (eds), Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, NYで例示されるとおり、当該技術分野で周知であり、該文献を参照により本明細書に援用する。
【0038】
誤解を避けるために、「由来する」とは、初めは、規定した起源からcDNAまたは遺伝子を得、そして、任意の好適な宿主細胞でUSP4タンパク質を発現し得ることを意味する。例えば、真核生物起源由来のUSP4は、E.コリなどの原核生物の宿主細胞で発現されてもよい。
【0039】
脱ユビキチン化活性は、USP4の触媒または酵素活性であり、k63連結ユビキチンコンジュゲートなどのタンパク質からの、TRAF2、TRAF6、およびTAK1からのユビキチンの除去である。USP4の他の既知の基質または相互作用パートナーとしては、TRIM21、RIG−1、RIP1、PDK1、pRb(網膜芽細胞腫腫瘍抑制因子)、ポケットタンパク質pl07およびpl30、ARF−BP1、TGFβ受容体I、PDK1キナーゼ、Ros52、スプライセオソームタンパク質Prp19、プロテアソームのS9/Rpn6サブユニット、ならびにA2aアデノシン受容体が挙げられる。
【0040】
USP4阻害剤は、USP4と結合または相互作用し、そして、USP4の機能的活性の低減、例えば、部分的であってもまたは完全であってもよい触媒または酵素活性の低減を引き起こすことができる製剤であり得る。阻害剤は、USP4の活性部位と相互作用しても、またはUSP4の別の部位と相互作用してもよく、そして、アロステリク阻害剤として作用し得る。USP4の機能的活性の低減を引き起こすあらゆる製剤が、阻害剤と見なされる。
【0041】
USP4の機能的活性における部分的または完全な低減は、1若しくは複数のDDR経路に欠陥があり、かつ、USP4媒介性修復に頼っているまたは高度に依存している癌細胞の細胞死またはアポトーシスを引き起こすことがあり、これにより、癌細胞の選択的標的化および殺滅を可能にすると同時に、正常な(非癌性)複製細胞の生き残りを可能にする。
【0042】
USP4阻害剤は、既知のUSP4阻害剤、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、抗体、ペプチド、小分子化合物、RNA系薬剤(これだけに限定されるものではないが、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)および/またはマイクロRNA(miRNA)を含む)分子、あるいはその他の好適な化学物質であってもよい。一実施形態において、USP4阻害剤は、抑制性RNA分子または小分子化合物として機能するRNA分子である。また、RNAレベルは、miRNAの導入によっても調節され得る。また、RNAおよびDNA分子は、アプタマーを形成し得る。一実施形態において、USP4阻害剤は、阻害性(RNAi)分子などのRNA系薬剤、または小分子化合物である。
【0043】
USP4阻害剤は、USP4に関して特異的であっても、または選択的であってもよい。
【0044】
「抗体」に対する言及は、これだけに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体を含む。抗体は、VHまたはVLドメイン、一本鎖抗体分子(scFv)、抗原結合性フラグメント(Fab)または「第三世代」フラグメント(3G−必須でないと見なされたドメインを取り除くことによって完全な大きさの抗体から得られた小型化された抗体)を含めた抗体フラグメントまたはその誘導体であってもよい。一実施形態において、抗体はヒトの抗体であるが、もう一方の実施形態において、抗体は、動物由来の抗体またはヒト化抗体であってもよい。
【0045】
「RNA干渉(RNAi)」に対する言及は、細胞への二本鎖RNA(RNAi)の導入がRNAi配列の一方に相補的なmRNAの阻害をもたらすことによって遺伝子機能を「ノックダウン」するために使用される技術を指す。これは、siRNA、shRNA、およびmiRNAを含めえたさまざまなRNA分子型によって実現できる。
【0046】
(Okada K et al., Bioorg Med Chem Lett, 2013, Aug 1; 23(15) 4328-31に記載のように)シイタケ(Thelephora vialis)から単離された小分子化合物Vialinin Aなどの既知のUSP4阻害剤およびその誘導体が、本発明に従って使用されるものであって、それらを本明細書中に援用する。
【0047】
患者/対象は、彼らのUSP4状態に基づいて、USP4阻害剤を用いた処置に関してスクリーニングまたは選抜され得る。例えば、USP4の発現レベル、またはUSP4が不完全か否か決定され得る。USP4の発現および性質を決定するために、例えば、他のDDR経路構成要素のための以下で記載した方法などの標準的な方法が使用され得る。
【0048】
DNA損傷応答(DDR)経路は、それによって遺伝子材料に対する損傷を細胞が感知し、シグナル伝達し、そして、修正するさまざまなプロセスである。DNA損傷は、例えば、化学療法、放射線治療法、UV光、複製エラー、およびアルキル化剤によって引き起こされる可能性がある。
【0049】
1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞は、正常機能が部分的にまたは完全に損なわれるような、機能不全であるかまたは不完全である1若しくは複数のDDR経路を有している可能性がある。
【0050】
DDR経路は、塩基除去修復(BER)、一本鎖切断修復、ミスマッチ修復、ヌクレオチド除去修復(NER)、転写共役修復、非相同的末端結合修復、損傷乗り越え合成、ならびに、相同的組み換え修復;二本鎖切断(DSB)シグナル伝達およびDNA鎖間架橋修復(Fanconi Anaemia経路を含む)を含めた二本鎖切断修復プロセスのうちの1以上から選択され得る。
【0051】
DDR経路の欠損は、相同的組み換え修復、塩基除去修復、一本鎖切断修復、ミスマッチ修復、ヌクレオチド除去修復、転写共役修復、非相同的末端結合修復、損傷乗り越え合成またはDNA鎖間架橋修復に関与するタンパク質をコードする遺伝子の突然変異、不存在、または欠陥性発現による可能性がある。
【0052】
ある実施形態において、DDR経路の欠損は、二重鎖切断の修復にかかわる。特に、細胞は、相同的組み換え(HR)修復または非相同的末端結合(NHEJ)修復から選択される1若しくは複数のDDR経路を欠損し得る。
【0053】
特定の実施形態において、DDR経路の欠損は、ATR、BRCA2、リガーゼIV、およびXRCC4のうちの1以上から選択されるタンパク質をコードする遺伝子の突然変異、不存在、欠陥性発現に起因し得る。
【0054】
特定の実施形態において、1若しくは複数のDDR経路を欠損する細胞は、化学療法薬などのDNA損傷薬に対して高い感受性を有する。
【0055】
「ATR」に対する言及は、一本鎖DNA損傷、複製フォークの傷およびゲノムの脆弱部位のメインテナンスなどのDNA損傷を示す一本鎖DNAの永続的な存在によって動員および活性化されるキナーゼのPI3KKサブファミリー(PI3K関連キナーゼ)に属するセリン/トレオニンタンパク質キナーゼであって毛細管拡張性運動失調およびRad3に関連したものを指す。一本鎖DNAは、これだけに限定されるものではないが、ヌクレオチド除去修復、ミスマッチ修復、塩基除去修復、および相同的組み換えを含めた、いくつかのDDR経路の中間体である。このキナーゼは、チェックポイントキナーゼCHK1、チェックポイントタンパク質RAD17、RAD9、ならびに腫瘍サプレッサタンパク質BRCA1をリン酸化することが示された。この遺伝子の突然変異は、ゼッケル症候群に関連している。
【0056】
「BRCA2」は、乳癌2型感受性タンパク質を意味する。BRCA1またはBRCA2遺伝子における異型接合生殖細胞変異のキャリアは、乳癌、卵巣癌、および他の臓器の癌に非常に罹患しやすい。BRCA1およびBRCA2タンパク質は、ゲノムの不安定性および突然変異の促進によって癌の進行を助長しそうな腫瘍の野生型BRCA1またはBRCA2対立遺伝子の相同的組み換えおよび欠損による二本鎖切断の修復のために決定的に重要である。
【0057】
「リガーゼIV」または「Lig IV」は、DNA二本鎖切断を修復するために非相同的末端結合(NHEJ)経路中に二本鎖切断をつなぎ合わせるDNAリガーゼIV、ATP依存性DNAリガーゼを意味する。このタンパク質は、エックス線修復交差相補タンパク質4(XRCC4)との複合体を形成し、さらに、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA−PK)と相互作用する。この遺伝子の欠陥は、急性放射線感受性、免疫不全および骨髄異常などの症状を伴うLIG4症候群の原因である。
【0058】
「XRCC4」は、エックス線修復交差相補タンパク質4を意味する。これは、DNA二本鎖切断を修復するためのNHEJ経路に関与するいくつかのコアタンパク質のうちの1つである。このタンパク質は、先に述べたように、リガーゼIVと複合体を形成する。非相同的末端結合経路は、正常な発生および腫瘍の抑制の両方に必要である。XRCC4多型性は、膀胱癌、乳癌、前立腺癌、肝細胞癌腫、リンパ腫、多発性骨髄腫などの癌への罹患のリスクにつながった。
【0059】
1若しくは複数の白金系化学療法剤に対して効果的に応答しない腫瘍細胞は、白金系化学療法に耐性であると記述され得る。斯かる細胞は、白金系化学療法薬に対して感受性の腫瘍細胞と比較して、白金系化学療法薬の存在下で持続的に生存可能である固有のまたは獲得された細胞機構のいずれかをおそらく有しており、そのため、より多くの用量が細胞殺滅を達成するのに必要である。白金系処置に難治性である、すなわち、白金系化学療法に対して部分奏功さえ示さないか、または初めは白金系化学療法に反応するが、しかし、その後、処置の完了後の短期間の間に再発する腫瘍細胞もまた、耐性と規定され得る。斯かる細胞は、白金系化学療法薬の存在下で持続的に生存可能である固有のまたは獲得された細胞機構のいずれかをおそらく有しており、したがって、より多くの用量が細胞殺滅を達成するために必要である。処置後の癌細胞の再発は、即座であっても、または短期間の間での再発であってもよい。今回は、様々な腫瘍型について様々に規定され得るが、今回の卵巣癌では、6カ月の期間としてGynaecologic Oncology Groupによって測定された。これにより、6カ月以内に再発する癌は、白金系薬剤に耐性である傾向がある。
【0060】
白金系化学療法に対する耐性は、これだけに限定されるものではないが、肺癌、卵巣癌、膀胱癌、結腸直腸癌、食道癌、頭頚部癌、精巣癌、乳癌、子宮頚癌、および胃癌を含めたさまざまな癌で起こる。
【0061】
白金系化学療法剤/処置は、当業者に知られていて、例えば、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン、ネダプラチン、トリプラチン、およびサトラプラチンが挙げられる。
【0062】
さらに、USP4の阻害が、これらの活性レベルをさらに低減することによって、二本鎖切断修復タンパク質の活性低下により腫瘍細胞を選択的に殺滅し得ることが認められる。
【0063】
二本鎖切断修復プロセスに関与するタンパク質をコードする遺伝子の突然変異、不存在、または欠陥性発現を有する癌細胞は、USP4阻害の存在下で選択的に殺滅される。図9a〜9f、11a〜11d、12a〜12b、および13は、USP4が二本鎖切断の修復を促進することを明確に示す。
【0064】
DNA二本鎖切断(DSB)は、ゲノム材料の再配列または欠損をもたらす可能性があるDNA損傷の有害形態であり、最終的に細胞死または発癌に通じる。DSBは電離放射線(IR)によって引き起こされ得るが、それらはまた、DNA複製、およびV(D)J組み換えを含めた正常な内因性プロセス中にも起こる。
【0065】
実施例は、ATR、BRCA2、リガーゼIV、およびXRCC4を欠損する癌細胞、または白金系化学療法に対して耐性を有する細胞が、USP4阻害の存在下で選択的に殺滅されることを実証する。これにより、還元されたATR、BRCA2、リガーゼIVおよびXRCC4を有するか、または白金系化学療法に対して耐性を有する腫瘍が、USP4に高度に依存している。
【0066】
さらなる実施形態において、癌の処置において使用するためのUSP4阻害剤を提供し、ここで、該癌は、白金系化学療法に対して耐性を有する細胞、または1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞を含み、ここで、斯かる欠損は、ATR、BRCA2、リガーゼIV、およびXRCC4の1以上から選択されるタンパク質をコードする遺伝子の突然変異、不存在、または欠陥性発現に起因する。
【0067】
ある実施形態において、白金系化学療法に対して耐性を有する細胞、または1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞を含む癌の処置において使用するためのUSP4阻害剤を提供し、白金系化学療法に対して耐性を有する細胞、または1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞が、生存のためのUSP4関連経路に高度に依存する。
【0068】
本発明の一態様において、USP4阻害剤は、1若しくは複数の追加の抗腫瘍性治療剤、例えば、放射線または化学療法薬、あるいは、他の調節タンパク質/他のDNA損傷応答タンパク質の阻害剤、に組み合わせられてもよい。この併用治療は、癌に罹患している対象に適用されてもよい。発明者らはまた、実施例および図面に示されているように、抗腫瘍性治療法を伴ったUSP4阻害剤の併用療法も同一視した。これにより、USP4阻害剤の使用は、別の抗腫瘍性治療法を用いた処置に対して癌細胞を増感する。これは、化学的抗腫瘍性製剤または放射線系抗腫瘍性製剤に関して増感されている可能性がある。この実施形態において、癌細胞は、DDR経路に欠陥を有する必要はない。
【0069】
組み合わせが物理的な組み合わせである必要はないが、USP4阻害剤と抗腫瘍性治療剤が別々にまたは連続して適用される併用療法であることは理解されるであろう。
【0070】
任意の好適な組み合わせは、USP4阻害剤と追加の抗腫瘍性治療剤の使用であり得る。
【0071】
本発明のこの態様において、USP4阻害剤は、1若しくは複数の追加のまたはさらなる抗腫瘍性治療剤の使用で殺滅するために癌細胞を準備する、増感剤、すなわち、化学増感剤または放射線増感剤として作用すると考えられる。
【0072】
抗腫瘍性治療剤は、腫瘍または癌を処置するために好適な任意の製剤であってよい。
【0073】
追加の抗腫瘍性治療剤は、ATR阻害剤、BRCA2阻害剤、リガーゼIV阻害剤、およびXRCC4阻害剤から選択されてもよい。一実施形態において、ATR阻害剤は、AZD6738およびVE−822のうちの1以上から選択されてもよい。ある実施形態において、XRCC4の阻害剤は、S−(ジメチルアルシン)システイン、ミリセチン、およびいくつかのキサントン系化合物のうちの1以上から選択されてもよい(Sun et a I, J Biomol Struct Dyn (2011) 29(2):325-37)。ある実施形態において、リガーゼIV阻害剤は、SCR7(Srivastava et al. Cell (2012) 151(7): 1474-87)またはL189(Chen et al, Cancer Res (2008) 68(9):3169-77)から選択されてもよい。
【0074】
USP4阻害剤は、イオン化照射および/または以下の化学療法薬:白金、PARP阻害剤、架橋剤、トポイソメラーゼI化学療法薬、トポイソメラーゼII化学療法薬、アルキル化剤、および放射線類似作用薬、に組み合わせられてもよい。よって、イオン化照射および化学療法剤は、本発明による追加の抗腫瘍性治療剤である。
【0075】
USP4阻害剤は、PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)阻害剤に組み合わせられてもよく、そしてそれは、抑制性RNA(RNAi)分子であってもよい(PARPi)。さらなる実施形態において、PARP阻害剤は、イニパリブ(BSI201)、オラパリブ(AZD−2281)、ルカパリブ(AG014699、PF−01367338)およびベリパリブ(ABT−888)、MK−4827、CEP−9722、E7016(GPI−21016)、LT−673、MP−124、NMS−P118のうちの1以上から選択されてもよい。PARPは、一本鎖DNA(ssDNA)破断の修復における役割を果たすポリ−(ADP−リボース)ポリメラーゼ酵素を意味する。PARPファミリーは17種類のメンバーを含み、すべてがDNA修復および細胞死における役割を有すると考えられた。PARP−1およびPARP−2は共に、DNAの一本鎖の破断によって活性化される。
【0076】
追加の抗腫瘍性治療剤は、白金系化学療法であってもよい。好適な白金系化学療法としては:カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、ピコプラチン、ネダプラチン、トリプラチン、およびサトラプラチンが挙げられる。
【0077】
追加の抗腫瘍性治療剤は、架橋剤であってもよい。好適な架橋剤としては、シスプラチン、マイトマイシンC、メルファラン、およびシクロホスファミドが挙げられる。
【0078】
USP4阻害剤は、トポイソメラーゼI化学療法薬またはトポイソメラーゼII化学療法薬である追加の抗腫瘍性治療剤に組み合わせられてもよい。化学療法薬としては、トポイソメラーゼIおよび/またはIIの活性抑制剤および阻害剤を挙げることもできる。活性抑制剤は、トポイソメラーゼを阻害するよりむしろトポイソメラーゼDNA複合体を標的とする化合物であってもよい。好適なトポイソメラーゼI化学療法薬としては、カンプトテシン、イリノテカン、トポテカン、およびラメラリンDが挙げられる。好適なトポイソメラーゼII化学療法薬としては、エトポシド(VP−16)、テニポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ミトキサンチン、アムサクリン、エリプチシン、オーリントリカルボン酸およびHV−331が挙げられる。
【0079】
追加の抗腫瘍性治療剤は、アルキル化剤であってもよい。好適なアルキル化剤としては、ベンダモルフィン、ブスルファン、クロラムブシル、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、イソファミド、テモゾロミド、およびシクロホスファミドが挙げられる。
【0080】
追加の抗腫瘍性治療剤は、放射線類似作用薬であってもよい。好適な放射線類似作用薬としては、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、およびストレプトニグリンが挙げられる。
【0081】
追加の抗腫瘍性治療剤は、紡錘体阻害剤または抗有糸分裂薬であってもよい。好適な紡錘体阻害剤としては、タキサン(パクリタキセルを含む)、メベンダゾール、コルヒチン、グリセオフルビン、およびビンカアルカロイドが挙げられる。
【0082】
追加の抗腫瘍性治療剤は、代謝拮抗製剤であってもよい。好適な代謝拮抗製剤としては、フルロピリミジン、アザチオプリン、およびメルカプトプリンが挙げられる。
【0083】
追加の抗腫瘍性治療剤は、ヌクレオシド類似物質または核酸塩基類似物質であってもよい。好適な類似物質としては、ビダラビン、シタラビン、およびゲムシタビンが挙げられる。
【0084】
特定の実施形態において、追加の抗腫瘍性治療剤は、電離放射線(IR)、あるいは、ブレオマイシン、エトポシド、カルボプラチン、カンプトテシン、オラパリブ、またはそれらの組み合わせから選択される化学療法薬を含むリストから選択される。
【0085】
癌または腫瘍としては、これだけに限定されるものではないが、乳房、卵巣、前立腺、肺、腎臓、胃、結腸、精巣、頭頚部、膵臓、脳、黒色腫、食道、膀胱、子宮頚部、子宮内膜、骨または他の組織臓器の癌、および例えば、リンパ腫や白血病などの血球細胞の癌が挙げられる。
【0086】
USP4が、本明細書中に記載の他の/追加の抗腫瘍性治療剤と組み合わせて使用される場合、組み合わせは、一緒に(at the same time)、同時に(simultaneously)、連続して、または別々に対象に適用されてもよいことが、当業者には理解される。USP4阻害剤および追加の抗腫瘍性治療剤はそれぞれ、例えば、異なった経路によって投与されてもよい。投与の経路は、以下でさらに考察され、USP4阻害剤と追加の抗腫瘍性治療剤に等しく適用される。
【0087】
USP4阻害剤と追加の抗腫瘍性治療剤は、彼らの癌が1若しくは複数のDDR経路を欠損する細胞を含むか、または彼らの癌が白金系化学療法に耐性である細胞を含む対象で使用されてもよい。
【0088】
実施例で実証されるように、併用療法は、USP4阻害剤に関してイオン化照射または以下の化学療法薬:白金、PARP阻害剤、架橋剤、トポイソメラーゼI化学療法薬、トポイソメラーゼII化学療法薬、アルキル化剤、および放射線類似作用薬、と同定された。
【0089】
追加の抗腫瘍性治療剤に関連したUSP4阻害剤の使用は、癌細胞の選択的標的化を可能にし、その結果、化学療法薬に関連する既知の副作用を低減する、従来の化学療法を超える治療利点を示す。
【0090】
ある実施形態において、USP4阻害剤は、癌の処置に有用であり、ここで、該癌は、抗癌剤を用いた処置に少なくとも部分的に感受性である。例えば、抗癌剤は、電離放射線(IR)であっても、またはPARP阻害剤(例えば、オラパリブ)、トポイソメラーゼIまたはII化学療法薬(例えば、カンプトテシンまたはエトポシド)、白金系化学療法薬、例えば(例えば、シスプラチン)など、架橋剤(例えば、マイトマイシンC)アルキル化剤(例えば、イソファミド)および/または放射線類似製剤(例えば、ブレオマイシン)から選択される化学療法薬であってもよい。USP4阻害剤は、別の抗腫瘍性治療剤と組み合わせて斯かる癌を治療するために使用されるのが好ましい。
【0091】
本発明のさらなる態様によれば、癌の処置において使用するために好適なUSP4の阻害剤のためのスクリーニング方法を提供し、ここで、該癌は、1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞または白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含む。
【0092】
USP4の阻害剤は、以前に考察され、そして、USP4の活性を低減する製剤であり得、USP4の拮抗薬または逆作動薬を含む。例としては、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、抗体、アプタマー、ペプチド、小分子化合物、RNA系薬剤(これだけに限定されるものではないが、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)および/またはマイクロRNA(miRNA)が含まれる)分子またはその他の好適な化学物質が挙げられる。低減とは、部分的であっても、または完全であってもよい。USP4の固有活性が損なわれるが、その基質または補因子に結合するUSP4の能力には影響しないように機能する製剤もまた、本発明の任意の態様の範囲内に含まれる。
【0093】
USP4は、「Short protocols in molecular biology」 Ausubel et al, Wiley, Fourth Edition, 1999に記載の方法を含めた、任意の従来の手段によってスクリーニングのために単離され得る。
【0094】
スクリーニング方法は、以下のステップ:
a)哺乳動物細胞から精製されたまたは遺伝子組み換えUSP4複合体を得、
b)単離されたUSP4を、1若しくは複数の試験製剤およびUSP4の適切な基質と接触させ、
c)USP4活性の低減を実証する製剤を選択すること、
を含み得る。
【0095】
一実施形態において、ステップc)で同定された製剤は、ナノモル濃度(nM)またはマイクロモル(μΜ)の範囲の結合親和力を有する。別の実施形態において、製剤は、他のタンパク質への結合が有意に減少するかまたは存在しないような、USP4への特異的な結合を実証する。
【0096】
特に、USP4の適切な基質は、蛍光偏光基質としてイソペプチド結合を介してユビキチンに連結されたTAMRA標識ペプチドである。
【0097】
精製したかまたは遺伝子組み換えのUSP4阻害剤を同定するために使用されるさらなる方法は、当業者によって理解される。特定の実施形態において、USP4の低減は、触媒能における低減である。
【0098】
本発明のさらなる態様によれば、1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を成熟して有する、もしくは欠損する細胞株、または白金系化学療法に対して耐性を有する細胞の同質遺伝子型対を使用する、USP4の阻害剤のスクリーニング方法を提供する。USP4阻害剤は、成熟または感受性細胞と比較して、欠損又は耐性の細胞においてより強力に作用する。
【0099】
USP4の活性における低減は、少なくとも1つのDDR経路を欠損する細胞の細胞増殖における低減によってインビトロで計測され得る。特定の実施形態において、細胞増殖における低減は、細胞周期停止またはアポトーシスに起因する。特定の実施形態において、USP4の触媒能における低減は、USP4の脱ユビキチン化活性の低減によってインビトロで計測される。
【0100】
USP4の触媒能の阻害は、Tirat et al, (Anal Biochem 343 (2005) 244-255)に記載の方法を含めたインビトロ法を使用して計測され得る。
【0101】
試験薬は、小分子、ペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、アプタマー、オリゴヌクレオチド、先に記載したRNA分子、抗体またはそのライブラリであってもよい。
【0102】
本発明のさらなる態様によれば、USP4阻害剤に対する癌に罹患している対象の応答性を決定する方法を提供し、該方法は、癌が1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞、または白金系化学療法に対して耐性を有する細胞を含むか否かを決定することを含み、ここで、前記不安定性または前記耐性の存在が、対象がUSP4阻害剤に感受性であることを示す。一実施形態において、DDR経路は、二本鎖切断修復、特に非相同的末端結合(NHEJ)および相同的組み換え(HR)に関与する。
【0103】
任意選択で、例えば、対象の応答性を決定するかまたは対象を選択するといった任意の本発明の方法が、対象の非発癌(正常)細胞が前記のDDR経路を欠損する細胞を含むか否かを決定することをさらに含んでもよい。対象の正常細胞および癌細胞は、癌細胞が正常細胞に対して1若しくは複数のDDR経路を欠損する場合に、比較して決定され得る。癌細胞が1若しくは複数のDDR経路を欠損しており、かつ、正常細胞が前記経路を欠損することが、場合によっては好ましい可能性もある。任意選択で、正常細胞は、多分、DDR経路遺伝子の突然変異に関して異型接合であるか、またはDDR経路遺伝子に多型性を担持するのに対して、前記経路を欠損していない。
【0104】
実施例は、癌細胞においてDNA損傷応答タンパク質ATR、BRCA2、リガーゼIV、およびXRCC4のうちの1以上の欠損、または白金系化学治療法に対する耐性が、USP4がサイレンス化された細胞の選択的殺滅をもたらすことを実証した。そのため、癌細胞における機能的ATR、BRCA2、リガーゼIV、およびXRCC4タンパク質の不存在、または白金系化学療法に対する耐性は、USP4阻害剤処置の利益を得るであろう患者の選択またはスクリーニングに使用できる有用なバイオマーカーの典型である。USP4阻害剤処置に好適な癌患者のスクリーニングには、先に記載のDNA損傷応答タンパク質の欠損が存在しない患者の処置が避けられ、これにより、関連患者集団が標的とされるのを確実にするという利点がある。以前には有効であった白金系化学療法に対して耐性になった患者が、さらなる治療オプションを有することをさらに確実にする。
【0105】
特定の実施形態において、USP4阻害剤に対する対象の応答性は、ATR、BRCA2、リガーゼIV、およびXRCC4機能タンパク質から選択される1若しくは複数のバイオマーカーの癌細胞における不存在によって決定される。特定の実施形態において、USP4阻害剤に対する対象の応答性は、癌細胞におけるATR、BRCA2、リガーゼIV、およびXRCC4をコードする遺伝子配列の1若しくは複数のアミノ酸または核酸の突然変異の存在によって決定される。USP4阻害剤に対する対象の応答性は、癌細胞におけるATR、BRCA2、リガーゼIV、およびXRCC4のmRNAのレベルを計測することによって決定されてもよく、ここで、異常な低レベルは、対象がUSP4阻害剤に感受性であることを示す。
【0106】
さらなる態様によれば、USP4阻害剤を用いた処置での前記癌の感受性を決定するためのバイオマーカーとしての突然変異BRCA2遺伝子、突然変異BRCA2タンパク質、突然変異ATR遺伝子、突然変異ATRタンパク質、突然変異LIG4遺伝子、突然変異リガーゼIVタンパク質、突然変異XRCC4遺伝子または突然変異XRCC4タンパク質の、癌細胞のサンプル中での存在の使用を提供する。
【0107】
癌細胞のサンプルは、生検検体を含めた任意の標準的手法に従って採取され得る。
【0108】
ある実施形態において、バイオマーカーは、USP4阻害剤を単独で、またはさらなる抗腫瘍性治療剤と組み合わせて用いた処置に対する前記癌の感受性を決定する。
【0109】
一実施形態において、前記方法は、USP4阻害剤に対する癌細胞の応答性を確認することをさらに含み、ここで、前記欠損の存在が、癌細胞がUSP4阻害剤に感受性であることを示す。
【0110】
特定の実施形態において、癌細胞は、欠陥性のBRCA2、XRCC4、リガーゼIV、ATRまたはそれらの組み合わせを有する。欠陥は、BRCA2、XRCC4、LIG4またはATR遺伝子中、BRCA2、XRCC4、LIG4、またはATR遺伝子の発現、あるいは、BRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRタンパク質、例えば翻訳後修飾などに存在し得る。
【0111】
よって、欠陥性のBRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRは、これらのタンパク質をコードする遺伝子の突然変異、不存在、または、欠陥性発現に起因し得る。欠陥性BRCA2、XRCC4、LIG4またはATR遺伝子、あるいはその発現は、突然変異であっても、不存在であっても、または欠損していてもよい。欠陥性BRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRが、USP4阻害剤による処置に対する癌細胞の感受性のそれぞれ個別的な前兆となる有用なバイオマーカーであることがわかった。特に、突然変異BRCA2、XRCC4、LIG4またはATR遺伝子、欠損性または存在しないBRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRタンパク質が、USP4阻害剤を用いた処置から生じる増強された細胞殺滅とよく相関することがわかった。
【0112】
本発明の一態様によれば、USP4阻害剤に対する癌に罹患している対象の感受性を決定する方法を提供し、該方法は、癌が欠陥性BRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRを有する細胞を含むか否かを決定することを含み、ここで、前記欠陥の存在は、対象がUSP4阻害剤に対して応答性であることを示す。欠陥が存在する場合、対象はUSP4阻害剤で処置され得る。
【0113】
欠陥は、BRCA2、XRCC4、LIG4またはATR遺伝子、BRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRタンパク質、あるいは、後者の発現におけるあらゆる欠陥、例えば先に考察されたものなどであり得る。癌細胞が、BRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRタンパク質をコードするヌクレオチドに突然変異を有するか否かを決定することは、任意の好適な方法で実施できる。
【0114】
任意選択で、対象からの正常細胞のサンプルもまた試験されてもよい。正常細胞が、先に考察されたものなどの、BRCA2、XRCC4、LIG4まATR遺伝子、BRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRタンパク質、あるいは後者の発現にいずれかの欠陥を有するか否かを決定するために、正常細胞は、先に記載したように分析され得る。正常細胞と癌細胞は、BRCA2、XRCC4、LIG4またはATR遺伝子、BRCA2、XRCC4、リガーゼIVまたはATRタンパク質、または後者の発現におけるいずれかの欠陥が癌細胞だけに存在するか否かを決定するために比較され得る。正常細胞は、恐らく、BRCA2、XRCC4、LIG4またはATR遺伝子内の突然変異に関して異型接合であるか、あるいは、BRCA2、XRCC4、LIG4またはATR遺伝子内に多型性を担持するが、前記DDR経路を欠損していない。
【0115】
BRCA2遺伝子は、26個のコーディングエクソンを含み、長さが約10,200塩基対である。野生型遺伝子は、3418個のアミノ酸を含むタンパク質をコードする。BRCA2の様々な突然変異は癌に関連している。これらとしては、コピー数の異常、欠失または重複突然変異、タンパク質が成熟前に短縮されるナンセンスおよびフレームシフト突然変異、ミスセンス突然変異および非コーディング介在配列(IVS)突然変異、全体または複数のエクソンの欠失および重複突然変異、大規模なゲノム再配列、インフレーム欠失/重複および配列突然変異、例えばヌクレオチドの挿入、欠失または置換などが挙げられる。癌リスクの増加に関連していることが知られている多型性、欠失、および挿入の例は、c.5946delT、c.8363G>A,c.8754+lG>A,c.3860delA、c.7806−2A>G、c.8357_8538delAG、c.3170_3174del5、c.5857G>T、c2808_2811del4、c.6629_6630delAA、c.9026_9030del5、c.9310_9311delAA、c.5146_5149del4、c.l56_157insAlu、c.516+lG>A、c.6275_6276delTT、c8904delC、c.5351dupA、c.6275_6276delTT、c.1813dupA、c.4478del4、c.9098dupA、c.7913_7917del5、c.8357_8538del2、c.9098dupA、c.5946delT、c.8755delG、c.6373delA、C.1310_1013del4、c.6486_6489del4、c.3847_3848delGT、c.4528delG、c.2808del4、c.3847delGT、c.7480C>T、c.8327T>G、c.9118−2A>G、c.9117+lG>A、c771_775del5、c.6275_6726delTTおよびc.l929delGである(BRCA2は、Genbank U43746参照配列に従って付番)。これらのバリエーションのすべてが検出できる。
【0116】
すべての突然変異が、Human Genome Variation Societyの推奨−http://www.hgvs.org/rec.htmlに従って命名される。
【0117】
ATRの突然変異は、遺伝子の非コードまたはコード部分を含めた、ATRのヌクレオチド配列のあらゆる部分に存在し得る。突然変異は、翻訳されるべきATRの不存在の原因となり得るか、または切断型もしくは短縮版のATRを許容し得る。あるいは、ATRの突然変異は、1若しくは複数のヌクレオチド、挿入、欠失または置換の突然変異であってもよい。置換されたアミノ酸残基c.6431A>G(p.Gln2144Arg)をもたらすミスセンス突然変異は、中咽頭癌病巣に関連し得る(NCBI RefSeq受入番号NM_001184.3)。癌に関連している他の置換されたアミノ酸残基は、p.Glu2537Gln、p.Glu2438Lys、p.Alal488Proおよびp.Ala2002Glyである(GenBank受入番号:U76308.1に従って付番)。
【0118】
XRCC4の多型性は、例えば膀胱癌、乳癌、前立腺癌、肝細胞癌腫、リンパ腫、および複数の骨髄腫などの癌に罹患するリスクにつながった。そうしたものの例としては、XRCC4遺伝子の多型性rs2075686(C>T)およびrs6869366(G−1394T)は、乳癌の高いリスクに関連している。また、ミスセンス突然変異体rs3734091(c.739G>T、p.Ala247Ser)も乳癌に関連している。イントロン3の欠失rs28360071は、口腔癌に関連している。6,000を越えるXRCC4の突然変異または多型性が報告され、それらのうちのいくつかが癌に罹患するリスクにつながる。
【0119】
ヒトXRCC4遺伝子配列は、Genbank受入番号:AH008055.1として入手可能であり、そしてそれは、選択的スプライシング産物を示す。XRCC4タンパク質配列は、GenBank受入番号:AAD47298.1として入手可能である。
【0120】
リガーゼIV欠陥は、DNAリガーゼIV cDNAの833位におけるGからAへの突然変異変化を含む可能性があり、そしてそれは、白血病に関連することが示されている、278位のアミノ酸におけるアルギニンからヒスチジンへの置換をもたらす(R278H)。癌に関連していることが示された他の代表的な突然変異としては、rsl0131、rsl805388、rsl805386およびrs4987182(T1977C)が挙げられる。
【0121】
LIG4遺伝子の約300の突然変異または多型性が、現在知られている。
【0122】
DNAリガーゼIV参照配列は、NG_007396.1、またはGenBank:AF479264.1(核酸およびタンパク質の両方)で見つけられる。
【0123】
これらの遺伝子の単一ヌクレオチド多形または他の突然変異は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/(NCBI dsSNP Short Genetic Variationsデータベース)および/またはhttp://www.uniprot.org/docs/humsavar(UniProt Human多型性および疾患突然変異データベース)にて見つけることもできる。
【0124】
細胞が欠陥性DDR経路構成要素を有するか否かの決定が、任意の技術的手段によって実施され得る。前記手段は、例えば、BRCA2、LIG4、ATRまたはXRCC4遺伝子のヌクレオチド突然変異、ヌクレオチド付加またはヌクレオチド欠失に関してDNAを調べることによって、遺伝的変化についての分析に基づくものであり得る。さらに、DNAは、反転、翻訳、転座、ヘテロ接合の消失(LOH)、欠失、および/または増幅を含めた、これらの遺伝子に影響するより大きい規模の変化について調査され得る。あるいは、細胞は、遺伝子の発現を変更する可能性がある、DNAメチル化またはクロマチン再構築などの後成的変化に関して調査され得る。癌細胞に不完全なBRCA2、ATR、リガーゼIVまたはXRCC4があるか否かを決定するさらなる手段としては、それらのそれぞれの遺伝子からのRNAまたはmRNA発現に基づく決定が挙げられる。さらなる代替の手段は、野生型配列と比較したポリペプチド配列における突然変異か、または翻訳後修飾、すなわち、グリコシル化、リン酸化またはメチル化の存在または不存在などのタンパク質の修飾に基づく手段である。斯かる変化は、突然変異または翻訳後修飾に特異的な抗体の使用を含めた標準的な技術によって検出され得る。あるいは、欠陥タンパク質は、XRCC4、リガーゼIV、ATRまたはBRCA2タンパク質発現に基づいて検出でき、そしてそれは、ウェスタンブロット法などの標準的な技術によって確立できる。本明細書中に概説した技術のいずれかを使用して不完全なBRCA2、リガーゼIV、XRCC4またはATRを含む循環DNA、mRNAまたは細胞に関して、対象からの血液サンプルを観察することが可能である。異常な遺伝子産物を可視化するために、免疫組織化学が使用されてもよい。さらに、癌細胞は、任意の好適なアッセイを使用して、機能的なDNA修復活性について試験できる。例えば、相同的組み換え欠損スコア(HRD)が決定できる(例えば、Myriad Genetics, Abkevich et a I, British Journal of Cancer (2012) 107, 1776-1782), Collins, A. R. (March 2004)などに記載の方法)。代替の機能的なDNA修復アッセイとしては、単細胞ゲル電気泳動アッセイ(SCGE、Cometアッセイとしても知られている)(Collins, A. R. (March 2004). Mol Biotechnol. 26 (3): 249-61)およびRad51焦点アッセイ(Mukhopadhyay et al, Clin Cancer Res April 15, 2010 16; 2344)が挙げられる。斯かるアッセイは、DNA修復活性をアッセイするために臨床サンプルで使用され得る。
【0125】
例えば、ヌクレオチド突然変異は、任意のDNA配列決定、すなわち、リアルタイムPCRに基づくアッセイ、プライマ伸長アッセイ、Sanger配列決定アッセイ、または定量的並列パイロシークエンシング法、によって検出され得る。
【0126】
本発明の態様によれば、USP4阻害剤を用いた処置のために癌に罹患している対象を選択する方法を提供し、該方法は、癌が不完全なBRCA2、リガーゼIV、XRCC4またはATRを有する細胞を含むか否かを決定すること、あるいは、処置のための不完全なBRCA2、リガーゼIV、XRCC4またはATRを示す前記対象を選択することを含む、方法を提供する。前記方法は、癌細胞が先に規定した不完全なBRCA2、リガーゼIV、XRCC4またはATRを有するか否かの決定を伴ってもよい。選択に続いて、患者はUSP4阻害剤を用いて処置され得る。前記方法は、任意選択で、正常(非発癌)細胞が先に規定した不完全なBRCA2、リガーゼIV、XRCC4またはATRを有するか否か決定することをさらに伴っても、あるいは、正常細胞がBRCA2、XRCC4、LIG4またはATR遺伝子の突然変異のための異型接合である場合、またはBRCA2、XRCC4、LIG4またはATR遺伝子の多型性を担持する。
【0127】
前記方法は、各対象に関する処置を最適化するために、USP4阻害剤の適切な用量の選択を支援するために使用されてもよい。前記方法は、USP4阻害剤を用いた処置の有効性を決定するために使用されてもよい。例えば、前記方法は、不完全なBRCA2、リガーゼIV、XRCC4またはATRを含む癌細胞のサンプル中の細胞の量または割合を定量化するために使用されてもよい。この量/割合の減少または増加が、USP4を用いた処置が有効であることを示し得る。
【0128】
別の実施形態において、USP4阻害剤に対する対象の応答性は、白金系化学療法に対して耐性を有する癌細胞の存在によって決定される。耐性は、白金系化学療法を用いた事前の処置に続く、腫瘍増殖の持続または再発、および/または転移の存在によって検出される。あるいは、対象の応答性は、白金系化学療法製剤に晒されたとき、腫瘍細胞の生存率を測定するインビトロアッセイによって決定される。斯かる方法は、当該技術分野の当業者に知られており、患者が白金系処置に対する耐性を有する癌を有するか否かの決定は、臨床医によって実施される所定の評価である。6カ月未満の白金系化学療法に応答する癌細胞を有する患者は、白金系処置に対して耐性を有する癌に罹患していると規定され得る。
【0129】
本発明のさらなる態様によれば、任意の医薬的に許容し得る担体、担体またはビヒクルと組み合わせた、癌の処置に使用するためのUSP4阻害剤を含む医薬組成物を提供し、ここで、該癌が1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路を欠損する細胞を含む。
【0130】
医薬組成物は、活性物質および1若しくは複数の医薬的に許容される賦形剤を含む組成物であってもよい。
【0131】
好適な医薬的に許容される賦形剤は、当業者に知られていて、そして、一般的に、動物に本発明のUSP4阻害剤を投与するために好適な、許容される組成物、材料、担体、希釈剤またはビヒクルを含む。
【0132】
動物は、哺乳動物、好ましくはヒトであってもよい。
【0133】
医薬組成物は、癌細胞を標的化するのに好適な任意の有効な様式、例えば、経口、静脈内、筋肉内、鼻腔内または局所的方法で投与され得る。医薬組成物は、例えば、外科的処置中に、腫瘍の部位に直接的に投与されても、または、点滴法によって投与されてもよい。
【0134】
投薬量は、患者の要件、処置される病状の重症度、および利用される有効成分の特徴によって変更されてもよい。有効量の決定は、不当な負担なしに、当業者の権限の範囲内である。ヒトを含めた哺乳動物への投与のための好適な剤形は、一般的に、最大100mg/kg体重の範囲内、または、例えば、0.1mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、30mg/kgであってもよい。
【0135】
本発明のさらなる態様によれば、白金系化学療法に対して耐性に有する、および/または1若しくは複数のDNA損傷応答(DDR)経路が不完全な細胞を含む癌に罹患している対象を処置する方法を提供し、該方法は、治療上有効な量のUSP4阻害剤を対象に投与することを含む。
USP4阻害剤は、小分子、ペプチド、オリゴヌクレオチド、(これだけに限定されるものではないが、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、および/またはマイクロRNA(miRNA)を含めた)RNA系薬剤分子、および抗体から選択されてもよい。
【0136】
USP4阻害剤は、小分子化合物であってもよい。
【0137】
USP4阻害剤は、単独で投与されてもよい。
【0138】
USP4阻害剤は、追加の抗腫瘍性治療剤、例えば、化学療法薬、放射線、または他のDNA損傷応答タンパク質の阻害剤、の投与の前に、それらと組み合わせて、あるいは、その後に投与されてもよい。
【0139】
かかる抗腫瘍性治療剤は、当該出願のより初めの方に広範囲にわたって記載された。
【0140】
本発明の一態様に記載の実施形態もまた、本発明の他の態様で組み合わせられ得る。
【0141】
本発明は、以下の制限されることのない例でより詳細に記載される。
【実施例】
【0142】
材料と方法
細胞株と細胞培養
ヒト骨肉腫U2OS細胞を、10%(v/v)のウシ胎仔血清(FBS;Gibco)、100U/mlのペニシリン、100g/mlのストレプトマイシンおよび292μg/mlのL−グルタミン(Gibco)を補ったダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Sigma-Aldrich)中、加湿雰囲気および5%(v/v)のCO2において37℃にて培養した。GFP、GFP−USP4 WT、CDまたはRFP−53BP1を安定して過剰発現するU2OS細胞(Galanty et al., Nature 462, 935-939, 2009)を、0.5mg/mlのジェネテシン(Gibco)の存在下で培養した。重複配列(DR)−GFPを安定して発現するU2OS細胞を、1g/mlのピューロマイシン(Sigma-Aldrich)の存在下で培養し、そして、先に記載のように樹立した(Pierce et al., 1999)。DDRが不完全なHeLa同質遺伝子型Silencix細胞株(shATR、shBRCA2、shLigase IV、shXRCC4、およびshControl)(tebu-bio)を、10%(v/v)のウシ胎仔血清(FBS;Gibco)、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンおよび125μg/mlのハイグロマイシンB(Invitrogen)を補ったDMEM培地中で培養した。
【0143】
実施例1:USP4の生化学的アッセイ
反応を、20μlの最終反応容量で、黒色384ウェルプレート(小容積、Greiner784076)内の5つで、二重反復試験で実施した。USP4を、反応バッファー(20mMのTris、pH7.5、100mMのNaCl、0.05%のTween20、0.5mg/mlのBSA、5mMのβ−メルカプトエタノール)で0、0.01、0.005、0.0025μl/ウェルに相当するように希釈した。反応を、蛍光偏光基質としてのイソペプチド結合を介してユビキチンに連結したTAMRA標識ペプチド100nMの添加によって開始した。反応物を、室温にてインキュベートし、そして、2分毎に120分間読み出した。読み出しを、PHERAstar Plus(BMG Labtech)で実施した。λ励起540nm;λ放出590nm。結果を、図15に示す。
【0144】
実施例2:コロニー形成アッセイ(CFA)による合成致死性の計測
1.5μlの20μM 対照またはUSP4特異的siRNAを、3.5μlのリポフェクタミンRNAiMAX(Life Technologies)を含む0.5mlのOptiMEM無血清培地で希釈し、次に、6ウェルプレートのウェル内で室温にて10〜20分間インキュベートした。2.5mlの培地中の2×105細胞をトランスフェクション混合物に加え、次に、5%のCO2、37℃にて一晩インキュベートした。次に、対照および合致したDDR不完全細胞を、トリプシン処理し、カウントし、そして、1mlあたり2000細胞に希釈し、そして、1.5mlの培地が入った6ウェル組織培養プレートのウェルに0.5mlを加えた。コロニーが1コロニーあたり≧50細胞を形成するまで、プレートを1〜2週間、インキュベータに戻した。次に、培地を、ウェルから取り除き、1mlのGiemsa染色液で室温にて10〜20分間、置換した。染色液を取り除き、そして、プレートを水道水で4回洗浄した。プレートを一晩乾燥させ、スキャンし、そして、コロニーをImageJソフトウェアを使用してカウントした。データを、対照ウェル内のコロニーの分数として表した。結果を、図1に示す。
【0145】
実施例3:コロニー形成アッセイ(CFA)による化学増感および放射線増感の計測
実施例3a:
三日目に、(その24時間前に6ウェルプレート、Nuncに1ウェルあたり250、500または1,000細胞で播種した)細胞を、適切なウェルに20μlの×100薬液を加えることによって、様々な化学療法薬の段階希釈物、または様々な急性用量の電離放射線[IR;(Faxitron X-Ray Corporation, Illinois, USA)]で処理したことを除いて、実施例2のとおりであった。次に、プレートをインキュベータに戻し、1〜2週間静置し、そして、PBSで1回洗浄し、固定し、そして、クリスタルバイオレット溶液[10%(v/v)エタノール中の2%(w/v)のクリスタルバイオレット(Sigma-Aldrich)]で染色した。結果を、図6a、7a、および7bに示す。
【0146】
実施例3b:コロニー形成アッセイ(CFA)による化学増感の計測
三日目に、細胞を、適切なウェルに20μlの×100薬液を加えることによって、様々な化学療法薬の段階希釈物で処理したことを除いて、実施例2のとおりであった。次に、プレートをインキュベータに戻し、1〜2週間静置し、そして前述のとおりGiemsa染色した。結果を、図3、4、5、6bおよび8に示す。
【0147】
実施例4:CellTiter Gloを使用した白金耐性腫瘍細胞の選択的殺滅の計測
6μlの1μM 対照またはUSP4特異的siRNAを、0.48μlのリポフェクタミンRNAiMAXを含有する80μlのOptiMEM無血清培地で希釈した。次に、トランスフェクション混合物を室温にて90分間、インキュベートした。20μlのそれぞれのトランスフェクション複合体を、96ウェルプレートの4つのウェル内にスポットした。次に、細胞を、トリプシン処理し、カウントし、そして、RPMI+10%のFBS+2mMのピルビン酸ナトリウムで34800細胞/ml(A2780)、52200細胞/ml(A2780CIS)に希釈した。115μlのそれぞれの細胞懸濁液を、それぞれのトランスフェクション複合体の1ウェルに加えた。細胞を、通常の増殖条件(37℃および5%のCO2)下でさらに4日間インキュベートした。次に、50μlの再構成CellTiter Glo試薬(Promega)を各ウェルに加えた。プレートを、4分間プレート振盪機上に置き、そして、発光を、Clariostarプレートリーダーを使用してもう10分間読み出した。結果を、図2に示す。
【0148】
実施例5:発現ベクター
pEGFP−GW−JJ−USP4(受入番号:NM_003363)発現強化緑色蛍光タンパク質(GFP)−USP4野生型(WT)が、Michael J. Clague and Sylvie Urbe(Institute of Translational Medicine, University of Liverpool)によって提供された。触媒的不活性(CD)GFP−USP4突然変異(C311A)を、QuikChange Lightning部位特異的突然変異誘発キット(Agilent Technologies)を使用してpEGFP−GW−JJ−USP4プラスミドから作り出した。これらのベクターを使用した結果を、図7および9〜11に示す。
【0149】
実施例6:siRNAトランスフェクション
U2OS細胞(4.8×105細胞/6cmディッシュ)を、製造業者のプロトコールに従って、HiPerFect(Qiagen)トランスフェクション試薬を使用して30nMのsiRNAでトランスフェクトし、続いて、第二の同一のトランスフェクションを24時間後に実施した。4種類のsiRNAのUSP4プールをQiagenから入手し、そして、その他のすべてのsiRNAをEurofins MWG Operonから入手した。サンプル処理および分析を、トランスフェクション開始から72時間後に実施した。当該出願に使用したsiRNA配列を表1に記載する。siRNAノックダウンを、いくつかの実験においてデータを得るために実施し、そしてそれを、図1〜9および11〜13のためのデータを得るために使用した。
【0150】
【表1】
【0151】
実施例7:細胞抽出物の調製と免疫ブロッティング
細胞を、氷上で30分間、300mMのNaClを含有する、300μl/6cmディッシュのCSK−バッファー[300mMのスクロース、3mMのMgCl2、10mMのピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES;pH6.8)、1mMのエチレングリコールテトラ酢酸(EGTA)、0.1%のTriton X−100(Sigma)、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)、ホスファターゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich)、および10mMのN−エチルマレイミド(NEM;Sigma-Aldrich]を用いて溶解した。可溶性画分とクロマチン画分を、遠心分離(4℃にて、200,000×g10分間)で分離した。クロマチン画分を、氷上で15秒間超音波処置し(30%の振幅;Sonics Vibra Cell、VHX500Watt)、そして、タンパク質濃度をブラッドフォードタンパク質分析(Thermo Scientific)で測定した。10マイクログラムの可溶性画分またはそれに対応する量のクロマチン画分を、添加バッファー[67mMのTris HCl(pH6.8)、2%(w/v)のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(MP Biomedicals)、10%(v/v)のグリセロール(Sigma)およびmilliQ水中に0.002%(w/v)のブロモフェノールブルー]中、95℃にて5分間煮沸し、4〜12%のBis/Trisアクリルアミドゲル(Invitrogen)に乗せ、そして、NuPAGE(登録商標)MOPS SDS Running Buffer(Invitrogen)を用いて120Vで2時間分離した。タンパク質を、ニトロセルロース膜(Millipore)に移し、その後、膜を0.1%(v/v)のTween−20(TBS−T;Sigma-Aldrich)および1%(w/v)のウシ血清アルブミン(BSA;Sigma Aldrich)を含有するTris緩衝食塩水でブロックし、そして、補足の表2中にまとめた適切な一次および二次抗体と共にインキュベートした。製造業者のプロトコール(Amersham)に従って、所定の化学発光タンパク質検出を、ECLウエスタンブロッティングシステムを用いて、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合二次抗体処置によって実施した。定量的なウェスタンブロット分析を、Alexa−fluor結合二次抗体処置によって実施した。膜を、Odyssey Li-Corイメージングシステムを用いてスキャンし、そして、タンパク質定量を、Odyssey v1.2ソフトウェア(LI-COR Biosciences UK Ltd)を使用して達成した。これらの実験からのデータを、図9a、9c、および9eに示す。
【0152】
実施例8:中性単独細胞電気泳動
細胞を、フレオマイシン(40μg/ml;Sigma-Aldrich)で2時間処理した。それに続いて、細胞を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、そして、通常の細胞培養条件下で2時間静置して、回復させた。次に、細胞を、PBS(−/−)(Gibco)で1回洗浄し、そして、かき取り、その後、ペレットを、約5×106細胞/mlの濃度にてPBS(−/−)中に再懸濁した。次に、10μlの細胞懸濁液を、90μlのLMAgarose(37℃;Trevigen)と混合し、その後、70μlをGelBond Film(Lonza)上にスポットし、22mmのカバーガラス(VWR)で覆い、そして、4℃にて10分間インキュベートした。カバーガラスを取り外しのときに、サンプルを、溶解溶液(Trevigen)中で4℃にて1時間インキュベートした。溶解溶液を、TBE[90mMのTris−ボラート、pH8.3および2mMの2,2’,2”,2”−(エタン−1,2−ジイルジニトリロ)テトラ−酢酸(EDTA)]で洗い落とし、そして、TBE中、35Vの電流で7分間、電気泳動にかけた。70%(v/v)のエタノール中で5分間の固定化後に、サンプルを、一晩乾燥させ、そして、SYBRグリーン核酸染色溶液(Invitrogen)で染色した。載物台の前にLumen2000を接続したOlympus1×71顕微鏡、FViewソフト画像カメラ、およびCell^AF分析造影ソフトウェアを用いて、写真を撮影した。条件に従って、50個の個別細胞のテールモーメントを、CometScoreソフトウェア(Tritek Corp.)で定量化した。結果を、図9b、9d、および9fに示す。
【0153】
実施例9:生細胞のレーザーラインマイクロ波照射
播種の24時間後に、RFP−53BP1を安定して発現するU2OS細胞[12×104細胞/35mmガラス底ディッシュ(Ted Pella, Inc)]を、製造業者のプロトコールに従って、TranslT-LTlトランスフェクション試薬(Mirus Biologicals)と共に1μgのpEGFP−GW−JJ−USP4 WTまたはCDを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞を、10μMの5−ブロモ−2’−デオキシウリジン(BrdU)を用いて24時間、事前増感し、それに続いて、405nmのUV−Aレーザービームを用いて400μWの限局性レーザーマイクロ波照射に晒した(Limoli and Ward, 1993)。細胞の写真を、図10として示す。
【0154】
実施例10:蛍光抗体法
対照(LucもしくはBRCA1)またはUSP4(4UTR)減損細胞を、5gyのIRに晒し、そして、8時間静置して回復させた。ポリ−L−リジン[0.01%(w/v);Sigma-Aldrich]被覆カバーガラス上で培養したU2OS細胞を、PBSで2回洗浄し、2%(w/v)のパラホルムアルデヒド(PFA;Sigma-Aldrich)を用いて室温にて20分間固定した。次に、細胞を、0.1%のTween−20含有PBS(PBS−T;Sigma-Aldrich)で2回洗浄し、そして、0.1%(v/v)のTriton X−100(PBS中)を用いて室温にて5分間透過処理した。ブロックバッファー[PBS中に5%(v/v)のFBS]中で室温にて30分間のインキュベーションに続いて、細胞を、抗RAD51および抗γH2AX一次抗体と共に室温にて2時間インキュベートし、そして、表2にまとめたそれらのそれぞれの二次抗体と共に室温にて1時間インキュベートした。最後に、細胞を、1μのg/mlの4’6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)で室温にて10分間染色し、VECTASHIELD封入剤(Vector Laboratories)を使用して顕微鏡用スライド(VWR)上に封入し、そして、画像収集のためのソフトウェアを用いて共焦点顕微鏡(IX81 OLYMPUS)で分析した。結果を、図12aに示す。
【0155】
【表2】
【0156】
実施例11:定量的DNA末端切断アッセイ
最初のsiRNAトランスフェクションの48時間後、U2OS細胞を30μMのBrdUに24時間晒し、次に、1μMのカンプトテシンで1時間処理した。指摘した場合には、細胞をPBSで2回洗浄することによって、カンプトテシンを取り除いた。次に、細胞を1時間静置して回復させた。処理後に、細胞を、PBSで2回洗浄し、掻き取り、そして、500μlのPBS中に再懸濁した。細胞懸濁液を、氷冷した70%(v/v)のエタノールで固定し、そして、20℃にて一晩保存した。固定した細胞を、PBS−Tで2回洗浄し、ブロックバッファー(PBS中の5%のFBS;30分間、室温)中でインキュベートし、そして、ブロックバッファー中で、補足の表2にまとめた抗BrdUと抗γH2AX一次抗体と、異なった組み合わせの二次抗体と共にインキュベートした。抗体処理後に、BrdUおよびγΗ2ΑΧ強度を、1μg/mlのDAPI存在下でBD LSRFortessa細胞分析装置(BD Biosciences)で計測した。S期ゲート細胞のBrdU強度を、FlowJoソフトウェア(Tree Star Inc)を用いて定量化し、そして、処理サンプルから未処理サンプルを減じて、BrdU染色バックグラウンドに関して正規化した。γΗ2ΑΧ強度を、DNA損傷の対照として使用した。結果を、図11a、11b、および11dに示す。
【0157】
実施例12:フローサイトメトリーDNA複製分析
最初のsiRNAトランスフェクションの72時間後に、U2OS細胞を、10μMの5−エチニル−2”−デオキシウリジン(EdU)に15分間晒し、PBSで2回洗浄し、そして、2%のPFA(w/v)を用いて室温にて20分間固定した。それに続いて、細胞を、PBSで2回洗浄し、0.2%のTriton−X−100を用いて透過処理し(室温にて5分間)、1回(PBS)洗浄し、100μl/サンプルの「クリック−イット」溶液[PBS中、20μg/mlのClick-iT(登録商標)EdUバッファー、20mMのCuSO4および1:500希釈したAlexa Fluor647アジド(Molecular probes)]中で室温30分間インキュベートし、遮光した。EdUシグナル強度を、BD LSRFortessa細胞分析装置で計測し、FlowJoソフトウェアで定量化した。結果を、図11cに示す。
【0158】
実施例13:DR−GFP HRレポーターアッセイ
DR−GFPレポーターを安定して発現するU2OS細胞を使用する相同的組み換え(HR)修復アッセイを、以前に確立した方法論に基づいて実施した(Pierce et al., 1999, Genes Dev., 13(20): 2633-8)。簡単に言えば、siRNA媒介性減少の72時間後に、DR−GFP細胞を、製造業者のプロトコールに従って、TranslT-LT1トランスフェクション試薬を使用して、以下で記載した異なったプラスミド組み合わせ4μgを用いてトランスフェクトした。DSBを誘発するために、制限酵素l−Scelをコードする発現プラスミド(3.75μg;サンプルpCBA l−Scelあたり)を、赤色蛍光タンパク質(RFP;0.25μg;pCS2−mRFP)の発現プラスミドと一緒にトランスフェクトして、トランスフェクション効率を観察した。陰性対照として、空のプラスミド[pCDNA3.1(+)]とpCS2−mRFPの組み合わせをトランスフェクトした(それぞれ3.75μgと0.25μg)。プラスミドトランスフェクションの48時間後に、細胞を、PBSで2回洗浄し、PBS中の0.1%のEDTAを使用して取り外し、そして、5%(w/v)のFBSを用いてPBS中に採集した。死細胞を除くことができるように、1μg/mlのDAPIを加え、そして、HR効率を、BD LSRFortessa細胞分析装置を用いて、バックグラウンド−GFP対照集団に対して正規化したGFPおよびRFP二重陽性細胞の量として計測した。結果を、図12bに示す。
【0159】
実施例14:ランダムプラスミド組み込み
ジェネティシン選択マーカーを含んでいるpEGFP−C1プラスミド(Clontech)を、製造業者のプロトコール(New England Biolabs)に従って、BamHIおよびXhol制限消化によって線状にした。最初のsiRNAトランスフェクションの72時間後に、5μg/6cmディッシュの線状プラスミドを、製造業者のプロトコールに従って、TranslT-LT1トランスフェクション試薬を用いてU2OS細胞内にトランスフェクトした。6時間後に、細胞を、4つの異なった濃度(1.0×103、2.5×103、1.0×104、および2.0×104細胞/ディッシュ)にて15cmディッシュに播種した。再播種の24時間後に、1.0×104および2.0×104細胞を含むプレートを、1mg/mlのジェネティシンの存在下で、および1.0×103および2.5×103細胞を含むプレートを、1mg/mlのジェネティシンの不存在下で10〜14日間培養し、そして、2%(w/v)のクリスタルバイオレット溶液で染色した。プラスミド組み込み効率を、プラスミドトランスフェクションの24時間後にFACS Calibur(BD Biosciences)を備えたフローサイトメトリーによってGFP陽性細胞のパーセンテージとして計算したトランスフェクション効率に対して正規化したジェネティシン耐性細胞のパーセンテージとして分析した。結果を、図13に示す。LucおよびLiglVはそれぞれ陰性および陽性対照細胞であり、そして、USP4(4−4または4UTR)はUSP4減損細胞である。
【0160】
実施例15:USP4の発現と精製
USP4構築物を、PCR増幅し、N末端Flagタグを有するpFLAG−CMV−6aベクター(Sigma-Aldrich)内にクローニングした。HEK293T細胞を、製造業者の取扱説明書に従って、TranslT-LT1トランスフェクション試薬(Mirus)を使用して、FLAG−USP4を用いてトランスフェクトした。細胞を、トランスフェクションの40時間後に採集した。細胞を、PBSで1回洗浄し、溶解バッファー(50mMのTris、pH7.5、150mMのNaCl、3mMのEDTA、0.5%のNP40、10%のグリセロール、5mMのβ−メルカプトエタノール、プロテアーゼ阻害剤(complete mini、Roche)およびホスファターゼ阻害剤(PhosSTOP mini、Roche))中に掻き取った。溶解物を、氷上で30分間インキュベートし、4℃にて1200rpmで10分間遠心分離した。可溶性上清を、低塩バッファー(20mMのTris、pH7.5、150mMのNaCl、0.5mMのEDTA、5mMのβ−メルカプトエタノール)で平衡化したFLAG親和性樹脂(EZview Rad ANTI-FLAG M2アフィニティーゲル、Sigma-Aldrich)に加え、そして、回転させながら4℃にて3時間インキュベートした。樹脂を2000rpmで2分間遠心分離し、そして、上清を取り除いた。樹脂を、低塩バッファーで2回、および高塩バッファー(20mMのTris、pH7.5、500mMのNaCl、0.5mMのEDTA、5mMのβ−メルカプトエタノール、プロテアーゼ阻害剤(complete mini、Roche)およびホスファターゼ阻害剤(PhosSTOP mini、Roche))で1回洗浄した。結合したUSP4を溶出するために、溶出バッファー(10mMのTris、pH7.5、150mMのNaCl、0.5mMのEDTA、10%のグリセロール、0.5%のNP40、5mMのβ−メルカプトエタノール、0.15mg/mlの3×FLAGペプチド(Sigma-Aldrich))を樹脂に加え、そして、回転させながら4℃にて2.5時間インキュベートした。樹脂を、4000rpmで30秒間遠心分離し、精製FLAG−USP4を含んでいる上清を取り出し、そして、−80℃にて保存した。結果を、図14に示すが、それは、精製FLAG−USP4のゲル写真である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]